●デッドエンド世界 私達の住む世界とは別の、なんて。書き始めてみれば、そこには幻想的なロマンスに満ちあふれていそうなものだけれど。そこは。その世界は。私達の住む世界とはまるで大きく違っていた。 ひとつ、既にその世界は滅んでいる。 慈悲も何もない。ただ理不尽に、理不尽に。理由も知らずその世界は滅んでいた。 ひとつ、およそ生命と呼ばれるものはなにひとつない。 全ての生命は死に絶えている。生体活動と呼べるもの。内臓の脈動、誕生と老衰。およそ年経ていくそれらがそこには存在していない。 ひとつ、それでも人類は滅亡していない。 それは滅ぶ数年前のこと。研究により、最早自分達には未来がないと判明した時のことだ。絶望の最中に追いやられていた時のことだ。時の権力者は言った。 「イノチが亡ければゾンビになればいいじゃない」 その一言になんと世界中が賛同。死んでも生きられるオーイエー。そうして急ピッチで進められた研究はいざ滅亡しようという前日に完成し、起動。順風満帆に世界は滅んだものの、ありとあらゆる生命は存在し続けていた。彼らは死に残ったのである。 だから、この世界は今日も平和なままだ。 ●ブリーフィング入室 がらららって、ドアを開ける。そこには満面の笑みを浮かべた猫がいた。 「合コンしようぜ!!」 ぴしゃーんって、ドアを閉める。 ●ブリーフィング拘束 「いやいやいや、仕事の話だから」 閉めたドアが開いて、『SchranzC』キャドラ・タドラ(nBNE000205)が顔を出した。それならと、渋々中に入ることにする。 「いいかニャ。今回のお仕事は交流ニャ。友好的アザーバイドと親睦を深めてきてちょーらい」 アザーバイド。此処とは違う世界の住人。彼らも様々だ。自分達とそっくりな侵略者もいれば、まるで異なった化物の友人も存在しうる。常識外の存在。よって、こういった依頼も回ってくるわけだが。なんだろう、激しく嫌な予感がする。 「アザーバイドの女の子が三人、こっちに来てるニャ。彼女らと仲良くして今後の関係を良くするのがお仕事、オーキー?」 嫌な予感が増長する。そんな事言って、見た目は化物なんでしょう? 砂虫なんでしょう? 「いやいや、そんなことないニャ。ヒト型よ。ほら、その子ら皆独り身だっつーからさー。じゃあこっちもメンバー出すし、合コンしようぜーつって」 人数が足りない気もするが。 「やー、そのへんはまあいいっしょー。ほら、なんか面白そうだしニャ」 結局それか。ため息をついて、了承する。仕事ならという思いもあるが、女の子が三人。それに少し惹かれたというのもある。話して、遊んで。もしかしたら。 「ま、ゾンビだけどニャ!!」 おい…………オイ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月11日(金)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●デッドライヴィング 仲間脆いで情に厚い。 文化圏が異なれば、その価値観も自然と異なってくる。環境の違いでそうなのだから、異世界となればなおさらだ。争い合うのが当然で、仲良く出来る例の方が珍しい。だからこそ、友好的な相手とは非常に貴重なものではあるのだが。よって、死生観すらも様々である。つまるところ、死を克服する手段が向こう側にとってはこうであったというわけだ。 「合コンいいねぇ。最高じゃないか。大切なことだから何度でも行っちゃうぞ。合コン最高」 『正義のジャーナリスト(自称)』リスキー・ブラウン(BNE000746)からすれば、女性であるというだけでオーケーだ。女の子であるならば、砂虫だって可愛らしい。そうであれば、ちょっと腐っているだけなど何の壁にも当たらない。不満を言えば、それを提案した女史がここにはいないことだろうか。なんで来なかったんだろう、あの猫娘。 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は考える。もしや、この日本という国は他チャンネルと地続きになっているのではと。サブカルチャー。オタク文化。鬼、天使、吸血鬼、獣人、機械化、モンスター。次々に現れるそれらは、こちらの趣向に沿い過ぎている。果てはエルフだ妖精だ。それはそれとして、彼女らとの合コンを滞り無く運営せねば。れっつ裏方。表役はウラヤマシイナー。 珍しくマトモな依頼だ、なんて。一瞬でもそう思ったのが間違いなのである。