● 廃ビルに囲まれた薄暗い路地を通り、彼女は駅に急いでいた。 終電に間に合うかどうか、かなりギリギリの時間になってしまっている。 人通りもなければ街灯もまばらな裏路地を女が一人で通るのは危険が伴うが、今は四の五の言っていられない。 仮に終電を逃してタクシーで帰るとなると、かなり手痛い出費を覚悟しなくてはならなかった。 全力疾走はそう長い時間は続かず、息を切らした彼女は走るスピードを緩める。 走ったのなんて、随分久し振りに思えた。 あんなややこしい残業を押し付けられたりしなければ、こんなことにならなかったのに。 心の中で愚痴を漏らしながら、必死に足を踏み出した時――はるか頭上から、若い男の声が聞こえた。 「――ああ、良い夜だね。お嬢さん」 びくりとして、彼女は反射的に足を止める。 声の聞こえてきた方向を見上げて、彼女はたちまち驚愕に目を見開いた。 嫌味なくらいに整った顔立ちをした男が、廃ビルの上に輝く満月を背に“宙に浮いている”。 現実離れした光景に言葉を失った彼女に向けて、男は訊かれてもいないことを喋り始めた。 「私かい? そうだね、魔法使いとでも呼ぶと良い。 十二時の鐘を過ぎても解けない魔法で、君の美しさを永遠のものにしてあげよう」 身に纏った暗灰色のローブを芝居がかった調子ではためかせながら、男は彼女の眼前へと舞い降りる。 四羽の梟が、男に従うように彼の周りを飛び回っていた。 この男が何者かは知らないが、あらゆる点で“まともな人間”ではありえないだろう。 小さく悲鳴を上げ、咄嗟に踵を返して逃げようとした彼女の背に、男のしなやかな指が向けられる。 彼の歌うような詠唱とともに、彼女の動きがぴたりと止まった。 「安心してお休み。君は、私の中で永遠に生き続けるのだから」 男の指から生命力を吸い尽くされた彼女の亡骸が、崩れ落ちるようにして倒れる。 宙を滑るようにして彼女に近付いた男は、命尽きた体を両腕で抱き上げると、恭しく唇を重ねた。 ● 「春になると、神秘の界隈にも頭のネジが緩んだ奴が増えるのかね……」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は小さく溜め息をついた後、集まったリベリスタ達に説明を始めた。 「今回の任務は、ノーフェイスの男と、それに従うE・ビースト四体の撃破だ。 既に一般人に犠牲が出ている上、このまま放っておくと、さらに一人被害者が増える」 ノーフェイスは暗灰色のローブを纏った若い男で、自らを魔法使いと名乗っているらしい。 さらに、『美しい女性を自らの手で殺すことで永遠の命を得られる』という妄想に取り憑かれており、一人歩きの女性を狙っては殺害しているのだとか。 「もともとアレな奴なのか、革醒の影響でこうなったのかは知らんが、そいつの手にかかった人間がいることは確かだ。これ以上の被害が出る前に食い止めてほしい」 ノーフェイスは素早い上に飛行能力があり、さらに梟のE・ビーストを四体従えている。 理性はともかく知性は人間並みを保っているので、隙があれば容赦なくそこを突いてくるだろうと、数史は言う。 「戦い方としては二つのパターンが考えられるな。 一つ目は、ノーフェイスが一般人女性の前に姿を現した時に奴を叩くこと。 この場合は当然、女性の身の安全を考えていく必要があるが……遭遇する時間と場所は“万華鏡”で特定できてるんで確実っちゃ確実だ」 そして、もう一つ――と、黒翼のフォーチュナは続けた。 「二つ目は、早めに現場に向かい、ノーフェイスを囮で誘い出すことだ。 上手くいけば、一般人の女性が奴と遭遇する前に叩くことができるかもしれない。 ……が、これはあくまでも可能性の話だ。 奴を釣り上げることができなければ、自動的に一つ目のシチュエーションになる」 前述の通り、ノーフェイスは一人歩きの女性を狙う。囮を用いるなら、綿密な作戦を立てていく必要があるだろう。 「どういう方針にするかは、皆の判断に任せる。 頭の中身はアレだが、決して弱い相手じゃあない。