● 『――あらあ、なかなか良いところじゃない。 もちろんワタクシの領地の方が百万倍美しいけれど』 豪奢な衣装に身を包んだ男が、丘の上から楽しげに街を見下ろす。 彼に付き従う女が、遠慮がちに口を開いた。 『御主人様、早く帰りましょう。このような場所に長居する必要は……』 『焦ることないじゃないの、たまには息抜きさせなさいよ』 主人の言葉を聞いた女は、内心で溜息を漏らす。 息抜きと言うが、そもそも彼にとっては人生の大半が息抜きではないか。 そう思っても何も言えないのが、身分社会の悲しさである。 女が思わず目を伏せた時、やや後方に控えていた護衛の一人が大きな声を上げた。 『ご、御主人様! あれをご覧下さい!』 『なによ、大声出して……!?』 振り向いた男が、護衛が指差した先を見て言葉を失う。 地面を四つ足で歩く小さな獣が、丸い瞳でキョトンとこちらを見つめていた。 『これはまさか、伝説の』 『手に入れた者に絶対の繁栄と幸福をもたらすという神獣……?』 『どうしてこんなところに』 口々に騒ぐ従者たちを横目に、男はふーむ、と首を傾げる。 『……もしかしたら、ココじゃ普通にいる生き物なのかもしれないわねえ。 そうだわ、アンタちょっと歌ってみなさいよ』 『え、まさか、この神獣を集めよと仰るので……?』 主人の言葉に、女がぎょっとした表情で彼を見た。事も無げに『そうよ』と頷く男。 『ワタクシの館を伝説の神獣で埋め尽くすの。素敵じゃない』 うっとりとした表情で語る主人を見て、女は内心でもう一度溜息をついた。 こうなっては、ただの従者である自分に止められるはずもない。 諦めの念とともに、女は歌い始めた。 ● 「今回の任務はアザーバイドの送還、あるいは撃破だ。 数は四人。外見は人とほとんど変わらないが、宙を浮く能力を持ってる」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向けてそう口を開いた。 「このアザーバイド達、特定の動物を引き寄せる歌の力で大量の猫を集めてる。 どうも、連中の世界では猫が伝説級の生き物らしくてな。 珍しいからって、手当たり次第に捕まえようとしてるわけだ」 既に、彼らのいる丘は猫で埋め尽くされているという。 猫好きにはある意味で堪らない光景かもしれないが、状況的にそう呑気なことも言っていられないだろう。 「連中はずっと宙を浮いているし、そういう事情なんで猫たちを積極的に傷つけたりはしない。 だが、こっちが近付く場合は、足元に気をつける必要があるな。 バランス感覚が良ければうっかり踏むことはないだろうし、飛べばまったく問題ないけど」 ただ、足場のことを抜きにしてもアザーバイドはそれなりに強い。しかも知性があり、互いに連携を取って戦おうとする。こちらも、相応の作戦を考える必要があるだろう。 「ディメンションホールは近くに開いてるから、最後は忘れずに破壊してきてくれ。 あと、現場に集まった猫たちだが―― この人数でどうにかできる数でもないんで、終わったらアークがまとめて回収する。 飼い猫も混ざってるみたいだし、野良猫にしてもここまで大量だと騒ぎになりかねないからな」 とりあえず今回はそのあたりの対策は考えなくて良いと言う数史に、リベリスタ達の一人が「回収した猫たちはどうなるのか」と問う。 「飼い猫は飼い主のもとに返すとして、野良猫は引き取り手を探すことになるんじゃないかな。 動くとしても後日になるだろうが、悪いようにはしないはずだから安心してくれていい」 そう言って、数史は手の中のファイルを閉じた。 「――俺からの説明は以上だ。どうか、気をつけて行って来てくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月17日(木)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 丘の上は、すっかり猫に占拠されていた。 猫が地面をびっしり覆い尽くしているのが、遠目でもわかる。 「猫……もふもふ」 既にもふる気満々なエリス・トワイニング(BNE002382)がぽつりと呟くと、スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)がやや興奮気味に口を開いた。 