●バランス感覚の男 「千堂さん、準備出来ました」 風が通らない穴倉。 都会の地面の下に縦横に伸びる迷宮の一角で男――千堂遼一は一つの報告を受けていた。 「あー、お疲れさん。これで後は待つだけかい?」 「はい。まぁ……待つって言っても……実際どうかは分かりませんけど」 「どうかって?」 ごうごうと遠くから轟音が近付いてくる。 声の聞き取り難い条件に負けじと部下の男は声を張り上げた。 「ですから! 待ち人が、本当に来るかの話ですよ!」 言葉を発すると同時に彼は壁際に自らの体を押し付けた。見ればとっくの昔に千堂はそうしている。 ――ごうごう、ごうごうごう。 「あっぶねぇなぁ」 目の前、ほんの僅か前を通り過ぎるのは巨大な質量の塊だ。 線路の上を電車が走るのは当然である。そんな所に居るのが悪いのも、勿論だが。 「来るよ、多分」 通り過ぎた電車を見送りながら千堂はそんな風に言った。 「世の中、バランスが大切だよ。よくよく聞けば分かるじゃないか。『相模の蝮』が借り出され、千堂遼一がここに居る。子供が悪戯してるんじゃないんだ。凄い悪者が何かすれば凄い善玉がどうにかするもんさ。そうでない場合もあるけど、そんな事だって数多い」 「はぁ……」 いまいち要領を得ない千堂の説明に部下は生返事を返す。 「分からないかなぁ」 千堂は肩を竦めた。分かってくれなくてもいいと言わんばかりだが、それでも少し得意気にもう少しだけ言葉を付け足した。 「世の中バランスが大切だ。一流の役者には相応しい相手が要る。舞台が要る。 第一、その為にわざわざ爆弾を仕掛けたんだから、きっと大丈夫だってばさ」 ●地下鉄爆破計画 「そういう訳で仕事」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)の言葉にリベリスタは頷いた。 慌しい本部の様子を見れば今の状況がどうなっているかは明白だ。 「フィクサードの連中も良くやるぜ」 「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」 イヴはリベリスタの言葉に難しい顔をしてそう言った。 少し悪い歯切れは同時多発的に起きた事件を憂いてのものか、それともそれより先――その背後を見越してのものか。一目で読み取る事は出来なかったけれど。 「この事件の主犯は千堂遼一っていうフィクサード。彼は地下鉄の線路に爆弾を仕掛けて大事故を引き起こそうとしてる」 「……おいおい……」 傍迷惑なのはフィクサードの常だが、やる事がいよいよ派手である。 「彼の好きな言葉はバランス。調和の取れない事が大嫌いみたい」 「……何の関係が?」 「今回の事件の規模に被害の規模が釣り合わないのが嫌なんだと思う。だから少しでも被害を増やそうとしてる、かな。後、自分が何かするのに地味だとバランスが悪い、とか」 「おいおいおい……」 病的な強迫観念は結構だが、そういうバランスの取り方は有り難くない。 「千堂は線路上に爆弾を仕掛けてる。これは時限式だけど、彼の持ってるコントローラーでも爆発させる事が出来る。爆発が起きたら大変な事になるかも知れない」 「防げるのか? それ」 「防げる」 悪条件に苦笑するリベリスタにイヴは自信を持って言い切った。 「千堂はバランス感覚の無い行為が嫌い。悪の美学……というと違うけど、負けたのに目的を果たすなんていうのもバランスが悪いから大嫌い。つまり、彼等を相手に皆が有利に戦いを進めたら千堂は爆破のボタンを押さないと思う」 「成る程なぁ」 確かにバランスが取れている。良くも悪くもバランス主義の男である。 「千堂の部下は六人。男が三人、女が三人。前衛が三人、後衛が三人。 細かい情報は分からないけど、千堂は見た事無い技を使うみたい。強敵だよ」 イヴの言葉にリベリスタは頷いた。 何れにせよ、見逃す訳にはいかない行動である。 