●アレだよ、北あたりの年中行事 桜の季節である。と、思う。 開花前線? まだ桃? 大丈夫、静岡でも咲き始めらしい。 花見客がぼちぼち散見されるようになり、その中でも地方色というものがあるわけで。 「え、先輩それなんですか? 鍋?」 「使い捨てのジンギスカン鍋だよ、お前知らない?」 「花見でジンギスカン鍋とか初耳なんですが……」 「そうかァ? うちの地元では定番なんだけどなぁ」 「初耳ですよそんなの……場所取り的に大丈夫なんです?」 「大丈夫大丈夫、去年もやった!」 「マジすか」 そんなわけで、静岡某所。 そこそこ桜の蕾が開いたそこでは、せっせと花見の準備をする新入社員と先輩社員の姿があった。 何故かジンギスカンの用意が周到なのは、この先輩社員がそっち方面出身だからだろう。 去年がどうだったかは、流石に知ったことではないが。 そして、そんな二人を木の影から観察しているカラス達もまた、例年のこと。 そして肉とか野菜とかツマミの争奪戦が繰り広げられるわけだが……。 ただひとつ例外があるとすれば、今年のカラスは『普通ではない』、ということか。 ●花見ジンギスカン(カラス乱戦オプション) 「この映像から二時間後くらい、ちょうど昼にさしかかった頃、彼らを始めとする有名商社の社員二十名程がエリューションに襲撃され、半数以上が死亡する、という旨の予測が立っています。君達には、そのE・ビーストの撃破をお願いしたい」 背後の映像に視線を向けつつ、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は端的に依頼内容を述べる。花見には些か早い時期だというのにこの不幸。やるせない気がしないでもない。 「対象のE・ビーストは三体、何れもフェーズ1であり、嘴と爪、鳴き声の三通りの能力を有しています。出血やブレイクを伴う攻撃もありますが、総合力では余り脅威ではないでしょう。懸念があるとすれば、当該地点の場所取りなどですね。当該エリューションは、どうやら肉類に反応して対象を襲撃しているフシがあるので、花見の準備もしていったほうがいいのかも知れません。で、その肉類なんですが――」 「……ジンギスカン鍋じゃなきゃ駄目とかそういう?」 「割とその通りです」 「何だよ花見ジンギスカンって。初耳だぞ」 「円山公園じゃド定番だそうですが」 「ここは静岡だ」 「静岡ですね」 どうやら、弁解する気も無いらしい。レッツ花見ジンギスカン。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月13日(金)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●花見戦士たちの朝、というか深夜 花見戦士の朝は早い。 だが、静岡の平均日の出時間(四月)を鑑みるならば、その男達の到着は些か早かったといえるだろう。 明け方というにも速すぎる午前三時。 「悠里、夜桜も楽しもうぜ! 桜吹雪!!」 「酒も無駄に十分持ってきたし、ここからは大人の時間だな!」 親友である『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)の大ハッスルぶりに引っ張られるようにして、『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が両手に携えた日本酒を持ち上げて威勢よく叫ぶ。 日の出に至るまで未だ時間は十分にある。春風ではあれど、夜風は下手をすれば体に障る。アウラールが缶コーヒーを悠里に差し出し、少し眺めよう、などと。 傾いた月がわずかに桜の間から見え、夜桜に一層の艶を与える。ジャパニーズ風流? イエス。 まあ、花より団子とかお酒とかよく言う。一般人を遠ざける体勢を整える前に、まずは駆けつけ三杯とでもいうところか。……おさけは適量をたしなみましょう。 「花見♪ 花見♪」 「妙に早かったッスね……そんなに花見が楽しみだったッスか?」 一方、男二人がのんだくれている(推定)時間帯から弁当の準備を始め、鼻歌交じりの勢いで『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)の元へ向かった『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)は何時にもまして挙動不審だった。