● 引越しの準備を進めるうち、少年は外がとても良い天気だと気付いた。 彼――折本奏一(おりもと・そういち)は作業の手を止め、窓から外を眺める。 折角だし、少し散歩にでも行こうと、彼は家を出ることを決めた。 少し前までの彼であれば、到底こんな考えは浮かばなかっただろう。 人と打ち解けることのできない自分に苛立ち、居場所のない世界を憎んで。 その結果、多くの人々を手にかけようとした。 そんな自分を止めてくれたアークのリベリスタ達には、心から感謝している。 色々と手続きに手間取って随分と遅れてしまったが、奏一もまた、近いうちに三高平に赴く予定だった。 道を誤りかけた自分に手を差し伸べてくれた恩人たちに会えるのを、彼は心待ちにしている。 思わず表情を綻ばせながら角を曲がり、細い路地に入ったその時だった。 「君は実に出来の悪い駒だったよ。とんだ期待外れだ。 少し待てば、また世界への絶望を募らせてくれると思ったのだけどね――」 背後から唐突に声をかけられ、弾かれたように振り返る。 そこには、見知らぬ男が立っていた。 咄嗟に身構えた奏一の眼前で、男の姿がかき消える。 奏一を遥かに超えるスピードで背後に回りこんだ男は、とんと彼の首筋を叩いた。 ちくりとした痛みとともに、奏一の意識が途切れる。 「君にはもう一度チャンスをあげよう。今度こそ上手くやるといい」 呆然と立ち尽くす奏一を眺めた男は、そう言って薄い笑みを浮かべた。 ● 「皆に頼みたいのは、一般人の殺傷を目的にしたアーティファクトの破壊だ。 ……だが、今回はちょっと状況が複雑でな」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、ブリーフィングに集まったリベリスタ達の顔を見回した後、手にしたファイルをめくった。 「アーティファクトは『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』。 以前、同じようなアーティファクトが出てきたらしいが、簡単に言うと時計の形をした時限爆弾だな」 その殺傷力は非常に強力であり、一般人が爆発に巻き込まれたらまず即死は免れない。 『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』が爆発する前にこれを破壊するのが、今回の任務になる。 「で、面倒なのはここからなんだが。この爆弾は生き物に仕掛けることでスイッチが入る。 その生き物を操って支配し、爆弾が爆発する時間に指定した場所まで運ばせると」 今回、問題になるのは『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』が仕掛けられた対象だ。 数史が言うには、アークの管理下に置かれている元フィクサードであるらしい。 「名前は折本奏一。ジーニアスのプロアデプトで、まだ中学三年生の少年だ。 以前、やさぐれて自分の通う学校を爆破しようとしたが、アークのリベリスタに諭されて改心してる。 近いうち、三高平に来てアークに所属する予定だったんだが……」 何者かの手により『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』を仕掛けられ、現在は操られた状態であるという。 「爆発地点として指定された場所は、折本奏一が通う中学校だ。 時間は明日の日中、学校に大勢の人間がいるタイミングに設定されてる」 爆発を許せば、多くの死者が出るだろう。 それは、何としてでも阻止しなければならない。 「爆弾を解除するには、『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』を破壊するしかないが…… こいつが折本奏一に仕掛けられている以上、それも簡単な話じゃない。 決められた手順を踏んで破壊しない限り、その時点で即座に爆発しちまう」 通常、革醒者が『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』の爆発で死亡することはない。 しかし、爆弾を仕掛けられている当人となれば、また話は別だろう。 死なないまでも、何らかの重大な影響を及ぼす可能性は充分に考えられる。 