● 「その健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も――」 古めかしい教会の中に、厳かな司祭の声が響く。 祭壇の前には、今まさに夫婦になろうとしている恋人たちの姿があった。 「――死が二人を分かつまで、真心を尽くすことを誓いますか」 司祭の声に、純白のウェディングドレスを纏った花嫁が微笑んで頷く。 「はい、誓います」 誓いの言葉を終え、指輪の交換に移ろうとしたその時。 司祭が驚いたように目を見開き、後方に座っていた参列者の間にどよめきが広がった。 何事かと振り向いた花嫁と花婿もまた、言葉を失う。 入口のすぐ前に、見知らぬ“もう一人の花嫁”が立っていた。 純白のウェディングドレスを身に纏い、可憐なブーケを手に携えて。 “もう一人の花嫁”はただ、悲しげに教会の中を見渡す。 ――あの人は、どこ? 騒然とする教会の中で、“もう一人の花嫁”の問いに答える者はいない。 彼女が一粒の涙を零した直後、舞い散る花の幻影が教会を覆い尽くし、そこにいた全ての人間の命を奪った。 ● 「結婚式を目前にして死んだ女性がE・フォースになり、多くの人々の命を奪おうとしている。 この未来視が現実になる前に、皆にはこのE・フォースを倒してきてほしい」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)はそう言って手元のファイルをめくった。 「……この女性だが、結婚するはずだった男に殺されている。 かなり女癖の悪い男で、彼女との結婚が決まった後も複数の相手と付き合っていたようだ。 詳しいところはわからんが、そのあたりで口論になってカッとなった男に刺された――という感じらしいな」 ただし、E・フォースと化した女性は、愛しい男に殺されたという忌まわしい事実を覚えていない。 結婚の約束を交わした恋人に複数の女の影があったということも、すっかり忘れてしまっている。 今の彼女にわかるのは、自分が“結婚式”を控えた“花嫁”であるということだけだ。 「彼女は、自分が挙式するはずだった教会で“結婚式”が行われている最中に現れる。 放っておけば、数日後にそこで式を挙げるカップルと、式の参列者たち、教会の司祭が犠牲になるだろう」 それを防ぐために、深夜に教会に忍び込み、E・フォースを誘い出して倒してほしいと数史は言う。 「E・フォースを出現させる方法だが、まあ、具体的に言うと“結婚式の真似事”だな。 八人だから大がかりなことは難しいだろうが、少人数でもそれっぽい感じに演出できればE・フォースを誘い出すことは充分可能と思う」 もちろん、E・フォースを出現させた後は戦うことになる。 敵は一体だが、強力な相手だ。小さな教会の中では、充分な距離を取ることも難しい。 くれぐれも油断だけはしないでくれ、と言って、数史は手の中のファイルを閉じた。 「俺からは以上だ。――どうか、気をつけて行ってきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月15日(日)22:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● その教会は、森の中にひっそり佇んでいた。 深夜のこの時間、窓に明かりはなく、人の気配も感じない。 古びた入口の扉は少々がたついてはいるものの、しっかり鍵がかかっている。 ここに集ったリベリスタに、鍵開けの技を持つ者はいない。 壊すのは簡単だが、可能な限り被害は最小限に抑えたかった。 「とりあえずオークさんを換気用の穴に押し込んでみるカ」 『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)の言葉に、『戦火の村に即参上』オー ク(BNE002740)が教会の屋根や外壁を調べる。小さな換気口は見つかったが、人並み外れた柔軟性を誇るオークをしても潜り抜けるのは些か無理があった。 他に手がない以上、やむを得ない。