●迎え撃つ2体の鬼 鬼ノ城の本丸。 とある廊下にて、2体の鬼が言葉を交わしていた。 「あの連中、ここまで来ると思うか?」 「わからぬが、少なくとも諦めの良い輩には見えなんだ。全力で迎え撃つ準備はせねばなるまいよ」 猫のように細い瞳孔を持つ女の鬼が、欠けた一本角の巨大な鬼に応える。 「もしも烏ヶや風鳴が突破されたとしたら、禍鬼も抑え切れんのは目に見えておる。少しなりと敵の数を減らしてやらねばな」 猫目の女鬼は淡々と言った。 2体が防衛を任されたのは本丸の内部にある廊下の1つだ。 左右にはふすまが並んでいる。 「さて、欠け角よ。せっかく迎え撃つのだから、少し小細工を弄しておこうと思うのだがどうだ?」 「猫目のやりたいようにすればいいさ。俺は、その通りにするよ」 女鬼の言葉に、半ばから欠けた一本角を持つ鬼が応じる。 「ありがたい。ならば、お前様は廊下の先で待ち構えておってくれ。奴らの足を止める算段をして、な」 巨漢の鬼は鷹揚にうなづいた。 「ふむ、それで?」 「それと、左右のふすまの向こうに3人ずつ潜めておく。瘴気を使えるのと、他に2人だな。そして、欠け角と連中が戦いを始めたら横合いから襲わせるのだ」 つまりは強力な戦力で通路をふさぎ、伏兵で左右から襲うということだ。 「わかった。……猫目、お前と残りの奴はどうするのだ?」 「潜む」 本丸の入り口側を、猫目は指さした。 「影に隠れられる奴が2人いたろう。私も手は考えている。敵が通り過ぎたところで、後方から襲うのだ」 「よし、じゃあそれでいこう」 間をおかずに欠け角は言った。 2人のうち、考えるのは猫目の役であった。欠け角は強力な力と頑健さで、彼女の要求に応えるのが仕事だ。 「あの連中は油断がならん相手だ。例の矢の争奪戦はこちらの優勢で終わったようだが、その分だけむしろ死に物狂いで襲ってくるだろうな」 「不安か?」 「まさか。猫目と欠け角、我ら夫婦鬼が力を合わせれば、どんな相手にも負けはせぬ」 女鬼は微笑み、その頭に巨漢の鬼が太い腕を乗せた。 ●ブリーフィング 先だって行われた『逆棘の矢』争奪戦は、鬼たちの優勢に終わった。 5本の矢のうち、敵の手に渡ったのは3本。 「これは作戦の参加者が手を抜いていたとか、弱かったわけではありません。敵が予想以上に強力であることと、敵が大きな戦力を割くだけの価値が矢にあったということでしょう」 淡々と『ファントム・オブ・アーク』塀無虹乃(nBNE000222)は言った。 「そして、彼らについて『万華鏡』が新たな予測を行いました。鬼道は近いうちに再び大規模な進撃を開始します。見過ごせば人間社会は大きな打撃を受けるでしょう」 先日も鬼たちは一般人を虐殺する事件を起こしている。あれと同等……いや、それ以上の暴挙を繰り返させるわけにはいかなかった。 「我々アークも覚悟を決めるしかありません。温羅対策は十分とは言えませんが、決戦に踏み切るべきだという結論が出ました」 鬼道の本拠地『鬼ノ城』を制圧し、『温羅』を撃破する。 今や、鬼ノ城自然公園には鬼たちの巨城が鎮座しているという。堅牢な防御力を誇る城を攻めるのは非常に難易度が高いが、やるよりない。 そうしなければ岡山で惨劇が起こるのはわかっているのだ。 「例の四天王たちも城の内外に配置されているようです」 城の外周部を護るのは『烏ヶ御前』率いる部隊。彼女たちを制圧できるかどうかで、アーク側の後方支援部隊の援護効果が大きく変わるだろう。 それから、城門を護るのは『風鳴童子』の配下たちだ。攻城戦における一番の難関は城門を越えること。地の利をいかした敵を突破するのは容易ではない。ここを制圧すればかなり進撃しやすくなるだろう。 御庭においては鬼の官吏である『鬼角』が儀式を行っている。制圧すれば、温羅の強化が解除される。 本丸を護るのは四天王にして鬼道事件の発端ともいえる『禍鬼』だ。 