● 「神父さまー。三千代君がニンジンたべてませんー」 此処はとある孤児院を併設する教会。 「三千代君、好き嫌いは駄目ですよ。ニンジンに含まれるβカロチンは体内でビタミンAに変化し、目や口や鼻を健康に、そして美容にも効果がある優れた食べ物なんですよ」 其処には子供達と、彼等の成長を心から願う優しい神父がいます。 「う、うん。神父さま。僕、頑張ってニンジンも食べるよ。立派な身体を作るのが、神父さまの為なんだよね」 親は居ずとも笑顔の絶えない子供達の暮らす暖かな孤児院。 けれど、其処にはもう一つの顔がありました。 「えぇ、良い子ですよ三千代君。立派な身体を作りなさい。君達は、大事な大事な商品になるのですから」 神父は主流七派が一つ『穏健派』三尋木に属するフィクサードで、子供達は彼に育てられる家畜なのです。 ブロイラーよりも、SPF豚よりも、黒毛和牛よりも、従順で高価な家畜たち。 人体実験の素材に、臓器移植の素体に、愛玩用のペットに、子供達は其れを目指す事に何の疑問も持たず、愛しい神父の為に自らの体を作るのです。 ● 「人間が自分よりも弱い豚や牛を家畜とするように、人間よりも優れた『人外』ならば人間を家畜としても不思議は無いな。なぁ、既に人から外れてしまった諸君」 自嘲気味に、集まったリベリスタ達を嘲る『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)。 其れは或いは進化なのかも知れないが、其れでも人間の枠から外れてしまった事に違いは無いと逆貫は言う。無論其処には自らも含めて。 「其れでも私は許せない。自らを、革醒を果たした者達を、人間ではない、更に優れたる者だと声高に主張する其の行為が、許せない。……化物の分際で」 勿論此れは思い込みだ。三尋木のフィクサードが何を考えているか等わかろう筈もない。 故に唯の同属嫌悪。 「子供達は神父に対し、そう、まるで狂信にも似た思い入れを持っている。神父を傷つける者に対しては敵対して来るだろうし、強い狂信は或いは神秘の力にも抗するかも知れん」 一つ、溜息。 「神父は畜産家。それなりの理屈で家畜を愛し、だが屠殺を躊躇う事も無い。穏健派故に話し合いが出来ない事も無いだろうが、戦う力を持たぬ訳でもない。自分達の仕事の邪魔に来る相手には寛容で無いだろう」 『敵陣営の資料』 フィクサード1:『天秤座』可槻・総 ジョブはプロアデプト。神父にして孤児院の経営者。 三尋木に属するフィクサード。外見は20代後半。常に優しい笑顔を絶やさない。 戦闘指揮を2lvで所持。 所持アーティファクト:天秤座の聖杯 ターンの最後に、其のターン敵陣営が味方陣営に与えたダメージと同量のダメージを敵陣営の誰かに与え、其のターン味方陣営が敵陣営に与えたダメージと同量のダメージを味方陣営の誰かが受ける。 フィクサード2:『刹那』 ジョブはソードミラージュ。孤児院の警備員にして神父の護衛。 三尋木に属するフィクサード。外見は10代後半。武装は刀。 子供とは成るべく接しないように振舞っている。配置転換を上申中。 フィクサード3:『熟練』 ジョブはクリミナルスタア。孤児院の警備員にして神父の護衛。 三尋木に属するフィクサード。外見は30代前半。武装は銃とナイフ。 今回出てくるフィクサード達の中では一番実力が高い。 フィクサード4:『メイデン』 ジョブはホーリーメイガス。修道女。 三尋木に属するフィクサード。外見は20代前半。常に優しい笑顔を絶やさないが、本当は子供が大嫌い。 フィクサード5:『墓掘り』 ジョブはマグメイガス。修道女。 三尋木に属するフィクサード。外見は10代後半。言動はぶっきらぼうだが子供に対しては細やかに気遣い接している。此処にはまだ配属されたばかり。 子供達 神父によって長年育てられた子供達数は32人。 神父に対して狂信に近いものを刷り込まれている。 「それなりに大きな教会で、孤児院だ。確実に敵を撃破して計画を破壊して欲しい。