●小鬼に生まれた武人 英雄、という言葉には色々な意味が込められている。 とはいえ、英雄と呼ばれている者が何らかの功績を残した者。ということは確かだ。 この鬼――雄鬼は鬼の中で英雄と呼ばれている存在であった。 彼は小さな小鬼だった。だが、転べば死んでしまうような小鬼の出身でありながらも、下級の鬼の中では負けを知らず、人間を恐れず困難とも言われた任務を何度も遂行してきた。 彼は英雄になろうとしてそうなった訳ではない、弱い種族であるが故に慢心をせず自らを鍛えるという行為を重ねた結果、生まれついて力の強い鬼を超えることができ、小鬼にしては珍しい戦果を挙げることができたのだ。 更に彼は戦術と指揮にも長けていた。自らの力を誇示するために単独で戦うことの多い鬼としては非常に珍しい能力と言えよう。 だが、そんな彼だからこそ他の鬼からは軽んじられていた。彼の異名である“英雄”も、一部の鬼にとっては皮肉げな意味で使われている。 そんな彼が、鬼とリベリスタの戦いに参戦したのはつい最近だ。というのも、彼の種族でもあり率いている小鬼というものは鬼たちの家畜であり、食料だ。そして鬼といえども、補給はせねばならない。 小鬼たちを纏め、効率的な補給のために奔走せねばならなかったために彼は参戦出来なかったのである。 「我々の存在は、人間の社会にとっては害だ。鬼にとっても家畜でしかない。だが、それでも……我々の種族を守らねばなるまい」 心を痛めながらも、それをしなければならない自分に歯を噛み締めながら。 さて、そんな雄鬼と小鬼は今。本丸の下部を守る最後の部隊のうち一つを任されている。 「この場に集まった小鬼たちよ! この場まで生き残った精鋭たちよ! 我々は転べば命を落とすような小さな生命であるが、持ち前のポテンシャルを活かしてここまで我らは生き残った! それを評価されたからこそ、この本丸という重要な局面を任せられたのだ! 皆、あのお方を、禍鬼様を守るために死力を尽くし、生き延びよ!」 舞台に向けたこの演説は詭弁である。他の精鋭となる鬼たちの補給のために小鬼たちを他の部隊に回した。故に多くの鬼からこの小鬼たちは数合わせだと思われている。 「我らの数も減った! これは我々種族の危機であるか? 否! 鬼に伝わる古事を示した書にも、危機に陥った鬼は多く書かれている! ……これはチャンスだ! 今こそ、我ら小鬼も歴史に名を残す時!」 驚異的な繁殖力を持つ小鬼は履いて捨てるほどいる。と、思われているが、流石に消耗し続けられれば数も減るものだ。前の進行作戦の時にリベリスタに大部分を駆逐されたということも大きい。 「……皆の命を私に預けてくれ。私は、英雄としてキミたちを導く義務がある。キミたちを生き残らせるために、尽力しよう」 詭弁であるとはいえ、演説は成功した。指揮の高い小鬼たちは器用にも様々な装備で武装し、本丸と雄鬼を守るために展開を始めた。 (……すまない) 雄鬼は心の中で懺悔を呟きながら、小鬼の描かれた軍旗を振るう小鬼たちを見渡した。 ざっと見て数は50体。 これが、どこまで戦えるのか。 ●小鬼陣 鬼ノ城自然公園に出現した鬼たちの本拠地。その簡易的なマップを広げて、フォーチュナの『運命演算者』天凛・乃亜(nBNE000214)は慌ただしく説明を始めた。 「まず、最初に。アーティファクト逆棘の矢はこちらには二本あるわ。みんなも頑張ってるけど、鬼の戦力は予想以上みたいね」 温羅に対する切り札、逆棘の矢は二本あれば上等だ。作戦はある程度成功を収めたと言えるだろう。 「だけど、万華鏡は悲劇の未来を写したわ。鬼は再び人間社会に対して進撃を開始する未来よ」 凶暴な鬼たちが人間社会に出ればどうなるか。それは以前の進撃の際に多くの未来となって現れた。 「もちろん。アークはこれに対して対策を立てたわ。……こちらから打って出る、決戦よ」 作戦目的の一つは当然温羅の撃破だが、もう一つは鬼道の本拠地である鬼ノ城の制圧だ。この制圧任務の手助けが、今回集められたリベリスタたちの目的となる。 「鬼たちの本拠地の鬼ノ城は堅牢。だから、4つのエリアに分けてエリアごとに考えることにしているわ」 乃亜は指を向けてブリーフィングルームに大きく張られている戦略マップにリベリスタたちの視線を誘導する。