●フラスコは揺れる 温泉上がりの双子の女の子が、休火山を前にして笑っている。温泉宿の浴衣に身を包んだ彼女らの名前は、ナツキとフユミ。神秘的な少女たちであり、同時にフィクサード組織黄泉ヶ辻の幹部であった。 温泉が有名な場所でもなければなかなか実感が沸きづらいが、日本は火山の多い国である。あの富士山だって、今でこそおとなしいが一度噴火したときは大きな損害を人々を与えた。 自然とは、一度牙をむけば恐ろしいもの。それは自然の中で暮らす皆も知っていることだろう。 「ほかほかになったことですし、そろそろ始めましょうか。姉様」 「ええ、そうしましょうか」 その自然の力を利用するために、この双子はこの場所に来ていた。彼女らは魔女が秘密の薬を作るような表情で、空に向けてアーティファクトを掲げている。 空には炉座が輝いていた。 「大地も、星も素晴らしいものね。私達に力を分けてくれる」 アーティファクトに向けて空と大地の神秘的な力が集まって行く。このアーティファクトの名は、フラスコリアクターといい、炉座と自然の力をフラスコ状の身に蓄えるという代物であった。 「さあ、誕生しなさい。自由の使者」 そして、アーティファクトは力と意思を持ってこの世界に現れた。火と山の力を持つエリューションのような体は、蛮族のような人の形をしており、全体的に凶暴性が剥き出しの造形であった。 凶暴なのは見た目だけではない。このアーティファクトの怪物は“脅迫”が得意であった。その脅迫のターゲットとなったのは、人間が作り出した“法”。つまり、法に関わるものを標的にしてアーティファクトは動き始めたのである。 人を脅し、どちらも不利な二択を選択させる。 そういう力が、このアーティファクトにはある。当然……対象がそれを拒否すれば、その対象をこのアーティファクトの怪物は殺すだろう。 法を憎む、自然の力。人間そのものを恨んでいる、ということなのかもしれない。 「遊びましょう。リベリスタ。これが私たちの自由、よ」 剥き出しの筋肉と、剥き出しの牙で薄く笑うアーティファクトの怪物。それは混沌の未来をカレイドシステムに映させた。 「あなたたちの正義、私たちにもっと見せて頂戴」 アークはもちろん、法の番人ではない。神秘の番人だ。 神秘を守るという立場のため、この自然のカオスが形になったようなアーティファクトの怪物を倒すべくリベリスタを派遣することになった。 ――例え、その背後に何者かが居ようとも。 ●懲罰する者 現れた特殊なアーティファクトの怪物はアークによって懲罰者と名付けられていた。その懲罰者に関するデータを持ち込んで、『運命演算者』天凛・乃亜(nBNE000214)は解説を始める。 「まず、このアーティファクトの怪物は人の形を取っているわ。暴走状態にある……というよりは最初から制御することを期待していないみたい。今は、エリューション化した怪物に近いかもしれないわ」 見てみると、確かに人そっくりの形をとっている。とはいえ、顔がなかったり炎の斧を手に持っていたりと、人間でない部分が多すぎて人に紛れることはできなさそうであるが。 「カレイドシステムが見せた未来では、懲罰者は刑務所を襲って囚人を逃がすらしいわ。……どうも、そういうことを本能的に行っているらしいの」 そこに深い意図はないが、生まれた時からそういう思考であるらしい。自由を愛するアーティファクトであり、その為拘束された者である囚人を助けるという。とすれば、面倒な相手だ。放っておくわけにもいかない。 「能力はちょっとここでは語れないわね。資料を見て頂戴」 どさりと置かれた資料を前にして、リベリスタたちは目を丸くする。 「これが、今回の敵の資料。色々と調べたんだけどね、相手に選択権を与えるのが特徴みたい」 それが彼の自由の表れ、なのかもしれない。 「だけど、彼の自由を実行させるわけにはいかないわ。私たちはアークだものね」 ニッ、と笑う乃亜。資料には黄泉ヶ辻が関わっているとあるが、そんなことは今は関係ない。 