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少女、灰の血を帯びながら


 ――過日の記憶が、蘇る。
 世界は私を嫌ってて。
 私も世界を嫌ってた。
 恒久的な孤独。無我に至るほどの束縛された毎日。
 涙、一つ。私はそれを流すココロさえ、持ち合わせては居なくて。

 鎖を砕いてくれたのは、何時のことだろう。
 役に立ちそうだ、なんて、無粋な言葉を最初に漏らしたのは、二人の男の人たち。
 萎びた身体に手を取って、あの人達は、にやりと笑っていた。

 悪いことは、たくさんした。
 誰かを殺した。何かを奪った。時には小さな身体を売ることさえ、あの人達には強いられてきた。
 それでも、私はそれを止めようとは思わなかった。

 ワタシの居ない世界。
 私しか居ない世界。

 それを砕いたのは、彼らなのだ。
 先がどれほど暗くても、果てがどれほど昏くても。
 唯一人の世界を救ってくれた彼らに、私はしたいことが在りすぎる。



 ――嗚呼。
 懐かしい記憶を、下らない記憶を、何故か、今になって顧みた。
 サンチマンタリズム。戻らぬ過去が傷となり、ひとひらの涙が落ちるより先に、さあ、そろそろ目を覚まそう。
 彼らに怒られてしまう、その前に。


「……ああ、はい。其処までで」
 ばちん、と言う音と共に、ぶっ続けに響き続けていた自分の声がぴたりと止んだ。
 うぎゅう、と言う奇妙な声が口から漏れた。アイマスクと耳当てを外して、寝ころんでいた適当な台から起きあがった私は、何だか未だ奇妙な耳鳴りが響く頭を抑えてぶつぶつと報告する。
「うー……ダメでございます。思考加速って言っても意識した事柄に向けての考察を深めたりとか出来ないっぽく。益体もない独り言が凄いスピードでがんがんがんがん響いておりました」
「……ったく」
 出来損ないのアーティファクトを即座に叩き潰しながら、私のあるじは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「何処ぞの変態ほどの代物は無理にしても、最近じゃこの程度すら出来ねえとはな。仮にも付与魔術師が聞いて呆れる」
「当人が聞いたら魂まで弄くられそうな台詞でございますなー」
 あっはは、と笑ったら睨み返された。これくらいの冗談は許して欲しいのだけれど。
「もう良い。取りあえず今は成功した方の試用に行ってこい。適当に暴れてくりゃアークも気付くだろ」
「はい……って、ええと、それってもしかして」
 私はここ最近の記憶を振り返りながら、一筋汗を垂らした。
 今現在相対するあるじの相方様。そちらが得意満面に改造した『元』アーティファクトを思い出せば、まあ何ともロクでもない記憶が広がるばかりである。
「知ってるだろうが。『傷んだ灰の血』だ」
「ちょっと用事を思い出したので一年程暇を頂いても」
「ブチ殺すぞ糞餓鬼」
「イヤでございますー! イヤでございますー! アレにわたくしが何されたか知ってて言っておられるのですか!?」
 お腹かっ捌かれて三時間耐久とか身体中刺されて腕が2mクラスにまで肥大化とかあまつさえ丸呑みされて一週間放置とか!
「生きてるだろうが。それでも。無事に」
「結果と過程をすり替えないで欲しいのでございますよ!?」
「あー、やかましい。今すぐ消しても良いんだぞ。イヤならとっとと行ってこい」
「あるじ様のフィクサードー!」
「まんまじゃねえか」
 げし、と蹴られた私が玄関先にころころと追い出されれば。
「……うぇ」
 涙目になった私の前には、どろどろとした黒灰色の粘体たちが、私を囲んでいましたとさ。


