●フィクサード その夜、とある美術館はフィクサード集団によって占拠された。 覚醒した人間にとって、セキュリティなど足止めにもならない。隠密と調査に特化したものが先行してセキュリティを無効化。応援を呼ぼうとする警備員達を圧倒的な戦闘力で無力化。10分もたたぬ間にその美術館は無防備となった。 セキュリティなき館内を歩くのは8人のフィクサードたち。20代を中心に構成されている集団の中、彼らの倍ほど年上であろうフィクサードがいた。 スキンヘッドに紺の着流し。からんからんと床をける下駄の音。柄のない黒い金属の棒を肩に担ぐ姿がサマになっているのは、それが使い慣れた武器だからだろう。皺が刻まれた顔に笑みを浮かべているが、常人が近寄りがたい雰囲気を発していた。 「九条さん、制圧完了しました!」 「よし、美術品を運び出せ。5分後に撤収だ」 「警備員もふんじばりましたぜぃ。顔見られたんだし殺したほうがよくねぇっすか?」 「馬鹿野郎、マムシの顔に泥を塗る気か! 無駄なコロシはするんじゃねぇ!」 「へ、へぃ! すみませんでした!」 九条、と呼ばれた着流しの男の指示に従い、フィクサードは美術品を梱包していく。統率されたフィクサード達はテキパキと美術品を箱にしまっていく。 「……来ますかねぇ、連中? いっちゃなんですが、今回の襲撃、完璧ですぜ。バレる余地がねぇのに――」 「来る」 美術品を運ぶ中、一人のフィクサードが九条に尋ねる。半信半疑の問いかけに、九条は持っていた金属の棒で肩を叩きながら迷いなく答えた。 「アークは来る。必ず。 どういうカラクリかは知らないが、マムシが来るって言うんだ。間違いはねぇ」 九条は足を止める。振り返りフィクサードに向けて活を入れた。 「気合入れろよ、お前達。ここからが本番だ。 お天道様に顔向けできない俺たちを拾ってくれた恩。今日こそ返すときが来たんだ!」 ●リベリスタ 「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は『万華鏡』の予知した事件に疑念を感じていた。否、疑念ではない。予知は正確である。それは間違いない。問題はその発生数だ。この数は、おかしい。 思考は刹那。すぐに彼女は意識を戻して集まったリベリスタたちに、事件の概要を説明する為に口を開いた。 「事件はフィクサードによる美術品の強盗。フィクサードの数は8人。 フィクサードたちはまず警備室を占拠し、電子的にセキュリティをフリーにする。その後、警備員に襲い掛かり気絶させて拘束。後は美術品を箱に梱包し、隠してあるトラックに運んで逃走。そんな計画」 モニターにその美術館の見取り図が映し出される。結構大きな美術館で、見取り図に赤い丸が8つ明滅していた。『警備室』に3つと『展示室A』に5つ。 「みんなが美術館につくころにはフィクサードたちはこういう風に別れている。警備室に3人。展示室に5人。警備室と展示室Aの距離は結構離れてる。全力で移動しても30秒はかかりそう。 警備室のほうはセキュリティをジャックしている人が、展示室のほうは美術品を盗んでいる人がいる。強さ的には一人一人が皆と同じか、すこし劣るぐらい。だけどリーダー格の男はあなたたちよりも強い」 イブは言いにくいことを歯に衣着せずにしっかりという。気を使って情報の伝達を怠れば、その分危険が増すのだ。 モニター画像は一人の男に写りかわる。スキンヘッドに紺色の着流し。下駄を履いた40代の男性。がっしりとした体格で、見る人が見れば格闘技に通じていることは推測はできる。 「リーダーの名前は九条・徹(くじょう・とおる)。持っている金属の棒で攻撃したり、『気』を解放して自らを強化する。戦闘ではまっすぐに前に出てくるわ。 残りのフィクサードたちは銃と魔法を駆使して遠距離から攻撃してくる」 イブはそこまで言うと画像を美術館の見取り図に戻す。 「フィクサードたちはアークを待っている節がある。