『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が窓ガラスを割り、内側から鍵を開けた。 「これも世界を守るための、尊い犠牲って奴なんですな」 開いた窓から、リベリスタ達は教会の中に侵入する。『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が、礼拝堂の電気を点けた。 ぐるりと礼拝堂を見渡した『錆天大聖』関 狄龍(BNE002760)が、「結婚式の演出ねェ」と呟く。 今回の相手は、結婚式を目前に死んだ花嫁のE・フォース。その出現を誘うには、この教会で誰かが式を挙げる必要がある。 「E・フォースになっちまう程の情念、気持ちは分からねェでも無いが…… ま、面白そうだ。いっちょ乗ってみるか!」 狄龍はそう言うと、両の拳を合わせ、歯を見せて笑った。 リベリスタ達は、持参した衣装や小道具で結婚式の準備を始める。 アークの協力もあり、ウェディングドレスやタキシードは実際に結婚式で使われているものを一式借りることができた。式で交換に用いる指輪はもちろん、花嫁のお色直しも想定して予備のドレスを準備する念の入れようである。 「結婚でござるか。にははは。まさかこんな形で経験できるとは思わなかったでござるな」 花婿役としてタキシードに身を包んだ『女好き』李 腕鍛(BNE002775)が、虎の髭を揺らして笑った時、別室で着替えていたアンナが、純白のウェディングドレスを纏って礼拝堂に戻った。 「……う、ウェディングドレスは女の子の憧れっていう人もいるけど」 仲間達の視線を感じて、アンナは思わず顔を赤らめる。 「時期によるわよね正直……っていうか今私が着るには恥ずかしすぎるわよぉ!」 叫ぶアンナに、『くるみ割りドラム缶』中村 夢乃(BNE001189)が新品の白い長手袋と、自分のハンカチを手渡す。 「特に意味はありませんが、一応これも。気分、気分」 花嫁の幸福を願うサムシング・フォー。伝統を表す“古いもの”は流石に厳しかったが、残りの“新しいもの”“借りたもの”“青いもの”はしっかり準備してあった。ちなみに“青いもの”はガーターにつけた青いリボン飾りである。 「……はい。分かりました。仕事だから着ます」 観念したような表情のアンナに、腕鍛が軽口を叩く。 「ウェディングドレスを着ると婚期が遅れるとか言うでござるが…… 大丈夫、拙者がいただかせてもら……」 最後まで言い終える前にアンナに睨まれ、腕鍛は「……すみません。なんでもないでござる」と首を横に振った。 「結婚式か。懐かしいねぇ」 そんな様子を眺め、『自称正義のホームレス』天ヶ淵 藤二郎(BNE002574)がしみじみと口を開く。妻子を失い、ホームレス生活を経て革醒してからというもの、結婚式に出席したことなどない。 もっとも、今回は演技であるから結婚式にカウントできるかは微妙だが――。 (この教会で挙式しようとしてるカップルの為にも全力で戦わないとね) 静かな決意を胸に、藤二郎は目を細める。 同じ頃、司祭役としてカソックと帽子を身に着けたオークは、鏡に映った自分の姿を見てにやりと笑みを浮かべていた。 「おお……我ながら中々キマってンじゃねぇの? 獣でケダモノのあっしは聖職者より生殖者ってかンじだけどな!」 いいのか、司祭の人選は本当にそれでいいのか。 ● 準備が終われば、いよいよ挙式である。 祭壇を背に司祭が立ち、彼と向かい合う形で花嫁と花婿が位置につく。 本来であれば幸福の絶頂にあるはずの花嫁はしかし、笑顔を引きつらせていた。 (……ど、どうしてこうなった……!?) ――純白のウェディングドレス。 ――花婿は猫(虎)髭。 ――司祭は豚。 ――参列者にトリと怪人。 いっそ清々しいほど濃い面子が揃い踏みである。 花嫁の心中を知ってか知らずか、司祭は彼女に声をかける。 「おお、似合ってンじゃねぇの、アンナちゃン。 清楚で純潔……その場で破って……いかンいかン……ブヒヒ」 花嫁のドレス姿に好色な笑みを浮かべる司祭。 ちなみに、花婿である腕鍛の方は見ようともしない。 「知るか! こンな可愛い嫁さん貰いやがる幸せ野郎は死ね!」 