● 『烈鬼(れっき)』と呼ばれるその鬼は、血に酔いしれることを好まない。 暴虐の限りを尽くす鬼道においては、珍しい性質と言えるかもしれなかった。 彼の願いは、ただ一つ。鬼ノ王『温羅』が、この地で覇権を握ること。 何者にも脅かされることのない、鬼の国を作ることだった。 そのためには、我が身すら惜しみはしない。 烈鬼が得手とするのは、攻めより守り。 そして今、この『鬼ノ城』には敵が迫っている。 自らを防壁となし、城と王を守り抜くことこそ、彼の使命。 「――往くぞ」 左右に控える『角守り』と、後方の配下に短く声をかけ、烈鬼は部隊の先頭に立って出陣した。 鬼ノ王『温羅』に仇なす敵を、打ち払うために。 ● 「今回は鬼たちとの決戦になる。厳しい戦いになるだろうから、どうか心して事にあたってほしい」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を見て、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は緊張した面持ちで口を開いた。 「皆も知っていると思うが、温羅への切り札である『逆棘の矢』は五本中三本が鬼の手に渡った。 残りの二本はアークが確保したが……鬼にとっても、王を滅ぼし得る『逆棘の矢』は重要な意味を持つんだろう。四天王を動かしてまで、全力で奪いに来たわけだからな」 いずれにしても、アークは『逆棘の矢』を二本入手することができた。 温羅への対抗手段を手に入れるという作戦目標は、ひとまず一定の成果を上げたと言って良い。 「ただ、その間にも事態は大きく動きつつある。 鬼たちは近いうちに大規模な攻勢に出て、人間たちの社会を壊そうとするだろう。 その未来を――『万華鏡』が感知した」 先日の戦いにおいても、鬼たちは陽動と称して白昼堂々と人間たちを殺して回っている。 さらに、強力な鬼を復活させる儀式のために、多くの命を生贄として捧げた。 「……あれ以上の暴挙を、繰り返させるわけにはいかない。 温羅と戦うための対策はまだ完全じゃないが、鬼たちが動き出す以上、見過ごせないのも確かだ。 よって、アークは今回、鬼たちとの決戦に踏み切ることにした」 作戦目標は、鬼道の本拠地である『鬼ノ城』の制圧。および、鬼ノ王『温羅』の撃破。 鬼ノ城自然公園に出現した『鬼ノ城』は堅牢な防御力を誇る。当然、戦いは激しいものになるだろう。 「温羅に辿り着くまでには、大きく分けて四つの部隊を相手にすることになる。 まずは『鬼ノ城』の城外でアークを迎撃する四天王『烏ヶ御前』の部隊だな。彼女らは『鬼ノ城』に敵を寄せまいと動いてくるから、ここの対応次第で城の外周部における安全度が変わる」 城外を制圧することができれば、後方回復支援部隊による援護効率を上げられるだろう。 「次は、城門に位置する四天王『風鳴童子』の部隊だ。 城攻めにおいて、地の利は守備側にある。そう易々と突破を許してはくれないだろうが…… ここを抜けた後も、御庭には鬼の官吏『鬼角』が率いる精鋭近衛部隊が控えている。 激戦は必至だが、この城門と御庭を制圧すれば本丸への進撃が効率化できるし、鬼角の大術を無効化して温羅の防御力を下げられるはずだ」 御庭を突破したら、いよいよ本丸に辿り着く。 「本丸の下で迎撃にあたるのは『禍鬼』だ。どうにも底が知れないが、色々な意味で手強いのは間違いない」 その先に待つ『温羅』との決戦に臨む部隊の余力をどれだけ残せるかは、それぞれの戦場の勝敗にかかっている。 「――あと、『風鳴童子』と『鬼角』、そして『禍鬼』は『逆棘の矢』を持っている。彼らを撃破することができれば、矢の奪取も可能かもしれない。各エリアの制圧と合わせて、重要な作戦目標になり得るだろう」 ここまで話し終えた後、数史は顔を上げてリベリスタ達を見た。 