彼らが何を考えているのかわからない。誰かの命令を受けているみたい。 無理にフィクサードたちを全滅させなくても、美術品を守れればそれでいい。でもそのためにフィクサードたちと交戦するのは必至。 楽な戦いではないと思う。でもみんなならできると信じてる」 イブはリベリスタたちを送り出す。いつもと同じように彼らを信じて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月28日(土)01:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●フィクサード 「九条さん、着ました。全員展示室に向かってます」 「了解。お前等、予定通りだ。オレがやられたら全員逃げろよ」 「九条さんを置いて逃げれませんよ!」 「タカ。お前、二人目が生まれるんだろ? カミさんと子供泣かす気か?」 「っ!? ……ですけど!」 「いいんだよ。こんなしょっぱい作戦、マムシも不本意だろうさ。 ここまでやれば義理は果たした。派手に暴れて派手に散るさ」 ●リベリスタ 美術館の警備システムはフィクサードによって無効化されている。なので真正面から入るリベリスタたちを咎めるものは何もない。施錠もされていなかった――逃亡経路のためにフィクサードが開けておいたのだろう。 「喧嘩と聞くと血が騒ぐな……相手がフィクサードなら容赦はしない」 『不良?女子高生』早瀬 莉那(BNE000598)はフィクサードのトラックを探したが……眼に見えるものにはないと気付き、中に入る。 「なんだか、本格的なお仕事がきたって感じね!」 ロリータ服でパタパタと走りながら瞳をきらきらさせる『わたくさひめ』綿雪・スピカ。作戦を建前に悪いボスをフルボッコ。そんなことに心ときめく13歳の少女であった。 「感知してしまった以上、捨て置く事は出来ぬ。万華鏡の性能を逆手に取った見事な陽動じゃのぅ」 フィクサードの手法に感心しながら『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)は美術館の中を進む。今回の事件の裏にあるフィクサードの狙いを推測しながら歩を進めると同時に、監視カメラを見つけては破壊していく。 (ボスの九条って人が素敵なおじさまだったらどうしよう……。はっ!) ダンディズムな男性に弱い『おじさま好きな幼女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)はこれから出会う九条のことを想い、首を振った。これは危険な依頼なのだ。気を抜いてはいけない。でも、ガチンコとか怖いよぅ……。 (さて、そろそろ大きな勢力が動き出したわね……。多方面攻勢できるなんて予想以上に巨大ね) 『甘くて苦い毒林檎』エレーナ・エドラー・シュシュニック(BNE000654)は動き始めた敵の大きさに驚く。まぁ私は変わらず倒すだけ。自分の役割を明確にし、油断なく進んでいく。 リベリスタたちはセキュリティを乗っ取っているフィクサードを放置し、全員で美術品が盗まれている展示室にむかった。相手の戦力を考慮しての戦力一点集中作戦である。 目的の展示室につく。中から漏れる明かりと、複数人の人の気配。 リベリスタたちは互いの顔を見て頷きあい、部屋の中に踊りこんだ。 ●喧嘩の前に 「待ってたぜ。アークのリベリスタ」 展示室の中にいたフィクサードの数は5人。美術品の梱包も途中なのか、箱と数点の美術品が床に置かれてある。 言葉を発したのは紺の着流しを着た男。金属棒を手に構え、下駄を鳴らして歩いてくる。リベリスタとフィクサードの間の位置で立ち止まった。 「売られた喧嘩は倍値で買い叩く主義でな。誘ってんなら乗ってやらあ」 『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)は口を笑みの形にする。