● あの人は、わたしをあっさり捨てた。 初めて出会った時は、迷わずわたしを選んでくれたのに。 用が済んだらポイ捨てされるだなんて、思いもしなかった。 捨てられた時、わたしはすっかり空っぽで。 あの人は、そんなわたしを振り返りもしなかった。 とても悲しくて、すごく頭にくる。 ――捨てられたのは、わたしが空っぽだから? 見てらっしゃい。このまま終わるもんか。 もう誰にも、わたしのこと、空っぽだなんて言わせない。 絶対に、見返してやるんだから。 ● 「今時、山の中にゴミ捨ててく奴とか何考えてんのかね……」 眉を寄せて呟いた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、リベリスタ達の視線に気付くと「悪い、こっちの話だ」と言って任務の説明を始めた。 「今回はE・ゴーレム八体の撃破が任務になる。 まだ犠牲者は出ていないが、放っておいたらそれも時間の問題だろう。 皆には、速やかな対処をお願いしたい」 数史の言葉に、リベリスタの一人が頷く。黒翼のフォーチュナは、手の中のファイルをめくってさらに説明を続けた。 「E・ゴーレムの元になったのは、山のハイキングコースに捨てられたプラスチックの弁当箱だ。 もっと具体的に言うと、食い終わった後のコンビニ弁当とかそういうの」 ブリーフィングルームに、微妙な沈黙が落ちる。 「そんな顔するなよ……革醒しちゃったんだから仕方ないだろ」 リベリスタ達の反応を見て、数史は困り顔で頭を掻いた。 「E・ゴーレムたちは、山に来る人間を襲って弁当を奪おうとする。 自分らを捨てた人間たちへの恨みもあるし、カラになった中身を詰めたがってるわけだ」 このままでは、ハイキングに訪れた一般人が犠牲になってしまう。 人が少ない早朝のうちに山に入り、E・ゴーレムたちを残らず倒してほしいと、数史は告げる。 「E・ゴーレムを誘き寄せるには、弁当を持って山に入る必要がある。 奴らは八体いるし、それぞれで料理の好みもあるみたいだから、なるべく数や種類を揃えておく方が確実だな」 誘き寄せるのに失敗してしまうと、戦うどころの話ではなくなってしまう。 皆で分担して、E・ゴーレム達が満足する弁当を持ち寄らなければならない。 今回は、弁当の準備も含めて任務なのである。 「――無事に終わったら、そのまま山で弁当食って帰るのも良いんじゃないかな。 ちょうど天気も良いみたいだしさ」 もちろんゴミは持ち帰りな、と付け加えて、数史は説明を終えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月08日(火)23:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 抜けるような青空。清々しい山の風と、朝の澄んだ空気。 少しばかり時間は早いが、絶好の行楽日和である。 ハイキングコースとして整えられた山道を、リベリスタ達が歩いていた。 「皆で弁当を持ち寄ってのハイキング……少し、少しだけ楽しみだなっ」 初めての経験に心躍らせながら、『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が呟く。少しだけ、を強調する彼の本心は、表情が物語っていた。 今回の任務は、弁当でE・ゴーレムを誘い出し、それを撃破すること。 当然、E・ゴーレムを倒した後、弁当はリベリスタ達の腹に収まる予定である。 戦いが終った後、リベリスタと弁当が無事であれば、だが。 ――ここで、彼らが持ち寄った弁当を紹介しておこう。 何しろ、今回は弁当の数がただ揃っていれば良いというものではない。中身が何であるかも、非常に重要なのである。 「じゃじゃーん! これが私の『おかん弁当(茶)』でーす☆」 そう言って弁当箱を差し出したのは『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)。 直後、「私おかん違いますけど。