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<六道紫杏>イージスブレイカー

●六道
「キングストン弁でしたっけ? あれって本当はそういう使い方じゃないんですよね?」
「本当とか如何でもいいんじゃないかしら? アーティファクトそのものが都市伝説みたいなものだし」
「ま、確かに……ですが勿体無い。かなり希少な効果の品なんでしょう?」
「出し惜しみなんかしてたら生き残れないわ。化け物みたいな天才どもが当り前のように闊歩するこんな所じゃ特にね」
 女は吐き捨てるように言いながら強化ガラス越しに『それ』を見上げた。
「最初のころに比べれば安定してきている……けど、まだまだ。そもそもデータが足りない」
「で、実戦で実験ですか? どうします?」
「そこらの孤児院なり何なり襲わせればいいでしょ? そうすれば死物狂いで駆けつけてくる……そういう連中なんでしょ」
「ずいぶんと嫌ってるんですね?」
「大嫌いよ。正義の味方とか、何かを身を張って守るとか」
「ああ、やっぱり。思ってたんですよ? それで『こういう風』にしたんですね?」
「……何? 文句あるの?」
「いいえ、そういうのは好きですよ。死之宮さんって本当にクロスイージス嫌いなんだな~って」
「大嫌いよ。絶滅すればいいのにって思ってるわ」
「まあ確かに。こういうのって知っても、幾人か来る人はいるんでしょうね? あの組織には」
 興味深くもありますと青年は付け加えて、彼女と同じように『それ』を見上げた。
「それじゃ、早速手配しましょう。実験の観察準備も整えないといけませんし」

●盾を傷つけ、砕くもの
「児童養護施設を……怪物が、襲撃するみたいなんです」
 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)の説明は緊迫したものだったが、少々要領を得ていなかった。
「すみません。敵についての情報が……何て言いますか、難しくて」
 アザーバイドでもあり、エリューションでもあるようで……エリューションと言っても、E・ゴーレムのようでもあり、E・ビーストのようでもある。
 そんな、同時に幾つもの存在である『何か』
「複数の存在が組み合わさった様な……人為的な行程を経て生れたものなんだと思います」
 最近そういった存在が引き起こす事件が幾つも確認されているので、同じような事件の可能性は高い。
 マルガレーテはそう前置きしてから、とにかくその『何か』の撃破が今回の目標になりますと説明した。
 端末の操作に合わせて、スクリーンにそれが表示される。
 見た目は……丸みのある巨大なサボテンのようにも見えた。
 そこから、樹の蔓のような触手らしきものが無数に伸びている。
「本体の部分だけでも3mほどあります。この触手みたいな部分も入れると倍以上になるかもしれません」
 その巨体に相応しい耐久力を持っており、異常から回復する能力も高いようですとフォーチュナの少女は説明した。
 動きの方も、本隊の動きはやや鈍いが、触手の方はかなり機敏に、高速で動かすことが可能なようだ。
「一度に複数回の攻撃を行ってくることも多いようです」
 2回、あるいは3回の攻撃を行ってくることもあるようだ。
 ただ、早く動き過ぎると速度に肉体が追い付かずダメージを受けるようである。
 生き物としてのリミッターが存在していないという事なのだろう。
「攻撃方法は、かなり多彩です」
 まるで実験でもするかのように様々……5つもの攻撃能力を所持している。

「1つ目は近接攻撃になります」
 触手の先端を対象に触れ、そこから生命力やエリューション的な力を吸い取るという能力。
 神秘的な力で防御を無視して対象を傷つける。

「2つ目は複数の触手を振り回しての薙ぎ払い攻撃ですね」
 近距離範囲を薙ぎ払う攻撃は、直撃すると対象を吹き飛ばす効果も持っている。
 攻撃力の方も高いようだ。

「3つ目は周囲に腐食する酸のような何かを噴出する能力です」
 遠距離まで届く全体攻撃は、ダメージに加えて防御能力を大きく減じる効果も持っている。

「4つ目も遠距離まで届く全体攻撃なんですが……ダメージ効果はありません」
 30m周囲に届くその能力の効果は1つだけ。
 直撃すると、あらゆる付与効果を消滅させるブレイク能力だ。