そこには、大都会岡山の地図とそれぞれのエリアの予測地図があった。カレイドシステムの力は、こういうところにも現れる。 「今回、私達が担当するのはこの本丸エリアにいる小鬼の群れね。前回の襲撃の時にもいた小鬼たちだけど、今度はリーダーに率いられているみたい」 リーダーの名は雄鬼。戦闘力では他の鬼にも劣らず、小鬼たちに的確な指示を飛ばすという厄介な相手だ。 「この本丸エリアは最後の関門と言える場所よ。相手も必死に戦うでしょうね」 それから、この小鬼の群れの布陣が書かれた資料をリベリスタたちに渡していく。 「ちょっと読むところは多いけれど……私が分かることは全部書いておいたわ。みんな、がんばってね」 資料の表紙にハートマーク。ちょっとお茶目な部分が見えるが、これはこれで乃亜の本気なのだろう。 その本気に答えるためにも、リベリスタたちは……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月12日(木)00:04 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
●小鬼の廊下 その長い通路にびっしりと詰め込まれたような敵の軍団を見渡しながら、『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)はぶるぶると少女のような小さな顔を震えていた。敵の進軍は、地平線の向こう側から雲が上がってきた様子に似ている。 とはいえ、リベリスタも進軍せねばならない。この戦いは決戦であり、人と異種族のぶつかり合いというものはそういうものだ。 どちらが生き残り、どちらが死ぬか。 ――少なくとも小鬼たちは、そう思っている。雄鬼もそうだ。 「ねえ! なんで戦うの? 歴史に名を残す代わりに死んじゃったら意味ないじゃない!」 だけど、そう思わない者だっている。子供らしいまっすぐな目を向けて、子供らしいまっすぐな声を大きく張り上げる『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は、戦う意思を持ちながらもこれから対戦する異種族たちに声をかけていた。 アリステアだってここが戦場であり、そんなことを叫んだって戦いをしなければならないのは分かっている。 「種族とかそんなのは置いといて、生きていてこそじゃない。ここで戦って死んで、何が残るの? 誰が“あなた”を覚えていてくれるの?」 だけど、声をあげずにはいられなかった。このちっちゃな生命たちが、何のために頑張るのかが分からなくて、弱くても軽んじられる命なんて理解したくないから。 「……」 その言葉に、雄鬼は黙っていた。一部の小鬼はこのアリステアの言葉で動揺しているが、それを雄鬼はあえて見逃す。そんなこと言ってくれる者は、今まで誰もいなかったから、今はその言葉を噛みしめる。 だけど、戦うことを放棄することはできない。鞘に収まっていただんびらを抜き、白く輝く刃を掲げて戦いの時を小鬼たちに示す。 戦いは避けられない。分かっていたことだが、アリステアは肩を落とした。 ――結果的に言ってしまえば、この呼びかけは効果があったのだ。だが、今のアリステアとリベリスタたちはそんなことを知る由もない。 「たとえこけたら死ぬ様な奴でも日常を壊そうとしている以上、「敵」ぜよ。敵として立ち塞がる以上手加減なんぞできんで」 そんな様子のアリステアを気遣って、優しい言葉で語るのは『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)である。もちろん、アリステアが戦うつもりなのはわかっているから、優しくその肩を叩く。 「そもそもそんなんしとったら戦う相手に失礼やからな」 にっ、と笑って小鬼の軍勢に向けてサムズアップをする。 「向こうにも鬼の矜持があるようにこっちにも人の矜持がある。考えた中で一番ええ作戦をぶつけちゃる。さぁ、勝負や」 いただきますをするように両手を合わせ、音を鳴らしてから武器を構える。戦いはこれから始まる。当たり前のことだが、油断はできない。 