● 「臭ぇ、臭ぇ、古臭えよ!」 伝達書に目を通した黄咬・砂蛇(こうがみ・さじゃ)は苛立ちを隠そうともせず、そばにあったテーブルを蹴り砕く。 ただでさえ余所者の下と言う立場が気に食わないのに、更にその余所者の立てた方針の生ぬるさ、古臭さが鼻について仕方ない。 「いや、でも待てよ。こんなん無視して俺が派手にぶちかませば、上のお歴々も間違いに気付くってもんだよな?」 チッチッと舌を鳴らしながら、砂潜りの蛇とも呼ばれるフィクサードは暫し自分に都合の良い思案に耽る。 貯水池に毒でも撒こうか? いや、効果はあっても地味すぎる。それに古臭くて趣味には合わない。 ならハイジャック? 爆破テロ? いや、どれも妙にしっくり来ない。もっと自分らしい、自己主張の出来る案は無い物か。 「そうだ。ガキを大量に殺して川に流そう。そうすりゃ汚ねぇ川も少しはマシになるってもんだ。我ながら環境に優しいエコじゃねぇか」 エコが今時かどうかはさて置いたとしても、明らかに頭の配線が飛んでいる事は間違いない。 勝負事は運の良い奴が勝つ。喧嘩は躊躇わない奴が勝つ。そして殺し合いは殺す気のでかい奴が勝つ。 それが裏の世界で生きてきた彼の信条。 「そうさ、殺しなら俺が一番なんだよッ」 壁の地図に向かって投げ付けた砂蛇のナイフは、川の上流に面する小学校を貫いていた。 ● 「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は、珍しく困惑した様子で前置きを置く。 普通では考えられない量のフィクサード事件が同日に起きる。それらに関連性が無いとは到底思えない。けれど、 「でも、今は目の前の事件に集中して」 イヴから渡された資料には、今回の主犯格と思われるフィクサードと、その目的が書かれていた。 1フィクサードの目的: とある小学校の小学生達を皆殺しにし、その子供達の血で川を真っ赤に染める事。1学年3クラス、1クラス30人、6学年と言った感じです。 襲撃の時間は授業中で、丁度体育の授業等も無い為全員校内に居ます。 2主犯格と思われるフィクサード: 砂潜りの蛇と呼ばれている砂使いのフィクサード。性質は残忍で特に弱者を踏み潰すように、理不尽に殺す事に喜びを覚えるタイプ。自己主張強目。 とある組織に所属しており、組織の用心棒、あるいは殺し屋としての活動が知られている。 砂潜りの蛇の能力、あるいは彼の所持アーティファクトの能力で『知られている物』は3つ。 1つ目は砂の結界。戦闘時は半径数mの範囲に視界が霞む程に濃い砂の結界を纏う事で彼に対する攻撃は近接、遠距離を問わずに命中にペナルティがかかる。 また砂の結界内に踏み込んだ者は砂が目や鼻、喉に入り激しい痛みを発するので暫くの間はまともな行動が取れなくなる(麻痺と同様の効果を付与。ダメージは無い) 2つ目は砂の盾。砂潜りの蛇への攻撃が命中した時に発動する能力でその攻撃に対して砂を集める事で防御(ダメージを半減)する。ただしこの能力が発動してる最中は砂の結界(能力1)が解除される。 砂の盾は視界内の攻撃なら一度に幾つもの攻撃に対して発動(砂潜りの蛇が其の攻撃を見る事で発動)できる。 3つ目はナイフ。砂潜りの蛇はナイフの使い手(近接も投げての遠距離も可能)で体中に無数のナイフを仕込んでおり、そして彼のナイフによる攻撃は、BS猛毒付与攻撃である。 3その他のフィクサードと思わしき黒服5人。(仮称A、B、C、D、Eとかアイン、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フェンフとかお好きな様に) 全員が近接型で長ドス装備。壁となって砂潜りの蛇を守ろうとする。個々の能力は平均的なアークのリベリスタと互角かほんの少し劣る(劣る者は×0.8程度、運や戦術が悪いと1対1でも遅れを取る可能性はあります)程度。 ……なんですが、このうちの3名が実は砂潜りの蛇がアーティファクトの力で作った自爆用の砂人形です。