「最後、5つ目の攻撃なんですが……」
 この存在に含まれているらしいアーティファクトの効果を利用した攻撃です。
 少女はそう説明した。
 アーティファクトの名前は『キングストン弁』
 それを利用した攻撃は近接単体への攻撃。限定的だが……発動すると、極めて危険な効果を発揮する。
 対象は、不沈艦の能力を習得し発動させている者のみ。
 意志の力で効果を退けることに失敗した者は、即座に戦えぬ状態にしてしまう。
 効果としては超ダメージを与えているだけらしいので、極めて高い防御力と耐久力を持つ者なら耐えられる可能性もゼロではないが……受ければ基本倒れると思っていた方が確実と言える。
 悲観でも何でもなく。

「敵は以上の5種類の攻撃を使用して戦闘を行います」
 ただ、5番目の攻撃に関しては他の攻撃よりも実行が難しいらしい。
 そのため、5番目の攻撃を行った場合は他の行動を行ってこない。
 よって敵の攻撃パターンは、1~4の攻撃を2~3回か、5の攻撃を1回となる。
 また、3,4,5の攻撃は行うと力を消耗するらしい。
「生き物としての知性的なものはありませんが、敵を分析する能力とそれを基に戦闘を行う計算能力は高いみたいです」
 ただ、近距離に不沈艦能力を使用している者がいるならば5の攻撃を優先するようだ。
 リベリスタでも勝利が難しい相手……もし、気付けずに施設が襲撃されていたら……
「施設の方は事前にアークの職員等によって避難が行われますので一般人への危険はありません」
 それらに対する妨害等も無かった以上、襲撃そのものは重視してはいなかったのだろう。
 大事なのは、それによって現れる者たち……つまりは、アークのリベリスタ。
「危険な相手です。ですが……」
 絶対に、放置する事はできません。
「どうか……お気をつけて。御武運、お祈りしております」
 マルガレーテはそう言って、リベリスタたちを送りだした。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:メロス  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月03日(日)23:52
オープニングを読んで頂きありがとうございます。
メロスと申します。
今回はキマイラと呼称される存在との戦闘となります。
参加されるPCによっては危険度が難易度以上に高まりますが、逆にそれを利用して勝機を高める事も可能かと思われます。
六道の研究者が護衛のフィクサードを連れて観察しているようですが、詳細は分かりません。


■戦場
児童養護施設の敷地内となります。
施設、周囲含め一般人は避難しておりますので保護や秘匿についての心配はいりません。
庭で戦う場合、戦闘や移動に大きな制限はありません。
建物内へと誘き寄せようとした場合、敵は建物を破壊しようとします。
(建物内ですと離れて観察するのが難しくなる為かもしれません)
崩落などに巻き込まれるとダメージを受ける可能性があります。


■キマイラ『イージスブレイカー』
丸いサボテンの様な本体に樹の蔓のような触手が無数に生えたような外見をしています。
(材料の方は生物、植物、無機物等、様々です)
触手を使用して移動や戦闘を行います。
極めて高い耐久力を持ち、動きの方も巨体の割に機敏です。
WPも高めで、高い調査分析能力と判断力を持ちます。
ただし生物や人間としての知性や思考はなく、会話や意志の疎通等はできません。
攻撃は以下の5種類です。