「生きるために、過酷であろうとも戦わねばならぬ種か。鬼も難しいのだな」 こちらを組んでいた腕を解いて、首を鳴らす『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)。おじさまたちのフォローが入って、ちょっとアリステアは元気になった。 「然し斯様な彼らに対し相応の意を以て当たりたいと強く感じる」 源一郎は気合を入れて、鬼の群れに向けて突っ込んでいく。鬼の前衛は盾を持った防衛小鬼たちであるが、これを暴れ大蛇でなぎ払いに行ったのだ。 数で劣ることも、相手が優秀な指揮官であるということもわかっている。だから、先手を打つつもりだ。 「これだけ大勢の敵に切れる指揮官が付いてるとなると、わたしたちも必死に頑張らないとね」 眼鏡をかけなおし、『本屋』六・七(BNE003009)はレンズの向う側で始まった戦いに参戦する。 「相手が必死で来るのなら尚更。全力で応えるよ。1匹残らず片付ける」 以前病弱だった体とは思えないほどアグレッシブに動き周り、できるかぎり敵の行動をよく見る。味方をかばうためだ。 「これは一端にしか過ぎないけど、一端なんて言葉じゃすまないくらい重要だ」 深呼吸をしてから、続いて『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)がサイドポニーの金髪を揺らしながら行く。金に光る髪と青い目はこの薄暗い廊下ではよく目立つ。 その若さも。 「温羅との戦いまでに、どれだけこっちの力を温存できるか。気合を入れてかからなくっちゃ」 ぶんぶんと回した手は子供っぽく、リベリスタ達は戦闘前だというのに和んでしまった。 「……突破させてもらうよ!」 翼の加護によって味方を浮かせつつ、七に対して浄化の鎧を付与するための力を体から生み出す。 「踊れ燐光、纏え加護。茨の魔力を此処に」 光は茨となり、茨は鎧となって七の出る所が出た体に纏わり付く。それはレイチェルが作り出した、意志の鎧だ。 「サンキュね」 にっと笑う七。えへへ、と笑うレイチェル。穏やかな光景。 一方、最前線では……、 「こけてお釈迦な小鬼も集まりゃ鉄壁ってか? そんな鉄板張りぼての壁は遠慮なくぶち破ちまうぜ」 真っ先に小鬼の群れの前に立ったのは大鎌を持って舌なめずりをする緋塚・陽子だ。緋色の翼を広げ、超強気に突っ込んでいったのだ。 「人生は何事も博打だろ」 へっと笑ってダンシングリッパーを放つ。放たれた横薙ぎのギロチンのような刃はポニーテールと共に揺れて衝撃が防衛小鬼たちを薙ぎ払った。 「どんなもんだ」 これが決戦の始まりとなった。 「反撃急げ! 人間に遅れをとるな!」 「まずは数を減らせてもらうでぇ!」 仁太のハニーコムガトリングと、ライフル小鬼の銃弾が戦場に飛び交う。長い廊下に大量の薬莢が転がり、火薬臭さが戦場を支配していく。 「前の時、マフラーをつけようとした鬼がいたけど。もしかしたら……マフラー小鬼の弟だったのかも」 そんな中で、マフラーを付けて佇んでいる一匹の小鬼を見てぽやんと思い出す智夫だった。 「うわっ! とっとっと。そうだったそうだった……前ほど数は多くないけど……通路に布陣されると威圧感があるなぁ」 飛んできた陰陽小鬼の星攻撃で倒れつつも、てへへと笑って智夫は戦闘に参加する。 ●飛び交う乱戦 ライフル小鬼たちが放ったライフル弾が、ハニーコムガトリングで小鬼を次々に撃墜していく仁太に集中していく。まずは、こちらを止めようと小鬼達は思っているのだろう。 「ブッ放してやりな! なぁに、あんたはあたしが! 腹に穴開けられようが守ってあげる!」 というのも、『кулак』仁義・宵子(BNE003094)が仁太の前に立ち、両手を広げて庇っているからだ。守られるということは、重要な目標に決まっている。 とはいえ、銃弾は容赦なく宵子に集中し、その体を撃ち抜いていく。収集された弾丸は、何重もの弾幕となり何度も何度も体を貫いた。 「……あたしは弱いよ。でもね、やれることはあるんだよ!」 だけれども、宵子は歯を食いしばって両手を広げたままだ。フェイトの力を使ったのである。 それに、それだけではない。 