諸君等は人か化物か、果たしてどちらだろう? どちらにせよ、私は諸君の健闘を祈ろう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月25日(水)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「わー、お菓子だ。でも良いの? でもご飯以外を勝手に食べるなんて、神父様が後で悲しんだりしない?」 喜びと不安に目をしばたたかせ、子供達が墓掘りに問う。 「あ? いーんだよ。神父様がお前等が喜ぶ事で悲しんだりするか? しないだろ? だからほら、良いから食えって。お前等が食わねえならアタシが全部食っちまうぞ」 教会に併設された孤児院の、談話室。 墓掘りがテーブルの菓子をかき集めるフリをすると、子供達も本心では食べたかったのだろう。大慌てでテーブルに手を伸ばし菓子の包装を解く。 「よしよし、良いかお前等。全員分あるからちゃんと分けろよ。あと食ったらちゃんと歯も磨いて直ぐ寝ろよ」 邪気の無い子供達の様子に墓掘りの唇に笑みが浮かぶ。 一度に半分もの子供達を神父が引き連れて取引に行くと言う、今までに無い事態に子供達の間に広がっていた不安も、何とか和らいだように墓掘りは思う。 「……随分とお優しい事ね」 子供達が去り、談話室の片付けをする墓掘りに、一体何時から其処に居たのだろうか? 皮肉気にメイデンが話しかける。 「なんか、用でも?」 ゴミ袋に包み紙を突っ込み、面倒くさそうにそちらに顔を向ける墓掘り。先程まで子供達に向けていた表情とは打って変わって、その奥に剣呑さを秘めている。 「いいえ。私じゃ出来ないし、したくも無い事だから、助かるって思っただけよ。そう言えば、貴女も商品出身だったわね。運良くこっちに踏み込めたから売られなかったんだっけ」 メイデンの言葉通り、墓掘りも元は此処の子供達と同じ様に、いや、此処よりもっと扱いの悪い場所で商品にする為に育てられた。 「……其れが何か?」 思い出したくも無い過去を無遠慮に触れられ、ゴミ袋の口を縛る墓掘りから表情が消える。 「いいえ、唯の忠告。あまり入れ込み過ぎると持たないわよ。後、今回の取引はどうもおかしいわ。油断だけはしないで頂戴ね」 ● 「さあ皆さん、お客様に挨拶しましょう」 神父の言葉に、一列に並んだ16人の子供達が取引相手である『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)に対して一斉にお辞儀する。 見知らぬ葬識に対する不安を瞳の奥に隠し、それでも愛する神父、『天秤座』可槻・総をがっかりさせまいとの、子供達の精一杯のアピール。 健気とさえ言える其の様に葬識は、 「……気持ち悪ッ」 思わず小さく呟く。 楽しく殺せるような子供をと偽装の注文してはみたものの、元々葬識にとってフィクサード未満の子供など身の内から湧き上がる衝動を満たす為の餌にはなり得ない。 けれど此処に並ぶ子供達は更にそれ以下だ。人間以下の、心まで飼い殺された家畜の群れ。 怜悧で、酷薄な瞳で子供達を見据える葬識。 「どうかしましたか?」 訝しげに神父が葬識の様子を窺うも、 「別に~、此処は空気が悪いなぁ~って思っただけよ」 既に葬識はペルソナの仮面を深く被りなおし心と思考を分離させていた。 取引先に指定した倉庫の空気はどんよりと澱み、心なしか息苦しさすら感じる。 「そうですか、では支払いを。事前にお伝えしたとおり現金でお願い致します」 当然の様に子供達の対価に金を要求する神父。 殺人鬼に子供を売れば其の先の運命は当然神父も承知している。手塩にかけた子供達が、そんな形で消費される事に対して神父も思うところがない訳では、実はないのだ。 けれども食用豚を飼育する畜産家が、其の豚がハムになろうがトンカツになろうがトンテキになろうが関与しないのと同様に、神父もまた売ると決めた子供の行く末に関与することはない。 神父は子供達に刷り込んでいる。彼の教えに従い殉じれば、何時か神の家で、孤児院でも教会でもない、本物の神の家で、何時か再会出来るのだと。 