ただ、人を守り神秘を守るだけだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月02日(水)00:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●燃え上がるもの リベリスタたちは刑務所が近くにあるという公園に入り、これの奥にいるはずの懲罰者に対する対策を練っていた。 「選択を強制させられるか。面倒くさいアーティファクトだな」 懲罰者。 そう呼ばれるようになった暴走アーティファクトは選択を常に強いてくるという。それに対して、リベリスタたちは既に十分以上の相談をしてきた。それだけに、確認は入念にやっているのである。 先ほど夜空に向かって呟いていた『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)もまた、そうした確認を怠っていない。 「まぁ、とは言え――人生も言わば選択の連続だしな。ある意味真理をついているのかもしれないけれども……」 思考を進めながら、言葉に出して自分がどんな存在と戦うのかを意識する涼。目元まで伸びてるブロンドの髪を指で撫でてから、指を使ってアピールをするように払う。なぜこうした行動をとっているのかというと、涼はこういう動きがかっこいいと思っているからだ。 「……とは言え、やられてやるわけにはいかんし、全力でぶっ壊してやるがね?」 意外と風に揺られなかった黒いマントを勢い良く脱ぎ捨てて、目を細めて顔を手で覆い隠す。中二的な疾患は軽度だからこの辺りが限界。 ちなみに涼は基本的にダメージを受けることを選択しており、一歩も引かず倒すつもりだ。ちょっとくらい不利でもその方が燃えるとも思っている。 「懲罰者ねぇ……」 同じく限界ギリギリまでダメージを受けることを選択しているのは、背を向けながらタバコを咥えている『足らずの』晦 烏(BNE002858)だ。背を向けているのは未成年者も多い仲間達の方向に煙が向かないようにする配慮だ。 煙を吸わないという選択肢? そんなものは烏にない。ヘビースモーカーとは、烏の人生とはそういうものだ。 「炉座とはあまり知られていない星座ですね。どちらに転んでも不利になる選択ばかり」 空を見上げ、選択されるものがどのような結果を及ぼすのか、その先を考えながら『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)はにこやかだった顔を無表情に変えていく。 「お?」 そして自分の感情を抑えこむための仮面を付ける京一を見て、涼はちょっとかっこいいと思った。 「『炉』で温泉で例の双ゴス姉妹で『法』に反逆する存在……? ……いや、よそう。俺の予想でみんなを混乱させたくない」 一方、顔を手のひらで抑えながらなんだか分かってはいけなさそうなことを呟いている『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は真似しちゃいけないな、と涼は思った。 とはいえ、影継だって当たり前だが真面目に戦うつもりだ。というよりも、戦闘が好きな影継が戦闘時に気を取られるはずもない。 「ふう……。さて、面白ェ相手だ。徹底的にやってやるぜ!」 相手は黄泉ヶ辻。甘く見るつもりはない。チェーンソー剣を掲げて、ギラついた目を輝かせる。 その背には、黒いマントが舞っていた。お前もか。 「黒だったら恐喝者だったのかなー? まあ所詮パンプアップしなくちゃ熊程度だろー」 欠伸をするように手を口元に持って行きながら、間延びた口調で『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は言う。その手には彼女の象徴とも言える凶悪な形のハルバード……アンタレスがある。ちなみに熊とは使いやすくてそれなりに力がある獣の例えであり、恐喝者は処罰者よりも強力な脅し屋という意味合いがある。 また岬はきっちりと制服を着ており、規則正しく動いている者という印象を与えるファッションをしていた。狙われるためだ。 「相手が赤の懲罰者なら、こっちは黒の処罰者だよっ♪」 そして同じようなことを言うのは、開いた花のように笑う『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)だ。