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オートシステマ

●殺人鬼の思考
 人間の行動には何かしらの動機が必要である。
 空腹であるから食事をし、言い聞かせるために暴力を奮う。ありとあらゆる行動には理由が伴う。理由がないのは異常だ。だから、理由がわからなければそれを探さなければならない。生きることと同じように。そう、生きることと同じことだ。どうして生きているのか探している。それを探して探してそうすることで生きている。だから、私のこれも生きていることと同じなのだ。
 初めて人を殺した時、どうして殺したのか理解できなかった。だからもうひとり殺した。理由を知らなければならないからだ。それでも分からなかったので、もうひとり殺した。それでも理解できなかったので、何人も何人も何人も何人も殺して回った。殺し続けた。何度も。何度も。
 今を持って未だ理解できない私の殺人理由。殺人動機。それを探さなければならない。見つけなければならない。殺そう。殺して廻ろう。私は正常だ。普通だ。一般だ。私は異常じゃない。その証明のために殺さなければならない。その為になら何十何百何千何万何億だって殺して廻らなければならない。
 さあ、私を理解しよう。私を証明しよう。私は、狂ってなんかいない。

 それを、見つめていた。
 一般的な大型車両を模してはいるものの、よくよく観察すれば大層な装甲が目について仕方がない。確かに、トラックなどと存在目的は同じなのだろう。ただ、運ぶものが違うだけだ。
 運ぶもの。人間。大犯罪者。つまりは、殺人鬼。あれは、人間を殺した鬼を運ぶためのものだ。羨ましい。ため息が出る。あんな機械でさえ自分の理由を遺憾なく発見できるというのに。私としたら。
 異常。その言葉が脳裏をよぎり、頭を振った。違う。私は異常じゃない。狂ってなんかいない。それを証明したい。しなければならない。だからあれを襲おう。中には周囲には護衛も居るだろう。構わない。殺せばいい。あの中に問いたいのだ。きっと、私と同じだろうから。
 ナイフを手に、走る。それじゃあ、殺人鬼の夜を始めよう。

●預言者の長考
「収容されたフィクサードを運ぶ護送車を守って欲しいの」
 任務だと、集められたリベリスタ。まずは大前提としての行動要求を、予言の少女は口にした。フィクサード。その行動は多岐に渡るが、得てして目立つものは犯罪行為である。それらを打倒するのもリベリスタの仕事であるが、倒してそれでオシマイというわけにもいかない。
 悪いことをすれば、殺してしまえばいい。そんな短絡的なものではないのだ。勧善懲悪をしていいほど偉いものではない。無論、戦いだ。殺して殺されて、そういうこともあるだろう。だが、皆殺しとはわけが違う。
 よって、中には収容されたフィクサードも多数存在しているのだ。その内のひとりを、別の収容所へ移動するのだという。それが襲撃される予知も観察できたのだと。
「相手は殺人鬼かつ少女であるという理由から、不明瞭だけど以前よりあった一連事件の関係者だと予想されたわ」
 殺人鬼で、少女。少女だから、殺人鬼。プランBより始まった理解不能の連続殺人鬼。吐き気も催す少女達。報告は聴いている。実際に関わった者も、そうでない者も、その危険性に意識を強固とした。
「つけられた名称はMナイン。気をつけて、強力であることに間違いはないわ。きっと、生きて帰ってきて」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月27日(日)00:10
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

Mナインと名付けられた殺人鬼から、護送車を護衛してください。
公正の済んでいない、あるいはその余地のないフィクサードが再び世に放たれることは非常に危険です。彼女を打倒し、その行為を食い止めてください。

※エネミーデータ
●Mナイン
 哲学未明。殺す理由を知るために殺している殺人鬼。
・EX低温
 血液を氷結レベルで低温化させます。ナイフでの攻撃と合わせて使用し、多大なダメージと共に対象の行動を大きく制限します。
 物近単・物防無・氷像・鈍化
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
老神・綾香(BNE000022)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
覇界闘士
五十鈴・清美(BNE003605)
プロアデプト
尾宇江・ユナ(BNE003660)
スターサジタリー
大石・よもぎ(BNE003730)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)

