● 「はっはっは~。ごみはノックバックだー」 ● 「もうすぐ春ですね」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)に、そうですねと返していいんだろうか。 「春一番の季節。ぼっふーっと」 ばっびゅーんと。 「今年の『春一番』は、割とヒャッハー系」 へ? 「春一番」っているの? 「アザーバイド・識別名『春一番』 気象現象の『春一番』に便乗して、暴風吹かせて去っていく。同一個体が来るわけじゃないので、総称」 そうなんだ~。 「という訳で今回は、『春一番から自然薯を守る』」 はい? 「自然薯。ちょうど『春一番』が通過ルートに掘りたてほやほや超上物の自然薯が積んである。放置しておくと、風で全部へしおれてぱあに」 それは大変なことだけど、リベリスタが出て行くようなことか? 「もし、その自然薯に何かあった場合、それを楽しみにしてわざわざこの地域まで出張ってきたとあるおじいちゃんが気の毒なほど落胆する。もちろん暴れたりしない。大人だから。ため息一つついて、代わりのとろろ食べて、ちゃんと帰る」 そっか~。 「だけど、以来、そのおじいちゃんの周囲で小さないやなことが頻発。回りにもドミノ倒しのように悪いことばかりが続き、それが嵐のように伝播。最終的には大変なことにっ! となる」 なんだって、そんなことに。 「ため息つくと、幸せが逃げる。お爺ちゃんがため息をつくことによって、E・エレメント「逃げる幸せ」が発生。進行性、増殖性共に高い。放置すると、やがては日本全体が不幸になってしまう。鬼だの、六道だのうろうろしてる、このくそ忙しいときにそれは避けたい」 まさかぁ~。とろろでそんなことになるかぁ~? 「にわかには信じがたい。でも、すっごく楽しみにしてたから、すっごくがっかりする。万華鏡がはじき出した一つの未来」 風が吹けば、日本が滅ぶ。 「かといって、『春一番』に手出しは出来ない。高位存在で、暴れだしたらしゃれにならない。触らぬ神に祟りなし。お爺ちゃんにも以下同文。ずっと見張ってる訳にも行かない。お爺ちゃんがノーフェイスという訳でもなし」 周囲への影響は極小で。 「おじいちゃんをこの場でがっかりさせなければ、それでいい。だから、みんなには自然薯をかばってもらう。影響する地域を『春一番』が通過する所要時間、三分。その間。自然薯、死守」 それが、数多の命を救うと、イヴは言う。 「……ちょっと、かゆくなるかもしれないけど……」 ブレイクフィアー、効くから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月29日(木)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● それは、あると困るけれど、ないと不安になる気象現象。 何もかもを吹き飛ばす、ちょっと困った通過儀礼。 アザーバイド『春一番』 呼ばれてないけど、今年も参上。 ● 「春一番ですか……こちらに来るのは良いのですが。これは不幸な事故なんでしょうね」 『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)は、盾を握る自分の手を見て言った。 「逃げる幸せが生まれてしまう可能性があるという不幸な事故なんでしょう。未然に防ぐだけですし」 今回の保護対象は、自然薯。 自然薯の性とかならまだしも、自然薯そのもの。 「春一番には分からないことだと思いますが、ヘクス的に決まりなので言わせていただきます。砕いてみてください。ねじ伏せて見せて下さい。この絶対鉄壁を!」 ひゅ~。 アザーバイド「春一番」の到来を告げる、やや強い風がヘクスの脇を吹きぬける。 「ま、こっちには完璧な風よけもいるし、大丈夫よね。期待してるわよ、ヘクス。なんでも防げるんでしょ?」 『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940) は、ヘクスに対して複雑な感情を持っているが、その防御力は信頼している。 「……風から守るのはちょっと……まぁ、やるだけの事はやりますが」 大丈夫。 童話の世界じゃ、風より壁が強いってことになってるから! 「若さゆえの過ちでお年寄りを悲しませるなんて絶対にダメ!」 