ぴょこぴょこと元気に跳ねまわるその背にはまるで天使のような白い羽が大きく開かれており、フライエンジェであることを隠そうともしていなかった。 というのも、処罰者は白いフライエンジェを憎んでいるという。自由を愛するものは、まっすぐな天使を憎むのだろう。 「私は飛行で!」 「パワーとタフネスがあるー」 「だよっ!」 いえーい、とお互い手を叩いて軽快な音を鳴らす岬と冬芽。お互い言い表せないシンパシーがあるのかもしれない。 「ちなみに私はクリミナルスタアですからっ! フライエンジェでもありますけどねっ! ほらっ……あっ!」 冬芽と同じくフライエンジェの羽を出しながらぴょんっと跳ねてみた『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は、着地に失敗して顔面から地面にぶつかっていた。 「あいたたた。でも、クリミナルスタアでフライエンジェだとどういう扱いなんでしょうねー」 疑問を口にしながら、ぶつかった勢いで外れていた眼鏡を掛けなおすイスタルテ。 「さあな。攻撃を控えるとは言うけれど、実際どんなものなのかねぇ?」 結界を張っているクリミナルスタアな烏の返答を聞いて、考えても答えは出ないか、とお凸をさすりながらイスタルテは思うのであった。 「お、見えてきたぜ」 やっぱり戦闘には邪魔だったマントを脱いでから、影継はリボルバーとチェーンソー剣をバツの時に構えてみせる。戦闘の準備は万全だ。 「それじゃあー、言ってやろうかー。ドヤ顔で現れたところ残念だけど、何万回と言われてきたことを敢えて言ってやるぜー」 いくぜー、と周りを見てから岬は懲罰者の方向に言ってやる。 「相手に選択権のある能力は弱い」 アンタレスを向けて、にこりと笑う。ゲーマー根性に賭けて、負けてられない。 ●処罰者の選択 処罰者はいかにも怒っているという風体の男に見えるが、同時にアーティファクトであるという確信も持てる外見だった。その手に持っている炎の斧は、その一端を表している。 また、処罰者の周囲には小規模なマグマが存在している。これは溶岩操作の能力の一端であり、敵の行動を阻害するためのものだ。 さて、リベリスタの接近に気付いた処罰者は炎の斧を構えて一直線にそちらに向かった。という瞬間を見計らった男が、影から現れた。 「手前が何で怒ってんのか俺は知らねえ。其処には正当な理由でもあんのかもしれねえ」 影から現れたのは、『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)だ。気配を遮断し、リベリスタたちが来た方向とは反対側から処罰者に近寄っていたのである。 そして凍夜は左手で鞘から獲物を抜いて、ソードエアリアルによる奇襲を懲罰者に行っていた。凍夜の動きに対応した溶岩が凍夜の体を焼くが、凍夜は涼しい顔で刃を鳴らす。 「でもな、その暴走が無軌道なもんだってんなら、止めねえ訳にはいかねえよ」 振りぬかれた凍夜の刃が懲罰者の体を切り刻み、ダメージとなる。そうした切り傷が増えるたびに、懲罰者は怒ったような叫び声をあげた。 何かを叫んでいるということは分かるが、それは声ではない。だから、凍夜には聞こえなかった。 「叫んでばかりじゃ、伝わらないぜ。ちゃんと声と態度にしないとな」 バク転をして距離をとり、凍夜は抜き身の刃を構える。研ぎ澄まされた刃は鏡のように怒り狂う処罰者の姿を映し出した。 溶岩の中で自分たちの力を高めながらリベリスタたちは処罰者に接近、京一の指示を受けてフォーメーションを組む。 「うまく前衛後衛を作りつつ散らばってください。この相手はダメージコントロールが可能なはずです」 京一による規律正しい動きが、懲罰者を更に怒らせた。難儀な奴である。 「全く、まだ4月だってのに暑苦しい奴だぜ」 その様子を見ながら、影継は呆れたように笑う。 「――さぁ、これより始まるは“滅びへの選択”です。選びなさい。自らによって自由の死を得るか、この手による定められた死かを」 冬芽は上空から滑空するように処罰者に迫り、曲刀を突き付けて言う。