●伝承 ピンクは淫乱。 ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ ●出現する恐怖 「――なんて事を実際に言ってたかどうかはさて置いて」 「風評被害だろうが!」 相も変わらずにこにこと朗らかで何処までも自由極まりない『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)に義理と礼儀で一応突っ込みを入れたリベリスタはあざとく拗ねたような顔をする彼女を今度は適当にスルーしてブリーフィングの時間に言葉を添えた。 「仕事だな?」 「はい、お仕事です。この世界に凶悪なアザーバイドが出現しました」 アザーバイド――異世界の住人はこのボトム・チャンネルの常識の全く通じぬ大変な能力を持つ事もままある。本来帰る場所のある、『隣人』である彼等は必ずしも打倒するべき相手ではなく、高度な知性を備える事もあるから争い以外で話が解決する事も決して無い訳ではないのだが―― 「凶悪、か」 呟いたリベリスタの脳裏を過ぎったのは、今まさに現在進行形で日本中を騒がせ、秩序の屋台骨を揺るがすアザーバイド『鬼』の事だった。彼等鬼道の暴挙は誰の記憶にも新しい。あんな事をさせる訳にはいかないのだ。だから、リベリスタがここに居るのだから。戦う力を持っているのだから。 「かなり凶悪ですよ。皆さんも同系統と何度か交戦した記録がありますね」 「……ん!?」 危うくなる風向き。無慈悲なアシュレイの言葉はすぐに結論を与えた。 「エネミー識別名通称『えっちっち(2012~Spring~)』。 皆さんの熱いアンコールに応えて、魂の現場復帰です。ありがとう! ありがとう!」 「ああああああああああああああああ」 名が体をあらわす、全く馬鹿馬鹿しい位に馬鹿馬鹿しい敵。 さりとてその能力が以外と洒落にならない敵である。もしその『えっちっち』が従来のそう呼ばれていたものと近しい能力を持っているのだとすれば! 「えーと、解説しますね。まずこの『えっちっち(2012~Spring~)』。とある条件に合致するとほぼ無敵です」 「必要あるのかその解説……」 「初見の人がそれだけ見て分からなければ欠陥品というものです」 「成る程……」 唸るリベリスタ。 「『えっちっち(2012~Spring~)』は男からの一切の攻撃を無効化します。 相手が男だとジャック様でも耐え難い一撃を繰り出します。 ……ていうか男とか邪魔なのでとっとと(戦闘的には)退場して貰います」 「そもそもシリアスな奴は交わっちゃいけねぇ運命だろ!」 一体誰の意志なのか。この世界に漂う大いなる何かの意志なのか。 普遍的に公平・公正である筈の運命の加護もこの暴虐のアザーバイドの前には虚しく、まぁ、何だ。 美少女が美少女が! 美少女が! 嗚呼、美少女が! 「リベリスタがおにゃのこだとこれ等の能力は発揮されませんが、逆に大きな問題が!」 「そーでしょーよ」 「『えっちっち(2012~Spring~)』はこれまでの個体と違うアプローチの攻め方を持っていますよ」 「何だ、触手か。スライムか」 「んー、基本ギミックは然したる珍しさもないのですが。 兎に角、後で振り返ったおにゃのこに精神的なダメージを与える方法に特化してます。お堅い方も、ふわふわの可愛い方も、凛とした強気な方も、漆黒なる邪悪ロリも、残念系少女も……」 アシュレイはくわっと目を見開いて言い放つ。 「必ず、エロくします!!! 自主的にエロくします! これ、私と皆さんのお約束です!」 えーと、催眠効果のようなもんか。 「但し、十三歳未満の少女には紳士的です! どっかの室長と同じですね!」 「俺を巻き込むな」という声が聞こえてきそうな説明である。 まるで全ての黒幕であるかのような公約にリベリスタはこめかみを押さえた。頭痛がする。