●彩りを、日常へ 此処最近、忙しなく動き回っているアークのリベリスタ達。 鬼ノ城にて力を蓄える鬼達との決戦、そして日常に巣食う日常を脅かす者達。 リベリスタ達はその対応に追われていた。 しかし、そう休んでいられないのも現状だ。リベリスタを置いて日常の脅威を押し留められる存在は無い。 それでも、働き詰めでは身体を壊してしまう。せめて短時間で心位は潤せる術があると良いのだが……。 ●そういう訳なので 「一日だけ、私に付き合ってくれませんか」 『転生ナルキッソス』成希筝子(nBNE000226)が、集まったリベリスタ達を軽く拝む。 彼女の申し出を承諾し、ブリーフィングルームに残ったリベリスタ達に、筝子は礼を述べてから、あるパンフレットを手際良く配り始めた。 ~ハーブ&アロマ専門店『Palmarosa』~ 貴方の心を癒すアロマオイルを、貴方の心が望むままに。 貴方が今一番求める癒しを、貴方の手で齎してみませんか? 「要するに、アロマオイルの調合やってみませんか、って事です」 初心者向けに、一日体験教室なるものをやっているようだ。既製品も勿論売っているのだが、自分で作る方がより望む効能を得られるだろうという事で。 「ちょっと手間は掛かりますけど、アロマキャンドルなんかも作れるそうですよ」 好きな色のキャンドルと、好きな香りのアロマオイルを、好きなデザインの容器に入れて作るオリジナルのアロマキャンドル。 また、店の隣にはカフェも隣接しており、ハーブティーが絶品なのだとか。 「流石に長い時間は皆さんを引き留めて置けませんから、半日そこそこだけ。それで何か皆さんが羽を伸ばせるようなものをと考えた結果、此処にお誘いさせて貰おうと思いまして」 ですから、今日は戦いを忘れて、癒されて来て下さいと。 筝子はそう、締め括った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月22日(日)23:14 |
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●癒しの日 ハーブ&アロマ専門店『Palmarosa』。 決して大きくは無いけれど、清潔感のある小洒落た店内にはハーブやアロマオイルが綺麗に陳列されている。 今回は一日体験教室が開かれる事となっているのだが。 「モテ系にはイランイラン鉄板だって聞いた!」 御厨・夏栖斗が教授を乞うは、我等が王様こと降魔 刃紅郎。 曰く、調香は男女問わず貴人の嗜み。今日は【男子会】として、男性参加者+@を募って参加している。そんな彼はアロマにも御多聞に漏れず詳しい。 提示されている効能は、ほんの一例に過ぎない。意中の相手を振り向かせるなら、イランイランをベースノートにベルガモット、もしくはジャスミン。 「なるほど! 快もこれでばっちり彼女でき……」 「いや、さては既になんだかんだ言って実は一般人の彼女が居たりす……」 夏栖斗や宮部乃宮 火車が新田・快に声を掛けるも。 「……」 その話題が出た瞬間に空気が重くなった。 「……る……事も無いと。そうか……」 「……そこには触らないようにするよ。うん……」 気まずい。 「……少々お前たちはその欲望を抑えるべきかも知れんな」 王様に何か掛けられた。マジョラムの香り。王様の私物の香水のようだ。 マジョラムの香りは昂った気分に抑制をかけたりするのにも有効だそうですよ。 何にせよとばっちりを喰らった火車は夏栖斗の腹にお約束の業炎撃を(気持ち控え目に)見舞うのであった。 刃紅郎の手元から漂うのはハーブの香り。クリアで清涼感のあるその香りの正体はローズマリー。 ふと周囲を見遣れば、パルマローザの精油を片手に考え込む筝子の姿が目に留まる。 「ほう、パルマローザか」 ならばと、パルマローザをトップノートに、ミドルノートにローズマリーをブレンドする。