そして神父は其の言葉を、自分自身でも信じているのだ。 可愛い子供達は消費され、何時か我が手に廻り戻る。 「あー、うん。それは勿論だけど、実は俺様ちゃんもう一つ欲しい物が出来ちゃったんだよね~」 だが肝心の取引相手、消費者である筈の葬識は金を払おうと言う意思を見せず、 「所望するのは神父のクズ肉一つ。対価は六文銭で十分だろう?」 倉庫の扉を破り、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)や、アークのリベリスタ達が武器を構えて踊りこむ。 「悪いなァ、悪党。てめぇの命運もここまでだッ」 大見得を切るは『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)。そして其れを引き継ぐように、 「って事なのよね~。だからさ、アンタを食わせてよ」 かしゃりと、逸脱者のススメ、大きな鋏を構えた葬識が神父に告げた。 ● 「愚かな。全く持って度し難い。取引に置ける最低限の信すら持たぬとは、アークとは裏野部にも劣る畜生か」 神父の其の言葉に込められた感情は騙された怒りよりも寧ろ驚愕が強かった。 フィクサード同士ならば常に化かし合いの要素を含むとは言え、取引を根底から破壊する行為はそれ以降の一切の話し合いの拒絶と同等である事も承知している為、此処までの行為には中々走らない。 其れをまさか、彼等よりもずっと表に近い筈のリベリスタ組織であるアークがやってのけるとは、流石に想像の埒外であったのだろう。 「汚ねぇ」 「ああ、薄汚いな」 だがこう言う時の為に荒事向きの護衛が居るのだ。『刹那』と『熟練』が、神父の逃げ道を切り開かんと武器を引き抜き前に進み出、そして子供達は、急変した空気に飼い主である神父の身を守り、彼の前に並び肉壁と化す。 「僕らを撃退しても目減りしたら『商品』をまた作るのは手間だろ!」 そんな『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の牽制にも神父は応えない。何故なら減らすのは神父達では無く数にリベリスタ達。 数に勝る彼等を相手取るには、丸損であるとはわかっていても貴重な子供達を消耗するより他に手は無い。 聖杯が、薄汚れた工場の天井に天秤座を映し出す。 「この子たちはアークに保護する! こんなのが嫌なら、自分の意思ではねのけろ! 僕はそうするためにきた。不満があるなら自分から動けよ!」 戦いの最中、刹那に向かって夏栖斗が叫ぶ。 バチリと音を立てた夏栖斗の手のスタンガンが子供の一人に押し当てる。更に、 「幼い命を商品にするなんて悲しい事だと思いませんか? もし、貴方に少しでも悔悟があるならば……」 夏栖斗と共にスタンガンを子供に押し当て、無力化する『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)もまた刹那に対して訴えかけた。 幼き生命を商品にするのは許せない。大のために小を見捨てて良い筈が無い。救いたい。 そう、彼等の思いに嘘はないのだろう。 呼びかけに混じる色は切実さ。けれど、 「囀るな薄汚い嘘吐きが! てめー等の行為の一体何処に、其の薄っぺらい言葉を信じられる要素がある!」 刹那は怒りに満ちた剣筋でリベリスタ達に応える。ほんの少しでも早くリベリスタ達を皆殺しにして戦闘を終わらせる為に。 例え分断で数を半分に減らそうが正面から無策に戦えば子供達は死ぬ。其の心算がなかろうと、リベリスタ達が殺すのだ。 どんなに救いたいと願おうが、想いを叫ぶだけでは、叶わない。 彼等の想いを、彼等の行動が裏切っている。 夏栖斗が、エーデルワイスが、次の子供を救わんと更に一歩踏み込んだその時、天井の天秤座が輝き、彼等の眼前で、手を伸ばせば届く距離で、一人の子供が弾け飛ぶ。 異能者が本気で戦うダメージを凝縮して受けたのだ。其の子供は原型を留め得る事すら叶わず、液体と化して撒き散らされた。 