「エリューションの討伐をお願いします」
 言って、モニターに映像を開示する『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000018)ではあるが、その表情が何とも言えぬ複雑な感情を宿していることは、流石に幾度となく言葉を交わしたリベリスタ達には直ぐに解った。
「……どうした?」
「いえ。まあ、実際に見ていただけると解るかと」
 言って、展開された映像は――何というか。
「……なあ」
「はい」
「何だ、これ」
「……さあ」
 沢山のゲルっぽい生物に御神輿担ぎされた少女……と言うより幼女が、泣きわめいて周囲にぽかぽかと拳を振るっている状況だった。
「えーと……まあ、この泥が敵で良いんだよな?」
「はい。フェーズ2のE・ゴーレム『傷んだ灰の血』。かつてとあるアザーバイドの少女から生まれる『花』をベースに精製されたアーティファクトです」
「……アーティファクト?」
 はい、と頷く和泉は、
「先ほどアーティファクトと言いましたが、これは正確には『元』アーティファクトです。対象は何らかの方法によってフェイトの共有能力を喪失しており、その代わりに一定の自律能力と戦闘能力を所有しました。まあ、自律能力と言っても自分でものを考えて行動できるレベルではなく……」
「……そのブレインとして付いてるのがあの女と」
「良くお解りで」
 ……当たって欲しくなかったなあ。
「まあ正確には、彼女は号令ついでの発破をかけるだけの役みたいですが。それにしても此方で観測したところE属性は確認できましたし、存外韜晦にも長けているようですので油断だけはしないで下さいね」
 で、肝心のE・ゴーレムの方ですが。と言う和泉が、ぱらぱらと資料を捲り――そのまま渋い表情を浮かべた。
「……何というか、作り手の悪意が伺える内容になってます。
 先ず、対象が放つ攻撃は、基本的に受けた場合癒えません。同時に、対象が放つバッドステータスはあらゆる方法をもってしても快復しません。
 これらは対象が死んだ後も有効です、が……解除方法は非情に簡単です。『対象以外の他者による攻撃を一度受けること』。これはダメージにならない程度――要は小指をちょこっと切ったり――なんて小さな怪我などではなく、全力の攻撃ですね。
 ですが、これらの負荷状態にある間はランダムで特定の能力が上がる傾向もあるみたいです。上手く……本当に上手く利用できたら、逆にこれらの能力は好機をもたらすかも知れません」
「……何つーか、ストレートだな」
「まあ、それが対処のしやすさに繋がるかと言われれば違いますが。基本のポテンシャルも、フェーズ2の個体平均にしては相当高いみたいですし」
 うわ、と露骨に顔をしかめたリベリスタ達に和泉も苦笑しつつ――しかし、その表情を改めて引き締めた。
「件のアーティファクト――現在はE・ゴーレムですが――を精製したフィクサードは、これまでも自分の利益のため、一般人等を幾人も犠牲にしてきた悪名の高いフィクサードのようです。
 今回を機に、彼らの事も少しは解ると良いのですが……」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月31日(木)00:01
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
エリューション『傷んだ灰の血』の討伐

場所:
山中。木々が生い茂っているため若干視界が悪く、長大な武器を振り回すのにも向きません。
時間帯は昼。人の心配をする必要はないです。

敵:
『傷んだ灰の血』
元アーティファクト。とあるフィクサードが何らかの方法によって自律能力を付与、言われたことに従うエリューションに仕立てました。
分類はE・ゴーレム。フェーズは2。数は合計で五体。
所持している能力は『通常攻撃時のダメージをHP上限に対して与える』『通常攻撃時に死毒・失血・獄炎・凍結・感電のいずれかの状態異常を付与する能力』『超柔軟相当の非戦能力(=地形によるペナルティ無効化)』の三つとなります。

その他:
『少女』
アクセサリーをじゃらじゃら付けてる、小さな少女です。無駄に明るく、負の感情を感じさせません。
見た目はこれでも頭はわりかし良い方らしく、『傷んだ灰の血』に対する指示やはぐらかし等にも長けている様子。
状況が悪くなったら逃げます。逃げられる場合。



それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
インヤンマスター
門真 螢衣(BNE001036)
ナイトクリーク
リル・リトル・リトル(BNE001146)
ナイトクリーク
大吟醸 鬼崩(BNE001865)
ソードミラージュ
山田・珍粘(BNE002078)
クリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)
デュランダル
有馬 守羅(BNE002974)
レイザータクト
櫻木・珠姫(BNE003776)