爽やかな中にも甘さを感じさせる香りは精神を適度に引き締めてくれるようだ。 刃紅郎がブレンドを終えると、それを察した男子会の面々がアドバイスを伺いに来るのだが、そんな彼と一緒にいるのがまた驚きの人物。 「男子会だからといって女人禁制ではないと王様が言ったので! ふははは!」 白石 明奈さんであった。勿論女性である。 彼女がブレンドするのは、エキゾチックなイランイランと、爽やかなグレープフルーツ。“魅力的なアイドル”に相応しい、セクシーでありながらも明朗な雰囲気を目指して! 「でも自分で使うというより、撒き散らしてみんなに元気になってもらいたいかな!」 明るく笑んで、心底楽しそう。この快活さこそが、彼女の最大の魅力と言えよう。 「成程な、ベルガモットか」 張り詰めた気分の解消にジャスミンを用いようと考えていたディートリッヒ・ファーレンハイトだが、もうひとつをどうするか決めかねており、刃紅郎に相談を。 相性の良いものの中でも、リラックス効果をより期待するのならベルガモット等が有効だと提示され、早速実践。甘美な香りの中に爽快なシトラスの香りが広がった。 「男がこういうものをやってみるのも良いもんだな、皆が作り上げたものをそれぞれ皆で試してみるのも面白そうだ」 男子会の皆で集まるその時間にディートリッヒは思いを馳せる。 そんな中、男子会に混ざっているもう一輪の花、が。 「どの組み合わせが一番美味そうなんだ?」 柑橘系の精油(あと、松でないパインなんて変わり種もあった)を大量に抱え、ううむと唸るイセリア・イシュター。 本人曰く、戦に生きる剣姫とは言え、腹が減っては戦は出来ぬ、という事で、味にも拘りを持ちたいと……あれ、“味”? 「店員殿! 一番美味そうなのがいいな」 そんな質問を受けた女性店員は一瞬、きょとんと双眸を丸くしていたが、暫く考え込んだ後に漸く勘違いに気付いたらしく、色々とイセリアに説明していた。 「……なるほど古の言い伝えだ」 丁度近くにいた一ノ瀬 あきらがその言葉を聞き、首を傾げると、イセリアは頷いて。 「バニラエッセンスを口に含む者、アビスに堕つ」 苦笑するあきら。 兎も角、あきらは条件反射で参加し男子会に混ぜて貰った。暫し周囲を観察し、心得たようにぽむと手を打つ。 「アロマオイルを混ぜればいいんやな! 俺もチャレンジしてみるんや!」 彼がまず選んだのは、パチュリー。 日曜大工や盆栽弄りを好む少年にとって、土のような香りは心が安らぐようだ。 「もう一個はジャスミンとかどうやろ?」 「王様にきいてみるか!」 同い年だし仲良くしたいと言ってくれた夏栖斗に連れられ、刃紅郎の下へ。 そして男子会メンバー全員のブレンドが終わり、皆で集まる事に。 「わぁ、それ良い香りですねきゃっきゃ」 スーパーオトメンタイムとやらに突入した天風・亘がものっそいノリに。 今、彼等が試しているのはイセリアのイランイランとスイートオレンジのアロマオイル。結局、美味しそうな香りを混ぜる所に行き着いたらしい。 「王様にはお墨付きを頂けましたけど、自分のはどうでしょうかうふふ」 亘のものは、ペパーミントとラベンダーのブレンド。何とその調和具合は見事なもので、とても爽やかな香りが身体の中に満ちてゆく。 ペパーミントにとって最上級に相性の良い組み合わせのひとつが、ラベンダーなのだ。 そんな遣り取りを微笑ましげに(?)見遣りながら、武蔵・吾郎はふと思う。 「多分この香りを嗅いだら、今日の思い出を思い出せるんだろうな」 それも良い事だと、彼は自作のアロマオイルの蓋を開ける。 クラリセージとパチュリーの、穏やかな香りが微かに広がった。 「どうしてアロマオイルって柑橘系っぽい香りがする奴が多いんだ」 「柑橘系の香り好きな奴多いっぽいし、それでじゃないか」 「うむ、美味そうだしな!」 「しかし匂いでモテモテ……アロマってすごいんやな!」 「折角だし相手がいる奴は二人で楽しんだらどうだ?」 