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【はじおつ】エフィカさんとはじめての偽者

●フィクサードvsアーク
「ヒャッハー! 雑魚いぜジジィィィ!!」
「ヒィィィッ!?」
 髪の薄い、如何にも幸の薄そうなスーツ姿の中年男を取り囲む4人の少年。
 見るからに10代中盤~20代前半と言った感じの若者達は皆、赤い髑髏のスカーフを腕に巻いている。
 恐らく何処かのチーム。チーマーかカラーギャングか。その類の非行少年グループの一種だろう。
 泡を食って慌てる中年男を4人が追い掛け、追い詰めながらげらげらと嗤う。
 彼らにとってはこの追跡劇すらも所詮は遊びの一貫なのだ。
「オラオラ、もっと上手く逃げねえと怪我すんぞジジィよぉ! ギャッハハハハハ」
 自分より明らかに弱い者を追い詰めるだけのゲーム。罪悪感すら無い他愛も無い娯楽。
 何より、追う側の男達の瞳には自身が満ち溢れていた。圧倒的強者の自覚。
 それは彼らが揃って革醒者であったから。と言う一点に集約される。
 特別な力を手に入れた人間の行動は主に2つに大別される。
 力を利用するか、力を隠すか。前者の内それを私利私欲に用いる者。これをフィクサードと呼ぶ。
 自覚するしないに関わらず、彼ら4人は既にフィクサードと呼ばれて相違無い身。
 他方、得たその特別な力を世の秩序と平穏を守る為に用いる者をリベリスタと呼ぶ。
 そして十二年前の大災害、ナイトメアダウン以降東方の空白地帯と呼ばれ続けた日本における、
 現行最大のリベリスタ組織。それこそが特務機関『アーク』である。
「まちなさいっ!」
「な、何だてめえらは!」
 上がった声は鮮烈な響きを滲ませて、追い詰められた中年と少年たちの間隙を裂く。
 今宵も、世に混沌を撒き散らす者とそれを看過し得ぬ者。フィクサードとリベリスタとの戦いが幕を開けるのだ。

「……私達は」「聞いたこと無いかな、特務機関『アーク』って奴」
「貴方方の悪行しかと見ました」「如何にもな暴挙許し難しっ!」
 声を上げる影もまた4つ。如何にも日本人顔の中学生位の少女に、黒基調のパンク服に鼻ピアスを刺したチャラ男。
 キャリアウーマンと言う単語を連想するスーツ姿の女性。
 そして最後の一人はと言えばはち切れんばかりに筋肉質な肉体を神父服に詰め込んだ男である。
「あ、『アーク』だって!?」
「何だ、知ってるのか藤田」
「聞いた事がある。確かうちの先輩が『アーク』とだけは事を構えるなって……」
「なっ、やべえじゃねえかどうすんだよ!?」
 相手の所属する組織の名を聞いてどよどよと動揺する少年達。
 だが、それもその筈。ここ数年アークの戦果には目覚しい物が有る。
 主流七派程に大きな組織に属しているならともかく、末端のフィクサード達にとってこれと事を構えるのは
 既に決して小さくないリスクなのだ。覚悟も矜持も無い非行少年達で有れば尚更である。
「ちっ、仕方ねえ、退くぞ」
「今に見てやがれっ! うちの先輩はすげえんだからな!」
 お決まりの捨て台詞。どやどやと立ち去ろうとする4人。だが、彼らはそれでもまだ相手を甘く見ていた。
「逃がす訳無い」
「ひぎゃあ!?」
 背中に放たれる魔炎の火球。炸裂するフレアバースト。赤々とした焔が夜闇を照らす。
 面食らったのは敵に背を向け退こうとしていた少年達ばかりではない。追われていた中年男もである。
 まさかこんな一般人の目もある路上で、しかも退こうとしている相手の背をぶち抜く様な相手が
 セイギノミカタをしているとは考えていなかったのだ。しかもそれを放ったのは中学生位。見た目年下の少女である。

