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Such a Beautiful Rainy Day


 ――雨の日は、好き。

 雨が傘を叩く音も、雨に濡れた町の景色も、雨の匂いも、何もかも。
 

 お父さんとお母さんが結婚を決めたのも、雨の日だったらしい。
 雨男と雨女の二人のデートは、いつも雨で。
 ずっと雨続きなら、いっそのこと雨を好きになろうと、お父さんは言ったそうだ。
 私が雨の日を好きになったのは、お母さんからその話を聞いたから。

 雨男のお父さんは、今日、家に傘を忘れていった。
 早く、駅まで届けてあげなくちゃ。
 せっかくの誕生日に、ずぶ濡れで帰ってくるなんて可哀想だもの。 

 バースデーケーキは、私が焼いた。
 お酒が飲めない分、甘い物に目がないお父さんは、ケーキにうるさい。
 大丈夫、今日のは自信作。
 お父さんだって、きっと喜んでくれるはず。

 雨足が、また強くなる。
 駅に、急ごう――。


「皆、雨は好きか?」
 だしぬけに問いかけた後、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は「まあ、好きでも嫌いでも任務に変わりはないんだが……」と言って頭を掻いた。

「雨の日、交通事故で死んだ女の子の思念がE・フォースになった。
 放っておくと一般人に被害が出るから、皆にはこれの対処に当たってほしい」
 裏を返せば、まだE・フォースによる犠牲者は出ていないということだ。
「女の子のE・フォースは強い雨の日に現れる。
 事故に遭ったのは、父親に傘を届けようと駅に向かう途中だったらしい。
 E・フォースの思考もそこで止まっているから、まともな会話はできないと思った方がいい」
 本人は何も考えずに歩いているだけだが、傘を回したり、歌ったりすることで無意識に攻撃を仕掛けてくる。さらに、雨水からE・エレメントを四体生み出しているため、このまま駅に向かわせたら相当な被害が出るだろう。

「女の子が死んだ日は、ちょうど父親の誕生日だった。
 ――だからかもな、想いが強く残ったのは」

 数史はそう言った後、どうか気をつけて行ってきてくれ、とリベリスタ達の顔を見た。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月25日(金)23:37
●成功条件
 E・フォースとE・エレメントの全滅。

●敵
 少女の姿をしたE・フォースと、雨を媒介に生み出されたE・エレメント。
 いずれも、雨による足場・視界のペナルティを受けません。

■E・フォース
 雨の日、父親に傘を届けに駅に向かう途中で交通事故に遭い、死亡した中学生の少女。
 思考が死の直前で止まってしまっており、『父親に傘を届けに行く』ため駅に向かって歩いています。

 【慈雨】→P:天から降り注ぐ雨からエネルギーを取り込み、自らを癒します。
   自分の手番にHP回復&[麻痺][呪縛][石化][氷結][氷像][魅了]を自動回復。
       
 【傘を回す】→物近複[弱点][失血][連]
   傘をくるくると回し、近接する全ての敵を切り裂きます。
 【雨のうた】→神遠全[重圧][ショック]
   歌うことで呪力の大雨を降らせ、全ての敵を激しく叩きます。        

■E・エレメント×4
 E・フォースが雨を媒介に生み出した水のE・エレメント。外見は直径20cm程度の水の球体です。
 
 『飛行』『麻痺無効』『火炎無効』のスキルと同等の能力を所持。
 炎による攻撃は最終ダメージが半減します。
 
 【水の弾丸】→物遠単[弱点][必殺]
   自分の体から水の弾丸を撃ち出し、対象一体を攻撃します。
 【包み込み】→物遠単[氷結]
   対象一体の顔面に覆い被さり、呼吸を阻害して動きを止めます。
   (『水中呼吸』のスキルを所持している場合は[氷結]の効果を受けません)

●戦場
 少女が交通事故で死亡した道路。
 (アークが道路工事を装って封鎖を行うため、一般人の対策は不要です) 
 雨のため滑りやすく、また視界が悪いため、命中・回避に修正を受けます。

 情報は以上となります。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
プロアデプト
氏名 姓(BNE002967)
クリミナルスタア
腕押 暖簾(BNE003400)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ダークナイト
安羅上・廻斗(BNE003739)
レイザータクト
アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)