「皆には、城門を守る『風鳴童子』に協力する鬼の一部隊と戦ってもらうことになる。 十一人からなる部隊のリーダーは『烈鬼(れっき)』という名前で、ずば抜けて守りの技に長けている鬼だ。 自分が持つ力の大半を防御に注ぎ込んでるから、やたら堅い上に、傷を受けてもすぐに回復しちまう。 普通に戦っても、倒すことはまず不可能だろう」 だが、物事に“絶対”ということはない。当然、『烈鬼』にも弱点が存在する。 「烈鬼の弱点は額の角だ。ここに対する攻撃だけは、奴の防御力も自己再生も意味をなさない。 一撃や二撃で倒れるほどヤワじゃないが、角に攻撃を重ねていけば、烈鬼を倒すことができる。 ……まあ、それも言うほど簡単な話じゃないんだけどな」 数史は眉を寄せると、やや言い難そうに続けた。 「烈鬼には『角守り』と呼ばれる二人の鬼がついていて、奴の角に対する攻撃の一切を封じてくる。 つまり、この二人を先に倒さない限り、烈鬼の角を狙うことはできない」 防御に長けた烈鬼が敵の多くを引きつけ、角守りが彼の弱点をカバーして時間を稼ぐ。 その間に、後方に控えた八人の攻撃役が敵を討つ――というのが彼らの基本戦術であるようだ。 「戦いになれば、連中は互いに連携して効率的に敵の戦力を削ごうとする。 隙を見せてしまえば、たちまちそこを突かれて命取りになるだろう」 彼らを倒すには、こちらもしっかりと作戦を組んでいく必要がある。 数史は手の中のファイルを閉じると、リベリスタ達の顔を一人一人見た。 「繰り返しになるが、厳しい戦いになることは間違いない。 俺には皆を見送ることしかできないが……どうか、全員無事に帰ってきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月06日(金)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 灯火が、『鬼ノ城』の威容を闇に浮かび上がらせる。 その城門近くでは、八人のリベリスタと十一体の鬼が対峙していた。 互いの先頭に立つ『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)と、『烈鬼』の距離は約20メートル。 烈鬼の左右に二体の『角守り』が控え、さらに10メートルほど後方に八体の鬼が弓を構えている。あと数歩踏み込めば、全ての鬼が攻撃を仕掛けてくるだろう。 「鬼と言うものを実際に見るのは初めてだね。成程、確かに角がある……」 向かい合う鬼たちを眺め、『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)が僅かに目を細める。烈鬼を始めとする鬼たちの姿は人に近かったが、その全員が額に角を生やしていた。 「リベリスタ、新城拓真。……譲れぬ物の為に、戦いに来た」 鬼たちの正面に立つ拓真が、烈鬼を真っ直ぐ見据えて声を放つ。 相手が武人であれば、こちらも武人として挑みたい。たとえ、鬼であったとしても。 烈鬼もまた、堂々と名乗りを返した。 『鬼道が一鬼、烈鬼。譲れぬのは我らも同じ、此の身に代えても汝らを止める』 低く落ち着いた声。 漆黒の瞳は、ただ静かな覚悟を湛えてリベリスタ達を映す。 (あらまぁ……信念が強い鬼、なのね) そういうのは嫌いじゃないけれど、と『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は思う。 鬼の国を、この日の本に作らせるわけにはいかない。 互いの道が交わらないのなら、全力で戦うのが筋というものだ。 眼鏡の位置を上げた那雪の表情が引き締まる。 「互いの信念、どちらが強いか……か。