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【寓話】手に入らないものは、必要ないものだ

●怪人ルサンチマン
 人は、手に入れられない理想を時に歪め、攻撃対象として強く認識することがある。
 それは対象を強く知るが程に強く意識され、結果的に強い攻撃衝動を生み出すと言って良い。
 同時に、それが手に入らない、という状態が強いほどに攻撃衝動は比例して強くなる。
 以上二つの観点から、より知己の、より遠い存在に対しての怒りが最大限になる、という事が理解できただろう。
 無論、「すっぱい葡萄」における狐と葡萄の関係にもそれが当てはまる。「葡萄は甘い」という知識と「どうしても届かない」というギリギリの遠さが為す結論は、「あの葡萄は酸っぱいものだ」という反動形成的な攻撃衝動である。
 これを精神学的には「合理化」と呼び、自己正当化の手段として度々語られるものとして有名である。
 具体例は数多く存在するが、倫理的観点から省く。

 さて。
 合理化を効率的に行うには、強い感情――羨望や嫉妬を持つ事が大前提だ。
 即ち、その対象がより大きく、より強く、より広くあることを合理化しようと思うなら、それは根本否定にほかならない。
 度の過ぎた『ルサンチマン』は、それだけで、世界を呪う害悪なのだ。

「幸せそうな人々は、きっと何かを犠牲にしてきたに違いない。美しい世界なんてあるわけがない。きっとドロドロとした悪意であるに違いない。優しい人は人の心を踏みにじるのが得意に違いない。違いない、違いない、チガイナイ……」
 靄のかかった視界の中に現れる平和な現実、幸せな風景。それらすべてが自分の知らないものだとすれば、それらすべては非実在なのだろう。

 だから。
「ありえないものは きえるしか ない」
 世界を自分好みに、自分の知る「現実」に置き換える――最大効率の不幸の具現を。最悪衝動の世界の終わりを。

●世界嫌いの挽歌
「人間の精神、表層化させることのないドロドロした欲求を俗に『エス』と呼びます。これを社会倫理の観点から表層化させ、自分を納得させる手段として『防衛機制』があり、根本的な精神のブレーキになっている……と」
「俺達は心理学のお勉強をしにきたわけじゃない。事件なんだろ? それも割と面倒な」
 ジト目を向けるリベリスタに、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は僅かに細めた視線を返してから、一冊の本を取り出した。
 それには、一切の記述がなかった。一滴のインクも無い、ただ「それらしく」装丁されただけの絵本もどき。
「この本は、『自己防衛の写本』と呼ばれるアーティファクトです。所有者のエスを吸い上げ、防衛機制を形成する精神を増幅・誘導し、対応する童話や寓話の類を写しとることで対象を革醒させるシロモノです。現在までに確認されているのは三冊、回収済みが二冊。これにより革醒したのは何れも年端もいかない少年少女であることを鑑みるに、それらの方が都合がよく、適合し易かったと考えるのが適切でしょう。推察されるに『編纂者(コンパイラ)』という単語、というか人名が関わっていると思われます。……で、今回対処してもらうノーフェイスは現在未回収のものとは別のものであり、『合理化』の防衛機制を表面化させたノーフェイスであると考えられます。『潮崎 海人(しおざき かいと)』……彼も、若いですよ。幼いと言った方がいい。細かい事情は伏せますがね。『幸せな人々はそれだけの犠牲を払った』、『美しい世界は悪徳を隠蔽している』……ある意味では正しいのかも知れませんがね。自らの味わってきた現実と世界との乖離を、強引な手段で合理化しようとしている。今まで確認されたノーフェイスの中では確実に力押しの部類に入るでしょう。『世界の上書き』、或いは『単純な破壊』を繰り返すタイプです。出現箇所は住宅街近傍、深夜帯です。とり逃せば被害は馬鹿になりません。警戒だけは、怠らぬよう」
 静かに頭を下げると、夜倉は資料の束を軽くめくった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月16日(水)23:48
 心理学用語って結構面倒ですね。
●エネミーデータ
『理を利する罪』潮崎 海人:13歳の少年。外見は年齢相応、言葉や思考も同様だが、既にエリューションとして相応の攻撃衝動を獲得している。攻撃力・WPは非常に高い。
・握縮領域(神遠範:ブレイク、致命)―空間の『書き換え』を意図した空間圧縮によるダメージ攻撃。
・情念反転(神近単:怒り、不運、麻痺のうちからランダム2つ)―人間の精神を反転させ、悪意や雑念を表在化させる。
・格闘(物近単:ダメージ大)―単純な力による近接戦闘。その分、威力は高い。
・EX 合理世界(神遠全 仔細不明)