表情を引き締めたリベリスタにイヴは真っ直ぐな視線を向ける。 「頑張ってね。あと、気をつけて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月28日(土)01:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●メトロポリスのもぐら穴 ヘッドライトの照らし出した先には複数の人影。 その男――フィクサード・千堂遼一は悪党に似合わない屈託の無い笑顔で言った。 「ほら、やっぱり来たじゃないか」 過ぎたるは及ばざるが如し、という言葉がある―― 何事にも程度は大切で、たとえ適量ならば良い事でも傾き過ぎれば足りないのと同じ事という意味である。 果たして先人の知恵というものは侮り難い。唯普通に生活しているだけでも、仕事をしているだけでもそれを実感するに事欠く事実は無いだろう。 多種多様なる人の業が複雑に絡み合った現代社会というモノは知恵の輪のようである。偏りは一概に良いとは呼べないのかも知れない。 「正直、暗くてせまーい地下なんて好きじゃないんだけどね。 言ってみるけど、今すぐ爆弾を解除して立ち去ってみない?」 普段から人を食ったような顔をしてあれやこれやと嘯きたがる『七色蝙蝠』霧野 楓理(BNE001827)の言葉である。 「地下鉄爆破とはまた大層なことをしようとしてるのです。貴方達の待ち人とはあたし達のことですね」 愛らしい表情を引き締めて『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が言った。 「この地下鉄ばっちり守ってやるのです」 楓理、そあらの言う通り、目の前の男は危険なフィクサードである。 少なくともアークの――カレイド・システムの感知したこの男の計画は到底見逃せるレベルの『悪戯』では無かった。フィクサードの引き起こす事件の中でも危険度は特筆するべき点がある。 ましてやそうする理由が勝手な美学による所の『バランス感覚』と来れば困ったものだ。彼等は経験から知っていた。自身の為に必要な全てを侵せるのが『一流の』フィクサード。 (どの能力もバランス良く――強いのでしょうし) 冷静にこの場を考える『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の読みは的確。 「爆弾テロとは頂けない行動、……バイイノニナ」 『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)がぽつぽつと毒を吐く。 「それで被害を受ける何も知らない人たちが一番バランス悪いじゃないですか」 フィンランド語で続いた言葉を果たして敵は解したか。 「どうせ爆発させるならば、もっと良い物を爆発させろというのだ。 そう、例えば――己が内に燃え上がる止め処ない情熱などを!」 少しズレた憤慨をするのは『頑張れ!韋駄門天』上杉・毘沙門(BNE002282)、 「人の命を道具みたいに扱う奴らは許せねえ! 絶対に爆破を止めてやる!」 一方で至極分かり易い形で正義感を爆発させたのは『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)だった。 対決の舞台となる場の空気は少しずつ熱を帯び、その運命を加速していく―― 「うん、いいね。そういう感じ」 目を細める千堂はパチパチと拍手をしながらそう言った。 まるで旧知の友人を出迎えるようにした男の雰囲気はやろうとしている事の程度を考えれば酷く普通で力の抜けた感じにさえ見えた。 『バランス感覚の男』が人好きのする笑顔を崩さないのはその方が『バランスが良いから』なのだろうか? 「予感は当たる方なんだよね。