「これでもう、さよならだな」 宵子に掛けられていた光の鎧が牙となり、いくつかの銃弾を跳ね返してライフル小鬼たちを倒していく。ニヤリと笑う『Gloria』霧島 俊介(BNE003094)の仕業だ。 「貴重なおっぱいさんを殺させる訳にはいかないんだぜ!! そうだよな!!」 先程から手を広げているせいで強調されている宵子の胸を見る、ちょっと空気読めない俊介であった。 「まぁ、人間それぞれやね。ともかく、防御は任せたで仁義ちゃん、その分わっしが蹴散らしちゃるわ」 仁太は更にハニーコムガトリングを連打。その横で『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)は仁太に対してチャージを使っている。まさにガトリングの砲台、と小鬼達には見えただろう。 それは、リベリスタたちの作戦でもある。重要な目標がこの二人であるという風に見せるための。 「……攻撃目標を術者に移せ! 光の鎧を避けて攻撃を行うのだ!」 しかし、それを雄鬼は見破った。反撃で倒れていく小鬼たちに違和感を覚えたのである。故に、レイチェルと俊介を狙うように指示したのだ。 だが、見落としていた。 「おっと、私を忘れてもらっては困るね。それに、わたしが怪我するのはともかく回復役は何としても守り切らないとね」 ライフル小鬼たちのライフルと陰陽小鬼たちの陰陽ビームを跳ね返しながら、七が立ち塞がる。七は、庇うために待機していたのだ 「ま、反射といっても痛くないわけじゃないけど……」 撃ちぬかれた脇腹と、不吉の象徴として張り付いた小鬼のドクロマークを手で抑えながら、苦い顔でフェイトを使い体力を戻す。 「……イタタタ」 七に限らず、銃弾や陰陽小鬼の攻撃を受けてダメージを受けて居るものは多い。敵の数が多いからだ。 「大丈夫ですか? 今すぐに回復しますからね!」 だから、アリステアが天使の歌を使って仲間達を癒していく。小さな体で一生懸命に、仲間を心配して、仲間のために動く。そんな様子に雄鬼は少し目を細めた。 「……前衛は、もう持たぬか」 壁となっていた防衛小鬼達は、押されつつある。そもそも、彼らは種族的に防衛には向いていない。よくやったと言える方だろう。 「ナイチンゲールフラッシュー! って、すっかりなれちゃったなー……」 「こちらに味方はいないな。では……ぬぅんッ!!」 智夫の神気閃光がお互いをかばい合う防衛小鬼たちを消滅させていき、源一郎の無頼の拳は小鬼の盾をぶち壊して本体をぶち抜いていく。 「どんなに硬くたって、どんなに攻撃の受け流しが上手くたって、こっちが運よく当てれば小鬼はぶっ倒れる。……つまり、オレはお前たちをぶっ飛ばせるってことだ!」 更には、陽子のダンシングリッパーが防衛子鬼たちをなぎ払っていく。刈り取られた防衛子鬼たちは、それぞれ防御を固めていたため数分は持たせることができた。 「だが。持たせることができたのは、向こうも同じか」 防衛子鬼たちが敗れた瞬間を見計らい、雄鬼は前衛に対して爆弾を投げ込む。投げ込まれた爆弾は強烈な閃光を放ち、城を震撼させるような巨大な爆発を引き起こす。 「あっ! こ、こう見えてもクロスイージスなんだからね!」 爆発の衝撃によって智夫の外套が吹き飛び、中から二本のナイフを構えた智夫の姿が現れる。彼はこの爆発の中でも耐えていた。 「ならば、もう一度攻撃するまでよ!」 更に投げ込まれた爆弾が、前衛の三人を吹き飛ばす。小鬼の小さも相まってコミカルな絵図であるが、脅威の威力であった。 「ぐぅっ……オレの運はここまでかよ」 それ故に、陽子は爆風でラフな服装ごと体を吹き飛ばされてフェードアウトし戦闘不能、源一郎は壁に叩きつけられてフェイトを使わざるを得なかった。 「汝らが誇り高き戦士だと知り、敬意を示す。然し掴みたい未来が在り、負けられぬのは我らも同じ故に、全力で戦う事を以て汝らへの賞賛と成す」 源一郎はそんな爆風の中で、小鬼たちと雄鬼に問いかける。まっすぐ向いて戦うと値する相手だと、認識したからだ。 「我が名は雄鬼。小鬼たちを率いるもの! お互いの未来を賭け、ここで決着をつけようではないか!」 雄鬼はだんびらを手に、突撃していく。防衛子鬼たちはほとんど破れ、ライフル小鬼も陰陽小鬼も数が減ってしまった、 「いざ、勝負!!」 