「て、てめえ、何しやがる!」
 俄然いきり立つ男達に、少女が後ろに立つ仲間達に指示を下す。
「将門さん、天原さん、やっておしまいなさい」
「Yes, sir!」
「仕方ないですね」
 将門と呼ばれた鼻ピアスが駆け込み、舞う様に短剣を振るう。斬り付けられる度に上がる悲鳴、跳ねる血飛沫。
 半ば奇襲同然で襲われたフィクサード側が慌てて体制を立て直すも、その次の瞬間彼らを射抜いたのは複数の気糸。
 ピンポイント・スペシャリティ。その技が如何なる物であるであるかを解するまでも無くばたばたと倒れていく少年達。
「お怪我は有りませんか、其方の方」
 そんな最中に被害者である中年男性に迫る巨漢。その背中には白い羽が有る様な気がするが、相手はそれ所では無い。
 全く理解出来ない事態、目の前で展開された理外の光景にがたがたと震えるばかり。
「怯えてらっしゃるみたいですね。将門さん、魔眼をお願いします」
「All rightっと。そんじゃま何時もの手筈通りにね」
「了解しました」
 こくりと頷き合う鼻ピアスとキャリアウーマン。そして満足気に頷く神父姿の巨漢。
 これにて一件落着。そんな空気が漂ったその次の瞬間。
 そう、偶々巨漢にかけられた言葉さえ無ければ、多分もう少し事は穏便に運んでいただろう。
「それと新藤さん、あの人達の更正はお任せして良いですか?。」
「勿論ですよ真白嬢。全てこのエフィカ・新藤にお任せを――」
 ぷつんと、モニターのスイッチが切れる。暗転、静寂、急転直下。そして――

●許さない、絶対にだ
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
 アーク本部、ブリーフィングルームの中を絶対零度にすら程近い北極の風が吹き荒れる。
 両目を閉じた『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)と、
 無表情を通り越して虚無を瞳に宿す『リンクカレイド』真白 イヴ(nBNE000001)
 果たして。今、この瞬間。彼の映像を見た上で一体誰が彼女らに声を掛けられるだろう。無理だ。難易度VHである。
「……偽者が、出た」
 ぽつりと、語られる内容には怒りとかそういう次元ですらない暗澹とした感情の残滓が見え隠れする。
 ああ、怒ってる。と、誰が見ても分かるレベルである。背中に阿修羅明王が浮かんでいる気すらする。
「どうもその辺のフィクサードを手当たり次第に、神秘の秘匿とかまるで無視して襲撃してるみたい。
 しかも被害に有った人を救う変わりに、その人に暗示を掛けて私腹を肥やしたりしてる。これは悪決定」
 普段冷静で知られる万華鏡の申し子、何か今日に限って結論までが一足飛びである。
 とは言っても実際にやっている事はとても褒められた事では無い。何よりこのままだとアークその物にとって迷惑だ。
「……何で」
 だがそんな事を考えている暇もあればこそ。次いで響いた声は低く。何処までも低く。
 地獄の釜の底から漏れ出す罪人の怨嗟を煮詰めて凝縮した様なその響き。
 集められたリベリスタ達どころか、イヴさえもが動きを止める。向かった視線の先には俯き加減なエフィカ。
「…………何で」
 うん、何が言いたいかは良く分かる。良く分かるから少し落ち着こう。ね。
 何時も笑顔で愛らしいアークのマスコットであるエフィカさんに怒りなんて似合わない。
 彼女は平穏な日々の象徴的存在の筈で――

「………………何で私の偽者だけ性別間違ってるんですか――――ッッッ!!!」

 叫んだ。
 そりゃエフィカさんだって叫びたくなったりもする。
 それは止め処もなく悲痛な心からの叫びである。映像化したなら全米興行成績No1は間違いが無いだろう。
 余りの切なさにアークの全リベリスタが泣いた。ありがとう、そしてさようならエフィカさん君の笑顔を忘れない。
 まあ、けれど理由は明快である。恐らくは、ネームバリューの差だ。
 プロトアーク時代ならともかくアーク本格始動以降、エフィカは裏方に徹して来た。
 エフィカ・新藤と言う名称その物はアークの初期メンバーとしてそれなりに知られて居たとしても、
 個人情報の流出が決定的に足りていないのだ。おまけに西洋名は男女の判別が難しい物が少なくない。
 余り嬉しくない行き違いが有ったのだろう。何故かNOBUもナイクリになってるしね。分からなくは無いけど。
「……エフィカさんもこう言ってる事だし、流石に殺すのはやり過ぎだけどこの集団壊滅させちゃって」
 それもやり過ぎじゃないんですかね、イヴさん。けれどそんな無粋な突っ込みはこの場の誰にも届かない。
「私だって、私だってもっと皆さんのお役に立ちたいですよっ、お仕事したいですよっ
 でも、何でか私に回ってくるお仕事っておかしなのばっかりなんですもんっ! 仕方ないじゃないですかっ!」
 しくしくと、部屋の隅で何かを呟いているエフィカさんの声。けれど残念ながらこの世界は非情である。
 誰だってやりたい仕事ばかりが出来る訳では無い。何かアレな仕事ばかりだったしてもそれはもう運命である。
「今回はエフィカさんにも手伝って貰おうと思う」
 付け加える様にイヴがそう口にしたのは、落ち込むエフィカさんの姿を哀れんでの事か。
 差し出される資料には次に偽アークがフィクサードを襲撃する場所と時間帯が綴られている。
「……あ、それと皆の中にはそれなりに名前が売れてる人も居ると思うけど」
 さて、それでは任務だと踵を返そうとしたリベリスタ達。だが、そうは問屋が卸さない。
 これで終わりでは無いのだ。何時だって、真打は遅れてやってくる。
「皆の偽者も居る可能性があるから気をつけて。性別とか違うかもだけど」
 え 、 マ ジ で ! ?