無論ここにも多数の清栄が配置されているだろう。しかし、制圧しなければ『温羅』のいる本丸上部へはたどり着くのが難しくなる。 いずれも強敵だが、もちろん大ボスである温羅を倒すだけの余力を温存できなければ意味がない。 なお、風鳴童子、鬼角、禍鬼は『逆棘の矢』を所有している。撃破する際には奪う機会があるかもしれない。 「全体的な作戦の説明はこんなところです」 虹乃はいったん言葉を切った。 「それでは次に、具体的に皆さんに担当してもらう敵のことを説明します」 今集まっているリベリスタたちへの依頼は、本丸にいる精鋭のうち2体の撃破することだ。 『猫目』と『欠け角』と呼ばれる鬼たちはリベリスタたちを待ち構えているらしい。本丸上部に向かうための廊下の1つに配置されており、進撃するには交戦は避けられない相手だ。 敵はパワー・タフネスに長けている上、瘴気を用いて異常な状態をもたらしたり護りを固める欠け角が通路をふさぎ、配下の者たちを伏兵として潜ませておくつもりらしい。 欠け角の左右にはガラクタの山が積まれており、容易には突破できないようになっている。 左右のふすまの奥には3体ずつ合計6体の鬼が潜んでいるらしい。うち1体ずつは欠け角と同じように瘴気を扱う能力を有している。残る2体ずつは単純な力自慢の鬼である。 「それと、猫目の鬼他2体が皆さんが通り過ぎた後に後方から襲うべく潜んでいるそうです」 2体は影に潜む能力を持っており、力づくでの攻撃のほか、影を操った捕縛なども行えるらしい。 猫目がどのように潜むつもりかは不明だ。ただ、速度と術法に長けた敵なので十分に注意が必要だろう。 いずれにせよ、四方を囲まれると非常に厳しい戦いになるだろう。万華鏡による予測で、対策が立てられなければ危険な状況だった。 「猫目と欠け角は皆さんよりはるかに強力な敵です。灰化の鬼たちにしても弱いわけではありません」 十分に注意して行くようにと、虹乃は言った。 「それでは行って来て下さい。無事に帰ってくださいね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月14日(土)00:14 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
●本丸の対峙 鬼ノ城の本丸を、リベリスタたちは移動していた。 「猫目と欠け角の夫婦鬼――瀬戸大橋を破壊しようとしていた連中ね。こうして再び戦場で出会ったのも何かの縁……」 暗い廊下を淡雪のような白い肌が移動する。『運命狂』宵咲氷璃(BNE002401)は先日も対峙した鬼たちのことを思い出していた。 「……それとも、運命の悪戯かしら?」 敵との間にいかなる縁があるか、そればかりはフォーチュナにもわからない。 「しかしほんとに困った奴らだねぇ。一発ぶん殴ってやらないと気が済まないよっ」 怒り心頭に発すといった表情で『三高平の肝っ玉母さん』丸田富子(BNE001946)は特製フライパンを握る。 もっとも敵に聞きつけられては困るので、声は控えめだ。 「そろそろ作戦区域です。気をつけてくださいませ」 声を潜めて『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が呼びかける。 まだ敵の姿は見えていない。 足音を立てないように移動しながら源カイ(BNE000446)が手早くなにかを書き付けて皆に見せる。 視覚をごまかす影潜みに千里眼は通じないが、襖に隠れている敵の位置はわかる。 ただ、影潜みはあくまで視覚のみを惑わす技だ。 雪待辜月(BNE003382)の熱感知や、『静かなる鉄腕』鬼ヶ島正道(BNE000681)の集音装置は、敵の位置を確実に感じ取っていた。 (感情は10体分……猫目も廊下付近のどこかにはいる) サングラスの奥から、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は敵のいる方向を見すえる。 