ならば、全力でお相手願おうか?」 『望むところだ』 「武人と呼ぶにふさわしそうな鬼ですね。ボクとしてはそんな強敵と戦えるのは嬉しくもあります」 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)は、意気込みを胸にそう口にした。 血も涙もない、残虐非道な鬼を相手にするよりは良い。 鬼たちの布陣から、火力の本命は弓兵であると確信した『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)が、自らを迷わず囮とする烈鬼を見て「良い性格をしていますね。理想の指揮官ですよ」と評する。惜しむらくは、彼が鬼であること――。 「これ以上、やつらの好きにさせるつもりはない。俺たちが始めた戦いだ、俺たちで終わらせる」 迷いのない『red fang』レン・カークランド(BNE002194)の言葉に、『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)が頷く。 「矛盾って言葉があるよな。全てを貫く矛に、全てを防ぐ盾、それがやりあったらどうなるのか? 今夜、それを証明する機会がきたってもんさ」 烈鬼の守りがいかに堅かろうと、それ以上の一撃をもって打ち貫くのみ。 「鬼との最終決戦のファイナルターンです。香夏子本気で行きますよ! ドロー!」 手札を引くような仕草とともに、『第19話:戦場カメレオン』宮部・香夏子(BNE003035)が先陣を切って駆ける。 攻めるリベリスタと守る鬼の戦いが、ここに幕を開けた。 ● リベリスタ達の狙いは、前衛五名で烈鬼と角守りを足止めする間に弓兵である配下を倒すこと。 全力で駆け、烈鬼と角守りのブロックに回った香夏子、光、那雪に向けて、二体の角守りが相次いで雷を放つ。体内を駆け巡る衝撃が、彼女らの全身を痺れさせた。 「さて――その目論見ごと、圧し折らせて貰うとしようか」 大きな弓を構えたリィンが、配下の一体に狙いを定める。烈鬼との距離を20メートル近く空けた分、複数の対象を同時に狙うことは出来ないが、30メートルの射撃が可能なのは何も敵だけではない。魔力により生み出された呪いの矢が、配下の一体を過たずに射抜いた。 烈鬼の射程ギリギリに立って仲間達を回復の射程に収めたルカが、翼の加護を全員に与える。レンが、拓真が、全速で烈鬼のブロックに走る中、烈鬼が腹の底から吼えた。 『オオオオオオオオォ――――ッ!!』 すんでのところで間に合った零児が、ルカを庇う。 序盤における零児の役目は、回復の要たるルカを護ること。そのため、今日の彼は普段愛用している鉄塊の如き大剣ではなく、防御に優れた剣を携えてきていた。 烈鬼の気迫に揺さぶられ、光とリィンが怒りに我を失う。直後、後方に控えた配下が一斉に弓を構え、前衛たちに矢を浴びせた。特に、電撃の影響下にないレンと拓真に攻撃が集中する。鏃が深く食い込み、赤い血が流れた。 怒りに囚われた光が、振り上げた勇者の剣を烈鬼に叩き付ける。続けて、リィンの放った呪いの矢が烈鬼の肩口へと突き刺さったが、元より頑強な肉体に生命の紋を施した烈鬼は揺るぎもしない。 香夏子が、そこに赤き月を解き放つ。禍々しきその輝きは、射線を無視して全ての敵に襲いかかったが、しかし、電撃に全身が痺れた状態では、わずかに当たりが浅い。数瞬遅れて、ルカが聖神の息吹で仲間達を縛る状態異常を浄化し、同時に傷を癒した。できれば敵の射程外に立ちたいところだが、前衛に回復を確実に届かせるためにはそうも言っていられない。 角守りの前に立った那雪が、脳の伝達処理を高めて自らの集中を高める。 「さぁ……鬼退治といこうか?」 那雪の言葉に答えるようにして、レンが自らの足元から意志ある影を伸ばした。 