 雨足は、次第に強くなりつつあった。
 雨に濡れた街が灰色に沈んでいく中、ただ雨音ばかりが響いている。

「父親を迎えに行くために出かけた少女の思いがE・フォースとなっても尚、生き続けるのですね」
 周囲に人除けの結界を張るアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の言葉に、安羅上・廻斗(BNE003739)が答えた。
「まるで幽霊だな。よくよく、こういう手合いに縁があるようだ」
 降り注ぐ雨が、彼らが纏っている雨合羽の表面を叩く。
 黒いコート姿で雨の中に立つ『不屈』神谷 要(BNE002861)が、静かに口を開いた。 
「彼女は自分の死を理解できずに彷徨っているのですね。
 お父さんの誕生日という幸せな日を迎えるために……」
「こんなになっちまっても親父さんを迎えに行くってか。きっと仲良かったンだろうな」
 そう言って、『ステガノグラフィ』腕押 暖簾(BNE003400)が僅かに目を細める。
 出発前、彼はE・フォースになった少女について調べていた。 
 少女の名前は、木内雨音(きうち・あまね)。
 雨の中、傘を差して駅に急いでいたところ、横道から飛び出した車に撥ねられたらしい。
「……悔しかったろうなァ」
 暖簾の呟きを受けて、『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が言う。
「滑りやすいのに、走っちゃったりして……
 お父さんに会いたかったんだね、早く、早くって」
 死してなおE・フォースとなり、雨の日を歩き続ける少女。
 その想いは、どれほど強かったのだろうかと、四条・理央(BNE000319)は思う。
「よほどお父さんの事が好きだったんだね。だけど、その想いは潰さないといけないんだ」
 アルフォンソと魅零が、理央に頷いた。
「悲しいことだと思います。健気なことだと思います。
 でも、その行き場の無い思いは私たちが終わらせてあげないと」
「成仏しなきゃ。永遠に死を繰り返すのは、可哀想だね――終わらせよう」
 少し考え込むような表情を見せていた廻斗が、それを聞いて声を上げる。
「……まあ、いいか。
 相手がどんな存在であろうと、それが害為すエリューションならば討ち滅ぼすだけだ」
 帽子の位置を直した『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)もまた、銃を手に口を開いた。
「不運が重なり死を迎え、肉体が朽ちた後も想いは残る。
 だが、想いは想いのままだから儚く、そして尊いんだ」


 理央が全員に翼の加護を与え、足場の不利を打ち消す。
 脳の伝達処理を高めた『名無し』氏名 姓(BNE002967)の黒い瞳が、傘を差して歩く少女と、彼女の周囲に浮かぶ四体のE・エレメントの姿を捉えた。
「ハーッピバースディトゥーユー、ハーッピバースディトゥーユー♪」
 魅零の歌声に、時を止めてしまった少女が振り向く。
『今日はお祝いなの。一緒に、歌おう?』
 両手持ちの槍を構える魅零は、目の前で微笑む少女のように傘は差せない。
 だが、彼女もまた、雨を愛する者の一人だった。雨に濡れることを、厭いはしない。

 ――貴女の死を悼むために。さ、戦おう。


 低空を滑るように駆けた廻斗が、巨大な水滴の如きE・エレメントの一体を抑えに回る。
「哀れな娘、雨の亡霊。お前を討ちに来たぞ」
 彼は低く声を響かせると、少女とE・エレメントたちを巻き込んで暗黒の瘴気を放った。
 すかさず、福松が“オーバーナイト・ミリオネア”のトリガーを連続で絞り込む。
 黄金に輝くダブルアクションリボルバーから飛び出した幾つもの弾丸が、全ての敵をほぼ同時に射抜いた。
 アルフォンソが攻撃のための動作を全員と共有し、戦闘効率を瞬時に高める。
 背の翼でふわりと浮いた要が少女の前に立ちはだかり、強き意志をもたらす十字の加護を仲間達に与えた。