当然、懲罰者はこれに答えなかったが、冬芽は少し寂しそうな顔をした。 「人生はひどい事と更にひどい事の選択の繰り返し」 何かを振り払うように加速。その勢いでギャロッププレイを処罰者に仕掛けた。 そのギャロッププレイは命中し、公園の木に懲罰者の体がミノムシのように吊るされる。 「……なんて、ね」 懲罰者を吊るしている糸を指で弾いて、寂しそうだった顔をいつもの笑顔に冬芽は戻す。思うこともあるが、今は自分を曲げずに飛んでいこうと冬芽は思う。白い翼があるのだから。 「ま、狙われない分、攻撃を叩き込みますかと」 自分に攻撃を集めるために目立とうとする冬芽とは対照的に、烏は後ろで隠れながらバウンティショットで懲罰者の体を狙う。片手でタバコを摘まみながらも、しっかりと照準が定められたバウンティショットの一撃は見事体の中心を打ち抜く。 しかし烏は喜びもせずに木の陰に隠れる。真面目なのか不真面目なのかよく分からないのが烏だ。 さて、銃弾を受けて尚怒っていた懲罰者は体に巻きついている糸を気合いと共に吹き飛ばし、再び動き始めた。その手には突如出現した本があり、もう片方の手には燃え盛る炎がある。 ここから選択を迫るつもりだろう。 迫られた選択肢に、リベリスタたちはそれぞれ答える。ダメージを受ける者、エネルギーが吸い取られる者。そして、 「ギアを上げて行くぜ! ダメージを受けたとしても俺は逆境の達人だからな!」 体に迫る炎を避けるもいる。 「ん。……熱い、けど電波は良好。問題ない」 そんな炎の中で、エリス・トワイニング(BNE002382)はホワイトプリムを手で整えながら天使の歌を奏でる。足元にマグマが迫るが、いつもの無表情でエリスは歌い続けた。 その歌に処罰者は苦しみ、怒り、迫る。歌い続けているエリスは無表情でそれを見て、星座の数だけこういうアーティファクトがあるんじゃないかと思っていた。マイペースだ。 「危ないですよぅ!」 エリスに向かう懲罰者の前に立ちふさがったのは、舞い降りたイスタルテ。今度は着地に成功し、手と翼を広げていた。 懲罰者はそんなイシュタルテを炎の斧と共に怒鳴りつけたが、イスタルテは引かない。そのままダメージを受けることを選択する。 「ライフで受けますようー」 「それは合っているけど何か違う気がするー」 そして斧によるダメージを受けて傷ついた体を傷癒術によって癒す。これによってダメージは最小限……そう、眼鏡が割れかけたぐらいで抑えられた。 「大丈夫。厄介な選択ですが、回復スキルの使い手が複数居るのですから、それを信じましょう」 最小限に抑えられたのは、京一が守護結界と翼の加護を使っていたから、というのもある。 「やーん……だけどー」 でもやっぱり眼鏡という自分の一部が壊されたのはちょっと傷つくイスタルテであった。 「嬢ちゃん、下がりな。オラッ!」 そんな風に怒鳴りつけて斧で攻撃していた懲罰者を、後ろから大きな剣でぶっ叩いたのは『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)だ。鍛えられた肉体を使い、まるで斧を振り下ろすかのように放たれた豪胆な一撃は大きな振動となって懲罰者を震え上がらせる。 「三尋木の天秤座に続いて、今度は黄泉ヶ辻の炉座か。連中も随分と色々なアーティファクトを持っているもんだ」 震え上がらせるアーティファクトを見ながら。ディートリッヒは愉快そうに笑った。これからも戦う相手がいる、というのはバトルマニアにとって嬉しいことだ。 「ぶっ飛ばしてやらぁ!」 戦いにワクワクしているのは影継もだ。湧き躍っている血肉を必要最低まで抑え、効果的な一撃をぶち当ててみせる、ということは戦いの中でしか感じられない麻薬のような駆け引きだ。 「新式の雷撃弾、試し撃ちと行くぜ!」 まずは銃でのけん制。先にディートリッヒによって大きな一撃を与えられた懲罰者は過剰に攻撃を気にしており、これに反応してしまう。 「聖剣(デュランダル)の名が宿っているんだ。一撃もらうぜ!」 そこに、チェーンソー剣によるデッドオアアライブが入る。 