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おのれキャドラー!?


 目を開く。
 むくり、と上体を起こす。
 一つ、溜息。
 何時もと同じ動作。
 時計は既に10時を回っている。『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)の朝は遅い。
 他人には良くイメージと違うと言われるが、知ったことか。
 眠い物は眠いのだ。
 朝は惰眠を貪り、夜は眠たくなるまで読書なり何なりを思う存分楽しむ。
 ああ、哀れでクソッタレな泥水の様に生暖かい平穏な贅沢。傭兵時代には望むべくもなかった、それだ。
 倦怠感とぬるぬるとした絶望を噛み殺し、逆貫はベッドの傍らの車椅子に……くるまい……あれ?

 其処には、ごってごてにデコレーションされた、……そう、例えるならデコチャリ。
 あの痛々しい、或いは一部の人の魂をくすぐる、人として間違った何かの様なナニカに改造された逆貫の車椅子。
 そして其の上には一通の手紙が。
「ぐあああああああああああ!? おのれキャドラァッーーーー!!!」
 可愛らしい猫の手形の判子がペタリと押された其れに目を通しながら、逆貫は叫ぶ。
 じゃ、はっじまっるよー。


「さて、諸君は選び抜かれた戦士にして今現在この広い三高平での私の数少ない味方だ。……いやもうほんとすまないぶっちゃけ助けて欲しい。頼む」
 何故かブリーフィングルームではなく近所の喫茶店に呼び出されたリベリスタを待っていたのは、センス無くデコられた車椅子に座って途方に暮れていた逆貫だった。
 結構必死。
「諸君等に拒否権は無い。何故ならば拒否されれば私が非常に困るからだ。では説明にはいろう。まずはこのハリセンを受け取って欲しい」
 喫茶店のテーブルの上には、人数分の珈琲や紅茶、それにハリセンが置かれている。
「このハリセンをあのくそね……いや、キャドラの顔面に叩き込めば我々の勝利だ。違う。いや、違わないが、其れは私の願望だ。えー、基本的にはこれで身を守りながら私を連れて逃げて欲しい。追っ手はキャドラ率いるリベリスタ軍団となる」
 説明が長いので要約しよう。
 キャドラが悪戯に逆貫の車椅子を改造、更に眼帯を奪うためにリベリスタを率いて追い掛け回すと宣言。いじめっ子か。
 兎に角嫌なので逃げるのを手伝って欲しい。キャドラをどつき倒すか逃げ切れば勝利となる。
 リベリスタ同士なので武器防具等の危険物は使用禁止、スキルも駄目。度が過ぎる危険行為も勿論駄目だ。今日は敵だが、明日は仲間。キャドラには使ってもいい気はするけど一応駄目。
「……だ。理解してもらえただろうか? もう少し言うなら、私の車椅子を押して逃げてくれる者も一人欲しい。正直私は追いかけっこには向かぬ身なのでな」
 車椅子を押して逃げる者、護衛役、迎撃役、キャドラ殺し役、自由に割り振り、勝利を目指せ。
 しかし、何でそんなに眼帯取られるのを嫌がるのだろう?
「……これはな、私がこんな力に目覚めた時に、傭兵時代の同業者……、最初に私の話を信じてくれた男からの贈り物なのだよ。私が見た未来の通りに、もうこの世にはいない、戦友のな。……さて、そんな事よりも、上手く行けば酒でも奢ろう。未成年にはケーキでも、だから、頼んだぞ諸君」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月02日(土)23:46
 連動となります。連動先は『ネタバレ:犯人はキャドラ』になります。
 PvP久しぶりだなあ!

