● ――晴れた街中、歩き往く人々は皆が皆幸せそうに笑っている。 子連れの夫妻、恋人同士、大勢の友達と馬鹿げた話を交わすグループだって。 人々は日常を過ごすことに忙しい。それが無上の幸福と知りながらも。 ……或いは。 此処が貴方達の住む世界ならば、その裏に、神秘の名を取った魑魅魍魎が跋扈していたかも知れない。 けれど、それはあり得ない。 何故なら、此処は虚構の世界。 風景は書き割り、動く人々は紙細工の一枚絵にも満たぬ、脆くは儚いイノチの残滓。 有り得ざるからこその平和。 生まれざるが故の安寧。 皮肉と嘲笑われようが、性悪と罵倒されようが、そんなことは構うまい。 重要なのは、この世界そのものではない。 其処に降り立つ、君たちなのだから。 ● 「……研究開発室、戦略司令室の合同会議で出た、或る実験の一環。今回は、それに協力して貰いたい」 いつものように、ブリーフィングルーム内に入ったリベリスタ達に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は解説を始めた。 言うと共に、その背後のモニターに映像が映る。 何でもない、どこかの街の日常風景。雑踏の中を歩く人々の姿は、現代に慣れたリベリスタには最もなじみ深いものである。 「今回の舞台は、VTS内に於ける日常世界のコピー。みんなには此処である行動を取って貰う」 「具体的には?」 問うたリベリスタの一人に対し、イヴが僅かに顔を歪めた。 「……『フィクサードをする』、事」 「……。何だって?」 「だから、みんなにはこの街で、フィクサードとして行動して欲しい」 唐突な――少なくとも、アークの『リベリスタ』としては――質問に対し、場にいたリベリスタ達は一瞬、返す言葉を失った。 「……詳細な説明をすると、みんなは今回、この仮想世界で思う限りの悪行を行って欲しい。 金品を奪う、人を殺す、方法は何でも構わない。行動を行う際に何らかの理由付け等が欲しかったら、其処はVTSに入る際に多少記憶なんかを調整しておくから、言って」 「いや、それは解ったが……」 呆然としたまま、どうにか言葉を返すリベリスタに対し、イヴは苦しそうな表情を隠しきれないまま、解説を続けた。 「……この実験が認可された理由は二つ。 一つは戦略司令室曰く、『フィクサードの心理を行動面から分析すること』、もう一つは研究開発室曰く『街一つ分の仮想世界の負荷実験』。要は仮想世界は何処までの範囲ならば作り上げても支障はないか、と言う事ね」 ――何とも、難しい『依頼』である。 平時、世界に貢献することを責務とするアークの一員が、このように野放図を求められるのは、却って心の中にブレーキを掛けられている感覚さえする。 「……どう、する?」 だからこそ、彼女は問うた。 怯えるような、懇願するような瞳で。 「……仕方ないだろ」 だからこそ、リベリスタは笑った。 それが、世界を救う一端ならばと、そう必死に思いこんで。 ● ――晴れた街中、歩き往く人々は皆が皆幸せそうに笑っている。 子連れの夫妻、恋人同士、大勢の友達と馬鹿げた話を交わすグループだって。 人々は日常を過ごすことに忙しい。それが無上の幸福と知りながらも。 それを壊すのは、君たちだ。 燦めく宝石を手にしても良い。鮮血と悲鳴で世界を彩るのも良い。美しい女を、男を、戯れに愛撫することさえも構わない。 何れ消え去るこの世界、箱船など、所詮は一縷の希望にも満たず。 ならば最後の最後まで、その身を快楽で埋め尽くせ。 そのココロが壊れる、瞬間まで。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月06日(日)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ケース:『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610) ――嘗ての怒りを、覚えている。 起点は喪失。神秘とは何の関わりも無い一般人に家族を殺された事から、悠里の変転は始まる。 彼はその時よりさほど経たぬ内、家族を殺した者達を、同じように殺してやった。 復讐ではなかった。報復でも。 