● そいつは、部屋の隅にうずくまっていた。 「実家に、故郷に、帰りたくない……?」 外れかけたバレッタから、長い前髪がこぼれて顔にすだれのように落ちていた。 指の先はインクに汚れ、爪は二枚爪になっている。 「もう疲れた。あんなアパート、うちじゃないよ。コンビニ飯じゃないご飯が食べたい……お母さんの味噌汁、飲みたいよ」 目薬のさし過ぎで、目のふちが赤くなった目。 表面がでこぼこの肌は、息苦しくなるくらいファンデーションとコンシーラーで固められている。 「残業、やだよ……。伝票待ちで、会社にすることないのに、いるのやだよ。強制出席の飲み会もやだよ。定時で帰りたいよ。休日出勤、したくないよ……」 ストッキングには穴が空いている。 制服のお仕着せブラウスの袖口はカーボンでこすれて黒くなり、スカートは着古しすぎて、テカテカだ。 「ねえ、会社、やめたいよね!? 故郷に帰りたいよね!?」 「いや、べつに」 そう答えた瞬間、顔を真っ黒に塗られた。 洗っても洗っても、落ちなかった。 ● 「みんなも親元や故郷を離れて単身三高平に来てる人も結構いるよね……」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、しみじみとそう言った。 「そういう人たちばっかりの街で、『仕事投げ出して、実家に帰りたい』 そんな心が吹きだまった。E・フォース、識別名『ホームシック女』」 正確に言うと、ホームシックにかかったのに、帰ることができなかった女。 「戦闘能力自体はたいしたことない。すごく弱い。ただ、めんどくさい。話しかけられると、無性にふるさとに帰りたくなる。まともにくらうと、戦闘区域からの離脱したくなる誘惑は筆舌尽くしがたい。ある程度距離を離れれば解除されるけど、そこから戻ってくるのに移動ロスが生じる。本人の強い意識である程度は抵抗できるから、気をしっかり持ってね」 俺は、ふるさとには帰らない!と、激しく主張するといいらしい。 「めんどくさいことそのニ。抵抗に成功すると、特殊攻撃『らくがき』にかかりやすくなる」 は? どういうことですか? 「顔に、ランダムにろくでもない落書き状の黒あざが発生し、最終的には顔面が真っ黒になる。ぬられるとダメージも入るし、気分的に無力感がどーっと――」 ほっぺたにバカとか、鼻の下にひげとか、半分だけ真っ黒とか。 どうして? どうして、そんなひどいことするの? 「自分が克服できないことを克服してる奴には、嫌がらせする性格」 ネガティブだ。 「倒せば、消えるから」 というか、と言って、イヴは顔を背けた。 無表情に同情の影が落ちる。 「倒さないと、しばらく落ちない」 ぎゃー!! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月11日(水)22:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「帰りたいのに帰れない……同情できる部分も多々ありますが……様々な人に迷惑をかけている以上、リベリスタとしてしっかりとお仕事させていただきます……」 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)には、故郷の記憶がない。 (帰るべき場所…ワタシはそれを覚えていない。未だに名前以外を思い出そうとすると頭の奥の奥、芯の部分がズキンと痛みます……) いつか、痛みを乗り越えた先の記憶を取り戻したい。 でも今は。 (思い出せない故郷を用いた攻撃などワタシには通用しませんっ。ならばワタシは盾になります。 皆さんを精神攻撃から守る強固な盾に……) そう心に決めた。 防護の加護が、前を行く『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)へかけられた。 (……少しでも負荷を軽減できれば良いのですが……) 暗闇に目を慣らすため、アカリを持たず、レイラインの懐中電灯を目印に動く。 『三つ目のピクシー』赤翅 明(BNE003483)は、懐中電灯をつけて、暗い部屋の中をぐるりと見回した。 「うわあ」 我知らず、やたらと低音の悲鳴が口をついて出た。 暗がりで体育座りの人を取り囲んで懐中電灯当てるっていうのは、そこにいるって分かっててもかなり怖い。 しかも、人じゃない。 E・フォースだ。 外れかけたバレッタから、長い前髪がこぼれて顔にすだれのように落ちていた。 取れかけたパーマ。 染めに行く暇がなくて、髪の明るい部分と黒い部分がプリンを想起させる。 指の先はインクに汚れ、爪は二枚爪になっている。 カリカリと膝を掻く仕草は、ネイルアート、なにそれ美味しい? 状態だ。 目薬のさし過ぎで、目のふちが赤くなった目。 表面がでこぼこの肌は、息苦しくなるくらいファンデーションとコンシーラーで固められている。 制服のお仕着せブラウスの袖口はカーボンでこすれて黒くなり、スカートは着古しすぎて、テカテカだ。 部屋の隅から失礼します。 いつもお世話になっております。 私、「ホームシック女」 もう職場の辛さに疲れ果て、荷物まとめて実家に帰りたいけど様々な事情で帰れないいろんなOLの想いが集まって生まれたの。 帰りたい。 実家に帰りたい。 帰りたい、よね……!? 「えーっと、お、お弁当食べる?」 明の胸にこみ上げてくる、交なんだか熱いもの。 (何かさ、何かさ、いきなり攻撃するよりも、相談に乗りたい気分になっちゃうんだけど何だろこれ。 こんな特殊能力聞いてないよ?) だけど、口が動く。 「故郷かあ。帰りたいよねっていっても、明は実家住まいだから……明のお家はね、お庭半分を家庭菜園に使ってるの。毎年イチゴを育てるんだよ。市販みたいにおっきくならないけど、甘酸っぱくておいしいんだー」 ホームシック女の顔から険が失せ、うんうんと頷きながら聞いている。 明のおうち語りが止まらない。 「――オヤツにそのままぱくっと摘まんだり、いちごおはぎにしてみたり、縁側で日向ぼっこしながらだともう最高だよ」 明はくるりときびすを返した。 「「「えっ?」」」 後衛の皆さん、こんばんは。 というか、明本人が一番びっくりした顔をしている。 「無性におばあちゃんのお膝に甘えたい……!」 この沸き立つ想い。 人、それをこう言う。 郷愁。 明、ダッシュ!! 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が、身を張って押し止める。 俗に言う、がっぷり四つ。 (メンドクサソウナ敵ですね。性格も悪そうですし) 故郷、万歳! と、明の肩越しに万歳しているホームシック女から明に視線を移す。 標準よりやや低めのエーデルワイスだが、明がかなり低めなので体格負けはしていない。 「待って待って! お仕事投げ出して帰るのは! 許してくれるけど! でもでもションボリされちゃう! 踏み止まって、明の足!」 理性と情動が背反二律。 後は意志の力で振り切るしかない。 しばしの力比べが必要だった。 「残念な格好しやがって……目元ひんやりパッドとかあるだろうが! 目に優しくない事務職は去れ!」 面屋なんて浮世離れした商売をしている割には、『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)は所帯じみている。 「コンビニ飯がヤなら手を加えろ! 一手間かければ違うだろうが、飯は!」 やだぁい。お母さんが炊いた地元のお米のご飯が食べたいんだよぉ。 油で照りだしてるご飯なんてお茶漬けにも出来ないし、自分で炊くと余っちゃうし、冷凍したのはくさいんだよぉ。 ぼそぼそとホームシック女が反論する。 相手は、E・フォース。届かないの前提ではあるが、言わずにいられない。 「社畜を舐めるな。