「パチュリーにラベンダー、って大量に入れてたら二瓶出来てしまったんだよな……良し、朱子に贈る事にしようそうしようそれが良いそうに決まってる!」 男子会トークは続く。 ●華やぎ時間 花の香り、ふわふわしたお菓子のような香りが大好き。 大好きな“あの人”が好きな香りはどんなのかな? パルマローザやベルガモットの精油を前に、思案するのはルア・ホワイト。 イメージは、爽やかな香りの中に少しだけスパイシー、包み込まれるだけで幸せになれるそんな香り。けれど、結局は。 「スケキヨさんなら、どんな香りでも素敵だけれど」 考えるだけで、心が温かくなる。 そんな彼女のすぐ隣、レイチェル・ガーネットはくすりと微笑ましげに笑む。彼女の手元、ふんわり甘く爽やかな香りはスイートオレンジとパチュリーのもの。 「レイちゃんは誰の事を思ったのかな?」 不意にルアに問われ、きょとんと面喰らうレイチェル。けれどすぐに笑みを取り戻して。 「ふふ、それは秘密です」 「えーっ、教えてよ~」 けれど、問われた瞬間自分は誰の事を考えていただろう? それでも、今は。 「それよりスケキヨさんとの事を聞きたいですね」 くすくすくす、きゃっきゃと、楽しげな笑い声が漏れる。 女の子同士の秘密の話、楽しい時間に華を咲かせよう。 恋をするのは男性も同じ。 設楽 悠里と新城・拓真は、恋人へのプレゼントを探しに来ていた。 とは言え折角体験教室が開かれているのだ、作ってみようかという話になる。問題は、悠里にも拓真にもアロマの知識が無い、という事だが。 「拓真、シトラス系統って何だろう? っていうかシトラス系統だけで三つもあるんだけど」 「うむ……」 疑問符を飛ばす悠里。拓真も思案顔だ。 このままでは駄目だと、悠里はかぶりを振る。こんな時、自分はどうしてきたか、思い出せ。そして信じろ今までの積み重ねを――! 「拓真……」 悠里の表情は真剣。その唇から決意の言葉が紡がれる。 「店員さんに聞こう」 賢明な判断であっただろう。 「新城さん?」 拓真を発見した筝子が嬉しそうに近寄ってくる。 初対面の悠里と筝子は軽く自己紹介を終え、折角だから女性視点で何かアドバイス等あればと尋ねてみる事に。 「女性が好み甘い香りを持つのはローズですが、無いようですし……ゼラニウム、は少し重いかな。パルマローザはどうでしょう」 アドバイスを基に店員に質問すると、甘くリラックスする香りとしてパルマローザを用いるなら、スイートオレンジやジャスミン等が合うと知る事が出来る。 パルマローザを主軸に、悠里はスイートオレンジ、拓真はジャスミンをチョイス。さて、喜んでくれるかな? 大切な人と二人で訪れる仲睦まじい姿も。 「たまには息抜きしないとね。けど、蒼龍さんが付き合ってくれるとは思いませんでした」 屈託の無い、楽しそうな笑みを向けてくる石 瑛に、日月・蒼龍はほんの僅かに表情を和らげて。 「俺には不似合いかもしれないが……石瑛の笑顔を見るのは好きだからな」 温かく和やかな雰囲気はそのままに、二人もアロマオイルのブレンドを始める。お互いの為の香りを創り出す。 (春の森を散歩しているイメージで……雪がとけたあとの土のにおいと春の花の感じ。蒼龍さんが育った山の春……) きっとこんな風に穏やかで柔らかな香りがしたのだろうと、思いを馳せながら用いるは、ゼラニウムとパチュリー。 (純粋にミカンが好きなのと……元気になれる匂いだろう?) 蒼龍の手元から漂うは、スイートオレンジとジャスミン。瑛の自由な雰囲気が、元気さが、これで続けば良いと。 (気に入ってくれるかな……) (……俺のこの手が、壊す以外に使われる事もあるのだな。なんというか……ああ、嬉しいよ) 少しの不安と、溢れんばかりの期待を胸に秘め。 この後、二人は喫茶店でお互いにオイルを交換し合う。そして、また作りに来ようと約束を交わすのだ。香りも、思い出も。 ――あ、トマトジュースはありませんよ。 