● 猫がほしいなって、このごろ思う。 あたしの足元で、ふわふわの白い猫が丸くなっていて。 あなたは、あたしのそばでストーブに当たりながらみかんを食べるの。 ――ねえ、それってすごく、素敵なことだと思わない? 問いかけても、あの人は部屋の片付けに夢中で。 あたしはそれを少し寂しく感じるけれど、一緒にいられるだけで幸せだと思う。 あなたがいれば、あたしは他に何もいらない。 「燃えるゴミはこっちの袋、と。やっぱ、掃除はサボっちゃダメだな。 大学の授業が始まるまでには終わらせないと……」 そうよね。授業が始まったら、あなた忙しくなるもの。 部屋の片付け、少しだけ手伝ってあげようかしら。 あたしが重い腰を上げようとした時、あの人があたしを見た。 「そういえば、もうコタツって時期でもないよな。ついでだし、こいつも片付けるか」 え、ちょっと待って。……今、何て言ったの? あたしを片付ける? ねえ、あなた本気でそう言ってるの!? いやよ。あたし、あなたと離れたくない。 あたしは、こんなにあなたのことが好きなのに。ずっと、一緒にいたいのに。 あなたにとって、あたしはもういらない子なの? ――いやよ。そんなの、絶対に耐えられない。 あたしの前に立ったあの人に向けて、思いきり布団を広げる。 驚いた顔をしたあの人の足をぐいと掴んで、あたしは彼を自分の中に引きずりこんだ。 ――あなたは、あたしがずっと守るから。だから、これからも一緒にいて。いいでしょ? ● 「E・ゴーレムになったコタツが、コタツを片付けようとした持ち主を取り込んで篭城してる」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)の言葉に、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達の何人かが首を傾げた。 今、コタツと聞こえたような気がしたが……。 思わず聞き返したリベリスタに、数史はあっさり頷いた。 「うん、コタツ。冬に入ると出られなくなるアレ」 どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。 「皆にはE・ゴーレムの撃破と、その持ち主である男子大学生の救出をお願いしたいんだが…… って、頼むからそんな顔するなよ。絵面は間抜けでも一応は真面目な任務なんだから」 困り顔で、数史は手にしたファイルをめくった。 「コタツのE・ゴーレムはフェーズ2の戦士級。エリューション化で自我が芽生えたのは最近だが、持ち主のことを何よりも大切に思っている。惚れてると言ってもいい」 コタツに性別があるのかは知らんけど、と言いつつ、先を続ける。 「冬の間、持ち主はご多分に漏れず大半の時間をコタツの中で過ごしていたし、コタツにとってもそれが幸せだった。でも、春が来て暖かくなったもんで、持ち主はコタツを片付けようとしたんだな」 ずっと持ち主と一緒にいられることを疑っていなかったコタツは、愛する人の心変わり(?)に激しいショックを受けた。 結果、ヤケを起こして持ち主を自分の中に取り込んでしまったらしい。 「基本的に、コタツは持ち主に危害を加えない。それどころか、彼に対する攻撃を自分が肩代わりして守ろうとする。戦いになっても、攻撃に巻き込んで怪我をさせる心配はないはずだ」 ただ、E・ゴーレムと直に接している以上、増殖性革醒現象でエリューション化する危険は常に付きまとう。可能な限り速やかに、持ち主を救出する必要があるだろう。 「現場はワンルームマンションの一室。少し散らかってはいるが、戦えないほどじゃない。 コタツはかなりナーバスになってるから、部屋に誰かが入った段階ですぐに戦いを仕掛けてくる」 あらゆるものが、自分と持ち主を引き離す存在に見えてしまうのだろう。 リベリスタ達の任務を考えれば、あながち間違いでもないのだが。 「戦いになれば、コタツは三体のE・フォースを生み出す。『コタツに入ってる時の幸せな気持ち』から生まれた奴らだから、みかんとか猫とかストーブとかそんなナリだが、コタツとしっかり連携を取ってくるんで油断はできない」 説明を終えると、数史はファイルを閉じてリベリスタ達を見た。 