そんなもん慰めにもならんくらい常識だ。マジックアローと一緒に教育してやる」 ……冥真さん? 前に、何か、辛いことでもあったの……? ● 「ホームシック……?わらわには全く持って関係の無い言葉じゃな」 (そもそもホームシックというのは【変化した環境を楽しめない状況】じゃ。わらわはこの三高平での生活を心から楽しんでおるし、街にも溶け込んでおる。……おるよな?) レイラインは、いうなれば「ホームフォビア」、その心は、意地でも実家に帰りたくない。 (……決して覚醒前の枯れた老後ニートに逆戻りしたくない、とか、そもそもこの姿で実家戻っても誰もわらわじゃと分からない、とか、そういう理由じゃ無いからのう! ほんとじゃぞ!!) このこみ上げてくる涙をどうしたらいいの。 キョニウロリだが、先日還暦ダブルピースの偉業を達成したばかりである。 普通に、ばーちゃん呼ばわりである。 それでも受け入れてくる三高平を去れようか!? 否! 否である。 (そもそも、故郷に帰るという感覚がよく分からんのだが……まぁ、実感している者もいるようなので、敢えて言う事でもない) 『悪手』泰和・黒狼(BNE002746) は、世界中を転々として過ごしてきた宿無し無頼。 いった場所が全て故郷、あるいは故郷ではない根無し草だ。 「取り敢えず、力ずくででも前を向かせるか」 結果消し去る事にはなるが。 それが人ならば、それも出来たかも知れない。 しかし、E・フォースは「それ」で出来ている念積体だ。 向くべき前などない存在なのだ。 (まず、かえりたいよね、と同意を求める形なのが気に入らん) 黒狼、独立独歩。 「……自分が帰りたいなら、そう言え」 (後ろ向きな事が悪いとは言わん。前向きな事に魅力が多いだけなのだから。だが) 「流浪者をなめるな。過去に現在、どちらがどれだけ劣悪でも、またどれだけ満ち足りても。歩みを止めぬ事こそが矜持……!!」 言い切った。 言い放った。 そして。 「現状に不満を抱きながらも、結局動きすらしなかった者の弱音など……聞く耳持たん!」 一刀両断。 にべもないとはこのことだった。 (ホームシック……ですか。そういえば、わたくしも似たような環境ですわね。懐かしいですわ……。 欧州は今、どうなっているのでしょうか。アークの仕事が忙しいせいか、なかなか故郷に帰ることもないですし……) 『Knight of Dawn』ブリジット・プレオベール(BNE003434)の目が、一瞬祖国の風景を思い出す。 そろそろ日本に来て三、四ヶ月。 里心がついてくる時期だ。 (おっと、いけませんわ) ここでうっかりうんと言っては、下手するとドイツ直行便に飛び乗ってしまう。 「わたくしは帰らない、帰りませんわ!」 豆腐メンタルだろうと、譲れるものと譲れないものがあるのだ! ホームシック女が顔をゆがめる。 眼のふちに盛り上がる涙。 こいつらもそうだ。 間違いなくそうだ。 喉も張り裂けんばかりに絶叫する。 「ばああああああああああ、かああああああああああっっ!!!!!」 黒いあざが三人の顔に浮かび上がる。 それを見たリベリスタは、ひっと息を呑む。 三人には見えていない。 言ってはいけない。 間違っても吹き出したりしてはいけない。三人が傷つく。 レイラインのでこには、丸いぶち。 黒狼には、額にでかでかと「ワンコ」 ブリジットのほっぺには、「どりる」 (ああ、どうか、互いの顔を見交わしてくれるな) 後衛達は、本気でそう祈った。 しかし、互いの顔は見えるのだ。 そして、夜の窓ガラスは鏡のように前衛の姿を映し出した。 「ぐぬぬ……わたくしの顔を汚しましたわね!?」 ブリジットの絶叫が、部屋の中に響いた。 いや、問題はそこじゃないと、リベリスタは無言で突っ込んだ。 ● 『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は、完璧だった。 (私が帰りたいのはお兄ちゃんのところ。そして今、お兄ちゃんの心は私と共にあるっ。即ち私のいるこの場所こそが、私にとっては故郷そのものなんだよ!) 一心同体。 たとえ理解できなくても、そこにいるといったらいるのだ。 それが、ブレイン・イン・ラヴァー。 強力な自己暗示の元、虎美は常に地元民。 戦場からの離脱だけはありえなかった。 (――おはようからおやすみまで一緒だよ。それにしてもホームシック女の帰れない事情って何だと思う、お兄ちゃん?結婚について言われたりするから帰りづらかったりするんだろうけど、むしろいい人を見つけるチャンスだと思えばいいのにね-。あぁ、ごめんごめん、余計なこと言ってないで早く済ませないとね。待っててね、お兄ちゃん!) 全てはお兄ちゃんといちゃつくため。 可及的速やかにお仕事を済ませるため、二丁拳銃がタタン、タタンと小気味良い銃声を上げる。 「かえりたいよね~?」 体に穴が空いても、じわじわとリベリスタとの距離をつめてきているホームシック女は、レイラインと黒狼、ブリジットに阻まれている。 顔の落書きは、徐々に面積を増していく。 レイラインのほっぺたには三本ひげ絶賛侵食中。 黒狼の鼻の下にはちょび髭。あごひげ絶賛侵食中。 ブリジットのほっぺは、ぐるぐるほっぺだ。ドリルだけに。 三人の顔が真っ黒になったら、ホームシック女は溜飲を下げて消えてしまう。 仕切りなおしは真っ平だった。 「ええい、体力馬鹿じゃな、その様子じゃと!」 猫の手グローブを装着してバスタードソードを振り回すレイラインは、速度を武器に動く剣士独特の動きを見せる。 速度を上乗せして叩き込まれる蛮刀が、お仕着せブラウスとベストを立ち割る。 割れた体の断面から、だらだらと、「帰郷」という言葉の羅列が体液のように流れ出てくる。 見ているとゲシュタルト崩壊しそうだ。 「気を強く……リベリスタの精神力の強さ、今こそ見せ付けましょう」 明のおうちに帰りたい力は、時間に比例して大きくなっていた。 エーデルワイスをひきずり、リサリサの説得にも耳を貸さない。 「しっかりしてくださいませ! ここは戦場ですわよ!」 明をがっくんがっくん揺さぶっていたブリジットが、郷愁の渦に巻き込まれた。 (いえ、わたくしは帰りませんわよ。帰りませんったら) 「かえりたいよ、ね~!?」 ふとした心の隙間に、忍び寄る。 「アークの居心地は良いですが……」 ブリジットがぽつんと呟いた。 それでも、恋しい。 「たまには故郷に帰りたいですわー! うわーん!」 明を押し止めていた手がするりと落ち、涙ッシュで部屋のドアを突き破るべく全力移動! 「皆さん、お気を確かにっ惑わされてはいけませんっ」 リサリサ、ダイブ! そこに、正気を取り戻した明がタックルをかました。 「捨てないでー! 君が居ないと1秒だって生きていけないよ!」 ……え? 全員の動きが、ホームシック女も含めて、一瞬止まった。 「いや、何となく」 明は、突発的に口をついて出た自分の台詞にフォロー。 ああ、よかった。 ブリジットにドラマ始まったのかと思った。 「帰りたい……よね?」 さっき実家話してくれたから、再度明に迫るぞ、ホームシック女。 「ええっと、ほらっ。すぐ順応できないことは恥ずかしくないよ! 順応した人の余裕は、君みたいに精一杯の子を受け止める為にあるんだ。勇気出して寄りかかっちゃおうよ!」 残念。 これが人間相手だったら、ありだったかもしれない。 しかし、ホームシック女はあくまでE・フォースであり、改心などしようもないのだ。 「ばかぁ」 しゃくりあげるホームシック女。 明のおでこの赤い球の上のほうに、少女マンガチックなまつげの落書き。 押さえつけてるブリジットの目の中に写る自分を見て、その肩が震える。 「これで、しょげどりんになると思ったら大間違いだよ!」 (ブリジットさんが正気に戻ったら、呪印封縛するし!) 明は、ムキーっと奇声を上げた。 ● すでに、落書きの進行状況は目も当てられない粋に達しようとしている。 黒狼の落書きは、連結され泥棒ひげと化していた。 レイラインは、目のぶちがつながって、狸になった。 明の目は三つ目通り越して、百目になっている。 「はっ……わたくしは一体なにを」 生暖かい空気で察してください、ブリジットさん。 ちなみにおでこに、「裏切り者」と書いてある。 事態把握まで、0.2秒。 「――帰るべき場所へと帰りなさい!」 猛毒射出術式を編んで、ホームシック女に叩きつける。 「ムキーッ!」 手が空いた明、有言実行。 ホームシック女の周りに幾重にも呪印を展開させ、檻の中に閉じ込める。 ホームシック女は、まごまごしている。 ざます眼鏡の落書きされた冥真は、笑顔を見せた。 目は笑ってない。 「そもそも俺は10年近く家と疎遠だし。半分死んだものとして扱われてるし。そりゃ行方不明者になったけどちょっと早とちりしすぎだと思うんだよ。そんな実家に帰るとかありえん」 なんて、手の中でずおおおおおって大きくなっている。 「ちょっと辛いぐらい普通だ。実家を出たんなら、覚悟しなきゃならん。寧ろ、家を出た時点でその家にとって死んだ、ぐらいの覚悟をしたほうがいい。長男でなきゃ戻らんのだろう。そんなの、絶縁と何が違うよ?」 冥真、有言実行。 魔法の矢に手の魔法言語による教育。 おうちに帰りたい人がいなくなったので、ようやく得物を手にすることが出来たエーデルワイスの笑顔がまぶしい。 「帰る……ね。私には帰る故郷なんてないんだけど……」 ジャキン。 引き金を指で引き絞れる幸せ。 「別に帰る気はないですよー。今この町にいることのが有意義ですし。貴方と違って私はしっかりとやることあるもの。帰るなんて随分と暇そうでいいですねぇ」 あははははははっはっはあははははははあhhhっは。 哄笑と共に、放たれる魔弾がホームシック女を穿つ。 「痛みよ、怨嗟の力となりて我が敵を穿て。落書きした罪は重いわよ……死刑ね」 エーデルワイスのほっぺたの、右に「三」、左に「下」 虎美は、レイラインの背後にこそこそ隠れながら、精密射撃を繰り返していた。 「おばあちゃんの盾!」 だが、かばってくれないので役に立たなかった! 虎美のおでこには、「兄馬鹿」と書いてある。 「真っ黒にゃぎゃー!!」 レイラインの怒りは計り知れない。 「シミになったらどうしてくれるんじゃこのー!!」 レイラインは、自分の肉体を持ってシミの恐ろしさを知っている。 たすけて、トラネキサム酸。 「――絶対、絶対、絶対、帰らん!!」 即席黒猫女と化したレイラインは、止めの一撃をホームシック女に叩き込んだ。 ● ひしゃげたバレッタ。 床にわだかまったちぎれた制服。 突っかけ健康サンダル。 黒い粒子が天に昇って消えていく。 リベリスタ達の顔を真っ黒にする寸前だった落書きは、天に昇って消えていった。 「帰ってもいいと思います…待っている方がいるのであれば…」 「わすれんぼ」と書かれていたほおを無意識で触りながら、リサリサは小さく呟いた。 ずきんと頭の奥が痛む (先ほどの攻撃された時に何か……何かが……見えたような気が……。ワタシはきっと取り戻してみせます……ワタシ自身の手で。ワタシの過去を……必ずいつか……) 「…………呑みにでも行くか?」 黒狼は、倒してなお気を吐いている仲間に、そう声をかけた。 (荒れている者の愚痴を聞いてやるくらいは、してやるか) 急いで家路につく者、今日は帰り難い者。 故郷は、ときに近く、ときに遠い。 けれど、三高平は移民の街。 リベリスタ達の無事の帰りを待っている。 どうか、それだけは覚えていて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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