●ひっく 「ひっく」 朝起きて第一声。『NoSweetNoRound』丸井 あるな(nBNE000009)は宣った。 それはそれは誠に素晴らしい美しくも正しいしゃっくりであった。 ●知ってる? しゃっくりって100回続くと死んじゃうんだよ 「まじで! ひっく」 100回はもうすでに過ぎ去った。 丸井あるなは死んでしまった(心理的に) 「ひっく……ひっく……ひっく」 それでも尚も鳴り止まないしゃっくり。 正しいリズムで弾き出される横隔膜のビート。 「ひっく……うあー、もう、誰か止めて!……ひっくっ!」 あまりにしつこく続くしゃっくりの猛攻の前に遂にあるなさん陥落す。 三高平に響くあるなの遠吠え。 かくしてリベリスタ達が立ち上がった。 「ひっく」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:築島子子 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月01日(金)23:42 |
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■メイン参加者 23人■ | |||||
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●なんなんこの相談の流れ、拾うしかないじゃないか。 「ひっく」 丸井あるなのしゃっくりが五月の空に響く。 三高平の公園に急遽用意されたステージの袖より見渡せば、しゃっくりを止めるために集まったリベリスタの数は二十余人。 揃いも揃って歴戦の強者にして屈強なる暇人達である。 背もたれに背中を預ける。安っぽいパイプ椅子がギシリと軋んだ。 「ひっく」 空を見上げる。 五月最後の晴天は、今日も三高平の空を青く染め上げている。 これから、あるなのしゃっくりを止めるためにリベリスタが奮闘するのだ。 主に間違った方向に……。 ステージ下で喧々囂々の騒ぎが聞こえる。 相談の内容は如何にしてしゃっくりを止める……いや、驚かすかの相談にシフトしていた。 早くも相談の方向性が行方不明だ。 どっと喝采。リベリスタ達が沸く。 赤い巨漢が何事かを言った後、囃し立てるような声が周囲に響く。 嗚呼……。 相談の方向性が明後日に行く。 「ひっく」 遠い空に富士山が見える。 どうして、こうなった。 あるなさんの丸い瞳にはただそれだけが浮かんでいた。 ●しゃっくりを止めるのは簡単だ。 「ちゅっと息を止めればいいのさ、イージーだぜ」 あるなさんをびっくりさせるべく集まったリベリスタに向かい、ドヤ顔で言い放ったランディ・益母の一言に、集まったりベリスタの殆どが一瞬固まり、そして歓声を上げた。 「ランちゃんがろまんちゅっく!?」 「あらあらあら……」 「あるなさんが赤い野蛮にちゅってされるのです」 「あるなのはじめてが奪われると聞いて」 「たしかにしゃっくりは止まりそうだけれど」 「ランディ……おそろしいこ」 一度火が着いた状況は止まらない。 確かに衝撃的ですからね。私も驚いた。 「うおおおおおおおおっ!?」 ランディ、咆哮。 「違う! 言い間違っただけだ! やらねーよ! くそうっ!」 慌てて言い繕うも後の祭り、鎮火する以上に油が注がれる。 「違うだろ! カズトと新田がキスするんだよ」 さらなる燃料投下。 「マジでっ!?」 「なんでそうなった! なんでそうなった!!」 「あらあらあら……」 「いや、ちゅうせんわっ!?」 「残念…夏栖斗と快さんのキスシーン撮ろうと思ったのに」 需要はあるよ。 「ランディさんとあるなのキスシーンよりも需要ありそうなのに……」 ある意味捕食シーンですからね。