パンフレットで提示された効能に柳眉を顰めるのはイーゼリット・イシュター。 別に不快な訳では無い。ただ、自分が求めているものとは違うのだ。 通りかかった店員に尋ねてみる。精神的に何かしらの作用があるとか、そういう事を求めている訳では無いのだけれど、眠る時に一番好きな香りに囲まれる事は、気分の良い事だと思うから。 「それって、どう?」 甘いイランイランと、甘くも爽やかなパチュリー。どちらも家にある香りだが、ブレンドするなら、その中間点を目指すにはどうしたら良いか。そして……。 「他の効果が知りたいの」 店員は嫌な顔ひとつせずに、答えてくれた。 イランイランは就寝前にアロマランプ等に使うと疲労が解れる事、また女性の健康に関する悩みにも効力がある事。パチュリーは肌の手入れにも効果を発揮する事。そんな二者を、自然な仄かな香りにする最適の割合。 聞けば聞く程、それ以外にもまだまだ判る事はあって、奥深い。 (アロマの力を借りなくても十分プログラムは組めるけど、作業効率が上がるならそれに越した事は無い) 作業用のアロマを作りに来たのは小雪・綺沙羅。齢十一にしてゲーム会社の社長である彼女。何かと疲労等も多い事であろう。 取り敢えずローズマリーメインにする事は決めたのだが、他に何を混ぜて良いのか判らない。自分でも候補は挙げてみたのだが、調合した時の香りが想像出来ない。 丁度近くを通り掛かった店員を呼び止め、お勧めを聞いてみる事に。 「ローズマリーをメインに作業用のアロマを作りたいんだけど、お勧めの組み合わせある? キサはすっきりとした香りが好き」 あどけなさの残る少女の口から作業という言葉が飛び出た事に首を傾げる店員ではあったが、ちゃんと仕事はしてくれる。 ローズマリーにはペパーミントの方がより爽快感のある爽やかな香りになるとの事。気分をすっきりさせるのにも効果があるそうだ。 ふうんと頷いて、ブレンドに取り掛かる。確かに清涼感のある香りがした。 帰ったら試してみるとしよう。そう思いながら、綺沙羅はビンに閉じ込めた香りを見つめていた。 「ねえねえ、イチゴ味ってないの? それかメロン味でもいいよー?」 無邪気だが何処か不自然に明るい笑みを浮かべながら、そんな事を尋ねるのは七斜 菜々那。 店員は若干対応に困っていた。しかし何とか説明を終えると、菜々那は笑顔は崩さずに、何やら納得したように頷いた。 「ふーん。味じゃなくて匂いを味わうモノなんだ。んじゃナナはとりあえずハイテンションになれれば何でもイイの」 パンフレットの各アロマオイルと効能のページを開き、彼女は悦に浸る。 「頭がコーフンしてフットーしちゃうような匂いで頭の中を満たしてみたいの。きっと凄くイイ気持ちなの。うふうふ」 イランイラン、ジャスミン、ベルガモット辺りを代わる代わる手に取り、恍惚。既にトリップ済。 解説しておくと、彼女は最初アロマオイルを食べ物か何かだと思っていたらしく、それが間違いだと判ると今度は怪しげな薬品の類か何かだと思ってしまったようであった。 ――本人が愉しそうだからいっか。 「筝ちゃん、一緒に作りましょー♪」 「烏頭森さん」 烏頭森・ハガル・エーデルワイスが笑顔で筝子に手を振ると、彼女も気付いたようだ。自身が使う予定のアロマオイルを持って、エーデルワイスの下に移動してくる。 「こういうのって初めて作るんですよ。でもちゃんと調べましたよ! 相性バッチリ♪」 そう胸を張って言うエーデルワイスのチョイスは、ベルガモットとラベンダー。クセも少なくリラックスに絶大な効果があるとされる組み合わせ。 筝ちゃんはどうです? とエーデルワイスが問うと、筝子も好きではあるが、知識はほぼ皆無と言う。 けれど筝子は嬉しそうだった。釣られてエーデルワイスも笑みを深める。 ――が、直後、不穏な一言を。 「本当はへんてこりんなオイル作ろうと思ったんですけどねw」 「えっ」 「変な匂いのできたら処分に困っちゃうです」 思い直してくれて良かったと、内心安堵する筝子。 