●誰にでも出来る簡単なお仕事です。 「仕事としては、すごく簡単。だけど、多分すごくつらい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は、しばらく目を閉じていた。 これからリベリスタが受ける苦しみを、わずかでもわが身に受けようと天に祈るかのように。 これからリベリスタを過酷な現場に送り出す自分に罰を請うように。 やがて、ゆっくり目を開けると、ぺこりと頭を下げた。 「お願い。あなた達にしか頼めない」 苦しそうに訴える幼女、マジエンジェル。 だが、断る。なんて、言えるわけがなかった。 ●お仕事内容はカレーを食べることです。 「エリューションは、カレー」 モニターにカレーライスが映し出される。 矢印がルーを差し、「ここがきけん」とイヴが手書きでキャプションをつける。 「エレメント。特殊能力は持ってないけど、エリューションである以上、一般人が食べると覚醒現象を促すことになる」 なに、そのバイオテロ。 「ちなみに存在としては非常に弱い。リベリスタなら胃で消化できる」 うわー、リベリスタの胃液、すごーい。 「幸い、現在とあるカレースタンドのとあるカレーに限定されている。今からそのカレーを全部食べてしまえば問題ない。幸いこのカレーはめったに注文されないので、みんなが独占できる。よかったね」 わーい、やったー。 「とあるカレーというのは、お店のメニューでは地獄カレーと書いてある」 あー、それは頼む人すくなそーだよねー。 「店のコピーでは、一口食べるとお口の中がインフェルノ?」 わー、それは辛そうだねー。 「スキルは有効。ただれた口内粘膜も胃壁もバッドステータスも回復可能。だから、心配しないで」 どっちかというと、心のダメージが心配かなー。 「とにかく、普通の人が食べたら危険。エリューションを増やす訳には行かない。放置したら、側にいるこのお店の人や機材まで覚醒する可能性がある」 来るんじゃなかったと顔にありありと描いてあるリベリスタを叱咤するように、イヴがまじめなことを言い始めた。 確かに、善良なカレー屋さんが、やばいカレーを作るやばいカレー屋さんになったら大変だ。 エリューションの芽が小さいうちに積むのが肝要。 「このカレースタンドは、幸い年中無休24時間営業」 ぶっちゃけ、鍋いっぱい食べきるまでは帰れません。 逆に言えば、それ以上は絶対出来ないのがわかっているのだけが救いなのだ。 「戦闘にはならない。ばかばかしいと思うのもわかる。ストレスがたまると思う。でも大事な仕事」 イヴは、もう一度頭を下げた。 「お願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月19日(木)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●スナップ・1 「気休めの防壁だよ」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(ID:BNE000439)、いい音をさせて牛乳瓶を返却しながら。 「日本の友達に、白い服を着るのがカレー食うときのスタイルだって聞いて」 『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(ID:BNE001406)、白い服で。 ●前哨戦 「このカレーを作ったのは誰だぁっ!!」 『百獣百魔の王』降魔刃紅郎(ID:BNE002093)は、口を真っ赤にして怒鳴った。 彼の両脇には神代凪(ID:BNE001401)、『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(ID:BNE000877)がダウンしている。 「俺だぁ!」 熱血料理人がお玉片手に出てくる。 威風堂々たる刃紅郎の気迫に押されることもない。 二つ名がミスター何とかだったりするかもしれない。 「事前説明は為されてるぜ!」 ビシィッと壁に貼られている警告文を指差す。 『健康を著しく害する可能性があります。健康被害等のクレームはお受け致しかねます。ご注文は自己責任でお願い致します』 うん、行き届いてるね! 