「猫。猫……っ。ここは楽園でしょうか?」 猫たちは喧嘩をするでもなく、毛繕いや欠伸をしながら座っている。 平和な光景は、まさしく猫の楽園と呼ぶに相応しいかもしれない。 猫たちを空中から見下ろす四人のアザーバイドを眺め、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が首を傾げる。 「異世界からの猫攫いさん?」 その四人――正確には彼らの中央にいる『貴族』こそ、この丘を猫で埋め尽くした元凶だった。 彼は猫を集めるだけ集め、自分の世界に連れ帰ろうとしている。 「異世界の……人たちも……猫好き……なの?」 「アザーバイドで無ければ微笑ましい光景なんだがな……」 エリスの言葉に、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が溜息をつく。 恐れ多いといった様子で猫たちを眺める『貴族』の従者達を見て、『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が口を開いた。 「余所の世界では、ただの猫も神獣扱いか……」 「住む世界が違うんデス、このテの擦れ違いは仕方ないデスよね」 『靴の下の桃源郷』タオ・シュエシア(BNE002791)の言葉に、葛葉は頷く。 「まあ、世の中には神様扱いの猫は確かに存在はするしな。 俺達も、異世界に行く事があればその文化の違いに驚く事になるかも知れん」 彼らの傍らに立つ『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)が、「別に猫とかどうでもいーんですけど」と眠そうに目を瞬かせた。 「貴族様も暇ですね。あたしだったら家から出たりしないのに。 寝てればいーじゃねーですか。羨ましい」 彼女にとって、異世界くんだりまで来て道楽に血道を上げる『貴族』は物好きとしか思えない。 「個人的にはデメリットありませんし、猫を集めるだけ集めたら帰ってほしいところデスが…… まあディメンションホールを塞ぎに行きがてら接触してみますか!」 今回はいきなりアザーバイド達と戦うのではなく、まずは彼らに交渉を持ちかける、という方針になっている。タオが同行する仲間達を促した直後、四条・理央(BNE000319)が声を上げた。 「――ニャンコを集める能力、欲しい」 思わず本音を口にしてしまった後、「じゃなくて!」と慌ててうち消す。 「侵攻の意思は無いとは言え、異界の住人が居続けるのは世界にとって宜しくない。 丁重にお帰り願おう」 そう言い直した後、理央は仲間の全員に小さな翼を与えた。 なにしろ、あの猫の数である。まともに地上を歩けば、何かのはずみで彼らを踏んでしまいかねない。 翼の加護でふわりと浮かんだ雪白 桐(BNE000185)が、『貴族』の我侭に振り回されているらしい彼の従者――『歌い手』と、二人の『護衛』を見て、同情するように呟いた。 「それにしてもまぁ、何処の世界にも立場的に割を食う方というのはいるのですね……」 ● 『誰よアンタ達。今、ココはワタクシ達が使ってるの。見てわからない?』 突飛な発言で従者たちを困らせていた『貴族』は、近付いたリベリスタ達を見て不機嫌そうな声を上げた。武器を持っていない彼らを警戒する様子はないが、単純に水を差されたと感じたらしい。 恭しく進み出た桐が、丁重にお辞儀をする。 「初めまして、ご機嫌麗し高貴なお方」 「どーも貴族様、ようこそいらっしゃいましたこの底辺世界へ」 形ばかりの礼とともに声をかけた小路が、さっそく話を切り出した。 「しかしですね、一つ困ったことがあるのでございます」 「どうやらこの世界はあんたの高貴なオーラにやられてしまっているようでな。 このままではその神獣ごと潰れてしまいかねん」 さりげなく“高貴”という単語を強調しつつ、福松が後に続く。 相手を持ち上げ、気分良く帰ってもらおうというリベリスタ達の作戦である。 『ふぅん。ワタクシの高貴なオーラに、ねぇ……』 顎に手を当てる『貴族』に向けて、タオが口を開いた。 「ワタシ、これまで色んな人を見てきたおかげで、ひと目見ただけでどんな人物かわかるようになりました」 彼女は『貴族』の顔をじっと見て、にっこりと笑う。 