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<相模の蝮>仁義一刀

●それは仁義と言う名の死出の旅
「若頭の命令は分かってるな?」
 闇の中で、男が言う。
「へぇ、勿論」
 闇の中で、男が答える。
「俺個人としては、アンタが行くのは止めたい所……なんだがなぁ」
 困ったように男が呟く。
 言葉には親愛と恩義と、少々の悲しみが含まれていた。
 その言葉を、もう一人の男が苦笑で答える。
「若頭にゃ恩義がありますんでねぇ。これも渡世人の仁義って奴でさぁ」
 古臭いその言葉に、男は幾分救われた様に溜息をついた。
 酷い話だとも思う。辛い話だと思う。
 出来れば止めたいのだ。彼は若い頃に世話になった。
 だが、止めれば彼の誇りに傷がつく。
「それじゃあ、頼む。閻魔の所で待っててくれ」
 最後の言葉と決めたソレを吐き出し、男は背を向ける。
 別れは済んのだ。
「へぇ。この毒島一刀、一世一代の仕事……勤めさせて頂きやす」
 静かに頭を下げた男の瞳には、強い炎が燃えていた。


●ブリーフィングルーム
「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」
 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が困惑した顔で呟く。
 モニターにはフィクサード事件が起こるであろう場所を示す光点が無数に点滅していた。
「今回担当してもらうのは、フィクサードによる銀行強盗事件の解決。それ以外にもありそうだけど、貴方達はこの仕事」
 モニターが切り替わる。
 映し出されたのは、某大手銀行の支店。大型の金庫を備えるそこは、確かに狙うには丁度良い場所だろう。
「フィクサードは5人。リーダー格が一人居る。多分、そいつが先導してるんだと思う」
 そう呟くイヴの目には、少しだけ疲れが見えた。
「とにかく、一つでも多く解決する事。私達はそれしか出来ないから……」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:久保石心斎  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月28日(土)01:34
毎度、久保石心斎でございます。
仁義……良い言葉でございますねぇ。
今回はその仁義を胸に刻むフィクサードが相手でございます。

●任務達成条件
 フィクサードの撃破。

●銀行
 銀行内部が主戦場でございます。
 人質は警備員が数人。縛られて居ますが、戦闘の邪魔になったりは致しません。
 警備員以外の人質は既に解放されております。
 意図的に巻き込む、と言う選択をしない限りはスキル等で人質が被害を被る事はございません。

●フィクサード:毒島一刀
 着流しに短刀(ドス)を持った見るからにヤクザ者な男でございます。
 所持スキルは……
 仁義上等:誇りを胸に見栄を切って自分を強化します。
 ナイアガラバックスタブ:超スピードで消えるように背後を奪い対象1体の首を掻き切るような一撃を加えます
 EX毒蛇一刃:腕の関節を外し、蛇の様な複雑な機動でドスを振り回します。全体攻撃です。
 怒り無効
 氷結無効
 となっております。
 全体的に能力は高めでございます。

●フィクサード:鉄砲弾
 取り巻きです。
 マシンガンを乱射して攻撃を仕掛けてくる他、毒島を庇う事もあります。
 あまり強くはありません。

●備考
 既に事件は起こっておりますが、警察よりも早くPCは到着します。
 銀行内に入るのは容易ですが何かしらの行動を起こすには時間が足りません。

さて、今回はガチバトル。
結末がどうなるかは……皆様方しだい。
宜しければどうぞご参加下さいませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
デュランダル
神楽坂・斬乃(BNE000072)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
デュランダル
一条・永(BNE000821)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
ナイトクリーク
鷹司・魁斗(BNE001460)
デュランダル
蘭堂・かるた(BNE001675)
スターサジタリー
ネル・ムーンライト(BNE002202)