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月28日(土)23:40
 60度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 こういう事件も有名税と言う事で。以下詳細です。

●依頼成功条件
 フィクサード組織『偽アーク』主要メンバーの撃破

●フィクサード組織『偽アーク』
 構成員20名程度の微妙な規模の組織。
 この度真白イヴによってもれなくフィクサード認定された。
 主要メンバーは4人。敵戦力は+1~8人。

●偽アーク主要メンバー
・真白イヴ(偽)
 黒髪黒目の女子中学生。クラスはマグメイガス。
 戦闘指揮能力に長け、Lv15制限までのマグメイガスのスキルを用いる。

・将門伸暁(偽)
 茶髪で鼻ピアス、パンクルックの男。クラスはナイトクリーク。
 魔眼とテンプテーションを持ち、攻撃は物理系。回避特化型。
 Lv10制限までのナイトクリークのスキルを用いる。

・天原和泉(偽)
 キャリアウーマン風の30代前半辺りの女性。クラスはプロアデプト。
 Lv15制限までのプロアデプトのスキルと、ブレイクフィアーを用いる。 

・エフィカ・新藤(偽)
 受付天使(漢)筋肉質なフライエンジェの男性。クラスはホーリーメイガス。
 Lv10制限までのホーリーメイガスのスキルと、ジャスティスキャノンを用いる。

●偽者出現!
 名声101以上の依頼参加リベリスタの偽者が“必ず”出現します。
・名声101~200
 性別:反転、クラス:そのまま、種族:ジーニアス以外、Lv:本物-1
 能力特徴:反映無し、外見:似ても似つかない
・名声201~300
 性別:そのまま、クラス:そのまま、種族:ジーニアス、Lv:本物-3
 能力特徴;反映有り、外見:身長、体型、髪色は共通している。肌色は普通。
・名声301~
 性別:そのまま、クラス:そのまま、種族:そのまま、Lv:本物-5
 能力特徴;反映有り、外見:上記に加えステータスの「特徴」を全て満たしている。

・尚、名声100以下のリベリスタの偽者は出現しません。
 また、偽リベリスタの撃破は依頼成功条件に関係しません。

●同行者
 『敏腕マスコット』エフィカ・新藤。命中特化型神秘系スターサジタリー。
 フライエンジェなので耐久力にはあんまり自信が有りません。
 放っておいても彼女なりに頑張りますが、指示をして頂けると喜びます。
 特に何もない場合率先してエフィカ・新藤(偽)に攻撃を仕掛けます。

・保有一般スキル:幻視、電子の妖精、飛行、器用、当て勘、精密機械
・保有戦闘スキル:1$シュート、シューティングスター、スターライトシュート、アーリースナイプ

●戦闘予定地点
 深夜の繁華街。その路地裏。
 偽アークのターゲットはフィクサード予備軍の不良3名。Lvは1~3程度。
 特に手出ししなければアークと偽アークの戦いに乗じて逃げようとする傾向。
 命の危険でも無い限り積極的に戦闘に参加する事は無い。
 余り目立った行動を取ると人目に付く可能性有り。
 要光源。自動販売機、電柱等障害物はそれなり。暗視があれば視界は難無く通ります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)
ナイトクリーク
宮部・香夏子(BNE003035)
プロアデプト
アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)
ソードミラージュ
黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)