廊下を曲がると、先にいる敵が見えた。 先端の欠けた一本角。 「噂の欠け鬼か。独りとは良い度胸だ!」 チェーンソー剣を手に、見上げるほどの巨体へ臆すことなく前に出たのは『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)だ。 「おう、来たか」 まるで知り合いが訪ねてくるのを待っていたかのような気安さで、欠け角が応じる。 「お前らに恨みはないが、ここに来た以上無事には帰さんからな」 漆黒の気が宿る爪を振り上げる。 鬼と人間、果たして運命をうまくかき混ぜられるのはどちらなのか。 仲間の後方から、『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)は色違いの両の瞳を欠け角に向けた。 「随分とやるようだけど……1鬼で止められるとでも思っているのかしら?」 敵の策に気づいていない風を装って、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)がショットガンを敵に向けた。 「さて、どうかな。まあ、やるだけやるだけだ」 敵は意気込む様子もなく応じた。 敵に戦術を悟られないために、目を向けるわけにはいかない。ただ、氷璃や小鳥遊・茉莉(BNE002647)らはわずかな手がかりも逃さない目がある。 音や熱で目端をつけていた影潜みの位置を、悟られないように確かめていた。 いや、氷璃はそれどころか、本命であるもう1体さえも見抜いている。 (天井裏。予想通りね) 見つからないとしたら、おそらく居場所はそこだろうと彼女は当たりをつけていたのだ。 「見合っていてもはじまらんだろ。来てはどうだ?」 真っ先に前に出たのは『宵闇に紛れる狩人』仁科孝平(BNE000933)だった。 頭の後ろで縛ったセミロングの髪が浮く。 バスタードソードを構えた青年は一直線に突進した。 右手側の襖へと。 欠け角が目を見開いた。 正道が懐中電灯と、エナーシアの銃にマウントされたライトが影に隠れていた鬼を照らし出す。 「厄介な能力を持った敵だらけですね。ですが、僕は僕なりに全力を尽くして戦うのみ」 襖の向こうにいた鬼へと、孝平は斬りかかった。 ●強襲 3体の鬼はリベリスタの動きにすぐには反応できなかった。 孝平は音もなく2体の鬼をすり抜けて、後方にいる鬼を狙う。 糸のように細い目が爪に宿っている瘴気の存在を見て取ったのだ。 猛攻が敵の動きを封じ込める。 「こちらの策を見抜いたか!」 欠け角が叫ぶ。 遅れて、仲間たちも一斉に攻撃をしかけていた。 カイの仕掛けた気の爆弾が鬼を爆破する。 影継が左手にかまえたリボルバーから激しく弾が吐き出されたかと思うと、それをも上回る勢いでエナーシアの手にしたショットガンが火を噴いた。 富子がフライパンを振るとそこから4つの魔光が飛び出した。 シエルと辜月が散開する。仲間たちの背に小さな翼が生えていた。 漆黒の気が部屋の中を走り抜ける。シャルロッテが放つ瘴気の中を抜け、星龍が撃った呪いの弾丸が孝平の前にいる敵を撃った。 氷璃と茉莉は血の黒鎖を自らの周囲に生み出している途中。 倒れた鬼は、1体だけだった。 作戦の失敗を悟ったようで、反対側の襖を蹴り開け鬼たちが姿を現した。……と、同時に正道の仕掛けた気糸の罠がうち1体を捕らえる。影潜みの鬼も近づいてきた。 影継が即座に襖から出てきた鬼を迎え撃つ。 (僕もブロックに戻るつもりでしたが……) 孝之が戻るには、敵が邪魔だ。 瘴気使いは麻痺して動けないもののもう1体の鬼が爪を薙ぎ払い、孝之やカイが切り裂かれる。 影潜みの鬼がエナーシアをうごめく影に捕らえる。 再びバスタードソードを振るう。孝之の連撃が、今度こそ傷ついた瘴気使いの鬼を引き裂く。 