●再び、流転する……! 緑薫る五月の空が――駄々っ子がバケツを引っ繰り返したような記録的な大泣きを見せたそんな良くある『記録的観測』の夜に一人の少女がこの世界に降り立った。 「……! ……………!」 活発そうで美しい少女の顔立ちに怪訝な色と混乱を乗せて。何事か聞いた事も無いような言語で短く鋭い言葉を吐き出した。 彼女は確かにこの世界にとっての異物であった。彼女が降り立ったのは薄紙一枚を神経質に張り巡らせた歪な世界(チャンネル)なのである。全く頼るべきも持たず、全く変容に耐性を持たぬに関わらず、在るべき姿に縋る世界(ボトム)なのである。 「……、……………」 人間とハッキリと違う特徴は垂れる程に長い尖った耳である。 線の細い華奢な姿、短めの髪。見慣れぬ弓を持っている。まるで『ファンタジー』から抜け出してきたような彼女を一言で語るならつまりはそういう事なのだろう。 ――エルフ―― その発祥は兎も角として、特に日本のサブカルチャーが嫌という程語りに語ったそのステータスは成る程、誰かが夢に見た通りの姿である。 果たして少女が口の中で何事かを唱えると光り輝く小さな少女の像が夜の闇に姿を結んだ。発光し周囲を青く照らす今度はまるで『妖精』のようなそれを伴った少女は暗闇の中にその身を躍らせる。 少女は何かに追い立てられているかのように焦っているようにも見えた。 見知らぬ異世界に足を踏み入れたからという理由はあるだろう。しかし、本質はそこには無い。何故ならば今、そのあどけない顔に思い詰めた表情を貼り付ける彼女の背後には未だ世界と世界を繋ぐゲートが開いていたのだから。 そう、少女は『戻る事は出来た』のだ。最初から。 然程の時間も置かず――同じゲートをくぐり少女の消えた公園に現れたのは何れも隆々とした巨体を誇る少年達だった。赤黒い肌と異常に肥大化したその両腕は圧倒的に人間離れしており、否応無く目を引く特徴だろう。 「……!」 「!」 「!!!」 意味は分からぬまでも――何処か物騒な『言語』が夜に踊る。 『鬼』ならぬ俗説的な『オーガ』に近いその姿は、全く先の少女の姿とは重ならないものではあるのだが。その内の一体――槍で武装した『リーダー格の少年』は鼻をひくひくと蠢かせ、彼女が消えた闇の向こうへ小さな影を追うように駆け出した。残る面々も続く。音も無く。 丘の上広場の大穴。もやもやと引き歪む空間は世界の不安定な造形を嘲り笑うかのように奇妙な程の安定を見せている。吹けば消えてしまうような世界と世界を繋ぐ扉が全く揺らぎ無くそこに在る。この夜はボトム・チャンネルに新たな難題を突きつけようとしていた。 世界の大いなる特異点――流転する運命を吐き出す舞台の名を『神奈川県立三ツ池公園』という。 ●レベル・イエロー 「禍福は糾える縄の如し。はてさて、今回のお客様はどっちでしょう?」 「……見ての通り。この世界に二種七人のアザーバイドが紛れ込んだ」 この日ブリーフィングに集まったリベリスタを出迎えたのは何時もの『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)に『戦略司令室長』時村 沙織(nBNE000500)を加えた合計二名であった。 「占ってみましょうか。あはは、塔しか出ませんけど!」 「占いは兎も角、ちょっと珍しい状況だ」 アシュレイを制するように言った沙織はリベリスタに視線を投げる。 「珍しいって言うと?」 「まず、連中の通ってきたディメンション・ゲートの所在地だが……これは三ツ池公園から発生してる。より正確に言うなら丘の上広場」 「……それって……」 「そう。要するに『閉じない穴』そのものがリンク・チャンネルに変化した」 「……つまり、壊せないゲート?」 「そういう事だ。万華鏡の有効探査範囲は『この世界の一地域』……つまる所、日本国内に限定される。穴の向こうの様子は全く分からん。それがどんな世界だかも、どんな状況だかもね。ハッキリしている事は穴のこちらと穴の向こう――この二つの世界はリンク・チャンネルが再度何らかの変化を起こすまでの間、強制的な接続状態を余儀なくされるって事だ」 溜息を吐く沙織に小さく唸るリベリスタ。 リベリスタは沙織の言わんとする所を明敏に察し、沙織も又彼の言わんとする所を明敏に察した。深刻な表情を並べる彼等の一方でどちらにも完全にスルーされたアシュレイが「わぁ、塔ですねー」等とタロット遊びをしているが、それは完全なる余談である。 「見ての通り、既に穴の向こう側からアザーバイドが出現してる。三ツ池公園界隈は神秘的に不安定過ぎて万華鏡をもっても完全な予知が難しい。