「事故に邪魔されて俺達に邪魔されて、辛ェだろうが……」
 癒しをもたらす生命力を自らに付与した暖簾が、相棒たるスペードの女王“ブラックマリア”を構えて見得を切る。
「往くぜマリア、このお嬢さんの名誉の為に」
 誇りを胸に運命を引き寄せた暖簾の傍らで、姓が少女の頭上に浮かぶE・エレメントを気糸で撃った。
 中心を貫かれた水の球が、怒ったように表面を波立たせる。
 そこに、少女の歌声が響いた。
 呪力によってもたらされた豪雨が、リベリスタ達を激しく叩く。
 E・エレメントたちの半数が水の弾丸を撃ち、残りの半数が廻斗と姓の顔に覆い被さった。
 状態異常の効かぬ姓は窒息を免れたものの、廻斗の動きが止まる。
 それを見た理央は邪を払う神の光を放ち、その輝きをもって廻斗を救った。
 同時に、呪いの雨がもたらす重圧から解き放たれた魅零が、魔閃光でE・エレメントを貫く。
「貴方達を退けないと、彼女に届かないじゃない」
 自己再生能力を持つ少女を後に回し、まずE・エレメントから確実に倒していくのがリベリスタ達の作戦だった。
「六体までなら問題ない。一瞬で撃ち抜いてみせるさ」
 その言葉通り、福松はE・エレメントたちに弾丸を叩き込んでいく。
 雨で視界が遮られている不利をまったく感じさせない、速く正確な射撃だった。
 アルフォンソが、戦場全体を視野に収めて己の認識を広げる。少女をブロックする要が、攻撃を跳ね返す防御のオーラをその身に纏った。
「どいてくンな、お嬢さんに用があンだ」
 暖簾がE・エレメントを指差し、黒紫の銃指から不可視の殺意を撃ち出す。
 弱い部分を的確に貫かれたE・エレメントが水風船のように弾けて霧散した。

 眼前の敵が倒されたのを見て、廻斗は次にダメージの大きいE・エレメントの元に向かう。彼の生命力を糧にした暗黒の瘴気が敵を包み込むと同時に、姓が比較的傷の浅いE・エレメントに向けて煌くオーラの糸を放った。
 このメンバーで、E・エレメントの包み込みを無効化できるのは姓だけだ。一体でも多く攻撃を引きつけ、仲間達を守るつもりでいる。 
 スカイブルーの傘を差し、反対の手で大きなカーキの傘を携えて。少女は、楽しげに歌声を響かせる。
 激しく打ちつける雨の中、怒りに我を忘れた二体のE・エレメントが姓に水の弾丸を撃ち、残る一体が福松に襲い掛かった。あらかじめ敵の攻撃が顔面を狙ってくると読んでいた福松は、すんでのところで直撃を逃れる。
「体力の回復はボクが。神谷さんはブレイクフィアーをお願い」
 専任の癒し手として体力と状態異常の双方を気にかける理央が、天使の歌を奏でながら要に声をかけた。肩越しに頷きを返した要が、仲間達を蝕む痺れと重圧を聖なる輝きで消し去る。
 まだ怒りに囚われていないE・エレメントに向け、アルフォンソが神秘の閃光弾を投げた。味方を巻き込まぬように絶妙の位置へと放られたそれが炸裂し、残る一体の動きを封じる。
「こっちばっかはアレだ、公平にいこうぜ?」
 一方、暖簾はE・エレメントとの距離を詰めると、心身を砕く魔力の眼光で一体を射抜いた。敵が僅かに動きを鈍らせた隙を逃さず、福松が“オーバーナイト・ミリオネア”の早撃ちで怒り狂う二体のE・エレメントを沈める。
 敵が数を減らしたのを見て、廻斗が歌い続ける少女に駆けた。
 激しい雨を掻い潜り、赤く染め上げたサーベルを真っ直ぐに繰り出す。僅かに狙いを逸れた刀身が、少女の肩を掠めた。
 雨に打たれた仲間達を、理央が天使の歌を奏でて癒す。閃光弾の直撃を受けて動けぬE・エレメントを魅零の魔閃光が包んだ直後、姓の気糸が止めを刺した。


 雨はまったく止む気配を見せず、少女は歌声を響かせ続ける。  
 弾んだ調子のメロディーや明るい歌詞とは裏腹に、恐るべき破壊の力を込めた豪雨がリベリスタ達を襲った。
 全身を強く打った魅零が、ぐらりと宙によろめく。
 遠のきかけた意識を、彼女は己の運命を引き寄せて繋いだ。

 頭から足の先までずぶ濡れになりながらも、福松が少女との距離を詰める。
「お前に罪はない。そして、これから罪を犯させはしない」
 激しい雨の中でも白さを失わないシルクストールを靡かせ、彼は拳を繰り出した。
 少女が翳すスカイブルーの傘ごと、強烈な打撃を叩き込む。 
 グリモアールを片手に携えたアルフォンソが神秘の刃を空中に放ち、少女の白い肌を裂いた。
 先の雨で廻斗の動きが鈍っているのを見て取り、要は迷わずブレイクフィアーの聖なる光を輝かせる。
 自動的に傷を癒す能力を備える少女との戦いで鍵になるのは、回復を封じる技を持つ廻斗の存在だ。彼を守り、その攻撃を支援することが、勝利への近道になる。
 廻斗もまた、己が重要な役割を担っていることを承知していた。
 確実に致命の一撃を当てるため、彼は自らの神経を研ぎ澄まし、集中を高めていく。