戦いの分が悪いと知っていても、進まなければいけない時がある。英雄とは、そういうものだ。 「英雄など、死後称えられる者でしかありませんのに」 ぼそりとロマネはつぶやく。 ●一騎打ちと、その後 向かってきた雄鬼に反応したのは、陽子の代わりとして前線に立った宵子だった。 「タイマン、させてもらうぜ!」 「いいのか?」 「当然! こんな強い奴が居たんだぜ! って誇らせなよ」 俊介の浄化の鎧を受け取ることを拒否し、先に他の仲間達へ使ってやれと宵子は言う。 「バカなやつめ。――行くぞ!」 「バカで結構。仁義、推して殴るッ!」 雄鬼は早かった。小さな体で縦横無尽に駆け回り、宵子の視界から消えてしまう。 「せっかく人がカッコよく決めたってのに!」 「失礼!」 背後から気配を感じた宵子が、スモールシールドを構えて振り返る。しかし、だんびらはそのシールドを避けて宵子の体を斬りつける。 「矜持、だったんだけど……ねぇ!」 体をひねり、ナイフを振り回しての反撃。切っ先は雄鬼の頭へ――! しかし。 「……ぐっ」 「……危ういところだった。お前の強さを刻もう」 ナイフは紙一重のところで避けられ、だんびらが宵子の体を切り裂く。 「あとは……みんなに、任せるよ」 そのまま、体力がなくなった宵子は倒れてしまう。ぐったりと。 「さて、時間を稼がれてしまったな。戦況は――芳しくないか」 「まあ、こっちはこっちで仕事をさせてもらったよ」 七が雄鬼に答える。ダンシングリッパーの刃は小鬼たちを削っていった。 「茨の魔力を以下略!! 私の茨が、小鬼たちを倒したよ!」 レイチェルは浄化の鎧を仲間達に掛け終わっていた。鎧の力は小鬼に対して効果絶大であり、攻撃してきたライフル小鬼を全滅させるに至っていた。 「もう一回! ナイチンゲールフラッシュだよ!」 「これでしまいや。……中々、強かったでぇ」 そして、陰陽小鬼と残った防衛子鬼たちは智夫と仁太によってほぼ壊滅させられていた。残ったマフラー小鬼と一部の小鬼たちは、アステリアの方を一度見てから見て戦意をなくす。……優しい言葉は、通じたのだろう。 「もう、止められないの……?」 アリステアは仲間達を回復させつつ、再びまっすぐに雄鬼を見た。この優しすぎる問いに雄鬼は小さな体を振って答える。 「戦いに情けは無用。いざ、勝負」 たとえ、あの鎧の力で自分が死んだとしても。戦わなければならない。それが、英雄として仲間達を戦いに巻き込んだ者の責任。そう雄鬼は思っている。 「そんじゃ。私も戦うよ!」 「禍鬼とばかりぶつかっていたが、斯様な鬼が居ると知れて良かった。……いざ参らん、鬼退治へ」 「いーい風が吹いちょる、ええことありそうやな」 七はハイアンドロウを、源一郎と仁太はバウンティショットを使って小さな体で高速移動を始めた雄鬼との戦いに入る。その結末はわかりきっていた。 それでも――本気でぶつかり合いたい。 「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」 「でぇぇぇぇい!!」 リベリスタたちと雄鬼の胸には、言葉に出来ない熱いものがこみ上げていたから。 戦いが終わって、アリステアを回復を受けながらリベリスタたちは先を急いでいた。戦いはこの一戦で終わりではない。 「戦いはまだ終わりじゃないから。すべてに決着をつけなきゃね」 「だけど、オレの仕事はここまで、奥に居る禍鬼や鬼の王様の相手はお前等に任せるぜ」 どこまでいっても、廊下は通過点だ。 「鬼からも虐げられている小鬼達が、それでも立派に戦った事……忘れないよ」 それでも、智夫は一度足を止めて手を合わせる。 「良き生き様を見せてくれた事に感謝を」 源一郎もまた、手を合わせる。その先にあるのは、雄鬼が持っていただんびらだ。これを手に、雄鬼は最後まで果敢に戦った。 「月並みだけど安らかにね、小鬼」 手を合わせ終わったら、小鬼たちの死体が大量に転がる廊下をリベリスタたちは行く。 できるかぎり、小鬼の死体を踏まないように。 その尊厳を、踏み躙らないように。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|