それだと。 わいわいがやがや喧々諤々。 「いや、ひゃっくり止めにきたんじゃないの?」 いや全くその通り。 第一回丸井あるなのしゃっくりを攻略する大会。 はじまります! ●動かない大軍師 戦慄のお布団トラップ 「めんどくせーですね」 ステージへとづづく階段の脇に布団を敷き、ぬくぬくに温まりながら日暮小路は呟いた。 ゴロリと寝ポジを直す。これはなかなかのいい寝心地。 「しゃっくりなんて大体適当にやれば治るじゃねーですか」 治らないからこの騒ぎになっているんだけれどね。 「でも止めないと死ぬんでしょ? 死ねというわけにはいかねーですか」 はあ、仕方ねーですね。と、布団の中でドヤ顔きらり。 「ひっく……うぉー、とまらぬぅー」 舞台に向かいしゃっくりしつつ近づく物体。 声から察するにまるくてあまい。丸井あるなに相違ない。 レイザータクトの完璧なプランニングにより算出された完璧な死角に布団は置いた。 ここならば迂闊なピンクに察せられることもない。ハズ。 「通りかかったら、布団お化けだぞ、がおーとかで十分でしょう、あの脳軟化さんは」 何という深謀遠慮。布団の中で小路はほくそ笑む。あー、ぬくい。 「ひっく……」 しゃっくりの音は近い。戦闘配置! さあこい、甘くて丸い人! 「がおー、ふt……痛っ」 ふみっ。 布団にかかる重みがその、痛い。 「あ、踏まないですいません通路で寝ててすいません痛い痛い」 「う? こみち? みちでねてると、かぜひくよー? ひっく」 素で心配されてしまった。もういいや、ここで寝よう。すぴー。 ●舞台装置二人 かくして丸井あるなは布団トラップを越えてステージに上がる。出迎えてくれたのはパイプ椅子。と、意味有りげに微笑む新田・快、数取器をもって待機する烏頭森・ハガル・エーデルワイス。 異色を持ってして害意を退ける。待ち受ける二人の先約者にあるなは戦慄する。なるほど、ここより先は敵地。アタシはこのしゃっくりを是が非でも死守せねばならぬ。 もはや目的すらも見失ったあるなはパイプ椅子に座る。来るなら、来い! 慄くあるなに意味有りげに微笑みを浮かべる快。その時、エーデルワイスの瞳が怪しく輝いた。 「うぬぬ、なにやつ……ひっく」 カチッ! 軽快な音を立てて数取器がカウントをすすめる。 「なかなかのしゃっくりね」 フフ……数取器を構え、エーデルワイスは怪しく笑う。しゃっくりの回数を数え尽くす構えである。そして視界の隅でうごめく快。なんだか落ち着かない。 「ぬむむ、なんなー」 じたばたじたばた。 ぐずるあるなを前に快は不敵に笑う。立っているだけで何をしでかすのだろう作戦は効果を上げているに様子。 今日はサポート。あるなの意識を引き付けることによって、驚かした時の相乗的な効果がきっとあるに違いない。 俺は、最期まで皆のサポートをやり尽くしてみせる! 「お、おのれー……ひっく」 カチッ! 「二回目ね。さっきのに比べて元気が無いわ」 「うぉー!?」 ●今日のMAI†HIME 「かわいい子猫チャンのピンチに……降臨」 凛ッ! 黙っていれば可愛い系女子代表、戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫、降臨。快がうわぁという顔をする。 「舞い降りるビート」 「ひっく」 カチッ! カウントされるしゃっくり数。 「漆黒の堕天使MAI†HIMEが、オマエのハートをロックユー」 眼前に掌を翳し、シャンと曲げた膝。遥かを射抜くように投げかけた視線はあるなを越して別の世界を眺めている。 パーフェクト。パーフェクトな厨二スタイルでございますぞMAI†HIME殿。 