 ……じゃなくて、勝利条件は逆貫を逃がし切るかキャドラを倒す事です。
 敵はイベシナなので人数差がどうなるかわかりませんが、600文字もあるんだから何とかなるって信じてる。
 引き分けはありえますが、基本的にはどっちらかが成功、どちらかが失敗です。
 ただし、『成功失敗に関わらず名声は変動しません』。

 あと連動先である『ネタバレ:犯人はキャドラ』との同時参加は勿論駄目です。

 危険行為駄目。
 三高平から出るのも色々拙いから駄目。
 笑って許してくれないレベルの迷惑を町にかけるのも駄目。
 其の他もある程度以上の滅茶苦茶は駄目です。


 楽しんでもらえると嬉しいです。
 逆貫を逃がしつつ色々楽しんでみてください。


 でもこの話を持ってきたyakigoteさんは逆貫に呪われろ。
 ではお気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
陽立・逆貫 (nBNE000208)
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
インヤンマスター
今川・宗助(BNE001708)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
ダークナイト
神埼・礼子(BNE003458)
ダークナイト
★MVP
アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)
レイザータクト
伊呂波 壱和(BNE003773)
ソードミラージュ
小犬丸・鈴(BNE003842)


「なあ、味方を増やすんはどうやろか?」
 名案を思いついたとでも言うように、ポンと手を打ったのは『たい焼き屋のおっちゃん』今川・宗助(BNE001708)
 明日は我が身となるかも知れないアークのフォーチュナ達に応援を頼もうという彼に、けれども陽立・逆貫の表情は渋面と化した
 だって結果まるわかりなんですもの……
 とは言え、折角自分を助けようとしてくれているリベリスタからの提案を断る事など出来はしない
 アークのフォーチュナ全員は無理でも、せめて自分の知人達にメールを送る逆貫

 パターンA、エスターテ・ダ・レオンフォルテの場合
『本日休日につきスイーツパラダイス中。ぶいっ(自室でお取り寄せスイーツを頬張るVサイン写メ付き)』
 そうね。折角の休日に馬鹿騒ぎに付き合いたくないよね
 パターンB、断頭台・ギロチンの場合
『陽立さんも大変ですね。勿論いいですよ。でも其の前に僕の話を聞いてください。先日ふと聞いた話なんですが……(メール削除)』
 長いからもう良いや
 パターンC、月隠・響希の場合
『おじさまの頼みなら喜んで! ……と言いたいのですけど、実は今ロイヤーさんと一緒にエステ中なので(以下略)』
 クソッ、メール出すまでもなくロイヤー・東谷山も駄目なのかよ。ちなみに響希はメールが長い系女子である

 まあ、と言う訳だ。人望のなさが非常に良く判るこの結果
 え、名古屋・T・メルクリィや牧野 杏里なら助けてくれそうって?
 あの宿敵である名古屋に頼るくらいならデコ車椅子振り回してキャドラを殺そう
 娘の様にすら思う杏里をこんな馬鹿騒ぎに巻き込んで二人そろって叱られるくらいならもういっそ戦争だ

 繰り返すが、要するに逆貫には人望がないのだ
「ご、ごめんな。逆貫さん」
 慰めるような響きが、乾いた心に染みるように痛い
 まあ取り合えずちゃっちゃか逃げようか


 何故か何処かでパトカーのサイレンが鳴り響く。なんだか敵が一人減った気がする
 まじあぶねえ
 さて置き
「バレンタインやクリスマス、4月馬鹿を思い出しましょう」
 仲間達を見回し、含むように語るは『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)
 悪ノリをはじめた時の三高平住人は、非常に性質が悪い事を彼女は熟知していた
 そう、敵は一人一人が本気の一騎当千の兵なのだ。物の例えとかではなく本当にアークの中でもTOPクラスの実力を持つ……
「本当に少し自重してください、トップエース達」
 溜息混じりの大和の言葉は、敵方として現れた、作戦コード『S.A.M.P.L.E』を掲げるアークの精鋭、或いは愛すべき3人のお馬鹿達
 ていうかばーかばーか! おまえらほんとにばーか!!!
 ちなみにSimply Attack & Monitoring Point of Leading Enemy、正面突破の意らしい。しらねえよ滅びろ!
 けれどそんな3人組の前に立ちはだかるは
「例えアークの仲間が相手でも、此処は通さない。このハリセン一本で全力で守るよ!」
 りりしくハリセンを構えた『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)
 其の後姿のなんと頼もしい事だろう
「奢りのケーキの為にも!!」
 本音と溢れ出る涎は兎も角、剣道少女でもある霧香が振るうハリセンの威力は本当に恐ろ……いや、頼もしい
 炸裂したハリセンが、敵方の精鋭のうちの1人である少年の顔に痕を刻み込む