「あ、あはははははは。申し訳ございませんあるじ様失敗しちゃいました」
「解った取りあえず首洗っとけ」


 蒼天に燦々と掲げられる陽は、その加護を木漏れ日として地へと与える。
 青々と茂る木々が光を照り返す様は、見る者の心をどれほどに濯いでくれるだろうとも思えた。
 ――或いは、その光景に、蠢く灰色を見ることがなければ。
「……やあ、奇襲でもしてくるかと思えば、存外律儀ですね。皆様方」
 険しい顔のリベリスタ達に臨む少女は、きょとんとした表情で声を発した。
「相当に勝算がお有りと思えます。そうでなくては面白くない。……正直ビビって来たので逃げて良いですか?」
「巫山戯た事言うんじゃねえよ」
 嫌悪感を僅かにも隠さず、『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)が言葉を吐いた。
 視線の先に在るのは少女ではない。その周囲に蠢くE・ゴーレム……『傷んだ灰の血』たちだ。
 かつて、その元となる存在に。そしてそれを作り出した存在との忌々しい記憶が、それらを見る度に思い起こされる。
 そして、それは彼女一人が思うことではない。
「……」
 『不視刀』大吟醸 鬼崩(BNE001865)の封じられた瞳もまた、唯一点から離れることはなく。
(この奇怪なる者も、彼女の悲痛から産み出されたのでしょうか)
 目には見えずとも、覚えている。
 止まぬ悲鳴の跡と、消えぬ陵辱の跡と、癒えぬ心壊の跡と。
 嘗ては『そちら側』の非道を知っていた鬼崩だからこそ、許せぬものが、認められぬものがある。
「……冗句は飛ばせそうもありませんねえ。相当に殺気立ってらっしゃる。まあ、あるじ様方は外道なのでぐうの音も出ませんが」
「それに従うアンタは、あいつらの何ッスか?」
 胡乱な瞳。それと共に呟く『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)に対し、少女はちらと微笑みを見せながら、
「それについては、其方の術士様の方がご存じと思いますが?」
 『下策士』門真 螢衣(BNE001036)に、ついと言葉を向ける。
 螢衣は若干、困ったような表情を浮かべながらも、「やはり?」と目で問うた。
「ええ。お察しの通り。わたくしは式神でございます。毎度毎度あるじ様方にご助力させて頂いているのですがー……あの方人使い荒くて泣きそうで」
「要するに使い勝手の良い駒、ね」
 嘲るような、高慢な態度。
 『敵』と見定めた対象に対し、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)の舌鋒は何処までも容赦がない。
「全く、こんなおぞましい物を作り出すなど……随分と悪趣味な人間がいたものね」
「いやあ、まったくもって否定できません。こんなの仮に商品として扱うにも幾ら買い手が付く事やら」
「……あの、お持ち帰りはダメですか?」
「「…………」」
 敵同士ながら、螢衣の言葉を聞いて遠い目をした二人の視線の先が微妙に一致していたのは別のこととして。
「……ま、さてもさても上手くいかないものですよ。結果的に役立たずと成らざるを得なかったこの子達の供養、お願いしちゃって良いですか?」
「冗談。出る直前に聞いた話だとこれ陽動らしいじゃない、意味無い気がするけど」
 淡々とした侭の『定めず黙さず』有馬 守羅(BNE002974)の言葉は正しく正鵠である。
 うわあ、と呻き声を出した少女は苦笑しつつも、此方の狙いをずばずばと当てるリベリスタ達に感嘆の意を示していた。
「アークが誇るカレイド・システムは伊達じゃありませんねえ。何時かは崩して見たくもありますが……」
 ――先ずは此方を先としましょうか。
 くす、と笑った少女が手を挙げると同時、一個に寄り集まって居た黒灰色の液体が、ぶよぶよと五つに分裂する。
「精々命を張るとしましょう。お付き合い下さいな、正義の味方様方」