唯、其処に在る悪が裁かれることなく、未だ此の世界にのさばり続けていること。その理不尽に対する怒りだけが、彼の行動を為す根源だった。 大衆から見れば、その行為は――多少の歪みを孕んでいたにしても――正義と、そう呼ばれたのだろう。 それを、確たる過ちと知っているのは、恐らくは当の本人だけで、 けれど、それを正すと言う思い一つ、彼には存在し得なかった。 ……そうして。 「げ、が……!」 彼は今日も、過ちを繰り返す。 路上に二人が転がり、今、彼の手中に首を収めた者が一人。そのどれもが服に校章を付けていた。 切っ掛けは些細なこと。たまたますれ違った彼らが、得意げに女を無理矢理犯した話を聞いたと言うだけ。 別段、その女は縁者でもなく、知人でもない。それでもその行為が悪である限り、悠里にとって彼らは敵だった。 適当に肩でもぶつけて、因縁を付けさせれば、後は容易なこと。 異能者の膂力を思うが侭に振るい、一人の腹に穴を開けた。ナイフを持って抵抗した者の腕ごと、身体から引きちぎってやった。 残る一人は――そうした『化け物』に対して、最早抗う術を放棄していた。 「……なんだよ」 「……」 「何だよお前ッ!? 俺たちがお前に何したって言うんだ、俺たちを殺してどうしようってんだよ!?」 「五月蠅い」 ごきん、と音を鳴らして、残る一人の首もへし折った。 原型が残っている分、或いは彼は、死んでいった男達の中で最も幸福な男だったのだろう。 「理由なんかないよ。敢えていうなら君たちが嫌いだから。だから殺すのさ」 悪を殺す悪は、唯、淡々と言葉を吐く。 ●ケース:『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314) ぐちゃぐちゃ、 ぐちゃぐちゃ、 ――肉を掻き回す音が響く。 ぐちゃぐちゃ、 ぐちゃぐちゃ、 ――嗚呼、痛いな。 ココロでは、そう思って。 痛みを、抑えずに吐き出したいのに。 その表情は、凍えるほどの笑顔を浮かべている。 痩身の胸元には穴が空いていた。幾つも幾つも、血を零しながら。 痛い。とても痛い。叫んでしまうほど痛くて、けれど笑いしか浮かばない。 何でだろう、と、問うまでもなく。 「…………ぁ」 眼前の子供が、ミカサの視線に気付き、怯えるような声を出した。 街中で、この子と親を見つけたのは数分ほど前。他愛ない世間話をして、その幸せを知った。 だから、ミカサは親切にも、彼らの知り得ない不幸を、教えてあげようと思ったのだ。 子供を鉤爪で脅して親を従わせた。自分の武器を貸し与え、自分を殺さなければ子供を殺すと言ってやった。 当然、その覚悟も力量も、親たちには在るはずがなく―― 「あああああああああああああ」 そして、現在。 子供は、泣きながらミカサの傷を抉っていた。そうしなければ殺すと、そう言って。 子供は必死に言葉を守った。そうしなければ親が死ぬから。自分のせいで、自分のせいで。 けれど、 「……ああ、もう良いか」 ミカサは、冗長な遊びに飽きた。 紫爪が虚空に踊る。ひいんと奇妙な音を鳴らして、二人の首を刎ね飛ばした。 「……え?」 「おめでとう。これで『君は』殺さないよ。約束する」 淡々と言ったミカサは、そうして彼らから興味を失った。 立ち去ろうとする彼に、しかし、子供は必死にすがりつく。 「ま、待っ……て!」 「……」 「お父さんは! お母さんは!?」 「其処にいるじゃないか。……ああ、もう死んでるけど」 「何で!? ぼく、ちゃんと言うとおりにしたのに!」 必死に服にしがみつく子供を、ミカサは蹴りの一撃で離れさせた。 骨の何本かは折れただろうか。痛みにのたうつ姿を見ながら、彼は一言。 「……忘れないで」 「俺は、君が不幸になるのを祈ってる」 屈託のない笑顔で、言う。 ●ケース:『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630) 「ひ……、ひ……!!」 運命が、こんな悲劇を呼んだのは何故だろうか。 男は必死に思いながら、けれど、そんな暇を『彼女』は与えてはくれない。 ――今、男は一人の『死体』を組み敷いている。 涙と汗を零しながら、無様に腰を振るその姿を、『彼女』は無機質な瞳で見つめ続けていた。 「カラオケ? それが目的じゃないのでしょう。