探査射程外のアザーバイドの動きを水際で食い止める事は出来なかったが、現時点で動きを見せているのはモニターの中の七体のみだ。女の子は仮に『エルフ』と呼ぼう。もう一方……六体も居る男の個体は『オーガ』だ。正式名称は知らないがね。どうもこの二種は何れも明確で高い知性を持ち、比較的人間に近い――比較的、ね――個体みたいだね。断片的にしか聞き取れなかったがタワーオブバベルで分析調査した所によれば女の子は『逃げなくちゃ』、男の方は『捕まえろ』……に近い意味の言葉を呟いてるね。見ての通りの分かり易い図式なら俺の苦労も大分軽減されるんだけど」 小さく肩を竦めた沙織はやや皮肉な言葉を吐き出した。 彼の性格と流儀を考えればそれは既に二元論で善悪を定めたい事件なのかも知れないが、世の中は往々にして単純な認識を引っ繰り返すものだ。可愛い顔をした毒婦がたった今、カメラ目線でピースをしているのと同じように。 「まー、アザーバイドはこの世界の住人ではありませんからねー。 あっちの世界は元より、どんな思考回路をしているかも、どんな事情を持っているかも全く不明ですから。単純に決め付けて行動する事は難しいです。しかし、アレです。女の子が現代社会を逃げ回り、男の子達が追い掛け回したりしたら騒ぎが大きくなりますし、一層の面倒が生まれないとも限りません。大本のリンク・チャンネルに対する有効的対処は今の所存在しませんから、まぁ。付き合いが長くなる可能性は否めないでしょう。そこでアークとしては状況的に『保護』しやすそうな女の子に焦点を絞ってアプローチし、情報収集を図る……という作戦を決めたそうです」 「保護……」 「はい。『エルフ』はフェイトを持っています。それと『オーガ』の内の一体も。 くれぐれも強調しておきますが、ちなみに沙織様の趣味ではありません」 「混ぜっ返すな。見た感じの気質からしても置かれた立場にしても妥当だろうが。 事情や状況はちょっと読めねぇが『オーガ』が『エルフ』を追跡している以上、高い確率で交戦が発生する可能性は否めない。『オーガ』についても可能なら捕獲が出来れば望ましいが……但し」 「但し?」 「手加減出来る相手とは限らない。命の危険を感じた場合は、通常の戦闘処理を優先してくれ。捕獲出来るのが一番だが、自分で言って何だが、正直これは難しいだろう。 ……やれやれ、鬼が片付いたと思ったら今度は洋物か。 休めない仕事ってのはお互い難儀なモンだよな――」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月21日(月)22:39 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●異分子、それも二種 酷く静かな夜であった。 つくづく神秘と縁の強くなった横浜市内のその日本庭園には複数の気配が蠢いている。 何かが起こりそうな夜だった。 気のせいか風がざわつき、五月にしては幾分か肌寒く感じられる空気が頬を撫でている。 月の見えない夜だった。 年恰好もなりもバラバラ。声も無くお互いに目配せを済ませ頷き合うのは、何処か現実感の無い衣装や装備に身を包む少年と少女達である。 現実と非現実を分かつ線(ライン)は事の他曖昧なものである。 多くの人が必ず来ると思っている朝も、無条件に続くものと信じ切っている日常も決して担保されているものでは無い。 有り得ないと思う程に――事実有り得ないタイミングで運命はその信頼を裏切るのだ。良くも悪くも変わり得ない現実は無く、例えば何ら変化を受けなかったとしてもそれは変化を受けないという確率論を引き当てたに過ぎないという事だ。 丁度、この日本庭園を取り巻く空気が――普段のそれとは全く姿を変えているのと同じように。 「異世界の来訪者が一気に二組か。正直崩界を進めるのならどちらもご退去願いたいが……」 「ビーストハーフだ何だとアークに入ってから色々と非現実的なものを知ったが、知った当初の気持ちを思い出すなぁ、これは……」 その柳眉を顰め少し難しい顔を作ったアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)にしても、相槌を打つように呟いた『セール・ティラユール』草臥 木蓮(BNE002229)にしてもその声色には僅かな苦笑いが混じっていた。 「えるふ……それにおーが……昔読んだ絵本そのままの世界じゃな、めるへんちっく!」 黒々とした夜の闇に『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)が飲み込まれた。