●偽者達の夜
「あのさあ」
 灰色髪に横ポニー。若干きつめの眼差しが芯の強さを感じさせる女子大生らしき女。
「何でキミ達まで集まってきちゃったワケ?」
 視線の先には夜の繁華街には明らかに浮いたスキンヘッドで作務衣の男。
 眼を隠す様にサングラスを着けたからと言って、その服装とのアンバランスさは隠せない。
「仕方ねえだろ、イヴの呼び出しなんだから」
「まあまあ、女子中学生に足で使われるとか拙者らの界隈では御褒美でござるよ」
「虎鐵おじさんは一寸黙ってて」
 そして引き締まった体躯に顔に傷の在る明らかに筋者らしき大柄の男。
 何の因果か連れ立って3人は偽アーク(仮)のメンバーの中でも指折りの実力者である。
 元々フィクサード主流六派の様に人材の厚い組織では無い。どちらかと言えば少数精鋭と言うべきか。
 であればこそ、普段の仕事など、殆ど1人で片がつく。
 旧知の様に振る舞う3人とて、果たして顔を合わせたのは何ヶ月間ぶりか。
「来た来た。もーあんま待たせないでよね。特に男2人。約束5分前は基本っしょー」
「……さっさと済ませて早く帰りたい」
 裏路地の入口。合流する更に2人。金髪碧眼。ながら恐らく染髪とカラコンだろう。頭には何故か紅白帽。
 異様に見た目が派手な小学生と、白髪で眼帯を着けた中学生位の少年。後者の背には黒い翼も見える。
 夜間の裏路地には全くそぐわぬ子供2名。それを見て灰色髪の女が息を吐く。
「ルーメリアさん、キミもなんだ」
「どうせ僕は居ない物扱い……」
「あー、宮部も久しぶりだな。元気にしてたか?」
「……それなりに。焦燥院さんは相変わらず変な格好ですね」
「放っとけ」
 ある種の気安さか、互いに投げ合う軽口に遠慮の色は微塵も無い。けれどそれも当然だろう。
 彼等は組織の精鋭なのである。必要に迫られれば全力で以って外敵と相対さなくてはならない間柄だ。
 其処に遠慮等を持ち込むゆとりは無い。唯でさえ、彼らは人より危ない橋を渡っているのだから。

「そう言えば、後の3人はどうしたのでござるか?」
「……居る。もう仕事に移ってるみたい」
「真面目だなァ、誰かさんに見習わせたい位だ」
「何それ、私だってやる時はやるのよー?」
 偽焦燥院と偽リュミエールのやり取りに、偽望月が大きく息を吸う。
「よしっ、それじゃ始めようか」
 何時もの通りの何時もの仕事。それが何時も通りだったのは、けれど此処までだった。

●黒服襲来
「そっち行ったぜ侍ガール。ハーリアップ、跳ばして行こうか」
「将門、無理に英語を混ぜるな。そんな話し方をする日本人が居るか」
「余所見は禁物じゃよ、三輪嬢」
「分かっている、ベルジュ翁はサポートを頼む」
「弱い弱い弱い! もう少し僕を楽しませて見せろっ!」
「でないと、黒乃さんがどれだけ暴走するか知れませんからね」
「はぁ……馬鹿ばっかり」
「いえいえ、それもまた頼もしいではありませんか」
 偽アーク内主要メンバー4名、それに偽三輪、偽ベルジュ、偽黒乃の3人が
 危うげ無く3人のフィクサード……と言うには余りにお粗末な少年達を追い詰める。
「くっ、くそ、何だよこいつら……!」
 異口同音に不満を口にしながらも先ずは我が身大事と裏路地を駆ける3人。だが――
「「「!?」」」
 その視界を遮ったのは無数の黒い影である。数にして9名。
 その殆どがフードの付いた黒いローブの様な物を被っている。この時点で既に不審人物確定である。
 唯一例外なのが眼鏡を着けニット帽を被ったコートの男。此方は此方で死ぬほど胡散臭い。
「逃げんのか?」
 上がった声はその例外の男から。まるで事情を知っているかの様な口振りに少年達が顔を見合わせる。
「あいつらはアークの有名人だ。倒せば一気に名を上げられるぜ?」
「な、アークって……あの。『アーク』か!?」
「アークは一度目を付けた敵を逃がさないことで有名です。
 例えこの場は逃げ出せても、後々必ず追いかけてくるでしょう」
 続いた声は黒いローブの人影から。その言葉に途端焦りだす少年達。
「アークってのはお人好しの集団じゃなかったのかよ!」
「いや、個性強い変態ばっかだって聞いてるぜ?」
 口々に上がる声には微妙に風評被害が見て取れる物の、それを聞いた男は至極あっさりと言い募る。
「何ならオレ達も加勢するぜ」
「――へえ、面白いこと言うねキミ」
 上がった声は逃げる少年達を先回りするかの様に側道から。

