● 「はぁ……春ですねぇ」 ぽかぽか、いい気持ち。うーん、思わず伸び。 私もですね、いい加減お休みとか纏めて取りたかったので……ちょっとシーズンから外れた今を狙って、連休を取ってみました。 この国の桜って素敵ですね。薄桃の花びらがうわぁーって視界いっぱいを埋め尽くすんです。 春になって、この花を楽しみにするようになった自分に気付いた時に、あたしは初めて『あぁ、あたしはこの国に住んでいるんだなあ』と思ったものです。 「ふふ……あ、かもさん」 すいすい。 あたしは今、井の頭公園というところに居ます。おおきな池があって、そこに沿っていっぱいの木々。 桜が楽しめるのは、咲いてからせいぜい2週間、3週間。ほんとに儚い花です。それが素敵なのですが。 でもでも、あたしはちょっと見つけました。これこそ通の楽しみ方です! と独白していると、ぽろりと手からおむすびが落ちました。 ころころ、すてん、池に落ちてしまいました。 「あ、ああぁぁ……」 既に鯉とか、色々寄ってきています。あぁ、あんなもの食べておなか壊さないかなぁ。 なんて、体を乗り出したら、手に持っていた魔法瓶の蓋をひっくりかえして、熱々のお茶を膝にかけてしまって。 「びゃあああああ?!」 体が乗り出す。 一瞬の浮遊感。 必死に両手に持っていたお弁当を上に捧げて、どうにか全損は免れましたが…… 「ぶえぇ……ま、またもう……」 うぅ、でもこれくらいはミスのうちに入らないです、あたし。他の方を巻き込んでないだけマシ。 そう、あたし、やることなすことこんな感じなんです。 魔法を撃てば味方に当たり、階段を歩けば転げ落ち、お茶を運んだらぶちまける。 ついた渾名が、「災厄(ディザスター)」「暴風(パンデモニウム)」「脅威のドジ」そして…… 「へっぽこ魔女……べ、別に今日はへっぽこでもいいんだもん」 だってお休みですし。 えっと……何の話でしたっけ。 そうそう、通の楽しみ方。 ざばぁー!! と池から何か出てくる音。えーと何でしたっけ。 そうそう、丁度、桜が全て散って葉桜になるタイミングはですね。周りの枯れ木もいつのまにか新緑を芽吹かせている時期なのです。 あれ、何か悲鳴が聞こえますね。あと逃げ回っている音が。なんでだろ。 で、何でしたっけ。 あ、そう。桜は誰もが楽しみますが、今年一年のはじまり、若芽をいち早く楽しむっていうのはちょっと得した気分になりますよ。うーん、適度に涼しいし、いい気持ち! ぴちょぴちょと。ふふ、そうそう、こんな風に顔に水滴が…… 「……ふぇ?」 離れた目と泥臭い臭いが、目の前にありました。 ……えーと。 あ、はいはい。判りました。これ、図鑑で見たことあります。こう見えて私も魔女の端くれ、見かけより賢いのです。 確か、ダンクルオステウスという古生代デボン紀に生息していた甲冑魚の仲間―― あれ、でもこれって大きくて6mくらいですよね? 何か、こっちを向いている口の大きさだけで2mくらい…… あ。 「あはは、そっかー」 うん、そうだよねー。普通に考えてそうだよねー。 エリューションか、アザーバイドか、その辺のナニカ。 つまり、あたしのお仕事! 慌ててお弁当を仕舞うと、水のひっかからないところまでいそいそ遠ざけてから、再び水辺まで近付きます。 武器は持ってきてないけど、何とか。懐からヤドリギを取り出して振り被ります。うん、あたしだって魔女の端くれ。 そのはずだったんです。 足を滑らして 「あ……」 飛び込む先には、大きな口。 あはは……何か。 「ふえぇぇぇぇぇぇ?!」 もう、何ていうか。 あたしの人生って、何なんだろうなぁ…… ごっくん。 おそまつさまでした。 ● 唖然とするリベリスタ達。なんというか、あんまりにもあんまりな光景に口が塞がらないのだ。 「まぁ……こんな感じ」 映像を止めた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、いつも以上に無表情だった。 「このリベリスタの名前は、セラピア・ステートス。クラスはマグメイガス、種族はフライエンジェ」 更に。 「奇跡のドジ」 ここでリベリスタ達は、はっきりと少女の無表情の意味に気付いた。 そこにあるのは、ちょっとした憐れみ。3度目の正直ともなれば、正直彼女は呪いのアーティファクトでも持っているのではないだろうかという想像に駆られてしまう。 