クルッとマイクを回転させて持ち直し、世界を挑む視線のままに、あるなを指差す。 「聞こえるぜ、あるな……胸の奥底から響く横隔膜のワイルドなビート。 ロックンロールなソウルを熱くヒートさせるのさ」 マイクを持った手を伸ばす。あるなを誘うMAI†HIMEのロック。 ハートビート。熱くなる鼓動。夏はもうすぐだ。 「その原始のリズムに身を任せて、ハートをデンジャーに解き放つんだ。 イエスッ! ロックの神様がいまここに降りてくる オゥ、イエス!」 ぐいっと身体を乗り出し、MAI†HIMEがあるなに手を差し伸べる。 悪魔が夜に誘うように、天使が祝福するように。 「この歌の衝撃で、オマエの鼓動は時を止める……」 手を掴む。こうしてあるな、否、†ALUNA†は舞台(?)に上がる権利を得た。 こう見えても彼女はNOBU系バンギャ。 黒猫のライブにはほぼ顔出すくらいの熱狂的ファンである。 NOBU仕込みのロックスピリッツが†ALUNA†を熱く燃え上がらせる。 MAI†HIMEと†ALUNA†二人のロッカーを祝福する様に曲が流れる。 流れる曲はきゅーとでぽっぷなラブソング。 「「ですとろーーーいっ!!!!」」 若い恋人たちの甘い恋愛を引き裂くようなデスヴォイスが初夏の空を引き裂いた。 ●ロボじゃないロボ 「あるなちゃんと遊びにきたのー!」 ピンク強襲。桜・リリエン・かえでが元気よく飛び出してきた! 「はじめましてなの、あるなちゃん! びっくりさせにきたの!」 「……? ひっく?」 宣言付きとは珍しいですね。 カチッ! 「疑問形でしたね」 粛々と任務をこなすエーデルワイス。そして意味深に頷く快。 「ふっふー、なんと今回はいしゅたーちゃんといっしょに来たの。さっき仲良くなったの」 ドヤッと桜。後ろに控えて立つイーリス・イシュター(?)。 一家総芸人として名高いイシュター家の末妹の存在にあるなが身構える。 「いけ! いしゅたーちゃん!」 びしっと指を突き出す。 そして、イーリスが、動く! 「ハイパービックラコカセルノデス……ピピ……ガガ……」 「……」 重い沈黙。 「ロボだこれー!?」 ガビーンとSEが鳴り響く。ポンコツめいた効果音をならしイーリス(ロボ)は沈黙した。 「い、いしゅたーちゃん、どこー!?」 ダバダバと桜がロボを抱えて退場する。 「どいうことなの?……ひっく」 カチッ! 「さあ?」 俺にだって、わからないことは、ある。 ●ダブルトリガーロシアンルーレット 「次は私ですね!」 ドーラ・F・ハルトマンは壇上に上がる。 「しゃっくりは続くと気分が悪いという事で!」 にこやかに取り出したし突き出したのはリボルバー式の拳銃。え? 射殺? なにそれ怖い。 「ひっく!?」 カチッ! 「引き気味のしゃっくりですね。これもなかなか」 引き金を引く。 パンっと乾いた音を立て、あるなの額に当たったのはプラスチックのBB弾。 あ? 模型? エアガン? 良かった。一同ほっと胸をなでおろす。 「さあ、ロシアンルーレット始めましょう!」 弾を抜き、篭められた弾は1発のみ。当たれば敗北。ロシアンルーレット。 にこやかにドーラがこめかみに拳銃を当て引き金を引く。 パンッ! 乾いた音がして、銃身から飛び出したBB弾がドーラのこめかみをノックした。 突然始まりそして終わる。追いつかない理解にあるなは半ば呆然とし……。 「……ひっく」 カチッ! だがしゃっくりは滅んではいなかった。 快はやはりそうかと頷いた。 「うぅ、残念です。いいです。あるなさんとランディさんの顛末、楽しみにしてます」 がっくり肩を落とし、ドーラ退場。 「? なんのこと?」 あるなの問いに、さあ? と、快とエーデルワイスは曖昧な笑顔を浮かべた。 ●あの頃君は若かった 「ふ、このチャイカさんの出番がやってきたようですね!」 タブレットPCを構え、チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワは会心の笑みを浮かべる。 「21世紀のびっくりというものを見せてあげますよ」 ぴろーん、流れでる音源はあれ? ゲーム? 今となっては一昔前。Flashゲーム全盛期の頃に山のように作られた遺品の数々。 あれ?でも、それは確か、10年近く前……そのころチャイカさんは0歳か1歳ですよ? 「まあまあ」 曖昧な笑みを浮かべて受け流すチャイカ。サブカル好きは伊達じゃない。 とにかく、次々とゲームを引っ張りだしてきてはあるなさんの手渡す。 何はともあれゲームである。ご多分に漏れずあるなさんもゲーム好き。 慣れ親しんだ音源と操作感により没頭するにも十分過ぎる。 かかった! と、内心ガッツポーズを取るチャイカ。そう、もはや導火線に火が着いている。 後は着火のタイミングを待つのみ。 「ぎゃぴぃっ!?」 突如上がる短い悲鳴。タブレットPCが宙に舞う。 そのディスプレイいっぱいに、血色に染まる悪霊の顔。宙に飛ぶ悪霊のどアップPCを器用にキャッチしチャイカが会心の笑みを浮かべる。勝った! とにかく悪霊の奇襲である。みるみる涙を浮かべて半泣きとなったあるなの口から引きつるような音が漏れる。 「ひっ……ひっ……ひっ……ひっく」 カチッ! カウントアップ。しゃっくり認定!因みに快も飛び交う悪霊に腰が引け気味であった。 奇跡のフェイト復活を遂げ、しゃっくりが再び再開する。 「結果は残念でしたが、成果はあったようですね」 チャイカの表情は何故か満足気。半べそのあるなをよそにいい表情で壇上を後にした。 ●食いしん坊WAR うきうきにこにこ。 次に進み出たのは人のいい笑顔を浮かべた天風・亘。 さすがに人を警戒することを覚えてきたのかあるなは訝しげな視線を向ける。 警戒心を緩めなければ、亘はにこやかな表情のまま、柔らかな物腰で一礼をする。 鮮やかな青の羽が揺れる。 「初めましてあるなさん。メタルフレームの天風亘と申します」 …………。 柔らかな風が二人の間を通り抜ける。青い羽が、揺れる。 「……ひっく……い、いや……違うよ?」 目をパチクリとさせ、あるなが言葉をしぼり出す。 カチッ! カウンターがまた進み、快が視界の外れをちらちら蠢く。 「……え?」 にこやかなまま亘があるなに聞き返す。 「いや……それって……」 あるなが振るえる手で指さしたのは青い羽。 「ふふ、冗談です」 柔らかい笑顔。たちの悪い冗談だとあるなはご立腹。 「確か、フライエンジェですか?」 「アタシに聞くなーっ!?」 頭を抱えてあるなが叫ぶ。なにこいつ! 「まあ、それは置いときまして」 手の動きで置いとかれ、亘は懐より差し出した、それは……色とりどりのお菓子の数々。ずらりと並べるとバリエーションも豊かで大変賑やかしい。 「宜しければお近づきの印にお菓子どうぞ。一杯食べればしゃっくりが止まるかもです!」 「ほう、それはいい考えだ。私も一口乗らせてもらおう」 凛と立つ黒の鎧の女丈夫。アルトリア・ロード・バルトロメイ。(主に食い気の方で)互いに認め合った丸井あるなの永遠のライバルである。 「水を持ってこようかと考えたが、どうせ飲むだけであるならば水よりも美味しい食べ物の方がいい。そうだろう?」 「おうともさ! ……ひっくっ」 全てを見透かすその発言に、あるなは満面の笑みで頷いた。 アルトリアが腕を振る。いつの間に準備されたのか、簡易テーブルには和洋折衷様々なる料理が大量に並べられている。 「えー?」 亘が状況に着いていくことが出来ていない表情を浮かべる。