● 買ったばかりの写真専門誌。 フォトコンテストの選外に小さく自分の名前。 「技術はともかく、もっと個性を」の、たった十四字の選評。 特集記事。 「新境地――「三高平にて」出版記念――、曽田七緒インタビュー」 タイトルだけで、この長さ。 むかつく。 鋏で、切り裂く。 畜生。 何が新境地だよ、 ただ三高平でスナップ撮っただけじゃねえかよ。 こんなの俺だって撮れんだよ。 日寄ったくせしてよ。 もうエッジじゃねえくせしてよ。 てめえなんか、もうだめだめなんだよ。 ふざけんじゃねえよ。 誰もいわねえんだったら、俺がやってやんよ。 みてろ。 お前の皮はいで、写真とってやる。 ● 「……それもこれも、七緒が挑発するような答え方するから……」 「インタビュアーに言ってよぉ。あたし、こんなこと言ってないわよぉ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)と『スキン・コレクター』曽田七緒(nBNE000201)が一冊の専門誌を前にごちゃごちゃ言い合っている。 『色々言われてるみたいだけどぉ、これがただのスナップに見えるって人には分からなくていいと思う訳ぇ(笑)』という、大見出し。 うわぁ。調子づいてる。 「まあ、とにかく七緒が調子こいてるっぽく読めるインタビュー記事に触発されたフィクサードが徒党を組んで、七緒を狙ってる。場所は、七緒のサイン会やるとこ。この際だから、七緒を囮にしてそいつらを捕縛」 「ひどぉい。当日狙われそうなの、あたしだけじゃないのに。スタッフちゃん達もいるのにぃ」 七緒が、掌に顔をうずめて、泣き真似をする。 「そのために皆を呼んだ。今回の仕事は、七緒と七緒のスタッフの護衛。ま、皆、革醒者なんだけどね」 「戦闘さっぱりなんだわぁ。革醒者相手の戦闘で勝ったことないんじゃないかなぁ、あの子らぁ」 だめじゃん。 「だから、皆にがんばってねぇって。あたし、派手に立ち回りしたらまずいでしょお?」 ピーラーで皮剥ぎソウルトレインとか勘弁してください。 「場所は、結構大きな書店。ほんとに、写真集、出版するんだ……」 「オファーがあったからぁ。ちゃんと加工したから、みんなのプライバシーは安全。抜かりなし」 仕事に関しては、てきぱきしゃべる七緒。 「で、それ買った人に整理券が配られて……って奴ね。一般人に怪我がないよう、そっちのガードもお願い。みんなは、列整理のアルバイトってことで話はつけてある。今回は凄まじく人目がある上、結界でごまかしきれないので、各人、武器はその辺にあるものにして」 つまり、剣とか、銃とかだめってこと? 「お巡りさんが来そうなもの、禁止」 じゃあ、どうしろと!? 「今回のフィクサード、駆け出しも駆け出し。というか、ねたみそねみで人が殺せたら……とか言ってたら、あの病気が高じてのパターン」 ああ、あの不治の病。 「アークとかのことも知ってはいるけど、革醒とは? って聞いたら、きちんと分かっていないレベル」 俺って超人!? とか、言っちゃう手合いですね。分かります。 「死傷させることはない。ぶっちゃけ、雑魚の集まり。でも、自覚がない雑魚ほど一般人に迷惑なものはない。取り押さえればいい。素手とか、モップとかで」 モップですか。 「出来ないとは言わせない」 反語的に全幅の信頼を表してくれる女子高生、マジエンジェル。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月28日(月)00:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 移動は、アークの送迎車。 「煽るの良くない!」 『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)は、 勇気を振り絞っていた。 朝風呂朝シャンで力尽きている七緒に抗議の一吠えだ。 「みんながみんな、特別なわけじゃない……もん……」 どよんとした七緒の目がまじまじと見つめるのに、文の語尾が小さくなる。 「あのインタビューは、アレ過ぎだけどねぇ。もう、アイツとは仕事しなぁい」 でもさあ。