 けれど敵は其の3人だけに留まらない。敵は圧倒的に多勢なのだ。……一応。まともに動く気の無さそうな面子も大量に居るけど一応は
 不意に、リベリスタの全力で投擲されたピコハンが逆貫の車椅子の傍の地面にぶつかり砕け散る。地面じゃなくてピコハンが
 そのショッキングな光景に視線を向ければ、其処に現れたのはピコハンを両手に構え、それでも足りぬとばかりに体中に紐でぶら下げた一人の血に飢えたフィクサ……、キャドラ陣営のリベリスタ
 他にもコソコソと目立つ仲間達を囮に車椅子への接近を狙う一つの影など、敵の攻勢は続く
 だがそんな窮地に立ち上がる一人のヒロイン。そう、僕等には彼女が居る
「まじかる☆ブラックチェーンジ!」
 くるくると漆黒の光の粒子を撒き散らし(演出なので心の目でどうぞ)、更には丈が短くミニスカートの様になっている着物の裾を翻し(確実に見えた!)、一人の少女が前に立つ
「ナイスミドルなおじちゃんを苛めるのはボクが許さないぞっ☆」
 きらりと決めポーズを取って台詞を放ったのは、『暗黒魔法少女ブラック☆レイン』神埼・礼子(BNE003458)
 空気が、一瞬凍りつく。主に味方からの視線が痛い
「なんじゃ、ノリ悪いのぅ……これやらんと気合が入らんのじゃ。そんな目でみないでくれ」
 あー、可愛いと思いますよ。好きだなあ、其のセンス
 でもごめん、君の相手は……、こっそりと近付いていた相手をブロックせんとする礼子に、あろう事かその相手は武器のピコハンを放り捨てて抱きついた
 想定外の事態に混乱する礼子に次いで襲い来るは頬ずりの嵐
 礼子さん、本当にごめんね。君の振り当ての相手はセクハラ目当てで、しかもロリコンなんだ
 しかし何でコイツに彼女が居るんだろう? ほんとに不思議で仕方ない。やっぱり駄目な子程可愛いとかそんなんだろうか?
 響く悲鳴と、その後に降り注ぐ怒りの殴打


「でぃーふぇんすでぃーふぇんす」
 腰を落として両手を真横に広げ、全てを受け止め先には何人も通さぬと言う覚悟の構え、具体的に言うとバスケのディフェンスのスクリーンを張って敵を受け止める『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)の後姿に涙を流しながらも、逆貫陣営のリベリスタは発煙筒を炊きつつ撤退を行う
 しかしヴァルテッラさんはシリアスもギャグもこなせる粋な紳士だなあ
「ぐあああああああああああ」
 まあ当然一人で敵の全てを支え切る事など出来よう筈も無く飲まれて沈んで行くけれど、時間稼ぎありがとう
 とは言え、所詮ピコハンだのハリセンだのの破壊力ではリベリスタを戦闘不能に追いやる事など叶いはしない。一度は倒れたヴァルッテラも再び立ち上がり、服の埃を払ってから戦線に復帰していく。だが其れは同時に敵サイドにも言える事なのだ
 ゾンビの如く倒れては起き上がり殴りあう2チームに、戦いは泥沼の様相を呈し始めていた