常々仲間内でもその立場が色々とアレな彼女がそわそわしている様子は、彼女に一種の警戒を抱く計都にとっては少々厄介に感じられないこともないか。 「全然楽しみじゃないけどね! 依頼だから! 依頼だから仕方ないのね」 「……? そうッスか……?」 しかし全力否定。ここまで露骨かつ全力だと気付かないのは、マナーなのか……わからないものである。 「モノを食べる時はね、なんというか救われてなきゃあダメなんですよ……」 幌に包まれた後方の荷台でそんなことをのたまうのは、『アイソレイティッド』斑鳩・洋子(BNE001987)。ぶっちゃけその台詞はぼっちフラグが立ったおっさんの台詞であり、下手すればアームロック(神秘)の使用を強要される可能性もある諸刃の刃である。それ以上はいけない。 「夜ご飯と朝ご飯抜いて、お腹を万全の体制にしておいたわ。飢えたあひるは、ちょっと凶暴よ」 両手にジュースの袋を携えて現れたのは、『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)である。育ち盛りの女の子が食べるために食を抜くというのはあまりほめられた行為ではない(むしろ太る)のだが、宴会に於いて細かい話はどうかと思うのでスルーで。楽しそうだし。 「お花見として公園に来るのは初めてかもしれない」 意気軒昂なれど食を抜いて少しふらつくあひるから荷物を受け取ったのは、『red fang』レン・カークランド(BNE002194)だ。いい感じに紳士的なのは兄貴分譲りといったところだが、その兄貴分が今頃ぐでんぐでんにアレしてやいないか……まあ、彼に与り知らぬところなので敢えて伏せよう。そんな心持ちはあるまい。あるまいな? 「そういえば、ジンギスカン鍋も初めてだな。どんな感じなのだろうか。お鍋か……?」 怒れる道民がログインしました。 「徹夜では無粋だけど、日が明けてからでは悠長すぎるのだわ」 空が白み始める午前五時少し前。スクーターで現場に現れたのは『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)だった。メインである計都達よりは早く、当然ながら成人男性ニ名よりは遅く現れた彼女は、スクーターに場所取り用の備品を積んでいる。 悠里とアウラールが彼氏バカ合戦を繰り広げているのを脇目に、せっせと場所取りを行うその様は訓練された何でも屋。本当にぶれないなこの人。 因みに、場所取りの名目は『時村警備保障・花見会』……正しくイベントでやれ級の大騒ぎでもしないと、こうは場所を取るまい。 陽の光が徐々に空を覆い、夜を追いやっていく。 ――さあ諸君、戦争の時間だ。多分。 ●大体俺らのせい 「小さいことですぐにムキになったり、壁半分で隠れたつもりになってこっち伺ってる悪戯ぬこみたいなとこが可愛いんだよなっ!」 「……何だァ……?」 花見会場の場所取りに現れた男性ニ名は、奇怪な光景と出くわすこととなる。 一面に張り巡らされたロープ。どうやら場所取りらしいが、その広さが尋常ではない。 だが、かけられた社名からして壮大なものを感じ取る嗅覚はあるようで、只ならぬ様子だとは理解する。 そんな彼らに歩み寄ってきたのは、一件若いというよりは幼さを残す女性だった。だが、その立居振舞いは楚々として嫌味がなく、明らかに相応の教養を持つ相手であると知れた。彼らではとても、会話の面でその相手には太刀打ちできまい。 「仕事で確保してますので」 そして、それは予想通りであった。ぴしゃりと言い放った彼女に、男二人では返す言葉も出てこない。圧倒的な存在感に押されっぱなしだ。 「まず言うまでもないけど、優しいね」 そして、追い打ちをかけるように聞こえてきたのが、先程の声とは別の、しかしやってることは変わらない感じの声だった。一言目からはその意図が掴めないが、誇らしげなトーンが何をいわんや、といったところで。 「それにあれで意外と負けず嫌いなんだよ。料理教えたりしても絶対に見返してやるって感じが伝わってきてそこがまた可愛くてね!」 どうやら男性二人組の彼女自慢らしいのだが、周囲には照れている彼女が見当たらない。他にも準備にあたっている面々が居るのだが、照れている様子がないことを見るにここには居ないらしい。否、もしや『ここには』では―― 「で、でもなあ、この場所取りは」 びかーん。 男達が何事か言うより早く、後方から現れた女の目が怪しい光を放つ。反論を許さない旨の念が流れ込み、一切の思考を遮断する。 