先ほどまでは押していた筈なのに圧倒的なアウェー感。 食事を前にしたピンクの少女のポテンシャルに生半可な覚悟では追いつくことなど出来はしない。 「さすがにちょっと多いかなー? ひっく」 カチッ! カウントが進む。 「ならば、共に食べよう。無くなっても知らんぞ」 ざっとアルトリアが前に進み出る。 「ふ、このあるなさんについてこれるかな?」 「戯言を……」 顔を見合わせクールに笑う。二人はとっても好敵手。 次の瞬間、ステージ上に暴食の嵐の嵐が吹き荒れた。 「摂取カロリーとか……体重とか……色々言おうと思ったけれど、もう、いいよね」 遠い目をして亘が呟く。 そういう次元じゃないからね、もはやこれは。 快が同情するように肩を叩いた。 ●王道とはまこと恐ろしきものよ…… 「まんぷくぷー……ひっく」 お腹いっぱいご満悦。それと同時にしゃっくり一発。カチッ! とカウントが進む。 このしゃっくり、ご飯中に一回止まって再び始まったとかそんなんじゃないかという疑惑があるが、未だ大会続行中だ。 「のどがかわいた……あれ?」 ふと見渡せば差し出されるお水が4つ。 スタンダードに水を飲ませて止めようという良識的手段を行おうとされる人々がいたようだ。 お水で止めようという良識的手段を行おうという人その1。エナーシア・ガトリング。 「桃子さん直伝の悪魔の名を冠した腹パンで止めて上げようかと思ったけれど……などと言うことはなかったわ」 お水で止めようという良識的手段を行おうという人その2。鴉魔・終。 「しゃっくりにはお水を飲むのが一番だよ☆ 2リットルペットボトルだけれどね☆」 お水で止めようという良識的手段を行おうという人その3。リサリサ・J・マルター。 「えぇと……ちゅっとはまだでしょうか? あ、違います。ええと、その、お水をどうぞ……!」 お水で止めようという良識的手段を行おうという人その4。ユウ・バスタード。 「百回出ると、妖怪ひゃっくりになってしまうんですよねー。そうならないために私と一緒にひゃっくりエクササイズしましょー。それが無理なら水でーす」 差し出される4つの水。4人が4人仕込んである種は別であり、一人の分など2リットルの大容量である。そしてその手段に行き着いた動機も別。しかも一人は天然さんであった。 「うお……お?」 迷いで手が震える。水差しの上をあるなの手が左右する。 「別に困らせようっていう気はないのよ?」 エナーシアが語る。 「王道とは幾多の施行の上に確立された最も効率的な一手ということよ」 皆、しゃっくりをどうにかしたかっただけなのよ。 そう語る言葉にウンウンと頷く面々。 「そんなに、アタシのことを!」 あるな感激。信じる心って大事だね。 「ひっく……ならばこそ、ありがたくいっぱいいただこう!」 カチッ! とカウントが進むと同時にコップをひとつ手に取り、一気に飲み干す。 ごくごくごくん……。 「……か」 か? 「かれえええええええ!? のど、やける……」 七転八倒。のたうち苦しむあるなを見、小さく拳を握るエナーシア。プラフの一枚で引っ掛けることが出来るなんてなんて容易い勝負でしょう。 トウガラシエキス入り水とか、誰が準備してるのそれ。 「み、水……」 水を求める魚のように、口をパクパクさせながら、あるなは辛うじてコップを握る。 救いを求めるように一気に飲み干す。 さぁっと通る喉の冷たさの後に更に強く喉を焼く灼熱感。 「おごおーーーーーー!?」 またして再び襲い来るトウガラシ水。手渡したリサリサが、あら? と首を傾げた。 持ってきた水を確認せずに差し出しましたね、お姉さん? 