特徴的な八重歯が鋭く光った。シニカルでワイルドな笑み。文字通り、彼は売られた喧嘩を買いにきたのだ。 「喧嘩、良いよねぇ……。華があって。中々に愉快そうな子たちだし」 咥えタバコを口にしながら『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は言う。見た目はタバコをすえない少女だが、リベリスタを見た目で判断してはいけない。もちろん、その実力も。それを知らないものは、この場にはいなかった。 もちろん九条と呼ばれたフィクサードも。 「はっはっは。どんなのが来るかと思っていたが、なかなか粋なヤツらじゃねぇか。 じゃあシンプルにいこうや。俺たちが勝てばこの美術品はいただく。負ければ美術品は手をつけず俺たちは尻尾巻いて逃げる。これでどうだ?」 笑いながら提案する九条。それに驚くリベリスタ。 「まぁ、それは助かるわ」 スピカだけは変わらず笑顔で応対している。 「……では美術品は脇に避けてくれ。即ち、戦闘に巻き込まないように」 『深閑たる意思の神髄』秋映・一樹(BNE002066)は言葉を選びながら提案をする。美術品を傷つけずに、しかも戦闘中に持って逃げ出さずにすむなら願ったりだ。 「いいぜ。――お前達、ソレ退けとけ」 九条の言葉にフィクサードたちが動き、美術品を脇に避けた。 (部下の動きに迷いなし。つまりフィクサードの目的は美術品に非ず、か?) 瑠琵は怪訝に思いながら九条を見る。その心を見抜くことはできない。ただ九条は棒を手に射抜くようにこちらを見ていた。その殺気が易々と負けてやる気はない、と告げていた。 「人間失格・紅涙りりす。一つよろしくお願いします」 「へぇ、お前さんがあの。話には聞いてるぜ」 喧嘩の前に一礼するりりすに、反応する九条。その実力と経緯が九条の耳に入っていたのだろう。背後のフィクサードたちもざわめきだす。 カラン、九条の下駄が鳴る。それが始まりの合図。 さぁ、喧嘩のはじまりだ。 ●リベリスタVSフィクサード フィクサードの陣形は九条のトップワンと4人のフィクサードが後ろから援護する形。 それに対応するように莉那、りりす、アッシュが九条に走り、それぞれギアを上げて自らの速度を上げた。瑠琵が少し前にでる形となり、そしてアリステア、エレーナ、スピカ、一樹が入り口から少し離れて後衛の位置を取る。 九条は着流しを脱いで肌をさらし、 「日陰者の俺たちを、拾ってくれた恩義に報い。あえて歩くは修羅の道! 『菊に杯』九条・徹。酔わせてみせるぜ喧嘩の酒を」 背中一面の菊に酒杯の刺青を見せ付けた。大見得を切ることで自らを鼓舞すると同時に、運命を引き寄せる。 年配の男性が好みであるアリステアがこの大見得を見てどう思ったかは、彼女の心中に留めておこう。ともあれ、前衛組の戦闘準備は整った。 「不確定要素は排除しましょう……交戦開始」 エレーナは魔方陣を展開し、魔力弾を打ち放つ。狙い外さず九条の身体に命中し、その肌を焦がした。 「まずはこれからじゃ」 瑠琵が印を切り、リベリスタたちに守護の結界を張る。中衛の彼女はどちらでも回復に動けるように戦場コントロールを行うつもりだ。防御に回復に。隙あらば攻撃に。 「戦闘力を削げば有利になる。即ち、狙うはここだ」 一樹はオートマチック銃を構え、九条の腕めがけて撃ち放った。貫通力をました魔弾は九条の腕に迫るが、持っていた棒でそれを弾いて落とした。 「狙いが甘いぜ、兄ちゃん」 特に狙いを定めるでもなく、腕という大きくない部位を狙うのは難しいか。ましてや相手はこちらより格上なのだ。しっかり狙わないと命中する可能性は低いだろう。 「魔法使いには銃弾を。あの兄ちゃんは魔法が弱そうだ」 「了解っす!」 銃と杖をそれぞれ構え、フィクサードたちが一斉射撃を行う。エレーナには弾丸を。一樹には魔力弾を。 「いい連携だ。