「ここは突破させてもらう」 いかに大きく、堅牢な壁であっても、越えられない壁はない。 壁が大きければ大きいほど、乗り越えた時に強くなれるというものだ。 必ず、乗り越えてみせる。――そのためにも、ここで道を切り開く。 角守りたちが放つ雷撃が、戦場を青白く照らし出した。 避雷針の如く剣を掲げてルカを護った零児の耳朶を、烈鬼の雄叫びが激しく揺らす。 拓真と零児を怒りに落としたこの一声が、戦いの流れを大きく動かした。 生死を分かつ強烈な斬撃を烈鬼に見舞う拓真に続き、零児が全力で烈鬼に駆ける。離れた場所から攻撃する手段を持たぬ以上、烈鬼を狙うには接近するしかない。 そして。その瞬間を、鬼たちは見逃さなかった。 『――癒し手を撃て!!』 烈鬼の号令に応えて、八体の鬼が一斉に矢を放つ。 強弓から放たれた矢が、ルカの細い身体を次々に射抜いた。 香夏子が赤い月の呪いを解き放って鬼たちを傷つけるも、攻撃の手は止まらない。 角守りたちが同時に放った二本の鎖が絡みつき、ルカの生命力を奪い取る。 闇に閉ざされかけた意識を、彼は己の運命で繋いだ。 元より、回復役である自分が集中攻撃を受ける可能性は考慮している。 自分が烈鬼であっても、迷わずそうするからだ。 だが、ここで倒れるわけにはいかない。 「……私は、自身のやるべき事をやるまでです」 自分に回復を託した、仲間達のためにも。 ● 光の放った一条の雷が、角守りたちの雷撃に負けじと戦場を奔った。 怜悧な水晶の刃を持つ“刹華氷月”を手の中で弄びながら弓兵たちの動きを観察していた那雪が、全身からオーラの糸を放って彼らの腕を狙い撃つ。 武器を落として攻撃力を削ぐ狙いだったが、鬼たちは気糸に傷つけられてもなお、弓をしっかりと構えて放そうとしない。精鋭とは呼べないまでも、彼らも強力な鬼であることに違いはないということか。 気糸の一撃で動きを鈍らせた弓兵に向けてリィンが矢を放ち、これを屠る。 烈鬼の咆哮が戦場を揺るがせる中、ルカの詠唱が聖神の息吹を呼び起こし、仲間達を優しく包み込んだ。怒りに陥りかけたところを救われたレンが、バロックナイトを再現する赤き月の呪いを振り撒く。腰裏の鞘から“風絶”を抜いた拓真が、それをブーメランの如く投擲し、立て続けに二体の弓兵を撃ち倒した。 怒りから覚めた零児が、ルカを護りに戻るべく全速で駆ける。しかし、20メートルの距離は一手で庇うにはあまりに長すぎた。唇を噛む彼の眼前で、ルカが弓兵の矢に貫かれる。 「たとえ咽が枯れ果てようとも、倒れようとも、何時までも何度でも――」 癒しの詠唱を止めようとしない彼の背を、気紛れな運命(ドラマ)が支える。 しかし――それでも。奇跡とは、そう簡単に起こるものではない。 さらに飛来した矢を受けて、回復の要がとうとう倒れた。 弓兵を務める鬼たちは今もなお五体が健在。 対するリベリスタは、状態異常と体力の回復を同時に行えるルカを欠いた。 苦しい状態に立たされつつあるが、ここで攻め手を緩めるわけにはいかない。 香夏子の生み出す赤月の輝きが、リィンの放つ呪いの矢が、鬼たちの命数を削る。 「相手が自らの任の為、命を惜しまず戦うように、 ボクはボクの信念の為に全身全霊をかけて戦うですよ!!」 迷いのない声とともに蒼き雷を召喚する光に続き、那雪が全身から煌くオーラの糸を放った。 「私の糸は、狙いを外さない……そうだろう?」 的確に弱点を打ち抜く気糸が、さらに二体の鬼を沈める。攻め手に加わるべく前進した零児が、破壊の闘気をその身に漲らせた。 三体まで減らされた残りの弓兵を守るべく、角守りがレンと拓真を封じの鎖で絡めとり、烈鬼が咆哮を響かせる。弓兵たちが次に狙ったのは、その高い回避力をもって怒りを免れ続けている香夏子だった。 