●戦場
 深夜帯の住宅街入り口。ある程度の戦闘では人は集まりませんが、激化することを想定した対策は必要です。

 決して単調でも簡単でも無いですが、ご参加頂ければ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
メアリ・ラングストン(BNE000075)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
ホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
インヤンマスター
風宮 紫月(BNE003411)
ソードミラージュ
災原・闇紅(BNE003436)
ホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
■サポート参加者 2人■
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)

●Le Fantome:ressentiment
 人間の不満というものは、理想と現実の乖離が生み出すものであることは誰の目にも明らかだ。
 だが、理想の礎となる現実を知らない人間にとって、噴出するべき不満は耐え忍ぶべき当然として存在し、それを敵愾心として持つこと事態が疑念でしかないのは当然の道理として存在するだろう。
 故に。現実を知った途端に相応の理想を手にし、現実の浅はかさに絶望し、その差異を埋める手立てが人成らざる神秘に頼ることでしかないとしたら。
 人でなしと罵られることの何処に、少年が悲しみ、常識であったことを悼む思考が生まれるというのか。

「……ただ戦うなら、必要はないと思います。知りたい、と思うのは私の我儘です。ですが…彼を殺しに行く人間として、知りたいと」
 そう言って、自らが対峙する敵の事情について踏み込んだのは『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)であった。相対した予見士からすれば、厄介でもあり、ある種の安心感を思わせる言葉でもあったに違いない。何しろ、彼女がその身内と精神構造が類似しているというのなら、関わった以上は理解せねばならぬ、という一種の義務めいたものを持っていても可笑しくないと考えたからだ。
「今までの、と言っても紫月君は知りませんか。『自己防衛の写本』なんて異物に手を染める少年少女達です。世界にとっては人並み程度、彼らにとっては世界最悪唯一の悪意に意識全てを持っていかれた、全くもってあたり前の不孝者ですよ。潮崎 海人は、語るべくも無い程に無知な純粋培養をされた、というだけの話で」
「言葉を飾ったところで、只の癇癪起こした駄々っ子か」
 努めて言葉を飾り、曖昧に誤魔化そうとする声を遮ったのは『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)だった。彼女の言葉は、自らと世界の敵にはどこまでも厳しい。裏を返せば、それだけ彼女にとって世界と仲間を傷つける相手が許せないということでもあり、普通の枠内を踏み外したエリューションにかける情けは無い、という証明でもある。尤も、それを聞いた相手が肩を竦める様は、理解というより触らぬ神になんとやら、の領域だったことは否定出来ない。

「土建屋の時村組じゃー!緊急工事ぞよっ」
「めんどくさいけど……コレも仕事だしね……もらう報酬分は働くわ……」
 リベリスタ達の行動は早くから始められた。
 経験則、というよりはその性格上。集団における牽引役として機能する『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)の姿は道行く人々にとって奇異に映った可能性は否定できないが、声を張る彼女を前にして露骨に異を唱える人間など居ようはずもない。
 傍らで酷く気怠げに作業を行う『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)にとっては、戦う事以外にリソースを割くことは、実の所余り好ましいものではない。だが、それでも依頼は依頼であり、行動に移さなければならないという面はある。
 黙々と動く『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)にとっても、決して気楽な戦いでは無いことは確かである。義憤と勇猛に身を置く『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)を恋人に持つ彼女にとって、彼が多少の無理をしてでも戦うことは目に見えていた。その結果もある程度は予測できた。なればこそ、下準備も、実践での支援も、十全に行わねばならないという思いはある。
 斯くあるモノマは何をしているかといえば、現在周囲の住宅にポスティング――ポストへのビラ投函を率先して行なっている状態だった。工事の張り紙と合わせ、周知徹底には十分な効果を及ぼすであろう其れは、下地作りとしては申し分無い行動といえるだろう。