年嵩の割に随分と可憐な声で呟いて、その猫耳をぴくぴくと動かした彼女は見通せない闇の向こうを見通そうとするかのように大きな瞳を僅かに細めた。 「……とはいえ、現実に現れるとなると頭の痛い話じゃ。言葉の壁を何とか乗り越えて、穏便に行けばいいんじゃが……」 「エルフさんもオーガさんもきっと何か事情があるんだよね、きっと」 自身の言葉に同じように猫耳をぴこぴこと動かした『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)にレイラインは「うむ」と鷹揚に頷いた。 「あたし達にも都合はあるけど……でも、みんな仲良く出来たらいいね!」 性善説……を信じたいティセの言葉は穏やかで多くに友好的な彼女の気質を良く示している。 「うむ。この世界に愛された両方と仲良くなりたい。 少々きな臭いご様子だが、もし二つの種族が争いをしているのであれば解決の糸口になりたいと――そう思う」 そしてそれは多くの過酷で残酷な現実をその両目に焼き付けられながらも、その心に楔と打ち込まれながらも『健気』と言うべき純粋さと瑞々しさを失わない『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)も又同じであった。 「ボク達『ボトム』の住人が介入していいものなのかはわからないが……」 「……現状では……まだ彼らを何者とも判断する事は出来ません。 最初に接触する私達が彼等へ与える心象次第で、彼らは善にも悪にも変ずるでしょう」 言葉を付け足した雷音の一方で『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)の調子は冷静そのものといった風であった。同じ少女のなりでも随分と違うトーンの冴にした所で今夜と――それより先が荒事ばかりにならない事は強く祈っているのだが。 「願わくば志を共にする同胞となる事を――」 「……さてどうしたものでしょうか。色々と想像は広がりますけど、まずは現状の確認といきましょう」 『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)の言う通り、不確定性の未来を孕んだこの夜はまるでシュレーディンガーの猫である。 エルヴィン・シュレーディンガーの唱えた量子論による思考実験は実に有名なものである。或る状況下に置かれた箱の中の猫の生死が確実な時間経過と確認をするその瞬間までは重なり合う形で共存している事と同じく。何れにせよ結論が出るまでは運命は気まぐれに変化するもので――その一部を神の目で覗き見て、干渉を加えようとするリベリスタ達をしても容易く解し得るものでは無い。 全員が夜の闇に動き出す前の刹那の猶予に状況を整理する言葉が並ぶ。 「一つ。この日本庭園の何処かに二種のアザーバイドが活動している。 一つ。我々はその内、識別名『エルフ』を保護する任務を帯びている……」 三ツ池公園の『閉じない穴』から二種のアザーバイドがこの世界を来訪したという情報をアークが捉えたのは幾ばくか前の話である。『エルフ』に『オーガ』は戦略司令室が便宜上名付けた仮の名称であるが、少なくとも外見から受けるイメージを十分に捉えている名称である。五月の言った『エルフ』は『オーガ』に追われているらしい。二種のアザーバイドに想定される性質と状況から『エルフ』側を組し易し……否、保護するべきと考えた時村沙織の判断に拠り、十名のリベリスタ達は『彼女』の保護を第一目標としてこの場所に派遣されたという訳だ。 「しかし、状況上『エルフ』に対する形で活動する識別名『オーガ』との戦闘の確率は高い……」 五月の言葉にリベリスタ達が頷いた。 戦略司令室がほぼ不可避と考える『オーガ』との紛争ではあるが、一同は異界の住人と接触する為に特に集められた部隊である。 「ルメは灯りを持って『オーガ』の方を探してみるの。まずは『エルフ』を追いかけている事情を聞けば何かが分かるかもなの……」 「うん。今日はあたしも完全シリアスで行くッスよ。上から探せば少しは見つけやすいかも」 『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)、『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)、雷音といった面々は『タワー・オブ・バベル』や『異界共感』といった能力を有し、言語の通じないアザーバイドとの意思疎通手段を有していたし、究極的な意味では『状況と事情次第ではオーガに味方しても良い』と考えているルーメリアや計都をはじめ――パーティは極力戦闘の可能性を減じさせる手段を考えていた。 