という、七緒の笑い方が、文的には恐ろしくて仕方ない。 「雑誌で特集されるようなのが特別じゃなかったらまずいでしょお? 『モデルがよかったんで、たまたまですぅ』とか、プロに言ってほしいぃ?」 そう言って笑う七緒は、いつものぐうたらねーちゃんではなく、腕一本で生きている写真家の顔だった。 「曽田の作品はスルメ。最初は醜悪さに否定全開だったが、きちんと見て理解できるようになると、その作品の神髄が見えてくると思う」 『SUPERSTAR☆TATSU』如月・達哉(BNE001662)が解説する。 怖がりの文は、後二、三年してから見るのがいいだろう。 「道は違えど求道者には違いない。そういう意味でも好敵手だな、彼女は」 七緒は、あ~。と声を出した。 「如月ぃ。あんた、スルメが醜悪とか。外見日本人ぽいけど、中身外国人なんだぁ、やっぱりぃ」 ● 本屋では、スタッフがてぐすね引いて待っていた。 「時間通りに来たな」 大きく頷く巻髪B子。 「すぐマッサージから始めるからね」 七緒の頭皮と肌の状態を確認して、先に立って歩き出す盛り髪A子。 「太ってないね。やせてもないね!?」 七緒の腹の皮を服の上からむんずと握る、ベリーショートD子。 人目につかない裏口から、人目にさらすには忍びない七緒を建物の中に入れる。 「七緒ちゃん、ご飯は? 車に酔ってない?」 そんなことを言いながら、足元がぐらぐらしている七緒に肩を貸す、ほぼ一年ぶりに見るふるふわC子――ゆん。 七緒に気を使いながらも、ちらっちらっとリベリスタの方を振り返る彼女に、やたらそわそわしている『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)。 リベリスタの頬に生ぬるい笑みが浮かぶ。 相模の蝮に「浮世の義理」で参戦した七緒の「友人」のゆんと、駆け出しアークのリベリスタの冥真の間に、お子様ランチの旗程度のフラグが立ったのは一年前のことだ。 それから、友人の頼みは聞かないこともない七緒の協力の下、お菓子の交換からメルアドの交換に始まり、写メが行き交い。チョコレートとクッキーが行きかい。 交際は文通から。を地で行く二人になってしまった。 いや、まだ交際まで行ってない。 だって、好きとかそういうの言ってないもん。 スーツ上下に白衣、腰元にぶら下げるように小鼓とモル面。 (子供受けは悪くないと思いたい。悪の幹部みたいで) この場合、受けを狙うべきターゲットはゆんだ。 受けるかというと、一般女子アンケート的には微妙だ。 ● 今回の敵は、フィクサードにあらず。 結界でごまかしきれない世間の目だ。 今回リベリスタ達は、写真集に載ってる人がうろうろするイベント扱いだ。 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、打ち合わせ中。 (……ん……いつぞや写真展で取られた教会の写真あったわよね。強襲導師服をシスター服っぽくアレンジ) 本屋の路地裏に、巨乳シスター現る。 (グリモワールは、表紙の入れ替えでなんとか聖書っぽく) 「バックラーは……長袖の下に仕込めないかしら。ダメ?」 「袖にもろにシルエット出るよ。だめだね」 七緒のお友達、ホーリーメイガスのD子がツッコんだ。 アパレル系スタッフ、厳しい。 「聖神の息吹がね。派手に光る様なら使えないし、一応確かめておかないと」 建物の影で地味に詠唱してみる。 希薄な高位存在の意思を読み取り、術者の詠唱で具現化させるこの技は、術者の特色が出やすい。 「いや、まぶしいついでに神々しい。大技はどうしてもそうなるね。つうか、雑魚からそれつかわなくちゃならないほど怪我させられてたら終わりだから」 あうとぉ。 ● 人が結構いるって言うか、いつものスタッフの他にも手伝いがいる。 あいつら、三高平の……アークの奴らじゃねえか。 畜生。 なんだってそんな女に人数こんなにさいてんだよ。 そんなに大事なのかよ。 VIP待遇かよ. 畜生。 ● 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は、吹っ切れている。 (人の壁で店舗の一角を目隠しするように列を並べ、騒ぎが起きても一目では分からぬようにしておくのじゃ) 「スタッフの指示に従って並んで欲しいのじゃ♪」 かわいらしい和ロリ女子に、じっと見つめられて否といえるだろうか。 「此処だけの話じゃが、最近スリが多いらしいのじゃよ」 じゃから、お手回り品にはきをつけての? 目の光、言葉の端々。 瑠琵が投げた『騒ぎ=スリ』という概念が、緩やかな波が広がるように列に浸透していく。 三高平高校の制服の上から借り物の書店エプロンをつけた文は、おろおろと列整理をしている。 (……わたしもコスプレとかしたほうが良かったのかな……? メイド服とか……) 「あ、あの、はみださないでくださーい。そそその、おっ恐れ入りますが、ここで曲がって、折り返して……はい、ありがとうございまーすっ」 列は、旧来からの七緒ファンと、ほのぼの写真集ファンで二極化されている。 文から見れば、タトゥーにピアスジャラジャラとか、おっかない人達が写真集片手に並んでいるのだ。 自然、声も尻すぼみになる。 (ふええ、声出しって緊張するー……) 目じりに涙もにじむが、でも。と考えを切り替える。 (敵はわざわざその列を突破してくるより、直接七緒さんに接近しようとすると思うんだ。あと、ファンに混じって列に並ぶっていうのも……ちょっと、考えにくい……かな) ブラッディロアの思考回路が、襲撃経路を見定める。 (お客さんの列が安定したら、敵が来そうな方向をカバーする位置に移動しよう) 「す、すいませ~ン……」 裏返り気味の声を上げながら、文は次にどう動くか考えていた。 ● 「とりあえず、強結界を張っておくのじゃ。店の売り上げは減るじゃろうが、わらわは困らぬ!」 瑠琵の吹っ切れっぷりは、歯に染み入るほど清々しい。 大型書店であるが、目に見えて人の波が減っていく。 入ってくるのは確固とした目的を持った者――サイン会に並ぶ客しか入ってこない。 (減るに越したことはない) 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が、更にふるいにかけるように結界が張る。 (目も多いに越した事は無い) 表情が現れない三白眼が挙動不審者がいないか観察している。 アークの一線級のリベリスタから見れば、革醒したての自称超人は小さな刺のようなものだ。 素手で普通に殴ってもいいところに当たれば、一撃だ。 悪意に革醒者も一般人もない。 ● 『曽田七緒賛江』 「うける~!」 七緒本人はともかく、スタッフちゃん達に、達哉の「出版おめでとう」と書かれた七緒の三頭身マジパン人形付きホールケーキは大うけだ。 「イベントにはケーキ必須。ここ、テストに出ます。」 オレンジジュースもおまけにつけた達哉は断言した。 「おニーさん、そのかっこで出るの~?」 コックコートだ。 「いいだろう、ハロウィンの仮装衣装だ」 「市民、皆そういうの持ってるあたりが笑えるよね、三高平」 「ぼちぼち時間だよ。準備いい?」 「七緒、寝るなよ! それから適当に字をはしょるなよ!?」 スタッフもいろいろあるらしい。 ● (これだけやっておけば、そこそこ誤魔化せそうかのぅ?) 瑠琵は、珍妙な衣装で普通に振舞う三高平市民に目を丸くしている列に目を向ける。 本人達の自覚はなくとも、日常を目いっぱい謳歌し、イベントにも参加慣れした三高平市民のテンションは高い。 物語の登場人物を見るように、いや、彼らは写真集の中の登場人物なのだ。 リベリスタ達がした『扮装』は、一般人たちの『常識』の壁をほんの少し揺るがし、状況の異常さをごまかすことに成功していた。 列の人数に反比例するように、普通の売り場は閑散としている。 目的意識がなければとどまることも難しい強結界の中、本をとる訳でもなく、店内を徘徊する輩の目的とはなんなのか。 「お待たせいたしました。曽田七緒サイン会、開催いたします。そのままゆっくり前の方にお進みください」 ● 『百目』百目鬼 クロ(BNE003624)は、列整理のバイトではなく、最後尾つきのスタッフの顔をして、ぼうっと整理券順に並ぶ人の列を見ている。 嫉妬と暴欲に駆られた者たちが、一般人に見せていたい幻想をことごとく引き剥がしながら。 