「また『自己防衛の写本』なのね」
 困ったものだわ、と誰へともなく口にする『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)には、件のアーティファクトの製作者に対する明確な敵意が見え隠れする。当然といえば当然か。アークのリベリスタを二度に渡り退けた少女もまた、その犠牲者だった。製作者、引いてその少女にたどり着くための導であるならば、この戦いを退く道理など無い。


「随分とお若い方もいらっしゃるのね。大丈夫なのかしら……?」
「事務職や知人も駆り出されているんです、不景気ですから」
 だが、流石に見た目だけ見れば子供、華奢な女性も混じっているのは否めない。通りすがる人々の反応も様々だが、『八咫烏』宇賀神・遥紀(BNE003750)はそのあたりのフォローも万全にこなしてみせた。
 所詮は一度の邂逅、一晩の幻想。一度煙に巻いてしまえばどうということはない。

 戦場として構築するには十分すぎる時間だった。待ち構えるには十二分に猶予はあった。
 故に。
 遥紀が結界を生み出すに足る状況、近づけさせぬ異常はその地に現れ、空気を牽引する。
 戦場の、空気へと。

●Theorie de la necessaire:ideal
「世界が、どうだろうと。どうなろうと。どうしようと。この子は変わらず世界を憎み続けると思うけどね」
 自分が言うのだから間違いはない。自分のためにだけある願いが、然し世界の在り方で変わるわけがないではないか。『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は、人間として欠けた様々なものを差し置いても尚、「それらしい」。
 世界の在り方に左右されるような能力であれば、そんなものはエリューションとしては三下以下だ。自らへの強制力をもったそれが、世界が等しく不幸になった程度で弱まったりするはずもなし。
 まかり間違って幸福に身をやつしても、根本的な命題は解決できぬままに終わるだろうに。それを欺瞞と、人は言うのだ。

 住宅街も、リベリスタの周囲も、完全に闇に落ちた深夜の路上で、熱に浮かされたようにふらふらと近づいてくる影がある。成る程、年齢相応に矮躯なその少年をして、凶暴性を理解するのは簡単ではないだろう。
 だが、左腕を僅かに突き出して握りこんだ一挙動で、アスファルトが僅かに削れ、空間にヒビがはいったような音が響き渡れば、それを気のせいや幻視の類と考えるには余りに無理があったことは確か。

「……こんばんは、こんな時間に出歩くのはあまり関心しませんよ?」
「誰だ、アンタは」
 ゆるりと少年の前に姿を表した紫月に、しかし少年の言葉はにべもない。一言、それどころか一挙手一投足にすら怒りと悪意が垣間見えるその姿はやはり、ノーフェイス特有の異常性をありありと感じさせた。
「見つけたぞよ~。辻切りならぬ辻治療じゃ。神妙に心の歪み癒させろぉ~」
「……!」
 だが、そんな問答すら許さぬように、彼の視界を光が覆う。メアリが即座に灯したそれに怯んだ隙を逃すことなく、リベリスタ達は一瞬のうちに布陣する。異常を察知して手を突き出した姿勢のまま、しかし海人はその指を握りこむことを許されない。
「喚いて満足したなら自分を否定したらどうだ?」
 寸暇をおかずして切られたユーヌの呪縛の印は、彼の反応速度を上回り、不意打ちに近いタイミングで発動する。ただでさえ回避に困難を要すその一手が、反応する暇も与えられなかったとなればそれは確定的に狂暴な効果を持ったことと同義。
 嘲るように間合いに踏み込んだ闇紅がステップを踏み、挑発的な視線を向けた様を海人が見逃すはずはない。だが、今の彼に対処する手立てはない。
「欲しい物が手にはいらねぇからクダ巻いてるだけだろ」
 闇の中、尚濃い黒を引いてその間合いに踏み込んだのはモノマだ。構え、一撃を叩き込むに十分な準備を整えた拳から放たれた一撃は、その背中を駆け上がり、電流によって息を詰まらせる。
「世界に依存するような願いではないだろう、君のは。ああ、間違いないさ」
「何が……言いたい……!」
「いやね。手に入ろうがそうでなかろうが、君は変われないし、変わる気はないんだろう?」
 自らに言い聞かせるようにそう呟くりりすの刃が更にその身を刻み、痛覚を支配する。何も知らないくせに、何もかもをも知っているような声音でささやくそれは、甘露であるゆえに毒である。事実であるゆえに、首筋に思念のナイフを突き立てられるように痛々しい。
 返す言葉は唸りと消え、それが一種の肯定といって差し支えなかったのだろう。