「もしかしたら、一度会ったことがある人もいるかも知れない……彼女、ドジを除けばなかなか強力な覚醒者なのだけれども」 とんとん、と地図を出すと、そこに色々なものを書き込む。 「ま、彼女のことはさておくわ。敵は、魚型のアザーバイド」 すい、と地図に書き込む。映像の大きさをそのまま地図の縮尺に落とし込むと、どうしたことだろうか。妙にサイズがでかい。 「違和感を覚えた人は、正解。このアザーバイドは、水を操る。直接の干渉、と言うよりは……そうね。水を“司る”と言うのが正確かしら。そこにどれだけサイズの違和感があっても、生物の棲める水場でさえあれば生存することが出来る。そして、そこにある水を操って攻撃する。とはいえ、そこで問題」 ぽん、と地図の上に置いたのは少女の人形。いい加減彼女も慣れて来たらしい。 「そのまま攻撃を加えて倒すには……水の中に逃げられてしまうと、こちらからは手を出せないわ。だけど、彼女――セラピア・ステートスのおかげで有意義な情報が判ったわ」 即ち。 「アレは、人を食べる。つまり……」 その時、リベリスタ達は始めてイヴの後ろにあるものに気付く。 それは釣り竿と言うにはあまりにも大きすぎた。 大きく ぶ厚く 重く そして大雑把すぎた。 それは 正に 「……まあ、釣り竿なんだけど」 先からはワイヤー。何の冗談だ。 「うん、一本釣り」 餌は? 「あなた達」 リベリスタ達が愕然とすることを、イヴはさらっと言ってのけた。 「大丈夫よ、死なないから。見たでしょ、仮に食べられちゃったとしても丸飲みだから。あ、セラピアも助けてあげてね、一応。ドジとはいえ、仲間よ」 ……何だか。 段々アークの方も、このへっぽこ魔女の扱いは心得て来ているようだ。 即ち。 こいつ、何だかんだで自分の致命傷だけはたくみに回避して来るんじゃあないか、と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕陽 紅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月14日(月)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『臆病ワンコ』金原・文(ID:BNE000833)はくじけない。例えそこが、野外に晒され緑に染まった井の頭公園の池であっても。 「ままま、負けないもん……!」 多少の汚さなど関係ないくらい怯えているから、というのが大きいかも知れないが。それも無理もない。元来の臆病さと言うだけではない。二人で交代の餌役も、これで何週目か。釣りは忍耐。身動きのろくにとれない水中で、抵抗もできないまま、敵も見えないという恐怖。生物であれば誰もが潜在的に抱える、捕食されるという事への恐れ。微細な振動を発生、わかりやすく言えばガタブル震えている。しばらくの後にぷらーんざばーんと水揚げされたことで、ほっと息を吐いた。 ちなみに、餌役以外の全員は竿を持っている。交代に、『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(ID:BNE000265)が水中に投入された。そしてその辺り、彼女は用意周到だ。ワイヤーが原に食い込まないようにタオルを巻いている。 「ハエじゃないですけど、こう……餌っぽく」 冬芽がばっちゃばっちゃと虫のように飛んでみると、僅かに下に黒い影。しかしまた沈んで行ってしまった。どうやら元気すぎるのを警戒して、弱るのを待っているらしい。巨大さに見合った賢さはある様子だ。 釣りとは、頭脳戦であり格闘技でもある。知力と集中力と体力の限りを尽くして魚と格闘する、原始的な躍動と洗練された精神の双方が人の心を沸き立てる。この場に於いて軍配が上がるのがどちらか。 根拠を挙げれば、それは目的の違いだったのだろう。捕食と対決。知識や知能でなく、目的の違い。とはいえ、何にせよ、どうするにせよ。 この場合、勝ったのは人間の方だった。 活きの良い餌に一度は警戒したダンクルオステウスは、根負けした。食欲が警戒心に勝ったのだ。ゆっくりゆっくりと水面に近付き…… ばくん。餌をぺろりと平らげると満足したように再び水面下に沈もうとする。が、その身体がやおら引っ張り上げられた。何が起こっているのか、魚には理解出来ない。とりあえず、引っ張る。口から伸びているのは、鋼のワイヤーだ。 「フィィィィッシュ!!」 