そして、氷璃の放つ黒鎖が最初に狙った一群の最後の1体を撃破した。 星龍は姿の見えない猫目を探していた。 「上よ。気をつけなさい」 氷璃がささやきかけてくる。 感情探査でわかるのは、おおまかな方向だけだ。ただ、前方から感じていた感情が後方に移動したことくらいはわかる。 (回り込まれる) ハンドサインで仲間たちに伝えた。 茉莉が魔炎を放ち、天井を焼く。 鬼は姿を現した。 天井をすり抜けて床に降り立つ。 呪いの蛇が皆を襲う。が、星龍が警戒を促していたことで、攻撃に備えることができていた。 「私まで見抜くとは、目の効く者がいたようだな」 (あくまで挟み撃ちを狙ってきたか) 氷璃が予想した通り猫目は天井裏にいて、後方をつくつもりだったらしい。 直撃は避けえなかったにせよ、無防備に攻撃を受ければどうなっていたか。 敵は平静を装っていたが、星龍の能力は内心の落胆を感じ取っていた。 正道は欠け角と対峙していた。 敵は全身に黒気をまとっている。特に強い気を秘めた爪は、一振りごとに鉄腕の上から彼の体力を削り取る。さらに、傷口を瘴気が侵食して傷が治癒するのをさまたげていた。 (まったく、ふざけた威力でございますな) 防御力ならば今回のメンバーのうちでおそらくトップである彼が、しっかりと守りを固めていてもなお、長時間防ぐのは厳しい。 「防ぐ一方だな。少しは反撃してこないのか?」 「老体にこの攻撃はだいぶ堪えますからな」 平然と適当な答えを返す。 「なるほどな……戦う気がないなら、下がっていろ」 自分を避けて移動しようとする敵に、正道は抜け目なく拳を握った。 鋼の拳を、欠け角に叩き込む。 「貴方ほど強くないのを認めるにやぶさかではありませんが、よそ見は禁物でございますな」 「隙を見せれば狙ってくるというわけか。なら、まず貴様から倒すとしよう」 さらりと言った敵の攻撃に備えて、正道は再び守りを固めた。 防御力のある正道が欠け角を抑えておいて、その間に配下の鬼を倒すのがリベリスタたちの狙いだった。 だが、他の鬼たちにしても単なる雑魚ではない。 カイは影潜みの鬼を迎え撃っていた。 「その程度の知略で止められる程甘くない事を教えてあげますよ」 全身から放つ気糸が、影潜みの鬼を縛り上げる。 辜月の輝きに捕縛を解かれたエナーシアは彼の数歩後ろから弾をばらまいていた。 「さあ行くぞ! 俺達の戦いはこれからだ!」 影継と孝平が3体の鬼を相手取って戦っている。 光が放たれた。猫目の放つ魔光が気糸の捕縛を解き放ち、鬼たちを強化する。 鬼の爪がカイを切り裂く。 彼は右の義手を外して、反撃の銃口を向けようとした。 そこに、瘴気の弾丸が直撃する。 青年のタキシードを食い破り、瘴気が細身の体を侵食してくる。けれど、カイは倒れない。 「簡単に滅ぼす事など出来ませんよ」 シャツを血に染めながら、カイは頭部を狙って義手に仕込んだ銃口から弾丸を放った。 ●殲滅作戦 リベリスタたちがまず狙ったのは影潜みの鬼だ。 捕縛役である2体を放置していては厄介なことになるのは目に見えている。 抑え役のカイは思うように攻撃ができずにいるようだった。 茉莉は血の鎖を生み出していた。 連発はできないものの、やはり威力は高い。 範囲攻撃に巻き込まれないよう距離を開けて、氷璃も同じく黒鎖を生み出していた。 リベリスタたちと違って敵には回復役がいない。攻撃を繰り返していればいつかは必ず削りきれるはずだ。 「まったく、厄介な連中よな。だが、易々と倒せるとは思うなよ!」 猫目の合図に応じて、欠け角が瘴気を放つ。 それはリベリスタたち全員を漆黒に巻き込んでいた。 魔爪に比べればさしたる威力ではないのは正道を見ればわかる。けれど、体力の低い茉莉に取っては十分に痛い一撃だった。 周囲が白く染まった。 体が凍りつく。冷気は茉莉を閉じ込めてその力を奪っていく。 「瘴気に、吹雪ですかぁ。鬼の能力は多彩ですぅ」 けれども運命は彼女の味方だった。