即ち、統率が取れている」 「無駄なコロシは好きくないわ……ルールに反するのでしょ?」 バイオリンを奏でるスピカ。奏でる旋律が呪文となり、因果律を操作する。フィクサードたちの足元に爆ぜる炎。炎熱がフィクサードたちの体力を削っていく。 「まだ回復は大丈夫そうだねっ。それじゃあ」 エレーナと一樹の受けた傷を見て、まだ回復はいらないと判断したアリステアは銃を撃った部下に向けて魔力の矢を放つ。狙い外さず矢はそのフィクサードに突き刺さり、手傷を負わせた。 中央で交戦中の3人のリベリスタと九条を挟みながらの射撃戦は、手数の上でフィクサード側が有利である。 だがそれは、九条に攻撃が集中しているということなのだ。 「頭をぶちのめしゃ、他の野郎共は撤収すんだろ」 アッシュのナイフがすばやく動き、相手を翻弄する。九条の頬をナイフが裂き、血がにじみ出る。 「その頭をぶちのめすのは、楽じゃねぇぜ」 笑みを浮かべる九条の声に、虚勢はまるで感じられなかった。 ●夜に咲く喧嘩の華 「頭を集中でボコるのは当然だろ、ザコの相手はその後でしてやるよ」 莉那はチーターの脚力で大地を蹴り、そのまま空中で反転して天井を蹴る。ナイフの鋭さは落下の勢いも加味され、九条を襲う。ナイフは九条の棒に阻まれたものの、その衝撃はけして軽くない 「違いねぇ。卑怯だとかそんなことを言う気はないぜ」 棒を回転させながら九条はリベリスタたちに言う。 ソフトに握った金属棒が縦に横にと振り回される。カランコロンと下駄を鳴らし、重心を崩さぬ足運びで間合いを計っていたかと思うと、突如りりすに向かって突き出される一撃。 「おおっと」 その一撃を横に飛んで丁寧に捌くりりす。警戒はしていたが、それよりも速い。 お返しにとバスタードソードを幻影を交えて放った。虚実を混ぜた一撃が九条を襲う。 キィン! 響く金属音。棒がサメのビーストハーフの一撃を受け止め、そのまま互いに睨み合う。 先に離れたのはどちらなのか。間合いはまた数歩分開いていた。 間合いを詰めようとすればそれを見通していたように九条の棒が動き、リベリスタの動きを牽制する。それは結界。攻撃圏と呼ばれる見えない壁。 そしてその壁が一瞬消えたかと思うと、強烈な一撃が飛んでくる。回転を加えられた突きはえぐるように衝撃を内臓まで響かせる。 「やるねぇ。事、相手の攻撃を捌くという点において、僕はアークでもトップクラスという自負はあるのだけれども」 「言うだけの事はあるぜ。ここまで攻撃を受け流してくれるとはなぁ。楽しい喧嘩になってきたねぇ」 前衛3人は共に速度で攻めるタイプだ。九条を翻弄し、あるいは圧倒的な速度でかき回し、あるいは多角的に攻める。 対して九条は一撃が強いパワータイプだ。リーチの長い棒で間合いをコントロールし、隙あらば捻刺と呼ばれる棒の一撃で相手を突く。必殺を理念として長年鍛え上げられた問答無用の一撃。その一撃を食らえば、 「くぅ……!」 「莉那ちゃん、回復するよっ!」 「傷癒術じゃ!」 アリステアと瑠琵の回復が必要なほどのダメージを受ける。この二人の回復がなければ戦線はとうに崩壊していたといってもいいだろう。 戦況はまさに一進一退。剣戟が響く中、銃弾と魔力弾が飛び交う。フィクサードが回復の使い手を集中して狙い始めれば、エレーナが気の糸を放つ。一筋の糸が複雑に絡みつき、フィクサードの動きを絡めとる。 「大人しくしてくれないとこまるの」 これにより回復役への攻撃数が減ることで、回復手への火力が不足することになった。 エレーナ以外のリベリスタたちの火力は九条に集中する。九条はそれをかわし、受け止め、あるいは食らう。 「最速の力舐めんなよ」 最速が生み出すアッシュのナイフ。その速度に翻弄され、また九条の傷が増える。 「お前が言う男道とやらを光弾で埋め尽くして飾ろうか」 フィクサードから飛んで来る魔力弾を横に飛びながら、一樹が弾丸を放つ。