良いわよ、もっとイイコト……しましょうよ」 適当に女を軟派しながら街を歩いていた。そんな時、『彼女』は婉然とした微笑みを湛えて、男達に近づいてきた。 傍目から見ても、キレイな女だった。「三人じゃ多くねえか?」と言う下劣な質問に対しても、『彼女』は「別に構わない」と返し、嫌悪の欠片すら見せないその表情を見て、ああ、コイツは只の遊び人なんだと警戒を解き、適当な廃墟へと連れ込んだ。 一瞬だった。 「そろそろイイだろ?」と言って近づいた仲間の頭を、振り返った『彼女』は、出だした銃で撃ち抜いた。 怯えて、逃げるまでもなく、続きざまにもう一人の仲間の足を貫いた『彼女』は、その背中に乗りながら、言った。 死体の男を犯せと。男である俺に。 ――そうして、今。 行為の気色悪さとか、死体の気色悪さとか、そんなものは全て生きたいという欲望に取って代わっていた。 組み敷いた男の中で果てたのは何度目か、涙も鼻水も涎もぼたぼたと零しながら、止めてくれと何度も何度も懇願した。 けれど、『彼女』が返す答えは、 『私が可笑しくなるまで 甘いお菓子の様に蕩けるまで お菓子続けろ 犯し続けろ オカシツヅケロ』 冷たい瞳で、唯、唯。 けれど、それに漸く飽いたのか。『彼女』は椅子にしていた男から立ち上がって、俺の頭をそっと撫でる。 「良い子ね、約束通り生かして帰してアゲル」 「あ……」 くたくたになって、気力だけで保たせていた身体が、ぱたりと、地に頽れた。 それが、 「――但し」 「カッターで耳を削ぎ取り、ハサミで鼻を切り取って、ヘアピンを指と爪の間に刺して、物差しで片目を抉った後で、ね」 それが、最期の間違いと、思い知らされながら。 ●ケース:源 カイ(BNE000446) 気味が悪い、と言うのが最初の感想。 「雑魚キャラ発見……ボクちゃんたち、息が臭いよ、呼吸止めてくれない?」 「……はあ?」 意味もなく街中を屯していた男達に話しかけてきたのは、線の細い、少年のような男だった。 「……行こうぜ」 一瞥の後に、男達は彼らの横を通り過ぎていく。 ――ばきん、と。音を立てて。 その数秒の間に、片腕を螺旋に捻られながら。 「酷いなあ。無視するなんて」 『軽く握手した』片手から手を離して、細面の彼は――カイは、くすくすと笑っていた。 「え? あ。ああ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 人の腕としての機能を完全に失った腕に、男は地面をのたうち回りながら痛い痛いと叫び続けていた。 周囲の一般人が恐怖の表情を浮かべ、それぞれが救急車や警察を呼ぼうと、必死に携帯電話を持って騒ぎ始めた。 「もう少しぐらい、賑やかにしようか」 その間にも、カイは止まらない。 手近な一般人を膂力で黙らせた。余りにも五月蠅かったら半死人を車道へ放り投げた。 乗車した運転手が文句を言ってきた。ソイツも同じように黙らせて、残った車はガソリンタンクを壊して火を付けてやった。 ――気付けば、其処は小さな地獄を映していた。 視界を業火が埋め尽くし、蓑虫のような人間が無数に転がる空間。 それを、とても満足そうに、カイは見つめ続けている。 けれど、まだ。 「……あ」 キン、と音を響かせて。 咄嗟に捻った身体に、しかし、僅かな血の色が滲む。「気に入ってたのに」と、カイは嘆息した。 「貴方……っ!!」 その刃を振るった主……一人のリベリスタを見れば、その落胆もなりを潜めたが。 「漸く来たんだ。あんまり遅いから、こんなに沢山怪我しちゃったよ?」 「煩い! 罪もない奴らに此処までして……!」 声を荒げるリベリスタ。その瞳には殺気が滾っていた。 それとて、カイからすれば、その構えも、力も素人以前のものに過ぎない。 その姿を、意志だけの、空っぽな力を砕く未来を幻視しながら。彼は、笑った。 「いいよ、相手になってやる。 理想論や綺麗事では誰も何も守れない……力無き正義などクズ以下だという事を教えてやるよ」 ●ケース:『禍蛇の仔』ルーチェ・ルートルード(BNE003649) 疑問に思うことが時々ある。 自分が運命の加護のない存在なら、殺されることに――異存も抵抗もあるが――少なくともそれはそれで納得した。 しかし、今の自分はフィクサード。運命に選ばれた存在だ。 