自爆の威力は半径10mを吹き飛ばす位で、リベリスタにもかなりのダメージを与えるでしょう。自爆のタイミングは蛇が決めます。 ちなみに見分け方は、強さが少し劣る方(×0.8)が砂人形で、砂潜りの蛇の能力による悪影響を受けません。人形同士は自爆ダメージも受けないです。 強さがリベリスタと互角程度なのは蛇に部下としてあてがわれたフィクサードです。蛇の能力の影響を受けてしまうので彼等は蛇には一定以上近づきませんし、ある程度ダメージが溜まると砂人形の自爆に巻き込まれることを恐れて逃走します。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月28日(土)01:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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「蝮殿は我等兄弟をこの様な行為の為に貴方に付けた訳ではありませんぞ」 道すがら、漸く黄咬砂蛇から目指している場所とその目的を聞き出したフィクサード・阿徒は、承服出来ぬと抗議を口にした。 憧れ、尊敬を抱く蝮原咬兵の一助となるならばと、砂蛇の下で、彼の作る砂人形に混じり溶け込むと言う駒扱いの屈辱も受け入れた阿徒と吽母の兄弟だったが、しかし砂蛇の目的が蝮原の仁義に泥を塗る物だったならば流石に加担する事が出来よう筈もない。 抗議の言葉も口調こそは丁寧だが、滲む感情はあからさまな怒りだ。 「煩せぇなぁ。そんなに蝮の野郎が愛しいなら帰って蝮の尻でも舐めてろよ」 けれど、砂蛇は阿徒の怒りに更に油を注ぎ込む。 自分だけでなく蝮原をも馬鹿にした砂蛇の言葉に、武器に手をかけた阿徒を、けれど弟の動きを察した吽母が抑える。 「そうそう、俺等の本当の目的を思い出せよ。こーゆーのを見逃せない、はしゃいでる正義の味方気取りの馬鹿を釣る為にワザワザ出向いてんじゃねえか」 細い舌をちろりと覗かせ、嘲る砂蛇。 其の視線の先には、目的地である小学校の校門と、 「お待ちしていました、出来れば蝮の君に御相手願いたかったのですが」 丁寧な物腰とは裏腹に、口元に侮蔑を貼り付けた『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)の姿があった。 ● 「ああ、やはり劣等感でしたか。男の嫉妬とは実に醜い。おまけに殺しは覚悟と嘯いて、向かう先が小学校、面白い冗談です。貴方達もそう思うでしょう?」 相手の思考を言葉で誘導し、リーディングで読み取り、更なる思考誘導への種とする。 イスカリオテが今回読み取ったのは蝮に対する砂蛇の確執。それを殊更に貶めて毒と化した言葉を注ぐ。 けれど、 「お前さ、覚悟が何かはわかんねぇけどさ。そんなに構って欲しいならその暑苦しい服を脱いでこっちにケツを向けろよ。良いぜ、お前みたいなのは嫌いじゃねえんだ」 次にリーディングで読み取った、……否、効果の続くリーディングで読み取らされたのは、砂蛇に組み敷かれる自分の姿だ。しかも恐ろしい事に、砂蛇は挑発ではなく本気で劣情を抱いている。 勿論そんな事で動揺する程イスカリオテも青くはないが、相手の精神が下種過ぎる為、毒が毒としての用を成さない。それどころか薄汚く穢れで返された。 イスカリオテの唇がきゅっと笑みの形に吊上がり、砂蛇がそれに応える様にちろりと舌を出す。 「活きのいい殺し屋と云うから期待していたけど……外れかな」 「三下君、君は仲間内で最弱の私にさえ勝てないよ。力比べでも、殺しでも。こっちきて試してみる?」 イスカリオテが攻めあぐねている事を悟って、『みす・いーたー』心刃 シキ(BNE001730)が矢の様に連打した挑発も、既に挑発と悟られてしまっており、効果は薄い。 複数の人間による挑発は、頭に血の上った相手には非常に効果的だが、けれど裏がある事を悟られ易い、挑発であるとばれ易いデメリットもある。