「はぅ……はぅ……」 息も絶え絶え、呼気でさえも焼け付くような喉を治めるために更に水に手を伸ばすあるなさんマジチャレンジャー。 ガシッと手に取ったのは2リットルペットボトル。 ふいと横に目を向けると、終がニコリと微笑んだ。 あ、ヤバ……内心そう感じたのか、パッと手を離し、隣のカップに手を伸ばす。 ええい、ままよ! と祈ったかどうかは定かではないが、あるなは杯の水を飲み干す。 ゴクリと動く細い喉を雫が流れる。 「すっぺええええええええええええええええええっ!?」 吹き出す。うわ、きちゃない。 とにかくスッパイ、レモン100%か! と言わんばかりの酸味があるなを襲う。 あるなさんは甘いモノが大好きだ。だから、酸っぱかったり辛かったりは、その、少し苦手だ。 ユウが満足げに頷く。ターゲットの悶絶っぷりに満足な様子。 「し、死ぬ……」 あるなの息も青色吐息。そっと差し出される2リットルペットボトル。すごく、大きいです。 「正真正銘のおいしい水だよ☆ はい、どーぞ☆」 終が笑顔でペットボトルを差し出す。 受け取り、おずおずと少量口に含むあるな。学習している。 くにくにくちゅくちゅ、口の中に含んだ水の味を確かめる。水だ! ぱぁっと明るくなるあるなの笑顔。 コクコクと飲み始めたその耳元に終はそっと口を寄せ、低く小さな声で囁いた。 「あるなちゃん知ってる?」 ん? なにを? あるなの視線がそう答える。 「人間ってコップいっぱいの水でも溺れることが出来るんだって……」 「ゴホッ」 むせるあるな。むせた喉に水が更に押し寄せる。 「ゴホッガボガボ……」 駄目だ、呼吸を……遠のく意識の中、見えたのは、心配そうに覗きこむ終、駆け寄ろうとする快の姿と薄く笑うエーデルワイス。 ……暗転。 ●むにゃむにゃ、なんだかおもいな そう呟きながら、あるなは体をおこ……そうとして出来ない。 腕を伸ばそうと思ったら腕は掴まれていて、足を動かそうと思ったら足もふにふにされていた。 というか、耳も尻尾もほっぺもお腹も、ありとあらゆる場所に人がひっついている。人が、だ。 しかもアークのリベリスタだ。何だこいつらへんたいかぁぁ? 答え:変態です。 「ぷええええええっ!?」 じたばたじたばた。 精一杯の抵抗とばかりに蠢くあるなに囁く声がひとつ。 「しゃっくりは横隔膜の痙攣から起こるもの。だからここはうちが横隔膜を押さえておけば効果があるかも知れないわ」 津布理 瞑はあるなの後ろに周りお腹を抑える。ここかしら? ここかなぁ? 等と白々しい。 きべんだ。あるなは悟った。だが身動きが取れない。あるなはにげられなかった! 「同い年のよしみやし。うちら仲良く出来ると思うんよ。だからこれから夜明けのミルクティーでも飲みに行かない?」 おへそをくにくに。暴れあるな。夜明けって、夜中はどうなるの? 「ぷえー、やめれえええ」 まあ、その様な邪な何とかな感じのスキンシップではない者もいる。 なんていうか、猫可愛がりだ。文字通りの。 「あるなの耳と尻尾をナデナデモフモフ~♪」 白雪 陽菜があるなに抱きつき耳や尻尾を嬉しそうに触りまくる。 「うぉ~」 耳がぷるぷる尻尾ぴくぴく。 陽菜の髪より薄茶毛の猫が顔を出し毛を逆立ててあるなを威嚇する。とんだとばっちりだ。 「猫は可愛いなぁ~」 「むおー、あるなさんはねこじゃねぇ~」 じたばたするあるなを抱きしめる陰はまだ存在する。 山田・珍粘、もとい、那由多・エカテリーナは、しゃっくりなどはどうでもよく、あるなを全力で弄りに来ていた。 「あるなさんは可愛いなー柔らかいなー」 依頼の時の怜悧さを全く感じさせることがない柔らかな物言いで那由多があるなを抱きしめる。柔らかくて少し体温が高い。 