考えてはいけない類の良く分からない事を言う彼女は『塔の魔女』らしく他人の不幸が蜜の味★てなテイストであった。 「もうすぐ春ですね」 「あー、はい。春ですね」 ふぅ、と賢者モードのようなアシュレイに最早突っ込む気力も無くしたリベリスタが相槌を打った。 「春は麗らかな、そう。喜びの萌芽する季節なんですよ」 「夏は開放的で、秋は人恋しくなり、冬は厚着の君を脱がせたいとか言うんだろ?」 「……」 「……………」 押し黙る双方。 「いぇー、ピンク。春はピンク色ー♪」 ――ダメだ、この女全てブン投げて歌い出したぞ! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月25日(日)00:43 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●春一番 暦の上でも三月を数えれば気温も気分もすっかり春の趣である。 一頃の寒さも随分と和いだものだ。冬眠していた動物達も厳しい冬の終わりに歓喜して、活動を取り戻し世界は俄かに賑やかさを増している。 勿論、冬が大好きという誰かも居るだろうし、そうでなくても冬を悪者にするのは些か可哀想な気もしないでもないが、春はやはり一般的に多くが『待ち望む』季節である。柔らかな日差しを一杯に浴びて、まだ少し肌寒い――しかし厳しい冷たさを忘れた清涼な空気を胸一杯に吸い込めば否が応無く訪れた季節の爽やかな時間に胸が躍るのだ。 「……なのに」 緑の萌芽する麗らかな野辺には可愛らしくつくしが顔を覗かせている。 気の早いたんぽぽが冬には見られなかった鮮やかな色彩を春に添え、見る者の心を微笑ましく和ませている。 「……だって言うのに」 今日、田舎の原っぱ――何処からどう見ても平穏な春の風景を訪れたリベリスタ――山川 夏海(BNE002852)は御機嫌な風景にはいまいちそぐわない、地の底から響くような、何とも言えない頭痛を堪えるような、若干十一歳の彼女が発するには何とも業の深いような、そんな声を漏らしていた。 「……なんていうか、うん」 リベリスタの行く所には神秘あり。職業柄、仕方の無い事ではあるのだが――それは今日も変わらなかった。 夏海以下合計十人のリベリスタ達は牧歌的な光景に突然出現した危険な神秘に対処するべくこの地を訪れたのである。 「……他に何とも表現出来ない位に、アレな敵だね?」 少女の視線の先には春の風景に異常にそぐわない『敵』が居た。 平和な風景をそうでないものに染め変える実に困った『敵』が居た。 全長は数メートル程もあろうか。ピンク色の体は半液体じみたスライムを思わせる不定形である。そこかしこから伸びる触手は獲物を捕獲する為の危険な手段なのだろう。見るからにこの世界の法則に沿わぬ生命体はさもありなん、この世界の住人に在らぬ来訪者(アザーバイド)である。 「まあ、私は大丈夫だと思うけど……どんな敵だろうと覚悟はしてるよ。 闘いに被害はつきものだし……排除する。それだけだもん」 とうに戦う覚悟を決めている筈の夏海の顔が少し引きつり、夏海の言葉が幾らか自分に言い聞かせるような風情を発しているのは何故か。 答えは実に簡単である。 「フッフッフ……コイツが噂のエッチッチ(春)か!」 何故か嬉しそうな『怪力乱神』霧島・神那(BNE000009)の言葉は実は全く説明でも何でもなかったが、何より直感的に事態を指摘するものとなっていた。名は体を表すとは言うが目の前のアザーバイドの場合、それも格別である。 「いたいけな美少女の皆さんにべとべとねとねとするだなんて…… あまつさえ、あんな事してこんな事してそんな事でどんな事でびーえぬいーが不健全になっちゃうなんて! えっちっちめ、何てうらやま……じゃなかった。そんなけしからん奴、退治してあげちゃうんだもん!」 「うむ。過去に現れた同じタイプも相当エロイ奴だったようね。 