けれど処分担当の某メタフレフォーチュナやなんか投擲したくなる某メガネ司令がいたら作っていたかも知れないとほくそ笑むエーデルワイス。 筝子はアークの恐ろしさを実感したのだった。 ●安らぎの灯 (夜のロマンスを彩るキャンドルをつくるのです。さおりんとの愛を深めるのです) 意気込み、精油達と向き合う悠木 そあら。彼女が手に取ったのは恋愛に効果のあるクラリセージとパチュリー。 最愛の人との愛が更に深まればと、無邪気な期待に胸を膨らませ、有する柔らかな耳と尾もふわり、揺れる。 店員にブレンドの割合も教わり、抜かりは無い。 容器はお洒落な彫刻の入ったシックなもの。イチゴ大好きな彼女だが、子供扱いを気にしたか敢えてイチゴとは無縁なものに。 「完璧なのです」 続けてキャンドル芯用のタコ糸を固定、溶けたロウを容器に注ぐ。それは“可愛らしい”いちごミルク色だが、ご愛嬌だろう。 ビンの蓋を開けると、フローラルな香りと温かみのある香りが零れる。それ等を、アドバイスの通り、数滴。 そして混ぜる事暫し――遂に、ナチュラルな温かみのある香りを閉じ込めた、そあらだけのアロマキャンドルが誕生。 「上手く出来たのです、さっそくさおりんとデートの約束をいれなくちゃいけないのです」 成功に喜び、愛する人の声を聴く、隣に寄り添う少し先の未来に心を躍らせ、そあらは携帯電話を取り出した。 軽快に鳴るボタン音は、幸せへのカウントダウンにも似て。 別の場所では、エナーシア・ガトリングが腕を組んでいた。 「場末の何でも屋になんて依頼に来るのは後ろ暗かったり他に手がなかったりする人だからリラックスさせられるような香りがいいわね」 事務所に置くキャンドルを作りに来たのだ。好きな香りであるマジョラムがあれば用いようと思っていたのだが、無いのならば仕方無いと、思案に耽る。 リラックスは勿論、余り香りが強くないものが望ましい。 (ベースはベルガモットにしようかしら) 柑橘系の香りも好きなものが多い。また、アールグレイも好むのでベルガモットはエナーシアにとって馴染み深い。問題は合わせる香りをどうするかであるが。 「隠し味的に微量のパチュリーとかかしらね。あ、店員さんのお勧めは?」 聞く所によると、何とベルガモットとパチュリーの相性は抜群であるそうだ。爽やかな前者と独特な温かみを持つ後者は上手くお互いの良い所を引き立て合う間柄であるとの事。 「香りはこれで、色は判り易くオレンジ系統にしておくのだわ」 柑橘系のイメージの、オレンジ。その中に落ちるベルガモットの香りは清々しく、爽やかに香った。 後を追うパチュリーと共に、きっとこれから荒んだ依頼人達の心を僅かながらでも癒す手助けをする事であろう。 中村 夢乃は真剣な表情で佇んでいた。 桜のイメージで、黄緑と桜色の二層にするまでは決まったが、どんな香りを閉じ込めようか、頭を悩ませる。 (……バラとラベンダーの匂いは、あまり得意ではないですし) 世間一般には定番と言われる香りだが、こればかりはどうしようもない。 しかしならばどうするか、小さく唸りながら、色々な香りを試してみて――ふと、ある精油のビンを片手に、夢乃はその双眸を丸くした。 (あ……いい匂い。クラリセージ……?) どこか懐かしくなるような、その甘い香りに、夢乃は不思議と心が和んだ。 「これと、じゃあ……ぱちゅりー? これとかどうでしょう!」 系統が似ている気がするそのビンを手に、しかし変な香りになりはしないかと、店員にチェックして貰う事に。両者の相性が良いものだと判ると、夢乃の表情もぱっと晴れる。 早速、流し入れたロウが固まる前に、クラリセージとパチュリーを数滴、落とす。初めは桜色の中に。それが固まってきたら、今度は黄緑を流し入れ、その中にも数滴。 自然の中にいるような、柔らかくも爽やかな、それでいて温かみのある香り。