●殺人鬼の到来
 五感の内よっつを封じられた私にとって、できることとすれば思考しかなかったわけで。しかしこの環境が苦痛であるかと問われれば否である。むしろ快適と言ってもいい。こうしていることで、擬似的ながらも孤独を感じることができるからだ。どうせなら、この神経も抜き去ってしまえばよかったものを。

 揺れる車内。沈黙。駆動音。五月蝿い静寂とは言い難い。殺人鬼の隣。殺人鬼の待ちぼうけ。鬼ごっこ。かくれんぼではなく。遠く。近く。神経を研ぎ澄ませながら。彼らは来るべき時を待っていた。ごうごう。ごうごう。彼らを乗せて、殺人鬼の檻が行く。
 自分は正常であると思う一心で、殺人を殺人を繰り返す少女。それを、悲しいものだと『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)は思う。予言された少女の凶暴性から考えるに、こちらの事情を理解してくれるわけではないだろう。飽くまで殺人鬼。その静止は、実力行使によってしか為されない。収容し、護送するこれを。この殺人鬼を。野放しにするわけにはいかないのだ。何としても此処で。これによって。狩らせて貰おうか。
『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)には、それがよくわかる。自分の身近にもひとり、居るのだ。ただなんとなく。それだけで行動できる人間というやつは、存外に少ない。だが、そうであったとしても、奥底には何かしらの動機があるものだ。殺人鬼。殺して。廻して。きっと、手段と目的が入れ替わっている。手段の為に目的を選ばないでいる。哲学未明。殺し続けることことそが。一笑に付す。例え異であろうと。
 護送車の隣を並走する『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は、常に警戒を怠らない。ひとつの作戦に則し、移動を続けるこれであるが。目標の場所までは襲ってこないなどというのは楽観に過ぎると言えるだろう。理由が分からず、それを探すために殺し続けている。そんな殺人鬼だ。こちらにわざわざ合わせてくれるはずもない。だから、神経を研ぎ澄ませている。在るべき日常を、守るために。殺人鬼から侵されぬように。
 檻の向こう、リベリスタとフィクサードの境界線。殺人鬼と自分達の境目。その向こう側に居るそれへと、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は目を向けた。
「殺人鬼が貴方を狙って殺しに来ます……もしもの時は、戦闘を覚悟しておいてください」
 返事はない。期待していたわけでもない。当然だ。それは拘束されているのだから。目も、耳も、口も塞がれて、全身を拘束された少女。殺人鬼の少女。
 まったくもって。『委員長』五十鈴・清美(BNE003605)はそれだけを感想とした。狂人の行動は、思考は理解しかねる。否、狂人であるとは認めていないのだったか。いや、いい。どちらにせよ、どうでもいい。理解する必要はない。自分達とは違うものだ。自分とは異なるものだ。理解をと歩み寄っても無駄なのだろう。時間の徒労なのだろう。なれば、ただただ倒して仕事を終わらせてしまおう。同じ人間だと思えば、疲れるだけだ。
「自称狂ってないフィクサードって……とんでもないサイコ女じゃないですか。勘弁して下さいよ……」
 殺す。殺す。何度でも殺す。殺す理由が分かるまで殺す。そういうものなのだから、『進ぬ!電波少女』尾宇江・ユナ(BNE003660)の辟易も当然と言えよう。
「私は嫌ですよ~? 『うっかり戦闘に巻き込まれて』更生をする予定のフィクサードまで死んでしまうなんて結末は」
 反応はない。聞こえていないのだろう。唇を釣り上げてみせた。
 自分は正常である。少なくとも正常であると思い込んでいる。その為に殺す。殺している。殺して廻っている。自分を理解するまで他人を殺して殺して殺している。自分が異常だと思いたくなくて、考えたくもなくて、狂いそうで。誰から見ても狂っていて。強迫観念で殺人を繰り返している。それを、許せないと『リベリスタの卵』大石・よもぎ(BNE003730)は感じた。当然だ、目的にはしかるべき通路がある。踏み外してよいものではないのだから。
 プランBから始まって、もう何人目になるのだろう。少女だから殺人鬼なのだという不明の繋がり。その根幹とは如何なものかと、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は思案する。答えは出ない。出てはいけないのだろう。理解できてしまっては、踏み外すことと同じなのだろう。いずれにせよ。殺させてなどやるものか。
「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう―――全ては己が証明を得るために」
 もう誰も、殺させやしない。

