●満月の日に その日は満月だった。月の光は過不足なく空から地上へと届き、神秘的な光でそこを照らしていた。 そこは、とある小山。普段ならば夜遅くに人は集まらない場所だ。 しかし、その日は満月だった。神秘の光に魅せられて、深夜のピクニック。という変わった集まりができるのも仕方のないことだろう。そうした人々に罪はない。 ただ、間が悪かった。月の光に魅せられたのは人々だけではなかったのだ。 野犬の群れの声が、ピクニックをしていた彼らに届く。 「おいおい、犬が吠えてるぞ」 それを耳にした、男が言った。 「月に吠えるとは、また風情があるね」 もう一人の男が、キザに決めてみせる。月の光と、自分に酔っているようである。 そんな中で、犬を飼っている男だけが首を捻った。自分の犬とは、全く違う鳴き声。 やはり月に魅せられて、興奮しているのだろうか。 「おい、どうしたよ? お月様は空にあるんだ。下ばっかり向いても仕方ないだろう」 キザな方の男が、首を捻った男に声をかける。満月に照らされて、テンションが上がっているようだ。もし忠告したところで、聞きもしまい。 そう思って、彼は疑問を振り払った。 「いや、なんでもないよ。ただ、この鳴き声は野犬の群れだな……って」 「群れぇ? どうして分かんのよ」 「ほら、少しずつだけど鳴き声が違うんだよ。微妙にだけどね」 「へぇ……。ま、今日は満月だ。犬たちもピクニックに来てるんだろうよ」 彼らは知らなかった。その鳴き声の主はエリューションビーストと呼ばれ、人に仇なす存在であるということに。 彼らは知らなかった。その顎が人を砕き、その胃は人の身を、魂を溶かすためにある物だと。 月に照らされた、その異形たちの姿を見るまで。 より正確に言えば、彼らは絶望するその瞬間にようやく気付いたのだ。 自分達はとんでもないものと遭遇してしまったのだ、と。 ●狩猟する異形を狩猟する 「揃ったね。貴方達に頼みたいことがある」 アーク本部。ブリーフィングルームに揃ったリベリスタ達の姿を見て、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は頷いた。 「仕事かい?」 待ちきれない、という様子のリベリスタが尋ねると、やはり真白イヴは頷く。手に持ったぬいぐるみをぎゅっ、と抱いて。 「今度の任務は山狩。とある山に潜んでいるエリューションビーストたちが、次の満月に餌を求めて動き出す」 「……満月に?」 うん。緑と赤のオッドアイを向けながら、真白イヴは続けた。 「理由は分からない。だけど、どういうわけか満月の夜に興奮する。エリューションビーストの元になった『犬』が関係するのかもしれない」 エリューションビースト。エリューション化したことにより、超常の力を手に入れた獣。元がただの犬であっても、それを倒すのはリベリスタでなければ困難であるだろう。 「だから、興奮をするその前に山に入り、エリューションビーストの群れを倒して」 ぎゅっ、と抱いたぬいぐるみに力が篭る。少し、綿がかわいそうになるぐらい。 続いて、真白イヴは『敵』について解説をしていく。リベリスタたちは乗り出し、その言葉を静かに聞いた。 「フェーズは1。攻撃方法は噛みつくことだけ……だけど」 真白イヴは一間を置く。すぅ……、と小さな息が聞こえる。 「だけど?」 「数が多い。10体居る」 なるほど、山狩とはそういうことか。リベリスタたちは納得する。 「1体1体は大したことない。でも、お互いにフォローをしあってる」 獣の本能であるのか、それとも自分達の先祖である狼の狩り方を思い出しているのか、エリューションビーストたちは集団で狩りを行なうようである。 「注意がある。……山では単独行動しちゃだめ」 「もし、単独行動をしたら?」 「エリューションビーストの集団に囲まれて、各個撃破される」 知能はないけど、本能に刻まれた狩猟のやり方。であると真白イヴは補足する。 「……まだ、被害はない」 眼を閉じて、真白イヴは思う。予知した『起きるはずの悲劇』を。罪の無い人々が、変化した『犬』の胃袋に収まる光景を。 「お願い、する」 オッドアイを開き。リベリスタひとりひとりの顔に目を合わせて、真白イヴは言う。