今日は厄介な事になりそう……かな」 敵意を友好的に受ける千堂が嬉しそうな理由は、呟いた『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)にも、急行した十二人のリベリスタ達にも完全には分からないが…… 「アンタが何を考えていようと、アタシには関係無いし、興味も無いわ」 続いた『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の声はにべも無く。 「……バランス感覚も程々に……変なこだわりを持たないほうが良さそうな気がします」 『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)の呆れ混じりの一言は一同の代弁となった。リベリスタ達ばかりではない。「そう?」と首を傾げる千堂の背後に立つ――男女三人ずつ、前後衛三人ずつバランスの良い――彼の部下達も含めての話である。 「バランスは大事じゃが――黒幕の魂胆含めると傾き過ぎなのじゃ。此方は陽動と承知の上で動かねばならぬ」 人の悪い笑みを浮かべた『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)の言葉に千堂はもう一度肩を竦める。 「で、爆弾(そいつ)はどれくらいで爆発する予定なのさ。ずっとこのままいるのは俺らもアンタ達も都合悪いでしょ?」 「よっしゃ千堂! バランス勝負や! ……ってかその前に、爆弾の制限時間教えてんか? そっちだけ知っとるとか、バランス悪いんちゃうかな、うん」 楓理、『武術系白虎的厨師』関 喜琳(BNE000619)の問い、特に喜琳の言葉の後半に納得したように頷いた千堂はポン、と手を打った。 「そりゃそうだ。礼を言うよ、お嬢さん。 考えてみたら気持ち悪くて仕方ない。その要求は非常に正しいよ、言わないなんて――そんなの絶対有り得ない」 おこりのように体を震わせ「そんなの絶対有り得ない」ともう一度口の中で呟いた千堂は一瞬前まで朗らかに見えた彼からすれば似合わない、何処か病的な強迫観念めいた妄執に囚われているようにも見えた。 手元の腕時計にそっと視線を落とした千堂は何事も無かったかのように我を取り戻し、にっこりと笑顔を浮かべて見せた。 「時間はね、今から……七分と三十五、三十四秒後。 名残惜しいけど、敵同士が長く談笑を続けるのもバランスが良くないから。そろそろ――始めようか?」 ●ハイ・バランサー かくて戦いは始まっていた。 「生憎ながら小生、バランスと言う物とは対極でな! 速! のみだ!」 挑発めいた毘沙門の一声が凛と響く。 「行くぞ、一気に押し上げるっ!」 「まずは敵の陣形に穴を開けます――!」 速力に勝る毘沙門が、静が、舞姫が事前の打ち合わせ通りに敵の懐に飛び込んでいた。 前でリベリスタ達を受け止めるフィクサードは三人。中程に立つ千堂は余裕の構えを崩さずまだ動かない。 「征くぞ、諸君!」 声は仲間を向いたものか、敵を向いたものか。 毘沙門は手にした短槍をくるりと回し、素早く敵陣に斬り込んだ。 軽やかに、華麗に。ステップはまさにダンスのよう。近接する敵前衛達はその動きに防御の形を強いられる。 「ぶっ飛ばしてやる!」 普段の静からすれば吐き出した気は勇ましく猛々しい。 同じフェイトを得た身でありながら――わざとらしい悪徳に身を浸し、愉しみの為に人の命を奪う。 『そういう』フィクサードの在り方が純粋な彼には許せない。 手に嵌めたブレードナックルの刃先が揺れるライトに煌いた。強かに放たれた一撃は闘気の威力を乗せ、防御の姿勢を取った敵前衛を怯ませる。 「これで、どうだ!」 威力は強か。少年の双眸が敵をきっと睨み付ける。 (仲間が攻撃を叩き込むチャンス位は――作ってみせます!) 高い士気で戦いに挑むのは静だけではない。 「ほう!」 千堂が小さく感嘆の声を漏らした。 線路による足場の悪さも卓越した『バランス感覚』を持つ彼女には関係が無い。 