『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(ID BNE003669)が大きく叫んだ。針があるのではない以上アタリをつける必要もないが、そこはノリ。リベリスタ全員の息を合わせて引っ張る。何かに引っ張られていることに気付いた魚は、一先ず外してみようと首を大きく振ったようだ。ぐぐ、と大きく釣竿が撓む。ここでひっくり返れば全てが終わりだが、踏みとどまった。 釣りとは、頭脳戦であり格闘技でもある。知力と集中力と体力の限りを尽くして魚と格闘する。本番はここからだ。 神代 凪(ID:BNE001401)が驚異的なバランス性を発揮し、粘った。外れないと判断した魚は、潜行を始める。悲鳴を上げながら文がしがみつく、引く。 鬱陶しがったのか、引かれるままに水上に飛び上がったその威容は10m弱はあるだろうか。『黄金の血族』災原・有須(ID:BNE003457)は暗い瞳にそれでも驚いた表情を作った。 「大きい……セラピアさんはこれに……」 再び飛び込む。水柱が立ち上がった。継続して加えられる力に皆、中々声を上げる余裕もない。ユーキ・R・ブランド(ID BNE003416)が素早く立ち位置を入れ替えた。撓む釣竿の負荷を調整する。水中に繋がるワイヤーの動きは、そのまま魚の動きだ。こちらに向かう一瞬を逃さず、『Weise Lowen』エインシャント・フォン・ローゼンフェルト(ID:BNE003729)がこつんと引くのを切欠に全員が全力で引いた。歯を食いしばる。ダメージを与えるのではない。綱引きでもない。呼吸を読む。引かれて流れた身体をいやがるようにくねらせる。びくん、と魚が反転しようとした途端に動きを止めた。 「魚は網にかけるもの、でしょう?」 タモ、という道具がある。『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(ID:BNE003460)のトラップネストは、丁度それと同じような役割を果たした。掬い上げられるような軌道を描いた魚の目が、ぎろりと水上を睨む。声帯こそ無いが、彼は自分の敵に気が付いた。 周囲の水が盛り上がると、幾条もの手のようにダンクルオステウスを絡め取る。空中を泳ぐように、彼は浮き上がり。 無機質な目が、ぎろりとリベリスタ達を睨んだ。 ● ぐる、と空中を回遊する魚の腹が、唐突にうねりと盛り上がった。目を白黒させる。何があったのか外からは伺い知れないが、その隙を狙ってチャイカが五指から糸を飛ばした。狙うのは目、口、しかしさながら兜のようなその頭を僅かに振られただけで急所を外す。弾き落とされて、舌打ちした。 「さすがはダンクルオステウスさん……」 「知っているのか?」 「後ろの方が脆いから前の化石しか見つからないっていう面白い子です」 硬いもの同士がぶつかる音と同時のエインシャントの問いにチャイカが答える。成程確かに、と頷いた。正面から試しに斬りかかって見たのだ。Schwertleiteの煌きが、兜に弾き返された。宙から下を見下ろす魚の目が、煌くように見えた。リベリスタに突進しようとしたその体にアルバートのトラップネストが纏わり付く。不愉快そうに体をくねらせると、その目前に文が立った。 「ににに逃がすもんかーっ!」 紫染を逆手に構えると、手の内から生まれた糸。尾びれを捉えた彼女の糸に、魚は地面に叩き付けられた。大きく尾びれを振るうと、拘束を振り払う。改めて敵と認識したらしい、池から尚も立ち上がる水を身の回りに、そしてその横っつらに闇色の弾丸が叩き付けられた。明らかな苛立ちの色。水が固形物のように強くしなやかに伸びた。 「うふふ……さあ、愛し合いましょう……」 口があれば、望むところだ、と答えたかも知れない。 鞭状の水が、有須とチャイカ、文とアルバートを纏めて捕縛しようと唸りを上げて上から迫る。うわあ! と悲鳴を上げながら文は辛うじて飛び退ったが、残りの三人を絡め取り、そのままその水は顔を包んで窒息させにかかった。そのままでは遠からず食い殺される状態だが、そこはそれ。 人間は、一人ではないのだ。 どずん、と地を踏みしめる足。空中と言っても、ダンクルオステウスが浮いているのはせいぜいが2m。高度の下がった瞬間を狙う。勁は足を伝い掌へ。凪の掌は、魚の腹を激しく振るわせた。激痛にのたうつ。 「これ何て言うんだっけー……腹パン?」 げぶ、と喉元で水音がした。更に、喉元をきらりと鋼の糸の輝きが走る。