・攻撃1
神・近・単
追加効果:防御無視。HE回復。
触手の先端から力を吸い取る。攻撃力は中。

・攻撃2
物・近・範
追加効果:ノックB。
複数の触手で周囲を薙ぎ払う。攻撃力は高。

・攻撃3(EP消費)
神・遠・全
BS:崩壊
腐食する酸のような液体を噴出する。攻撃力はやや高。

・攻撃4(EP消費)
神・遠2・全
ダメージ無し。ブレイク。
力を解除する領域の発生。

・攻撃5(EP消費)
神・近・単
アーティファクト『キングストン弁』を合成させることで発現した効果。
不沈艦のスキルをセットした者はWP判定に失敗すると超ダメージ。

戦闘時は、1~4の攻撃を2~3回、若しくは5の攻撃を1回行います。
不沈艦をセットしている者が近距離にいるならば5の攻撃を優先します。
また、3回攻撃時は速度に肉体が耐え切れず自分に反動ダメージが発生します。


キマイラを撃破できれば依頼成功となります。
それでは、興味を持って頂けましたら。
どうぞ宜しくお願いします。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
ソードミラージュ
黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)

●守る、ということ

 クロスイージスとは職業ではない。
 生き方だ。

 そう言ったのは、誰だったろうか?


「イージスブレイカー……だってよ、旦那方。どうするね?」
「ご指名に応えないわけには、いかないよな」
 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)の言葉に応じるように『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は頷いてみせた。
 自分たちが耐え、総攻撃。
 作戦はシンプル。ならばこそ滾る。
「快さんが来るのは疑わなかったけどな、まさか4人も揃うとはねぇ」
 どこか嬉しそうな表情で、ツァインは口にした。
(最近思うんだよ、クロスイージスってバカ野郎の集まりなんじゃないかって)
 そう思えば……何故か、不思議と……笑みが零れそうになってしまうのだ。
「尊敬すべき先輩方と共に並び立つ事ができるのは幸いです」
(あまり恥ずかしい所を見せないように頑張らなければなりませんね)
『不屈』神谷 要(BNE002861)は、そんな先輩たちを見ながら……静かに口にした。
 リベリスタたちは、襲撃の起こる施設の庭で待機している。
 避難は既に完了していた。
 後は、来襲するキマイラと戦うだけである。
(なんとも奇怪な様相の化け物)
「あまり触れたいとも思いませんが、出てくる場所が場所です」
 児童の居場所を守るために、遠慮なく躊躇なく。
『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)は念の為にと強力な結界を張り巡らし人払いを行った。
 作戦についても齟齬が無いようにと短く打ち合わせを行った後、今は暗視スコープを使用して周囲を警戒している。
(キングストン弁って冷却水の取入口だから普通開けとく物よね……)
「まあ、どうにせよ判りやすいやり口だわね?」
 折角だから挑戦には応えてあげると致しましょうか。
『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は、何時 敵が現れても対応できるようにと超直観を働かせる。
 問題のキマイラが出現すれば、すぐにスキャンによって能力を分析する態勢だ。
「不沈艦隊は伊達じゃないのだわ、沈まないし沈ませないわ」
 警戒しながら短く呟いた直後、地震のような揺れと轟音が響き渡った。
 音は静まらず、揺れは寧ろ激しさを増しながら……道路側のフェンスが歪み、吹き飛んで。
 一行の前に、巨大な『何か』が姿を現す。
 フォーチュナの説明した通りの外見。
 イージスブレイカーと呼称されるで間違いないだろう。
(何とも、クロスイージスをかなり嫌う方の思惑を沸々と感じるキマイラなのです)
 けれど、と。
 源 カイ(BNE000446)は自分に言い聞かせた。
(相性の上で不利にも拘らず、勇敢にもこれに立ち向かう方々がいらっしゃいます)
「僕も負けてはいられません、力を尽くして臨むとしましょう」
(不沈艦、かっこいいのに。私もいつか付けてみたいなって思ってるのになー)
『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)も、そんな想いを一旦止め気持ちを切り替えた。
「さて、今日も回復がんばろう!」
 今はとにかく、自分にできる事を。