「俺からはこんなところかな。あまり強そうには見えないが、決して弱い相手じゃあない。 どうか、気をつけて行ってきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月10日(火)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 掃除が行き届いたマンションの廊下を、八人のリベリスタが進む。 此度の任務は、E・ゴーレム――革醒したコタツの撃破。 「おこたは魔物、とは思っていましたけど、ほんとにでてきちゃいましたねー」 『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)の言葉に、『メリー・メリー・クリスマス』冬童・ユキメ(BNE003710)が頷いた。 「物に命が宿るって本当だったんですね。……エリューション化ですけど」 愛する人と離れたくない一心で、持ち主をその身に取りこんでしまったコタツの心情を想い、ユキメはさらに言葉を続ける。 「好きなひととずっと一緒にいたいって気持ちは痛いほどよく分かりますが、 本当に愛してるのならその人の気持ちも大切にしてあげるべきですっ」 それを聞き、ユーキ・R・ブランド(BNE003416)が小さく溜め息をついた。 「……ぶちまけると、大人しくこたつを続けていればアークの目に止まることも無かったと思うのですよ」 思い切った行動に出た結果、排除対象になるというのも切ない話だと彼女は思う。『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が、軽く肩を竦めた。 「まぁこんな行動に出たのも大事にされた証だろうに。……何だかやり難い相手だねぇ」 「うちのこたつもしまおうとしたら反乱を起こすんじゃないかってちょっと心配になっちゃうわ……」 こたつだいすき。を自認する『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が不安げな表情を見せる中、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が全員に向けて口を開いた。 「――諸君、わらわはコタツが大好きじゃ」 仲間達の視線が集まる中、彼女は淀みなく言葉を紡ぐ。 「コタツと茶と煎餅があれば後は何も要らぬ。あの温もりの中で眠りに落ちるのは最高じゃ。 季節が巡り、春が訪れようとコタツは健在。気温が上がったら冷房を点ければ良いのじゃ。 夏になったら避暑地でコタツに当たれば良い」 さらに勢いづく瑠琵の拳に、ぐっと力が篭った。 「コタツは年中無休、コタツはこの世の楽園。 それを片付けようなど言語道断! 恥を知れ! 例えお天道様が許そうとこのわらわが許さぬ!」 瑠琵の熱弁を受けて、リベリスタ達の間に沈黙が落ちる。 ややあって、彼女は一言、こう付け加えた。 「じゃが、革醒してしまった以上は捨て置けぬ。動き回るコタツはその本懐を果たせぬからのぅ」 その言葉に、ニニギアが頷く。 「大好きな物たちだし、こたつさんけなげで戦うのは心苦しいけれど、 E・ゴーレムとなってしまったなら放ってはおけないわ」 元が何であろうと、エリューションはエリューション。 崩界を防ぐためには、これを見過ごすわけにはいかない。 瑠琵が周辺に一般人除けの強力な結界を展開し、ななせと『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の結界が、その外側を補強する。 やや時期外れとも言える冬の装いに身を固めたレイチェルを見て、ななせが首を傾げた。 「レイチェルさん、ずいぶん厚着なんですね?」 「暑くなりすぎれば炬燵のぬくもりも不快感となります。少しでも抜け出す助けとなれば……!」 どうやらコタツ対策の一環であるらしい。 一方、彼女と同様にしっかり着込んだ上、湯たんぽまで背負っている『√3』一条・玄弥(BNE003422)は、暑がる素振りすら見せなかった。 「ぼちぼちと仕事開始しようか」 渋々、といった様子で目的の部屋の前に立った玄弥は、郵便受けを探って隠されていた合鍵を取り出す。 