あのモノクロキャットがそんなものを用意するはずがない。『論理決闘者』阿野 弐升(BNE001158)はその事実を今更ながらに思い知らされていた。とはいえ、ヒトガタだ。腐ってもヒトガタなのだ、まだいいのかもしれない。自分の中の常識が、音を立てる猶予もなく崩れ去っていくような錯覚を感じていた。平常を忘れよう。関西弁の宇宙人みたいなものだ。 「よっしゃ、合コンだ」 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)があげたその一声は、自分に気合を入れる為のものだ。合コン。たぶん合併コントラストの略。初めての体験だ。始まる前からドキドキが止まらない。楽しいことの前触れなんてのは、得てしてそういうものだ。そもそも、考えてみれば女の子とデート。それそのものが初めてである。緊張してきた。顔に出ていないだろうか。右手と右脚は同時に出ている。問題ない。 「合コンでござる! 異世界の方と合コンでござるよ!」 名に恥じぬ。というのだろうか、この場合も。『女好き』李 腕鍛(BNE002775)の意気込みは、その通り名に全くとして異ならぬものであった。女性は宝である。腐っていても、異世界に住んでいても、滅んでいても、宝物である。そんな女の子達と交流してこいと、遊んで来いと、合コンしてこいと。願ってもない話である。そんな仕事でいいのなら、いくらでも頑張れそうだ。 「これまた凄い世界と繋がったもんだ……」 そうは言うものの、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)にリビングデッドへの恐れはない。見た目がどうであれ、彼女達がこちらの世界に興味を持ち、仲を深めようとしてくれていること。それは素直に喜べるものだ。忘れられない、最高の思い出にしてみせよう。全力でおもてなしといこうじゃないか。これがサンドウォームを嫁に持つ男のレベルである。 「どんな見てくれでも、私達のお友達ですよね。どんな人達なのかすごく楽しみです……あれ、なんだかみなさん顔色悪いですよ? 寝不足ですか?」 合コン相手。当の彼女らが写るそれを見やり、首を傾げた『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)だが。どちらかというと生不足である。死んだり腐ったり動いていたりするからだ。ところで、これも遺影というのだろうか。現場写真の方が正しいかもしれない。 『銀の腕』守堂 樹沙(BNE003755)にとってこれは、アークに所属して初めての仕事である。既に滅んだ世界で、生命活動の一切が失われた世界で。それでも懸命に活動している彼女達。そのゾンビらと仲良くなること。より友好的になること。それが樹沙に与えられた任務だ。しかし、ゾンビと言っても女の子。年頃のそれだ。ひょっとしたら、色々と分かり合えるところも出てくるかもしれない。精一杯をと、拳を握りしめた。ええ子や。 ●ゾンビアイランド 屋内が好きで、活字病毒。 「ドーモ、ゾンビ=サン、チャイカです」 名刺交換と胡散臭い挨拶。ゾンビガールズとの対面は、そんな一幕から始まった。何故発酵食品を配っている。どうして薄い本を用意している。 「今日は一日よろしくな」 笑顔で手を差し出して。握手。がっちり。どろっと肉が崩れて、骨が折れて。なんか刺さったけど気にしない。痛いし血が出てるし間違いなく雑菌入ってるけど笑顔は崩さなかった。 しかし、やはり臭いは気になるものだ。なにせ、腐っているのだから。見た目は誤魔化せても、それを隠し通すのは難しい。だから皆も汗臭除去とブレスケアには気をつけよう。 気遣う心は忘れない。香水をあえて自分に振りかけ、香りのついた造花を出会いの贈り物とした。彼女らも、女の子だ。自分のそれは気になるのだろう。その心意気にはにっこりと微笑んでいた。歯抜けの口と、裂けた頬の生々しさはきっと忘れられない思い出になる。 さて、掴みは上々。初期好感度は高めである。それでは異世界デート。異文化コミュニケーション。いってみよー。 ●デートフォーデッド 豊満で、内臓までオープンな性格。 さて、各人女の子との一風景を描写していこう。 牙緑の投げたフリスビー盤を、エステラは飛び上がることで受け止めた。太陽が眩しい。周囲から感じる視線は、健康美そのものへの憧れだ。彼らには溌剌とした彼女が日のそれよりも輝かしく写っているのだろう。自分には、飛び散る腐肉が見えて気が気ではないが。 