「この札、お願いします」 うさぎがクロに差し出す『最後尾』の文字の書かれたカード。 受け取り様、小さく呟く。 「あれとあれ、尻尾が生えてるわね」 化け損ねの狸的な意味ね。と付け加える。 そこから行くと、うさぎはきちんと化けた狸だ。 「了解です。残りは売り場からきそうですね」 では、手はずどおりに。 ● 七緒タンなんで静岡なんかに引っ越しちゃったのせっかく君のマンションの隣のお部屋に越したのにアークの職員てんこ盛りでカメラもセンサーもてんこ盛りなマンションじゃ盗撮も盗聴も出来ないじゃないかボクは君に捧げようと思って皮がもっと増えるように一生懸命高カロリー高たんぱく高脂質な食生活を一日八食もしてるんだよ今日こそボクの白ムチのフレッシュスキンを君にプレゼントしたいんだ毎日ヒアルロンサンやコラーゲンやプラセンタを塗っているからぷりぷりなんだよ七緒たんななおたンキミがボクの皮になんて言ってくれるのかそれを考えるだけでボクはボク和―― ● 鉄臭い匂いがしたので、横を向いたのだ。 「きゃあぁ!!」 切羽詰った甲高い悲鳴が空気を震わせる。 妙齢な女性が一人の男を指差していた。 「七緒タンななおたん七緒タン……」 はちきれんばかりのTシャツが赤く染まっている。 ぶふぶふと鼻息を荒くした巨大なデブが自分の腹を「ピーラーで」傷つけていた。 そのまま、ひな壇に向かって転がるように突進していく。 「刃物を持ってる! 危険です! 離れて!」 うさぎが巨デブの手をつかんだ。 とたんに、うさぎの体積の数倍はありそうな風船豚の動きがぴたっと止まった。 非常に目立たない部分。 ずんぐりむっくりの小指、あらぬ方向に捻じ曲げていたのだ。 (折ったりはしません。痛めつけるだけです) 無表情なうさぎに手を握られて、動きを止めた巨でぶが、静かに取り押さえられた。 『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)は、悲鳴を上げた女性にすばやく、けれどそっと近づき、その手をとる。 「僕の声が聞こえる、おねーさん? きっとこれは夢みたいなものだから……大丈夫。落ち着いて?」 童話集を胸に抱きしめた少年が、優しく見上げてくる。 「大丈夫なの?」 「そう、落ち着いて、誘導にしたがって、ここを離れて?」 そういう少年の目の中の落ち着きが、八十年の歳月によって刻まれたものであることを女性は知らない。 「便乗スリじゃ! 皆、お手回り品に気をつけよ!」 瑠琵の声が響く。 前に見物に出ようとする客の前に、何気なくクロが通せんぼ。 その魔物の目が『下がれ』と指令を出す。 押しとどめられる人垣は、すでに魔眼使いの支配下だ。 その人の流れに逆らうようにひな壇の上にしつらえられたテーブルに走る影が複数。 舞い散る花びら、中からきらりと光る刃物。 敵と判断すると、文はすかさずその背後に回りこみ、きゅっとそのひじをつかんだ。 普段なら気糸で縛り上げる場所を自分の指で押さえている様子は、「一生懸命なバイトの女の子、がんばっているなあ」というほほえましいものだった。 紙のように白くなり、わなわなと痙攣を始めた男の腕に気づかなければ。 落ちた花束の中に、ピックが忍ばせてあったことに気がつかなければ。 ここぞとばかりに、フィクサードがひな壇に殺到する。 「七緒! 何で変わっちまったんだよぉ!?」 七緒の前にスタッフが立ちふさがり、更に冥真が立ちふさがる。 「こいつ、ゆんだけガードするつもりだ!」 「当たり前だ! 特に厳重に守る。全力で守る!」 冥真は、全力でフィクサードにつかみかかった。 ゆんの頬がぽっとなるのも仕方ない。 「カメラとピーラーの取り合わせは危険だな。ヤマをかけておいた甲斐があった」 そこに、適当なチョップ……に見える、達哉の論理戦闘者特有の最大効率最大効果の体術が決まる。 (駆け出しって事なら、私でも普通に相手出来る筈。……たぶんきっと) 近距離で直接攻撃をする機会が甚だ少ないアンナの緊張は、血の気が引いた頬から察していただきたい。 (……流石に一応覚醒者だから、後衛の私だと簡単には抑えられないと思うので……) 突然飛び掛ってきた男に、びっくりしたシスターによってめちゃくちゃに振り回された聖書の角が、たまたま当たった。 判定中。 よし。正当防衛。 遠巻きに状況を見ていた群衆から、ぱちぱちとなぜか拍手が沸き起こる。 彼らは知らない。 神秘の力でぶん殴ったアンナが、こっそりフィクサードが呼吸しているのを確かめたことを。 ● 群衆にとっては何がなんだか分からない内に終わっていたという表現が正しかろう。 「刃物!」「スリ!」「とま」「ヤマ」「ごつ」 終わりだ。 「いやぁ、おもちゃのナイフと血糊の自作自演の流血騒ぎに便乗してのスリとか怖いですねぇ」 「いやあ、七緒さんのファンはロックな人多いから」 「お騒がせしました。どうぞ、もう一度お並びくださぁい」 「お怪我なさったお客様、いらっしゃいますか、あ、いらっしゃらない。よかった」 「「曽田もスタッフも、無事でぇす」」 サイン会は盛況の内に終わった。 捕縛されたフィクサードは、アーク提供別所へ。 うさぎによる「つーか、だったら写真で見返しなさいよ。七緒さんがエッジじゃ無くなって、もうだめだめなんだったら楽勝でしょう?」という『激励(鞭)』、 文による「……写真が撮れるってだけで、わたしから見るとすごいよ。ね、あなたの写真、わたしに見せて?」という『激励(飴)』 アンナによるジャスティスキャノン放射パフォーマンス付きの「特別な 物なんてそんなにないのよ、世の中には。分かったら普通にする!」という『説教(鞭)』 咲夜による「個性などなくともいいものはいいものじゃよ? 悩むのは成長の糧じゃが、それで人を傷つけるのはいただけないのぅ。見ていて幸せになれる写真を撮るには自分が幸せな気持ちにならないとダメなのじゃ」という『説教(飴)』 ――をうけることになった。 「好きねぇ……」 送迎の車待ちのクロがそう呟いた。 ● 「なんつーか、絵付けした凧の写真を嬉々として送ったり色々変なメールばっかでごめんな」 夕暮れの本屋の駐車場。 二人っきりにしろと言ったのに、車の陰に外野が鈴なり。 「いえ、待ち受けとかにさせてもらったりとかしてたりして、あの」 ゆんは、ぽっとほほを染めてうつむき加減。 「分かんねーんだ、あんまり。一度やりあっただけの仲で、好きとか嫌いとかそういうの。七緒ちゃんがわざわざ店まで来なきゃ切れた縁だと思ってたし……」 フラグにひび。 「息災だったのはその、俺も嬉しい。だから、その。危ない目には遭って欲しくないなと思うわけで」 ひびに接着剤。 「君は果たして俺のマイナスイオン的なところが好きなのか、俺を好いてくれてるのかもちょっと確信が持てない」 接着剤にひび。 「勘違いしてたら悪い。俺は――その、割と肯定的に捉えてる。平たくいえば、多分、好きだ」 ● ぶち切れたゆんの友人達は、額に青筋を浮かべ、乱入した。 「多分って、どういうこと!?」 「うちのゆんは、キープか! 男色隠しのカムフラージュか!?」 「こんな悪の幹部みたいなの、やめなよ! より取り見取りでしょ!」 「やだぁ」 「癒し系なら他にもいるだろ! マイナスイオン程度今すぐ習得してやる!」 「非戦スキルの問題じゃないも~ん!」 冥真本人が忘れている。 初対面時点で、冥真はまだ自由にマイナスイオンを出すことは出来なかった。 素直に、ゆんの一目ぼれだ。 「戦ってたのに?」 「恋は突然やって来るんだもん!」 言ったゆんは、ぷしゅーっと頭から湯気を噴いた。 「あの、あたし。あんな噂信じてないし。でも」 『多分、好き』、『君が俺を好きかどうか分からない』とかでお付き合いできないよ、恋心。 「あたしの気持ちがちゃんとわかってもらえるまで、がんばりますから。待ちますから……あの、それもご迷惑ですか」 車の陰では、瑠琵は「キス」コールの為、待機中。 達哉は後ろ手に、『おめでとう』ケーキを隠している。 どうする、冥真、どうする!? 一同が、固唾を、呑んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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