外から。否。内から。矢も盾もたまらず、ダンクルオステウスは腹の中の狼藉者を吐き出す。ごろごろ、と塊が転げ出た。 「体の内部から、逃れようもなく切りつけられる痛み……いかがでしたか?」 「ふへぅ……」 冬芽とセラピアが、でろでろのべとべとだ。胃の内容物とか、そもそも服も溶けてどろどろ。そして何より 「はいどーも、お久しぶりセラピアさん……う。相変わらずハードラックなようで」 ユーキ、えずく。とてつもなく生臭い。女の子二人が置かれる状態としては、ラック以前にとてもハードだった。憤慨と八つ当たりを籠めるようにバスタードソードを振り切ると、常闇のオーラが魚を襲う。頭骨に弾かれながらも、首元に鋭い裂傷。その間に凪が走り寄ると、セラピアを後ろに押しやった。 「大丈夫ー? ……なんか、ベトベトしてるね」 「凪さぁぁぁん! あたし、あたし……!!」 あまりな有様にわんわん泣いているので、よしよしとセラピアの背中を叩いてからタオルを頭に被せてあげた。胃液で消耗した上にさんざ大暴れした冬芽も、すぐには動けない様子だ。縛られている仲間も居る、体勢を立て直すべく攻撃を回避出来た文が再びギャロッププレイを放つ。気糸は今度こそ頭を縛り上げて、砂埃と共に下に伏せる。追っ付けユーキが剣身を撫でると、赤く光った武器を柔らかそうな腹に突き刺す。のた打ち回った。まな板の上の鯉と言うべきか。おぉ、とその光景を見つめるセラピアの肩にストールが巻かれた。 「身体が冷えたり等してないだろうか……羽織ると良い」 「あ……」 エインシャントに言われて初めて、服も何もがでろでろになっている状況に気付いて慌てて身体を隠した。顔が真っ赤だ。彼女を庇いながら、エインシャントは飛来する水の刃を打ち払いながら、ブレイクフィアーを唱える。その光の力を借りて糸を打ち払い、魚の目にアルバートのスローイングダガーが的確に突き刺さった。周囲の水が形を作っては崩れる。ダンクルオステウスもまた束縛を解くが、その身体は再びびくりと跳ね上がった。 「頭が通じないなら、こっちで!」 チャイカのピンポイント・スペシャリティ。先刻彼女自身が言ったように、正面からの攻撃には強いダンクルオステウスも柔らかな身体を押し通されるのには弱かった。有須が更に魔閃光を放つ。声がないだけに、のたうつ姿は余計に苦痛を感じさせた。 「えい、仕返しですっ!」 ひゅん、と駆け抜ける風。立ち直った冬芽が、どてっぱらにハイアンドロウ。これは躱され、尾びれで周囲を薙ぎ払う。リベリスタ達を薙ぎ倒すと、ダンクルオステウスは再び体勢を整える。 言ってみれば、彼はただ食事をしようとしていただけに過ぎない。初志を貫くべく、甲冑を前に向け、魚は突進する。 とはいえ、彼には悪いが、彼は居てはならない。人間というコミュニティの中だから、そしてこの世界に居てはならないものだから。 ともあれ。突撃する彼は、凪の掌打に正面から迎え撃たれた。互いに衝突すると、以外なほど乾いた音と共に甲冑にヒビが入る。凪の背中を飛び越えた影が甲冑に巻きつくと、本体を引っ張り上げた。文は、鬼の角から削り出した短刀をそこに付きこむ。べきり、ぱきん。文の刻んだ死の刻印。力を失って、魚はどうと地面に倒れ臥した。 おそまつさま。 ● 「私も今日はお出かけしようとしてまして!」 と言いながら広げたチキンの照り焼きのサンドなど、サンドイッチ盛り合わせ。冬芽も、何にしろ休暇は出来たようだ。 そうしてこうして食われた少女二人は早々に着替え、全員で改めてちょっとした休憩のはこびである。どうせ証拠の隠滅の為もあると結界を張ったまま、ちょっとした貸切状態。 セラピア持参のレジャーシートに座った文が、ふと視線を遠くにやった。 「……ねえ、あのお魚、やっぱり……食べられないよね……?」 「えっ」 「えっ?」 お互いに視線を見合わせる。セラピアの表情は困惑と言うより、色々ななにがしかを思い出したが故のいやな顔であり 「あああごめんなさい食べられるはずないよねっ?!」 ばたばたと手を振り回して、文は慌てて自分の発言を打ち消した。おとなしく見えてかなり大胆なことを呟いたものである。 「あはは。そろそろご飯広げる?」 凪が笑ってお茶を取り出した。ペットボトル。皆喉も渇いている。ケーキが良かったとか、そんな思いもあったのだけれども。 「あっ、そういえば……チャイカさん。