「手に入らないから必要ない……私は、逆の様な気がします」
 空間に守りの陣を張り、朗々と告げる紫月の姿は、既に臨戦態勢の巫女服を纏った状態だ。一瞬にして姿を変えた相手に目を剥く海人に、しかし彼女は悲しげな視線を向けるだけで応じない。応じるには、早い。そう感じたのだろうか。

「……逃さないわよ」
 魔力の巡りが最適化されるのを指先に、ひいては冷たい鎖にすら感じ取ったティアリアは、彼に聞こえない程度の声で、しかし底冷えのするトーンでその決意を口にする。此処にはもう居ない少女を追うこと。その悲劇の根源を叩き潰すこと。そのどちらもが二度、敗北を喫した己の決意の固さだと知っている。だから、僅かでも許すという感情が芽生えない。

「手に入らないとあきらめてしまったらそこで試合終了なのじゃ! 力押しだけじゃなくて頭使え頭!」
 そんな、痛切な感情が乱舞する状況下にあって、しかしメアリはいつもどおりだった。
 いつもどおり、声を張り語りかけ誰に感謝されるでもない『辻治療』がしたいがためにここにいる。その言葉を届けることで、不退転の病に少しでも当たり前の終わりが来ればいい。彼女の感情は、決して諦めるということをしないのだ。
 尤も、その声を張る間にも視線は忙しなく動きまわり、その状況を把握することを最大理念として動いているのは間違いない。
 
「君にとって、世界は優しくないかい?」
 遥紀の言葉のトーンは、寂しげにすら聞こえる。年の頃は違えど、子供を持つ身として、海人少年がどう見えたかは想像に難くない。それだけの不幸を背負った子供が、当たり前のように世界の敵になる状況。それは、彼にとってどれだけ痛々しいものだったのだろう。
 僅かに地から離れた足を確認しながら、しかし張り詰めた気を些かも緩めない。
 
「動きは止まっていますが、目が生きています……警戒を!」
 そして、状況把握という側面に於いては京一の指揮能力は殊更高く働くといってもいい。返す指先で放たれた鴉は正確にその肩を穿ち、僅かなれど確実な痛撃を重ねていく。必勝パターン、といえばそれまで。堅実であることは、しかし愚ではないだろう。

「……、い」
 だが、それが全てかといえば寧ろ逆。
 最悪の想定を怠っていれば決して対処できない最悪はそこにある。吐き出すような声音で幾重にも巻き付いた束縛と感情の嵐を弾き飛ばし、ユーヌの放った氷の拳を手首の回転を用いていなす。
 次いで飛び込んだりりすの頭蓋を打ったのは、その一撃にカウンター気味に放たれた「置く」拳。速度に任せた技の衝撃をそのまま返される重さは、りりす自身が最もよく知るそれであることは違いない。
 血を振りまいて半回転。意識が途絶えなかったのは幸いと言う他無いが、即座に対処できる重さではなかった。
「そうだよ、欲しけりゃ奪え」
 だが、血で掠れた声でなお、その憎まれ口は淀みがない。
 その言葉が、より深く、突き刺さる。