『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)、いくら小さく見えても、やっぱりオトナだね。 「自然薯の一本や二本、折れたところでどうでもいいけど、おじいちゃんのショックを隠した精一杯の笑顔とため息はどうにも良心が痛むわね……」 久嶺は、うんうんと頷く。 「しょうがないわね、守ってやるわ……。まったく、どうしようもないアザーバイドね」 「 異世界に来てまで暴風をふるうとは異界の存在も暇なのか」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は、憤慨していた。 「というか自分の世界で満足できないのだろうか。意思疎通の可能なら説教したい。小一時間、正座で」 と、握った拳が震えている。 「食べ物は大切にと言う言葉を知らないのか」 そこか!? 「自然薯守るぞー」 アラストールは、かなり気の抜けたシュプレヒコールを発した『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805) の手をとった。 「自然薯を一つ足りとて無駄にする気は無い!」 「自然薯カレーって美味しいって聞くし、一回食べてみたかったんだよね」 アラストールは、小梢の手を握った。 「「食べ物は粗末にしてはいけない、一本でも一欠でも。それは自然の生命の積み重ねた多くの命の結晶。ツーリング気分で粉砕されてなるものか」 「守ったら分けてもらえるかな?」 アラストールは、大きく頷いた。 それだ。 「美味しいとろろご飯食べたいです」 (騎士道とは関係ないけど、守らねばなるまい膳力で!) 説明しよう。 膳力とは、この先食べるお膳(食事)への期待を胸に、どれだけ死力を尽くせるかを示す値だ! 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は、少し遠い眼をして、煙草の火を消し、吸殻を携帯灰皿にしまい込む。 加えた場このままでは、顔に火の粉をまともに食らう可能性があるし、自然薯にヤキが入ったら最悪だ。 「春一番ってーと真っ先にアレを思い出すんだよなぁ」 (モノマネの芸人さんな) ああ、本物唯一公認の。とはいえ、今回は、本当に気候現象の春一番である。 「春一番が来れば暖かくなる……んだけど、こんな春一番はいらないよね……っとため息はダメだったね」 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は、慌てて口を押さえた。 うんうん、そのE・フォースを発生しないようにするのが今回の仕事だけれど、普段から気をつけて他方がいいね。幸せ逃げちゃうからね。 「よし!気を引き締めて自然薯護るよ! 目標は8つ全部! 皆でがんばって行こうね!」 おー。 「それにしても、ひゃっはー系ってなんだろー? モヒカンとかトゲトゲショルダーとかだったりするのかな?」 ティセが、首をかしげた。 うん、大体あってる。 ● 自然薯堀から帰ってきたおじさんが、段ボール箱にそれを入れた刹那。 突風が吹き抜け、箱をリベリスタ達のほうに飛ばしてきた。 「それを捕まえてくれえ!!」 一般人のおじさんは、地面に伏せているしか出来ない。 膳力を発して、空中で自然薯が入った箱をキャッチしたアラストールは安置された自然薯を春一番の暴風進路から避難させようと周囲を見回した。 しかし、どこまでも広がる野原。 さえぎるものは何もない。 今、かすかに感じる風の強さからいくと、ビニールハウスの類もぶっ飛びそうだ。 下手なところに置くのは危険だ。 (出来ればどこかにまとめて避難と思ったが、やはり自分たちでかばうのが最善か……!) 二本抱える。 ヘクスも箱に手を突っ込み、とにかく自然薯を二本つかんだ。 小梢は、自然薯を抱きかかえた。 久嶺も続き、用意した袋に二本入れる。 (直で持ったら痒くなりそうだわ……!) そういう心遣い、素敵だよ。 ティセ、烏、アーリィは、四人のフォローに走り出した。 その直後。 息も出来ないほど圧倒的な風、空気の塊がリベリスタをなぎ払った。 「え……!?」 今回、約1名のぞいて、キュートなお嬢さんばかり。 