緑と赤の目には、真摯が込められていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月17日(日)02:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●月下に集う その日は夜空に浮かぶ月の光が地へと下り、地は月光で満ちていた。満月ではないものの、その光は十分。それにより、空は夜だというのに地は明るいという、神秘的な光景を作り出していた。 そんな光景の中、月明かりに照らされた影たちが各々の準備を整えて集合する。 その影たちの名をリベリスタという。 彼らは未来を見通す力を持つフォーチュナからの任務を受け、満月となったこの地で開かれることが予告された惨劇の宴に挑み、回避するためにやってきたのだ。観光ではない証拠に、彼らは装備を充実させていた。異形――エリューションビーストを狩るための装備を。 「せっかくの満月を安心して楽しめないなんてヒドイよね。山道を歩く人達の安全を守るために、迷惑なエリューションビーストをやっつけないと!」 とんとんとん、と音を立て、リズミカルに趣味のアウトドア用の靴を地面に軽く叩きながら『お気楽わんこ』尾方 歩(ID:BNE000809)は憤慨する。今回の敵……エリューションビーストとの戦いでヒット&アウェイを目指す彼女にとって、足元は十分に注意しなければならない場所だ。入念に踵を確かめている。 「そうね。私の行動で多くの人の運命を変える事が出来るなら、やらない理由はないわ。見過ごすのも気分が悪いしね~」 と、間延びして締めたのは、セミロングの髪に指をかけ、ふぁさぁ……と流している『革命的魔術師(笑)』依々子・ツア・ミューレン(ID:BNE002094)である。柔和な笑みを浮かべながらも、これから始まる戦いに向けて戦いの思考を固めている。 「これが初めての依頼……緊張するわ~」 とは言うものの、その態度には言葉通りの緊張はない。明らかに緊張していない依々子はどっしりと構えていた。 「一匹一匹は大したことはない……とはいえ、一匹でも逃がせば、普通の人間に被害が及ぶ。そんなの冗談じゃないもんな! 殲滅するぜ!」 『ライトバイザー』瀬川 和希(ID:BNE002243)が月の光にも負けぬように、明るく言う。彼の言った通り、今回の敵は既に分かっている。フェーズ1のエリューションビーストが十匹。数を武器とした、厄介な相手だ。 「よし、やっちゃるか!」 それでも、和希は努めてポジティブに行こうとしている。それは、生来の明るさの成せる技か。それによって、皆の緊張も程良くほぐれていた。 「あー……。まあ、期待はするな、うむ」 そんな少年と距離を置き、タバコを吸っているのは『燻る灰』御津代 鉅(ID:BNE001657)だ。愛用しているサングラスの奥に移る表情には、淡白なものが映っている。 しかし、そんな鉅の気はしっかりと戦いに向いている。入念な準備を整え、様々な手段を考案し、実行してきた。 そんな風に、思い思いに動いているリベリスタたちの中で、『アクマツキツネ』九尾・黒狐(ID:BNE002172)は空の満月を見上げてひとり呟く。 「満月の日は、獣は皆大人しくなる。けれど、その子達は活発に動き回る。獣としての本能を捨ててまで、やりたいことって、なんなんだろう?」 「綺麗な月ね~。狼男は……満月だったかしら?」 そのつぶやきに反応したのは依々子だ。ふたりは夜空に目立つ明るい月を見上げながら、満月の世に人を襲うエリューションビーストを伝説の狼男に例えて考えた。 月は変わらずそこにある。リベリスタたちが何度見上げても、そこに。 だというのに、月は知らぬ間に表情を変える。今回のエリューションビーストも変わってしまったのだろう。 人の知らぬ間に、月夜の狩人へと。 ●夜空の山 「さて、今回は山狩りだ。しかも夜中。月明かりがあるとはいえ、危険だろう」 愛用のライフルを構え、『元海兵隊員』アダム・ブラックネル(ID:BNE002232)が、今回の仲間たちに問いかける。腰には今回に備えて用意した、様々な装備をぶら下げていた。月夜の下、歩くたびに揺れているその装備が、彼の戦いへの意気込みを感じさせる。 「十匹いるみたいですし気を引き締めないといけませんね」 『フィーリングベル』鈴宮・慧架(ID:BNE000666)がニコニコとした微笑みを返す。