「……アナタはとても良い人デス! なのに規則に抑圧された窮屈な所に閉じ込められていた……だからココに来たのデスね?」 見るからに自由奔放な貴族が規則に縛られてきたとは考え難いが、異世界への訪問を息抜きと称する程度には不自由を感じているかもしれないし、タオはあえて大袈裟に言うことにした。 『まあ、そうね』 「その身から溢れる、気品と気高さ。礼節を重んじる、高貴な魂の持ち主かとお見受け致します」 おずおずと口を開いたスペードに続いて、桐が言葉を重ねる。 「貴方様は高貴すぎて、その姿に世界が侵され被害を受けてしまいます。 どうか慈悲の心で、この世界から立ち去っていただけませんか?」 「こちらとしても、戦いが避けられるのであれば有難い。不必要な戦いは行われるべきではない」 実直に語りかけながら、葛葉は心の中で思う。 (……しかしまあ、まるで旅行者が問題を起こした際に対処する現地人のようだな) 見たままの感想を抱く彼の前で、『貴族』が『手ぶらで帰れって言うの?』と眉を寄せた。 ちらりと『歌い手』に視線を向けた福松が、足元の猫を指差して交渉を持ちかける。 「どうだろう。この中の何匹かを貢物として進呈させて頂く代わりにお帰り頂くというのは?」 スペードと小路が、次々に口を開いた。 「神獣は、こちらの世界にとっても至宝の存在。 わずかばかりでありますが友好の証として、お帰りの際に神獣を献上させていただければ幸いです」 「この猫達を連れて帰り自らのお屋敷でゆっくり愛でてはいかがでしょーか。 野生の猫はいっぱいいますので」 傍らに控えていた『歌い手』が、遠慮がちに口を開く。 『御主人様、ここは一つ彼らの言う通りに……』 『いっぱいいるのに至宝なの? ――まあ、良いわ。この子なんて素敵』 そう言って『貴族』が抱き上げたのは、艶やかな毛並みに上等な首輪をした、あからさまな飼い猫だった。 野良猫なら良いが、飼い猫はまずい。 リベリスタ達に止められて不満顔の『貴族』に、タオとエリスが“飼い猫”について説明する。 「人が猫の世話をしつつ貢ぐ関係のことデス」 「首輪……ある子……主人……決めてる」 小路が、念を押すように口を開いた。 「出来れば飼い主がいる猫達は勘弁して下さいませ。 貴族たるもの、他人の所有生物を無理やり持ち帰るのも少々優雅さが足りないでございますでしょ?」 「野良猫は……主人……居ないから……大丈夫」 エリスが指した野良猫たちを見て、『貴族』が眉を寄せる。 『あれは毛並みが良くないのよねえ。懐かなさそうだし』 「野良猫にも……相性……主人……選ぶ権利……ある」 『ワタクシじゃ不満だって言うの?』 「今ならコレ! マタタビというナイスな物もプレゼントしますよ」 雲行きが怪しくなりそうな雰囲気を感じたタオが、対猫最終兵器・マタタビを交渉のカードに加えたが、それでも『貴族』は納得しなかった。 『そもそも、絶対の繁栄をもたらす神獣が下々の者を主人にしてるのが気に食わないのよね』 難航する交渉を見て取り、葛葉が『歌い手』と『護衛』たちに視線を向ける。 「そちらに居る方からも、どうかお願い出来ないものか。 貴き身分の立場であるのであれば……自身を心配する忠臣の言葉をあっさりとは切り捨てんだろう?」 彼ら三人に歩み寄った理央が、翼の加護をかけ直しながら小声で語りかけた。 「異界の住人が居続けるとこちらの世界に悪影響が出るし、 呼び寄せた猫の中にはこの世界の住人が可愛がってる子もいるから……。 そちらからも、帰るように進言して貰えるかな?」 『あなた方の仰ることはもっともですし、私もそう思いますが…… そもそも、それが出来るなら最初からこういう状況にはなっていません』 主人の命令は絶対であり、自分達はそれに逆らえないのだと、『歌い手』がさめざめと泣く。追い打ちをかけるように、『貴族』が決定的な一言を放った。 『――帰れって言うなら帰ってあげるけど、ココの神獣は全部連れて行くわよ。 神獣をこんな底辺に置いておくのが間違いだし、本来あるべき場所に導くのがワタクシの務め。 本来は世界中から集めたかったけど、アンタ達に免じてココにいるだけで譲歩してあげるわ』 もっともらしい理屈を並べているが、要は自分が持っていないものを人が持っているのが気に入らないと顔に書いてある。しかも、それを人から奪って独り占めすることに満足を覚えるタイプらしい。