「はっはっはっ、空が青いなぁ。……はぁ」
 虚ろな瞳で乾いた笑いを上げる逆貫は、現在疾走する大和の腕の中に居た。それも俗に言うお姫様抱っこと言うアレで
 だが確かに車椅子に比べれば運び易い形とは言え、人を一人抱えての機動力は追い手よりも確実に劣る
 特に自前の羽で空を飛ぶ青い天使や、その彼に捕まる事でブロック達を飛び越した白の少女の機動力には
 体当たり気味の2人の特攻に、衝撃が走り、大和は地に転び、逆貫はそのまま眼帯を毟られ宙へと投げ出される
 けれど其の着地地点には、いち早く逆貫の身体を受け止め、用意してきた車椅子に座らせる『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)や、追っ手の二人に百均の品で作った即席コショウ爆弾で攻撃を仕掛ける(マジ容赦ねえ)『影狗』小犬丸・鈴(BNE003842) 、そして壱和が逆貫の座らせた車椅子にぴったりと張り付きどんな攻撃からも身体でガードせんとする『シュガートリガーハッピー』アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)等が為す最後の護衛陣、ちみっこ+わんわんの3人組だ
 しかし何故眼帯を奪われた筈の逆貫を未だに逃がそうとするのか、その疑問は、眼帯を毟り取った2人の『それぞれの』手に握られた眼帯(丁寧に裏にハズレと書かれた紙が張ってある)と、未だ逆貫の顔についたままの眼帯を見比べる事で答えが出る
 2人ともごめんね。なんだか皆が一杯ダミーの眼帯用意してくれたんだよ

 迫る追っ手から逆貫を逃がそうと車椅子の背を押して全力で走り出す壱和
 ところで、知っているだろうか?
 車椅子って他人にダッシュで押されると滅茶苦茶怖いのだ。そして其の背を押すのが人を超えた力を持つリベリスタなら尚更である
 風にのって流れていく逆貫の口から漏れるか細い悲鳴。それでも大仰に騒ぎ立てなかったのは、全力で自分を守ろうとしてくれる彼等の好意を無碍には出来ないとの思いと、見栄と意地。人は年齢を重ねる事で柔軟に成る者と意固地になる者が居るが、どちらかと言えば彼は後者だ。其れに逆貫は子供が好きで、犬が好きなのだ。
 そんな3人の前で醜態を晒すとかとてもとても……

 スパパパーン
 痛みを想像して思わず耳を塞ぎたくなる様な、連続音が響き渡る
 一人で踏み止まる事で追い手の攻勢の多数を引き付けてハリセンの猛威を振るう大和の姿が其処にあった
 リベリスタに混じれば足手纏いとならざる得ない逆貫を抱えた護衛達の逃げ足はどうしても鈍くなる
 故に少しでも多く、長く此処に追い手を引き止めねばならない
 不意に、横合いから大和に襲い掛かろうとした追い手の一人がつるりと綺麗に滑り転ぶ
 追い手の足を滑らせた大量に地面を転がるビー玉は、セクハラの衝撃から立ち直った礼子が盛大にばら撒いた物
 投げつけられたピコハンも、用意してきたスポンジ棒で叩き落し、礼子はがっちりと大和の背後を守りきる
 そう、この二人の追い手の阻害行動こそが、じれたキャドラを引っ張り出す大きな要因となったのだ


 キャドラの悪戯を発端とするリベリスタvsリベリスタの戦いも大詰めを迎えつつあった
 未だに奪えぬ眼帯に、ついにキャドラ自らが動き出したのだ
 其れは敵の攻勢が一層強まる事を示すと共に、逃走側のリベリスタ達にも勝利への近道が生まれた事を意味している
 もっともキャドラ迎撃に人手を割いて、尚且つ強まる敵の攻勢を凌ぎ切れればの話ではあるのだが
「よー、おっさん! 年貢の納め時だっぜ!」
 最後の攻防で逆貫を狙える範囲へと迫ったのは、やはり彼等、身体能力において一段上を行く精鋭達
 腕や顔をハリセンの痕でパンパンの真っ赤に腫らした3人組は既にあんまり元の面影が残っていない。霧香や大和、二人の容赦ないハリセンの雨を潜り抜けるのは、彼らの実力を持ってしても非常に厳しい戦いであったのだろう