 もしも黒いローブの彼らが立ち塞がらなかったら、少年達は見事に挟撃されていた事だろう。
 不幸中の幸いか、否――
「弱い者苛めは好きじゃ無いんだがねえ」
「……邪魔するなら、排除する」
 スキンヘッドの男が後方より声を上げ、前に顔に傷の有る巨漢と黒い翼の眼帯少年が進み出る。
 更に少年達を追い掛ける側の七人。先頭を駆けるのは鼻ピアスの黒服と、歪な笑みを浮かべた狼耳の男。
「何だよお前達、邪魔するの? 殺すよ?」
 偽黒乃の問い掛けに、けれど返ずる者は無し。
 周囲を見回しあの白髪で黒い翼って言う如何にもアレなのが香夏子でしょうか、嗚呼、300m無い……
 と、約一名黒ローブが落ち込んでいるが、それはさて置き。
「やってみろよ、三下が」
 黒ローブの一人が唸る様に上げた声は、あたかも虎の唸り声を思わせて。
「止むを、得ませんね」
「仕方ないなぁ、後はルメに任せて――えっ」
 金髪で碧眼。紅白帽の少女。他の面々に比べてもこの外見は余りに目立つ。
 そしてだからこそ。彼女こそが彼らが探していたそれであると、黒ローブ達には一目瞭然であった。
「あの帽子かぶった金髪のちっこい子から狙うといいよ」
 一番ひ弱だから、と黒ローブの一人がフィクサードらをそう唆す暇もあればこそ、放たれる銃弾。
 速射に優れたその一撃が小柄な彼女を穿つ。
「最近調子に乗ってるキミ達を倒しにきたよ」
「……子供から狙って来るなんて、良い趣味してるね」
 灰色髪をサイドポニーで纏めた女と、銃を操る黒ローブ。
 両者が睨み合う最中、前線では異なる刃と魔術の象徴たる護符が火花を散らす。
「これも全てはイヴぺろぺろの為で御座れば!」
「……思うのですが、言ってる事滅茶苦茶ですよ?」
 名前の部分を暈し、嫌そうな声を上げる黒ローブ。
 体躯に速度を上乗せしてまで得た凶悪極まる回避力は、他の追随を許さない。
 それは絶大な膂力を誇るだろう偽虎徹とて例外では無く、彼の振るう太刀はその刃先すら届かないで居る。
 ――かと思えば、その一方。限り無くもみくちゃに近い何かと化している面々も存在している。
 その最たる例が奇しくも偽黒乃の前に出た黒ローブである。
「邪魔だ、邪魔なんだよ貴方。僕の邪魔をする何て、貴方はとても酷い人だ」
「どういう理屈かですかそれは……っ」
「余所見はノーセンキューだよお嬢さん」

 攻撃が金髪の小学生。偽リュミエールに集まった煽りを諸に受けたか。
 偽イヴを筆頭に、偽将門、偽和泉、偽エフィカ、のみならず偽三輪、偽ベルジュ、偽黒乃の計7名に、
 伊達眼鏡の男と2人で相対する形である。流石にこれは無理が有る。瞬く間に削り取られる体力。
 あらゆる要素が標準的で平均的であるが故に、器用では有る物の決定力に欠ける彼女である。
 せめて全力防御に徹するという選択肢を用意していれば事情も変わっただろう。
 人数比を埋めようとすれば役割分担が肝となる。黒ローブ達の取った癒し手優先の戦術は間違っていない。
 だが、強いて言うなれば誰が誰を担当するか以上に、如何に相手を全員で戦わせない様にするかの方が
 遥かに重要な問題である。例えば――そう。
「これは、厳しい……な」
 味方の速度を一律下げると言う行動に手番を消費した伊達眼鏡の男。
 如何にも奇異に映るその行動だが、黒ローブ達には勿論相応の狙いが有る。
 だが敢えてこう言うべきだろう。敵の数が多い場合。時間と言う物は得てして値千金なのである、と。