それが今、夢乃の手の中にある。 「……できたっ。えへへ、なんだかちょっと嬉しいっ」 自分の手で作り上げた、自分だけのオリジナル。喜びも一入だ。 柔らかく落ち着く香り。その安らぎに包まれて微睡みかける翡翠 あひる。 それでも、ふるふると頭を振り、作業に戻る。 (手作りする機会って、あんまりないから……今回は、自分のお気に入り、作っちゃう……!) 他の参加者がどんなキャンドルを作っているか、少しだけ気になって辺りを見回しながら、あひるも、世界にひとつだけの、彼女だけのキャンドルを作り上げてゆく。 就寝前に綴る日記。リラックスしながら、一日を振り返る為に。 シンプルな容器に淡い水色が満たされてゆく。秘めるのはゼラニウムとネロリ。 甘い香りとフレッシュな香りが微かに、空間を彩った。 そして、遂に、それは出来上がる。完成品に思わず瞳を輝かせるあひる。 (えへへ……世界で一つの、あひるのキャンドル……! 早速おうちかえって、使ってみよう……♪) 今日という一日を振り返るその瞬間を、今から楽しみにして。 水色のキャンドルは、大切なあの人の瞳の色。 立花・英美は、その愛しい人を脳裏に思い浮かべながら、その大好きな色を容器に流し入れた。 (本当は二人で来たかったけれど……代わりに手作りのキャンドルをあの人に。ぬこが大好きすぎて集中力がかけないように……) 離れていても、心は、想いはいつも傍に。大切なあの人の事を想えばこそ。 甘い甘いイランイランと爽快なベルガモットが、愛する瞳と同じ顔したキャンドルの中へ。 英美は、少しずつ確かに形を成していくそれに目を落しながら、思索に耽る。 (いつ、この命を散らすかわからないから) 後悔はしたくない。だからこそ。 (鳥のように生きるの、たとえ力尽きて命を落としても。自由に生きるあの人の胸に何一つ枷を残したくは無い) そう――思い出の他には、何ひとつ。 だから、生きている今の内、思い出を沢山作ろう。有限の時間は、今はまだ続いていくから。 アロマの香りに、そして隣にいる友達に、ロッテ・バックハウスと羽柴 壱也の気分はハッピー、心はドキドキ。 「アロマ沢山ですぅ! どれもいい匂いなのですぅ~!」 「沢山ある~!! 迷っちゃうね!! いいキャンドルが出来るといいなー!」 林檎のように明るい赤に、ナチュラルなクラリセージとパチュリーを封じるのは、ロッテ。 太陽のように爽やかな黄色に、さっぱり甘いパインとレモンバームを溶け込ませるのは、壱也。 お互いのキャンドルを気にしながらこっそり覗き見。けれど目が合って、顔を見合わせにこやかに笑う。 「ロッテちゃんのは赤だぁ~! かわいいなっ!」 「壱也様のキャンドルもきっととても素敵なアロマになるのですぅ!」 ややあって、二人のキャンドルも無事に完成! 容器はロッテが用意した林檎の形のガラスケース。へたの部分には壱也が用意したリボンでデコレーションして。 「ゆ、友情の証、なのです……てへへ」 「かわいい…! えへへ、お揃いだぁ!」 「完成したキャンドル、壱也様にプレゼントなのです! 今日の思い出! よかったら交換、なのですぅ!」 「交換……! 仲良しっ!! 嬉しい! これからも仲良くしてねっ! 」 それは林檎とリボンとキャンドルがより深めた、二人の絆の証。 「何を作るか迷っちゃいます……」 様々な精油のビンを前に、悩む事を楽しむ石動 麻衣。 いつもは研究室に籠りがちな彼女も、新鮮な気分でキャンドル作りに臨んでいる。 (長時間どうしても、作業をすることが多いですので、眠気解消とともに集中力向上できるものが良いですね) 取り敢えず眠気の解消にパイン。後はレモン辺りかと考えたが、餅は餅屋という事で店員に相談を。 それによるとペパーミントを主軸にレモンを添えた方が効果は高いとの事で。専門家のアドバイスは矢張り有難いものである。 