●殺人鬼の来来
 移動していることは、朧気ながら理解している。よっつの感覚を奪い去られたからといって、逆接。それだけだ。つまるところ触覚は機能している。それだけで自分の居る状況、場所はある程度憶測できた。できるようになってしまっていた。困ったものだ。見るのも嫌なのだから、同じ空気に居るだけで嫌悪感が先立つというのに。
 
 車両はそこで停車する。人気のない場所だ。ここなら不幸にも誰か、一般人が巻き込まれることもないだろう。逆に言えば、自分達にも退却する選択肢は絞られてくることにもなるのだが。
 外へ出て構えるものと、中で耳を欹てるものと。ふたつにわかれた。見回して、見回して。静けさの中に神経を澄ませた。緊張が、時間とともに増していく。
 とん。とん。とん。どこから鳴っているのか、規則的な軽快音。と。
 すとん、と。それはそこに降り立っていた。風貌は少女。容貌は殺人鬼。こいつだ。誰もがその直感を確信に変えると同時。世界が殺し合いの色に変貌した。

●殺人鬼の未来
 そういえば、最近は十数であれば吐き気も薄くなってきた。慣れていっているのだろうか。思考しかけて、取りやめることにする。首は振らない。動かせないからだ。どちらにせよ、同じ事だ。殺してしまえば、ブリキのように横たわれば。同じ物にすぎないのだから。

 とん。
 自分の胸に突き刺さったナイフに、よもぎはどこか遠い風景でも眺めるようなそれを向けていた。ぽっかりと、空想の失落みたいな喪失感。目の前のことが、どこか嘘のように思えてならない。
 引き抜かれる白刃。痛みを感じる前に、肉体の氷化が始まった。凍りつく。凍りついていく。叫び声をあげる喉すら冷たくて。静かに。静かに。
 戦闘開始。その直後。車両の内外に別れて配置したリベリスタ。であれば、必然。外界へと足を向けるまでの数秒間。彼らは仲間の足りぬまま殺人鬼を抑えねばならない。それには不十分であった。
 寒さに歯の根が鳴る。それも構わず、呂律も回らぬまま悪態をついた。
「あなたは正常には程遠い存在です。そして殺人犯の中でも特に異質です。殺人動機を探すために殺害を繰り返すなんて普通では考えられません。断言しましょう、あなたは間違いなく異常です。それも特にタチの悪い部類ですね」
 二度目の刺突。今になって、ようやっと仲間の現れた頃だった。

 よもぎが倒れてすぐに、車両から飛び出した彩花が距離を詰めた。接敵。ゼロ距離。白兵の位置。振りかざされるナイフ。その殺人を、手甲で逸らし難を逃れた。金属音が降り注ぐ。誰それには聞きなれず、しかし彼女らには馴染み深い。戦闘の音。左でナイフをいなし、右の鋭刃が牙を向いた。切り裂け。切り裂いて。
 飛び散る血脈。だが、殺人鬼は止まらない。ナイフを持たぬ手を突き出した。素手。疑問符が頭に。と、血。理解する。突き出された掌に合わせるよう、拳を叩きこむ。割れるような音。だが、先ほどのような金属質のそれではない。水たまりに張った氷が割れたような。それ。低温の異能と、凍気を纏った覚悟はぶつかり合い。そこでセ氏マイナスの翼を広げていた。
 氷結現象どうしの結合。自身諸共の捨て身。封じた隙間を狙い、仲間が攻撃を仕掛けている。それでいてなお、ナイフと体術を持って相対する姿には感服する。
 常温へ。警戒からか、半歩下がる殺人鬼。さて、次はどう来るか。