コウモリの羽を広げ跳躍にブレーキをかけ、安定した体制で銃を連射する。まさに道を埋め尽くす光の弾だ。 「あ、ちょっと皆。わたしにも少しは殴らせてくれないと、やーよ?」 スピカがバイオリンを奏でる。展示室に響いた弦の音は、戦闘中でなければ皆耳を傾けただろう美しい旋律だ。その音が生み出す魔力の弾丸。それが九条を穿ち、紺色の着流しに赤い染みを作っていく。 「強いと聞いていたけどここまでとは。燃えてきたね」 りりすの言葉と同時、3人のソードミラージュが動いた。 九条を囲み、棒の動きの隙をついて圧倒的な速度で迫る。莉那が地を蹴り通り抜けざまに九条の脚を切り裂けば、りりすのバスタードソードが振り落ろされる。棒のガードを潜り抜け、九条の肉を裂いた感覚が剣越しに伝わってくる。 「うぉ……!」 崩れ落ちる九条。集中砲火が功をなした。糸が切れたように崩れ落ち―― 「へっ、楽しい喧嘩じゃねえか。もう少し楽しもうや!」 「なんと! げに恐るべき執念じゃな」 崩れ落ち、ない。運命の天秤はまだ傾ききっていないようだ。そんな九条の哄笑に、瑠琵が驚愕の声を上げる。 「任侠って奴かい? 誇りも度胸もある野郎が美術品泥棒たあ世知辛いじゃねえか。 ここらでぱっとでかい花でも咲かせちゃどうだ、生き死にかかった仇花って奴をよ!」 アッシュがその懐に入る。ナイフがZを描くように動き、離脱と同時にもう一閃。 「ここまでか、ちくしょうめ」 パチン、とアッシュがナイフをホルダーに収める。 その音と同時、九条は今度こそ崩れ落ちた。 ●拳を収めて ――突如、視界が暗転する。天井の電灯が一斉に消えたのだ。おそらく警備室を制御していたフィクサードの仕業だろう。同時にあわただしく駆け抜ける音。 リベリスタたちがあらかじめ用意していた照明をつければ、九条以外のフィクサードは全て撤退していた。一歩も動けないのか、九条は仰向けになって床で倒れている。 「負けちまったか。でもまぁ、楽しい喧嘩だったなぁ」 その九条は、床に伏して負けを認める。それでもその顔にはやり遂げた笑みが浮かんでいた。 「マムシについて何か知ってるなら喋ってもらおうか!」 莉那が倒れている九条に向かって詰問する。 「そいつは言えねぇな。お嬢さん。日陰者にも義理はあるんだ。 いずれイヤでも耳にすることになるさ。そん時までいい子で待ってるんだな」 (……これはただの先触れ。もっと大きな何かが来そう……そのときに最後まで立っているのはどちらかしら) エレーナは皆と撤収の準備を進めながら、九条の言葉に言葉無く問いかけた。答えはない。それは自ら掴み取るべきことなのだ。 「で、オレをどうするんだ? 捕まえて拷問か? それともここで殺すか?」 九条はリベリスタたちに向けて言葉を放つ。自分はフィクサード。犯罪者だ。アークの理念を考えれば、どう扱われても文句は言えない。 莉那がナイフを取り出そうとするのを、りりすが制した。 「咲けば散るのが華なれど。自ら散らすなど無粋の極みって話だろうよ」 「殺さないってか? 甘いねぇ。ここで命奪っとかないと後悔するぜ」 「『僕』は『喧嘩』をしにきたんでね。 プライドの問題なんだよ。その辺は。自分にも相手にも負目をつくりたくはないのさ」 「なるほどね。……次は負けねぇぜ」 倒れたまま九条は拳を突き出す。その拳にりりすが拳をかつんとぶつけた。 リベリスタたちは九条を捕縛して、撤収する。 美術館に潜入された後はあるものの被害が何もないため、あまり大きな事件にはならなかいだろう。 しかし、アークから見れば事件の本質はそこではなかった。 「おそらく、本格的にフィクサード達が動き出したのね……」 スピカの言葉は皆が感じていることだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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