予め用意されておいた容器に、落ち着いた緑を満たし、其処にペパーミントとレモンを閉じ込めて。 爽やかな香りはやがて緑の中に溶け込んで、麻衣のキャンドルが完成した。それに微かに彼女は目を細める。 「出来上がったものがどんな香りになったか、今から楽しみですね」 研究室に戻ったら使ってみよう。帰り道でより好みの容器を探すのも悪くない。 偶にはこんな日も、悪くない。 ●長閑の言葉 リベリスタ達が身を置く時の多くは、非日常。癒しの一時は、大切な時間。 「こういう配慮は助かりますね」 「私達だって女の子なのだもの。血と硝煙の匂いばかりというのもね」 ミュゼーヌ・三条寺とリーゼロット・グランシールも、喫茶店に羽休めに来ていた。 やがてミュゼーヌの注文したジャスミンティーとアロエヨーグルト、リーゼロットの注文したローズティーとハムチーズサンドウィッチが運ばれてくる。 「ゆったりできるのは久しぶりですね。最近はそれこそ血と硝煙の臭いしか嗅いでいなかったので」 落ち着いた様子でローズティーで口を湿らせるリーゼロットに頷き、ポットで花開く茶葉に微かに表情を綻ばせるミュゼーヌは、こんな提案を。 「そのサンドも美味しそうね……一口、頂いても良いかしら。代わりにヨーグルト食べても良いから。どう?」 「ふむ、お互いのを交換ですか? そちらのも美味しそうですし。良いですよ」 味わえる数が増えてお得だと肯定したリーゼロットは、しかし次の瞬間、固まった。 「ふふ、良かったら食べさせてあげるわよ。あーんで」 「い、いえ。その。自分で食べれるので……」 しどろもどろになるリーゼロット。そんな可愛い友達に、ミュゼーヌはくすくすと、悪戯っぽく笑んだのであった。 【男子会】なるものが存在するからには当然【女子会】も存在する訳で。 喫茶店に、華やかな女性だらけの一団があった。 「素敵な香りでいっぱいですね……千差万別、まるでリベリスタのみなさんひとりひとりの個性のようですね」 相乗効果があったり、打ち消し合ってしまったり。香りと人の共通点に思いを馳せながら、リサリサ・J・マルターは仲間に入れてくれた皆の姿を見渡し、穏やかに笑む。 「なんと! ハイビスカスティーを飲むのです。いろがすきなのです。はちみつ! つけるのです」 ルビー色の中に蜂蜜が溶け込み馴染んでゆく様子にイーリス・イシュターがはしゃいだような声を上げる。 蜂蜜を入れるのは、ハイビスカスティー単体では酸味が強い為である。蜂蜜を入れればそれが緩和され程良く甘みも楽しめるのだ。 「ふぅん……甘酸っぱいのね。飲んでみる?」 同じくハイビスカスティーを口に含んだ源兵島 こじりがぽつりと一言。すると雲野 杏の膝に乗った五十嵐 真独楽がぱっと晴れやかな笑顔を見せる。 「超飲んでみたかったのっ! すごくキレーだねぇ。よーし、それじゃみんなで回しっこね!」 「では、ワタシのオレンジピールティーとサンドウィッチもどうぞ」 ハーブティーや軽食、デザート等々、皆で分け合って。 「はい、まこにゃん、あーん」 ステイシー・スペイシーから回して貰ったミントアイスをまこにゃんこと真独楽の口へ運ぶ杏。至福の一時。 「ミントの風味がより体中に響いてさ・わ・や・かぁん♪ これ真夏のアーク購買部にあったら確実にリピるわぁん」 頼んだステイシー本人もご満悦。確かに真夏にこんなアイスがあったら嬉しい。 「げんきを、補充するのです。そして! もっと戦うのです」 大きな戦いの後で気が抜けたか、はいえすとねむいらしく少し微睡みつつもイーリスはクラブサンドウィッチもぐもぐ。 「美味しいモノを楽しむのも女のコの役目だよね。いただきまぁす♪」 真独楽も一緒になってサンドウィッチを頬張る。杏が幸せそうだ。 「うふふ、まこにゃんまこにゃん♪」 真独楽は可愛い。それでいて気も利く。杏的に、真独楽以上に魅力的に映る者は三高平にはいない。 (わかってる、わかってるのよ。まこにゃんまだ小学生だし、そういうのはまだ早いって。