「……人には、地獄に自分を追い込む権利がある」 熱血料理人は、目を閉じ語りモードに突入した。 「しかし、身を持ち崩しては本末転倒。だから、俺はこの地獄カレーを以って、あえて高い壁になる。孤高の壁になぁっ!」 例えるなら、アイガー北壁。 例えるなら、大海原。 目指さずにはいられない未知の領域に! 熱血料理人は信念に満ち溢れていた。 ちなみに、こういう人が革醒した場合、非常に面倒なことになる。 詳しくは、今まで提出された報告書・フィクサード編を紐解いていただきたい。 王は察した。この料理人の中にも「王」が住んでいる。 刃紅郎が、猛然と店を出て行った。 「馬曳けェ!」と言わなかったのが、ふしぎだった。 ●スナップ・2 「今度は大丈夫。鼻血は出さないよ。集中しすぎたせいか口内炎できた気がするけど、人形の検品なら全然問題ないしっ。え? 激辛カレーを食べる……の?!」 『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(ID:BNE001581)、店の前で逃亡を図る五秒前 「こないだはひどい目に遭いました。こ、今度は食べ物だし、あんな事には。……嫌な予感しかしないんですけどー!?」 『ロンサムブラッド』アリシア・ガーランド(ID:BNE000595)、ドアを開けた瞬間。 「簡単なお仕事……だといいなぁ……くっ、無駄に爽やかな笑顔で送り出してくれたお兄ちゃんが恨めしいよっ」 結城・ハマリエル・虎美(ID:BNE002216)、椅子に腰を下ろしながら。 ● 君の屍を越えてゆく 「いらっしゃいませ、ご予約の八名様ですね!」 予約入れてたのかよ、アーク。 逃がす気ないんだな、アーク。 涙目の彩歌が、カウンターに突っ伏している。 「しっかり!」 助け起こされると震える指でディスプレイを指差す。 『ごめん、もう無理』 「大丈夫。君はもう食べた。お皿、空だからっ! ゆっくり休んでッ」 うんうんと頷く彩歌。 「しぐれちゃん、私……これを、食べ終わったら、アイドルに」 最後の一口と同時に突っ伏す凪。 「凪ーッ、しっかりするのじゃー!」 『白面黒毛』神喰しぐれ(ID:BNE001394)は相棒を抱き起こした。 「ご注文はお決まりですかぁ?」 恐るべし、空気を読まないウェイトレス。 「地獄カレー、鍋が空になるまで持って来い!!」 ●スナップ・3 「着物はクリーニング代が恐ろしいので、こういうときのモルぐるみです」 『ドラム缶型偽お嬢』中村夢乃(ID:BNE001189)、水を飲みながら 「……べ、別に食べるだけの簡単なお仕事だからきたわけじゃないのじゃー! 超次元アイドルを目指すためには、グルメレポートも必要なのじゃ!」 しぐれ、砂糖入りミルクを一気飲みしながら ●一人がいなくなって、七人になった 「日本のカレーは初めてなので、ドキドキです。そんなに辛いんでしょうか」 アリシアが明るく言った。空気に充満した危険な香りは意識の外にはじき出したらしい。 「わらわが好きなのはもちろん、日本カレーの甘口なのじゃ! 辛いのとか大変なのじゃ!」 「出来ればリンゴと蜂蜜が入った甘いのがいいです……っ」 うん、それ、悪あがき。 現実逃避気味のリベリスタの前に、脳天をガツンとぶん殴る勢いの刺激臭。 「地獄カレー、八人前でェす。お客様?七名様しかいらっしゃらないようですが?」 アウラールがテーブルの下をのぞきこんで叫んだ。 「牙緑-っ!お前、俺がライバルだって。二人でカレーをやっつけるんだ、競争だぞって言ってたじゃないかよ。こんな所で負けんなよーッ!!」 だが、返事は返ってこない。 虎 牙緑(ID:BNE002333)は、椅子からずり落ちるようにして、時折、苦しそうに喉をかきむしりながら咳き込む。 山奥育ちの彼には、この刺激臭は命取りだったのだ。 一名様、戦闘不能。 リベリスタの一人頭のノルマは、12杯強になった。 お鍋が空になるまで、誰もおうちに帰れません。 だって。お外で、アークの人が、手を振りながら見張ってるんだもん。 ●日本ノオ箸、難シイデス。 「マイ箸もバッチリ!」 掲げて見せたアウラールの箸に誰も反応を示さない。 (あれ、誰も使ってない? ライスにスープかかっちゃってんだけど。これってどうなんだ?) 外国人です。お作法よくわかりません。 