 少女。殺人鬼。驚異的なフィクサード。とは言え、戦闘人員としてひとりであることは変わりがない。そうである以上、ユナとしては一斉に攻撃を仕掛けたいところではあったのだが。如何せん、そもそもの配置からして距離がある以上、開始時間にも僅かながら差が生じている。
 だが、それを気にかけていても仕方がない。とっくに、戦いは始まっているのだから。
「理解だか証明だか知りませんが、熱い血潮をたぎらす時はTPOってモンを考えて下さいよ。こっちはいい迷惑です」
「殺人は、いつでもどこでも行われるものよ」
 その解答は、奇妙なほどに近く聴こえた。気づけば、目前に少女。逃げなければ。そう思考して。脳からの命令を肉が受け取る前に、その身体には刺し傷が生まれていた。
 吹き出したそれを、止血するかのように片手が添えられる。確かに、止まったのだろう。氷点下のそれを持って。失われていく全身の感触。恐怖まで、凍りついたかのようで。

 疾風の生み出した風の刃が、殺人鬼に飛来する。斬撃音。視線。意識がこちらに向いたのだろう。一足飛びに詰まる距離から繰り出されるナイフの刺突。咄嗟に行ったスウェーバック。鼻先に触れるか触れないかの先端距離。急いで体勢を立て直し、次に備えた。この汗は、戦いの熱量によるものか。それとも死を感じる冷や汗に近いものなのか。
 明確な殺意を持って差し出されるそれへと、避けることに己を専念させた。けして、受けてはならない。傷口全てがこの少女にとってはウィークポイント。急所に等しい。能力の発動条件がわかっている以上、何が何でもそれを満たさせるわけにはいかなかった。
 少女に、仲間の攻撃が命中する。たたらを踏む一瞬。そこに畳み掛けた。意識がそちらへ移った隙を狙い、見えない位置から強襲する。下段から打ち上げられた得物。迸る雷鳴。その気配に気づいたのだろう。視線を向けた頃にはもう遅く、疾風は渾身の一撃を打ち上げていた。

 人を殺した理由がわからないから、人を殺している。生きている理由を探すために生きているみたいに、殺している。殺している。それは、常人には理解できないものだ。理解できてはならないものだ。殺人を許容する心象風景。絶対基軸であろうそれを前提とすらしない精神構造。綾香はその心に手を伸ばし、触れて、嗚呼、結果行動から思考するにまずは一般的な概念から照らし合わせればつまるところ怨恨強奪欲求であると分類されるものの私が彼ら彼女らに恨みを抱くわけでもなくさして金銭を頂いたわけでもなく殺していて性的興奮及び楽感情を抱いたわけでもない即ちこれらのどれにも当てはまらないわけで理由は未だ明確ではないが同時に安心しているそれらは異常だ異常である理由があってなお異常でるのだなれば私の理由はきっと正常の最中にあるのだろうそうに違いない私は正常だ異常じゃない異常じゃない異常じゃない。
 思わず、口元を抑えていた。こみ上げる、吐き気を。

 レイチェルの放った光の奔流が、殺人鬼の全身を焼いた。強烈な明滅。そちらへと意識は向けるものの、脳内は霞がかり、少女を放心させた。交わされる視線。その眼球を、死糸が辿る。瞳を焼かれた痛みに顔をしかめ、くの字に折るも。どうやら失明とまではいかなかったようだ。だが、問題ない。こうして出来上がった隙間を、仲間がきっちりと埋めてくれている。
 自分の技は熟知していた。復讐を警戒し、糸の届く限界までもう一度距離を取る。十分な間合い。それでも、殺人鬼。気を抜けば、目前に立っていることだろう。
「理由なく人を『殺せる』時点で、貴女はもうダメじゃないかな?」
 言葉が届くとは思っていない。どの道、きっと。彼女も自分とは違ういきものだ。理由なく殺せること。殺人鬼としては正しくて、ヒトとしては明らかに異常な。だが、何か。何かが頭に引っかかる。理由がない。理由がない。理由がわからない。何故。何故これには理由がないのだろう。少女は?