「開けセサミーってなもんやぁ」 鍵の開く音がすると同時に、リベリスタ達は自らの力を高めて戦いに備えた。 瑠琵の召喚した式神“影人”が、ユキメをいつでも庇えるように彼女の傍らに寄り添う。 ユキメは礼を言った後、一つ深呼吸をして気を落ち着かせた。 これが、アークのリベリスタとして彼女の初仕事になる。 自らの頭脳を超集中状態に高めたレイチェルが、仲間達に合図すると同時に部屋の扉を開けた。 ● リベリスタ達が踏み込んだ瞬間、部屋の中央にいたコタツがびくりと反応する。 すっぽりと布団に取りこまれ、頭だけを外に出して気絶している持ち主の体をぎゅっと抱き締めると、コタツは三体のE・フォースを生み出した。まるで、二人の時間を邪魔するものは許さないとでも言うように。 それを目の当たりにしたレイチェルは、まともに争えば苦戦は必至と気を引き締める。 「入った者を出られなくする炬燵の魔力。恐るべきその力と、まさか戦う事になるとは……」 彼女は出現した三体のE・フォースのうち猫に狙いを定めると、気糸の罠を展開してそれを絡めとった。 最適化した反応速度をもって壁を素早く駆け上がった喜平が、天井を足場に大型の散弾銃を構える。 狙いはコタツ、温い奴。 「好きなのは分かるが、駄目だよ無理強いは」 彼は両手に構えた散弾銃を打撃武器として扱い、光の飛沫を散らして無数の打突を繰り出した。 天板にいくつもの傷が刻まれ、布団から綿が飛び出す。 しかし、コタツは主人への愛をもって魅了に耐えた。 ――いや、来ないで! コタツが激しく回転し、布団が喜平を打ち据える。 中に捕らわれている持ち主が酔うんじゃないかという回転数だが、深く考えてはいけない。 「じゃんじゃかいっくでぇ~」 漆黒の闇を纏って暗黒の瘴気を撃つ玄弥に続き、周囲の魔力を取り込んで自らの力を高めたニニギアが魔方陣を展開する。 「くっ……猫かわいいけど、おみかんおいしそうだけど、仕方ないのです……。ごめんね」 自らの想いを振り切るように放たれた魔力の矢が、気糸に縛られた猫を射抜いた。 身に纏う闇と同じ色のロングコートを靡かせ、ユーキがみかんのE・フォースに迫る。 「ともあれ放置は出来ませんので、ね。大人しくなって頂きましょう」 射線を意識して己の位置を定めた彼女は、暗黒の瘴気で猫とみかんを包んだ。 みかんが自らの皮を絞って汁を飛ばし、ストーブが己の体内を燃やして暖気を漂わせる。 瑠琵はニニギアの前に立ち、回復の要たる彼女が状態異常に陥らぬよう庇った。 後方で“影人”に護衛されるユキメが、自らの魔力を天井へと放つ。 「次の冬が来たら、きっとまた一緒に居られたのに……。 ……でも、私達は倒さなきゃいけないんですよね」 全てを凍てつかせる氷の雨が、頭上からコタツやストーブたちに降り注いだ。 コタツが一瞬怯んだ隙に、ななせがコタツに接近する。 彼女はコタツの注意を惹くべく、オーラを纏わせた武器を大きく振りかぶった。 “Feldwebel des Stahles(鋼の軍曹)”と名付けられた巨大なハンマーが、コタツの天板に叩き付けられる。 ――あんた、あたしとこの人の間を引き裂くつもりね!? ヒステリックに叫ぶコタツを巻き込んで炸裂したレイチェルの神気閃光が、全ての敵を焼き焦がした。 壁や天井、時には眼前のコタツすら足場に使って自在に動き回る喜平が、至近距離からコタツに打撃の嵐を浴びせていく。今や純粋な鈍器と化している散弾銃のトリガーに、指はかかっていない。 (ご近所迷惑になりそうだし、流れ弾で壁が砕けたりしたらな) それは、家主に対する喜平のせめてもの気遣いだった。 リベリスタ達の攻勢に業を煮やしたコタツが、一瞬のうちに力を溜めてそれを解き放つ。 冬の寒い日に人を魅了してやまない、ぬくぬくとした幸福感が、リベリスタ達を包み込んだ。 瑠琵と“影人”に庇われたニニギアとユキメを除く全員が、その恐るべき魔力に囚われる。 「みんな、しっかり! かわいいけど、きゅんきゅんだけど、でも戦わなくちゃっ。 もふもふぬくぬくしたい気持ちに打ち克つのです!」 ニニギアのブレイクフィアーが、すかさずコタツの魔力を打ち払った。 