「お嬢ちゃんどこに行くのかな?」
 前に出た姓が、少女の動きを鋭く読みながら彼女に話しかけた。
 これ以上、歌を連発されては後衛に立つ魅零やアルフォンソが危うい。まともな会話は期待できないにしても、喋らせることができれば歌は止められるかもしれない――。
『駅まで行くの。お父さんのお迎えに』
「お父さんを迎えに行くの? 偉いねえ。お父さんの事が大好きなんだね」
 微笑んで答える少女の瞳は、どこか虚ろで。姓は、そんな彼女の急所を狙って“氏屍”を繰り出す。
 幾多の名に塗り潰された黒い卒塔婆が、少女の鳩尾を打った。
「――雨音お嬢さんよ」
 暖簾が、少女の名前を呼びながら前進する。
 僅かに視線を動かした彼女に、彼はそっと語りかけた。
「親父さんは駅にゃ居ねェ、お前さんはもうこの世のもンじゃねェ」
『? お父さんが、駅で待っているの』
 不思議そうに首を傾げる少女。
 声は聞こえても、言葉は彼女に届かない。それは、最初からわかってはいたが――。
 何にしても、自分達にできるのは彼女の幕を引くことだけだ。黒紫の鉄甲を纏う暖簾の拳が、少女を打つ。
「気づいて、貴女は死んでしまったの。もう、その傘は誰にも届けられない」
 カーキ色をした、男物の大きな傘。それを大事そうに持つ少女を魔閃光で撃ちながら、魅零は声を投げかける。少女はまだ、首を傾げたまま。

 雨に奪われた仲間達の体力を取り戻すべく、理央が癒しの福音を響かせた。
 その直後、少女が手にしたスカイブルーの傘をくるくると回す。瞬時に生み出された真空の刃が、凄まじい勢いで前衛に立つリベリスタ達を切り裂いた。
 一度、二度――立て続けに強烈な斬撃を喰らい、廻斗と姓が膝を折りかける。
「……勝負はこれからだ」
 廻斗が運命を燃やして自らを支えると、姓もまた、己の運命を代償にその場に踏み止まった。
 深手を負った廻斗を庇うべく、要がフォローに入る。機転を利かせた福松が黄金のダブルアクションリボルバーから不可視の殺意を放ち、少女の頭部を撃ち抜いた。
 生じた一瞬の隙を逃さず、廻斗が赤き魔具と化したサーベルを構える。
 庇われながら戦うのは慣れない。だが、それが仲間の役目であるならば――自分は、敵の癒しを阻むという己の役目を果たすまで。
 充分な集中から繰り出された鋭い突きが少女を捉え、雨による自己再生能力を封じる。
 あとは、攻撃を集中させて撃破するのみ。
 雨の中に立ち止まったままの少女を真っ直ぐに見据え、廻斗は思う。
 死んだことに気付かず、何度も同じことを繰り返す哀れな魂。
 それを討ち滅ぼしてやるのも、ひとつの救いだろうか――と。
 彼はすかさず、首を横に振った。 
「……いや、これは救いじゃないな。終焉……だ」

 伊達眼鏡のレンズに纏わり付く雨滴を払う理央が、天使の歌を奏でて仲間達の傷を癒す。
 体力の回復と状態異常の解除、その双方を可能とする彼女の責任は重大だったが、理央は状況把握に努めることで己の役割をまっとうし、時には仲間の手を借りて全員に回復を行き渡らせていた。
「もう少しだよ。回復は任せて」
 理央に背中を支えられて、リベリスタ達は少女に攻撃を集中させる。
 姓の黒い卒塔婆が、少女の急所を打った。
「この先工事中で通れないの知ってる?」
 問いかけとともに、姓がやや後方に下がる。
『お父さん、待ってるもの』
 首を傾げる少女に、魅零が大きな声を上げた。
「貴女は、死んだの!」
 暗黒衝動を秘めた闇のオーラが、少女の脇腹を抉る。