「ああ、追われている身というのは気にかかる所だな。詳しく話を聞けたらいいのだが」 「オーガが何を理由にエルフを追っているのかは分からないが、穏便に解決出来るならそれが一番だぜ」 ルーメリア、計都等のやり取りにアルメリア、木蓮が頷いた。 「これよりエルフとオーガそれぞれへ二組に分かれて接触。両者への状況説明及びエルフの保護……といった所かの」 任務に臨む彼女等パーティの作戦はレイラインの言う通り。大枠で単純である。 ルーメリア、レイライン、木蓮、冴、五月、計都、アルトリア等『主力』は積極的に『オーガ』を索敵し、接触する事で彼等を足止め(ないしは交渉)し、雷音、ティセの二人はその間に『エルフ』に接触し、保護を狙うという寸法。特に千里眼を持ち広い視野で探索をカバー出来る『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)はその双方をサポートするという形になるだろうか。 何れにせよ『オーガ』が何らかの感知能力で『エルフ』を追う以上、長い猶予も無ければ『オーガ』を完全にかわせる目も低いと言えるだろう。 最終的な確認を終えた面々は黒々とした闇を称える梢の向こうにその身を躍らせ始めた。 「まったく……」 涼子の声は幽かでまさに溜息にも似る。 「汝、隣人を愛せよ――なんて。迷惑な話に違いないけど」 彼等はあくまで招かれざる客である。されど同時に――この世界に招かれてしまった隣人に違いないのであった。 動き始める夜の束の間の静寂を惜しむように涼子の青い瞳が揺らめいた。 「いるべき場所も、たよる相手もないってのは、わたしにだって分かるさ。だから、思い入れもないじゃない。 古くて笑えないだじゃれみたいに最初で最低のコンタクトにならないといいね――だれにとっても」 ●シュレーディンガーの猫が笑うI そこに在るものを在ると識(し)る―― 三千世界の真実を掠め取る神の目は本来交わらぬ運命さえ時に容易に捻じ曲げるものである。 本来ならば関知出来よう筈も無いこの夜の出来事を或いは当事者よりも的確に理解したリベリスタ達の尽力はこのボトム・チャンネルの『土地勘』をも生かして十分な成果を挙げていた。 「こんばんは、ボクはこの世界の住人だ。名前は朱鷺島雷音という」 即ち――雷音とティセの二人は他のリベリスタの動きをアシストにして『オーガ』に先んじる形で『エルフ』に接触する事に成功したのである。 「ボクはアークという、君たちのような世界の迷い子の案内をする組織のものだ。よければ話を聞いて欲しい」 雷音の言葉は普段彼女が当然のように操る日本語に他ならなかったが、その実唯のそれでは無い。 彼女の操る言葉は概念として万物に通じている。言語であるより先に驕った人が神罰を受けるより前の――神代の音となって夜に響く。『タワー・オブ・バベル』を有する雷音の言葉は異界の言葉を操る『エルフ』にも完全に通用するものである。 『話を? 私を捕まえる気じゃないでしょうね?』 「そんな事はしない」 小さく首を振った雷音に少し不思議そうな涼子が問い掛けた。 「……通じてる?」 「うむ」 雷音の超感覚を確認するかのように『雷音の言葉は分かる』彼女は尋ねた。 「信じてくれるといいけど……」 「うむ。頑張るのだ」 頷いた雷音は緊張の表情を浮かべたまま『この世界の住人』に視線を注ぐ『エルフ』に武装を解除して見せ、笑顔を向けている。 (エルフと言えば森なのだ) 彼女は油断なく自分を見つめ、弓に似た武器を構える『エルフ』が何故この日本庭園に逃げ込んだかを考えた。 それは些か短絡的で月並みな発想と言わざるを得ない所なのだろうが、大きく間違っては居なかった様子である。木を隠すには森の中……では無いが雷音は彼女なりに『エルフ』の好みを考えたのである。果たして『エルフ』が木々を好むからなのか、隠れやすく逃れやすい場所だと考えたからかは定かでは無いが。 (やっぱり、『オーガ』は『エルフ』を見つけられるみたいね) 機転を利かせ先に『オーガ』を探索し彼等の進行ルートを探索ルートに利用したのは涼子である。 彼女の千里眼によるサポートを受け、庭園の中でも樹木の多い辺りを中心に探索した一行は素早く『エルフ』と遭遇するに到ったのである。 『来ないで!』 「仕方ないと思うけど、それはそうよね」 強い警戒の色に涼子は肩を竦めて呟いた。 首尾良く『オーガ』に先んじて『エルフ』と遭遇出来たのは朗報だが、今も事態は進展している筈である。