●銀行内部
 その日、平常通りに営業を続けていた銀行は戦場となった。
 着流し姿とマシンガンを携えた男達が、あっと言う間に征圧してしまったのだ。
 逃げ出す客達。そして意を決して飛び掛る警備員。
 誰も必死だった。だが奇妙な事に、男達は逃げ出す者は追わなかった。
 残ったのは意識を失った数人の警備員だけ。
 当然警察に通報が為されたが、その動きは酷く緩慢だった。
「おめぇ等、銭にゃあ手ぇつけるなよ。若頭は余計な被害が出るのはお嫌いだからなぁ」
 来客用のソファーに体重を預けた着流しの男がそう釘を刺す。
 それで手に銃を持った男達が頷いた。
「解ってますよ、毒島の兄さん。俺達だって組の一員ですぜ」
 毒島と呼ばれた男には世話になったのであろう、尊敬と親しみを込めた視線を送っている。
「しかし、何も兄さんが盾にならんでも……いっそ俺が」
 やりきれない、と言った風情で近くに居た男が呟く。
 命令には従うのが下の役目ではあるが、納得出来るかは別なのだろう。
「俺ぁもう六十も過ぎた。おめぇさん達と違って今更足を洗うのも億劫でよ。まぁ、老人の我侭って奴さ」
 不器用な男の不器用な生き方だ、と呟けば男は悔しそうに口を噤んだ。
「三途渡りの六文銭もちゃあんと用意してきた。後は手筈通りやるだけだ。」
 男の肩を叩くと毒島はちらりと窓の外を見た。人が随分集まって来ている。
 その中に、アークのリベリスタと思われるグループを見つけて……薄く笑う。
「さぁさぁ、閻魔の使いの死神様が来なすった!手筈通り確りやろうじゃあねぇかい!」
 毒島は笑う。
「毒島一刀、最期の仕事だ!」