「ええと、いただきます。だったよな?」 お行儀よく、端から食べるアウラール。 (ライスってうまいよな) お米もぐもぐ。 (じゃがいももいいけど) お米ゾーン終了。 「……うわ、辛っ!! というか、痛ぇ!!」 ルーだけもぐもぐ。 「さすがエリューション、内部から攻撃されてるって感じだ……」 信じ難いことに、ルーだけもぐもぐ。 「これを10杯食うのか……どうすれば、いいや、やるしかない」 ふと顔を上げると、みんながエリューションを見るような目で見ていた。 ●焦熱のち阿鼻叫喚 虎美は、おもむろにスプーンを取ったら、福神漬けをどばっと投入。 溶岩に見えるルーをそろそろと口に運ぶ。 「……辛っ! 超痛っ!」 ばちっ! と電撃を流された部分が火傷になったようだ。 「まるで、味の火山噴火なのじゃー!」 しぐれは、高らかに叫んだ。 自分のバックに爆発する火山を召喚できるようになれば一人前だ。 「ああ、これくらいなら、いけま…………はぁぐっ!!?」 笑顔だった夢乃がいきなり絶句する。 喉の奥からこみ上げてくる灼熱感。 口から手を突っ込んでかきむしりたい。 もがき苦しむ女子を見ながら、それでも快は人の善意を信じていた。 (善良なカレー屋さんだから、きっと美味しいに違いない) 快の発想は間違っていない。 すごく善良だ。突き抜けてしまっているが。 「うん、絶妙にブレンドされたスパイスから立ち昇る香りが食欲をそそるね」 というか、この刺激臭で多少脳みそぶっ飛んでなければ、とてもスプーンを口に運ぼうという気になれない。 「煮込まれた具材の旨みに香辛料が絡み合って、奥行きのある味わいが……辛ヒィ!」 「とりあえず水……」 虎美はグラスを手に取るが、はたと手を止める。 (でも慌てて一気に飲んじゃいけないんだよね。炎症だから、冷やすようゆっくりと舌の上を転がして少しずつ飲む) この期に及んでなかなか冷静。 では、一気に飲んだらどうなるか。 「おじざーん、お水、お水おかわりを……っ!!」 お嬢様をかなぐり捨てて叫ぶ夢乃。 (辛さに立ち向かう身にはまさに命の水……っ!) ごっごっごっごっごっご。 三秒後。 (うあああっ!汗が!汗が!飲んだ分そのまますっごい汗がーーー!!?) 噴きだす汗が、もるぐるみと体の間にたまり、どっぷりと重量を増す。 一人サウナ状態に突入した。 そして、激辛カレー対策法が存在することすら知らない外国人。 アリシアは、見よう見まねで一口食べる。 スプーンを持っていた手が止まる。 顔が真っ赤になる。 目から噴出すように溢れる涙。 「けほっけほっ。口の中が、辛いというか、痛い……!?」 両手で口を押さえる。 飲み込んでしまったものは着々と食道から胃袋を火の海にしている。 水?水を飲めばいい? だが、さっき夢乃が何か叫んでいた。 福神漬けって何?この赤いのも辛そうだ。 あまりのショックに耳に雑音が入り、何を言われているのかわからない。目の前も薄暗く。 ああ、意識が混濁してきた……。 「うふふ、この福神漬けおいしいなぁ」 心を遠くに放り出しかけている智夫は、福神漬けをご賞味中。 まだカレーを食べる勇気は出ない。だって口内炎痛いんだもん。 その肩をがしっとつかむ白い手。 首筋に近づく燃える吐息。 柔らかな唇の感触。 食い込む鋭い痛みに、何か取り返しの付かないものが吸い取られる危機感と、急速に高まる倦怠感。 いい匂いの金の髪。 ……智夫君、ちょっと幸せ? 「アリシアーッ!? それはだめだ! 人としてだめだーッ!」 「いや、アリシア、ヴァンパイアだし」 「納得してる場合じゃない!? はがさなくちゃ!」 「いかん、わらわはアイドルじゃ。スキャンダルはごめんじゃっ!」 「だめ、アークの人が見てる。落ち着いて!」 「光れ、快! 今こそお前の力が必要なんだぁ!」 遠くに聞こえる仲間達の声。 サポートメンバーに保護されるカレーの皿。 転がるお冷のグラス。宙を飛ぶスプーン。赤い福神漬けの花吹雪。 「……ごめん、ちゃんと仕事するから、お水の代わりにするのはやめて……」 智夫は、口内炎の悪化を覚悟した。 ●少しだけ恋の予感 (……ふ、ふふふ、ふふふふふ。負けない、負けないわ……っ!) 夢乃はスプーンを握り締めて、顔を上げる。 (あたしは生きるの! 