強弓の一矢でわずかに動きが鈍ったところに、燃え盛る火矢が撃ちこまれる。 全身を炎に包まれた香夏子は防御を固め、続く攻撃を盾で受け流したが、ルカが倒れた今、状態異常や傷を癒す手段を持つのは光だけだ。その彼女も先に放たれた烈鬼の咆哮で怒りに囚われており、回復がままならない。仲間達を支配する怒りは呪いを帯びて簡単に覚めることなく、その間に香夏子はじりじりと削られていく。並のリベリスタであれば、この時点で倒されていただろう。 角守りの右腕から飛来する奪いの鎖が、香夏子の脇腹を掠める。時間差で放たれたもう一本の鎖が、彼女の全身を絡めとって生命力を吸った。すかさず、烈鬼が豪腕を振るって強烈な一撃を見舞う。 まだ幼い、香夏子の小柄な身体から、みしりと骨が軋む音がした。 火矢に貫かれ、炎に焦がされて膝をつきながらも、香夏子は己の運命を燃やして立ち上がる。 「香夏子……まだ倒れませんよ……?」 気力を振り絞り、なおも戦場に留まる彼女の傍らで、レンが己を縛る鎖を自力で砕いた。 時を同じくして我に返った光が、勇者に相応しい神々しい光を放って仲間達の怒りを消し去る。 那雪を中心に広がった気糸が鬼たちを次々に貫いた直後、リィンの射た呪いの矢が一体の心臓を撃ち抜いた。烈鬼の額に生えた角に視線を走らせ、本当はあの角を狙ってやりたいけれど――と、薄い笑みを浮かべる。 「デザートは後で取っておくとしよう、我慢我慢……♪」 本当の楽しみは、他の鬼たちを全て倒した後だ。 この状況にあっても、リィンは余裕の表情を崩さない。 角守りたちの雷撃を掻い潜り、レンが赤い月の呪力で鬼たちに不吉を刻む。 拓真の手から投擲された“風絶”が、その名の通りに風を断ちながら空中を激しく舞った。 驚くべき速度から繰り出された刃が一度、二度と鬼たちを穿ち、全ての弓兵に止めを刺す。 ほぼ同時、烈鬼の豪腕が唸りを上げて前衛たちに襲い掛かり、香夏子を打ち倒した。 数の上では、これで六対三。しかし、烈鬼と二体の角守りはなお健在だ。 戦況は、まだまだ予断を許さない。 ● 零児の全身に漲る闘気が爆発し、角守りの一体に強烈な斬撃を叩き込まれる。 浅からぬ傷に身を揺らがせながらも、角守りは片割れと連携して雷を放った。 主な標的は、精密な射撃を得手とするリィンと那雪の二人。角守りの双方が倒されたとしても、烈鬼の角に攻撃を当てない限り、この頑強な鬼を打ち破ることは叶わない。敵の火力を削ぐという意味においても、比較的耐久力が低いと考えられる二人を狙うのが最も有効と思われた。 雷撃で体力を大きく削られたリィンを、光が癒しの微風で回復する。 全身の痺れに構わず、那雪がオーラの糸で角守り達を撃ち、既に傷を負った一体の動きを鈍らせた。追い撃つように、リィンが呪いの矢で傷を広げる。 不吉を告げる赤き月を上空に解き放ちながら、レンが烈鬼を真っ直ぐに睨んだ。 「自ら弱点を教えているのは、守り手には不向きだな」 『そうかも知れぬ。――だが、敵の狙いは明らかであるほど守り易い』 烈鬼の気迫が、咆哮と化してリベリスタ達を打つ。 金剛不壊の信念を宿す鬼は、なおも自らを盾として敵の怒りを一身に集めてのけた。 再び怒りに囚われた光を見て、那雪の背に冷たいものが走る。 今、ここで烈鬼に攻撃が逸れるのは拙い――。 彼女はオーラの糸で角守りを撃ったが、まだ倒すには至らない。 反撃とばかりに封じの鎖が彼女に絡みつき、遅れてもう一体の角守りがリィンに奪いの鎖を放って彼の命数を削り取る。 己が運命を代償に踏み止まったリィンは反撃の矢を放ったが、それも長くは続かなかった。 仲間達が怒りから覚めるより先に、角守りの鎖がリィンを地に沈め、那雪からも生命力を奪い取る。 