●仁義
 リベリスタの内部突入は簡単に済んだ。
 遠巻きに見物する一般人をすり抜け銀行の正面から内部へと侵入する。妨害も無ければ、仕掛けてくる気配すらない。
 ロビーに入れば、戦い易くしたのだろうか。障害物となる椅子やテーブルなどは隅へと移動されており、同時にと流れ弾を防ぐ為なのか障害物の陰に人質と思われる警備員が転がされていた。
「御当家軒先の仁義、失礼ですがお控えなすって」
 電気が消され、カーテンが閉められた薄暗いロビーに五つの影。
 それぞれが頭を下げ、肩幅に足を開き腰を落として右手を身体の中心線に下ろし、手首を見せている。
 時代の流れの中で、もはや極道でも使われる事の無くなった古い古い儀式。
 元極道である『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)はその儀式を知識として知っていた。
 仁義を切る。
 違えれば命すらも危ういただの言葉の専制をこの男は行っているのだ。それ故に、チェーンソーで切りかかろうとした『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072) を手で制した。
 「早速ながら、ご当家、三尺三寸借り受けまして、稼業、仁義を発します。手前、粗忽者ゆえ、前後間違いましたる節は、まっぴらご容赦願います。手前、生国と発しますは静岡は三高平にございます。故あって親分子分の名は明かせやせんがこればかりはご承知願いたく存じます。人呼んで毒蛇毒島。稼業、古株の人斬り者でございやす」
 略式ではあるが、一通りの言葉を持って毒島達は手を上げる。昨今、ここまで出来る者は珍しい。
「どうでも良いわ」
 興味が全く無い、と言った風情でハンドガンで肩を叩いていた『月光の銀弾』ネル・ムーンライト(BNE002202)が呟く。
 彼女は仁義と言う言葉は知っているし、理解もしている。しかし彼女はその事で心を動かす事は無い。
「こいつぁ手厳しい」
 苦笑いを浮かべて頭をはたく。
「義を持ってるものが他人に迷惑をかけちゃいけませんっ!」
 『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)が思わず叱り飛ばす。義があるからこそ人を守らねばならないと言うのが彼女の考え方なのだろう。
「へっ、どうでも良いぜ。ぶちのめすのにゃかわらねぇ」
 何処と無く怒気を滲ませながら『深闇を歩む者』鷹司・魁斗(BNE001460)が言う。
 仁義と言う物は嫌いではないが、それがこんなチンケな銀行強盗をしているのが気入らない。それが言葉尻に宿る怒気の意味である。
 各々の言葉に苦笑を深めた毒島は、その笑みのままドス抜き張った。
「お手を煩わせて申し訳ねぇ限りで。そいじゃあ一つ、お相手宜しくお願いいたしやす」
 一礼。そして顔を上げると同時に傍に控えていた四人の男達も銃を構える。
「さてはて鉄砲玉とヤクザ屋さん。そしてこのボク、都市伝説。裏社会と世界の裏、どちらの住人が強いデショウネ?」
 『飛常識』歪崎 行方(BNE001422) の呟きが会戦の引き金となった。
「それでは参りやす」
 鈍い音が毒島の右肩と肘から響く。だらりと下げた右腕が人体では有り得ない程伸長し振り回される。まるで腕から伸びる大蛇。
「来るぞ、気を付けろよ!」
 予想以上に早く切られた相手の切り札に内心の焦りを隠しながら魁斗叫ぶ。
 空気を切り裂く短刀が暴れ周り、リベリスタ達に襲い掛かった。
「くっ……!」
 『永御前』一条・永(BNE000821) が刃の乱舞の圧力に押される。いや、押されているのは皆同じか。
 毒島の振るう短刀が大なり小なり身体を傷つけてゆく。一度ではない、二度、三度鞭の様にしなる右腕が襲い掛かってくるのだ。
 右腕が引き戻される。その隙に前に出たのは魁斗と虎鐵だ。
「おぬしが、リーダー格でござるな?拙者も足を洗ったとは言え任侠者でござった…仁義を貫き通すのはこちらも一緒でござる」
「てめーの相手はオレ達だぜ」
 気勢を発し、魁斗が無数の気糸を全身から発する。
 毒島に負けじと蛇の様に気糸を襲わせ、締め上げる魂胆だ。上手く締め上げれば動きは鈍り後の戦いが有利になる。
 しかし、毒島もそうはさせじと動きを阻害する、特に右手と両足を狙った物は切り払い身体を捻って避けるべく動く。
 幾つか気糸が絡みつき締め上げるがダメージは与えても動きを鈍らせる事は無かった。
 だがその隙に虎鐵のギアが上がる。虎のビーストハーフである彼の反射神経がより研ぎ澄まされ素早く動くのだ。
「義理も人情も仁義も覚悟も、全て飲み込むのが世界の闇なのデス。さあ命を削りあうデスヨ!」
 狂気を持って行方の大鉈が閃く。オーラを纏った連撃が一閃の度に鉄砲弾の命を削る。
 しかし男は耐える。極道として修羅場は潜り抜けてきた。ここから先は相手の連撃が終わるまで耐えるだけである。
 笑みと苦悶、二つのせめぎ合いは男が膝を屈した時に終わった。
 にたりと笑みを浮かべたまま相手を見下ろす行方。しかし、その目の前を風の刃が通り過ぎる。
 慧架の放った斬風脚だ。視線を動かせば、その一撃で腹部を切られたのだろう、まだ無事な鉄砲の一人が腹部を押さえていた。
 慧架と言えば、振りぬいた脚を引き戻し古武術の構えを維持している。周囲の気配に気を配っているのだ。自己回復が出来る分、他のフォローは慧架の役目である。
 しかし、倒しきれなかったのか腹部を押さえた男がマシンガンを片手で構えなおし、行方と慧架を射程に捕らえる。
