● 緑に覆われた森の中に、虹色に輝く一帯があった。 そこに並び立つ硝子細工のような木々は、この世界における“自然”のものではありえない。 次元の裂け目を越え、異界から舞い降りた一本の大樹。 森にひっそりと根を下ろしたこの樹こそ、全ての元凶だった。 恵み豊かな緑の森が、生き物を寄せ付けぬ硝子の輝きに侵食されていく。 この世ならざる光景は、いっそ幻想的ですらあった。 きらきら、きらきらと――虹色の光が踊る。 冷たくも美しい硝子の森が、陽の光を受けて眩く輝いていた。 ● 「――今回は連戦の上、時間との勝負になる。 厳しい戦いが予想されるから、そこは覚悟しておいてくれ」 アーク本部のブリーフィングルーム。そこに集まったリベリスタ達に、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)はそう前置きして説明を始めた。 「任務はアザーバイド『グラス・ツリー』の撃破。まあ、名前の通りガラスの木だな。 とは言っても生き物だから、叩けば壊れるような脆いもんでもないが」 異界からこの地に渡り、広い森の中に根を下ろした『グラス・ツリー』は、周囲の木々を侵食して自らの力を高めているという。 既にディメンションホールは閉じており、送還は不可能だ。このまま放っておけば、かなり厄介なことになるのは想像に難くない。 「侵食された木はガラスのような外見に変化して、『グラス・ツリー』を守ろうとする。 しかも、この『ガラス化した樹木』は時間が経つごとに成長するんだ」 最初はただの障害物と大差ないが、次第に力をつけて積極的に攻撃を仕掛けてくるようになる。 木々の侵食は『グラス・ツリー』を中心に広がっているため、本命である『グラス・ツリー』に近付けば近付くほど、『ガラス化した樹木』はより強力になるということだ。 「森はびっしり木に覆われていて、どこから入っても『ガラス化した樹木』を避けて通れない。 さらに、『グラス・ツリー』の能力なのか、この一帯は木々の上を飛び越えることもできないときてる。 ――つまり、地上から『ガラス化した樹木』の群れを突破するしかないってことだ」 森林破壊になるが、それを気にしている余裕はない。 『グラス・ツリー』は『ガラス化した樹木』を増やして力を高めている。時間をかければかけるほど『グラス・ツリー』は強力になり、撃破は困難になるだろう。 「最速で突破する必要がある上、大技を使うならペースの配分も考えていかなきゃいけない。 なにしろ、後になればなるほど敵は強くなるからな」 くれぐれも気をつけてくれ、と念を押した後、数史は手元のファイルから顔を上げてリベリスタ達を見た。 「万が一、『グラス・ツリー』の撃破が不可能と判断した場合は、迷わず撤退してほしい。 死んじまったら何にもならないからな。……いいか、これは絶対だぞ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月06日(日)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 緑豊かな森の奥に、眩い虹の輝きが見えた。 硝子細工のような木々が、木漏れ日に照らされてきらきらと光を放っている。 「硝子の森……圧巻だね。 RPGには持って来いのネタだし、次回作の参考になるかも」 そう言ってビデオカメラを構えた『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は、眼前に広がる幻想的な光景を手早く撮影した。あまり時間はかけられないが、自作ゲームの題材として資料は残しておきたい。 根から枝、葉の一枚に至るまで硝子と化した木を眺め、七布施・三千(BNE000346)が仲間達に翼の加護を施す。見た限り地面は硝子化を免れているようだが、機動性は高めておくに越したことはない。 リベリスタ達は今回、A・Bの二班に分かれてこの森に突入する手筈になっている。 撃破目標たる『グラス・ツリー』を中心として90度の方向に二班を展開し、出来る限り多くの硝子化樹木を破壊しながら進む方針だ。 