脚が宙に浮きましたよ? ガツウッ!! とんでもない音がして、リベリスタが振り返ると『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)の素敵なおでこに、風に飛ばされてきた一斗缶の角がもろにヒットしていた。 見た瞬間分かった。 少なくとも、作戦時間中はもう起き上がってこられない。 上空を仰ぎ見れば、雲に乗る大きな袋を持った、半裸のトゲトゲパンクファッションのニーちゃん。 アザーバイド『春一番』だ。 「どーしてよりによってこんな所通るのかしら? 風のくせに……空気読みなさいよ、空気ぃ!!」 上空に向かって久嶺が叫ぶ。 一秒置いて、盛大に久嶺の着物の裾がまくれ上がった。 絹を裂くような少女の悲鳴が上がった。 ● 自然薯が生えていた山々。 『春一番』は、雲をスノーボードのようにして何度も何度もいったりきたりしている。 ぐるんぐるんぐるん。 谷を使ってのハーフパイプ。 そういう訳で、突風暴風がもうしばらく吹き荒れます。 お手回り品にご注意ください。 「うう、ボトムチャンネルで遊ぶにしてもマナーは守って欲しいです……」 ティセはくすんと鼻を鳴らした。 コロンコロンとリベリスタ達が吹っ飛ばされる。 何しろ体重が可憐なお嬢さんが多いのだ。 とにかく、自然薯は守る。 捨て身の体勢に、自然リベリスタの傷も多くなる。 それでもぎりぎりで手渡される無傷の自然薯。 「なっ、久嶺! なんですか、その手はっ」 このままでは吹っ飛ぶと久嶺、ヘクスの襟首わしづかみ。 「貴方重いんだから、耐えられるでしょ、これくらい……!」 ヘクスの名誉のために言っておくが、ヘクスは重くない。 ヘクスの装備が重いのであって、同学年でもチビちゃんのヘクスは断じて重くない。 乙女の名誉に関わる大事なことなので、二度言いました。 「お願いです、どうかこの自然薯だけは……」 猫耳が、ペつたりと寝ている。 「この自然薯がなくなるとおじいちゃんが悲しむの」 そんなティセの訴えも、遥か上空を飛ぶ春一番には聞こえない。 そもそも食べ物という概念があるのかどうか微妙だ。 仙人とか、霞を食べてると言うし。 リベリスタの受け渡しにも限界がある。 指と指からつるりと滑った自然薯が、風に飛ばされ複雑骨折。 注意一秒、怪我一生。 アラストールの目が大きく見開かれ、次の瞬間きりりと引き締められた。 「一片たりとも無駄にはしない!」 すかさず、AFに回収。 おじちゃん、地面に伏せてるから見てませんね。ラッキー。 「折れても味は変わらないとは思うが、やはり気分の問題かねぇ?」 烏が、自然薯を受け取りながら呟く。 少なくとも、売り物としての価値は下がるねぇ。 「折れた分は捨てずにありがたくスタッフで、じゃねぇや。リベリスタの皆で頂きましたの方向で!」 それだ! でも、だからってわざと折っちゃだめなんだぜ! 「あなたにもおじいちゃん、いませんか?」 ティセ、健気に春一番に抗議中。 敬老精神、大事! 「やめたげてよぉ!」 それでも風はやまない。 うん。全然聞こえてない。 「はあぁ……」 ため息を漏らすティセにアーリィが叫ぶ。 「幸せ逃げちゃう! ため息ついちゃだめぇ!!」 (ほんとだったら、口塞いで挙げたいんだけど、回復の手が足りないよ) アンナは、起き上がってこられない。 (本職のアンナさんが居てくれたら。EP足りなくなっても、いくらでもインスタントチャージしてあげれるのにっ) しかし、泣き言を言ってもいられない。 戦闘思考と高速演算により、吹き飛ばされたものの着地予想地点を並列処理して算出し、最も効率的な地点に移動し、福音召喚を詠唱する。 プロアデプトならではの回復行使で、風に舞う木の葉のようなリベリスタは命数を繋いでいた。 久嶺の着物の裾が、ぶわーっと舞い上がる。 生脚に足袋と草履ってロマンだよね。 それはさておき、自然薯抱えているので抑えることもできない。 「ぐっ……このスケベ風め……! 脳内まで春なの!?」 『春一番』の名誉のために言っておきますが、『春一番』の視界には、まったくリベリスタは入っておりません。 この暴風突風は、『春一番』のお楽しみの副産物に過ぎません。 そもそも、それが目的だった場合、相手がいかに強力なアザーバイドだったとしても、イヴは討伐依頼を出しただろう。 