それに砂蛇は自らを最弱と称する者に興味を持つ程人の良い性格をしていない。 そして挑発である事がバレたのは言葉だけではなく、攻撃も同様だった。ピンポイントを放とうとしていた『A-coupler』讀鳴・凛麗(BNE002155)との間に、黒服達が進み出る。 ちなみに、凛麗は本来非常に可愛らしい顔立ちをした少女であるが、今はマスクと眼帯で顔の殆どを覆い隠している。しかし、砂蛇はその覆い隠した顔を見、何故か嬉しそうに、 「噂通りに敵の能力対策もバッチリですって感じだな。なぁ、何を企んでるかは知らねぇが、そろそろ気付けよ。俺の目的はテメー等さ。俺はお前等を侮らなねぇ。餓鬼共はお前等が俺の相手をする為の餌兼人質だ」 逃げれば小学校の子供達を殺す。そう匂わせ、砂蛇は校門でフィクサード達を待ち受けていた最後の一人、4人の中では一番名の知られている『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)を見据える。まるでお前の事を知っていると言わんばかりに。 ● リベリスタ達にとっては想定外の形で戦闘が始まった。砂蛇の抑えを麻痺と毒を無効化出来る朱子が行い、黒服5人を残った3人が相手をする。圧倒的な劣勢の戦い。だが唯一救いと言えるのは、朱子が挑発失敗を悟った時に素早く此処に居ない仲間達へと連絡を飛ばした事だ。 決して遠くは無いプールや水飲み場から、仲間達が駆け付けるまでの時間を耐えれば良い。けれど、其の時間は4人にとっては長く苦しい物となった。 予め決めていた通り、砂人形ではなく部下を先に落とさんと先ずはイスカリオテがリーディングで思考を読み取りフィクサードと砂人形を判別する。しかしリーディングで思考を読まれた事は相手も察知できる為、偽装を無駄と悟ったフィクサード達は本気……つまりスキルを使い始めた。 「手前は阿徒「吽母」、手前共にとってもこの戦いは決して本意ではありやせんが、引ける道もございやせん。許せとは言いやせん。唯、死んで下さい。其の後の子供の犠牲は手前共の誇りに賭けて防ぎやす」 黒服を脱ぎ捨て、背中の仁王の彫を見せ付ける様に見栄を切る二人のフィクサード達。リーディングで読み取れた其の技の名前は『仁義上等』。運命を引き寄せる効果の、誇りを持った悪漢が使う技だ。 彼等が、そして砂人形達が振るう長ドスは、前衛に立ったシキと凛麗を容赦なく切り裂いていく。 勿論彼女達とて成す術も無くやられていた訳ではない。凛麗はコンセントレーションからのピンポイントで確実に阿徒や吽母の足を打ち抜く事で彼等の攻撃の圧力を弱め、シキは用意していたペットボトルの水をペットボトルごと切り裂く様に砂人形にクローで叩きつけている。 確かに足を撃たれれば貫かれずとも足は鈍る、水をかけられた砂人形も一部が泥となり確実に動きは鈍くなった。だがしかし、凛麗が攻撃出来るのは一度に二人のうち一人だし、シキもペットボトルは一本しか持っていない。イスカリオテも攻撃に、……当然の様に口撃も、行ってはいるのだがやはり人数の差は圧倒的に大きい。 それでも凛麗とシキが崩れる事無く耐えたのは、2人のモチベーションの高さに依る所が大きい。凛麗は、この様な世界に足を踏み入れる事にはなったけれど、何時かまた帰れるかも知れない日常として小学校を見ており、そのかけがえの無い日常を壊されたくないとの強い想いが骨子となって彼女の足を支えている。そしてシキも、挑発に乗って来なかった砂蛇への怒りと悔しさ、言うならばドロドロとした情念が彼女に倒れる事を拒否させた。 吹き荒れる砂の結界に入り込み、怯む様子を欠片も見せずに、朱子は砂蛇のナイフと切り結ぶ。ナイフから滴る猛毒も朱子には恐怖の対象とはなりえない。 燃え盛る炎の様な強い怒り。理不尽に弱者を踏み躙って来たのなら、力の通じない自分を相手に、 「一方的に嬲り殺しにされて死ぬ覚悟くらいとっくにできているんだろうな、お前」 と、強い感情により若干早口気味になって吼える朱子に、……けれども、 「能力の通じない眼鏡ちゃんか。