 そして引き金を引こうとした瞬間、かるたの双刀の乱舞が男に襲い掛かった。
 防御様の短剣まで用いた二本の刃が舞踊り、容赦無く相手を切り刻む。それが止めとなったのか男は倒れたまま動かなくなった。
「手加減している余裕は無いので」
 そう呟くかるたの背後では永が遠心力で破壊力を増した薙刀で、やはり別の鉄砲弾をなぎ払っていた。
 身体ごと捻った一撃は、一度だけでなく何度も男に向けて振るわれる。それを避ける事が出来ず、振るわれた大降りの一撃を受けて鉄砲弾はカウンターの向こう側まで吹き飛ばされた。
 それに合わせたのか、無数の光の弾丸が戦場を駆ける。ネルのリボルバーから放たれた星光の弾丸が鉄砲弾最期の一人と毒島に吸い込まれる様にして着弾する。
 しかし鉄砲弾はともかく、毒島は着弾と同時に後ろに飛びダメージを軽減する。
「Put Down Your Arm……動くと狙いがずれるんだけどねえ」
 ぼそりと呟いたその声は、何処と無く不満げだ。
「あんたにあたしの一撃を止められるものか!」
 チェーンソーのエンジンを全開に、轟音と共に斬乃が最後の鉄砲弾に踊りかかる。
 激しく放電したチェーンソーが空気を叩き割り、鉄砲弾の頭に振り下ろされる。高速回転した鎖が髪を巻き込み、頭蓋骨を砕いて脳漿をかき混ぜた。
 即死だ。元々体力を削っていたとは言え、デュランダルの本気の一撃に耐えられるほど強くは無い。
「やれやれ、全滅かい」
 困った困った、などと口にしながら毒島はさほど困った様子も見せずに短刀を構える。ぐるりと周囲を見渡して……唐突にその身体が消えた。
「虎の旦那と狼の兄ちゃんにゃ申しわけねぇですが」
 何処からとも無く声が響く。高速で移動してるからか声が彼方此方から聞こえてくる。それが細くを難しい物とした。
「チェーンソーのお嬢はあっしも名前は聞いてるんでね。早めに潰させて頂やすよ」
 その言葉が聞こえた瞬間、毒島が斬乃の背後に現れる。それに反応して反転してチェーンソーを向けるが。
「あぐっ……!」
 首筋、頚動脈ぎりぎりを避けた所を切られた。この一撃はどうやら相手に出血状態を与える付随効果があるらしい。威力もある。危険だ。
 毒島が追撃に入ろうとした瞬間……魁斗が作り出した死神のカードが毒島の肩口を切り裂いた。
「…てめーらの目的は一体なんなんだ?本当に金か?」
 カードを投げつけたままの体勢で魁斗が問う。腑に落ちない事だらけで相手の目的が解らないのだ。
「さぁて、あっしに勝てたら話すか考えてもいいんですがねぇ?」
 笑みを浮かべてみせる毒島は、その一撃で斬乃から離れた。
 そこに切り込んでくる虎鐵。大上段から振りかぶる隙の大きい攻撃を放つ。流石にそれは当たってやれぬと、毒島はさらに一歩後ろに下がった。
 しかしそれはフェイントだ。己の気を爆発的に高め、次の一撃を強化する為の布石。
「流石に……覚悟を決めた任侠は強いでござるな……さて、そろそろ攻めさせてもらう!!」
 カッ、見開いた虎鐵の左目は青い。その青い光の尾を引きながら毒島を睨み付けた。
 絡み合う視線。だがそこに隙が生まれた。
「アハハハハ!強いデスネ命賭けデスネ楽しいデスネ!アハ、アハハハハハ!」
 狂気の笑みと共に行方が切り込む。気を込めた大鉈が毒島ごと床板を粉砕すべく叩きつけられる。
 しかし、如何なる運命の悪戯か、その一撃外れた。一歩にも満たない半歩だけ横にずれたのが奇跡的に攻撃を避ける軌道だったのだ。
「あぶねぇあぶねぇ」
 笑みを浮かべたまま行方に視線を向ける毒島。だが、一対八の現状では気が抜けない。現に慧架の掌打が迫っている。
 緩慢な動きのそれは容易に見切れたが、続く構えの意味までは悟れない。
 続けてかるたが二刀による連続攻撃を仕掛ける。
 幾つかを短刀で迎撃するが、大部分が毒島の身体を傷つけてゆく。
 手ごたえは薄いが確実に追い詰めていっている。その感覚だけを頼りにかるたは連撃を続ける。
 呼吸が苦しい。そう思った瞬間に薙刀の突きが割って入った。永が連撃を引き継いだのだ。
 間合いの長い薙刀の払いを避けるのは至難の業、まして空間が限定される室内では扱いづらい分避けづらい。
 それでも毒島は致命的な一撃だけは避けて見せた。
 だが、避けた先に弾丸が置かれていたとは気づけない。膝を打ち抜かれ動きが鈍る。ネルはしてやったり、と笑って見せた。
「あんたに侠気があるのなら!あたしたちに見せてみろーっ!」
 放電し続けるチェーンソーが振り下ろされる。斬乃の反撃を毒島が武器を持たない左腕で受ける。チェーンが骨まで達し、耳障りな音が周囲に響き血飛沫が周囲を赤く汚した。
「くっ、こいつぁまた……」
 苦痛とも苦笑とも言えない表情と共に呟く。だらりと下げた左腕はもう使い物にならないだろう。治療しても、動くかは怪しい。
 それでも毒島は動く。最後の一撃とばかりに右腕の間接を外し、伸ばした腕を振り回す。
 だが、それでも怯む事無くリベリスタ達は動く。
 魁斗が作り出したカードが首筋を切り裂き、虎鐵が青い瞳を爛々と輝かせ袈裟懸けに切り裂き、行方の大鉈が吹き飛ばす。
 慧架の炎を纏った掌打が打ち込まれ、永とかるたの乱舞が切り刻む。ネルの銃弾が脚を打ち抜き、完全に動きを止めた所で斬乃のチェーンソーが左腕を完全に切断した。
 猛攻、お互い後が無い故に全力を持って相対する。
 それで雌雄は決した。
「あっしの……負け、ですねぇ」
 呟いたその声は、それでも尚強かった。