それもあって、少し休憩しようかと声をかけた。なんだ、だらしないなと彼女は笑うものの、嘲る様子は見えない。嫌味のない正直さが彼女の魅力なのだろう。事実、彼女の息はあがっていなかった。肺が止まっているだけかもしれないが。 話が弾む。好きなスポーツを尋ねたら、聞き覚えのないものだった。向こう側にだけ存在するのだろう。マラソンと空手を合わせたようなものだと教えてくれたのだが、想像はできなかった。話題は自然、彼女の世界へと移る。どうして滅んだのかは、わからないらしい。それでも笑顔であったから、辛い思い出ではないのだろう。 モニカのような裏方は、今回の件では必須と言えた。交友を深める、それは当然であるのだが。当日活動するこの場が貸切というわけではない。当然、一般客もそこかしこに存在するのだ。猫の言うとおり、ヒトガタではあるのだが。腐っている。腐っているのだから、懸念事項への対処役が必要であることは間違いなかった。 もう一度、お相手の名前を確認しておく。エステラ・クロウリー。フラウディア・フロイライン。ジェーン・オンリー……ストー……ン? オンリーストーン。どこかで、どこかで聴いたことがある名前だ。楽しかったような、思い出したくないような。回想が口をついて出そうになった自分を、必死で律していた、いらない。思い出さなくていい。触らぬ神に祟りなし。わざわざやぶ蛇をつつく必要はない。 ベンチに座ったホスト役の横に、気づかれぬようそっと缶ジュースを置いた。さあ、お気遣いっぷりを魅せて好感度を上げるがいい。フラグを立てるがいい。その方が面白そうだ。 目の見えないフラウディアと、腕鍛は手を繋いでいた。聴覚に優れているとはいえ、見知らぬ地である。ましてや女の子だ。男であれば、エスコートしてあげねばならないだろう。それでも、力を込めはしないし、引っ張ることもない。軽く誘導するだけだ。万が一、千切れでもすれば恐ろしい。この手の存在は、天使の声で消滅するのではなかろうか。嗚呼、柔らかい。女の子とか筋肉質でないとかそういう意味でなく柔らかい。なんていうか熟しすぎている。 動物園に入ると、彼女は河童を見たいのだと言った。まさかの河童チョイス。そんなもの、ハードリバーの橋の下に行ったって存在してないぞ。知識の元を聴いたのだが、耳覚えのない著物である。自分が知らないだけなのだろう。とりあえず、誤解は正しておいた。日本に河童はいない。居るとしたらアザーバイドかエリューションか異色のビーストハーフか背中にジッパーのついたやつである。あれ、割と居るな。 ぽろっと、零れ落ちた。それが何なのかを確認する前に、チャイカは飛びつきエチケット袋へと仕舞いこんだ。心臓がバクバク音を立てる。確認。顔をしかめた。見なければよかったと。指。指だ。骨が脆くなっていたのだろう。 「危うく夢がこぼれるところでした……っ! あ、どうぞお気になさらず続けてください」 冷や汗をかく自分を見る彼らに先を促して、大きなため息をひとつ。まだまだ気の抜けない仕事になりそうだ。 とは言え、息をつく間はあるものだ。腰を落ち着けたところでフラウディアに話しかけた。話題はこの国、日の出処である。 「ゲイシャフジヤーマヤクザ?」 「オーウ! ハラキリサムライダイショーグーン」 見事な異文化交流である。どこも間違ってはいない。ここでクエスチョン。問:彼女らの発言の中で、今の日本にないものは? 答:全部存在する。 「でも、まだ忍者って一人しか見てないんですよね……」 奇遇だな、書き手も青グラサンの奴しか知らないや。 お昼。太陽。動物園。こうくれば解答はひとつである。お弁当だ。こういった場での立ち食いこそ何かお祭り気分を味わえるものではあるのだが、やはり手作りでのピクニック気分もいいものだ。 樹沙が、自分の調理したそれらを小皿によそう。おにぎりだとか。卵焼きだとか。奇をてらうものはないが、この素朴さがいいものだ。それらしい、というのは必要なのである。空気を読むと言い換えてもいい。これがまた恐ろしく視認し難いものではあるのだが。 腹が膨れれば、また見て回る。動物園。アニマル。特有の臭さ。だらけた空気と、ファンサービスに乏しい動物達。それもまた、気分である。雰囲気である。 と。そこで足が止まった。サル山だ。自然かつ人工的に削り造られた小岩山の上で、いくつものニホンザルが食事をしている。一番上にいるあれが、この群れのボスだろうか。隠された左腕。あと、やっぱり赤い。どこがって、ほら。