「肝心の破壊の手順だけどな。 まずは、折本奏一が爆破のターゲットである中学校に向かうのを阻止する必要がある。 通学路の途中に手頃な空き地があるから、そこで待ち伏せるのが良いだろう」 爆破地点に向かうのを妨害した場合、彼は『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』から四体のE・エレメントを召喚し、自らもアーティファクトの力を用いて障害を排除しにかかる。 E・エレメントを残らず倒し、本人を戦闘不能に追い込めば、『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』を爆発させることなく、安全に破壊できるようだ。 「手間のかかる任務だが、色々な意味で放っておけないのも確かだ。どうか、よろしく頼む」 数史はそう言うと、手の中のファイルを閉じてリベリスタ達に頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月14日(土)20:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 細い道に面した空き地で、八人のリベリスタが一人の少年を待っていた。 時刻は朝。空はよく晴れており、春の風が心地良い。 周囲に人の姿がないことを確認した『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)が、念のため一般人除けの結界を張る。 「転ばぬ先の杖、ですね。用心に越した事はありません」 戦闘を目撃される心配はなくても、万一の時は爆発に巻き込まれる危険があるかもしれない。 何しろ、今回の相手は生きた時限爆弾なのだから。 アーティファクト『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』により爆弾と化した革醒者の少年――折本奏一に関する報告書を読み終えた『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)が、書類の文字を追っていた視線を上げる。 「一度は悪事に手を染めようとして思い止まり更生の道を選ぶか……潔いな」 かつて『クロック・オブ・ザ・フレイム』で自らの通う中学校を爆破しようとし、それをリベリスタ達に阻止されて改心した奏一を、ハーケインはそう評した。 同行する仲間には、この少年を救いたいと強く願う者がいる。 「ささやかだが助力をするとしよう。使い捨ての道具にさせはしないさ」 ハーケインの言葉に頷いた『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が、怒気を帯びた表情で口を開いた。 「人を駒扱いとか何様なんだよ。せっかく奏一君は新しい一歩を踏み出すところだったのに……」 「以前の行動を反省し、新しい生活を始めようとしていた人に対して、 再度、しかも強制的に行動を強いるようにするとは、私としては看過できません」 切れ長の瞳に強い意志を湛えた『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)の言葉が後に続く。『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)が「爆発なんてさせてたまるか」と拳を握り締めた。 奏一を生きた爆弾と化した何者かの悪意は、絶対に阻止してみせる。 ここに集ったリベリスタ達の中でも、過去の事件で奏一と関わった『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)、『不屈』神谷 要(BNE002861)の想いは特に強かった。 自らの意思に反して、再び学校の爆破に向かう奏一。それを許せば、彼が本当にしたいこと、望むものが遠ざかってしまう。 「何一つ取りこぼさない為に、奏一様が新たに踏み出した一歩、必ず護ります」 「後少し手を伸ばすだけなのです。ここで諦める事が出来ましょうか」 決意を込めて言葉を交わすフィネと要に、来栖 奏音(BNE002598)が頷いた。 