独身ですけど」と付け加えるのは忘れない。 家庭料理を中心としたおかずは、一見すると茶色尽くしで彩りには欠けるものの栄養満点。 「根が大雑把な性格なもので、こう……きゃわゆい盛り付けとか色彩とか、難しいんですよねー。 ――焼く! 詰める! 喰う! みたいな」 『いかに効率的にご飯を詰め込めるか』というコンセプトで作られた弁当は、育ち盛りの高校生男子も大満足のボリュームである。 お次は『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)の『オムライスおにぎり弁当ヘルシー女の子向け』。 チキンライスをハート型の卵で包んだ可愛らしいおにぎりに、ブロッコリーや人参グラッセといった野菜たちで彩りが添えられ、女子が喜ぶ見た目と健康にも気を使った一品に仕上がっている。 さらに戦闘で中身が零れて崩れないようにと、タッパーにしっかり詰めて防御も完璧。 ステンレスの弁当箱にエビチリ、カレー風味の野菜炒め、ペンネアラビアータといったピリ辛おかずが所狭しと並ぶ多国籍弁当は、『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)曰く『電子レンジフル活用の冷食手抜き弁当』とのことだが、なかなかどうして立派な見た目。 ご飯代わりとして別の段に詰めた『サルサソースぶっかけタコス』は(好物ということもあって)真面目に作られており、これなら「女子力ってなんだっけ状態」とか謙遜する必要はないように思える。 そして、『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)が持参したのは定番のサンドイッチ弁当だ。 タマゴサンド、レタスハムサンド、ハムチーズサンドといった紅茶処特製のサンドイッチ達が、使い捨ての弁当パックの中にぎっしりと詰まっている。 『フラッシュ』ルーク・J・シューマッハ(BNE003542)もサンドイッチを持って来ていたが、それ以上に力が入っていたのは何段ものボックスに詰まったたくさんの果物。オレンジ、キウイ、リンゴにバナナ――皮を剥き、一口大にカットしたフルーツがよりどりみどりである。 「……アップルラビットにも挑戦してみたけど……うまくできたかな?」 ずらり揃った兎リンゴの出来栄えもお見事。 兎と豚、表情豊かな二体のパペット人形と、それを操る無表情な少女――という異色の三人(?)、『ゴロツキパペット』錦衛門 と ロブスター(BNE003801)の弁当は『錦特製 遠足弁当』。 ハンバーグやタコさんウィンナー、オニオンリングやオムレツといった子供に人気のメニューをたっぷり詰めた賑やかな内容だ。こちらも、添えられた小さなタッパーには兎リンゴ。完璧である。 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)の弁当は、平たい蓋の弁当箱に海苔やおかずで絵を描いたいわゆる『キャラ弁』である。表面はパンダで、裏面は友人(名前はあえて出すまい)の似顔絵というまさかのリバーシブル仕様。これはすごい。 一方、風斗の弁当はいたって男らしい。アルミ製の大きな弁当箱いっぱいの白いご飯におかかのふりかけ(梅干しじゃないのは弁当箱に穴があくからだろうか)、シンプルイズベスト。弁当箱を包む風呂敷も良い味を出している。 とにかく、色々な意味で文句無しのラインナップである。 ルークが思わず「……ちょっと食べてもいい?」と呟くのも、無理はない。 万が一にも一般人を巻き込まぬようにとプレインフェザーが人払いの結界を展開した後、リベリスタ達は弁当を手に敵を誘き寄せにかかった。 「あ、せんせー! スポーツドリンクはジュースに入りますかー?」 インドア派を自認するユウも、美味しいお弁当があるとなれば話は別。 ピクニック気分を存分に楽しむ彼女の明るい声に続き、風斗が風呂敷包みの弁当箱をこれ見よがしに掲げながら口を開いた。 「あー、お腹空いたなあ。そろそろお弁当にしようかなあー!」 