『エルフ』が素直に状況に従ったならば話は早いが、どうにも目の前の少女は極度の緊張と興奮に気を昂ぶらせているようにも見えた。 (酷く疲れてる。それに怯えてるのかも知れない) 恐らくは『敵』に長く追い回されているという事情は涼子も十分に知る所である。 彼女は何が起きても咄嗟に対応出来るように油断無く神経を尖らせながら何かと一生懸命に話しかける傍らの雷音の言葉を聞いていた。 「大丈夫だ。君がいいというまで近づいたりもしない。 よければ、君と、そちらの妖精さんの名前が聞きたい。名前を知ることはお互いを理解する最初の階だ」 『……』 「……なんて、建前はどうでもいい。ボク本人はは君と友達になりたいと思ってここにきたのだ」 『……エウリス……』 「む」 『名前。エウリス・ファーレ。ヨウセイって何?』 穏やかに話しかける声色、少女の姿が安心を誘ったのか、『異界共感』が奏功したのか。 元々、気楽で人懐こい気質だからかは定かでは無いが幾らかのやり取りの後に『エルフ』ことエウリスは短く端的な言葉で雷音に応え始めた。 「そのそこで青く光っている子なのだ」 『ヨウセイが何かは分からないけど、これはフィアキィ』 エウリスは少し不思議そうに言葉を返した。 彼女の言う『固有名詞』が何を意味しているのかは知れなかったが――そこはお互い様という部分であろう。 「ボク達にはちょっと特別な力がある。誰かの事情をある程度理解する手段があるのだ。 ……詳しい事は分からないが、エウリスが誰かに追われている事は知っている。何か事情があるなら話を聞かせて欲しい」 「わたしたちはアンタらのことを知りたい。あいつ等に簡単にアンタを引き渡す心算は無いから」 それだけは伝えて欲しい、と告げた涼子に頷き雷音が短く通訳する。 エウリスの態度は相変わらず状況に対して恐る恐るといった空気を持っていたが――ややあって彼女はその薄い唇を開いて言葉を紡ぎ出した。 『……あいつらはとっても野蛮なの。いきなり現れてラ・ル・カーナをみんな滅茶苦茶にして――』 全く聞き覚えの無い言葉の響きに雷音と涼子の二人は顔を見合わせた。言葉の意味は分からなかったが通訳を受けるまでも無く彼女がどういう感情を抱いてそれを言っているかは顔を見れば分かる所であった。それは恐怖であり、怒りである。 『私は境界線であいつ等に会っちゃって、それで走って逃げたら気付いたら不思議な場所に出て……それで……』 「それは大変だったのだな」 雷音はうんうんと頷いてエウリスの拙い説明に応える仕草をした。 (……『エルフ』の世界に『オーガ』が現れた? 逃げている間にリンク・チャンネルを通過してしまった……?) 雷音の通訳を受け、涼子は頭の中で情報を整理する。確かに彼女の言葉から一定の状況を推察する事は可能である。 但し、実際の所、混乱の強い彼女の語る『事情』は酷く断片的であり、当を得ない。 (出来れば『両方』から話を聞きたいけど……) そう考えながらも涼子はエウリスに理解したという素振りを見せた。当然彼女はエウリスの置かれている現況を百パーセント理解出来ているとはとても言える状態ではなかったが、そうする事で彼女が幾らか安心する事は事実である。 「もう大丈夫」 涼子の言葉は直接通じるものでは無かったがエウリスは彼女の言わんとする所を何となく察したらしかった。 見知らぬ世界で混乱に陥っていた少女は見る間に落ち着きを取り戻していた。この世界の『水先案内人』を自称する二人に害意が無く、むしろ自分を助けてくれようとしているという意図を持っているという事は短いやり取りでも十分に伝わったからである。 「君に、いや君『達』に何かの事情があるなら場合によっては助けになれるかも知れない。 いや、とにかく、この場は危険なのだ。まずは一緒に移動して……」 雷音が一歩エウリスに近付いた時、涼子の表情が鋭く引き締まった。 咄嗟に背後を振り返り、鋭い視線を向けた彼女の動作に殆ど間を置かず、静寂を破る轟音が面々の鼓膜を激しく揺らした。 「……始まったみたいね……!」 涼子は咄嗟に得物を抜き、まだ見ぬ『敵』に構えを取る。 『エルフ』を探した二人がエウリスを見つけたという事は、堂々と夜を闊歩する『オーガ達』をその他のリベリスタが見つけられない道理は無い。 二人がエウリスと一定の相互理解を出来たのは想定の内だが、一方で目的を邪魔する形で遭遇したリベリスタ達が『オーガ』の勘気に触れるのもやはり想定の内である。 一方の事情を聞いた所で結論は出ない。 しかし、やはり波乱は避け得ぬ夜……という事なのだろうか―― ●シュレーディンガーの猫が笑うII その箱の蓋を開けた瞬間、予測は観測となり事実と成る。 