……天敵って感じだな。けどまあ一人で俺の相手は10年早いわ。殺し合いでも、ベットの上でもな。取り合えず死ぬのはテメーだ」 砂が効かず、毒も効かず、視界の悪さも高い命中率を持つオーララッシュで乗り越える朱子に、だがそれでも砂の盾が砂蛇へのダメージを半減し、砂蛇の刃は朱子の肉体に何の障害も無く潜り込む。 例え砂の盾を発動させ、砂の結界を解除させる事が出来たとしても、乗じてくれる仲間が居なければ何の意味も持たない。砂の盾の向こうで嘲笑う砂蛇。けれど其の時、不意に側面から襲い掛かった風の刃が、驚く砂蛇の顔を横一文字に切り刻む。 ● 「ざんぷーきゃくってね。少しは頭冷えた?」 技を放った脚をゆっくりと下すのは、『残念イケメンヴァンパイア』御厨・夏栖斗(BNE000004)だ。朱子よりも更に名の知られる彼の事は砂蛇も当然知っており、もし姿を見掛けていたら決して注意を逸らす事等は無かったのだろうが、挑発誘導の失敗が逆にこの奇襲の機会を作らせた。 次いで、 「弾幕張るよ!」 仲間への注意を促す声と共に打ち出された無数の弾丸、結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の放った大技・ハニーコムガトリングが、圧倒的に圧していた砂人形やフィクサード達を一気に押し戻す。 「すまぬ、待たせたの。じゃがまだ働いてもらうぞえ」 謝罪を口にしつつも何処か偉そうな『傲然たる癒し』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)が高らかに詠唱すると、清らかなる者の福音が傷付いたリベリスタ達に降り注ぐ。 福音の癒しを受けたシキや凛麗、朱子がその面を上げた時、戦況は既に5分と5分、……いや押し返した勢いの分だけリベリスタ達が優位となる。 そしてダメ押しとばかりに、最後に校舎の方から現れた『傷顔』真咲・菫(BNE002278)の手に持つクロスボウから放たれた魔力を籠められた矢が2度放たれ、阿徒と吽母の2人に突き刺さる。 血を流す2人を真正面から見据える菫は何も語らない。彼女は既に校舎の中で語るべき事、騙るべき事を終えて来ているのだ。 この学校の校長に対して魔眼を使う事で私服警官になりすました彼女は、凶器を持った不審者が学校の敷地内に入ったと言う設定を持ち出して、子供達を決して校舎から出さない様にと働きかけて来たのだ。 小学生が大人の言う事を素直に聞く子ばかりか、との不安点は少し残るが、出来る限りの手を打った以上、後は本職の教師達を信じて任せるより他はない。 勢揃いしたリベリスタとフィクサードの戦いの天秤は、今や完全にリベリスタ側へと傾いていた。 立ち直ったシキのギャロッププレイが阿徒を縛り、その阿徒へのフォローに動こうとした吽母に対しては、凛麗が狙い済ました的確なピンポイントの攻撃で其の動きを制する連携を見せる。 そしてその連携に応じる様に、虎美と菫が、……矢と弾丸と放つ物に違いは有れど、同じスターサジタリーが見蕩れる様な抜き打ちで阿徒と吽母をそれぞれ射抜く。 更に、 「勇めよ、者共。妾達の戦いに敗北は無い」 ゼルマが傲慢とも取れる台詞と共に癒しの力を発動した。けれど其の台詞の本当の意味は、自分達の戦いは負けられない。自分が、この戦いに、負けさせない。と言う強い自負と意思の表明だ。 加えてイスカリオテと夏栖斗の放つ高威力遠距離攻撃の猛威も重なる事と、フィクサード側最大の戦闘力を持つ砂蛇が未だ朱子を仕留め切れていない事実が、2人のフィクサードにこの戦いが敗北に終わる事を悟らせる。 「逃げるチャンスは今だけですよ」 戦いの転機は凛麗の一言だった。元々任務と戦いに気乗りで無かった阿徒と吽母は、自分達がどう動こうと砂蛇はもう子供達に手を出す事は不可能だろうと判断を下すと、互いに目配せをして逃走の意図を伝え合う。……その瞬間だった。 「爆発します、退避!」 