「――来た」 道の先を見張っていた静の声に、全員の視線が一点に集まる。 虚ろな瞳の奏一が、機械のような歩調でこちらに近付いてきていた。 リベリスタ達は全員で道を塞ぎ、奏一の行く手を阻む。 それを見た奏一の瞳に、紅い炎のような光が灯った。 ● こちらに向けて駆け出した奏一を誘導すべく、リベリスタ達が空き地に入る。 それを追った奏一が空き地に足を踏み入れた直後、彼のうなじに取り付けられた『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』から炎が上がり、四体のE・エレメントが姿を現した。 リベリスタ達は手早く陣形を整え、自らの力を高めていく。 仲間達がE・エレメントのブロックに向かう中、光り輝く防御のオーラに身を包んだ要が奏一の前に立った。 その面に微笑みを浮かべて、彼女は奏一に語りかける。 「お久しぶりです、奏一さん。これが終わったら、一緒に本部でご飯でも食べましょうか」 無機質な瞳に炎を宿した奏一から、返答はない。 ああ、大丈夫です、何度でも救ってみせますよ――と、要はさらに言葉を続けた。 「──何も救えぬこの身に意味など無いのですから」 リベリスタ達がそれぞれの配置についた直後、E・エレメント達は一斉に攻撃を開始した。 燃え盛る炎の拳が静とハーケインを打ち、爆発が真琴と奏音を炎に包む。 同時に打ち出された魔炎が、リベリスタ達の肌を焦がした。 奏一に取り付けられた爆弾を解除するためには、E・エレメントを先に全滅させなければならない。 驚異的な集中により命中力を高めた終が、静に炎の拳を打ち込んだE・エレメントに凍てつく刃を振るう。ナイフに込められた冷気が、炎をたちまち凍りつかせた。続けて、肉体の枷を外した静が、闘志を爆発させてE・エレメントに打ちかかる。強烈そのものの一撃が、炎を吹き散らす勢いで炸裂した。 自分の眼前に立つ者を障害と見なしたか、奏一が思考の奔流を要に叩きつける。要は盾を翳して衝撃を殺そうとしたが、その威力は以前に戦った時とは比べものにならなかった。 堪らず吹き飛ばされた彼女は、素早く身を起こして奏一のブロックに戻る。『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』による能力強化は、かなり強力なようだ。 要から十字の加護を受け、リベリスタ達はE・エレメントに攻撃を加えていく。 黒い翼で低空を舞い、後衛に攻撃が向かわぬようにE・エレメントの一体をブロックするフィネが、赤き月の呪いを解き放った。バロックナイトを再現する不吉の輝きが、仲間達と奏一を避けてE・エレメントのみに降り注ぐ。漆黒の闇を無形の武具として纏うハーケインが、タイミングを合わせて暗黒の瘴気を放った。 「雑魚に用は無い、早々に消え去れ」 撃ち出された瘴気がE・エレメントを次々に掠め、うちの一体を消し去る。 残る三体が放つ魔炎や爆発を、真琴は地にしっかり足を踏みしめて耐え抜いた。 全身のエネルギーを守りに特化した彼女に対する攻撃は、そのままE・エレメントをも傷つける。ブレイクフィアーで状態異常を払いながら、真琴は後衛に立つ仲間達を守れるように目を配っていた。 「はーい、最初は勢いが肝心ですよー。さくっと倒してさくっと壊しちゃいましょー!」 脳の伝達処理を高めたチャイカが、明るい声とともに気糸を放つ。煌くオーラの糸が、赤々と燃えるE・エレメントを撃ち抜いた。 E・エレメント達の攻撃を見る限り、とりあえず奏一が爆発や魔炎に巻き込まれる心配はなさそうだ。 そう判断した静は、エネルギー球を込めた武器を一閃させ、E・エレメントの一体を吹き飛ばす。後衛の安全度を高めるため、敵の位置を調整する狙いである。フィネが再び赤月を輝かせ、呪いの力をもってE・エレメントを削っていった。 炎の茨を生み出すべく、技の溜めに入った奏一を見て、要が大きく踏み込む。 仲間達の被害を減らすため、自分の体と盾を使って視界を少しでも塞ぐつもりだった。 不運の呪いに妨害されて魔炎の狙いを逸らしたE・エレメントに向けて、ハーケインが刀身を赤く染めた“Katzbalger”を振り下ろす。俗語で『喧嘩用』とも云われる剣が炎を切り裂いた直後、真琴の放った十字の光が、それを撃ち倒した。 