どうか気をつけて行ってきてくれ」 俺からは以上だ、と言って、数史は手の中のファイルを閉じた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月07日(土)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 急行したリベリスタ達が現場に到着した時、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)の腕時計は指定された時間の十分前を指していた。廃ビルが立ち並ぶこの一帯は街灯もまばらで、非常に薄暗い。今のところ、自分達の他に人の気配は感じられなかった。 周囲に結界を張る福松の傍らで、カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が工事用の赤い三角コーンを置いて道を塞ぐ。地図は頭に叩きこんであったし、保護対象の一般人女性が通る詳細なルートも黒翼のフォーチュナから事前に確認済みだった。 女性は駅に急ぐため、真っ直ぐそこに抜ける道を通ろうとする。 最短のルートを塞いでしまえば、近道を諦めて別の道に向かう可能性は高い。 『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)、『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)らが協力して三角コーンを設置する中、『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が廃ビルに囲まれた路地から空を見上げ、そこに浮かぶ満月を眺めた。 今宵戦うのは、梟のE・ビーストを従えて夜の街を駆けるノーフェイス。 彼は自らを魔法使いと名乗り、一人歩きの女性を狙っては殺害を繰り返しているという。 「やれやれ、通り魔のようなやつデスネ」 行方はそう言って、軽く肩を竦めた。 魔法使いを名乗ろうと、何をしようと、その行動は相応しくない。 何故ならば――夜の街に潜むのは、魔法使いの領分ではないからだ。 夜の街は、行方が愛する都市伝説の世界。無粋な存在は、排除するのみ。 「たかだかノーフェイス風情が魔法使いを名乗るなんて滑稽だよねぇ~」 いつも通りの軽い口調で、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が言葉を返す。 三角コーンに「工事中」と書かれた紙を貼りながら、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が口を開いた。 「厨二病患者マジイタイ」 実にごもっとも。 なにしろ、相手は臆面もなく魔法使いを名乗り、『美しい女性の命を吸うことで永遠の命を得られる』などという戯言を信じているような男だ。これが中学生なら可愛げもあるが、とうに成人しているなら「イタイ」と言う他にない。 「妄想が自分の脳内に納まっているなら別に構わんが、一線を超えてしまったのなら話は別だ」 福松の言葉に、カルラが頷く。 「話で聞く段階では正直呆れるしかない相手だが。 どんな馬鹿でも連続殺人者だからな。気をつけねぇと」 ――そう。ノーフェイスの性格や嗜好はどうあれ、既に犠牲は出てしまっているのだ。 「春の陽気に、少しばかり緩みすぎてしまったのかもしれませんね。 凶行は、ここで止めます」 左右で色の異なる瞳に静かな決意を湛えるスペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)に、葛葉が力強く頷きを返す。 「このまま放置しておけば、被害は増える一方だ。なれば、この場で撃破する事が最良と見る」 俺の持てる手練全てを尽くすとしよう、と言って、彼は廃ビルの上に鋭い視線を向けた。 一般人女性が通りがかる時間まで、残り五分。 駅に続く近道は封じており、結界も張られている。万が一長引いたとしても、少しは時間を稼げるだろうか。 リベリスタ達は事前に打ち合わせた通り、それぞれの配置につく。 囮役のスペードが一人で魔法使いを名乗るノーフェイスを誘い出し、壁面を自在に歩ける行方が近隣のビル屋上に潜伏。残りの六人はやや距離を空けて待機し、敵の出現に合わせて合流する手筈になっていた。それぞれ、連絡は“幻想纏い”の通信機能で行う。 仲間達が身を隠した後、スペードはただ一人、薄暗い路地に踏み出した。 ● 「もうこんな時間……。