だがしかし! この私を前にして今までのような悪い事が出来るかな? ドスケベ☆アザーバイドとしての登竜門だ!私を超えてみるがいー!」 ……「ぐぎぎ」とばかりに口惜しそうな顔をする『暴走百合乙女』霧ヶ谷 かすみ(BNE000053)に応えるのは、『何故か』嬉しそうな神那さんである。期待なのか好奇心なのかそれ以外の何なのかテンションの高い彼女はうぞうぞと佇むピンク色の物体を無闇に勇ましく指差してその大きな、大きな、大きな胸を張っている。 少女達のきゃっきゃうふふとしたやり取りを見れば皆まで言う必要は無いだろう。 アークが定義する所の神秘、識別名『えっちっち』。それはおにゃのこの魂を弄り尽くす実に困った敵である。このアザーバイドの能力の大半は女の子にえっちい事をする事に特化している。危険と言えばその程度で、あくまで全年齢の範囲ではあるのだが……問題はそういう事では無い。対男に対する異常な戦闘力を発揮するそれを排除するには確実に女の子の力が必要である。そしてそれに立ち向かった女の子の運命はんがんぐ。 (もしかしたら勘違いしてくれないかなと…… ほ、ほら、いざって時に囮になれるかもしれないし? べ、べつに期待してるわけじゃないんだからねっ!) 古代の伝承(?)――ピンクは淫乱のその有り難い言葉に従ってか、ピンク髪の対象を優先して襲撃するというえっちっち(春)に対して、『どうしてか知らねぇけど』ピンク色のリボンをつけてきたかすみがその身をくねくねとさせている。 「くぅ……この場にアタシのお姉さまいれば……きっと熱くアタシを求めてくれたに違いないのに……!」 ~ここから妄想~ あぁ、久嶺なんだか熱いです……この火照りを、冷ましてください……! ふふふ、お姉さま、ワタクシがすぐに冷ましてあげますわ! 大丈夫、怖くないわ、痛いのは一瞬だけだから……ふふ、ああ、お姉さま! お姉さま! なんて可愛らしい! もう、久嶺は、久嶺は、ぁ――っ! ~ここまで妄想~ 「なぁーんちゃって、なんちゃって!」 明らかな挙動不審! 圧倒的な不審人物! 「まぁ、そもそもアタシのお姉さまも十一歳だから狙われることはないんだけど…… そうだ、コイツの欠片とか、体液を持ち帰ってお姉さまに使えば……くくくく……やる気出てきたわぁ!」 かすみにしろ、久嶺にしろ何がどうしてこうなったか。 少女達の尊厳を尊重して今は突っ込まない事として――十人も集まれば目の前のふざけた敵に対する感情もやはり人それぞれであった。 「ねぇ、あの、ちょっと。聞きたい事があるんだけど」 『何ですか、主。忙しいのですが』 「ご、ごめんね……あのど、どうして僕は髪の毛をピンク色に染められているんだろう……」 自身の式神とのやり取りさえ、恐る恐るといった風。引き攣った顔は笑う膝は如実に少女の心理状態を示している。 『回復スキルが余り意味なさそうですから。せめて囮になって下さい役立たず』 「ええええええ!?」 心無い自身の式神のその一言に、早速見事な無様を晒し、瞳を潤ませて鼻水をたらしかけているのは皆がこの場に期待していたそれ行け僕等の『From dreamland』臼間井 美月(BNE001362)である。 こんなでありながら、残念でありながら妙に男好きのする――言ってしまえばエロい体をしている美月である。 彼女が運命に導かれ、えっちっちと三度目の邂逅を果たしたのは何故か。何故なのか―― 「い、いや、いやだ! で、でも! まま負けないぞ! エロい気分にされても大丈夫! 特訓してきたからね!」 『特訓って、昼ドラのベッドシーンを正座で鑑賞してたアレですか』 漫才を続ける美月と式神みにである。太陽を目指して飛んだ蝋の羽のイカロスの如く――愛すべき愚かさを発揮する彼女はまぁ、何て言うかとても可愛い。こんなにも嬲り甲斐があるのだから毎度のすぺさるコース直撃もむべなるかなである。