生み出していた黒鎖が氷を突き破って敵を飲み込む。 影潜みの1体が倒れ、星龍が生み出した業火の矢がもう1体にも止めを刺していた。 シエルは息を吐く間もなく詠唱を続けていた。 回復の手は明らかに足りない。 辜月は回復よりも、回復を阻害する瘴気の効果を解くのに手を取られている。 山海経に秘められた力で高次の存在と接触し続けている。痛みを威力に変えるシャルロッテのために、回復を手控えることも考えていたが、今のところそんな必要はなかった。 闇の武具を纏ったシャルロッテは、敵に自らが受けた痛みを刻み付けている。 欠け角と戦っていた正道が後退する。 とうとう、かの鬼の攻撃力に耐え切れなくなったのだ。 けれども敵は彼を追うそぶりを見せていた。 「私のすることは、お味方を回復支援すること。誠心誠意、バックアップいたします」 シエルが手にした巻物が揺れる。奇書・山海経は単なる地理書などではない。魔力の風が間一髪のところで正道を癒していた。 負傷しながらも後退した正道と孝平が入れ替わる。 他者を救えぬ彼女に価値などない。 すべてを防ぎきることなど無論できないが、シエルはひたすらに仲間たちを支援していた。 富子は怒っていた。 一発分殴ってやらねば気がすまない。その一念だけで彼女は戦い続けていたのだ。 「どおおおおおおりゃぁぁぁぁぁ!!! 特製フライパンでぶん殴られたいのはいったいどいつだい?!」 鬼よりも鬼のような表情で、富子は魔光を生み出す。 だが、4つの魔光よりもはるかに恐ろしい光が、彼女の目からは放たれていた。 「怖っ」 身を震わせる振りをしながら、影継がリボルバーから3体の鬼に銃弾を叩き込む。 「この世には鬼より怖いニンゲンがいるってことをわからせてやらないとねぇ」 特注のフライパンから飛んだ魔光が瘴気を飲み込んで鬼の1体を撃破する。 「そんなもので殴られてはたまらんな」 欠け角が瘴気を放つ。富子の勢いをよほど警戒したのか、部屋を埋める漆黒の気はそれまで以上の威力を伴ってリベリスタたちを襲った。 富子が膝を突く。星龍のくわえていた煙草が、床に落ちた。 痛打を受けた隙を狙って猫目の吹雪がさらに茉莉をも打ち倒していた。 残る敵は4体であった。 けれど、星龍はギリギリのところで踏みとどまったものの、味方も2人倒れている。 エナーシアはただ、引き金を引き続けていた。 戦力的には勝るはずの敵を、リベリスタたちは撃破できている。 (包囲は戦力の分散とイコール。事前に分っているなら各個撃破の危機なのだわ) ショットガンの散弾は、着実に敵の多くを捉えていた。 気づかぬうちに、部屋はずいぶんと風通しがよくなっていた。エナーシアは敵と同時に襖も吹き飛ばして視界を確保していたのだ。 「私の血を対価に何倍も貴方に痛みをあげるよ」 シャルロッテが弓を向け、配下の鬼に彼女が受けている傷を刻み付け、撃破する。 「鬼ヶ島さん、補給をお願いね」 「ええ、お安い御用でございます」 意識を同調させた彼から力が流れてくる。 エナーシアは引き金を引いた。 散弾は欠け角と共にもう1体を蜂の巣に変え、打ち倒した。 ●夫婦鬼の終焉 辜月はシエルと共に、ひたすら回復だけをしていた。 それ以外のことをする余裕はなかった。 雑魚の鬼たちを倒した仲間たちが猫目を一斉に攻撃し始める。 けれど、その攻撃の半分以上は、直撃を避けられてしまっていた。 「楽になったとはとても言えないですね。でも、皆さんが無事に帰れるように支えるのが私のお仕事です」 普段はぼうっとした感じの少年だが、仲間を支えたいという願いは強い。 猫目の縦長の瞳孔がそんな彼へ向けられた。 高速で接近してきた鬼が少年を引き裂く。反応する間もなく、さらに一撃。 尻餅をついて、それでもなお辜月は立った。まだ、倒れるわけには行かなかった。 氷璃は魔法陣を周囲に展開していた。 「覚えておきなさい。