 真っ先に突っ込んだエースの一人を真っ向から受け止めたのは、いかにも人の良さそうなおっちゃん然とした宗助
「うぐぐぐぐっ、誰にだって、触れて欲しく無い大切なもんがあるんや」
 歯を食い縛り、ラガーマンばりに押してくる膂力に勝る相手を、けれどがっちりと受け止める宗助
「自身を根幹から支えてくれる思い出の尊さは、君等もようしっとると思うんよ」
 心に染み入るように響く宗助の言葉
 まあ相手はそれ位承知の上で悪戯に来てるんだろうけど、良心をチクチクと刺激するのはきっと良い策だ

「オラ、楽しませてみせろ!」
 同じくエースの一人が繰り出すピコハンとは思えぬ程の暴力的な音を立てて風を切り裂く一撃を、鈴は地を転がって避ける
 起き上がりざまに投擲した胡椒の瓶もピコハンの一撃の前に砕け散り、舞い散る胡椒は其の巨体の移動で起きた風圧に撒き散らされて思うような効果を上げない
 力量の違いは明白だ
 けれど、それでも鈴は諦めない。犬耳を緊張感にピンと立たせ、風の音を捉えていち早く動く
 振るわれるハリセンは牽制の為に
 今の己に出来る限りを

「アルは、アルトゥルは。逆貫さんを守ります守りきってみせます、ぜったい!」
 間近まで迫った敵の前に、アルトゥルが立つ。瞳には力強い意思を、手にはハリセンを
 ピコピコと身体に当たって音を立てるピコハンにも怯まず、ばしーんばしーんと振り回され快音を上げるアルトゥルのハリセン
 距離が開けばピコハンを持つ手をハリセンで狙い、近ければ顔に、それも鼻を狙って、頭突きを放り込む
 可愛らしい見た目とは裏腹に、意外と容赦の無いアルトゥルの攻撃に、追っ手も思わず怯まざるを得ない
 無論其の容赦の無さも、アルトゥルの逆貫への優しさから出た物であり、彼女が心優しい子である事は疑う余地も……あ、頭突き入った
 アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ、中々に将来が有望な子である


「やれやれ、なるほど。あのクソね……、キャドラもまさか此れを狙ったわけでもあるまいが、中々どうして皆楽しそうだな。実に羨ましく、この満足に動かぬ身が恨めしい」
 逆貫は、巧に周囲で起きる戦闘から距離を取って自分を戦いの空間から遠ざけてくれる壱和にそう、溢す
 この後に及んではもう既に逃げる場も無い
 この場を離れて逃げたとしても、逆貫と言う荷物を抱えた壱和では追っ手を振り切れないだろうし、周囲の護衛が居なければ奇襲を防ぐ事も難しいからだ
 此処ならばまだしも戦っている護衛の子等のフォローが届く。此処で時間を稼ぎ、何とかキャドラが成敗されるまで持ちこたえるより他に無い
 其れに、自分を必死に守ってくれる彼らが、或いは自分に悪戯をしようと、泣かせようと必死に追ってくる彼らの姿が、どこか、何故か逆貫の心を愉快にさせてくれていたから
 必死に逃げるよりも少しだけこの時間を楽しみたいと彼は思う
「ところで壱和君。相手がぴこぴこハンマーなのに此方がハリセンと言うのは些か大人気なかっただろうか? ほら、ハリセンと言うのは……」
 バシーンと快音を立てて追っ手の横っ面に炸裂するハリセン
「とても痛いだろう?」
 今更ですけれど


 チェックメイト。そんな言葉の通りに既に状況は詰んでいた
「逆貫にうらみはないけど、むしろこの前は世話になったけど、今日はお遊びに付き合ってもらおうか」
 追いついて来た追っ手の一人、特攻型不良少女のぴこぴこ連打に壱和が押し手を離して応戦する。其の少女の狙い通りに
 少女の狙いは自分ひとりで、相手ひとりを手一杯にしてしまう事。そうすれば後ろから……
「眼帯とったーーーーー!」
 身動きの取れぬ逆貫の死角から飛び掛った一人の少女が彼の顔から眼帯を『根こそぎ』奪い、しかも取り返されないようにと自らの服の胸元へと放り込む。……そんな事しても引っ掛かりが無いから下に落ちるだけなのに
 其の少女とコンビを組む、ビデオカメラを構えた青年と目が合うが、青年はすまなさそうに頭を下げる
 もう苦笑いしか出てこない
 逆貫ははしゃいで自分の顔を覗き込む少女の頭にぽんと手を置き、白眼の無い、真っ黒に染まったガラス球の様な瞳を静かに閉じる
 彼女達の、嫌な未来を見ぬように