「では、参りましょうか」
 要が変わらぬ様子で、静かに口にした。
「俺らみてえな、タフガイを狙い撃ちってな敵かよ? どんだけ恨みを買ってるんだろうなあ」
(まあ、たんに相性が悪いだけかもしれねえけどよ……)
 キマイラを見上げ小さく呟いてから『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)は、断言した。
「この敵は、なんもわかっちゃいねえ」
 不沈艦……沈まねえってのは、心意気なんだよ。
「誰が相手だろうが、俺は、俺たちは、誰にも砕けねえさ」
 その言葉に、ツァインが続けた。
「さてと。そんじゃぁ、クロスイージスの小さな聖戦といきますかぁ!」
 快は静かに頷き、口にした。
「俺はクロスイージスに革醒した事に感謝している」

 それは、誰かのユメを護る力だから。
 本当の守護神になる日まで、俺の理想(ユメ)、護る力。
「決して砕かせはしない」
 キマイラを見上げて一人のクロスイージスは……誓うように、宣言した。

「打倒しよう、矜持に賭けて」

●総てを砕かんとするモノ
 紗理は怪物へと距離を詰めながら、身体のギアを切り換えた。
 全身の能力を速度に特化させ、敏捷性と反応速度を限界近くまで上昇させる。
(私の武器は速さ)
 それを、活かす。
(クロスイージスの皆さんが陣形を整える前に時間をかせぎます)
 二刀を構え強く決意した彼女に応じるように、怪物の攻撃が彼女を……リベリスタたちを襲った。
 不気味な体の表面から、煙状の何かが勢いよく周囲へと噴出される。
 撒き散らされたそれは、触れた物を焦がすような、蒸発させるような音を立てて蝕み、一瞬で溶解させた。
 怪物、イージスブレイカーはそのまま紗理へと近付き無数の触手を振りかぶり、薙ぎ払う。
 直撃を避けられたものの、それでも無視できないほどの破壊力をその攻撃は持っていた。
「く、これは……きつぃ……」
 しかも息つく暇もなく、振り抜かれた触手がそのまま振り被られ、唸りをあげて再度彼女を襲う。
 空間もろとも引き裂くような音と共に、何かが裂けるような、千切れる様な不気味な音が、彼女の耳に届いた。
 強引な動きに耐え切れず、肉体が損壊していく音。
 通常の生き物であれば決して行わないような、限界を超えた動き。
 その攻撃を、紗理は速力を活かすことで、何とか直撃を回避する。
 直撃していれば、それ以上ならば……終わっていたかも知れない。
「今のうちに陣形を!」
 痛みを堪えながら紗理が皆に叫び、リベリスタたちは急ぎ態勢を整えていく。
 アリステアは周囲の魔力を取り込んで自身の力を強化し、カイは自分を援護する意志持つ影を創り出した。
 快とツァインは全身のエネルギーを防御に特化させ、完全防御態勢を整える。
 要は意志の力を極限まで高める十字の加護を、味方全員に施した。
 ソウルも防御のオーラを身に纏い、守りの力を強化する。
 エナーシアはスキルによって狙撃手としての感覚を研ぎ澄ますと伏射姿勢を取り、対物ライフルの銃口を『何か』に向けた。
 敵の攻撃は気にしない。
 それらは、守りは……すべて彼らに、彼女らに任せて。
 彼女は自分の全神経を、腕と瞳に集中させた。