とのことである。本気で人選間違えてないか。 「ダミーの結婚式の配役ってこんなに難しいものなのかい?」 よれよれのコートから礼服に着替え、花嫁の父親役を演じる藤二郎がぽつりと呟く。 オークの司祭姿から視線を逸らせない狄龍が、慄いたように口を開いた。 「あの迫力……マジやべェよ……。エンジョイ&エキサイティングってレベルじゃねェ……」 彼らの後列に座る夢乃は、できる限り前を見ないように努めている。 ほら、敵がどこから出てくるかわからないし。 「司祭はともかク、二人はなかなかサマになってるのダ」 同じく、後列に座したカイの言葉に、狄龍も気を取り直して新郎新婦を見た。 「花嫁ってのは眩しいモンだよな。 白い衣装もそうだが、門出とか旅立ちって感じがして、こう……うん……」 眩しいのは花嫁のおでこだけではない、はず。 「アンナさんきれいなのダ……ウチの娘達も十年もしたラ……いやいヤ、まだ早いのダ!」 しみじみと胸中に湧き上がった想いを、カイは慌てて振り払った。 娘を持つ父親の心とは、かくも複雑である。 「うおっほン、さてさて」 さまざまな思惑が渦巻く中、オーク司祭が一つ咳払い。 「その健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も――」 厳かにも聞こえる声で、彼は式次第を読み上げていく。 (旦那の浮気がばれた時も、妻がブランド狂いで家計が苦しい時も――なンつってな!) 内心でそんな不遜なことを考えていたのはさておき。 「――死が二人を分かつまで、真心を尽くすことを誓いますか」 花婿に続いて、花嫁が誓いの言葉を口にする。 「ええ、誓います」 司祭から指輪を受け取った腕鍛が、アンナの指にそっと指輪を通した。 (そうそうこれは作戦上の演技、演技なんだから恥ずかしくない恥ずかしくない) ここは敵の出現に関わる重要なシーンである。 はにかむような笑顔を浮かべつつ、必死の思いで己に言い聞かせるアンナ。 花嫁の晴れ姿を見つめる藤二郎の脳裏に、ふと亡き娘の顔が浮かんだ。 (娘が生きてたら……もう結婚してたりしたのかな) こんなふうにハンカチで涙を拭ってたんだろうか。号泣してたんだろうか。 末永く幸せに――と、二人の門出を祝っていただろうか。 演技のはずなのに、ハンカチを握る手は微かに震えていた。 「それでは、誓いの口付けを――」 式が進行する中、司祭から告げられた言葉にアンナが目を丸くする。 思わず素に戻って、彼女は呆然と呟いた。 「……誓いの……き……す……?」 助けを求めるように腕鍛を見れば、彼はいたく乗り気である。 もちろん、結婚式には欠かせない儀式であるのだが――。 「はやく、チューしろよー」 最前列に座る九十九が、軽い口調で囃したてる。 参列者の役である彼はいつも通りの怪人スタイルで、実際に結婚式にこんな格好の男が混ざってたら軽く騒ぎになりかねないレベルだが、この際、深く気にしてはいけない。 さっきまではお似合いねーだの、人生には三つの袋があるだの口にしていた狄龍も、ここぞとばかりに煽りに加わった。お調子者の参列者として、やれキスしろだの、いいからキスしろだの、てんとう虫もひっくり返る勢いである。 いいのよ! そこまでしてオーク司祭に対抗しなくていいのよ! そんな参列者たちをよそに、アンナさん大ピンチ。 心の準備がというか、そこまで予定していなかったというか。 まあとにかく、ファーストキスが奪われる瀬戸際なわけで。 (……か、顔近い! 近いわよ!) 彼女に向かい合って顔を寄せる腕鍛も、最初は「出来れば誓いのキッスを」程度の冗談で済ませるつもりだったのだが。 本来の目的である花嫁のE・フォースが出てこないことには、とにかく式を進めるしかない。 ――は、早く出て来ておよめさーん!? そんなアンナの悲鳴を、聞き届けたのかどうか。 あと一歩というところで、空気を読……いや、結婚式に引き寄せられた“もう一人の花嫁”が礼拝堂の入口に姿を表した。 ――あの人は、どこ……? 背後を振り返り、席から立ち上がった九十九がショットガンを構える。 「いや、まさかこの面子の結婚式でも現れるとは。