急いで帰らないと」 帰り道を急ぐ少女、といった風情で、スペードが早足で歩く。 視界の対策用に準備した暗視ゴーグルを含め、全ての装備は“幻想纏い”に収納してあった。 無警戒、かつ無力な一般人を演じ、一人歩きの女性を狙うノーフェイスを誘き寄せる作戦である。 そんな彼女から約二十メートルほど離れた地点で、待機班の六人が息を潜めていた。 距離が近いと敵に見つかるリスクが高くなるが、遠すぎても合流が遅れて囮役を危険に晒してしまう。 軒先に張り出した屋根の下などに身を隠せば、少なくとも上空からは見つかり難いはずだ。 葛葉が、通信回線を開いた“幻想纏い”から音を聞き取って様子を窺う。 周囲を注意深く警戒しながら、由利子は物陰から囮として歩くスペードの背中を見た。 最初は自分が囮役を買って出ようと考えていたのだが、スペードの立候補を受けてその役を譲ったのだった。 (残念……私もまだまだいける筈と思ってるのだけれどね) 心の中で呟き、由利子は艶然と微笑む。その自己評価は、決して間違っていない。 待機班の“目”の役割は千里眼を持つ葬識が務めていたが、街灯に乏しい深夜の廃ビル街では、その暗さに邪魔されて本領を発揮しきれなかった。夜の戦いに備えて暗視ゴーグルも持参していたが、残念ながらゴーグル越しに千里眼を用いることはできない。 幸い、囮役のスペードとはそこまで距離は離れていないため、怪しげな人影の接近に気付かないということは無いだろう。 無骨な暗視ゴーグルをかけた綺沙羅が、感情探査を発動させて周囲を警戒する。 ややあって、彼女の鋭い感覚が、浮かれたような愉悦の感情を察知した。 綺沙羅の声にそちらを向いた葬識が、月明かりに照らされた暗灰色のローブをおぼろげに視界に捉える。今回のターゲットであるノーフェイスに間違いない。 福松が“幻想纏い”を介して離れた二人に敵の接近を告げ、カルラがランスを手に身構える。 六人は、全神経を集中させて飛び出すタイミングを計り始めた。 「――良い夜だね、お嬢さん。こんな遅くに出歩くなんて悪い子だ」 頭上から聞こえた男の声に、スペードが足を止める。 彼女はびくりと体を震わせると、怯えたような様子で周囲を見渡した。 「だ、誰……っ!?」 「私かい? そうだね、魔法使いとでも呼ぶと良い」 「魔法……使い?」 空を見上げ、満月を背にして宙を浮いている男に驚きの表情を浮かべる。 さも恐怖に腰を抜かしたといった風に、スペードはぺたりと地面にへたりこんだ。 「十二時の鐘を過ぎても解けない魔法で、君の美しさを永遠のものにしてあげよう――」 「た、助けて……」 怯えの表情は、その全てが演技で作られたものではない。 ただ一人で敵に対峙するのが、まったく怖くないと言えば嘘になる。 でも、決して逃げたりはしない。 すぐ近くに、頼もしい仲間達がいることを知っているから。 ターゲットが囮に引っかかったのを見て、ビルの屋上に潜んでいた行方も行動を起こす。 「――ああ、悲しいかな魔法使い。 夜出歩くのは危険デス。都市伝説に巻き込まれてもしらないデスヨ? アハハハハ」 彼女は笑いながら、ビルの壁面を垂直に駆け下り始めた。 “肉斬リ”と“骨断チ”、二本の巨大な肉斬り包丁を、両手に携えながら。 ● 暗灰色のローブをはためかせて、四羽の梟を伴った魔法使いがスペードの前に舞い降りる。 スペードは地面にへたりこんだまま、恐怖で腰を抜かした一般人を装い続けていた。 そうとは知られぬよう、体を強張らせるふりで密かに防御を固める。 魔法使いを名乗るノーフェイスは、スペードがリベリスタであることに気付いていない。 彼が“万華鏡”が映した未来の通りに動くなら、それを逆に利用できないか。 しなやかな魔法使いの指がスペードに向けられ、整った唇から歌うような詠唱が響く。 「ぅ、ぁ――」 生命力を奪い取る、心臓を鷲掴みにされるような感覚。 スペードの全身から、不意に力が抜けた。 地に倒れた彼女に、宙を滑る魔法使いがゆっくりと近付く。 「安心してお休み。君は、私の中で永遠に生き続けるのだから……」 魔法使いが、スペードのやや小柄な体を抱き上げようとした、その時。 目を開いたスペードが両腕を伸ばし、全力で彼に組み付いた。 「――捕まえ、ました……ッ」 魔法使いの目が、一瞬、驚愕に見開かれる。 