●侠客の最期
 片腕を完全に無くし、もはや己の脚で立つ事も出来ない毒島は壁に背を預けながら崩れ落ちた。それでも視線はリベリスタに向かっている。
「こんな真似をして、一体何になるっていうの?」
 チェーンソーのエンジンを切りながら斬乃が問う。
 もっともな疑問だ。不可解な事が多すぎる。何より、銀行から金を持ち出された様子が無いのだ。
「こっちとしちゃ、新しく入ってきた連中にシノギの邪魔されちゃ敵わねぇんでさ」
 純粋な、まるで思い切り遊んだ子供の様な笑顔は、己の最期に付き合ってくれた者達への感謝か。生命力の強さは流石フィクサードだろう。
「本当は悪事に染める前に止めてこそ本当の義ではないのでしょうか……」
 慧架が呟く。義とは正しい事、決して悪を為す事ではないはずだ。そう知っているからこその言葉である。この男は間違いなく義を知る人間なのだから。
「そうでござんすね。ですが、あっしら任侠もんが通すべき仁義とお天道さんの下で胸を張って生きてるお宅らとは別なんでございますよ」
 足を洗うにゃ遅すぎた。そう小さく呟いたのが聞こえた。
 もう力が入らないのだろう、震える右手で短刀を握りなおしながら毒島は笑った。
 先ほどとは違う、諦めきった者が浮かべる疲れた笑みだ。
「さて、そろそろ頃合でさ。最期に一つ。カウンターの所まで吹っ飛んだ若い衆ですが、お宅らの事、報告に戻ってやす。あっしはその時間稼ぎでございやしてね。申し訳ねぇですがここでおさらばでございやす」
 言うや否や、握った短刀を己の腹に突き刺す。
 それが止めだった。消えかけた命の火はそれで完全に消えた。
 沈黙が降りる。誰もが口を噤んだ。
「こんなもんだよな……任侠モンの最期なんてよ……本当に馬鹿な生き物だよな……本当によ」
 その中で最初に呟いたのは虎鐵だった。
 元極道の彼は、こんな死に方をした者を多く見ていた。だから、立ち直りは早い。
「オレは煙草が吸いてぇ…さっさと帰ろうぜ?」
 魁斗の言葉で、ようやく皆が動き始める。
 こうして、事件は終わった。しかし、これが始まりなのかも知れない。そう予感させる事件だった。
 最後に永が、死んだ毒島達に向けて手を合わせ……リベリスタ達は帰路につくのであった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
完成と相成りました。
毎度、久保石心斎でございやす。

楽しくも難産でございました。
書けば書くほど書きたい物が出てくる。
良い事ではございますが、削る部分もあって少々残念でございました。

はてさて、<相模の蝮>仁義一刀はこれにて終焉でございます。
次に皆様との縁がある事を祈りまして……