ここがええのんか! 「ねぇ、みに! ナレーションから悪意を感じるよ!」 『試合終了ですけど、諦めたらどうですか?』 ……。 「伝承でピンクは淫乱とか言っちゃうから、『エロい太陽』とか言われちゃうんだよ」 アシュレイの妄言を真に受けたのか『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)が酷い風評被害を口にする。 「全く、七百年ものの熟成エロは半端無いんだぜ。 知人からは残念とか淫乱ピンク脳とか罵られたりするけど、仕事に関しては至極真面目に責任感を持って参加してきた。多分な。 エロ厨の汚名返上だ、すっげーシリアスな戦闘に変えてやるぜ」 「頑張れ! たとえ結果が目に見えていたとしても!」 必死の虚勢を今は辛うじて維持し、涙目でうぞりうぞりと接近してくるえっちっち(春)を見つめる美月を、恐らく叶う筈も無い遠大な目標を無責任に口にする瞑を『ライトバイザー』瀬川 和希(BNE002243)が一撃した。 「……うん。頑張る。たとえ結果が見えていたとしても……」 少年の言葉は二人に向けられ、ある意味で自分にも向いていた。どうしてこの場所に来てしまったのか――根源的な疑問を抱くのは彼女だけでは無い。彼も又同じだった。殆ど確定的に見える自分の運命も決して有り難い話ではない。えっちっち(春)はハライソの異物(おとこ)を許さない。彼に待つのは約束された失楽園に過ぎないのだ。地獄の激痛を伴った。それが至上の眼福の代償と言うのならばまだ良いのだが―― 「こう、なんていうかな……好みのお姉さんがいなくてやる気が出ないんだよな。ああ、石投げないでっ!」 余りにも余計で失礼な一言に集中した女子陣からの剣呑な気配に竦む和希はさて置いて。 「おッス! オラ狄龍! 美少女リベリスタ(性別不明)だ!」 男女の区別は兎も角、取り敢えず美少女には見えない『錆天大聖』関 狄龍(BNE002760)がカメラ目線で良く分からないアピールをしている。 「いやぁ、前々から気にはなっていたんだがな…… 遂に機会が訪れたか。俺の美少女っぷりを遺憾無く見せつけてやるぜ! あれ? ひょっとして性別不明初めての挑戦? よし、では不肖この俺がパイオニアとして新境地を……」 「テストはこの位でいいかしらね?」 ポーズをつける狄龍をビデオカメラのレンズ越しに見つめるのは『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)の切れ長の瞳だった。 「えっちっちが進化している? だから何だと言うの? 私たちリベリスタも、進化しているのよ」 ふ、と冷たい嘲笑を薄い唇の端に上らせたこじりはカメラを片手に超然と呟く。 「いいこと? 具体的に言えばね。驚くわよ、アナタきっと驚くわ。 以前の私。シャイでクールな厨二体質の愛されガール。所構わず毒吐くのがとってもキュート。某つぶやきサイトでも『アイツはやばいから近寄るな』といわれた程の逸材よ。しかもヤンデレ」 毒舌で独舌。変わったと言いつつ大差無い所は大差無いのがこじりである。 勝手に喋り倒す独演会モードに入った彼女は人語を理解するのかしないのか根本的に良く分からないスライムに尚も続けた。 「今の私。すっかり毒がなりを潜めています。そして発言が変態チックになりました。一匹狼の設定だったのに友達がたくさん出来ました。目下の悩みはへたれ彼氏が何時までたっても力尽くで奪って★くれない事です。しかもヤンデレ。 そこで私は考えました。今回の一部始終を抑える為にビデオをセットしておこうと。エロエロでうはうはな私を見せて彼を獣に変えるのです」 赤裸々な告白は件の彼氏が聞いたら盛大に噴出す所なのだろう。しかし幸か不幸か彼は居ない。 「あ、ちょっと待ってね。一番いいアングルで取れるようにセットしている所だから」 超くだらねぇ余談と漫才の間にも刻一刻と戦いの時は近付いていた。 