少し離れた茂みから、がさり、と音が響く。 瞬時に身構えたリベリスタ達の前方に、プラスチック容器のE・ゴーレムたちが姿を現した。その数、八体。 敵が残らず出現したことを確認したリベリスタ達は、事前に取り決めた作戦通りに動き出した。 ● E・ゴーレムたちは、全力でリベリスタ達との距離を詰めてくる。 飛来する弁当箱を真っ直ぐに見据えたルークは、そっと彼らに語りかけた。 「……迎えに、きたよ」 同時に、仲間全員に翼の加護を施す。 攻撃の精度を上げるべく脳の伝達処理を高めたプレインフェザーが、怒り心頭といった様子で向かってくるE・ゴーレムたちを視界に収めて口を開いた。 「山は綺麗でキモチ良くてイイよな。……だから、ポイ捨てなんて言語道断」 「まぁ事実、捨てる人が一番悪い」 自らを速度に最適化して身体能力のギアを大きく高めた翔太が、仲間達と距離を開けながら言う。 仮に革醒が避けられなかったのだとしても、このように捨てられなければ、E・ゴーレムたちも人間達を恨まずに済んだはずだ。 改造小銃“Missionary&Doggy”を携えたユウが極限の集中で動体視力を高め、フリフリのエプロンに三角巾という装いのとらが体内の魔力を活性化させる。これでガスマスクさえなければ、背の翼で低空を舞い、癒しのマイナスイオンを振りまく姿は非常に愛らしいのだが。 同じく、弁当箱の腐臭対策にガスマスクを装着したうさぎが、E・ゴーレムに突撃する。 「味は兎も角見目に凝ったキャラ弁ですよ。欲しい人います?」 うさぎのさらに前に出た風斗が、全身に破壊の闘気を漲らせて叫んだ。 「さあ、オレのボリュームたっぷり弁当を食いたいヤツはどいつだー!」 前衛たちが弁当をちらつかせて挑発する中、錦衛門とロブスターが翔太に自分の弁当を投げ渡す。 「ヘイパス!」 「落すなよ! 絶対落すなよ!」 それを空中でしっかりキャッチした翔太は、傍らの木を蹴ってジャンプの軌道を変え、ルークに迫る弁当箱を強襲した。 「このままルークの前の敵から行くぞ」 事前に睨んだ通り、敵の狙いは自分のより好みとする弁当に見事にバラけたらしい。 弁当を受け取った翔太に二体、錦衛門とロブスター達を除く全員に一体ずつ、E・ゴーレムが接近する。 爽やかな朝の空気に、洗っていない弁当箱の強烈な腐臭が混ざった。 「まあ気休めですけど、実利とは別に腐臭は出来るだけ避けたいのが人情!」 神秘のエネルギーを秘めた攻撃を、ガスマスクで防ぐことはできない。 しかし、うさぎが言う通り、臭いをシャットアウトするだけでも意味はあるだろう。主に精神面で。 一方、ゴーグルとマフラーで「完 全 防 備!(ロブスター談)」の錦衛門とロブスターは。 「くっさ! くっっさ!!」 「耐えられん……」 操り手の少女がまるでノーガードだったのが災いしたか、思い切り喰らっていた。 悪臭のあまり動きを止めてしまった彼らを見て、ルークがブレイクフィアーを輝かせる。 砲台の役割を担うユウが、全ての敵を射線上に捉えた。 「敵味方の数は同じですから、集中攻撃で片付けたいですね」 “Missionary&Doggy”の銃口から連続で放たれた光弾が、弁当箱を次々に射抜く。 翔太と目標を合わせ、死の刻印を弁当箱に打ち込むうさぎの後方で、とらが天使の歌を響かせた。 「そんな中身のない連中に負けちゃらめぇ~!」 なかなか上手いことを言う。 「人間の仕業でこうなったんだし……同じ人間として、責任持ってお片づけしてやっか」 贈り物のキャスケットに手を添えたプレインフェザーが、全身から伸びるオーラの糸でE・ゴーレムを貫く。 「折角の弁当に匂い付いたらどうすんだァ!」 そこに、弁当を手放してフリーになった錦衛門とロブスターが、口から弾丸を一斉に吐き出した。 集中攻撃で傷ついた弁当箱に向けて、風斗が“デュランダル”を鋭く振るう。 飛来する真空の刃が、まず一体目のE・ゴーレムを葬った。 ● 幸先良く敵の数を減らしたリベリスタ達は、弁当箱たちの反撃をかい潜りながら一体ずつ堅実に狙っていく。 