「髪や服は乱れても我慢します」 ティセはぼさぼさ頭のまま、むくっと起き上がった。 「今はそれよりも、おじいちゃんの笑顔の方が大切なの」 ● 春一番が過ぎ去った後、病も堀のおじちゃんが、泥まみれで自然薯抱えている娘さん達に、90度超で頭を下げた。 「ありがとよ、嬢ちゃんたち。お礼に自然薯やりてえんだけど、これは待ってる料理屋さんが居てよぉ……」 その料理屋さんに予約を入れてるおじいちゃんの笑顔を守るのがリベリスタの使命だよ。 とはいえ。 (期待するのは幸せのお裾分け。爺様分は最優先で確保し、余剰分に期待だな。掘りたてでは無くとも美味いだろうしな) それでいいのか、46歳のおじさん。 「いえ、あの、守りきれなくて。折れてしまったのもありまして。面目ない……」 アラストール、隠匿しないで折れた自然薯を出した。 「仕方ねえよ。ヒドイかぜだもんなぁ。こんだけ残っててくれただけで恩の字だ。そうだな。折れた奴でもかまわねえかい?」 来たよ。来た来た、来ましたよ。 「その店においちゃんが予約入れてやらあ! 折れた奴の分でよけりゃ、名残の自然薯食べてってくれよ。俺のおごりだ。他にも好きなだけ食べてってくれ!」 ひゃっほう! リベリスタ達は手を取り合った。 情けは人のためならず。 いつか、その分は自分に返ってくるもんなんだよ! 「目標は、八本全部だったんだけどなぁ」 アーリィはちょっと残念と言いつつ、とろろご飯を食べ始めた。 「となりのとっろろ、ごっはんー♪」 ティセがぶんぶんと猫尻尾を振り回す。 絶妙にやばげな節回しで、機嫌よく歌っている。 「でもあたしはとろろそばー♪」 (カツオブシの効いた濃いおつゆにしっかりとしたとろろ。おそばと一緒におつゆととろろをずずっと吸い込むのがポイント) じゅるる~!! 「にゃはは、おいしー! おばちゃん、おかわりー。あ、うずらの卵もおねがいー」 烏は、女子供に囲まれて、親戚のおじちゃんか引率の先生のようだ。 「掘りたてでは無くともいいと思ってたが、よかったな。おじさんは、煎り胡麻に焼き海苔、うずらの卵を乗せたまぐろの山かけ丼とか絶品だと思うわけだ」 アラストール、とろろご飯を掻き込みながら激しく同意。 次はとろろそば、その次は山かけ丼。 「は~い、ヘクス。ハイターッチ」 「……通例ですしね」 久嶺とヘクスが、パッチンと手を打ち合わせる。 赤くなった掌。 なんと言うか……。 久嶺絵は自然薯を袋に入れていたが、それぞれが担当を決めずにその場の行き当たりばったりでフォローをしたため、結局素手で自然薯を触らざるを得なかったのだ。 二人は無言で、掌を掻き始めた。 「かゆくなったら、言ってね~」 ブレイクフィアーかけるから~。と、周囲の聞こえないように、子声で。 単品メニューでカレーととろろを合体させた小梢が、もりもりカレーを食べる。 「しかし、あれだな『春一番』とかいるとなると。流れ的には『盆』とか『お正月』とかもいそうだわな、茄子とか鏡餅の形の」 烏が言い出したことに、リベリスタ達の箸やらスプーンやらが止まる。 「その辺どうなんだろうな?」 最下層の次元に生きるものよ、高次存在を恐れよ。 人間ごときが想像したもので、無数の次元に存在しないものなど一つもない。 要は、それが最下層への次元の門をくぐるかどうかという問題である。 「ご予約のお客様、到着です」 「お待ちしておりました。今年もちゃんとご用意できました」 「名残の自然薯が楽しみでねえ。無理を言ってすまないね。あったのかい。いや、新幹線を乗り継いできた甲斐がありますよ」 とろろのためにひげまで落としてきましたよと言うおじいさんが、嬉しそうに奥の座敷に入っていく。 リベリスタ達は顔を見合わせて微笑むと、更なるとろろを味わうため、猛然と箸を動かし始めた。 アーリィは、自分の手を見つめてにっこり微笑んだ。 あのおじいちゃんの口からため息が出るのを止める必要はなさそうだ。 どうぞ、幸せになっていって下さい。 風は、北へ、北へ。 春を告げるために飛んでいく。 来年の『春一番』は、もう少し優しく吹きますように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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