ダメだこいつ。 「お断りされるのでしたら、私達も世界を守るために死をとして武器を持ち抗わなければなりません」 交渉決裂を悟った桐は、せめて戦いの前に猫たちを退避させてほしいと頼んだが、『貴族』は取り合わなかった。 『アレの歌は獣を集めるだけで、命令や意思の疎通はできないわ。 心配しなくても大切な神獣ですもの、傷つけたりしないわよ』 もはや戦闘は避けられまいと、リベリスタ達は“幻想纏い”から武器を取り出す。 「交戦するしかねーですね。歌姫の人とばっちり可哀想」 “アレ”呼ばわりされて溜息をついた『歌い手』を見やり、小路がぼそりと呟いた。 ● 理央が全員に施した翼の加護は、まだ維持されていた。 宙を滑るように後方に下がったエリスが、周囲の魔力を次々に取り込んで自らの力を高める。 前に出た葛葉が、拳に装着した鉤爪を鋭く振るった。 「致し方ないが、これもまた任務」 真空の刃が、『歌い手』の簡素なドレスを裂いて彼女の肌を傷つける。 出来るなら荒事にしたくはなかったが、ここに至った以上は戦いは避けられない。 『まったく面倒ねえ』 ぼやいた『貴族』が煌びやかな光を輝かせ、リベリスタ達の全身を焼く。 続いて彼は鞭の幻影を生み出すと、手当たり次第にそれを打って敵の動きを封じにかかった。 約半数の仲間達が麻痺に陥ったのを見て、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が聖神の息吹を呼び起こす。縛めを解かれた福松がシルクのストールを靡かせて『歌い手』に迫り、彼女に拳を打ち込んだ。 「苦労してるな、あんたも。忠義立てするのは結構だが、手加減してやれるほど器用ではないぞ」 涙目でよろめく『歌い手』に、スペードが切先の欠けた剣“Cortana”を繰り出す。 「できれば、戦いたくはないです……」 黒い輝きを帯びた剣が『歌い手』を捉える瞬間、スペードはそっと囁いた。 戦いが終るまで気絶したふりでもしてもらえたら良いのだが、おそらくそうもいかないのだろう。 『歌い手』は歌声を響かせ、秘められた氷の呪力でリベリスタ達を攻撃する。 後衛から戦闘を指揮する京一が防御結界を展開すると同時に、小路が防御の効率動作を共有して全員の守りを固めた。 理央のブレイクイービルが、神の光をもって氷の呪いを消し去る。『貴族』とエリスの射線上に割り込んだ桐が肉体の枷を外すと、タオが見得を切って運命を引き寄せた。 左右を『護衛』に守られながら、『貴族』がリベリスタ達に猛攻を浴びせる。気力を挫き、動きを封じる支配者の鞭はそれだけでも厄介だが、威力そのものも高い。 桐に射線を遮られて麻痺を逃れたエリスが、癒しの息吹で穢れを払い、同時に傷を塞ぐ。 極めて厚い回復に支えられながら、リベリスタ達は『歌い手』に火力を集中させた。 福松の拳を強かに受けて表情を歪めた『歌い手』が、再び氷の呪歌を響かせる。自分を癒せば良いようなものだが、傷を受けているのが己のみである以上、それは許されないのかもしれない。 京一のブレイクイービルが氷を砕いた直後、“まんぼう君”を振り上げた桐が雷撃を纏う一撃を放った。 それをまともに喰らった『歌い手』が、ゆっくりと膝を折って地に落ちる。 真下にいた猫たちが、慌ててそれを避けた。 視野を戦場全体に広げた小路の前方で、理央が全員に翼の加護をかけ直す。 暗黒の瘴気を放って二人の『護衛』を撃つスペードに続き、『護衛』の片方に肉迫したタオが背後から鋭い手刀を繰り出した。 一方、『貴族』は守られていると思っていい気なものである。 傷つき倒れた従者たちには構わず、彼はひたすら攻撃を続けた。 エリスが聖神の息吹で戦線を支える中、葛葉が『護衛』たちを見て口を開く。 「……護衛、か。確かにその名に相応しい覚悟と、実力の持ち主だ」 一切攻撃を行わずに主を守る彼らは、『歌い手』とは比較にならぬほど堅い。 「だが、こちらも……はい、そうですか……と引き下がる訳にはいかんのでな……!」 繰り出された葛葉の掌底が『護衛』の一人を打ち、防御を貫き徹して痛打を与える。 スペードの放った暗黒の瘴気が追い撃ちを加える中、小路が術具に改造した【止まれ】の交通標識を振るい、敵を追尾する真空の刃を生み出した。 「貴族は護衛ほど堅くない。