●承
 『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は怒っていた。
 依頼の説明時、ブリーフィングルームに映された未来映像。其処に映っていた少女を見て、「ああ、この子に会う依頼なのか」と思った彼女は嬉々として参加の意を示したのである。
 が――今の彼女の視界に映るのは、少女というよりその周囲のエリューション共が有象無象と。
「……コロス!」
「今この子ら理不尽な怒りを受けた気がしたんですが気のせいでしょうか!?」
 日頃被っている虚実の仮面が無いからか、向ける感情の発露は何処までも苛烈なものである。
 珍粘を含め、七名のリベリスタ達は一挙にエリューションの側へと接近、次々に己が得物を幻想纏いより取り出だす。
「ディフェンサードクトリン……!」
 櫻木・珠姫(BNE003776)が叫ぶと同時、自身の『回路』がリベリスタ全体に接続され、敵の予測に対しての効率的な防護手段を伝達する。
「……レイザータクト。クェーサーの名と共にアークへ伝わった異能の型でございますか」
「こんにちは、アークの新人櫻木珠姫だよ。お嬢ちゃんはどこのどちら様かな?」
「あはは、これはご丁寧に。わたくしは名も無き一介の式神。あるじ様方に受けました恩義と正義への憎しみを元に在る餓鬼でございます……っと!」
 指示を独自のハンドサインで伝えているのだろう。式神少女の指が規則的に蠢き、腕がきゅんと一閃されれば、エリューション達は放射状に展開、その目標をバラけさせる。
「!!」
 或いは、一個に集まっての集中攻撃を予想してたリベリスタ達にとって、彼女のこの行動には若干の虚を突かれてしまう。
 拍を置き、我を取り戻したリベリスタの内、当初からブロックを念頭に置いていたリル、珍粘、守羅の三人がその進行を抑えに走るものの、
「おっと、一人程度はカバーさせて貰いましょう」
「っ! 邪魔……!」
 内一人、この中では比較的身長が低かった守羅のブロックに少女が回ることで、彼女の行動も制限されることとなる。
 大太刀が閃を為し、鎌鼬の刃を虚空に出すが――先にもフォーチュナが言っていたとおり、『長大な武器を振るうには難しい』戦場に於いて、その精度、威力は幾らか木々にそぎ落とされる結果となっている。
 庇う異形に当てたそれも、僅かに身を裂く程度にしか至っていない。舌を打ったところで今更の話。
「……てっきり『弱い者いじめ』が好きなものかと思っていたけど」
「ご冗談を。大体わたくしは皆様ほどこの子を優秀には思えないのでございます。
 範囲に広がり、個体毎に皆さんから受ける手数を減らし、あわよくば一人二人後曳く怪我でも残せれば万々歳、と言いますか」
 ミュゼーヌの問いにも唯笑うだけの少女。それしかしないのか、それしか出来ないのか。
「ああ、皆様が情けを望むのでしたら、わたくしはそれに従いますが――」
「舐めんな」
 剣呑な気配を隠しもせずに、瀬恋がブロックしている対象に大蛇の尾を解き放つ。
 ぶちちちち、と嫌な音を出して、半固体の体積が千切れていく。
「手前も高みの見物、なんて虫のいい事考えてんじゃねぇよ。とっとと降りてこい!」
「宜しいのですか? わたくしに撃てばあっさり消滅しますが。情報、欲しくないですか?」
「っ……」
 逡巡した彼女の身体に覆い被さるように、『灰の血』が反撃する。
 双腕に絡み付く液体。振り解くより早く手甲の内側に進入したそれらは、一瞬で彼女の腕を血の塊に変じた。
「ち……、ネーサン!」
「解ってる! ちょっとだけ我慢してね!」
 使い物にならなくなった右腕に、珠姫が放つ短矢が突き刺さる事で、夥しい出血も幾らか収まった。
 強張る身体と、歪む表情と。『同士打ち』を誘うエリューションの……否、使い手の思惑に、否応なく嫌悪感が抱かれる。
「一時一時の攻防に安堵なされては此方もたまったものではありません。そうですね……今展開した子たちの対処に回らないのなら、人里に下ろして虐殺でもさせましょうか?」
「……!!」
 怨嗟の瞳でも向けよう彼らに対しても、少女は変わらない。笑うまま、笑うままに。
 前衛陣の何名かが転身、離れた『灰の血』達のブロックに回る事でその進行は止まる。同時に、それはダメージの散逸化も意味するのだが。
「……目には目を。毒には毒ッスね」 
 言ったリルが、その身を二つに別ち、それぞれが別々の位置へ多角攻撃を放つ。
 碌な意志を持たぬ個体とて、眼前の相手への力に本能的な恐怖はあったのか。正しく『圧倒』される個体を、リル同様にブロックしていた珍粘の個体ごと、リルを真似るかのような分裂する刃が千々に切り裂く。
「……流石に、アークの中でも取り立てて名高い方々は違いますねえ」
「感想を述べる隙はあげませんよ。ほら、あなたの後ろは大丈夫ですか?」
「!!」
 振り向いた少女の視界には、幾千幾万と言わんばかりの気糸を、僅か十の指で其々に操る鬼崩の姿があった。
 白糸の空が堕ちてくる。刹那、忘我に陥った少女を庇う『灰の血』が、毛玉のように変じてその場へと転がった。
「……司令塔を潰して戦局を終わらせようとでも?」
「……」
 鬼崩は首を振り、小さな繊手を少女へ伸ばす。
 此方に来て、と。物言わぬ唇がしかし、意図を伴って聞こえたように思えて。
 それを、少女は。
「……はっ、あ、あははははははははは!!!」
 嘲り、拒んだ。
「身体が餓鬼だからですか。外道な主に嬲られてるからですか。それとも、式神と知る前のわたくしを何らかの被害者と思い、同情を抱き続けてきたが故ですか?」
「……」
「……ああ、畜生」