ばしゃりと、夏栖斗とエーデルワイス、2人が頭から被った肉片混じりの赤は、熱い。 そしてそんな彼等に追い討ちをかけるかのように、エーデルワイスにも天秤座の輝きが降り注ぐ。仲間達の攻撃の激しさを其の身に受け、運命の消費を余儀無くされる彼女。 ● 熟練の放つ暴れ大蛇に零六が葬識がそして酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)が巻き込まれる。けれどもディートリッヒは上着をボロボロにしながらもなおも踏み込み、繰り出すは肉体の限界を取り払うリミットオフで極限にまで強化された一撃、メガクラッシュ。 クロスされた銃把とナイフが、ディートリッヒの剣『Naglering』と噛み合い火花を散らす。 「人が人を売る為だけに育てる何て……そんなの許せません。子供には沢山の未来があるのに」 子供の肉壁に阻まれ、神父を攻めあぐねる『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)の言葉。 だが其れに神父は優しげに、なのに何処か酷薄に笑う。 「君はまだ人の心算なのか。なるほど羨ましい。其の無知と傲慢さ故に君達は正義を名乗るのだね」 革醒者、言い換えればE能力者は、フェイトを持ったエリューションだ。 神父には自身を、或いは自分達を人だと言い張る慧架の発言が面白かったのだろう。 そんな神父の薄ら笑いに、宙に放たれた式符が鴉に変じて襲い掛かる。 符を放ったのは取引の為の符丁や、接触方法を調べ上げた、今回の取引セッティングの功労者でもある『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)だ。 だが賢しげに回る彼女の頭でも、よもや自分の攻撃が神父を庇った子供の腹をぶち抜く事には想像が及ばなかったのだろう。 1匹の子供の腹をぶち抜いて勢いを大幅に減じた鴉は神父に届く前に地に落ち、力を失った符へと戻る。 この世界に神はいない。少なくとも都合よく人を救ってくれる神など、何処にも居ない。 もし仮に居るとするなら、其れは上位世界のミラーミス。彼等の敵だ。 子供達の間を縫い、神父の全身から気の糸、ピンポイントスペシャリティが放たれリベリスタ達を貫く。 そして再び天秤が輝き、子供が弾け、今度はユーヌが光に飲まれて運命の力に縋った。 綺沙羅の瞳が冷たい光を帯びて輝く。 そう、明らかに子供が大きな障害となっているこの状況に、彼女は一つの腹積もりを固める。 ユーヌの呪縛に、ついに熟練が捕まった。 眼前の敵を飛び越えて神父へと迫る零六の前に、けれどもやはり子供の一人が立ちはだかる。 零六を見据える神父への狂った信に満ちる瞳。其れは零六に嘗て戦った一人の、今はアークに保護された元フィクサードの少女を思い起こさせた。 子供と少女の瞳が重なり、今の、以前の、仲間達の言葉が彼の耳朶に蘇る。 「……チッ、嫌な事を思い出させやがる」 まるで過去の彼が誤っていたとでも責めるかの様に、纏わり付く其れ等。 零六の動きが、剣速が鈍ったのは一瞬だ。だが其の一瞬に入り込む速度を持った、刹那の刀が横合いから彼の体を貫いた。 アル・シャンパーニュ。光の飛沫が散るが如く、無数の刺突が零六を傷付け、魅了する。 ● 攻撃に体勢を崩した刹那の体を、古流特有の動きでゆるやかに、けれども素早く間合いを詰めた慧架の大雪崩落が捉えて地に落とす。 更にはユーヌの身体で符が、綺沙羅の傷癒術が光を放ち踏み止まったばかりの彼女の体を癒し……、その時だった。 神父の指先から、一際練りこまれた貫通力の高い極細の気糸、彼の切り札でもあるスーパーピンポイントが符と、ユーヌの身体を貫いて彼女から戦い続ける力を奪う。 崩れたユーヌの仕事を無駄にせんとばかりに、動けぬ熟練の身体をディートリッヒのメガクラッシュが真芯から捕らえる。弾き飛ばしによって抉じ開けたのは、本当に倒すべき元凶、神父への道。 だが天秤座が輝く度に、リベリスタ達は己の攻撃力によってフェイトの使用を余儀無くされる。 