如何に! どれ程に! くだらない相手だったとしても! 任務は任務である。 神ならぬ何者かが今日、この時間を望んだ以上――面々がこの試練に臨んだ以上は避けられ得ぬ戦いが近付いていた! 「さぁ、ホントのホントに久しぶりのお仕事だね。がんばるよ~」 「その久しぶりのお仕事がこんなのってどうかと思うの」 「気にしない気にしない、お仕事はお仕事だもん」 軽妙に『二重の姉妹』八咫羽 とこ(BNE000306)の声が『掛け合い』した。 そうそう、これもお仕事だ。お仕事なんだよ、うぇっへっへっへ! ●ヤミー、いっきまーす! 「うぐぶっ!」 唸る触手が和希の体をくの字に折る。 炸裂するメガトンパンチの破壊力は全き一切の容赦無き無慈悲な鉄槌そのものであった。 宙を舞う身体、ボロ雑巾のように叩きつけられる少年。児童虐待めいた破壊力は子供だろうとなんだろうと手加減は無い。 (あぁ……風が気持ちいいな……) 薄れ行く意識の水底で錆び付いた思考力を必死にかき集め、空を仰ぐ和希は辛うじて最後の一言を呟いた。 「戦い、たいのは……やまやまなんだ。やまやま……なんだが……膝に矢を受けてしまってな……」 彼の仕事はこれより先、戦場に現れる光景を『瞬間記憶』するのみである。後で記憶が飛ぶほど殴られても知らないけどね。 「矢を受けてしまってな!」 はいはい、天狗の仕業。 「絶対に桃色の霧なんかに負けたりしない!」 はいはい、部長部長。 さあ! 気を取り直しまして! お待ちかね、えっちっち2012年春! 出血サービスジャンジャンバリバリ大放出! 俺、パチンコ打った事無いけどね! 関東地方に春一番が吹かなかったと言うならば、ヤミーが吹かせて見せましょう! んじゃま、いっただきまーす! ・霧島神那の場合 「エッチッチと名乗るなら私を超えてからにして貰う!」←勇猛な名乗り 「くっ……!」←戦闘中 「ああっ……」←だめぽ 悲劇の、もとい悲喜劇の始まりは――堂々トップバッターを務めたのはIDの関係からもとい、悩ましく危険な肢体を惜しげもなく晒した神那であった。激戦(笑)の末、桃色の霧に包まれた彼女は身体の内側から自身を侵す毒にその動きを絡め取られつつあった。 「……っ、はぁ……」 ダメージを受けた訳でも無いのに必要以上に乱れた呼吸は何処か甘い湿り気を帯びている。 色黒の肌を撫でる空気がやけに過敏に感じられていた。唯空気が触れるだけで痺れるような感覚が彼女の背筋を舐め上げた。 「……ン……く、ぅっ……」 十分過ぎる程に発育した身体だからこそ、尚更だ。張りのある胸が揺れる度に、激しい戦いの動きを要求される程に神那の足取りは乱れに乱れた。 「……ぁっ……」 バランスが崩れる。伸びてきた触手をかわす術が既に彼女には無い。 頭の中の靄は刻一刻とその濃度を増していた。呼吸をする程に、毒気を吸い込む程に彼女の意識を攪拌し、理性を桃色の闇に塗り潰す。 豊かな身体を戒める縄の化粧さながらに――ねとつく触手が絡みついた。 「いやーん、エッチッチさんしゅごい~しゅごいのぉー」←ダブピ はい! ここまでな!!! ・霧ヶ谷かすみの場合 「あぁー……すごい……」 じゅる、と涎を啜り上げたかすみは当然と言うべきか戦場を覆い尽くす桃色の気に完全に当てられていた。 そこかしこで巻き起こされる少女の百花繚乱、狂い咲きに阿鼻叫喚。元より耳年増でややこしい性癖を持つ彼女がこれに耐えられようか。(反語表現) えっちっちの注意を引き付けようとマジックアローを投げた彼女は早々に彼(?)の触手に脚を囚われて逆さ向きに宙吊られた。 「や、ちょっ、そんな――!」 ひらめくチェックのスカート、いや、ちょっと待ってくれ。 海のヤミーにも見通せないんだわ、この娘特徴欄『はいてない』だと!? ……えー、まぁ、そのー、えー。 「……やっ、ぁああ……っ!」 