護衛さえ倒せば、あとは早いはず」 エネミースキャンで『貴族』の能力を解析した理央が、その結果を仲間達に伝える。 追い詰められつつある『護衛』を見た『貴族』が、大きく舌打ちした。 『何やってんのよ。だらしないわねえ』 煌びやかな光が一際強く輝き、リベリスタ達を焼き尽くそうとする。 わずかに動きを鈍らせたタオに向けて、『貴族』が鷹に似た猛禽類の幻影を放った。 鋭い嘴と爪が彼女の急所を捉え、深く抉る。鮮血が噴き上げる中、タオは己の運命を削って耐えた。 貴族たちからやや距離を置いた福松が、相棒たるサタデーナイトスペシャルの銃口を彼らに向ける。 「あんた達に恨みは無い。陳腐な理由だが『この世界の為』という奴だ。悪く思うなよ」 ダブルアクションリボルバーから放たれた神速の抜き撃ち連射が、二人の『護衛』を次々に捉えた。 その銃弾に一人が倒れ、残る一人に体勢を立て直したタオが迫る。 強烈な拳が『護衛』の顎を砕き、彼を地に沈めた。 「残るは、お前だけだ。……どうしても最後までやるのか?」 守る者のいなくなった『貴族』に、葛葉が声をかける。 『貴族』が明らかに狼狽したのを見て、桐が彼に帰還を促した。 「他の方も倒れているだけで止めはさしていません、ここで引き返してもらえませんか?」 『や、やってられないわよ。覚えてなさいアンタ達!』 月並みな捨て台詞を吐いて、『貴族』が身を翻す。 倒れた従者たちを捨て置いたまま、彼はディメンションホールの方に逃げていった。 ● 『貴族』が去った後、リベリスタ達は倒れた『歌い手』と『護衛』を元の世界に帰した。 「すまんが、お引取り願おう」 そう言って、福松は気を失ったままの彼らをディメンションホールに放り込む。 「……元気でな」 主に見捨てられた彼らを気の毒に思いつつ、葛葉がそっと声をかけた。 ディメンションホールが破壊され、後に残ったのは丘を埋め尽くす無数の猫。 アークの回収班が来るまで、猫好きリベリスタお待ちかねのもふもふタイムである。 「お歌を聞けなくしてしまってすいませんね」 そっと詫びながら、桐は心ゆくまで猫たちを撫でる。 まだ『歌い手』の歌の効力が残っているため、よほど嫌がることをしない限りは逃げられる心配はない。猫たちは、桐に撫でられて気持ち良さそうに喉を鳴らしていた。 「お姉さんと遊びましょう。ね?」 そう言ってマタタビ入りの袋を振ったスペードに、猫たちが勢いよく殺到する。 「えっ。そ、そんな一斉に飛び掛かってこなくて、も……」 にゃあにゃあにゃあにゃあ。にゃっぱーん。 一瞬にして、スペードは猫の海に呑まれて見えなくなった。 その傍らでは、視界を埋め尽くす猫たちに喜びを隠せない理央が彼らを全力でもふりにかかる。 日向に寝転がる猫たちは、おひさまの匂いがした。 「日本にも猫を神様と崇める所があるみたいなのです。今度さおりんに連れて行ってもらおうと思うのです」 デートの口実ができて「あたし賢い」と自画自賛するそあらの尻尾に、やんちゃな猫たちが飛びつく。 「にゃんこ共、あたしのしっぽはねこじゃらしじゃないのです。じゃれつくなです」 そんな和む(?)情景をよそに、エリスは持参したデジカメで猫たちを撮影したり、猫たちを抱き上げてもふったりと忙しかった。 「あぁぁ……、ダメ。ちょ、ごめんなさい。ミルクは少ししか持ってきていないの」 ようやく猫の海から脱出したスペードが、今度は猫たちのおねだり攻撃に晒される。 そんなつぶらな瞳でおかわり催促しないでください……という彼女の言葉にも、猫たちはお構いなしだ。 一方、猫に興味はないとばかりに布団を敷いて寝ようとした小路だが。 布団などという絶好のアイテムを、彼らが見逃すはずがない。 「うおお、猫重い! 布団に乗るな、潜りこむな!」 意に反して猫と戯れる格好になってしまった彼女の近くで、タオが野良猫らしき一匹を抱き上げた。 「……ふふ、最近は猫を商品ではなく可愛い動物だと見れる余裕も出てきましたしね」 アークに回収される前に、お気に入りの猫を引き取るつもりだ。 このくらいの役得は、あっても良いだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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