●後に、託して
 再び周囲の存在を侵食するガスが撒き散らされ、リベリスタたちの体を、防具を、傷つけ崩壊させていく。
 自身の肉体を破壊しながら、怪物は更に触手を振りかぶった。
 防御態勢を取った紗理へと、唸りをあげて樹の蔓のような触手が叩きつけられる。
 一撃目を、彼女は何度か耐え抜いた。
 だが……それで限界だった。
 続いた怪物の攻撃を受けて、彼女の体は力を失い……吹き飛ばされるように地面へと叩きつけられる。
 だが、彼女の稼いだ時間の間に前衛たちは戦いの準備を終えることができた。
 4人のクロスイージスと1人のナイトクリークは、キマイラを押し止めるべく前進する。
 アリステアは高位存在の力の一端を癒しの息吹として具現化させ、仲間たちを蝕む酸を浄化し傷を治療した。
「合わせていくぞ、ナイト・オブ・ナイト!」
「あいよ『Keel of the Ark』、リーガルブレイド……クロスッ!」
 浄化によって取り戻した守りの力を輝きに、破邪の力へと変換し、快とツァインは其々の武器を振りかぶる。
 カイは紡いだ気の糸を全身から放ち、怪物の一部へと多重に巻き付かせ、締め上げた。
 要も完全な防御態勢を整えると、前衛へと移動する。
 殆んど照準を付けない早業で、エナーシアは精確に怪物の一部を狙い撃った。
 ライフルから放たれた銃弾がキマイラを捕え、怪物は身を動かし触手をうねらす。
 痛覚らしきものはあるのだろう。
 ならば、少しは観察する意味もある。
 攻撃しつつ、彼女は敵の反応を確認していく。
 そしてソウルは、パイルバンカーを腕に怪物へと接敵した。
(俺の大振りじゃ直撃なんて滅多にしないだろうが、少しでもダメージの手伝いをしてやらねえとな)
 オーラを雷に変換し、武器へと纏わすと攻撃を相手に叩き込む。
 キマイラは巨体に似合わぬ柔軟な動きでその攻撃を回避し、ソウルへと意識を向けた。
 それは彼の狙い通りだった。
 皆が覚悟を決めているのは、よく分かっている。
 だが……こういうのは歳の順と、相場が決まっているのだ。
「真っ先にぶっ倒れるのは、年寄りさ」
(若い奴を先に倒れさせるわけにゃ、いかねえよ)
 イージスブレイカーの触手の一本が自分に向けられた、そう思った次の瞬間。
 内臓そのものを抉られるような激痛が、ソウルを貫いた。
 まるで身体を内側から爆破でもされたかのような、同時に、外側から圧力でも掛け押し潰す様な……圧倒的な破壊が、全身を襲う。
 身体が軋み、噎せ返った口元から赤いものが零れた。
 もう少し……耐え切れなかった身体が、大きく揺らぐ。
 全身に力を篭め、こみあげたものを押し戻して、ソウルはふざけて罵るように口にした。
「耐えられないなら仕方ないわな!」
 俺自身の命削って、やれるところまでやるしかねえさ!
 運命を無理矢理手繰り寄せて、繋ぎ止めて、身体を動かす。
 一瞬で満身創痍となった身体を、柔らかな風が包み込んだ。
「ふちんかん、って沈まないって意味でしょ? じゃあ絶対沈ませないよっ!」
「やれやれ、これからは若い奴の時代だってのに。休ませてくれねえもんか」
 憎まれ口を叩きながらも、心の内で感謝を呟いて。
 ソウルは武器を構え直す。皆と共に、攻撃を繰り返す。
 次の一撃を、意志の力で拒んで……そして。
 アーティファクトの力の籠った一撃を受け、一人のクロスイージスが倒れた。
 若者たちに、後を託して。