四羽の梟が、猛スピードでこちらに接近する行方に気付いて一斉に飛び立った。 「アハハハハ、いらっしゃい夜の鳥!」 己に迫る梟を見て、行方が笑声を上げる。 彼女はビルの壁面を勢いよく駆け下りながら、二本の肉斬り包丁を振り上げた。 「しかし鳥は森に、人は家に! 夜は都市伝説の蔓延る時間デスヨ、アハハハハ!」 重く厚い刃が、梟に叩き付けられる。 堪らず吹き飛ばされた梟を狙い、福松が相棒たるサタデーナイトスペシャルの引き金を絞った。 銃口から吐き出された弾丸が、梟の翼を過たずに射抜く。 続けて葬識が放った暗黒の瘴気が、全ての梟を包み込んだ。 「はいはーい、魔法使いちゃんこんばんは~。いい夜だねぇ~殺人日和~」 スペードに組み付かれた魔法使いは葬識の挨拶を軽く聞き流したが、仲間達に十字の加護を施す由利子を視界に映して、軽く目を見張った。 幼い容姿のスペードも、匂い立つ大人の色香を漂わせた由利子も、ともにストライクゾーンらしい。 守備範囲広いな、魔法使い。 「貴方……悪い魔法使いね?」 やや恐怖を孕んだ表情で、由利子が問う。もちろん演技である。 「いかにも私は魔法使い。月夜に舞い、優雅に駆ける――」 「あんたが“自称”魔法使い? 厨二病こじらせすぎ。ださい」 魔法使いの芝居がかった口上を、綺沙羅の声が容赦なく遮った。 綺沙羅のキーボードから軽快なタイプ音が響くと同時に、召喚された鴉の式神が魔法使いを襲う。 怒らせて逃走を阻止する狙いだが、怒るというより微妙に喜んでいるようにも見えるのが気色悪い。 端麗な容姿の美少女に罵られるのが好きとか、そういう性癖でもあるのだろうか。 本当に守備範囲広いな、魔法使い。 「……随分とあれな魔法使いも居たものだな」 由利子を背に庇った葛葉が、心底呆れたように呟く。 「こんなヤツの望みなんざ、妄想内でも叶えさせてやるかよ。胸クソ悪ぃ」 吐き捨てるようにそう言って、カルラは攻撃に備えて自らの集中を高めた。 「これが……命を吸われた人達の痛みです――!」 魔法使いに組み付いたまま“幻想纏い”から装備を召喚したスペードが、彼の首筋に牙を立てる。 どんなことがあっても、この手を離すつもりはなかった。 「ああ、こんなに強くしがみついて。そんなに私と一緒にいたいのかい」 鴉の式神がもたらす狂熱から覚めた魔法使いが、勘違いも甚だしい台詞を放つ。 その指がスペードの腕に触れ、彼女の生命力を立て続けにごそりと奪い取った。 「……っ」 力を失いかけた両腕を、スペードは自らの運命を削って支える。 闇のオーラを纏った葬識が歪な大鋏を手に魔法使いに迫り、危機に陥ったスペードのフォローに回った。 四羽の梟がその周囲に群がり、リベリスタ達を攻撃する。 梟の鳴き声に動きを止められた仲間達を、由利子のブレイクフィアーが救った。 綺沙羅がスペードに駆け寄り、彼女の傷を癒しの符で塞ぐ。 充分に集中を高めきったカルラが、己の生命力を糧に暗黒の瘴気を呼び起こした。 「梟は夜目が効くらしいが……闇ん中はどうだろうな!?」 狙い澄まして放たれた瘴気が梟たちを覆い、その身を蝕む。既に傷ついていた一羽が、力尽きて地に落ちた。 それを見た魔法使いが、呪いを秘めた不可視の魔弾を周囲にばら撒く。 ようやく周りにも注意を払う気になったようだが、その判断は少々遅きに失したようだ。 由利子と綺沙羅、二人の回復役を擁するリベリスタ達の守りは堅く、そうそう揺らぐことはない。 次第に追い詰められつつあるのは、梟たちの方だった。 肉体の枷を外した行方が、小柄な体に不似合いな巨大な肉斬り包丁を構えて歪んだ笑みを浮かべる。 剣と言うよりは斧に近い性質を持つ肉厚の刃が一閃し、梟を見事に断ち割った。 続いて、福松の銃撃がさらに一羽を撃ち落す。 残る一羽に向けて、葛葉が駆けた。 「空に居られては少々狙い辛くはあるが……それだけだ。下りて来た瞬間を狙って、穿てば良い」 鉤爪を装着した両の拳にオーラを纏わせ、梟に真っ直ぐ繰り出す。 それは、彼が今までに何百、何千、何万と繰り返してきた基本の動き。 いかなる状況にあろうと、その修練は決して嘘を吐かず、彼を裏切らない。 「この拳の届く範囲であれば、どんな相手にでも攻撃を当てて見せよう――」 輝くオーラの一撃が、その言葉の通りに最後の梟を葬り去った。 ● 梟の全滅を見届けたカルラが、魔法使いを騙るノーフェイスに迫る。 「何人も殺してんだ……テメェが殺られる覚悟もあるんだよなぁぁ!?」 高めた集中から繰り出されたランスが魔法使いの脇腹に風穴を穿ち、赤く染まった穂先が血を奪い取った。 ごぼりと口から血を流した魔法使いが、魔方陣を描いてリベリスタ達の生命力を奪い、自らの傷を癒す。 「男に興味は無いのだけどね」 魔法使いの呟きを聞き、カルラは不愉快そうに眉を寄せた。 こっちだって、こんな奴に興味は無い。むしろ言動に呆れるのを通り越して吹き出すレベルである。 距離を詰めたのは、単純に逃がすわけにいかないからだ。 魔法使いに突撃した行方が、“肉斬リ”と“骨断チ”に全身のエネルギーを込めて叩きつける。 (逃がしはしないのデスヨ、絶対に) 彼女にとっては、一般人の被害なんてどうでもいい。 夜は都市伝説たる己の世界。そこに踏み込んだ不幸を、思い知らせてやるだけ。 「――さあ怯え恐れるデスヨ! 街はボクの領域、荒らす事は都市伝説の世界へ踏み込むということデス! 死ぬか滅ぶかお望みは? アハハハハ!」 由利子のブレイクフィアーが致命の呪いを払い、綺沙羅の癒しの符が傷の深い仲間の背を支える。 今もなお魔法使いに組み付いたままのスペードが、牙を立ててその血を啜った。 「困ったな。永遠であるべき私の命が、こんなに零れてしまった」 己に傷を穿った行方の顔をじっと眺めながら、魔法使いが再び奪命の魔方陣を描く。 リベリスタ達から奪った生命力でわずかに態勢を整えた彼は、続いて不可視の魔弾を視界内へとばら撒いた。 飛来する呪いの弾丸に身を削られながらも、葛葉が魔法使いに肉迫する。 いかに強力な攻撃であろうと、膝を屈するわけにはいかない。 「義にして桜が散るは、我が運命尽きた時。そう容易く、やられる訳にはいかん──!」 己に喝を入れた葛葉は大きく踏み込んで間合いを奪うと、気合とともに強烈な拳を叩き込む。 衝撃に揺らいだ魔法使いに向けて、福松が自らの相棒を構えた。 「三文芝居の幕を下ろしてやろう」 サタデーナイトスペシャルから放たれた銃弾が、魔法使いの右足を撃ち抜く。 仲間達と連携して魔法使いを包囲する葬識が、暗黒の魔力を“逸脱者ノススメ ”に込めた。 「魔法なんてナンセンスだよねぇ~。そんな理由で人殺しとか面白く無いなぁ~。 哲学がたりないよ、哲学が」 禍々しく歪な大鋏が魔法使いを切り裂き、精神を削ると同時に速度を封じる。 戦いの流れは、完全にリベリスタ達へと傾いた。 追い詰められた魔法使いが、己に組み付くスペードを振りほどこうとする。 飛んで逃げるつもりなのだろうが、そうは問屋が下ろさない。 容赦なく攻撃を浴びせる葬識が、茶化すような声を上げた。 「やだー、魔法使いとか嘯いておいて逃げちゃうの? 十二時の鐘が過ぎても解けない魔法()とか言ってたのにぃ~」 挑発する葬識の方を見ようともしない魔法使いに、由利子が一計を案じる。 仲間達からやや離れた彼女は、悩ましげにも聞こえる吐息を漏らすと、己の首筋や胸元を強調するように無防備な姿を晒した。 「――!」 絶句し、思わず目を奪われた魔法使いの指が、真っ直ぐ由利子に向けられる。 生命力を吸われながらも、彼女は艶やかに笑ってみせた。 「ただの女にだって……魔法はかけられるのよ?」 そう、これは攻撃を誘う由利子の罠。 まんまと術中に落ちた魔法使いは、スペードを振りほどく機会を失った。 カルラが赤く染め上げたランスを繰り出して魔法使いを貫き、綺沙羅が鴉の式神を召喚して追い撃ちをかける。 「厨二病は中学卒業時に卒業すべきだったね」 綺沙羅の言葉が終わらないうちに、行方が二本の肉斬り包丁を大きく振りかぶった。 後に続くは高い笑い声。夜の街を駆ける都市伝説――。 分厚く巨大な刃が、肉を切り、骨を断つ。恐怖をもって、身を刻む。 暗灰色のローブを血の紅に染め、命を絶たれた魔法使いがゆっくりと崩れ落ちた。 倒れたノーフェイスの首を、葬識の鋏が捉える。 「ごちそうさまでした」 バチンという鋏の音が、夜の闇に響いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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