お着替え、ありがとうございました」 「んーん」 ぺこり、と頭を下げられて、チャイカは手をぱたぱた振った。その膝には、既に簡単なお弁当が広げられている。 「ご迷惑をおかけして……」 「なんというか」 チャイカは、平謝りしようとする言葉を遮った。 「全力で頑張っている子のミスって憎めないんですよね。逆にこう、ずっと眺めていたくなります」 「えぇ!? や、やめたほうがいいですよ、ほんと、ほんと」 ばたばたと手を振った。ころころと表情が変わるのは、なるほど見ていて飽きないだろう。本気なのがよくわかるので、それだけで随分と嫌味もなくなる。 それでも何でも。 「でも、やっぱり皆さんにご迷惑かけちゃいましたし」 あはは、と笑うと、そこの言葉にユーキは首を傾げた。 「あー……災難ではありましたけど、周りの被害は少なかったですし。酷いわけではありませんよ、うん」 ただ、と。 「次回がありましたら、本部の応援を待ってから行動してくださいね」 「う……」 見透かされたのかも知れない。 自分で何とかしようとする。無力で役立たずではないと言いたくなる。その癖を。はぁ、と溜め息を吐いた。横に座っていた文の視線が、後ろ手に隠していたお弁当に注がれているのに気付く。 「……ばれちゃいました? あんまり自信ないので、隠してたんですけど……」 ごそごそ、と取り出す。こう見えてわりとよく食べるので、大きめのお弁当。ちょっと彩りは単調だけど、それでも一応、きちんとした料理だ。 「……おいしそう……」 「あは。食べる?」 「いいの?」 大喜びで箸を伸ばす。こんなのでも喜んでもらえる。嬉しいなあ、と思うセラピア。とはいえ自分のミスなのか不運なのか、どちらにしろポカをやらかしたのは事実で、落ち込んでいた。少しうつむいている彼女に、ふとアルバートが 「毎回のように災難に見舞われ、助けられるステートス様は…… まるでお伽噺のお姫様のようで御座いますね」 「ひめっ?!」 びくん。あたふた。 彼女自身には、そんなに良いものだとは思えていない。 「お姫様なんて。あたしは、戦えなきゃいけないのに」 「卿の一番酷い不運とは、其れ自身が不運だからではない……卿が自身と自身の生涯の間に、その様な不運が在ると思っているからだ……もっと何事も自信を持つ事だ」 うつむいたままの彼女に対するエインシャントの言葉は、少なくとも顔を上げさせるだけのことは出来た。照れたように笑うと、ありがとうございます、と言った。 「でも、ですね。これは、あるんですよ。エインシャントさん。これは……そう、気の持ちようとか、じゃなく。私には……いえ」 何かを言おうとした。 或いはそれは、彼女に対する核心のような何かだったのかも知れない。エインシャントにそれを、これ以上追及は出来なかった。何か、柔らかな壁がそこにあるように見えた。それを無理に掘り起こせば、壁は途端に棘となるような気がした。一息を付こうと紅茶を手に取ろうとすると、有須が横から何かを差し出した。 「特製のお茶です……よろしければどうでしょう……?」 「あぁ、ありが……」 「大丈夫です……変なものは入ってませんから……うふふ」 「そう言われると、途端に恐ろしくなる」 「あはは」 二人の遣り取りに、見えづらい拒絶を解いてセラピアは笑った。何だかんだと大変な目にあったけど、最後の最後は楽しめたなぁ、とか。 「これだけ大人数なら、綺麗に桜が咲いてれば良かったんですけど」 「気にしないよ」 独り言のように言った言葉に、返事が返って来る。 「皆で騒ぐのが、一番楽しいしね!」 凪に言われて、思わず笑い返してしまった。 そう、何だかんだと言って、あたしはここの皆と居るのが好きなんだなあ、と気付いていたのだ。迷惑もいっぱいかけているけど、自分のことを見てくれているこの人たちと居るのが。 いつかはこの楽しい気持ちも、桜のように散ってしまう時が来るのかも知れない。 でも、とあたしは思います。今見てる葉桜のように、一時の華やかさばかりでなくても、綺麗な緑が残るような。あたしのような人間でも、皆さんとなら、そんな関係が残せるんじゃないかな、と思います。 また、会いたいな。こんなあたしですが、申し訳ないことに、そんな風に思ってしまったのです。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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