回復役と、それを守る盾が機能している限り、恐れるものはない。 彼女らに背中を支えられたリベリスタ達は、堅調に攻撃を加えていった。 瑠琵と“影人”に礼を言ったユキメが、魔方陣から魔力弾を放って猫を撃つ。 魅了という恐ろしい能力を備える猫も、レイチェルの気糸に封じられては手も足も出ない。 苦戦する仲間を援護するが如く、みかんがユーキの目の前でうず高く積み上がり、彼女を飲み込もうと雪崩を打って押し寄せた。 「……敵と闘っている気が致しませんねこれ! やる気を削ぐ事この上ない!」 周囲を埋め尽くす無数のみかんを槍で払ったユーキが、眉を寄せつつ声を上げる。 反撃とばかり放たれた暗黒の瘴気がE・フォースたちを捉え、猫を消滅に追いやった。 ――あたし達の幸せを邪魔しないでちょうだい! 怒りを込めて飛来する天板を、ななせが鋼の鉄槌で防ぐ。 攻撃を受け止めた両腕に、強い衝撃が走った。 彼女がコタツの注意を惹きつける隙に、リベリスタ達は残りの敵に狙いを定める。 二体目の“影人”にニニギアの護衛を引き継がせた瑠琵が、小鬼を従えてコタツに視線を向けた。 「――さて、ぼちぼち働くとするかのぅ」 あえてコタツに囚われた持ち主を狙い、束縛の呪印を結ぶ。 持ち主を庇うコタツの特性を利用し、これを縛ろうという狙いだったが、呪印はそのまま持ち主を絡めとった。 「ふむ、ダメージを伴わぬバッドステータスは肩代わりしないようじゃな」 ならば、コタツを直接狙うまで。 レイチェルが、気糸の罠でコタツを縛り上げる。 二人がかりでコタツを封じる間に、リベリスタ達はE・フォースに集中攻撃を加えていった。 どこか名残惜しそうにみかんの山を見つめるニニギアが、魔力の矢でこれを撃ち倒す。 直後、ストーブの暖気に包まれた玄弥が罵声を上げた。 「あついんじゃおどれは!」 怒りを込めて叩き付けられた暗黒衝動のオーラが、ストーブを貫く。 どちらかと言えば、暑いのは湯たんぽと厚着が原因な気もしなくもないが……。 逆切れに敗れたストーブは、儚くその身を散らせて消えた。 ● 三体のE・フォースを悉く失ったコタツは、束縛から逃れると死に物狂いの抵抗を始めた。 再び放たれたレイチェルの気糸、喜平の大型散弾銃から繰り出される打突の乱舞を驚くべき幸運で潜り抜け、布団を激しく振り乱す。 両手の鉤爪を赤く染め、ちゃっかりコタツに潜り込もうとする玄弥を跳ねのけると、コタツは渾身の力を込めて彼に天板を投げた。 ――来ないでって言ってるでしょお!! 玄弥は辛うじて爪で天板をいなし、直撃を避ける。 「ダイナミックやのぉ」 続けて、高速で回転する布団が、彼とななせ、喜平を打った。 それを見た瑠琵が、鴉の式神を放ちながら声を上げる。 「ええい、中に冷気が入る! 動くでないわ!」 ニニギアが癒しの福音を響かせて仲間達の回復を担う中、ユーキが自らの痛みを呪いへと変えてコタツを撃った。魔方陣から飛び出したユキメの魔力弾が、すかさず追撃を加える。周囲を巻き込んでしまうフレアバーストは、今回は使わない。 E・フォースの全滅を見届けて攻勢に転じたななせが、“Feldwebel des Stahles”に輝くオーラを纏わせてコタツへと振り下ろした。 「アナタの気持ちはわからなくもないけれど――」 わさわさと布団を揺らして必死に動き回るコタツを眺め、レイチェルが赤い瞳をわずかに細める。 いかに別れが辛くとも、我慢して次の冬まで待っていれば。 きっと、また一緒に過ごす事ができたはずなのに。 「……アナタはやってはいけない事をやってしまった、もう次はありません」 ありとあらゆる状況を計算する卓越した頭脳が、コタツの動きを完全に見切る。 最高の命中プランに導かれたオーラの糸が、コタツをがんじがらめに縛り上げた。 ――いや、いやよ。彼だって、あたしと一緒にいて幸せだって言ってくれたのに! 「こたつに潜っておみかん食べながらぬくぬくする身も心も暖かな時間、すごくよくわかるわ。 でも、それは冬限定のプレミアムな幸せなの」 神聖な光を輝かせて仲間の重圧を払うニニギアが、駄々をこねるコタツに声をかける。 コタツの愛する彼が、瑠琵のように「コタツは年中無休」と言い切れたならば、また話は違ったのかもしれないが……いずれにしても、もう遅い。 