「奪われるわけにはいかねぇ。避けれるだけ避けて守りきってみせる」 仲間の分も弁当を預かる翔太は、パックの口を開けて噛み付こうとするE・ゴーレムを剣で防ぎ、さらに宙を蹴った。アクロバットさながらの動きだが、並外れたバランス感覚を持つ彼の手にある弁当が偏ったりすることはない。 翔太の一撃を受けてよろめいた敵に向け、全身の反応速度を高めたルークが駆ける。 「……容器だって自分の為のもの。 用が終ったからって投げ捨ててちゃ、いけない。……そうだよね?」 『希望』を誓ったファイティングナイフ――“Luke”の刃が繰り出す連続攻撃が、弁当箱に止めを刺した。 戦況はリベリスタ達にとって優勢だったが、E・ゴーレムはもともとの数が多く、しかも遠距離攻撃の手段に事欠かない。運悪く連続で狙われてしまうと、耐久力に劣る後衛にとっては辛いことになる。 強い空腹感に心身を蝕まれたユウとプレインフェザーが、前衛に立つ風斗とうさぎに自分の弁当をパスした。 「中身をこぼしはしない!」 弁当の安全が第一と心得る二人は、攻撃を一時中断してそれを受け止める。 とらが呼び起こした聖神の息吹が仲間達を包み、彼らの傷を瞬く間に癒した。 「皆、頑張ってとらの代わりに働いてね~♪」 敵の注意を前衛に集め、癒し手がその背を支える。 そうやってチーム全体を守りつつ、リベリスタ達は攻撃の手を強めていった。 「オラオラオラァ!」 錦衛門とロブスターの口から放たれる弾丸が、さらに一体の敵を撃ち倒す。 執拗に弁当を狙って口をパクパクさせるE・ゴーレムに、これを迎え撃つ風斗が声を張り上げた。 「お前に食わせる弁当は無い! これは、皆で食うものだからな!!」 勢い良く振り下ろされた“デュランダル”が弁当箱を叩き落した直後、うさぎがヘッドレスタンブリンにも似た“11人の鬼”で敵の攻撃をさばく。 翔太を含むこの三人が主に敵を引きつけ、ルークととらが状態異常と体力の回復を担う限り、リベリスタ達の布陣に綻びが生じることはまずありえない。回避力の高い敵を前に長期戦になったとしても、その時はプレインフェザーのインスタントチャージがある。回復役がガス欠を起こす可能性は限りなく低かった。 「しっかり~、これが終わったらお弁当タイムだよ~☆」 応援の声とともに、とらが癒しの微風を届ける。 残る敵に向けて、リベリスタ達は攻撃に全力を傾けた。 「後片付けとお仕事はキッチリと、ですね」 ユウの連続射撃が流れ星の如くE・ゴーレム達を撃ち、うさぎが死の刻印で一体を沈める。 「亡骸はちゃんと拾って、ゴミらしく、ゴミ箱に捨ててやっからさ」 「リサイクルされりゃまた新品詰めてもらえんだろ?」 プレインフェザーが煌く気糸を伸ばすと、すかさず錦衛門とロブスターが追撃を加えた。 最後の一体目掛けて、翔太が跳ぶ。 「コイツラと同じ思いが生まれないように、少なくともここでは生まれないように…… その為に、俺は今回勝ちに行く」 決意を込めた強烈な一撃が、空中でE・ゴーレムを捉えた。 力尽きて墜落する弁当箱に向け、ルークがそっと囁く。 「……お疲れ様。ありがとね……一緒に帰ろう」 ぱさり、という軽い音とともに、弁当箱が落ちた。 ● 「生まれ変わったら、また会おうね~☆」 地面に散らばった弁当箱を、とらが回収する。洗ってリサイクルボックスに送れば、またいつか中身を詰めてもらえる日が来るだろう。 「用があるのは、中身だけだけどね♪ キャハハ☆」 笑いながら付け加えられた言葉に、弁当箱たちが一瞬しょんぼりしたように見えたのは気のせいか。たぶん気のせいだ。 ――それはさておき、待ちに待ったお弁当タイムである。 「やったー、おベントゥー☆」 「おっべんとおっべんとうれしーなー♪」 とらとユウがはしゃぐ前で、風斗が持参したビニールシートを敷く。 凍らせたお茶のペットボトルも、程よくとけている頃だろう。 「果たして無事に形や味保ってんのかなあ……」 戦闘中に預かってもらっていた弁当を受け取ったプレインフェザーが、恐る恐る中を覗き込んだ。 