時間をかければかけるほど、『グラス・ツリー』は森を侵食して自らの力を高めてしまう。 硝子化した木々で埋め尽くされた森を最短で突破するのはもちろん、道中でどれだけそれらの数を減らせるかが成否の鍵と言えた。 足元から意思ある影を伸ばした『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が、B班から準備完了の連絡を受けてスローイングダガーを両手に構える。 「さて、わざわざ前衛が被らないように分けたんだし、その分しゃきしゃき仕事はせんとな」 先陣を切って駆けた鉅は、軽やかなステップで硝子の森に踏み込むと、両手のダガーを閃かせて道を開いた。割れた硝子の欠片が、光の飛沫となって彼の周囲を舞う。 続いて、詠唱により自らの魔力を活性化させた『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が一条の雷を放つと、荒れ狂う雷光が木々を貫き、硝子の枝や幹を次々に折り砕いた。 ほぼ時を同じくして、B班も森に突入する。 「さて、参りましょう。ガラスを砕きに」 “混沌”と“秩序”の名を冠した二本のカトラスを携えて駆ける『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)に、周囲の魔力を次々に取り込み続ける『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)が答えた。 「ええ、“硝子の森”破壊といきましょうか」 ティアリアは鎖に繋がれた鉄球を巧みに操り、神秘の打撃をもって手近な木を砕く。 (まあ、この高火力ならわたくしがすることは余りない気もするけれど――) ちらりと視線を向けた先で、『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)の奏でる雷光が視界内の木々を瞬く間に薙ぎ倒すのが見えた。 「移動しないならただの的ね」 元より神秘攻撃力に特化した彼女が、魔力を活性化させてさらに威力を高めているのだ。その威力は凄まじいの一言に尽きる。 フリルのエプロンドレスにも似た外観の機動装甲を纏う『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が、九七式自動砲・改式「虎殺し」から無数の弾丸を吐き出し、前方に広がる硝子の樹木を蜂の巣にした。 虹色に輝く硝子の破片が踊る中を、リベリスタ達は前進する。 ● 仲間を巻き込まないよう、それでいて突出しすぎないよう、絶妙の距離を保ちながら、鉅が鮮やかな動きで周囲の硝子を切り払う。さらに踏み込んだ彼の視界に、触手のように枝を蠢めかせる硝子の木々が映った。 「――そろそろ第二段階か」 今まではただの障害物に過ぎなかったが、これからはそれ自体が敵意を持って攻撃を仕掛けてくるようになる。中でも、仲間達に先行する自分が集中して狙われることは容易に予想できたが、足を止めるわけにはいかない。 (回避がどれだけ通用するか……) 不吉な予感を呼び起こす光の乱舞をかい潜り、鉅が走る。彼の後に続く『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が、愛用の中折れ式リボルバーを構えて凛と言い放った。 「美しいけど、存在してはならない光景ね。 これ以上被害を広げない為……私が道を切り拓くわ!」 立て続けに撃ち出された弾丸が、硝子の木々を次々に穿つ。大切な人を守るべく立ち塞がる彼女の背後で、三千が神々しい光をもって硝子の輝きを打ち消した。 二班に分かれて侵攻している今の段階では、前衛がどうしても薄くなる。後方から状況を広く見渡す三千は、自分を守ろうとするミュゼーヌの負担がより少なくなるように自らの立ち位置を調整していった。忠誠を誓う対象であり、特別な存在でもある彼女に守ってもらうだけで済ませたくはない。 可能な限り視界を広く取り、前方だけでなく横方向の木々をも雷撃で貫いていく悠月が、温もりを失って冷たく輝く硝子の森を眺めて口を開いた。 