『策士、策に溺れる』とは、こう言う事よ」 「確かに、こう完璧に見抜かれては伏兵も逆効果でしかなかったな。だが、まだ勝機はある」 欠け角が走る。合流して連携するつもりなのだろう。だが、易々とそれを許すリベリスタたちではない。孝平と交代して、再び正道がその行く手を阻む。 猫目は簡単には倒れなかった。 けれど、永遠に耐え切ることもできなかった。 「悲しいかな、世界に愛されていなかった貴方達とは相容れられぬ関係……何れかが滅ぶ事で決着をつけるしかないようです」 カイが仕掛けた気の爆弾が猫目を爆破する。影継も爆発的な一撃で猫目の移動を阻もうとしていた。 強力な2人の攻撃は直撃せずとも猫目の体力を削った。 エナーシアの狙い撃ちは、回避に長ける敵をも確実に捕らえる。 高速の一閃がカイを打ち倒す。さらに、その後方にいたエナーシアへも。 「残念。まだ一手、足りていないわよ」 シエルが福音を響き渡らせる。 「……安心して頂戴。今度は封印なんてしないわ」 氷璃が漆黒の鎖を解き放つ。猫目は縦長の瞳孔を大きく見開き、そのまま崩れ落ちる。 欠け角が、吼えた。 今までどこか泰然としていた鬼が、怒りを浮かべていた。 シャルロッテはそんな敵に追い討ちをかけるように、痛みを刻み付ける。 痛みを振り払うかのように薙いだ腕から漆黒の気があふれ出てきた。 辜月が今度こそ倒れた。 それはダークナイトである幼い少女には慣れた気配だった。 「ごめんね? 私まだ死にたくないの……死ぬ運命があるなら捻じ曲げる」 だから、彼女は運命をうまく混ぜられたのだろう。さらなる痛みを彼女は欠け角に刻み付けた。 影継は集中しながら欠け角へと駆ける。 後は体力勝負だ。 全体攻撃に巻き込んでいたとはいえ、瘴気の鎧で徐々に回復していた敵にとっては大きな傷ではない。 「一気に畳み掛けるといたしましょう」 正道の連続攻撃が欠け角を追い詰めていく。 目にも留まらぬほどの加速で孝平が攻撃をバスタードソードを振るった。 エナーシアの銃が魔爪を撃った。 氷璃の黒鎖が敵に襲いかかり、星龍の銃口から飛び出した業火の矢が降り注いだ。 鬼の魔爪が振るわれた。 影継も闘気を爆発させて刃を叩き込む。 癒しを阻害する爪が攻撃を受けながらも孝平の体力を奪うが、運命の加護はまだ残っていた。 そして、アザーバイドには加護がない。 「アンタらは確かに強かった。だが、俺達の方が上だ。それだけの話だ!」 唸りを上げるチェーンソー剣が敵を引き裂き、傷口で闘気が爆発する。 欠け角は倒れなかった。 一歩、二歩。 最後の力で彼が向かおうとしたのは倒れている猫目のもと。 けれども、そこまでたどり着く力さえ、欠け角にはもう残っていなかった。 ●温羅のもとへ リベリスタたちは急ぎ応急手当をしていた。 まだ戦いは終わっていないのだ。 そんな中、シエルは猫目に問いかける。 「最期に何か望みはございますか……」 人に愛される資格があるとは思っていない彼女に、夫婦という言葉は縁はないが、死ねば鬼も人もない。 「……望みか」 力のない声だった。 「……花見が、したかったな。せっかく……春になったのに……。とはいえ、もう花は散る頃……か」 薄く笑みを浮かべて、猫目は目を閉じる。 「欠け角の奴と、最後にゆっくり酒を飲みたかったが……気にするな、あの世で飲むさ」 シエルの目の前で、女鬼の体から力が抜けた。 氷璃は欠け角の爪を切り取っていた。 「鬼の魔爪……研究すればアークの戦力増強につながるかしらね」 いったいどんな成果が上がるかは未知数だ。 研究室に送るために、彼女はそれをしまいこむ。 手当てを終えて、リベリスタたちは本丸の奥へと進む。 「さらばです……願わくば、次は人として生まれ変わり平穏に過ごしてほしいものです」 一度だけ振り返り、カイは鬼の骸に声をかけた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|