静と同様に鋭い踏み込みで間合いを奪った舞姫もすらりとした長身をぐっと低く沈め、手近な前衛を攻め始めた。 幻惑をもたらす幻影の武技は敵の弱みを的確に抉る、必殺の業。 (……っ、しかし、手強い……!) だが、敵は千堂の率いるバランスの軍団であった。 「その程度!」 フィクサードはにやりと笑う。 効いていない訳では無いが、自身でも感じた手応えの浅さに舞姫はほぞを噛む。 幻影剣は弱点を的確に抉る魔剣である。しかし穴の無い相手には些か威力が足りないか。 狭い戦場に取り回しの容易な小太刀を携え望んだ彼女は唯の一合でこの戦いの難しさを――知った。 だが、しかし。 「ならばっ!」 彼女の体は反射的に二の太刀を繰り出さんと動いていた。 予期せぬ剣技にフィクサードの表情が驚愕の色に染まる。 爆発的な速度で繰り出された斬撃の大瀑布は虚を突かれたフィクサードの全身に飲み込まれ、その動きを縫い止めた。 「出し惜しみは――しませんっ!」 舞姫は現実を正しく理解していた。長引けば分は悪い。戦いも、爆弾の解除も。 戦いは激しいものとなっていた。 元より敵は技量でリベリスタ達を上回るフィクサードである。 戦いの手数はリベリスタ達に分があったが、敵もさるもの。 通常ならば前衛の数に勝るリベリスタはぶつかり合いという意味でアドバンテージを持てたのだろうが、狭い戦場は彼等の後方への接敵を邪魔している。敵陣の中央から『バランス良く』部下達を動かす千堂の存在はリベリスタ達の作戦の遂行を一層難しいものにしていた。 (今回は苺食べてる余裕はないのです。さおりん、あたし頑張る――) 何時の世も乙女を強く突き動かすのは愛の力。 「そあらさんの癒しの歌で皆頑張るのです」 そあらの紡ぎ出す清かなる天使の福音が消耗した仲間達を賦活する。 声を出し合い『バランスを取って』動いた楓理がそあらがフォローし切れなかった仲間の傷を的確に癒す。 戦いは続く。 僅か百秒に満たない時間の中に緊迫を凝縮した時間は続く。 リベリスタ達の肌をひりつかせながら、粟立たせながら。 何せ敵は強いのだ。攻めるも、受けるもまさに紙一重。 オートマチックとダガー・ナイフを左右の手に携えた千堂の銃撃が静の頭を掠める。 フィクサードの猛攻がパーティの勢いを押し戻す。 恵梨香の魔炎が敵陣を焼いた。 瑠琵の氷雨が敵を打ち、生まれた隙に孝平が斬り込んだ。 だが厚い支援に支えられたフィクサード側の前衛もそう易々は崩れない。 「やるねぇ」 「それはどうも」 千堂の言葉に応えたのは快だった。 「でも、僕の相手は早いかな?」 「――実力のバランスで釣り合わないなら、知恵と勇気で補うしか無い!」 からかうように言った千堂を快の声が一喝した。 クロスしたその両腕が溜めるのは無明のフィクサードには似合わぬ正義の光。 集中と共に撃ち出された閃光に余裕を崩さなかった千堂が眉を吊り上げた。 「ああ、もう! バランスが崩れるじゃないか!」 「崩したんだよ。たった今」 精神の平衡を崩す快の一手は大きなストレスをバランス感覚の男に与えたらしい。 「あんたの動きだけは何としても止める!」 本格的に動き出した千堂の前に喜琳が立ち塞がる。 「ウチ一人だけで倒せるなんて虫の良い事は思ってないけど――」 その瞳は強敵と相対する今、この戦場にギラギラと燃えていた。 「――バランスなら、負けへんで!」 繰り出されたしなやかな蹴撃を超人的な反応を見せた千堂が顔の前で受け止めた。 「いい技だ。でも――」 彼が最後まで言い終わる前に鋭い銃声が辺りに響く。 「……この……」 「片腕だけ撃たれてるのって、なんかバランス悪くない?」 にやりと笑って嘯いたのは銃口を洒落て吹いた望月 嵐子(BNE002377)その人だった。 千堂は憤り、やや乱暴に喜琳を間合いから振り払った。 「私と踊ろう、ただし踊り疲れたら羽をもがれるかもよ?」 今度はロシア語で呟いたリュミエールの小さな体が宙を舞う。 