緊迫したイスカリオテの警告の声が飛ぶ。けれど一瞬で10mの距離を無かった事に出来る方法は無く、飛び込んできた砂人形によって、阿徒と吽母、2人の直ぐ傍でそれぞれ一回、合計2回の爆発音が響く。 ● 「ああ、可哀想によぉ。お前等があんまり苛めるから死んじまったじゃねえか」 爆発の砂煙が舞う中、響くのは顔の傷を押さえて笑う砂蛇の声。 そして、爆心地には無念の表情で息絶えた阿徒と吽母の姿があった。 「けど心配すんなよ。お前等の事はちゃんとお前等の愛する蝮に伝えてやるよ。お前等は精一杯戦って、リベリスタ共に嬲り殺されましたってなぁ!」 すまない、俺の力が足りなくてお前達を死なせてしまった。等の口だけの台詞とは裏腹に砂蛇は心底愉快そうに笑い続ける。 其の言葉の真意に気付いたのは、砂蛇の思考を読んだ事で少しばかり他の者よりも情報が多いイスカリオテだった。 砂蛇は、自分達に蝮を殺させたいのだ。蝮が責任者の作戦で、蝮を慕う者が多く犠牲になれば、蝮は後に引けなくなる。責任者としても、仁義者としても、そして慕われていた心情的にも。 蝮が後に引けなくなり、蝮とリベリスタ達の戦いが激化すれば、リベリスタ達が蝮を倒す。あるいは、倒されなかったとしても蝮は大きな傷を負うであろうと。 毒を持って相手を蝕む原罪の蛇だからこそ理解出来た、砂蛇の仕込む毒。 「……ふざけんなっ」 だが響いた怒りの声の主は、裏等理解せぬ者だった。 歯を食い縛り、震える膝を叱咤し、立ち上がる夏栖斗。何一つ理解していなくても、砂蛇が間違っている事だけは判る。 強い怒りが運命を引き寄せ、彼に再び力を与える。 「まだおやすみ時間じゃないからな! ぜってーに守るんだよ! そう決めてるんだ!」 夏栖斗自身も自分が何を口走っているかを理解しては居ないだろう。それ程に爆発のダメージは大きい。けれど言葉に籠められた意志に導かれる様に、 「蛇食べたい」 まるで寝惚けたかの様な台詞を吐き、ふらつく頭を押さえつつシキも立ち上がる。しかし爛々と輝く目が、彼女の言葉が寝惚けた物では無く心の底からの本心だと語っている。 「……心刃様、ご無事、ですか?」 自らも傷付きながらも、同じく倒れていたシキを心配しながら、凛麗もまた身体を起こした。 響き合い、惹かれ合う運命の輪。 「……ゾンビかよテメー等」 心底呆れた様に呟いた砂蛇に、虎美が、菫が、そして朱子が武器を向ける。 「逃がすと思うのか?」「逃げられるとお思いですか?」 朱子と、イスカリオテの言葉が、熱く、そして冷たく響く。……けれど、砂蛇にはもう一枚だけ切り札が残されていた。 ● 「思ってるさ。お前等なら逃がしてくれるってな!」 言葉と同時に駆け出す砂蛇。と、同時に別方向に向かって最後の砂人形も走り出す。 即ち出口に向かって走る砂蛇と、校舎に向かって走る砂人形。 迫られたのは2択だ。校舎で犠牲が出る事を見過ごして砂蛇を捕獲、あるいは殺害するか。もしくは砂蛇を諦めて子供達を救うか。 「子供は国の宝です! というほど私も子供好きじゃないけど……」 そう言いながらも、菫が矢を放つ先は走る砂人形だ。 「砂人形位、……撃ち抜いてあげる」 当然の様に虎美も砂人形に銃を向け、残る力を注ぎ込んでもう一度大技・ハニーコムガトリングをぶちかます。 「わたくしが守りたいのは……」 本当に守りたい物を選んだ凛麗が、続いてクローを翳して駆けるシキが、当然の様に突っ込む夏栖斗が、悔しさに唇を噛んだ朱子が、攻撃手段を持たないゼルマすらが砂人形の足を止めんと走り、最後に砂蛇に最も拘っていたイスカリオテすらが子供達を救う為に其の力を砂人形へと向けた。 リベリスタ達の集中砲火を受け、爆発する事も無く砂人形は沈む。 天秤にかけられ、選び取られた物は、まだ先の判らない未来。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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