自分の能力を自分のために使うことの、何に問題があるのだろうか。 ――嗚呼、詮のないことを考えた。 「生かすか殺すか、選別したのは世界。 せっかく選ばれたんだもの。生き尽くところまで生きてみせるわ」 ルーチェがぽつりと独り言を吐いて、手近なリベリスタの首をはねとばした。 『この地域のリベリスタを誘き出し、可能ならば殺害』。そういう依頼を受けていたルーチェは、先ず近くにいた子供達を人質に取った。 ハイテレパスで呼び出して、近づいてきたところを蛇腹剣で脅かし、拘束――フィクサードらしいと言えば、その通りの手段。 近づいてきた子供達は、皆が純真で活発だった。彼女に言い換えるならば、『愚か』で『活きが良い』生体材料と言ったところか。 自然、それを奪い返そうと彼らの親たちもやってきたが……その結果が如何なるものとなったか、言うまでもない。 延々と繰り返した。早く帰って依頼主からの『御馳走』を頂きたい彼女からすれば、凡そ一時間少々の時間が数日にも感じられた。 だから、と言うわけでもないのだろうが。 「傍観者共、そいつを取り押さえなさい。リベリスタを差し出せばアナタ方には手を出しません」 待ち望んだリベリスタ達が来たと同時。ルーチェは早々と事を終えるため、一般人にそうした命令を発した。 「あ、子供は返さないわよ」と言われた一部の者が彼女へと襲いかかったが……その全てを、細切れの肉片へと解体してやることで、一般人達の思考は恐怖により統一された。 たかが一人のフィクサード。されどそれに群がる大勢の人垣。 動きを制限されたリベリスタを、近くの一般人ごと断ち切っていく。緩慢な作業。繰り返すそれに欠伸を漏らしながら、ルーチェは物言わぬ死体に語りかける。 「不平等に打ちのめされて、人の醜さに負けて。ね、そんな生き方で良かった?」 ●ケース:『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022) 自由にしたい、というのが元の行動理由だった。 親の命令や、教師の指導や、社会の制約や、そんな諸々から。 何時から、その想いは歪んだのだろうか。 思い返そうと、返ってくる答えはなく、それを振り返る気すら、彼女にはなかった。 今は、唯。 「……さぁ、お姉さんと遊びましょうねぇ」 彼らを可愛がりたいという、それひとつだけ。 多くの『フィクサード』によって被害が出ている現在。現在進行形で親を亡くしつつある子供も、少なくはない。 綾香は、そうした子供達の悲しみを、怯えを、紛い物の母性と、豊満な肉体で包み、溶かしていた。 当然……彼女は『善人ではない』。彼女の腕の中にいる子供達の中には、綾香自身が道具で無理矢理拘束した子供達や、スキルを介して無力化したリベリスタの子供もいる。 恐らく、今の彼女にとっては、その目に映して自由と思える子供すら、自らの手の内に収めたい、愛玩具にしか思えないのだろう。 「どうしたの? ぼうっとして……何処か悪いのかしら?」 リーディングすら解析しきれなかった、虚ろな目で転がる子供の一人を撫でながら、綾香は心配そうな声で問う。 思考が極端化した綾香。故に彼女は知らない。囚われ続ける未来に絶望し、或いは不慮の事故で、命を落とした子供が、僅かながらにも居ることを。 それを、綾香は解らない。解らない。解らない。 口づけをする。抱きしめる。頬ずりをする。恐怖に凍って居た子供達の幾人かが、その歪んだ愛情に溺れていった。 終わり往く世界の中で、彼女は一人、退廃の楽園に酔い続けていた。 「もう何の心配も必要ないからね、ずっと一緒に居ようねぇ」 ●ケース:『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644) ――リベリスタは、絶息を前にしながら思考を繰り返した。 何故こうなった。 何故、こうなってしまった。 思いは問いの繰り返し。答えは永久に返されず、唯、無慈悲な現実を象った、黒い剣士が前に立つだけ。 ――この街のあらゆる場所に爆弾を仕掛けた。その全てを止めたければ、俺を殺せ。 恐らくは強者と解っていた。 叶うまいとも考えてしまった。 それでも立ち向かわなければ成らなかった。 一を捨てて九を取る事は彼らの正義になく、どれほどの敵でも、想いはきっと刃に力を与えると、そう信じていたから。 ……そして、現実は、非情なまでの答えを返した。 「……正しいだけでは、何も守れん。志が無意味だとは言わん。だが……絶対的に、力の差と言う物は存在する」 「黙れッ!」 冷徹な、だが、正しい言葉を前に、リベリスタは気力を以て言葉を返す。 けれども、それは無慈悲な現実の逃避と大差なかった。 挑んだのはリベリスタ一人ではない。騒ぎを聞きつけた他のリベリスタが、戦いの最中に何人も飛び込んできてくれた。 穏やかな老人が居た。恐怖を抑える幼子が居た。男性も、女性も、皆が皆が、死という必従の可能性を知って尚挑みかかっていった。 その全てを、剣士は芥のように散らしていった。心臓に剣を突き立て、首を刎ね、倒れて尚闘志を失わない者は四肢すら安易に断ち切って。 「……何でだ」 「……?」 知らず、言葉が零れた。 「それだけの力があって、何の理由で、こんな事を……!」 無駄と知って、それでも言わずにはいられなかった言葉。 それを――剣士は、眇めた瞳で、答えた。 「……正義などという理想に、価値を失ったからだ」 答えと同時、からん、と言う音が響いた。 無機質なその音の方へと目をやれば、それは、デジタル式のタイマー。 四桁の数字、全てに示されていたのは、 「お前達の正義は、俺に届かなかった。──チェックメイトだ」 爆発音と、 崩れ落ちる建物の音と、 人々の悲鳴と、 リベリスタの――慟哭と。 絶望の音は、その何れか、或いは、全てか。 ●ケース:『進ぬ!電波少女』尾宇江・ユナ(BNE003660) 「ち、っくしょう……!」 唇を噛みながら、リベリスタの男が走っていた。 その身は大小様々な傷を付けていて。重傷とは呼べずとも、浅いとも言えようがない。 ……フィクサードに占拠、停電状態に追い込まれた病院を奪還して欲しい、という任務を下されたのが数十分前。 対象は一人と聞いていた。簡単な任務だと思っていた。 まさか……相手が此方の思う以上に悪辣などと、考えもしなかった。 『ハロー、お集まりの紳士淑女皆様がた。私とゲームをしましょう。 ルールは簡単です。「この病院に入ってくる人間を貴方達が殺しなさい」。 できなければ……私が5分に1人ずつ皆さんを殺害していきます』 リベリスタに階位障壁は無い。特に市街地の中心に在る病院とも成れば、人の入りは特に多い。 非戦能力をロクに持っていないリベリスタは、人々から逃げ回りながら、必死に懺悔の言葉を胸中ではき続けていた。 『……時間が経ちすぎますね。これからは3分に1人にしましょうか? それなら皆さんも必死になっていただけるでしょう』 付けっぱなしのスピーカーからは、断末魔と、暢気なフィクサードの言葉だけ。 けれど、それも、あと少しで終わる。 「――フィクサードォッ!」 ダン、と音を立ててたどり着いた其処には、連絡用のハンドマイクを片手に、病室の人間を殺し回る悪魔の姿があった。 「お疲れ様です。一般人から向けられる殺意はどうですか、リベリスタ? ひどい顔していますよ?」 笑いを堪えるのに必死な、少女のフィクサードは、満身創痍のリベリスタを見ながら、言葉を続ける。 「残念ですが、私も組織の依頼でもう暫く暴れなければいけないんです。其処で眠っていてください」 「巫山戯るな! お前は此処で倒……」 ――ズン、と。 言い切る前に、背後から衝撃を感じて、次に血を吐いた。 振り返ったリベリスタ。昏む視界に映ったのは、ハサミを握った一人の老婆。 「ね? 無理だったでしょう?」 さあ、次のゲームは何時始められますかね。 そんな言葉が、最期だった。 ● 「実験は終了です。お疲れ様でした」 VTSの稼働を終了させ、起きあがるリベリスタ達。 心配そうに女性の研究員が見守る中、彼らは虚ろな顔で、或いは苦み走った顔で、或いは素知らぬ顔で、何も言わずにその場を後にする。 恐らくは、誰もが同じ事を、理解していた。 自分の良心、 組織への忠誠、 正義を繕った仮面、 今回、悪に墜ちた彼らの心には、皆、その何処かに亀裂が入った事を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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