まさに華麗なる身のこなしで天井を蹴り、降下と共にオートマチックを連射する。 タイミングを崩された敵前衛の一人が膝を突き、同時に混乱に陥った。 「ああ、もう!」 「我々は正義の味方ではないよ、必要ならば殺すし、見捨てる。違うのさ、様は『勝った方が正義』になるのさ。云わばこれは戦争なのだよ」 苛立ちに表情を歪め、ちらりと爆弾の方を見やった千堂に毘沙門の嘲笑が突き刺さる。 彼の姿がその一言に瞬時に消えた。何者にも捉え難いその動きは一瞬で毘沙門の裏を取る。喉元から迸る血が崩れる姿の後を追った。 「喋りすぎ。バランスが悪い。お前もだ」 続け様に動いた千堂は視線すらやらず混乱する前衛のこめかみをもう片方の銃で撃ち抜いた。 「無事で済むと思わない事だね。それは――バランスが悪い」 凄味を増した千堂にもリベリスタ達は怯まない。 「這いずって、組み付いてでも止めたる!」 「弱ければ弱いなりに……勝機の為にあがくのが、正義の味方っぽくていいだろ?」 喜琳が気を吐き、楓理が皮肉に口角を吊り上げた。 「物語を見てみろよ。悪が正義に倒されるものが殆どだ。 それが世界の望む結末。悪は正義に倒されてこそバランスが取れるんだよ!」 静の声に千堂は大声で笑い出した。 「はははははは! 見解の相違だね、月並みな話ばかりじゃバランスが悪い!」 戦いが増す。消耗が増す。乱戦の中、体力に劣るリュミエールが倒された。 戦いが増す。消耗が増す。 「前で頑張る人達が安心して全力出せるようにするのがあたしの役目なのです!」 そあらは声を張り上げる。それでも更に嵐子までもが倒された。 厳しい戦いにやがて転機が訪れる。 「時間よ」 短い警告の声は恵梨香から発せられたもの。 「レールが……振動してる」 傷付いた舞姫が荒い呼吸を吐きながら、小さく呟いた。 予定通りに通過する電車を避けるべくフィクサード達は、リベリスタ達は咄嗟に壁際に体を寄せかかる。 ――唯、一組だけの、例外を除いては。 予めそうする事を決めていた。新田快は決めていた。 数百人の、或いはそれ以上の誰かを犠牲にする訳にはいかないと。この悪を見逃す訳にはいかないと。 「知恵と勇気を足しても届かないなら、後は命を『賭ける』しか無い、だろ?」 「……おいおい……」 極限の集中から咄嗟に千堂に組み付いた快は不敵に笑う。 諸共電車に轢かれんと捨て身の行動に出た彼はバランス感覚の男が遭遇した『天敵』だった。 間近に迫った電車のライトが二人の影を引き伸ばす。 そして、結末は―― ●バランス 「もう大丈夫みたいです」 舞姫の一言にパーティはようやく生きた心地を取り戻す。 爆弾のタイマーは残りが二分十七秒の時点で止まっていた。 結論から言えば、千堂は退却を選び――リベリスタ達はその任務を達成したのだ。 「皆、命に別状は無いみたいだね」 楓理が大きく息を吐き出した。 倒された誰もが無事と言えば無事だった。 あの決死の覚悟で千堂に組み付いた快も……である。 「あの時、千堂は快さんを助けたように見えたんだけど……」 静の言葉に一同は複雑な顔をした。 組み付いた快を彼はすんでで振り解いた。 それは確かに逃れる為の動きだったが――快を突き飛ばした事は彼からすれば蛇足である。 「……バランス、なのかもな」 快は苦笑い交じりに呟いた。 『天敵』を屠るのはこんな退屈なシーンじゃない、千堂の声が聞こえてくるようである。 真偽は分からないが、あの男ならばそう言ってもおかしくは無い。 だが、事件は終わった。一先ずは安堵。 「次はサシの勝負で勝ってバランス取ったるさかい……覚悟しとき、な?」 喜琳は呟いた。やがて来るであろう千堂遼一との再戦をその胸に思い描きながら。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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