「異界の侵食を受け世界が変質するとは、こういう事なのでしょうね……」 元は生命を育む樹木であったものが、今や硝子化して生き物を攻撃する存在に成り果てている。 異界の力に侵食され、この世界に属する存在でなくなったがゆえに、彼らはこの世界に住まうものを拒絶するのだろうか――? 辛うじて生き残った硝子の木が、リベリスタ達に枝を絡ませる。続いて、奇妙な色の輝きに運を封じられた仲間を見て、『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が聖神の息吹を呼び起こした。 翼の加護で低空を舞う綺沙羅が、愛用のキーボードからリズミカルなタイプ音を響かせる。降り注ぐ氷の雨で木々を攻撃しながら、彼女は『グラス・ツリー』の方角を確かめた。道に迷って余計な時間を食ったのでは洒落にならない。 今回、メンバーの火力は申し分ないし、回復も厚いが、それでも油断は禁物だ。 まだまだ先は長いし、敵は黙っていても力を増していくのだから。 ● 「硝子の森……ねぇ。樹氷みたいで見た目には綺麗なのだけどねぇ」 先頭を進む紗理に輝くオーラの鎧を付与したティアリアが、周囲を眺めて呟く。 第二段階のエリアに到達したことを確かめた後、モニカは極限の集中で自らの動体視力を大幅に高めた。 「こうも硝子尽くしだと美しさを通り越して寒気さえ感じますね。 いくら私のイメージが硝子の様に繊細なピュアメイドだからってコレはやり過ぎですよ」 さらりと語られたモニカの言葉。その後半部分を、ティアリアはさりげなく流す。 「――でもこれでは生の営みもない、死の森だわ。勿体無いけど壊してしまいましょうか」 四方から枝を伸ばし、光を明滅させてくる木々に、一瞬にして最高速に達した紗理が二本のカトラスを鋭く振るった。 「この程度の硬度……苦になりません!」 一息に繰り出された連続攻撃が、硝子の木を鋭利に切り払う。 「そっちの調子はどう?」 ギターの弦を爪弾き、88の鍵盤を模った雷光で木々を薙ぎ倒した杏が、“幻想纏い”でA班の進行状況を問う。敵地の中を離れて進む以上、相互連絡は欠かせない。 「こっちの方が少し遅れ気味みたいね。先を急ぎましょ」 通信を終えた杏は、同行する仲間達にそう呼びかけ、進軍を促した。 ● 壊せど壊せど、硝子の木々は引きもきらず道を塞いでくる。 そろそろ第二段階のエリアも過ぎ、第三段階のエリアに差し掛かる頃だ。執拗に絡みつく枝は力を増し、奇妙な色に輝く硝子は運を封じるばかりでなく心すらも蝕む。 自らや仲間の力を高める付与の技も、そう長い間続くものではない。当然、かけ直すためには一手を消費するし、敵が強力になる分、回復の比重も増す。 攻撃手が減る分、突破するスピードは落ちてしまうが、ある程度は割り切らねばならないことだった。回復を疎かにして戦闘不能者を出してしまえば、この先がもっと厳しくなる。 しかし、癒し手の一翼として聖神の息吹を連発する三千の負担は大きい。常に周囲のエネルギーを取り込み、己の活力として練り上げる技術を持つ彼の継戦能力は決して低くないが、それでも高位存在の力を具現化し続けるのは相応の消耗を伴う。 「回復が、僕の役割ですから……がんばりますっ」 大切な人を守るため、そして癒し手としての役割をまっとうするため。自分を鼓舞するように声を上げる三千に、悠月が意識を同調させて力を分け与える。大技を惜しみなく使えるのも、彼女の存在あってこそ。 綺沙羅が、キーボードを軽快に叩いて呪力を空に放つ。いざという時は回復も行える彼女は、常に仲間達の様子にも気を配っていたが、あくまで最優先すべきは『グラス・ツリー』への到達だ。癒し手が足りている限りは攻撃あるのみ。 氷の雨が、立ち並ぶ硝子の木々を樹氷の如く凍らせる。そこに飛び込んだ鉅が、異界の美しさを湛えた木々をサングラス越しに見た。 「綺麗な薔薇には棘があるなどともいうが、棘どころか全身硝子の異世界の樹とは」 一瞬も躊躇うことなく、鉅は両手に構えたダガーの刃で円を描くように攻撃を繰り出す。 鋭い斬撃が、彼の周囲に立つ木々を瞬く間に砕いた。 「元々こんなものの綺麗さなどよく分からんが、せめて散り際の美しさ位なら楽しめるかもしれんな」 B班もまた、立ち塞がる硝子の木々に苦戦を強いられていた。 