足元から這い登り白く長い脚に粘液の線を引くえっちっち(春)にかすみは堪らず声を上げた。 当然と言うべきかそれは嫌悪の声である。しかし、そればかりではないのは――分かる人間には分かるだろう。 白い肌には桜色の火照りが差し込み、顰められた眉根は苦痛ばかりを理由にしていない。長い睫の端に宿る露も同じ事。 「ぁぁん……そんなとこ……っ……らめぇぇぇ……!」 ブラウスの中に滑り込む濡れた感触に少女の目が見開いた。 ・源兵島こじりの場合 「髪がピンクだから淫乱とか。何よ、私なんて目よ? 見るもの全てピンクよ? 舐めないで欲しいわ」 三脚にセットされたビデオカメラが何故だか勝ち誇るこじりの艶姿を無機質に見つめている。 「ねえ、今私、物凄いエロい事したいのだけれど」 レンズの向こうに語りかけるような蟲惑の声。えっちっち(春)もこの時は空気を読んで邪魔をしない。 ピンク色の舌が薄い唇を舐め、白魚のように美しい指先が薄い胸を、太股を撫で下がる。 「したいのだけど、してくれないの?」 誰に語りかけているかは言わずもがな。しかし、目前の敵はえっちっち(春)である。 猛烈に間合いを詰めたスライムを動きの悪い彼女は避け損ねた。 「……っ、なか、なか……上手じゃないのっ……ッ……!」 全く処女が見てきたような事を言う。強気に勝気にクールに無謀にやられ始めてもこじりの様は変わっていない。 「どうせ、ならっ……あぁっ……!」 言葉に混じる濡れた声。 「男に、んくっ……対するえっちっちとか出くわしたい、わよね……ぁっ……」 べーこんれたす…… ・津布理瞑の場合 ――瞑ちゃんてピュアでさ、エロ厨エロ厨って言われてもさ、本当はさ、ただのギャルゲー好きの普通の女の子なんだぜ? 触手ものは未プレイなんだぜ? 普通の女の子に触手で絡みつかれてエロい事しろって言われても、「イヤっ!そんな事できないっ!」とかカマトトぶって嫌がるんだぜ? うちはエロなんか耐性の無いかわいい普通の女の子、マジで。マジで。信じろよ! 「や、やだっ、やめろぉ、やだぁ――っ!」 言葉は意外と嘘では無かった。えっちっち(春)は如何なる女子(13歳以上)も逃さない。 普段から勝気で蓮っ葉で適当でいい加減で良く分からない瞑も今日ばかりはバーゲンセールのように『イイ声』をばら撒く羽目になっていた。 真面目に戦うと宣言した彼女の数分前がとても虚しい。白く粘ついた毒液(笑)を浴びせられ、全身をべとべとのねとねとにされてしまった彼女はそれを拭き取る暇も非ず、まさに現在進行形でいいようにされまくっているのであった。 「……ぅん……く……どして……っ」 どうして、こんな事に。答えは最初から君の胸の中にある。 「こんなヤツにっ、いつもの力が出せればっ! ……く、くやしいっ! でも、でも……感じちゃうっ!」 少女の顔が緩む。 口の端から僅かに零れた涎、焦点の定まらない瞳。即ちこれはまさに創世以来数多の同人誌で炸裂した王道のテンプレート。 「あっ、駄目っ! こらっ、そんなとこ触るなっ! あぁん! バカっ! アンタの攻撃なんか、き、き、効かないんだからぁっ! あ、やめろ、本当にそこはっ、あぁ~~~~~ん!」 瞑ちゃん 世界で一番 えっちっち もぐもぐ。泣かし甲斐がありますのう。 ・関狄龍の場合 ピンクの女性用チャイナドレスにスリット深く、セクシー&キューティーに脚線美を披露する―― しかもサイズはぴっちぴち。ぴっちぴちやぞ! 胸板で。 「更に更に! メッシュの如く桃毛のエクステを装備! 黒髪にピンクのライン これは淫乱だァーッ!! トドメはふわもこピンクの襟巻きっ! 女子力がぎゅんぎゅん上がっていくぞぉーっ!」 問題はコイツであった。狄龍であった。 「ん? おらおら、どうだこのHENTAIアザーバイド!」 うーん。うーん。 「蹴りに蹴ってこの脚線美を見せつけてやるぜ! 俺様の美少女っぷりに恐れをなしただろう!」 