生きて帰って、かっこいいおにーちゃんとだいれんあいをするのよっ!!) 「さーあおいでなせたまねぎにんじんなんでもこいやぁ!」 仲間達が顔を上げた。 あ、そう?と、自分達の皿の中身を、夢乃の皿にどんどん乗せていく。 「エリンギこんにゃく味噌田楽ってなんで味噌!? トマトカレーにゃチーズが似合うが鯖カレーはどうかと思う! 待ってダメ納豆はダメいやそれやめてやめてほんとおねがい堪忍してーーー!!!」 そんな夢乃に手を差し伸べる快。 だって、紳士だから。 好きになってもいいのよ? 「今日、俺ちょっと腹減っててね。そっちの分貰ってもいいかな?」 仲間達が顔を上げた。 あ、そう?と、自分達の皿の中身を、快の皿にどんどん乗せていく。 「この……肉の……辛ヒゥイ! 旨みをしっかり閉じ込めた炒め加減が絶妙辛ヒャー!」 (倒れぬ身体と折れぬ心を持つ者、そう俺はクロスイージス。倒れることは許されない。誰のためでもない。俺は仲間のためにこのカレーを完食するんだ! むしろ一種の中毒症状になりつつある。辛い! でも美味しい! ) ビクンビクンと痙攣を繰り返しながら、カレーに邁進する快。 ……好きにならなくてもいいのよ? ●それぞれの戦い 「この舌がしびれるような味わいと、止まらずじんわり滲む汗が、地獄を物語ってるのじゃ!」 ナイス描写。 ここで、地獄の火の池をクロールで泳ぐビジョンに周りにいる全員を巻き込めれば一人者だ。 「い、痛っ、痛い痛い痛い! 辛いというより痛いよっ 普通に食べてるだけの筈なのに! 痛みが刺さってくる!」 智夫は、少女のように身を捩じらせて泣きだした。 「ら、らめぇっ、お口いっぱい口内炎なのぉ……っ」 「アイヤー、ワタシインドジンアルヨ。カレートクイネ」 虎美は、似非多重人格者の名の下に、自らの無意識の中からインド人的人格を召喚した。 しかし所詮は似非人格。耐性などある訳がない。 「駄目だったア…や、駄目だったー」 虚ろな口調。ハイライトの抜けた目。口だけ休まず動いてる。カレーですよ。 (ここで引き返したら、ようじょに冷たく見下されてしまう。それだけは避けたい) くじけそうなアウラールの脳裏にこだまするイヴの声のリフレイン。 『あなた達にしか頼めない』 彩歌の仕込みという噂もあるが、三鷹平市民、噂は反逆です。 持ち込んだジャムをカレーの上に乗せて、口に入れた。 「優しい味がする」 ふと顔を上げると、みんながエリューションを見るような目で見ていた。 ●死地よりの生還 「お前ら、もう少しだぜ。このそれぞれこの一杯で完売御礼だぁっ!」 ありがとう、熱血料理人さん。その一言で生きていける。 「のんびりいきましょう~」 ありがとう、『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(ID:BNE000133) さん。あなたが掛けてくれたブレイクフィアー、忘れません。 「あたしのこの胃が真っ赤に燃える……! ように、痛い……」 「さあ皆共に往こう。倒れた仲間達の屍を超えて、この地獄を踏破しよう」 「う……うああ……」 「凪、ニンジンを全部やろう。なあに、気にするでない。プレゼントじゃ」 「えーと、パインサラダ下さい」 「……皆、俺に構わずどんどん食って?」 「ああ……なんじゃろうー……おととし大往生した、ひいおばあちゃまが見えるのじゃー……」 「我等が守護天使のために! あ、守護天使の読みはマジエンジェルね」 「……から……うま……」 「アリシア、かまないでェェェッ!?」 そして。 ついにリベリスタはやりとげたのだ。 地獄カレー108杯プラス各種トッピング。 諸々あわせて、12万5460円(税込み) 「領収書は、アーク本部宛でお願いします!」 それが、リベリスタ達の勝利の証だった。 ありがとう、リベリスタ。 さすがだ、リベリスタ。 またこういうのが発生したら、よろしく頼むね? ●スナップ・4 「味? からさだけで、味なんかわかるわけないのじゃーー!」 しぐれ。退店後、グルメレポートの提出を求められて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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