「へっ、これが俺の選択だ」 チェーンソー剣は懲罰者の体を削ってダメージを与えていく……。 「今です! 相手にチェーンソーが食い込んでいる隙に!」 そこで、京一の指揮が飛ぶ。京一の言葉はリベリスタたちを規律のよいコンビネーションの取れたチームプレイへと変えていく。それが懲罰者には許せなかった。 「選択を強いられるのは人生もかもしれないが、それでも理不尽な選択肢しかなければぶち壊すことだって出来るんだからな」 京一の言葉に頷いた涼は全力で懲罰者の懐に飛び込みチェーンソー剣で削られていない箇所に刃を突き立てる。 「無罪であれ、潔白であれ――」 そして一気に振りぬき、風と共に懲罰者の体に衝撃を与えた。 「強いる選択に、俺は従うつもりはない。最後まで抗ってぶっ飛ばしてやんぜ……!」 風が涼の髪の毛を撫でて、夜の闇が涼の体を包む。 集中攻撃を受けた懲罰者は、更に怒りを増して攻撃の体勢をとる。使うのは、幾つもの炎を薙ぐようにして放つ炎の斉射。 「そんな炎でなァーッ、アンタレスを燃やすなど、 できるわきゃーねェだろォォォーーーッッ!」 しかし炎をその身で受けながら、岬が突撃していく。自己付与によってパンプアップした体で思い切りアンタレスを振り上げて、 「素殴りならアーク全一だぜー、特に役には立たないけどー」 素手でパンチをかまして浮かせてから、斧槍を叩きこむ。これもメガクラッシュだ。 「理とか法とか秩序とかな、正味どうだって良いんだよんなもんは」 そして吹き飛ばされた先にいたのは、やはり影の中に潜んでいた凍夜だ。刃は月光に煌めき、鋭い眼光は懲罰者を射抜く。 「戦う力の無い奴が当然の様に虐げられる。それが気にいらねえ。手前と変わらねえさ。イラつくんだよそう言うのは!」 イラつきを刃に込め、二刀の刀を使って懲罰者を翻弄していく。 「散々選ばせて来たんだ。手前も選びな」 防御の刃で斧を止め、もう片方の刃で懲罰者の足を地面に縫い付ける。 「束縛された生か、自由な死か。手前だって破界器なんだ、人に使われる結末だって、悪かねえもんだぜ?」 これは彼なりの誘い文句なのだろう。 「誰が正義か。何が正義か。それを論ずるのは私達しゃなく未来の誰かだよ。……なんて、ね」 未来にすべてを託す、といえば聞こえのいい自分の言葉を横において、冬芽の純白の翼と空に浮かぶ三日月のような曲刀が懲罰者に迫る。 そして、糸が懲罰者を包み込む。 「――これが私の正義、だなんておこがましい事は言えないけれど……私は私としてここに立つだけだよ」 包み込まれた懲罰者の体を、冬芽は切り裂いた。 「暴走させず自我を残していればまた結果も変わったのかねぇ」 真っ二つになり、崩れ落ちていく懲罰者の体を見ながら、身を焼いていた炎で煙草に火を付けた烏が皮肉げに言う。 「終わりましたね。我々の選択は正しかったのでしょう」 崩れ落ちていく様子を見ながら、京一は仮面を外して爽やかな笑みを浮かべた。 ●悪い男 破壊された懲罰者の欠片……つまり、元のフラスコリアクターの破片を烏や凍夜、岬が拾い集めている頃。 「これを作り出した黄泉ヶ辻の方とはなんというか、こう言葉では言い表せないシンパシーを感じますっ!」 冬芽は辺りに怪しい人影がないか探しに出かけていた。 ……すると、 「流石正義と愛の方舟だ、って感じー。京介ちゃん、カンドー。ぱちぱちぱち」 怪しい人影は居た。今まで見たこともないような男で、甲高い声とねっとりとした視線を向けてきている。 ちゃらけた外見からは想像できないほどの威圧感を感じて、冬芽は仲間の方を振り向いて助けを呼ぼうとした。 ……が。 「あれ……今、触られた気がしたのに?」 ふと背中に気配を感じたと思ったら、次の瞬間にその男は消えていた。 不気味な感じがして、冬芽は肩を震わせる。 今、勝ったのは確かだ。だけど、懲罰者のように世界をかき乱し続けるような存在が、この世界にはまだまだいるのだと思った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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