幸い、前衛たちの気配りのおかげで損害は少ないようである。 皆がそれぞれに腰を下ろし、「いただきまーす」と手を合わせた時、ロブスターがはたと気付いたように声を上げた。 「あれ? 俺らどうやって食うんだ?」 「主に食わせるしかあるまい」 錦衛門が振り向いた先、操り手の少女はあくまで無表情。 実際、食べる担当が彼女じゃなかったらどうしようかと思っていたのはここだけの話ですよ。 和気藹々とした雰囲気の中、リベリスタ達は弁当を広げていく。 種類が豊富に揃っているため、おかずの交換もあちこちで行われていた。 「他の人のおかずも気になるなー」 茶系統のおかん弁当を手にキョロキョロするユウに、プレインフェザーが「あたしのも食うならどうぞテキトーに」と応じる。 笑顔のユウからおかずを一品受け取り、自分も一品渡して。 「……うん。まあ……美味しい」 照れからぶっきらぼうな物言いにはなったが、こういうのも悪い気はしない。 主の口にせっせとおかずを運ぶロブスターと錦衛門が、黙々とそれを食べる彼女を見て溜息をついた。 「もーちょっとウマそうに食ってくれんかねぇ?」 それでも、やっぱり無表情。 主が早々に満腹になると、彼らは残りのおかずを気前良く配り始めた。 そんな中、ふと顔を見合わせたとらとユウが、「にひひ」と笑みを浮かべる。 邪魔をしないよう、そっと見守る二人の視線の先では――。 自分が持参した弁当のあまりのシンプルさゆえに、おかずの交換に気後れする風斗と。 そんな彼をチラリと見て、予備として作ってきたもう一つの弁当を差し出すうさぎ。 「誘き寄せの保険の為に作った予備です。食べ切れないんで困ってるんで。 何と言うか……あれです。あげます」 有無を言わせず風斗に弁当箱を押し付け、うさぎは元の位置に座り直す。 風斗が蓋を開けると、それは和風の鮭弁当だった。ご飯のみの彼の弁当と対をなすかのように、おかずだけの構成になっている。 思わずうさぎの方を見た風斗から視線を逸らし、うさぎが不自然に大きな声を上げた。 「おおー、流石ハイキングコース。結構良い景色ですねえ」 彼はうさぎに声をかけようとしたが、「うるせえ話しかけんな」とばかりに黙殺されてしまった。 満足に礼も言わせてもらえぬまま、風斗は溜息をついて鮭弁当に箸をつける。 (だが、こうして外で皆と弁当を食うというのは……楽しいものだな) 予備と思えないほど気合の入った鮭弁当に込められた真意に、風斗は果たして気付いただろうか。 お弁当タイムの後は、これもお約束のおやつタイム。 「食後のバナナと駄菓子も要る人はどうぞ。遠足の友!」 うさぎの声に、仲間達から歓声が上がる。 駄菓子はおやつ、バナナはおやつに含まれない。これ常識。 一方、厳正なる300円の予算内でロブスターが選んだのは、ベビー☆ラーメンと甘納豆。 甘納豆が予算の大半を占めている気がしないでもないが、そこはそれ個人の好みだろう。彼らの主もぱくぱく食べてるし。無表情だけど。 「……皮とかのゴミはこの袋に入れてね?」 気を利かせたルークがビニール袋を広げ、翔太がきちんと分別しつつゴミを纏めていく。 「あ、ゴミは私達の物でなくとも片づけちゃいましょうか」 こういう事例もあることですし、念の為に、と言うユウに、ルークが頷く。 「他にも山にうち捨てられたものがあれば拾っていきたいね」 元よりそのつもりだった翔太が、草むらに転がっていた古い空き缶を拾い上げて口を開いた。 「ここはハイキングコースだ、もっと綺麗にしよう。 少なくとも、これが俺達『人』に出来るあいつらへの罪滅ぼしだと思うしな」 できれば、この山を利用する一般客にも働きかけて、ゴミの持ち帰りを徹底してもらえたらと思う。 自然の美しさを保つのは、一人一人が持つ心遣いであるはずだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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