「かんぱーい」
 グラスが打ち合わされ、本日二回目の、けれども今回は穏やかな、騒ぎが始まる
 集まったのは今回の馬鹿騒ぎに参加した全てのリベリスタ達
 まあ其れは良いのだけれど
「何で全員分私もちなんだ? そっちが呼んだ分は貴様が出すのが当然だろう。このクソね……じゃなかったクソキャドラ」
 逆貫は普通に口が悪い
「にゃはははは。だってあちしの給料って……」
 普段の行いが最悪なキャドラには既に給料と呼べるものは支給されていない。働けば働いた分だけ、今までの悪戯被害の補填にまわされている
 そんなキャドラの生活手段とは、知り合いへのタカリだ
「……そうだったな。はぁ、まあ、今回は、楽しかったよ。二度は許さんが、ありがとう」
 差し出されたヴァルテッラのグラスと自らのグラスを軽くぶつけ、逆貫は『ハリセンの痕を顔にべったりとつけた』キャドラに礼を言う











 数に勝る相手への攻勢
 相手の武器が危険度の無いぴこはんである事を考慮しても、尚も成功するのは厳しいであろう其の特攻を為せた理由は唯一つ
 キャドラ陣営の守り手の中には、キャドラで遊ぶ事の方が優先順位たかそうな者が幾人も居たからだ
 キャドラ愛されてるなあ
「うおおおおおおおっ」
 こんな所で無駄遣いするのが惜しいシリアス分を振り撒き、雄叫びをあげるヴァルテッラが特攻を仕掛ける
 ぴこはんによる攻撃ではまともにダメージが蓄積しないとは言え、喰らい続け奮闘し続けたヴァルテッラのスタミナは既に残り少ない
 ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール、灰色の髪が素敵な40台。そろそろ体力に翳りが見えめ、無理が利かなくなり出す年齢である
 その残る最後の力を振り絞っての特攻は、奇跡の力を知るリベリスタ達、キャドラを守らんとする者達の注意を確実に引き、集める
 故に、其れは最高の囮となった

 拓けた道。それはキャドラに届く、最初にして最後の機会。スタミナの尽きたであろうヴァルテッラが再び道を作ってくれる事は期待できない
 物陰を飛び出した霧香は強靭な足腰で強く地を蹴り、彼我の距離を踏み潰してキャドラに迫る
 自分を頼ってきた逆貫の為に、道を拓いてくれた仲間達の為に、そして何よりも勝利の美酒……じゃなかった勝利のケーキを其の口いっぱいに頬張る為に!
 なのに、完全に虚を突いたと思われた霧香の奇襲に反応し得た一人の少女。キャドラへの道を阻む、最後にして不可避の壁
 奇襲の失敗に、勝機を失った霧香がそれでも何とか突破を試みようとした其の瞬間だ
「危ない! キャドラシーーールドッ!!」
 ……え?
 余裕の表情を浮かべたまま、少女の盾とされるキャドラ
「……え? あっ、イ、イタズラは――そこまでだっ!」
 戸惑いは一瞬
 考えるよりも先に体が動くは積み重ねた修練の末か、振り抜かれたハリセンは青空に今日一番の快音を響かせた


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 だからスキル駄目ですってば(笑)

 非常に楽しいプレが多かったです。
 ご参加有難う御座いました。
 連動先のリプレイやプレイングもあわせてみていただけると判り易いかもです。
 1日考えた上で打ち合わせの末に結果はこうなりました。



 MVPは可愛らしい方に。

 暗黒魔法少女も可愛かったんですけどね!