でもねぇ……) 求めてしまう気持ちは、止まらない。 「ステイシーさんは、こういう所良く来るの?」 「昼も夜もどの場所でもぉ、集って人が交わる場所はぁ、自分はとっても好ましいわぁん♪」 カフェでもレストランでも、バーでもクラブでも。 「なずなもお気に入りの美味しい香りに出会えたのなら楽しむのが一番でしょぉ?」 そう言って、斎藤・なずなに視線を向ける。すると彼女もこっくり頷いて。 「たまには女子ばかりでこうして楽しむのも華やかで良いものだな! うむ!」 が、こじりの視線を敏感にキャッチ! 「ど、どこを見ている……!?」 「何だか親近感を覚えざるを得ないわ」 胸とか胸とか胸とか。 「わ、私だって! 私だって! ううっ……」 (多分……勝ってる……多分) 鳳 朱子もクラブハウスサンドウィッチを頬張りながら、こじりやなずなの胸元をチラ見。しかし次の瞬間、口に含んだカモミールティーでむせかける事になる。 「最近、宮部乃宮くんとはどうなの? 朱子さん」 こじりの一言に。 「キス、したのかしら?」 良いものよ、中々ね――と、口元だけ微かに笑みを浮かべるこじりに、朱子は戸惑うも、答える。 「……うん。き、キスまでだけどね! たしかに……いいものだった」 始めてはバレンタインで。それから、偶に。ぽつりぽつりと話す朱子に、ステイシーも何処か嬉しそうにアイスを頬張りながら耳を傾けて。 「やぁん、なんだかアイスが甘酸っぱーいのぉん♪♪」 「ふん、そんな浮ついた話など興味……興味ないのだ!」 何だかんだ言ってなずなも興味津々のようで。 「……戦略的撤退!」 「「「あっ」」」 カモミールティーで喉を潤しながら、真独楽と春夏向けの服の話題に花を咲かせていた氷河・凛子も、咄嗟に逃亡した朱子を温かい眼差しで見守っていた。 「若い方はやはりそういうものがお好きなんですね」 朱子が逃亡した後、真独楽が語るファッションの話に相槌を打ちながら、凛子はクラブハウスサンドを味わう。 「そう言えば凛子はアロマとか詳しいのかな? 女子力アップのために色々教えてもらいたいぞっ!」 真独楽は見た目も心もオンナノコ。興味津々だ。 「アロマスティックなんかも試してみたいですね。それにシャンプーなんかでも香りの良いものは……」 ちょっと寂しそうに此方を見ている杏に苦笑しつつも、会話には花が咲く。 そんな中、リサリサは思う。 (ワタシはそっと皆さんを手助けできるような……目立ちはしないけれども対応力の高い香りになれれば) 自分でも受け入れてくれた皆に、恩返しが出来るように。 皆と一緒に、失われた自分の記憶も捜していきたい。そして思い出も作っていけたなら。 「余り人と関わるのは好きではないのだけれど、今回は企画して良かったと思えるわ。だってこんなにお茶が美味しく感じられるんですもの」 クールに、しかし確かに微笑むこじりが、僅かに喜びを声に滲ませて、そう言った。 ――逃げ込んだ本店で朱子が火車と鉢合わせるまで後数十秒。 此方は静かな一角。 エリス・トワイニングも、蜂蜜入りハイビスカスティーを楽しんでいた。 スイーツにアロエヨーグルトとミントアイスも添えて。 (たまには……こんなところで……のんびり……とするのも……悪くない) この緩やかな時間の中で、ハーブの香りに癒されながら。 リベリスタとして張り詰めた時を生きなければならないのは最早運命だ。それでも、こんな風に日常に帰れる一時が、確かにある。 ならば、否、だから、その時間を大切にしようと思うのだ。 (美味しい……ものを……食べて……また……明日から……頑張れる) 冷たい甘味と優しい香りが彼女を応援してくれているような気がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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