その青と赤のオッドアイには、人を安心させる優しげな癒しを浮かべているのだ。とはいえ、物音と風を気にしながら山を登る彼女の体から油断は見えない。彼女もまた、緊張感の中にいるのだ。 夜の山は、中々に歩きづらい所である。それに……風が吹けば、木々がざわめくように音を上げ、否が応にも緊張感を走らせる。ここには、倒すべき敵がいるのだから。それも10匹。 「ともかく、寒いな」 そんな中、ぶるぶると体を震わせているのは『ぼんやり焙煎師』土器 朋彦(ID:BNE002029)であった。それもそのはず、着ているのは着流しだ。風に対して肌が敏感に反応してしまい、彼のぼうっとした表情が緩む。 「ともあれ。臨兵闘者皆陣列在前ッ! これで安全のはずだよ」 しかしやることはやる。風に負けず、彼は顔を笑顔に整え、九字を切る。すると、強結界が広がっていき山と彼らを包み込む。これで、関係の無い一般人が巻き込まれることはないだろう。 「では、参りましょう」 山は続く。 歩が結界を張りつつ超反射神経を駆使して警戒して進み、黒狐は集中し、ESPを使って周囲の警戒をしながら仲間に気を配る。 すると、闇の中から遠吠えが聞こえてきた。野犬の遠吠えに似ているが、その声の主がただの犬ではないことはリベリスタたちには分かっていた。 「来ましたね。行きましょう」 慧架は先程まで表情から、凛とした印象を与える顔に変わる。まずは目標の数が十匹であるかを確認すべく、両目を走らせる。 闇の中から、リベリスタたちを“狩る”為にゆっくりと現れた獣の数は……。 1、2、3、4、5……6、7、8、9、10。 それが一個の塊であるように、統制された動きで一匹一匹が姿を表す。その姿は前情報通り、異形化した犬であった。その落ち着き、統制された動きを見るに、事前の情報通り狩りを得意とするのは確かなようだ。 となると、このエンゲージはそう悪いものではない。 「来ましたね。……行きましょう!」 「了解だ! よい明日を迎えよう!」 慧架とアダムが掛け合うのに合わせて、リベリスタたちはそれぞれの武器を構えて、最初の動作へと移り始める。ある者は先制攻撃を得るためにアビリティを準備し、ある者は隊列を整え、ある者は集中力を研ぎ澄ませた。すべては、明るい明日の為に。 その状況で、最初に相手へと攻撃を加えたのは朋彦だ。フレアバーストをエリューションビーストの群れへと放ち、一気に薙ぎ払おうと火力を与えていく。 「焙煎でいえばフレンチロースト。一歩間違うと豆の油分が発火して釜が焦げるのですが……今回は心配無用ですね」 ふふっ、と笑う朋彦。やるね! と、和希が指をグッと握る。 「オォォーーン!」 しかし、その時だ。フレアバーストで作られた炎の中で群れの一匹が遠吠えをすると、エリューションビーストの群れは一気にリベリスタたちへとなだれ込んでくる! その標的は――。ハッ、と気付いた黒狐が叫ぶ。 「依々子さん、前!」 ●月夜の狩人たち エリューションビーストによる噛み付きの連撃を受けて、依々子の体には鋭い噛み傷が幾つも残された。10連撃により、体力も後僅かまで追い込まれたが、それでも立っていられたのは理由があった。 「さすがに数が多いと厄介ね~。無理は禁物、と。でも、そんな簡単に通しはしないわよ」 森羅行による体力の回復を挟みつつ、豊満な体をしっかりと地面に付けて食いしばったからだ。それは単純に耐える、ということであったが、一撃一撃の威力が低かったこともあり、なんとか地に足を付けたまま戦える事ができたのである。 しかし。 膝が落ちる。“なんとか”耐えていたのだ。 だけど、僅かに残った体力で笑みを浮かべて見せる。 「これぐらい、問題じゃないわよ~」 強がりにも見える、啖呵。だがそこには、殲滅の意志がある。勝てる、という確信がある。 だって、既に仲間たちが攻撃を始めているのだから。 「こっちに気を引くよ! 依々子さんを助けてみせます……んだよ!」 緊張状態で下手な敬語を使おうとして、舌を口の中で絡ませながらも、開戦時の一撃で弱った業炎撃を放つ。スピードを載せた一撃離脱の攻撃に、アクセサリーのもるすとらっぷが揺れた。 「一体撃破だな。さて、私も……」 アダムはライフルの銃口を依々子に牙を向けていたエリューションビーストに合わせ、1$シュートが異形の体へと吸い込まれていく。 