「だからわたくしは、あなた方が嫌いです。リベリスタ」

 自身を庇う相手が消えたために、少女は即座にリベリスタ達から距離を取った。
「待っ……」
「追う暇はありません、先ずはこの状況を!」
 少女を捉えんとして居たリベリスタの何名かを螢衣が制しながら、手挟んだ符を瀬恋にあてて癒術を施す。
 が――
「櫻木さん、解除をお願い!」
「待ってください、先に珍……那由他さんの方を――!」
 守羅の声に返す珠姫は、荒ぐ息を必死に抑えながら他に状態異常を受けた仲間達のフォローに回るが、其処にも限界が生じ始めていた。
 実際、彼らの誤算と言えば其処にある。
 敵である『灰の血』達が一斉に集まり、一対象に対しての集中攻撃を行うと思いこんでいたが故の状況。展開したエリューションにより、個々が受ける状態異常の対処を珠姫一人に任せていたリベリスタ達は、のし掛かる状態異常の数に加速度的に体力を削られていた。
 元より個体能力の高さを指摘されていたエリューションである。状態異常の解除に余裕を費やされ、ドクトリンによる全体付与を掛ける暇も与えられない珠姫の集中力の消費は他を明らかに超える。
 戦況が続く。運命を消費したリベリスタも徐々に現れてきた状況で、遂に一体の『灰の血』が蠢きを止め、どろりと只の液体になって崩れていく。
「……っ、終わった! リル、そっちはどうだ!?」
「あとちょっとッス……!」
 途中から切り替えたメルティーキスによって、リルの消耗はさほどではない。最も、あくまで他に比べれば、の話ではあるが。
 身が落ち、崩れかけた半固体とリルを見た瀬恋が、次に視線を移した先には――
「守……」
 傾ぎ、頽れた守羅の姿。
 彼女だけではない。直ぐ近くの戦場、リルの傍で『灰の血』と戦闘していた珍粘も瀕死の状態で身を横たえており、拘束を専従とする鬼崩、そして瀬恋自身も、フェイトを消費して尚体力は倒れるか否か、ギリギリのラインをどうにか維持していた状態だ。
 傷ついた上で、『解除』を受けた者の回復に走り続ける螢衣と、珠姫。それらを除いてはほぼ全員が一対一を強いられている。
 フェイトを使用し、各々の回復手段か、或いは手番を捨てての防御に回り――それでも、ジリ貧となった趨勢は何処に向かうかが見えている。
 撤退を、と。誰かが声に出すより前に。
「……さて、まあ此処らが潮時でしょう」
 戦場の最中、それを一定の距離から監視してた少女が漫然とした口調で言うと、『灰の血』達はぴたりと活動を止めた。


「……どういうつもりですか?」
「取引でございます。あなた方がこのまま退くならば、残る一体を除いてこの子らを処分し、一般人の虐殺も止めると約束しましょう」
「貴方のメリットは?」
「主にわたくしが安心します」
 螢衣を始め、胡乱な視線を向けるリベリスタ達に対し、少女……式神は苦笑しながらも、真面目に言葉を返した。
「本心でございますよ。わたくしはリベリスタ……特に組織に属するリベリスタなんてものは諸事情あって大嫌いでありますが、その嫌がらせに罪もない人の命を奪う気はないのでございます。
 この子達の廃棄は最早決定事項。ですがまあ、わたくしのあるじ様方は若干意地の悪い性格をしておりますので、下手をしたら街中に放り込んでしまうかも知れません。それはわたくしとしても避けたく思いまして」
「都合が良い……」
「あっはは。いや、全く否定できません。あなた方にそれが言える余力があるなら、の話でございますが」
 見た目相応の幼げな笑みを浮かべながら、しかし嘲弄するかのような言葉に、誰かが小さく舌打ちを漏らした。
「じゃ、結論を聞きましょうか。……言っておきますけど同士打ち始めた瞬間に反故、なんてさせませんよ? 此方も此方で切れる手札は色々と持ってますので」
 身につけたアクセサリーの一部を持ち上げながら、少女はくすりと笑みを浮かべた。

 ――結果として。
 リベリスタ達が去ってからおよそ数十分が経過した後、少女は生き残った内一体を処分し、主人に連絡を入れることとなる。
「あ。えーとあるじ様でございますか? ちょ、ちょっと申し上げにくいのですがー……」

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
田辺です。相談お疲れ様でした。
失敗理由としましては、「『少女』は勝利より足止めを優先していた」という部分が主となります。
ともあれ。次回以降も、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難うございました。