うーん…… 大いに俺を悩ませる性別不明のピンク★マジック。 ~審議中~ 「――うげぶ!?」 結果、腹パン。いやほら、エロエロにしても複雑だろ? な、読者の皆! 「モツは機械化されてねぇから痛ェ――!」 うっさい。 「うげぼ!?」 ・子供は世界の宝物です。 「えっちな手は禁止!」 夏海が悲鳴にも似た声で暴れまわるそれに抗議をする。 「はわぁ……な、なんだかすごいことになってるね。こ、これは想像以上なの」 指で顔を覆い、その隙間からとんでもない光景を見ながらとこは動揺を隠せなかった。 桃色の霧は五十メートルの範囲にばら撒かれている。やみ……もといえっちっち(春)は十三歳未満には手を出さない紳士だが、この毒が効かないかと言えばそれはまた別物である。紅潮する少女の頬、早鐘を打つ心拍数。頭はくらくら、胸はドキドキ。 「ベ、勉強のためにももう少し見学を。いや、助けた方がいいと思うの。見学したいのはとこも同じだけど」 「……くぅ、エロい気分ってこんななの……」 殆ど涙目になった夏海がもじもじと脚をすり合わせている。 辺りに響く嬌声のサラウンドは正直、この場を最悪の居心地に変えている。 戦闘の余波で飛び散ったべとべとは彼女の髪にもこびりつき、更に何とも言えない気分を作り出しているのだ。 「ひじをわきの下からはなさぬ心がまえで、やや内角をねらいえぐりこむように打つべし。 せいかくな腹パン三発につづく金的は、その威力をきっと三倍に増してくれたら嬉しいなあ!」 心頭滅却すれば何とやらと微かな希望を手繰り、呪文のように繰り返す夏海である。 「……む、アタシが喜びの野へ行ってる間に大変なことになってるわ」 一方で漸く妄想から脱出した久嶺が辺りの惨状に目を見張る。 確かにこの三人は恐るべきえっちっちの魔手から逃れている。 年齢制限なる絶対防御は三人を阿鼻叫喚には叩き落していない。しかし。 「ホントに襲い掛かってこないわ……」 久嶺は何故かそれが不満である。 「何よ、このアタシに色気がないとでもいいたいのかしら? なんかムカついてきたわ!ほら、これでどうかしら!?」 恐らくは無意識の内に桃色の霧にやられているのだろう。着物の裾を肌蹴掛かる彼女に視線(?)を向けたえっちっちは触手を「ち、ち、ち」と振った。 「……?」 「おげぶ!」 「ぬああああ!?」 転がる和希と狄龍から布を幾らか引っぺがし、汚れた夏海の髪を優しく拭う。脱ぎかけた久嶺をかける。 「あんた……」 「えっちっち(春)……」 何かちょっといい話! 戦闘は熾烈を極めて死屍累々。 戦場に無傷の者は無く――いや、一人だけ立っていた。 『流石主。圧倒的な残され具合』 「いや、いやだ。いやだ。いやだ……!」 迫り来る巨大な桃色を最早阻む者は無い。ふるふると首を振り、ガタガタと歯を鳴らし、ボロボロと涙を零す美月には最早覚悟のかの字も無い。 伸びる触手、ねとつく毒。 「ななな何こりぇ!? ぅんっ!? 熱っ、肌じゃなくて芯が……!? ふぁ……服、擦れ……あふぁ……ひぃんっ!? ちょ、こりぇ動けりゃい……! どうしりゃりゃ……」 ほぼ秒殺で部長はねっとねとでえろえろや。 「ベトベトやらぁ!? 何かピリピリする! チリチリするぅー!? ぁふっ……今までのえっちっちと全然違っ!? 勝手に動っ……変! 何か変らよー!?」 一方的にやられまくる美月はそれが故に美月である。 「やらあああ!? たた助れれー! パパー! パパー!? っぁ――!」 『……これは酷い』 何故か撮影する式神が心底やれやれと溜息を吐き出した。 えっちっちはスタッフが美味しく退治しました。劇終! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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