「……っ、お願い、貴方達と争う気はないの。武器をしまって!」 判断材料を持たぬ可能性は最初から五分を示してはいたが、悲しいかな。結末は常に芳しいものとは限らない。 「ルメは、貴方達が『彼女』を追いかけている理由を知りたいだけなの――」 『タワー・オブ・バベル』による交信対象は二つ。一つは『エルフ』。一つは『オーガ』。警戒心を上手く解き、掻い潜る事に成功した『エルフ』側に比べ『オーガ』と接近遭遇する事になったリベリスタ達の状況は到底上手くいっている状況とは言えなかった。 「私達にはこの場であなた方の行いの是非を判断出来ません。 私達の代表と、女、そしてあなたの三者で話し合いたいと思いますが如何でしょうか?」 ルーメリア、計都の通訳を介した冴の冷静な言葉、 『邪魔をするな――!』 呼びかけの多くにも答えは実に短絡的で直情的なものだった。 (やはり、簡単には難しい……) 見知らぬ土地で見知らぬ誰かに複雑な何かを伝えられたとしても素直に理解する事は難しい――それは冴の当初よりの想定であった。 ましてや対象が理由如何に拠らず自身等を妨害する存在ならば――見るからに『粗暴』な気質を持つならば尚更である。 猛り、昂ぶる『オーガ』達は多くの言葉をかわす事を望んでいるようには見えない。 再三声を張る面々は極力『話し合い』での解決を望んでいたのだが―― ――待たれよ、異界異形の御方よ! 我はこの日ノ本の地を守護せしアークが防人、九曜計都! 異界の影は、この世に崩界をもたらす。即刻立ち去られよ! ――遭遇の時、朗々と声を張った計都には結果的に誤算があった。 第一にそれは『オーガ』達は狩る者であったという事である。 第二に『オーガ』達は彼女が、リベリスタ達が思う程、言葉によるやり取りを悠長に行おうとする性質では無かったという点である。 計都はその心算は無かったが「立ち去れ」という強い言葉と自身等を阻むように現れた複数の影に彼等は大いに激昂した。 「貴公らは、その長耳を連れ帰るが使命と申すか。 然らば、理由を聞かせ願いたい。貴公らに義があるならば、我らとて合力するに吝かでは無い!」 『うるさい!』 ……計都の声然り。リベリスタ達が加えて言葉を投げたとしても、例えそれが『場合によっては協力しても良い』という好意的な言葉だったとしてもである。猛る彼等は長く聞く耳を持つ事は無かったのである。 ――ちょっとお話を聞いてください~ 言葉の通じる通じないを気にしないティセの『ボディランゲージ』が却って多少通じた気もする位である。 「追ってる理由によっては、部下の代わりに協力してあげられるかも知れないのに……」 「むぅ」と小さく唸るティセが困ったようにぴこぴこと猫耳を動かした。 しかして彼等は性急である。 『エルフ側の事情を聞いてから』というリベリスタ側の理屈は理解しないし、元よりリベリスタ達の介入を求めてはいない。むしろ疎んでいると言える。 持って回った長口上が通じやすい相手では無かったという部分も小さくは無い。 同時に殆ど全く分かり易く態度そのものであったから意味があったとは言い難いのだが――その能力を良く理解せぬ連中の『心を覗いた』のも火に油を注いだと言えるのかも知れないが。 どうあれそれすら『些事』に捉える『オーガ』達は理屈をこねる事は無い。 『俺達を除きたいならば力尽くでやってみるがいい!』 吠えたリーダー格の少年に得物を手にした『オーガ』達が快哉を上げた。 降って沸いた『闘争』に爛々と目を輝かせる巨躯のアザーバイド達はこの上ない歓喜の色をその口元に貼り付けていた。目の前で自分達を阻まんとするリベリスタ達の『実力』を本能的に察しながら――否、察しているからこそである。 『オーガ』達の数は六、リベリスタ達の数は八。 異世界の住人の在り方を知らないのはお互い様だが、多少の『不利』も気に留めては居ない。 リベリスタ達は極力『オーガ』との闘争を回避する方向で話を進める事を計画していたが、彼等はその逆だった。 「……う、これはまずい空気なのじゃ」 「言葉は通じなくても、笑顔はどんな世界でも共通なはずじゃ♪」――そう言ったレイラインの『笑顔』が剣呑な空気に硬く引き攣っている。 「話が出来ないというのはこう言う時もどかしいものだな。 刃を交えれば分かるものも確かにあるのだが、言葉を交わして理解できるのに越したことはないのだが――」 これまでは盾のみを構え、様子を伺っていたアルトリアではあったが――『オーガ』達が次々と吠え、得物を天に突き上げる段になれば状況は分かる。