残るは二体。炎の茨が発動する前にと、終と静が走った。 魔氷の刃と化した終のナイフが炎を凍らせてこれを両断すると、最後の一体に向けて静が武器を振り下ろす。 生と死を分かつ一撃(デッドオアアライブ)がE・エレメントを正面から叩き割り、炎を霧散させた。 ● 最後のE・エレメントが消滅した瞬間、奏一の全身から激しい炎が上がった。 燃え盛る炎が彼を中心に長く伸び、茨と化してリベリスタ達を襲う。 要が奏一の視界を遮ったことで狙われる人数は減らせたものの、それでも彼女一人に攻撃を絞らせるには至らない。加えて、前衛たちが咄嗟に後衛を庇うには些か距離がありすぎた。 茨に絡みつかれたチャイカが、紅蓮の炎に包まれる。 全身を焼き尽くさんとする炎の勢いに、彼女は己の運命を燃やすことで耐えた。 術具としての機能をも備えた愛用のタブレットPC“M・Tablet”を両手に抱え、チャイカは前方に立つ奏一と、彼のうなじで淡い光を放つ時計型のアーティファクトを見据える。 背の黒い翼を羽ばたかせたフィネが奏一に迫り、全身からオーラの糸を放った。 万に一つも誘爆させぬよう、注意深く『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』を避けて攻撃を繰り出す。自らの脳を集中領域に高めたフィネには、それも容易いことだった。 ハーケインが“Katzbalger”を赤く染めて奏一に打ちかかり、攻勢に転じた要が十字の光で追い撃ちを加える。来歴不明のモノリスを基に作られたタブレットPCを構えたチャイカが、オーラの糸で奏一を射た。 「はー、本当厄介なアーティファクトですねえ。製作者さんの悪意がひしひしと伝わります」 戦闘が続く中、チャイカはアーティファクトを可能な限り観察し、情報収集に努めていた。 その形状からE・エレメントの行動パターン、アーティファクトが装着者に与える力の程まで、得られる情報は決して少なくはない。 「リバースエンジニアリングしたい気持ちもちょっとありますけど、やっぱり破壊しないとダメですよねー」 やや残念そうな言葉は、エンジニアを目指す彼女の知識欲から出たものか。 これまで仲間達の防御に主眼を置いてきた真琴もまた、ジャスティスキャノンで積極的な攻勢に出た。 奏一も革醒者である以上、リベリスタ達の攻撃でそうそう死ぬことはないだろうが、万が一を考えると念を入れるに越したことはない。対象を死に至らしめる危険のないジャスティスキャノンは、存分に活用されるべき攻撃手段だった。 慎重に奏一の体力を見極めつつ、終が魔氷の刃を繰り出す。ここまでの攻撃でまだまだ余裕を残していそうなことから、奏一の耐久力もまた、アーティファクトの力で大幅に高められていると推察された。奏一を知る仲間からの情報から判断するに、そうでなければ今頃は多少なりとも弱っているはずだ。 身を捻って直撃を避け、氷結を免れた奏一に静が迫る。メンバー中で最強の威力を誇る一撃が、闘気の爆発を伴って強かに打ち込まれた。 やや細身と呼べる奏一の身体が、衝撃に揺れる。たたらを踏んだ彼は、感情のない瞳に紅き炎を宿らせ、己を囲むリベリスタ達に圧倒的な思考の奔流を炸裂させた。 吹き飛ばされたフィネを、紅蓮の炎を纏った魔力の矢が貫く。 黒い翼が地面に堕ちる寸前、フィネの運命が彼女の全身を支えた。 「三高平にくること、自分で選択したと、知っています。 そのこころを踏み躙る、許さない、です」 空中で体勢を立て直したフィネがそう言葉を紡いだ時、輝く十字の光が、真琴の強き意志をのせて奏一を撃つ。フィネと意識を同調させたチャイカが、彼女に自らの力を分け与えた。 「なんとか持ちこたえさせますよー、諦めたらそこで終わりです」 たとえ長期戦になっても、この能力がある限りリベリスタ達が息切れを起こすことはそうそうない。 アーティファクトに高められた奏一の力は、この人数のリベリスタを相手にしても決してひけを取るものではなかった。彼の猛攻の前に奏音が倒れたものの、それでも徐々に流れは傾き始める。 再び炎の茨を放とうと溜めに入った隙を見逃さずに、終がナイフを繰り出した。 「絶対、絶対、助けるよ! 奏一君はもうオレ達の仲間なんだから!」 一撃目を囮に、すかさずもう一撃。 