「意外と順調に行かないものね……」 体内の魔力を再び活性化させる杏が、わずかに眉を寄せる。 「ちょっと気を引き締めないといけないわね」 浄化の輝きを帯びたオーラの鎧をもって回復を担うティアリアが、視線を前に向けたまま頷いた。 卓越した頭脳をもって戦況を分析する『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)が、消耗した仲間に自身の活力を分け与える。 「美しきガラスの森。おぞましいほどに美しいその森は害厄そのもの」 混沌と秩序のカトラスを携えた紗理が、長い黒髪を靡かせながら硝子の木を鋭く見据えた。 「――破壊します。それがリベリスタの宿命」 刀身が閃くと同時に、目にも止まらぬ連撃が木の幹に亀裂を刻む。 直後、横から伸びた枝が紗理の全身を絡めとった。四方から降り注ぐ光に心身を蝕まれる彼女を見て、エリス・トワイニング(BNE002382)が聖神の息吹を呼び起こす。 機械の右腕で九七式自動砲・改式「虎殺し」を軽々と支えるモニカが、無数の弾丸を嵐の如く撃ち出し、進路を切り開いた。無限機関を頼りに、力の温存と猛攻を繰り返してきた彼女は、まだ幾許かの余裕を残している。 目指す『グラス・ツリー』は、もうすぐそこまで迫っていた。 ● 太陽の光を一身に浴びたその大樹は、明滅する虹の輝きの中で孤高に立っていた。 残らず枯れてしまったのか、『グラス・ツリー』の半径20メートル圏内に他の木は存在しない。 ここまで連絡を取り合いながら二班に分かれて行動してきたリベリスタ達は、合流を果たした仲間の姿を肉眼で認めると、『グラス・ツリー』の外周を取り巻く硝子の木々に向けて攻撃を開始した。 ステップを踏んで切り込んでいく鉅の後を追うように、悠月と杏の放った雷光が森を駆け巡る。キーボードからタイプ音を響かせた綺沙羅が氷雨を降らせたところに、モニカが弾丸の雨を浴びせて木々を粉々に砕いた。 狙いは後衛の安全確保であり、外周の木々を全滅させることではない。 必要最小限の殲滅を終えたリベリスタ達は、素早く『グラス・ツリー』へと向き直った。 この間にも、硝子化したエリアは少しずつ広がっている。『グラス・ツリー』の力を削ぐという意味では効果は薄いが、硝子化が第三段階まで進んだ木々が後衛を攻撃するという事態だけは避けたい。 メンバー中最速を誇る紗理が、瞬く間に『グラス・ツリー』に接近する。 間近で見上げるそれは圧倒的な迫力を備えていたが、ここで怯むわけにはいかない。 己の勇気を武器に、彼女は異界の大樹に攻撃を仕掛けた。 今までとは明らかに異なる手応え。カトラスを振るった腕に、痺れが伝わる。 「く、硬い……しかし、負けません!」 臆することなく声を上げる紗理に、『グラス・ツリー』が枝を伸ばす。全身を絡め取られた直後、別の方向から繰り出された枝が彼女を貫き、その生命力を啜った。 仲間達の全員に回復が届くように自らの位置を定めたティアリアが、紗理に浄化の鎧を届ける。癒し手に事欠かない編成ではあるが、敵の速さや攻撃力を見る限り油断はできない。 気力体力の回復、自らの強化に若干の時間を取られたとはいえ、ニ方向からの侵攻で硝子の木々は大幅に数を減らしたはずだ。それで、この強さなのだとしたら――場合によっては、ここに到着した段階で手遅れになっていた可能性すらある。 チームを二班に分割できたのは火力・回復ともにメンバーに恵まれたことも大きいが、この戦略は結果として正解だったのだろう。 リベリスタ達が次々に攻撃を仕掛ける中、泰然と立ち続ける『グラス・ツリー』が眩くも不可思議な輝きを放つ。運を封じ、心を挫く光が降り注いだ直後、リベリスタ達を狙って無数の枝が伸びた。 「目に頼らず外界を知覚って……つまり全体攻撃とほぼ同じって事じゃない! ずるいわ! 障害物も無いのに!」 硝子の枝が仲間達を次々に貫くのを見て、杏が叫ぶ。 彼女は『グラス・ツリー』との間に前衛を挟むことで、襲い来る枝から自分の身を守った。 絡みついて動きを封じる時とは異なり、精気を奪う時はある程度直線的にしか動けないらしい。つまり、射線さえ遮ることができれば狙われずに済むということだ。 