「まだ、倒れる時間じゃない……」 運命を引き寄せ、よろめく体を支える彼女の瞳に、怒りから覚めて頭を振る光の姿が映った。 神々しい輝きが仲間達を惑わす怒りを消し去り、角守りへと攻撃の手を向かわせる。 「我が前に立ちふさがる障害は、全て切り拓くのみ!」 「最高の一撃をお見舞いしてやる……!」 拓真と零児、物理火力に特化した二人のデュランダルが、全身の闘気を同時に爆発させる。 裂帛の気合とともに叩き込まれた“生死を分かつ二撃(デッドオアアライブ)”の前に、角守りの一体が命を散らせた。 残るは二体。しかし、奮戦するリベリスタも余力には乏しい。 倒れたルカの代わりに仲間達のサポートに徹する光も、状態異常と体力の回復を同時に行うことは不可能だ。態勢を立て直す前に、次の攻撃が届いてしまう。 烈鬼の豪腕に鳩尾を打たれたレンが、口の端から血を流しながら立ち上がる。 「こんなところで、倒れるわけにはいかない……!」 己の運命を燃やすレンの前で、那雪が角守りの雷撃に倒された。 同時に雷を受け、深く傷つきながらも、光はすんでのところで踏み止まり、残る敵を見据える。 「ボクは勇者になるまでそう簡単に倒れるわけにはいかないのです!!」 『……良く粘る』 仲間の半数を失いながらも未だ戦意を失わぬリベリスタ達を見て、烈鬼が短く感嘆の声を上げた。 零児が、機械化した右の瞳に紅炎を揺らめかせて剣を構える。 「ここを突破して、俺の攻撃とあんたの防御、どちらが上か確かめさせてもらう」 狙うは、残るもう一体の角守り。 拓真もまた、そこに向けて迷わず駆けた。 (負ける心算は無い、俺は負けられない) 何処かの誰かの為だとは言わない。 彼が、彼自身で在り続ける為に。ここで敗北する訳にはいかなかった。 「邪魔だ、退けぇっ……!」 猛撃する二人のデュランダルの前に、レンのブロックを振り切った烈鬼が立ち塞がる。 『退け。此処で散るのは本意ではあるまい。 ――それとも、同胞の命と引き換えに我らを討つか』 これ以上戦い続けるなら倒れたリベリスタに止めを刺すと、烈鬼は言外にそう含めた。 苦いものに満ちた表情は、その言葉が彼の本意では無いことを示しており――だからこそ、任のため非道すら為すという強い覚悟を告げている。決して、言葉だけの脅しではないだろう。 残る力を結集すれば、角守りと烈鬼を打ち果たせる可能性はゼロではないかもしれない。 しかし、鬼たちの猛攻に晒され続けたリベリスタ達の消耗もまた激しい。 ここで賭けに出て敗れてしまえば、撤退すらままならず、倒れた仲間達が命を落とす可能性が跳ね上がってしまう。 「……退却、するです」 勇者として、仲間をみすみす失うわけにはいかない――。 唇を噛み、光が残る三人に撤退を促す。 鬼たちとの戦いは、ここで終わりではない。 巻き返しを狙うにしても、まずは全員が生きて戻る必要があった。 かくて、リベリスタ達は苦渋の決断を下す。 ● 戦闘不能者を抱えて撤退するリベリスタ達を、烈鬼は追わなかった。 場を死守するという任を果たしたためか、十いた配下を一にまで減らされて余力が無かったのか。 あるいは、その両方かもしれない。 「烈鬼か……。 奴が鬼ではなく人であったのなら……解り合える事が、あったのかも知れない」 拓真の呟きに、答える者はいなかった。 人と鬼、この世界において両者が相容れることなど決して無いと、全員が知っている。 ならば――互いに譲れぬもののために戦い、決着をつけるまで。 長き戦いの夜は、まだまだ終らない。 後方の回復部隊と合流すべく、リベリスタ達は撤退を急いだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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