●アークvs偽アーク
 言うなればこの戦いとは如何に敵主要メンバーを倒すか。要点はこの一点に絞られていると言って過言では無い。
 であれば8人が揃って戦う必要など無いのだ。何せ現場にはフィクサードが3名転がっているのだから。
「――この……ここは、通しません!」
 空に描き出される赤い月。バッドムーンフォークロアが偽者達に不運をばらまく。
 だが、件の一撃は非常に強力では有れ決定打になるほどでは無い。両陣営はそれを良く分かっている。
 良くも――悪くも。
「そこの男の人は結構頑丈みたいです。和泉さんがピンポイントで引き付けて。
 エフィカさんはもう一人にジャスティスキャノン。黒乃さん、三輪さん、将門さんは前線突破で――」
「委細承知した」
 矢継ぎ早に指示を飛ばす偽イヴ。応じる偽三輪。
 黒ローブらの知る万華鏡の申し子とは異なるが、その指揮能力は非常に厄介である。
 特に自陣が劣勢で有る場合には。
「くそっ、やっぱりこんなの無理じゃねえか!」
 元よりまともに戦力になるとは到底言い難い3人である。実戦経験も殆ど無い。
 前線がじりじり迫って来るプレッシャーに耐えかね1人が逃げにかかると、後は芋づる式である。
 例えば彼らがフィクサード達の足止めに1人でも手を割いていたならば、
 偽アーク達はその3人+1人に食いつかざるを得ないかっただろうが――正面突破の頼りにはならない。
「俺の太刀は斬れ味が鋭いぜ? 覚悟するんだな!」
「こっ、こっち来るなぁー!」
 黒ローブが振るった手加減抜きの連続攻撃が、彼らをしてひ弱と称された少女を叩き伏せる。
「ルーちゃんの次は……わたしかエフィカさんの偽者狙いだね」
 癒しの歌の合間を縫ってぽつりと呟く黒ローブ。その声には抑揚が無い。
 それはまあ、そうだろう。視線の先には彼女の名前を持つ老爺の姿。同じ歌を歌っているのが一層ダメージだ。
「ちょっとだけエフィカさんの気持ち分ったかも……」
 とは言え、前線を無理矢理突破した意義は小さくない。その決断は果断ですらあった。

 だが、それは同時に過負荷の掛かった側の限界をも意味する。
 畳み掛けられ動きの止まった黒ローブを突破する偽将門と偽黒乃が後衛に雪崩れ込む。
 これを抑えるのは後衛に留まった1人の黒ローブ。
「ここは通しません! 絶対にゆずりませんよ!」
「ふーん、随分必死に庇うんだね。面白いや」
 偽黒乃と黒ローブが手にした刀を鏡合わせのように打ち合わせる。両者共に二刀。
 だが対する相手は護りを捨てて攻め手を取ったか。
 思わず黒ローブ――『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)から苦言が漏れる。
「貴方も僕の正義の前に散るといい!」
「ちょっと似てるのが嫌です。消えてください!」
 他方、重なる音は弾幕の調べ。繰り返される痛撃に追い立てられた黒ローブが膝を付く。
「こんな……偽者なんかに……」
 手順を鑑みれば、瓦解が此処から始まるのは必然ですらある。
 力無く倒れた黒ローブ。外れたフードの下から覗いたのは『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)の顔。
 それが誰で有るのか。余人はともかく“彼女”に分からぬ筈も無い。
「三輪、大和!?」
 周囲の目が二箇所へ向く。一つは偽三輪へ。そしてもう一つはその声の主。偽イヴへ。
「と言う事は、貴方達……」
「バレてしまってはしょうがない……アーク1の野球好き、ルーメリアとは私のことよー!」
 一際早くローブを脱ぎ捨てた『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
 それに続くは相手の火線を合わせる様に銃弾を見舞っていた射撃手。
「アークの誇る銃の名手と言えばこのアタシ。望月嵐子だよ!」
 『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)の名乗りに偽望月が視線を一際厳しくする。
「全く……まぁ、いつもの俺はそんなもんだよな……」
 ローブを脱いだ『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)もまた胸中複雑である。
 何せ、世間は彼をああ見ている、と言う意味なのだから。それは嘆息も漏れると言う物。
「安心しな。お前さん達の悪行も此処までって奴だ」
 光を放ちながら眼鏡とニット帽を脱ぐ『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)にサングラスの男が苦く笑う。