「この瞬間はチャンスだ! やっちゃるぜ!」 その一撃に加えて、エリューションビーストに和希のブラックジャックが追撃として襲う。黒いオーラが異様に発達した頭を力強く掴み、その勢いのまま破砕する。 「月の下での戦いか。気に入った」 ギャロッププレイが、一匹先に抜けようとしたエリューションビーストを絡めとる。 月夜の下で、それぞれの意志を表情に映しながら戦う狩人――リベリスタたちは、神秘をその身で体現していた。その意志が体現した姿を映し出す月の光は幻想的で、とても美しい。 「まるで、映画だな」 アダムが薄く笑う。この前見たアクション映画のワンシーンに、こんな光景があったかもしれない。 「……光の矢っ、いくよ!」 ショートボウから放たれた黒狐のスターライトシュートが、三日月のような弧を描き、再び動き出そうとしたエリューションビーストの群れに落ちていく。光の中に、異形の悲鳴が撒き散らされる。 こうなってしまえば、優位はリベリスタの側にある。マナサイクルによって自身の力を高めていた朋彦のフレアバーストが、夜空に炎を映し出し、業火の中に異形を巻き込む。 「よし、この火力だね」 「そろそろいいかしらね……? うふふ、本気で行くわよ~」 それに合わせるかのように、依々子のフレアバーストも手伝って火力を上げる。その連撃によって、多くの異形は焼き尽くされた。 一匹。そんな状況から抜けたエリューションビーストが、なんとか前衛に齧り付こうと駆けて来て、飛び上がる。 「アオォォォーン!!」 声高く。月夜に舞う狩人。 それを狩るのは――やはり、狩人。 「……」 深呼吸をひとつ。それから、動を制する静を体で体現するために集中する。青と赤の眼前に迫るのは、倒すべき異形の牙。いざっ。 決着! 月夜を背にして、腕による受け流しからの豪炎撃を決めたのは慧架だ。黒の長髪が、攻撃の勢いでなびき、オッドアイが闇に浮かんだ。 その一撃で、この戦いは終わった。 ●月に見守られて 和希がアークに戦闘終了の報告を終え、その戦いは真の意味で終わりを告げた。 狩人を映し出していた月明かりは、今はほうっとしながら夜の散歩に繰り出した者たちを映し出している。 「狩人が狩られる……これも皮肉なのかしらね~」 噛み付きによる傷をアダムに手当てされながら、依々子は間延びした、安心した口調で総括した。 「これでよし、後は本格的な治療を待てばいいだろう」 救急医療器具を仕舞い込みながら、アダムはその傷をこう評価する。しばらくは安静が必要そうだ。 「本日の紅茶はダージリンです。ファーストフラッシュですので、苦味に気をつけてください」 「しかし、うん、さむ――っ。そんな時は、ラオスの珈琲で温まりましょうか」 慧架と朋彦によって、共に戦った仲間に珈琲と紅茶が振舞われる。穏やかな口触りと共に、一息。カップから立ち上る白さは、そんな暖かさの象徴だろう。それもまた、月明かりに照らされて、劇の一幕のような印象を与える。 「……」 劇の中で、珈琲の香りを静かに楽しんでいるのは鉅だ。一見すると朴念仁ゆえの無表情にも見えるが、その実は好物を前にしてサングラスの奥で笑っている。 「お団子も、いかか。……なのっ」 戦いが終わり、すっかり落ち着いた黒狐はその人見知り癖を存分に発揮して、遠慮がちに持って来ていたお団子をちょこん、と皆の前に置いていく。 「こんな夜は、綺麗なお姉さんと2人っきりで散歩したいんだけどな~」 和希が空を見上げて、ぐるぐると円を描くように歩を進めながらぼんやりと言う。月光には、そんな気にさせる何かがある。 「じゃあ、お散歩行こうよ! だって、今日の月は綺麗だもん!」 ポジティブの塊のような歩はそんなふたりの手を引っぱり、夜空の向こうへと連れて行く。 「だって、今日は月が綺麗だから。今は楽しまないと!」 そんな文句に釣られて、リベリスタたちは月夜の散歩へと向かう。 月光は、リベリスタにも、誰にも平等に降り注ぐ。ならば、せめて――幸せな光を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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