「あなたが普通のこたつじゃなくなっちゃった以上は、私たちはあなたを倒すけど。 でも、こたつだいすきよ……!」 動きを封じられたコタツに、重圧から解放された喜平が迫った。 天井や壁を蹴り、三次元の機動でコタツに襲い掛かる。 「こたつよ! お前は愛おしい、愛おしい故に俺は御前を越えて明日へ行く!!」 かれこれ二十数年、この時期になると毎回こんな調子で部屋の模様替えをしている気がするが――そんな私事はさておき。 喜平は己に宿す運命を滾らせながら、武骨な大型散弾銃を振るった。 大雑把なようでいて芸術的に狙い澄まされた打突の嵐が、華麗な光の飛沫を伴ってコタツを激しく抉る。 衝撃に身を浮かせるコタツに、今度こそ玄弥が滑り込んだ。 「炬燵に入ったままでもちくちくとするぐらいはあっしにもできやすんでぇ」 赤く染まった鉤爪が、コタツを内側から貫く。 “天元・七星公主”を構えた瑠琵が、その弾丸を憑代に式を打った。 姿を現した鴉の式神が、宙を駆けて布団の破れ目を鋭い嘴でついばむ。 ――何するのよ! ひどい、ひどい、ひどい!! 怒り狂うコタツに、ユーキが禍々しい黒の輝きを帯びた槍を突き出した。 仲間の手で積み重ねられた状態異常が、告死の呪いとなってコタツを襲う。 コタツが体勢を崩したところを狙ったユキメの魔力弾が、さらに傷を広げた。 ななせが、両手に構えた“鋼の軍曹”に全身のエネルギーを集中する。 「そろそろ暖かくなってきましたし、おこたはしまわないと、ですねっ!」 渾身の一撃が、コタツを天板ごと打ち砕いた。 ● 力尽き、動かなくなったコタツの下で、持ち主の男子大学生はまだ気絶していた。 ななせは持ち主をコタツから引っ張り出し、彼が風邪をひかないようにと毛布をかけてやる。 あれだけ戦いの中で激しく振り回されたら気分が悪くなりそうなものだが、コタツはその中でも愛する人を完璧に守り通したらしい。彼はそのまま眠りに入ったらしく、寝息はいたく健やかだった。 「こたつ……やっぱり恐ろしい敵ですね……」 コタツの執念を想い、ななせはしみじみと呟く。 「これまできっと、たくさんの幸せな時間を持ち主さんにあげてきたのね。本当にお疲れ様」 ニニギアが物言わぬコタツを撫でると、ユーキが「なむあみだぶつ」と両手を合わせた。 「次に生まれ変わってくるときは、もうちょっと落ち着いたこたつになるんですよ……」 無事に戦いを終えたリベリスタ達は、持ち主が目を覚ます前に部屋を片付けていくことにした。 部屋に目立った損傷がないことを確かめた喜平が、ほっと胸を撫で下ろす。 「ほら、彼は学生だろ? ……部屋が壊れたら修繕費で泣くかも知れない」 万が一、部屋が残念な有様になった時はアルバイト情報誌を置いて帰ろうと考えていたが、どうやらそこまでの心配はいらないようだ。唯一の物的被害であるコタツについては、レイチェルが代わりの物を用意している。しかも、未来視の情報を元に、可能な限り同じ形、同じ柄のものを選ぶという念の入れようだった。 もともとコタツがあった場所にそれを設置し終えて、レイチェルは眠る持ち主を見やる。 できれば、彼が目覚めた時、全てはコタツが見せた夢と思ってくれるようにと祈った。 「……ウチの炬燵も、いい加減片付けないといけませんね」 誰にも聞こえないほどの声で呟くレイチェルの傍らで、瑠琵が壊れたコタツを回収する。 周囲に飛び散った破片と一緒に、しっかり供養してやるつもりだった。 「これからも物を大切にしてあげてくださいね」 部屋の片付けを終え、眠り続ける持ち主に向けてそっと声をかけたユキメが、ふと顔を上げてつぶらな赤い瞳を見開いた。 玄弥が新品のコタツに入り、ちゃっかり暖を取っている。 「炬燵は冬の聖域でさなぁ」 皆の視線が集まる中、玄弥は蜜柑と餅があればええんやけどなぁ――と言って、ひらひらと手を振った。 「若いもんは風の子やろ、外へいけ外へ! 炬燵の聖域はあっしのもんやぁ!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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