夜よりも深き闇を纏った彼女は向かってくる『オーガ』の一体をブロックし、その一撃を受け流した。 済し崩し気味に始まった『戦い』にリベリスタ側は幾らか面食らった状態である。彼等の想定ではもう少し『話』が通用するという部分はあったのだが――悲しいかな『話し合い』は双方にその心算が無ければ成り立つものでは無い。 静かな夜の空気を荒々しい荒事の気配が攪拌する。 怒号が、得物同士が噛み合う剣戟が響き、轟音と化す。 「……ま、まさにオーガって体つきだな、一撃が、お、重い……」 土をめくり上げた激しい一撃にMuemosyune Breakを構えながらも撃たない木蓮の表情が引き攣った。 「ええい、敵意なんざ無いんだから分かれよ!」 思わず抗議めいた声を上げる彼女である。鋭い牙の並ぶ大きな口を開け、生臭い息を発する彼等には到底通じていない。 「あー、もー、畜生! 龍治ぅ」 「……これはっ……!」 戦意の低い守勢のリベリスタ達に対して苛烈に襲い掛かるオーガ達に状況を支えるルーメリアが目を見開く。 状況上、話し合いで戦いを回避するのが不可能な段に入った以上、已む無しという部分である。 「全くっ……手の掛かる連中じゃな……!」 振り下ろされた戦斧の一撃をひらりをかわし、身を翻したレイラインが鋭い視線をリーダー格の少年に向けた。 今回については『殺さない事』を優先するレイラインは彼等の戦意を奪う事こそが重要と考えていた。鮮やかな技量でステップを踏み、彼に肉薄した彼女の一閃が繰り出されるが―― 「――にゃっ!?」 ――敵もさるもの。意識の中で『殺すまい』と考えた一撃は人外の怪力膂力に簡単に弾き飛ばされ彼女の小さな身体は大きくバランスを崩す。そこへ攻めかかる別の『オーガ』の一撃を無理な体勢ながら捌き切ったのは流石と言える所だが、さしもの彼女も鼻先を掠めた刃には幾らか肝を冷やした所である。 「そっちは殺る気たっぷりなのじゃー!」 些か不公平な展開である。戦意という面で全力で倒しに来る『オーガ』にリベリスタ側は手を焼いていた。 『戦いを舐めるな。本気でやれ! だが、お前はいいぞ!』 「にゃあああああ!?」 『動きのいい』レイラインに一斉に注目が集まり、彼女は何となくそれを理解した。 リーダーの少年の叫びを意味として解し得たのはルーメリアと計都の二人だけであったが――少なくとも二人はこの期に及んでも殺し合いを極力避けんとするリベリスタ達に彼等が酷く不満を持っている事を理解した。 「真面目そうで意外とカッコイイかも。……ちょっと乱暴だけど」 「所謂、一つのバトルマニアってヤツなの……! 要するに手段と目的が既にバッチリ入れ替わり済みってヤツなの!」 言葉とは裏腹に強力な直観力で彼等を見極めるティセが唸り、ルーメリアの言葉にリベリスタ達は認識を共有する。 事ここに到れば彼等の気質は知れる所である。元より彼等は強敵による邪魔が入った事を得難い好機としていたのだろう。 強力な敵という障害、存在を『楽しんでいる』ならば悠長な『話し合い』に興味を示さなかったのも頷ける。 話を聞いて欲しいならば、取り敢えず鞭が必要……全く世の中には有り触れた……そして困ったタイプである。 「いってぇ……ッ……!」 重い一撃を受けて悲鳴めいた木蓮、 「ええい、押し通るというならば、我らとて大人しく道を譲る訳にはゆかぬっ!」 その背の小さな翼で夜に舞う計都が声を上げた。 彼女の一言は『戦闘開始』の合図である。 「是非もなし」 全く冷静にそう呟いたアルトリアは汗で額に張り付いた金色の髪の毛を指で軽く払い上げた。 「ことこの期に及べば、どうあれ事態を動かす部分にはなるだろう」 その隆々たる肉体をはち切れんばかりに漲らせ、地面より土石を舞い上げる者あり。 的を選ばずその破壊的な武器の威力をぶつけてくる者あり。 唯でさえ困ったタイプが強力で強靭ならば問題はより重く、深くなるというものだ。 状況が『決裂』と判断するには遅過ぎる位で――その点に異論のあろう者は無い。 それでも『組織』足る彼等の動きはあくまで『オーガ』を殺す心算の無いものには違いなかったが――正直な所を言えば沙織が先に告げた通りである。アザーバイドの実力は高く、その底が知れない以上は過ぎた手加減等しようにも不可能という事だ。 「――降り掛かる火の粉なら払わざるを得ないのです!」 愛らしい顔立ちの上に乗る可愛らしい眉をきっと吊り上げてティセが一声を上げた。 『まるで』猫のようにしなやかに素晴らしい速度で飛び出した少女は両手のクローに青い雷を溜め、 「行くよーっ!」 文字通り疾風迅雷の如き華麗な武闘を展開する。 『……! ……!』 