●守る盾、貫く矛
 万全の状態で受けた快が、かろうじて立っていられる……それが、キマイラの攻撃の破壊力である。
 強力な攻撃ではあったが、耐えられる者がいた事は光明でもあった。
「皆の痛いの、ちょっとでも軽くできるように頑張る!」
 一時的に後退した快を、アリステアが癒す。
 耐え抜ける人は生きる盾でもある。できるだけ回復できるように。
 彼女は詠唱で清らかな存在へと呼びかける。
「皆が命懸けで作ってくれる攻撃の機会、無駄にはしないのです」
(……でも、無理をし過ぎないようにして下さい)
 カイは敵がクロスイージスたちへと注意を向けている隙を突いて、次々と攻撃を叩き込む。
 気の糸で襲い、黒のオーラで急所を狙い、或いはオーラで作り出した爆弾で一部を破壊する。
 もっとも効果があるのはどの攻撃か?
 見極められれば、彼らの、彼女らの稼がねばならぬ時を短くできる。
 ツァインが加護を掛け直すのを確認しながら、要は前に出た。
 クロスイージスとして恥じない戦い方を。
 真正面から、キマイラの攻撃を受け止める。
「受け止めてみせます」
(これまで何度も何度も倒れて来ましたが……)
「それでも私はこの戦い方しか知りませんので」
 彼女に向かって、触手の一本が伸びる。
 それを、一発の銃弾が撃ち抜いた。
 撃ち抜いた本人、エナーシアは感慨もなく敵の様子を確認する。
 破壊された触手は再生され始め、別の触手が要へと向けられた。
 つまりは触手には破界器の力はない。ならば……本体か? 或いは完全に融合しているのか?
 反応を見ながら、彼女はそれを言葉に変えて皆へと伝えていく。
「守って貰ってる分は還元しないとね」
(そうは考えられないからあんなの作るんでしょうけど)
 彼女の視界の先では2度目の攻撃でキングストン弁の力を受けた不沈艦が……倒れかけた身体を運命の加護で、かろうじて支えていた。
 皆の攻撃が続くが、怪物は倒れず触手を要に向ける。
 それに合わせるようにして、要は剣に光を宿した。
(私の矜持は護ることです)
 自分が沈もうと仲間を護る事に繋がれば、それで良い。
「船が沈むときに起こす渦を甘く見ない事です……!」
 伸びる触手に合わせるようにして、彼女は剣を振りかぶる。
「せいぜい派手に沈んでみせましょう」
 力が自分を破壊するのと同時に、彼女の剣はキマイラを捕え……要は呻き声すらあげず、崩れ落ちた。

●クロスイージス
「お見事……」
 堂々と不沈殺しを受ける仲間たちへと言葉を贈ったツァインは、静かに一歩を踏み出した。
 アリステアが懸命に癒し続けているが、快はまだ……回復し切れていない。
ならば、次は自分の番だ。
「誰かを守るとか、皆の為に犠牲になるとか、俺にはよく分からん」
(でも、この力に誇りを持っている。この力で無ければ、ここまでやれたかも分からない)
「お前は、その力を使う人達の意志を、ちゃちな玩具で踏みにじったんだ」
 攻撃を正面から受け止めるように、忽然と、抗するように。
 ツァインは構え、叫んだ。
「舐めるな、俺達を、甘く見るな、クロスイージスをッ!」
 自身を侵食しようとする力を弾きながら、破邪の力を宿した剣を振るう。
 仲間たちの攻撃によって怪物は傷付いていくが、その動きはまだ弱まらない。
 そして自分の身は、破壊の力に抗し切れず……全身を引き裂くような力を受け、ツァインはかろうじて意志の力で踏み止まった。
 何とか一撃を振るい、更に身体を襲った衝撃を、運命の加護で乗り越えて……けれど、此処が限界だった。
 だが、快の回復は既に済んでいた。ならば……
(その目に刻め、イージスの力の体現、戦う意志っ、不屈の魂を! これが……)
「クロスジハァーードッ!!」
 最後の力を振り絞って、彼は聖なる祝福を、屈さぬ意志の力を……仲間へと贈る。
 その直後、破界器の力を受けて……3人目の盾が、大地に伏した。