「あんた……遅すぎるわよ…そんな」
 加速し、唸りを挙げた刃を傾けた闇紅だったが、「遅すぎる」、という単語そのものを自分に返されるなどと思っても居なかっただろう。最高速の一撃は、しかしその間合いには程遠い。
 狙ったはずの間合いをあっさりと覆されるという悪夢。少年の瞳に点った悪意は、確かに先程までの比ではない。既に臨界。一方的な悪逆は、彼にとって実りあるものであるかといえば――どう、なのだろうか。

「どちらが正しいかなんて、結局解りません。ただ、私達の間で勝敗をつける事は出来ましょう」
 悪意であれとか、善意がなどとは結局は綺麗事だ。本質に到達する、出来る言葉ではないだろう。故に、紫月は自分たちのみでの決着を、と語りかける。
 未熟な感情の前には、単純な理論は賞賛される。単調な理屈は賛美される。
 在り得ないものを目にした彼に、それが何故存在するのかを伝えようとするのは難しい。幸福を否定する彼に、それを説くのは困難だ。ならば、お互いの現実を賭けるしか、或いはないのかもしれず。

 遥紀の放った天使の息とティアリアの鎧とがりりすを癒し、覆う。それでも尚肉体が癒え切らないとはいえ、相応の回復量に達したのは幸運だったか。怒涛ともいうべきリベリスタたちの猛攻が、僅かずつ、然し着実に海人の命運を削り取る。

「誰もが平等なんざいわねぇっ!
 望めば手に入るとも言わねぇっ!
 成せば成るなんざ言える訳もねぇっ!
 それでも、いつだってその殻をぶち抜いていかなきゃ先なんて見えてすらこねぇんだよっ!」
 モノマの叫びが、拳に乗って打ち込まれる。願い、戦い、貫き通した意地を叩きつけるために、ただ強く。

 リベリスタたちの拳は正しく、言葉は熱く、意思は固く思いは強い。
 故に、少年の心の殻を破るには強すぎた。少年の過ちに、その指摘は尖すぎた。信念の損傷、その閾値を超えた彼にとってそれ以上の厄災はなく、それ以下の最低はない。

 かちり、と鍵がかかる音のようなものが響き、世界が反転する。少年の腕が転がり落ちる。肉体こそ傷つかなくとも、全員が等しく、激しい損失感に目眩に似た衝撃を受けた。
 ごそりと、少年の肉体に次々と損失が生まれる。立っているのが不思議な状態。圧倒的すぎる損傷。既に意識を彼岸に飛ばしたその姿で、機械的に少年は笑う。
『損失(うしな)え、損逸(そこな)え、消滅(きえ)ろ――!』
 肉体の消耗ではなく魂の消耗を強いる。幸福を奪う合理化。
 それは正しく少年が奪いたくて、少年が見たくないものを消し去りたいと思った意思の全て。

「ゴミ掃除に悪意も何もないだろう?」
 一歩間違えば全員が膝をついた刹那で、ユーヌの左手が印を切る。酷く不恰好になってしまったその肉塊は、しかし未だに意思があり、息がある。

「願いとは己のためにあればいい」
 りりすが、踏み込む。
「そして力は己のために振るえばいい……本当は君は。誰よりも世界は美しいと。そうあって欲しいと願ってるんじゃないの?」
「、あ」
「全てが合理化された世界なんて、つまんない」
 そして壱也が、全てを否定するようにその残骸を叩き潰す。

 最大の能力が、合理化を旨とする魂が、自らの命を削るだけの遠大な自殺だった、などと――そして他者を巻き込む行為だったなどと。
 何てくだらなく、不景気で、笑えない最期。

 抱きしめる身体すら失った少年を前に遥紀は唇を噛むしかない。
 死の際に見た深淵は、余りに深い絶望だった。紫月に、それを言語化する意思はなく。

 ただ一冊、屍の跡に残された写本は当たり前のように、その姿を横たえていた。
 掴みあげたティアリアの指をすり抜け落ちたのは、海人少年だけが写った一葉の写真と。
 その裏に示された、余りに悪趣味な呼び声だったなど、笑うこともできやしない現実だった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 色々な意味で「あんまり」な結末でしたが、如何だったでしょうか。
 次は、出来るだけ早いうちにお届け出来ればと思います。
 ご参加、ありがとうございました。