「相手が防御を抜いてくる以上、攻勢に出ます―――共有開始」
 攻撃主体。防御支援。ミリィによる戦闘活動の円滑化。レイザータクトの本領と言えよう。言語による意思疎通を不要とした駆動系統の改善は、共有の間、人の潜在を一時的に引き上げてくれる。
 それでも、殺人鬼は強力だ。こちらの個々スペックを遥かに上回るであろう身体能力。それでいて、僅かな傷すら弱点化させてくるその能力は非常に厄介なものだった。その一撃は重い。よしんば、耐え切ったとして。その後には血脈の氷化という追加能力が待っている。
 意識を研ぎ澄ませ、発生させた真空の刃が殺人鬼を引き裂いた。効いている、はずだ。見た目にも確かにダメージを与えている。だが、戦況を管理する立ち位置に居る彼女だからこそ、見えていた。見えてしまっていた。今、自分達はけして有利な立場には居ない。消耗は激しい。何かきっかけがあれば、崩れてしまうだろう。だがそれは、向こう側にも言えることだった。

「人を殺す理由が欲しいのならあげますよ。それは私達に倒されるためです、簡単でしょう? 理解したならとっととやられてください」
「論理的とは言えないわ。それじゃあ、正常ではないのよ」
 清美の言う辛辣にも、少女は眉ひとつ動かさない。論理的、論理的と言ったか。ロジカルもリリカルも突き抜けて、フィジカルに人を殺すだけの鬼が。
 ナイフの刺突。ここに付随する極低温の暴力が、明確な殺意を持って襲い来る。掲げる手甲。刃の腹を撫で、一撃を返す算段でいた。のだが。
 さくり。驚くほど軽快な音。鎖骨の隙間。突き立っている。突き立っている。動けない。自分の肉から抜けていく刃。意識だけが率先して。添えられる手、指。動けない。身体中全部を氷にすげ替えられたかのような。感じることのない鈍痛と麻痺。急速に冷めていく。退きたくても身体が鈍い。振り上げられる凶器。その動作が、遅く、遅く、遅く感じられて。叫び声もあげないまま、清美の意識は深闇に沈んでいった。

●殺人鬼の再来
 嗚呼、何もかも無味無臭であればいいものを。何もかもブリキのようにぜんまい仕掛けであればいいものを。そうだ。その通りだ。だから殺そう。やっぱり、殺そう。何もかも殺して、根絶やしにしてしまおう。今まで、ありがとうございませんでした。

 苦渋の顔で、倒れた仲間を担ぎあげた。これ以上は戦えない。戦っても、全員死ぬだけだ。戦局はもう、そちら側に転がってしまっていた。殺人鬼も、それがわかっているのだろう。こちらに戦意がないのを見てとるや、護送車へと歩を進めている。殺してこない殺人鬼。それも、違和感の残るものではあったが。
 運転員。そうだ、彼も。目を向けたが、既に運転席はもぬけの殻だ。危機感を感じて逃げたのだろう。責めはすまい。生命を守るには正しい判断だ。
 立てるもので仲間を背負い、頷き合う。走り始めよう。あれが中に気を取られている隙に。溢しかけた何かを、必死で堪えた。悔しさを口にするのは後だ。生き残ることを優先しなければ。
 解錠音。走りながら思わず振り向いた。中から出てくるそれ。もう、距離があって顔はよくわからない。ただ、どうしてか。それの呟きが。解放されての第一声だけが。はっきりと、聴こえた気がしたのだ。
 二葉亭四迷。
 了。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
何のために生きていて、何のために死ぬんだろう。