思わず目を逸らした。お年頃なのだもの。 食後の運動。かつて、これほど気が気でなかったものもあるまい。レッツゴーバドミントン。手首ごと飛んでいくラケット。ハネが当たれば顔面が飛び散り、動き回れば腐肉が舞った。それでも、一般客は自分達を微笑ましそうに。あるいは女性陣への好機の視線を向けている。ラケットがすっぽぬけたように見えたのだろう。ハネがこつんと当たったように見えたのだろう。すげえな幻視。これがあれば完全犯罪も可能じゃないのか。そら増えるわフィクサード。 休憩もかねてと歌い始めたエルヴィンを、皆が全力で押し留めた。よくわからないが嫌な予感がしたのだ。ここで止めておかないと、恐ろしいことが起きると直感したのだ。そういえば、手首も顔も気がつけば再生していた。スペアでも持っていたのだろうか。 動物。動物園。向こう側のそれはどんなのだろうと、エルヴィンが口にした。地雷を踏むのが好きな奴だ。 「あ……あなたが、あの」 せっかく、触れてなかったのに。 リスキーの本命はジェーン・オンリーストーンである、なんて。言いつつも、隙あらば他の誰かにも声をかけていたあたりは流石に男前というところだろうか。 「おにーさんが、この世界のこといろいろ教えてあげるね」 とかなんとか。セクハラはいけませンヨ。 開いた胸元と、肉感的な蠱惑の屍体と。それを持って、ジェーンはリスキーに腕を絡め寄りかかっていた。自分のそれに、彼女の柔らかい弾力が伝わってくる。鼻の下も伸びようというものだ。見ているのは肉食獣の檻。動物的本能か何かによるものだろうか、百王のそれがジェーンに向かって唸り声をあげる。あら怖いなんて言いながら、彼女はより一層自分の腕を抱きしめてくる。ライオンぐっじょぶ。でも、押し付け過ぎて中で崩れる感触も垣間見た。刹那クールダウン。 しかし、腐っても女性である。それだけで素晴らしいものなのだ。大事なことは、ひとつ。今美人がオレに寄り添っている。合コン最高。 「歓迎しよう、盛大にな!」 動物園の入口で大歓迎だと叫んだ弐升。ドラマ化はございません。今日この日。幻視で身を隠した彼女達よりも、間違いなく彼の方が目立っていたと言えるだろう。悪い方向に。ママーあの人厨二病。しっ、たっくんもあと五年すれば発症するんだから見ちゃいけません。 気にしてはいけないので次にいこう。彼も気にかかる女性といえばジェーンである。その姓。オンリーストーンには並々ならぬ縁がある。あれも忘れられない体験だ。異世界婚活を成功させた某二名に敵うものではないものの。 首筋を指先でつつかれた。強烈な接近に、視線は下へ。悲しきかな男の子。見えるのは谷間。白い素肌と赤黒死肉。ゴクリと、喉を鳴らす。 「見た目の醜美を超越した先にこそ、愛はある……!」 パパーあの人厨二病。お、おとーさんはコメントを控えようかな、うん。 時よ止まれ、君は美しい。目に飛び込む魅惑の笑顔はデスマスク。やっぱ巻き戻ってはくれまいか。 ●ゾンビハザード 三人ユニットのファーストアルバム『死後硬直』。今夏のコズミックマーケットで発売。 得てして一般論ではあるのだが、楽しい時間というやつはすぐに過ぎてしまうものだ。何時間もあったはずのそれらは、思い出としては長く、それでも体感としては一瞬の内に通りすぎてしまっていた。某時刻。もう、彼女らも自分達の世界へ帰らなければならない。 最後に、皆で集まって写真を撮った。きっと心霊写真以外の何ものでもないのだろうが、それでも大切な思い出だ。アルバムのいちページを、ずっと彩ることだろう。 楽しかった。また来たい。是非とも。そして、何れいらしてくださいな。何もかも死んでますけどいいところですよ。それはどうなんだと思うものの、彼女らがそう言うのならそうなのだろう。だって、死んでいたって腐っていたって、彼女達には笑顔があったのだから。 ありがとう。 そういえば、後日。 洋モノホラー映画に妙な親近感も湧いてくる今日この頃、リベリスタ達には任務がある。殺人鬼を潰しても、鬼を討ち倒しても、その日常は変わらない。何処かで何か、今日も事件は起きている。誰かが悲劇に苛まれている。さあ、会議室で仕事の話をしよう。 がらららっ。 「今度はデュラハーンと合コンしようぜ!」 ぴしゃーん。 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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