完全に、情念に縛られてますな。 早く、正気に戻った方が良いと思いますぞ?」 呆れるような彼の声を聞きながら、アンナはほっと胸を撫で下ろした。 これほどまでに敵の出現に安堵したことがあっただろうか。いや、たぶんない。 ● 誰よりも速く動いた“もう一人の花嫁”が、澄んだ声で誓いの言葉を響かせる。 自らを癒す光に身を包んだ彼女は、無数の花びらの幻を生み出し、リベリスタ達を包み込んだ。 甘い花の香りがリベリスタ達の全身を痺れさせる中、それをものともしない腕鍛が仲間達との距離を取りながら斬風脚を放つ。 「結婚はゴールじゃなくスタートなのダ」 全身のエネルギーを守りに特化したカイが、死した花嫁の思念を見て僅かに目を細めた。 「相手に恵まれていれバ、幸せな結婚生活が始まるところだったのニ、 不幸と苦しみの始まりになってしまったとハ……その苦しみに我々が終止符を打つのダ!」 座席に身を隠して遮蔽を取る九十九が、極限の集中により自らの動体視力を強化する。 オークが、フィンガーバレットを構えて派手に見得を切った。 「さーて花嫁さンよ……マリッジブルーよりブルーな気分をくれてやるぜ!」 通路に飛び出した狄龍が、花嫁との距離を一気に詰める。 奥歯を噛むと同時に、両腕を覆う【明天】と【昨天】から鋭い刃が飛び出した。 「花嫁衣装を血に染めるってのは無粋だが、コイツが俺の技なんでね」 狄龍の姿が不意に消え、刃が花嫁の背後から喉を掻き切る。 「いや、血はでねェか……」 赤い血の代わりに、傷口から淡い光の飛沫を零す花嫁を見て、狄龍は低く呟いた。 敵の攻撃範囲を考えると、礼拝堂のどこに立っても危険度はそう大きく変わらない。 そう判断した藤二郎は、潔くその場に足を止めた。 詠唱で魔方陣を展開した後、そこから魔力の弾丸を放って花嫁を撃つ。 夢乃が、ブレイクフィアーの神々しい輝きをもって仲間達の痺れを取り除いた。 祭壇を背に後衛の位置に下がったアンナが、癒しの微風を届けて藤二郎のダメージを癒す。 ――あの人と、永遠を誓うの……あの人は、どこ? 花びらを撒き散らしながら、花嫁が花婿を探すように礼拝堂を見回した。 純白のドレスの裾から青いリボンが蛇のようにするりと放たれ、眼前にいた狄龍を縛る。 流れ弾で礼拝堂の設備を傷つけないよう細心の注意を払いながら、腕鍛が斬風脚で花嫁のドレスを切り裂いた。 「くっくっく。穢れなき誓約だろうと何だろうと、私の弾丸は撃ち砕きますぞ」 ショットガンを構えた九十九が、含み笑いとともに引き金を絞る。 限界を超えた動体視力を手に入れた彼の瞳には、眼前の光景はコマ送りの如くだ。 銃口から吐き出された散弾が過たずに花嫁を穿ち、彼女を癒す誓約の加護を消し去る。花嫁に迫ったオークが、心身を抉る凶悪な眼光で彼女を射抜いた。 カイが他の回復役と声を掛け合いながら天使の歌を響かせ、アンナが癒しの微風で特に傷の深い狄龍を包みこむ。夢乃が放つ神聖なる輝きが、狄龍を縛めるリボンを跡形もなく消し去った。 「君には同情はするけど、倒れてもらうよ。死者が生者の邪魔をしてはいけない。 幸せいっぱいの結婚式に惨劇なんて似合わないさ」 藤二郎が、展開した魔方陣から魔力の弾丸を撃ち出しながら諭すように言う。 花嫁は耳を塞ぐように幻の花弁を舞わせると、彼に向けて青いリボンを放った。 巻きついた青いリボンに首に絞められ、藤二郎が床に倒れる。 それを見たアンナは聖神の息吹を呼び起こしたが、やはり花嫁の二回攻撃は脅威だ。立て続けに狙われては、彼女の回復力をもってしても支えきれない。 己のダメージを一切気にかけることなく、ひたすら最前線で戦い続ける狄龍を、再び青いリボンが襲う。絶対命中(クリティカル)で絡みついたリボンに、もう一本のリボンが加わり、狄龍の首を激しく絞め上げた。首の骨が、ごきりと鈍い音を立てる。 「――いいぞ、腰を据えて我慢比べだ!」 狄龍が己の運命を燃やしてリボンを引き千切ると、花嫁は手にしたブーケをそっと掲げた。 その瞬間を逃さず、仲間達から離れた位置に動いていた夢乃が声を張り上げる。 「おめでとう、その幸せを分けて! ブーケ、あたしに!」 