●すべてを懸けて、守るもの
 意志の力なら自分との勝負。
「凌駕してこその護り手だ」
 快は、完全なる防御態勢を整えるとキマイラへと距離を詰めた。
 武器に再び輝きを宿す。
「時間を掛けられません、確実に決めないと……」
 ハイアンドロウが現状最も効果が期待できると判断し、カイもキマイラの各部を狙って爆弾を設置し炸裂させる。
「神秘とて万能ではないはず、何処かに弱点はあるはず……」
 盾を砕くものを、砕く。
 エナーシアも、守りも回避も委細考えず、ただ撃ち砕く為だけにライフルのトリガーを絞り続けた。
 カイは構造上で敵本体の有機物と無機物の結合の具合等も推測し、エナーシアと言葉を交わしながら不安定な可能性のある箇所へと攻撃を実行していく。
 攻撃を受けた快へと、アリステアが懸命に癒しを施した。
 少しでも、万全の状態に近づけられれば……けれど、それを遮るようにキマイラの攻撃が繰り返される。
 意志の力で攻撃を拒み崩れ落ちそうな身体を支え、運命の加護で意識を繋ぎ止めて……それでも近付いてくる、限界。
 朦朧とする意識の中で、それでもハッキリとしたものがあった。
「俺だけじゃない」
 視界に移る、自分に託して倒れた仲間。
「此の場にいる、人だけじゃない……」
 レナーテさん、アラストールさん、ウラジミールさん……
(アーク総てのクロスイージスの矜持の為に、絶対に負けられない)
「俺が! 俺たちが! クロスイージスだ!!」
 盾の聖たる、我らが誓い。
 攻撃によって、イージスブレイカーは大きく傷ついていた。
 だが、その前に……最後の盾が、砕ける。
 すべての力を使い果たし、快が前のめりに倒れ込んだ。
 そして、守りを打ち倒した怪物は破壊の力を容赦なく周囲へと撒き散らし始める。
 付与の力を解除された3人を酸の嵐が襲い、薙ぎ払うような触手の攻撃がカイを襲う。
 「……代わりに凌いてみせますっ」
 盾たちの様にはいかずとも、少しでも。
 歯を喰いしばりながら、カイはそのまま攻撃を続ける。
 アリステアの具現化した聖神の息吹が傷を癒し、エナーシアは変わらず、只管に攻撃に専念した。
 触手の直撃を受けたカイが弾き飛ばされ、後衛陣までもが攻撃に曝される。
 だが、3人はそれを耐え抜いた。
 アリステアの癒し、運命の加護、そして……自分たちを此処まで傷付かずに守ってくれた、4つの盾。
 オーラの爆弾が、力を篭められた銃弾が。
 傷付いた怪物を貫き、吹き飛ばし……完膚なきまでに破壊し尽くし。
 周囲に静寂が、訪れた。

●守り抜いたもの
 手は出せなくとも。
 快は力を使って、六道の研究者を探索した。
 顔だけは覚えておく、そんな想いと共に。
 見出した相手の瞳には、様々なものが浮かんでいた。
 憎しみ、怒り、悲しみ、寂寥感……唇を読む術を持っていれば、彼には見えたかもしれない。
 何で、こんな奴等ばかりなの! あいつと、同じで。
 研究者らしき人物が、そう呟いたのが。

 それで、もう……限界だった。
 快だけではなく幾人かが……フィクサード達が撤退したのを確認すると、力尽きるように意識を失う。
「児童養護施設だからダメだって? ケッ、世知辛いねえ」
 痛みを堪え一服しようとして止められたソウルは、それだけ呟くと火を付けずに葉巻を加えた。
 一仕事終えた。任務を果たした。
 そう思えば、悪くはない。
 目を向ければ、彼らが、彼女らが守り抜いた子供たちの施設は……崩れることなく、其処へ静かに佇んでいた。



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れさまでした。
不沈艦を装備したクロスイージスの方にとっては、
能力と同時に心情系のHARD依頼とでも言うべきシナリオだったと思います。
皆様の覚悟と、想い。
そして、守りを任せ攻撃と回復に専念した仲間たちの想い。

すべてを全力で描写させて頂きました。
みなさまの力を結集させて手にした勝利だと思います。

御参加、ありがとうございました。