「「と言うか!」」
 唱和した声は3つ。片やエフィカ・新藤。片や『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)
 そして最後に『第21話:偽者現る!!』宮部・香夏子(BNE003035)
「「何で 男の人/お爺ちゃん/中二病 なんですか!?」」
 今、3人の心は1つである。
「という事は――」
「ええ、そう言う事ですね」
 偽黒乃と相対する紗理だけは脱ぎ去る余裕も無かった物の、言うなればそれが答えである。
 偽者は口元だけ笑い、本物は口元すら揺るがない。あわせる剣戟は4閃2条。言葉など既に無粋なだけだ。
「本物の弾幕がどれぐらい凄いか差を見せつけてあげるよ!」
「言ってくれるね……!」
「そんなもんとは何でござるか!」
「鏡見てから言え馬鹿!」
 彼我の関係性を鑑みれば、そこで対するは至極当然。移し身であればけれど其処に自負もあれ。
「まあでも……容赦なくやれそうだよね」
「そうですね、容赦なくやれそうです」
「がっかりですがやる事は変わらない香夏子です」
「3人の眼が怖いの……」
 或いは異形であれば、それを嫌悪するのもまた当然。歪な鏡ほど不快な物もまた無く。
「仕方ないのう。これも現し世のしがらみか」
「そうですねえ、であればこうと言わざるを得ないでしょう」
 だからこそ異口同音に両者は互いにかくと告げる。
「「「「「「「「行くよ偽者!」」」」」」」」

●一つの終わり、一つの始まり
「……退きましょう」
 回復が一人欠けた偽アークと、前衛が一人欠けたアーク。両者の戦力比はほぼ拮抗していた。
 その上でお互いに姿を晒せば偽イヴの指示は緻密を極める。
 全ては彼女を完全にフリーにしておいたが故。
 とは言え、ある一点を越えれば回復を優先的に落としていくアーク側が優勢を掴む。
 元々個々の戦闘力では格上なのだ。正面からぶつかれば泥沼の消耗戦になるとは言え――大勢は揺るがない。
 だが、それは同時にじりじりと。水面を押し上げるような戦いである。
 それを“見ている”人間が判断を誤る事はまず、有り得無い。
「仕方ありません。ですが、将門君はどうします? あの状況では下がる事は難しい」
「……彼ならきっと、分かってくれるでしょう」
 一人目に偽リュミエール。二人目に偽焦燥院。
 そして三人目に偽ベルジュが倒れた時点で、ほぼ決着は着いたと言って良い。
 この間アーク側も虎鐵と黒乃が運命の加護を削っている物の、バックアップが整っている。
 戦力的な増減が無い。であれば、如何に上手く退くか。
 幸いと言うべきか、前衛の数では偽アークが未だ圧倒している。今にも倒れそうな偽将門を除けば、であるが。
「そうは、させないっ!」
 その動向に気付いたアーリィがトラップネストを投げ掛けるも、これを阻むは偽エフィカ。
 大の大人を壁にして、その後ろで偽イヴが唇を噛む。
「これは、私も逃げられそうに無いですね……や、参りました、ぐっ」
「逃がさないよっ!」「させませんっ!」
 変わらず穏やかに。告げる偽エフィカ。追い縋る銃弾は嵐子と本物のエフィカの二重奏。
 だが、彼女らにも半ば分かっていた事。敵は決して侮れる総数でも戦力でも無かった。
 其処に正面からぶつかれば果たしてどうなるか。この戦いの目的は何であったのか。
 その一つの答えが――此処に有る。

「……アーク、ね。また逢いましょう」
 強く睨む様な視線。その感情の輝きは何処か。本気で怒った時の真白イヴにも似て。
 黒髪の少女は和泉を名乗る女性と連れ立って戦線を離脱する。
 追える者は無く、必死の足掻きも阻まれて。得る筈だった本物の勝利は偽りの光に融けて消える。
 であれば、それは一つの終わり。一つの始まり。
 黒髪のイヴが“また”と告げたその言葉のままに――――偽者達の夜は、終わらない。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『【はじおつ】エフィカさんとはじめての偽者』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

戦術として大筋は決して間違っていませんでした。
ただ、戦力比と編成を鑑みた結果、もし正面突破を選ぶ場合
相応の対処を必要とするシナリオでした。
不足点等は文中に込めさせて頂いた心算です。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。