目前に立つ『小さな』少女に『圧倒』された『オーガ』達がざわめく。 見目に可憐なティセの予想外とも言える強烈な攻撃はリベリスタ側の反転攻勢のいい号砲になったという所か―― 「続けて行く」 この隙は逃さず。アルトリアのレイピアの切っ先が突出した『オーガ』の姿を指し示す。 中世は拷問具の名を冠する戒めの黒い霧は一瞬で彼を取り囲み、苦痛なる箱へその巨体を押し込めた。 「そんなにご所望なら、是非もなし。申し訳ありませんが殴り返します」 キッパリとした五月の一言は薄々この状況を予感していたかのようである。 「正直言って話聞かないような相手なら殴り合うのも良いと思うんですよね、私」 線の細い少女のような見た目からは連想出来ない程度に鮮やかな結論を述べたメイド服姿の『少年』に続き、 「では――ここからは私の正義への信念と剣で語りましょう。蜂須賀示現流、蜂須賀 冴。参ります!」 鬼丸を抜刀した冴が気持ちよく暴れる『敵』の懐へ飛び込んだ。 裂帛の気合の込められた五月の掌打が込められた気の残滓を迸らせる。 「チェストォォォォ!」 鋭い呼気と共に放たれた冴の斬撃は苛烈な雷光を纏い、夜に青白い軌跡と華を咲かせていた。 硬質の音が鋭く噛み合い、彼女と『彼』の得物が絡む。彼等の性質を何となく理解し『決闘』を所望した冴が狙うのは当然リーダーの少年だった。 『……! ……!』 「そうだ! それでこそ……」 言葉を解する二人のみならず、燃え上がるような歓喜の色は誰にも伝わってくる。 鍔迫り合う両者の体格は圧倒的に違い過ぎる。二人の膂力の差も又然り。 技量、器用さの上ではさて置いて。精鋭と呼べるリベリスタよりも尚『強い』彼等である。 押し込まれた冴の片膝ががくりと落ちるが、これは彼女の誘いだった。やや前がかりになったリーダーの勢いを引き込む事で上手くいなし、彼女はこの状態を脱出していた。 リベリスタ側が応じれば戦いはすぐに激しさを増していた。 「しっかりしてなの――!」 リベリスタ側の強みは聖神の奇跡をこの夜に降り注がせるルーメリアの存在。 一方で『オーガ』達は互いを支援するような動きは見せなかったが、強靭な肉体は簡単には傷付かず、己で体力を取り戻すのだから性質が悪い。 「いけぇっ!」 比較的近距離で火を噴いた木蓮の火砲を恐らくはそんな武器を見た事も無い『オーガ』が弾き飛ばす。 夜をつんざくような轟音に大声を被せ、得物を上段に振り上げた。 「任せろ」 短く呟き間に割って入ったアルトリアの黒い大盾が繰り出された強かな一撃を辛うじて受け流す。 彼女の柳眉の歪んだ訳は少なからず痛んだその身体を意味する所。 結論から言えば『オーガ』達は強力であった。その芸当の方は見るからに分かり易く『ただ戦うだけ』といった風情だが、単純な能力こそ時に非常に厄介となる事をリベリスタ達は知っていた。数でこそ一人上回っている状態ではあったが戦いが進めば彼等は自ずと傷み出した。最初から『殺し合い』の心算で臨めば或いは五分に近い戦いになったのかも知れないが――状況の不利は否めない。 どうする、とリベリスタ側が思案した瞬間にアクセス・ファンタズムが合図を鳴らしていた。 「……頃合ですね」 大きく肩で息をしながらもその調子は最初と変わらず、涼子よりの通信を確認した五月が短く言った。 リベリスタ達は猪突猛進といった風情の『オーガ』達に比べて作戦行動に長じていた。元より彼等の目的は目の前の『敵』を屠る事では無くこの夜のもう一人の主役になる『エルフ』を保護する事であった。 『戦いに背を向けるのか!』 リーダーの少年が激するが、雷音、ティセ、涼子等がこれを果たした以上――リベリスタに戦いを続けなければならない理由は無い。 戦闘に強靭な『オーガ』達だが搦め手に優れているとは言い難く、逆にリベリスタ側の陣容は彼等の追撃を阻止するだけの技量を持っていた。 「今回も一筋縄で行きそうには無いのぅ……」 ひらひらと敢えて的になるレイラインが激する『オーガ』達を引きつけた。 アルトリアのスケフィントンの娘が彼等の動きを縛り、リベリスタ達は波が引くように夜の向こうへとその身を躍らせていく。 『……! ……! ……!』 聞き取れない言葉、理解出来ない言葉が何事か大声を上げている。 到底完全な解決と結論を見ない横浜の夜の出来事は、アークとリベリスタ達がこれから直面する『新章』の訪れを告げていた―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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