魔氷を纏う刃が奏一を捉え、彼の全身を凍りつかせる。 畳み掛けるなら今だ。溢れる生命力を戦闘力に変えて突進する静が、裂帛の気合とともに全身の闘気を爆発させた。 「救える命は全部救ってやる!」 渾身のデッドオアアライブが、奏一の体力をギリギリのところまで削り取る。 それを見たハーケインは、傷の深いチャイカを庇いに走りながら、高く声を放った。 「よし、決めて来い」 「フィネ達の大切な仲間、返していただきます、よ……っ」 大きく踏み込んだフィネの気糸が、要の十字の光が、ほぼ同時に奏一を捉える。 奏一の瞳から紅き炎の輝きが消え失せ――彼はゆっくりと、地に崩れ落ちた。 ● 倒れた奏一に駆け寄った真琴が、彼の様子を窺う。 奏一は完全に気を失っており、すぐに動き出す気配はない。彼のうなじで淡く光を放っていた『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』も、輝きを失って沈黙していた。 今なら、アーティファクトを安全に破壊することができるだろう。 「こんな悪趣味なものはぶっ壊してやる!」 奏一のうなじから『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』を引き剥がした静が、それを躊躇いなく握り潰し、粉々に砕いた。 リベリスタ達が見守る中、奏一の瞼がわずかに動く。 うっすらと目を覚ました彼に、要が微笑みかけた。 「お久しぶりです、奏一さん」 「……神谷、さん?」 自分の置かれている状況がまだ理解できないのか、奏一が驚いたように目を瞬かせる。 会いたいと願っていた恩人の一人が、いつの間にか自分の目の前にいたのだから、それも当然かもしれない。 「奏一様」 「フィネさんも……? ここは……僕は、どうして」 再会を嬉しく思いつつも、奏一はそれを現実と捉えきれていないようだった。 きょろきょろと周囲を見渡す少年に向けて、ハーケインが声をかける。 「命拾いしたな、小僧」 「もう大丈夫だよ☆」 アークの治療スタッフに連絡を済ませた終が、事情を軽く説明した。 話を聞くうち、気を失う前のことを少しずつ思い出したのだろう。 自分がアーティファクトに操られていたことを知り、奏一の表情が見る間に曇った。 「……ごめん。怪我をさせてしまって、すみませんでした」 戦闘で傷ついた皆の姿を見て、奏一が深く頭を下げる。 そして、彼は再び自分を止めてくれたリベリスタ達に、心からの礼を告げた。 破壊された『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』の破片は、フィネによって回収された。 アークに持ち帰って調査を依頼すれば、少しでも黒幕の情報が得られるかもしれない。 破片をじっくりと観察し、その内部構造を脳裏に残らず焼き付けたチャイカが、ふと口を開く。 「道具だって、結局は使う人次第なんですよね。 この子達も、本心ではこんな事したくないと思っていたのかも知れません」 どんな技術も、使い方一つで結果は変わるはずだ。 少しでも手がかりを掴めるよう、そしてこの技術を良い方向に使えるように。チャイカは、得られた情報の全てを記憶しておくつもりでいる。 終は、奏一に『クロック・オブ・ザ・フレイム(Type-H)』を仕掛けた男のことを訊ねたが、成果は芳しくなかった。顔も声も、取り立てて特徴のない男。一つ言えるのは、彼が神秘の目に対する隠蔽能力を備えているらしい――ということだ。 「誰だか知らないけど次は覚悟しておいてよ。絶対あんたを潰すから」 ふつふつと湧き上がる怒りを胸に、終はまだ見ぬ男に向けてそう呟いた。 ● 「ふむ、駒は生き残ったか――」 アーティファクトからの反応が途絶えた後、男は椅子に深くかけ直した。 あの少年は、無能な割につくづく運が強いらしい。 それとも、これが『アーク』の実力ということか。 「面白い。次の遊戯(ゲーム)は、彼らを誘うとしよう」 男はそう言うと、唇を歪めて薄い笑みを浮かべた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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