「迷惑料に、酒とツマミもおいてけッス♪」 「……あ、ハイ」 これはひどいカツアゲ。 「不意打ちで何かすると恥ずかしがるのもすっごく可愛いんだ!」 あ、そのへんでカットで。一方的にサプライズな恋愛関係は置いといてですね。 「眠い……でも、ジンギスカン! ……じゃなくて、一般人守るため……眠気、とんでけ……!」 ここの健気なあひるちゃんをちょっと見習え。こんないい子が恋人だったら徳が高くなるだろ常識的に考えて。 さて。 本懸案におけるジンギスカン関係のセットはアーク経費で落とされる。但し「必要な分」。 取り敢えず内訳はいいから材料を揃えろという話であり、エナーシアはそこを衝いた。 「一番いい肉を頼む」 「羊肉なのにですか」 そんなやり取りがあったかどうかはさておき、少なくともその場に揃えられた材料は先程去っていった一般人の持ち寄ったものの比ではない。ビバ時村財閥。 「生ラムのクセのない味もいいッスけど、慣れると、通はマトンッスよね」 計都、どうやらそのあたりにうるさい人だった。当然のように用意してある肉を検分する様子が微妙にプロじみている。 「ちゃーんと秘伝のジンタレも用意してるッスよー!」 なんてやつだ。 「洋子さんが餓死する前にさっさとお弁当出して食べましょ!」 瞑、寧ろ餓死しそうな勢いなのは二食抜いて果敢に挑んでいる本懸案の要のホリメさんだ。気遣ってやれ。 まあ色々置いといて。使い捨てジンギスカン鍋(マジであります)とかカセットコンロとか野菜とかを計都の軽トラ(あ、上手いこといった)から下ろした一行は、着実に宴会の準備を進めていた。因みに、彼氏バカナンバーワン決定戦(暫定)は未だ終わらない。引き出し多いな。 「鍋だと思っていたものは、焼肉っぽいものだったのか……!」 レンが、驚いたようにセットされた鍋をしげしげと眺める。コレについては明確に鍋だ、いや焼肉だという線引きが出来るかというと、なかなかに曖昧だ。肉を焼くし、野菜は煮るというか蒸し焼きというか、まあそんな系なので、どちらと言えなくもない。 念のため説明しておくと、ジンギスカン鍋とは一見すると「山」である。中央に向けて盛り上がり、縁が湾曲して汁を受け止める形状になっている。 調理する場合、天面で肉を焼き、縁に落ちてきた肉汁や野菜の水気で煮こまれたものををジンギスカンのたれで味付けしていただく、という感じが普通の食べ方というか、そういうものだ。決して最初から天面部に野菜をぶちまけてはならない。決して(念押し) 安っぽいくせにそれなりに熱伝導のよい鍋はあっさりと温まり、さて宴会――という空気を醸しだしたところに、それは現れた。 「……さて、カラスどものお出ましみたいッスね」 「出たな、カラス……! 食べちゃうわよ……!」 不敵に笑う計都とはまた別に、あひるは意気軒昂の様子で鴉に挑みかかる。頼むからそんなものに手を付けないでください。 「速く早く疾くさっさと来るのですよ、肉が焼けすぎてシマウデショウ」 エナーシア、もうすっかり宴会モードだった。ぐるぐるにデフォルメされた目が集中の密度を物語る。そんな本気はいらなかった。 「それじゃ、アーク1の美少女でDA率を誇るこの瞑ちゃんが相手してあげるわ!」 びしょうじょ()枠がそろそろパンクしそうだから、瞑は自重なさい。 ●強欲の習性 先に結果を述べてしまうと、E・ビーストは瞬殺された。具体的に突っ込むとワンターンキル。 先程までアレでソレだった悠里が放った斬風脚の精度は、しかしそんな彼の失態を補って余りあるものであったといえるだろう。 正直な話、(彼らの名誉のために述べるなら)この場に居るリベリスタの誰もが高次の実力を持つ者達であり、あいてはたかだか三体の烏だ。 先の自称でもあるが、瞑はそもそも行動が早い上に下手すれば連続攻撃をやらかす。 エナーシアなんて近づいてくるのを見越して集中しまくっていた。 レンのバッドムーンフォークロアがあった日には回避すら満足にさせてもらえない。 多少の負傷などあひるにかかってしまえば何ということはない。 と、お思いでしょう? 「ふふん、知っているか? ジンギスカン鍋とは、モンゴルの兵が、野営の際に己の兜で肉を焼いたことから始まったという……」 じりじりと、熱せられた鍋ににじりよる計都。火を止めてあるとはいえ、ちょっとこれはマズイのではないか。 「ならば、逆もまた真なりッ!! ジンギスカン鍋ッ! メットオオオォォォォォーーーーンッッッ!!!」 計都さんの髪の毛(一部)がログアウトしました。 「九曜? 