「丸くて抱き心地良いなー」 「かわいいは甘んじてうけいれてあげるが、あるなさんは丸くねー」 「あら? そうなんですかー?」 あるなの精一杯の抵抗も笑って受け流す。オトナだ。 「しゃっくりはきっとアークのリベリスタが治してくれますからね。大丈夫ですよ」 フフフッと笑う。 「だからもう少し私の抱き枕になっていればいいのですよ」 那由多の一言にあるながうおおおおと身体をくねらす。 この拘束を抜け出すのはなかなか大変なようだ。 ソラ・ヴァイスハルトが引っ付いている。子供が子供に引っ付いているような光景だ。 その内面が子供であることはなかったが。 「ひっくひっくしてるあるなかわいかったわ」 リベリスタ達の無茶を辛うじて受け流してきたあるなの姿はまぶたに焼き付いている。 あるなかわいいよあるな。 「だからこそ、全力で愛でる!」 ソラの瞳がギランと光る。三高平の誇るダメ教師の本領発揮。 頭をひたすらなでなでなで。 「むおー」 耳と尻尾をもふもふもふ。 「やーめーれー」 ほっぺをぷにぷにぷにぷに。 「にゅあー」 お腹もぷにぷにぷにぷにぷに。 「まるくねー」 抱きついて、頬ずりぎゅーぎゅー。 「やーあー」 がぶっと首筋から吸血。……吸血? 「いや、こうね……噛み付きやすそうな首筋だったから」 ついつい? 「そんな首筋を持つあるなが悪い。だから私は悪くないよね」 いや、その理屈はおかしい。 「そうかしら?」 とにかく、あるなさん組んず解れつである。いやらしくない意味で。 そこに現れる一人の影。 結城 竜一は身動きが取れないあるなを見下ろし、微笑んだ。 しゃっくりを止める為に! そう、あくまで、止める為に! とにかく! 止める為に! あるなさんを驚かせなければいけない。驚かすとか、横隔膜を抑えるとか……そういう感じのだ。 「とにかく、横隔膜の痙攣を抑えるために俺は来たよ」 ニヒルに笑う竜一。相手は身動きが取れない。今がチャンスだ。 「自分で触るのはナンセンス」 チッチッと指をふる。なんとも怪しげな言動ではあるが。 「俺に任せるといいよ! さあ、心も体も俺に委ねて!」 ぶひょひょひょひょ! 人としてそれはどうかという笑いをしながら、高らかにジャンプ。あるなたん、今行きます! 「うわ、うわああああぁぁっ!?」 竜一がスローモーションで飛翔してくる。手を合わせ、足を開き、八の字のようなシルエット。ルパ○ダイブだ。 迫りくる竜一、身動きが取れないあるな。 「やめろおおおおお!?」 あるなの右腕の拘束がほどけた。今がチャンス。 カットイン。あるなの顔が一瞬キリッと引き締まり、右腕がオーラに包まれる。 「くるなあああああ!」 あるなの右拳が竜一の顔面を捉える。 爆発音。炸裂する衝撃。 ハイアンドロウ。ナイトクリークの初級技の一つが炸裂したのだ。 爆炎とともに竜一ふっ飛ばされたぁ! 「そんなぁぁぁぁ……」 べしょり。 竜一がステージに叩きつけられる。 「おまえらも、その、いいかげんにしろぉ!?」 くっつき虫なダメな人たちに、あるなさんは激昂した。 ぷんすか。 ●ちゅっちゅっ大作戦 しゃっくり止めの薬を作る。 シエル・ハルモニア・若月は公園の片隅で大量の柿のヘタを大きな鍋に煮込みながら、思考を巡らす。 イメージをともなった思考は現実を蝕み異界を形成する。 成熟したお姉さんの妄想って怖い。 それはそうと、ステージ上である。 あるなの行動に明らかに疲れが滲んでいる。ああ、目が死んでる。 「ランちゃんが甘いあるなさんにちゅっとやってくるみたいだから気をつけてね! 僕その状況をカメラにとって、ニニさんに送るんだ! 良い感じポーズ取ってね!!」 爽やかに、あくまに爽やかに言い放った御厨・夏栖斗の手元にはデジカメがひとつ。 