神父の身体に最初に一撃を叩き込んだのは、道を塞いだ子供の首を全くの無造作に、まるで朝に太陽の光を遮るカーテンを開けるかの様な何気なさで、刎ね飛ばした葬識だった。 心を砕く暗黒の魔力に、一撃を受けた神父が一歩後退する。 更には子供達を巻き込んだ……、否、寧ろそれは足枷となる子供達をメインにすえて放たれた、綺沙羅の陰陽・氷雨。 氷の雨が子供達の肉を裂き、貫く。後に残るは、血と冷気と、他の子供に庇われ辛うじて命を拾った数名のみ。 救いたいと願った筈の子供の血に塗れて、唇を噛み締めたエーデルワイスが銃弾に込めるは苦痛と怒り。 ギルティドライブ、怒りの裁きは確実に神父の肩口を貫いた。 しかし肉壁の多くを失い神父に迫る危機に、戒めを解いた熟練が動く。 B-SS。バウンティショットスペシャル、ダブルエスの名を冠する薙ぎ払うような神速の抜き打ちから放たれた銃弾が、リベリスタ達の体に突き刺さる。 傷の深いリベリスタは其の一撃の前に倒れ、開いた道を神父が駆け抜けて行く。 理不尽に、己の無力に、救えぬ散る命に、やりきれなさと怒りに、慟哭の様な咆哮をあげて夏栖斗が放たんとする虚空は、けれども憎しみに瞳を染めた刹那の一撃の前に阻害される。 また空から光が降り注ぎ、そして天秤座が姿を消す。 それでも戦いは続いていた。 叶う事なら子供を盾に自分も逃げ延びたかったのだろうが、最早子供の盾が意味を成さないリベリスタ達の猛攻の前に熟練は地に倒れ伏す。 そして最後の最期まで、刀を震い続けた刹那も、今此処に膝を付いている。リベリスタ達の甚大な被害と引き換えに。 トドメを刺さんとするリベリスタを見据える目にも、恐怖はない。ただ怒りと憎しみのみが瞳の中で燃えている。 そんなに強い感情があるのなら、何故もっと早くに……。 そう彼が最初から自分の感情に素直であれば、話の結末は変わっていたかも知れない。 踏み付け、火をつけたのはリベリスタであったけれど。 バチンと鋏が閉じられ刹那の首が宙を舞う。 「ごちそうさま」 葬識の言葉の後に残るのは、血と、虚しさと、スタンガンを喰らい気を失ったままの、ほんの僅かな生き残り。 ● 「本当に、嫌な予感ばかり当たって……。準備しなさい。此処を引き払うわ」 アークの狙いは神父だったようだが、所在の割れた此処をこのまま放置するとも思えない。 携帯を修道服の下に仕舞い、メイデンが告げる。 取引はアークの仕掛けた罠であった事、神父こそ逃げ遂せたものの、刹那、熟練、そして子供達の殆どが死んだ事を。 だが悲劇はそれだけに終らない。 「…………此処の子供達は?」 神父が生きている以上このプロジェクトは別の場所で、別の形で再開されるだろう。 メイデンも、自分も、恐らくはそのプロジェクトに引き続き参加させられる筈だ。 だが、子供達は違う。 嫌な想像に墓掘りの背を冷たい汗が伝う。 「取引ルートが割れてる以上、直ぐには買い手が付かないでしょうし……。そうね、恐らく何かの実験にまわされるんじゃないかしら」 メイデンの答えは、想像以上でも想像以下でもなく、正しく最悪の物だった。 売られるよりも残酷で、ただ処分されるよりもずっと長く苦しみの続く、最悪の。 それでも三尋木であるならば他の組織よりは幾分マシであろうけれど。 「だったらアタシが……」 唇を噛み締め、搾り出された墓掘りの声。 そう、買い手が付きさえすれば子供達は助かるのだ。けれど、 「駄目ね。まだ自分自身も買い戻せていない貴女に、そんな許可は下りないわ。出来もしない口先だけの無責任な偽善は、ただの悪よりずっと迷惑で悪質よ」 背を向けるメイデンに、膝から崩れ落ちる墓掘り。 子供達は何も知らずに部屋で眠っているだろう。 此れから先の運命も知らずに。 「……絶対に許さない」 其の呟きは、アークのリベリスタ達に、そして無力な自分に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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