『迎えに、行かなくちゃ――』
 宙に視線を彷徨わせたまま、少女は再びスカイブルーの傘をくるりと回した。
 鋭い斬撃が前衛たちを切り裂くも、彼らを倒すには至らない。
「もう、迎えに行かなくても良いんだよ」 
 神秘の刃で少女を狙い撃つアルフォンソが、彼女に優しく語りかけた。
「お父さんは君のために祈り続けていると思うから。
 君はもう、その思いを抱えていつまでもこの場に居なくても良いんだよ」
『どうして? だって、今日は……』
 黒紫の銃指を握り締め、暖簾が声を重ねる。
「もう行かなくていい、もう行けねェンだ。向こうで見守ってやりゃあいい」
 固めた拳が、少女の胸を貫いた。
 その瞬間、雨の音が急速に勢いを失っていく。

 ――ごめんな、おやすみ。

 暖簾の囁きに、少女はただ瞬きを返して。なおも何かを言うように、唇を僅かに動かす。
 要が、そっと口を開いた。
「大丈夫、これは夢ですよ。幸せな貴方に少しイジワルしたくなったのです」
『……夢?』
 少女の声に、要は「ええ」と頷く。

「次目を覚ましたときにはきっとそこは晴れているでしょう。
 だから、今はゆっくり休んでください――」
 
 要の言葉を聞いた少女は、儚げに微笑んで。
 小降りになった雨の中、その身を跡形もなく散らせた。 


 少女の消滅を見届けたリベリスタ達は、事故現場に花を供えることにした。
「……また化けて出られても面倒だからな」
 ぶっきらぼうに言う廻斗に、福松が答える。
「まあ、二度目の最期を看取った身としては、な」
 道路の隅に菊の花を供えた魅零が、その脇にぬいぐるみを置いた。
 それらは、少女のために彼女が選んだもの。
「綺麗でしょう?」
 少女の声は、もちろん返ってはこないけれど。
 旅立った先で彼女が幸せな夢を見られるようにと、要は願う。
 暖簾が、少女――木内雨音の名を呼び、その冥福を祈った。

「確かに雨の日もいいもンだな」 
 そう言って上を向いた暖簾の視線を追い、理央も空を見上げる。
 雨足は、大分弱まりつつあった。
 しっとりと濡れた街が、柔らかな雨の匂いを帯びている。

「……こういう形でなければ、この子の姿も微笑ましいものだったんだろうね。
 事故さえ無ければ、迎えに行く娘がいて、それを喜ぶ父親がいて」
 沈黙を保っていた姓が、誰にともなく呟いた。
 体が、やけに重く感じる。それは、濡れた雨合羽の表面を流れ落ちる水滴や、じわりと纏わり付く湿気だけが原因ではないのだろう。
 そして、姓は思う。
 自分にもそういう風に迎えに来てくれる人がいたら、少しは雨が好きになっただろうか――と。
 空を覆う灰色の雲を透かし見るように、姓は目を細めた。
「……けど、ただ単純に、晴れた青い空のほうが、私は好きだよ」 
 囁く声は、雨音の中にそっと溶けていく。


 全てが終った後、アルフォンソと魅零は少女の家に向かった。
 バースデーカードを収めた封筒を、アルフォンソは家のポストに投函する。
 父親の誕生日を祝えなかった少女の想いを代わりに届けることで、彼女がもう思い残すことのないように。

 カーキ色の大きな傘を玄関に立てかけた魅零が、インターホンを押す。
 急ぎ立ち去った二人の背後で、玄関のドアが開く音がした。
 あの日、少女が届けられなかった傘は、今度こそ父親のもとに届くだろう。
 悲しみに暮れる両親に少女が贈った、最後のプレゼントとして。

「止まない雨はないって、誰かがいってた――」
 ふと立ち止まり、魅零は頭上を見上げる。
 雨はいつの間にか止み、夕暮れの空に薄く晴れ間が覗いていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
数史「お疲れさん、雨は上がったみたいだな。風邪ひいたりするなよ?」

 戦闘については役割分担と全体の連携がしっかりなされていたと思います。
 あえて細かい点を挙げるならば、未装備のアイテムで戦場のペナルティは軽減できないこと、移動したターンにヒット&アウェイは行えないことでしょうか。

 心情寄りのシナリオだったため、リプレイも皆様の心情を重視して執筆させていただきました。
 少しでも心に残るものがありましたら幸いです。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。