この場に、ウェディングドレスを纏わぬ(明確な)女性は一人きり。 花嫁は夢乃に背を向けると、誘い通り、彼女にブーケを放った。 激しい爆発とともに、夢乃の全身が衝撃に揺れる。 しかし、メンバー中でもトップクラスの対神秘防御力を誇る夢乃は、この一撃に耐えた。 さらに――ブーケに秘められた呪いも不運も、彼女には通用しない。 爆風の中から姿を現した夢乃は、悲痛な表情で花嫁を見た。 「結婚式を上げることを夢見て、その想像は幸せなものだったのでしょうね。 愛情を裏切られたなんて……悲しすぎますよ……そんなの……」 式を目前にして、花婿となる男に刺された花嫁。 結婚の約束を交わしながら複数の女性と通じていた男の不実を、彼女は覚えていないかもしれない。 式を挙げるという彼女の夢――それすらも、叶えてあげられないのか。 瞳を潤ませた夢乃の視界が、涙で歪む。 「もう少しダ! しっかりするのダ!」 カイが傷の深い狄龍を庇い、腕鍛の斬風脚が花嫁の肌を斬り裂く。 男女平等を謳うオークの拳が、彼女の腹に深くめり込んだ。 そこに、九十九がショットガンの銃口を向ける。 「化けて出て来なければ、私達に討たれる事も無かったんですけどな。 二回も殺されるなんて、つくづく不幸な方のようですのう」 同情はすれど、撃たぬわけにはいかない。 放たれた散弾が花嫁の全身に吸い込まれ――その姿を霧散させた。 ● E・フォースが消滅した後、礼拝堂には静けさが戻った。 「死によって分かたれてしまった以上、花嫁の帰る場所はもうないんですのう」 「せめて向こうじゃ幸せになってくれりゃいいんだがな」 しみじみとした九十九の呟きに、狄龍が言葉を返す。 カイが、花嫁が消えた場所に白百合の花束を供えた。 「百合は無垢の象徴。この花束は彼女に捧げるのダ」 せめてその魂が安らかに眠れるようにと、短く祈りを捧げる。 その後、リベリスタ達は戦闘の痕跡を消すべく礼拝堂を片付けた。 腕鍛や狄龍らの配慮もあって大きな被害はなかったが、割ってしまった窓ガラスだけはどうしようもない。夢乃は謝罪の言葉を書いた紙と野球ボール、そして修繕費用に相当する金を、そっと割れた窓の下に置いた。この程度であれば、アークの経費で何とかなるだろう。 ちなみに、オークが証拠隠滅と称して銀の銀の燭台を持ち出そうとしたのは、腕鍛が力づくで止めた。 「拙者は女性の味方。李・腕鍛でござるからな」 そんな悪事を見逃した日には、何よりも女性陣の視線が怖い。この場のモラルは、どこまでも彼女らが基準である。何より、腕鍛とてこれ以上教会の被害を増やしたくない。 すっかり片付いた礼拝堂を去り際に眺めながら、藤二郎はここで結婚式を挙げるカップル達に幸あれと強く願った。 後始末を終え、リベリスタ達は割れた窓から教会を出た。 「……今度、誰かいいひと見つけて、キスは済ませておこう……」 こういう話で仕方なくやるのはすごく後悔しそうだと、密かに決意を固めるアンナの前に、幾つもの缶を取り付けたオークの車が止まった。 「アンナちゃンを家まで送っていこう!」 もちろん建前である。というか、今回の任務内容からすると、わざわざこんな車を借りる必要など無い。 「車の後ろに缶つけて、あっしたちの新婚旅行! そして……ブヒヒ!」 不穏な気配しか感じないオークの言葉を聞き、夢乃が車に圧し掛かった。 「……って中村ぁー! ボンネットにボディプレスすンな! ああもう、凹ンじまったじゃねぇか!」 夢乃はメタルフレームである。つまり、ええと、どういうことかというと。 「このドラム缶女! お前重いン……ぶべらっ!」 乙女の禁句を口にしようとしたオークに、九十九のショットガンから散弾が叩き込まれる。 「なんかこっちの戦いの方がハードになりそうな気がするのは拙者だけでござろうか……」 そう言って肩を竦める腕鍛の言葉を否定できる者は、誰一人としていなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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