『グラス・ツリー』の正面に立つ紗理が、先からの攻撃で傷を負ったエリスを庇ったジョンが、枝に貫かれて全身を揺らがせる。その命がまさに吸い尽くされようとした瞬間、二人は己の運命を代償に体勢を立て直した。 「支えてみせますっ」 高位存在の希薄な意思を読み取った三千が、詠唱を響かせて癒しの力を具現化させる。穢れを払い、同時に傷を塞ぐ息吹が、仲間達の全員に戦う力を取り戻させた。 「貫け!」 紗理が二刀のカトラスを一息に繰り出し、その速力をもって『グラス・ツリー』の幹を穿つ。敵の動きを封じるはずの力が跳ね返り、紗理の身を浅く傷つけた。 状態異常をダメージに変えて反射する『グラス・ツリー』の能力を目の当たりにした鉅が、ヴァンパイアの牙で硝子の枝に喰らいつく。彼の攻撃は全て、何らかの状態異常をもたらすものばかりだ。いずれにしても反射のダメージが避けられないのならば、回復でそれを帳消しにできる吸血を仕掛けるまで。 エリスの聖神の息吹に続いて、ティアリアの浄化の鎧が仲間達に癒しをもたらす。硝子の輝きで奪われた気力は、悠月のインスタントチャージが補った。 リベリスタ達の猛攻を受けて、虹色に輝く硝子の幹に明らかな瑕(きず)が増えていく。 それでもなお生きることを諦めないのか、『グラス・ツリー』は四方に枝を伸ばし、リベリスタ達の身体を激しく貫いた。この一撃で紗理とジョンが力尽きて倒れ、悠月と綺沙羅が己の運命を犠牲にして立ち上がる。 癒しの息吹を呼び起こす三千を守るように立ったミュゼーヌが、リボルバーマスケットの引き金を絞って『グラス・ツリー』を撃ち抜いた。敵は味方が一手動く間に二手動ける上、攻撃と同時に自らを癒す能力を持つ。回復の暇を与えてしまえば、こちらが不利だ。 癒し手を担う傍らで攻撃の機を窺っていたシエルが、展開した魔方陣から魔力の矢を放つ。 「ティアリア様! 今です!」 「ふふ、わたくしの鉄球は痛いわよ?」 すかさず繰り出されたティアリアの鉄球が、硝子の幹に亀裂を刻んだ。 自らを中心に幾つもの魔方陣を展開した杏が、魔力の弾丸で強烈な追い撃ちを加える。 「さっさと、ボスを倒して終わらせて、飲みに行きましょ!」 戦いが大詰めを迎えていることは、誰の目にも明らかだった。 リベリスタ達も決して無傷ではないが、『グラス・ツリー』の瑕(きず)も深い。あとは、どちらが先に倒れるかの勝負だ。 虹色の光が狂ったように乱舞する中、硝子の枝が勢いよく伸びる。 それは槍の如く鉅とエリスを貫き通して彼らの運命を削ったものの、二人を倒すには至らなかった。 「如何に美しい光景であろうと、それはこの世界を侵し変え行く異界そのもの――」 自らの頭上に黒き大鎌を召喚した悠月が、『グラス・ツリー』を真っ直ぐ見据えて声を放つ。 「かつて数多の犠牲の下に護られ、受け継がれてきたこの世界。 それを侵し、変質させ、破壊しようとする存在は……討たせて頂きます」 収穫の呪いを刻みし刃が、幹の根元に深く食い込む。 鴉の式神を放ちながら、綺沙羅はテレパシーを用いて交信を試みた。 (トレントみたいに根ごと動き回るわけでも無いのに、何故こちらに迷い込んだのか――) 感じ取れたのは、生存に対する強い欲求。 天に開いた次元の穴から舞い降りた異界の樹は、自らが生きるため根を下ろした。 ただ、それだけ。 「硝子の何が美しいって、透明感でも輝きでもなく。繊細ですぐ壊れてしまう儚さにあると思います。 なので、ここはひとつ美しく散ってもらいましょう――」 モニカが、「虎殺し」の銃口を大樹に向けて詠うように呟く。 「屈強な硝子なんてモノは無粋の極みですよ」 根元を正確に砕いた射撃と同時に紡がれた言葉が、硝子の森の激闘に幕を引いた。 ● 『グラス・ツリー』が滅びると同時に、森は元の色を取り戻した。 地面に落ちた硝子の枝を、綺沙羅が拾い上げる。 「さ、飲みに行きましょ。誰か来る?」 杏が、そう言って笑みを浮かべた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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