違うなあたしは、北の寂寥たる不毛の大地が生んだ唯一の食文化を守護する戦士……怪傑! ジンギスカンレディ!!」 試される大地を試す系三下術師の間違いだろう。どこの魚介類の知り合いだよ。 でも結局、この傷もあひるの聖神の息吹で治るのかと思うとやるせないね。 「計都、怪我は無い? これくらいツバ付けておけば治るわよ」 やたら素っ気ない態度を強調する瞑だが、微妙に吐息が荒い気がする。付けるツバは計都のだよな? な? さて。 「皆は手をよく拭いてから始めてていいよ。僕は少し用があるから」 そう言って烏の死骸を手にした悠里を他所に、飢えた獣の勢いは最高潮に達していた。 「肉二駆憎似苦ニク煮狗niku尼躯にく肉~♪」 こんな感じで冒涜的なエナーシアの要は「肉よこせ」コールで始まるジンギスカン鍋が果たして平和に進むだろうか。否。断じて否である。 「食べるわよ!!」 あひるの目がぎらぎらしておる。 「た、大変ッス! すぐに来て! 説明は後で!」 『……はあ。何ですかいきなり』 計都、アーク本部に電話。信じて送り出したリベリスタが緊急通信したり顔ダブルピースだなんてフォーチュナは認めない。 「ジンギスカンって実は初めてなんだよなぁ……塩昆布とか、カニカマってどうすんの?」 アウラール、それサラダとかつまみ要員なんじゃないの? 「何でもいいか、全部焼いちゃえ! おにぎりもタレつけて焼いちゃえ」 この北国文化を真っ向からボケ倒すフィンランド人はあとで学園の体育館裏送りで。 「しかし、このジンギスカンの味……こってりとしていてそれでいてしつこくない……臭みもない……まさに味のビッグバン!!」 ラム肉って脂身すくなくて結構ひょいひょいいけるんですよね。匂いはなれるとクセになるよね。洋子にとってはこれ以上ないごちそうだったのかもしれない。 「三十一歳ジンギスカンパーティーいえーい!」 「……えー」 呼び出された夜倉の呆然とした声は、しかしすぐにノリノリの空気に押し流された。そんなもんである。 「ユーリ、これは焼けているか?」 「うん、焼けてると思うよ」 「レン、たくさん食べて大きくなるんだぞ」 「うん、おいしいから沢山食べられそうだ」 レンを挟むようにして、悠里とアウラールが和やかにジンギスカンを進めている。育ち盛りのレンを気遣う二人の優しさが何というか、とても清々しい。全員素直だなあ。 (そう言えば、今日は無理にたくさん食べなくてもいいんだぁ……) 過去、これでもかという量と質に圧倒されたエリューションクッキング的なアレにやられっぱなしだったアウラールにとって、食べることに全てを捧げなくても大丈夫である現状は何とも素晴らしいものであっただろう。 自分のペースが保証される食事という奇跡。そんなもんが奇跡になる程度には、アークは過酷な戦場()が多いのだ。仕方ないね。 「所詮この世は焼肉強食。強ければ喰い、弱ければ餓えるのだわ」 でも、この人生修羅場マックスなエナーシアさんには何の関係もありませんでした。 っていうか全力で奪い合ってました。 「フフ……面白くなってきましたよ」 そうな、あの眼鏡さんわりとガタイよかったから肉好きだろうな! 「一仕事終えたあとのお肉は、最高ね……」 すげぇ、あひるの手の動きは明らかに修羅のはずなのに、その周囲のオーラがどえらい柔らかい。なんかこうおかしいよ。 「花をみながらお酒っておいしそうなのですが未成年なのでジュースでガマンです……」 花見酒の風流は、酒だから桜だからというわけではない。桜があって酒だから風流なのだ。 だが、悔しそうにジュースを飲んでいる洋子も、何れ風流の何たるかを知る時期が……うん、来るよな? 多分。 花見のあとは片付けの作業が残っている。だが、訓練されたリベリスタたちにかかってしまえば、その作業ですら刹那の出来事になってしまう。 アークのリベリスタは本当にバケモノだぜ。 「皆で、写真撮りましょ!」 全ての帰り支度が済み、帰路に就く直前といったところで、あひるが元気よく提案する。当然、全員が快諾し、集合写真が残されることとなり。 計都の運転でここまで来た面々や、早朝組が帰ろうとする中、しかしエナーシアには帰る気配がなかった。 夜桜を満喫したいのは、何も早朝組だけではないのだ、きっと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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