同じく隣に(`・ω・´)といった表情でデジカメを持った悠木 そあらも待機済みだ。 「赤い野蛮の不意打ちちゅうをカメラに収めてあたしが埋められそうになった時にこれを武器に難を逃れるのです」 あたし、あたまいいのです(`・ω・´) 「え? どういうことなの?」 頭上に『?』を浮かべながらきょとんとするあるな。 知らぬが仏という言葉があってね……。 「バイデンに注意してね!」 と夏栖斗。終末の足音が聞こえる。 ランディ・益母は頭を抑えながら、どうしてこうなったかと思考する。 簡単だ。言い間違ったのだ。「ちょっと」と「ちゅっと」一文字違うだけで意味は全く変わる……。 ゆっくりと、しっかりとした足取りでステージに向かう。 致し方ない、期待に答えるのも男の役目。 『ランディ様があるな様の傍らに立ち、「俺の治療を受け取れっ!」とあるな様に接吻。 強引に彼女の舌を……蛮人の舌が絡め取り……優しく吸いつく…… 強張っていたあるな様の顔にうっすらと紅が差し…… 気が付けば吃逆が止まり……今度は恋が止まらなくなる……』 その背中を見つめるシエルの思考は止まらない。 加速するイメージは高濃度の妄想となり世界を侵食する。 「いけません! ニニギア様という方がありながら…駄目です!」 くわっと刮目。ダメなのは貴女の思考です。 ステージ上にて、二人の男女が見つめ合う。 片や2メートルを超える巨漢の男。片や1メートルと50に満たない少女の姿。 「さ……あるな」 ランディがあるなに手を伸ばす。 おおっと、期待を寄せ身を乗り出す人々。 「……っ」 びくっと身を強ばらせるあるな。 そして……。 「んなわけあるかぁぁぁぁぁ!!」 赤い野蛮吼える。 ぐわしっとあるなの頭を掴みあげ、高く掲げる。 「俺には大好きな女がいるんだよ!」 肩に担いだあるなの狙いを定めるはそあらの姿。 シャッターチャンスを逃すまいとしていた(`・ω・´)顔が驚きに染まる。 「死ね! あるなミサイル!」 「にゃあああああああっ」 投げたぁー! どんがらがっしゃん。 軽快な音を立てて目を回す二人のわんことにゃんこ。 ランディの視界に捉えたのは、夏栖斗の姿。 「さり気なく人をアザーバイド呼ばわりしたな?」 「あ? 聞いてた? 聞いてた?」 あははと笑う。辺りを見渡す。逃げ場はない。 腰に大きな掌が当たる。 「はは、怒ってないよ?」 笑顔。これほど恐ろしい笑顔があるだろうか? 「ほら、たかいたかーい」 「ぎゃあああああああああああ!?」 全力で上空に放り投げられる夏栖斗。いや、ベルトを掴んでいるためか、投げられはせず、地面に引き戻される。 「え? 足りない? じゃあ、全力で他界他界だ!」 担がれる戦斧。メガクラッシュの構え。 「ちょ、待って、ランちゃ……ぎゃああああああああぁぁぁっ!」 キラーン。夏栖斗、空の星となる。無茶しやがって……。 「さぁて……」 ゆらり……戦気を漲らせランディが立つ。 怒りで、瞳が赤く輝く。 「散々煽った他の連中……」 ギラリと見渡す。 戦慄する面々。 「皆殺しだ!」 戦鬼が吼え。烈風が吹き荒れる。 その日、三高平公園の簡易ステージは土煙を上げ、謎の崩壊に見舞われた。 ●そして…… あるなのしゃっくりは止まり。 リベリスタに恐ろしき者共が居ることを知る。 エーデルワイスの構えていた数取器のカウントは98回。 公式記録に残らない意義があまりない数字を残して、第一回丸井あるなのしゃっくりを攻略する大会は混沌の内に幕を閉じたのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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