下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






うっさうさにしてやんよ!

●ウサギ白けりゃ杵まで白い
 ――――空には今日も、真白の月が昇っている。

 草木も眠る丑三つ時。ここは三高平市郊外の廃屋。静寂に満たされた闇夜に響く奇妙な異音。
 ……たん……たん、濡れた雑巾をぶつける様なそれは徐々に重く、少しずつ鈍く、
 段々と大きく廃墟の中を満たして行く。ゆっくりと、ゆっくりと、真綿で首を絞める様に。
 ……ったん……ったん。音は止まない。誰もいない筈の荒れ果てた廊下の奥。
 何者かが濡れたそれを叩き、引き伸ばし、捻り、歪め、ぐちぐちとすり潰して行く。
 影が揺れる、窓枠の向こうでゆらゆらと。愉しむ様に、歓喜する様に、嘲笑う様に。
 
 ぺったんぺったん。餅をつく。揺れているのは白くて長い耳である。
 つまりウサギだ。そう、白いウサギが杵を片手に餅を付いていた。ぺったんぺったん。廃墟で。
 別にコスプレではなく、万国ビックリ動物大集合でもない。流石にそんなウサギはいない。
 アザーバイド、異世界からの訪問者である。二足歩行で歩く姿は愛らしくも普遍的なウサギの概念を無視している。
 ぺったんぺったん。餅をつく。近所の米問屋から拝借した大量の餅米を。勿論該当する米問屋の主人は大赤字。
 実に非道。何と言う暴虐。思わず目を逸らさずにはいられない惨劇である。この様な悪徳を許しては置けない。
 それは人間の心の奥に眠る悪に対する根源的な怒りである。戦わなくてはならない。己の良心を信ずるなら。
 ぺったんぺったん。ウサギが餅をつく。空には今日も、真白の月が昇っている。

●うっさーうさうさ
「ウサギってのは何でああもパンクなんだろうな」
 ブリーフィングルームへ集められたリベリスタ達へ、これまた良く意味が分からない切り出し方をして来たのは
 『駆ける黒猫』将門伸暁(ID:nBNE000006)である。その背後のモニターでは今も二足で歩行するウサギ達が
 四苦八苦しながら餅をついている。別に何をする訳でもない。器用に爪を駆使しながら餅米の袋を開け、
 これも盗品だろう杵と臼でぺったんぺったんいわせている訳である。別に犠牲者が出ている訳でも無ければ世界の危機でもない。
「見ろよあの耳。あそこまでハードに自己主張する器官が人間にあるか? 外敵を傷付ける為の角や、逃げる為の翼じゃない。耳だぜ?
 俺にもお前らにも生えてる耳で、あいつらは社会に喧嘩売ってやがる。生まれながらにパンクなんだよ。ちっ、悔しいがクールだぜ」
 言っている事は良く分からないが将門伸暁意外にもウサギ好きらしい。閑話休題、しかして主題はそちらではない。
「まあ、あれがアザーバイド。仮称“モチツキウサギ”だ。命名はイヴな」
 大分残念な呼称を与えられてしまった事など露知らず、伸暁曰くパンクなウサギはせっせと餅をついている。
「殆ど無害とは言えこいつらが居ると崩界が進む。どうもこのウサギども、月見が出来れば満足して帰るみたいなんだが」
 丁度明日の夜が十五夜だ。あの餅は月見団子にでもするのだろうか。餅と団子は実際は大きく違うのだが。

「……が、このままだと間に合わない」
 その時ブリーフィングルームに衝撃走る。今もせっせと餅をついているウサギ。しかし彼ら(?)は気付いていない。
 この世界での月見には盃とススキが付き物だと言う事を。いや、別にいらないじゃんとか突っ込んではいけない。
 彼らはこれで様式美を重視する性質らしい。断固としてこれを譲らない。とは言え気付かなければそれはそれまでなのだが、
 しかしどうもこのウサギ達、月見間近にこの事実に気付いてしまう未来がほぼ確定しているらしい。
 そうして盃とススキを探している間に月見のチャンスを逃してしまう。次は30日後である。
「様式美、フォーマルスタイルにこそこいつらのパンクは良く映える。出来れば助けてやりたいんだけどな」
 いざとなれば強制執行、幸いウサギ達が渡ってきたリンクチャンネルは明日中一杯は安定しているらしい。
 そこにウサギ達を逐一捕まえて放り込めば依頼そのものは達成出来る。
「危険性の少ないアザーバイドとは言え丸一ヶ月これだけの数の個体が滞在していると世界への悪影響は計り知れない。
 が、お前達ならこの位、余裕で解決出来るだろ?」
 クールに頼むぜ。と指を銃の形に握ると、BANG!と打ち抜いてみせる。
 特に意味は無い。今日もアークは平和である。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月17日(火)23:13
 4度目まして、うっさうさ系STを目指してます弓月 蒼です。まったくわけがわからないよ!
 モチツキウサギを何とかして下さいと言う依頼です。
 達成は何かこー適当に困難ではあると思いますが、皆様の尽力に期待します。
 以下詳細となります。

●依頼成功条件
 モチツキウサギ達を元の世界へ帰し、ディメンションホールを閉ざす。

●モチツキウサギ(仮名)
 二足歩行する白いウサギ。総勢10匹。内3匹ほどはドジで足を引っ張ってくれます。
 長時間一緒に行動しているともふもふしたい衝動にかられます。
 2時間一緒に行動する度に抵抗判定を行い、失敗すると以後【呪縛】の状態異常を付与。
 月見が無事恙無く終了したら片づけをしてから帰ります。
 捕獲しようとすると杵(パワースタッフ扱い)を振りかざして抵抗してきます。

・杵スマッシュ:Aスキル。ウサギのパンクを爆発させ、対象一体にスマッシュします。
・望月の構え:Aスキル。衝かれる餅の如き構えから攻防自在の動きを得ます。
・ハイバランサー:Pスキル。優れた平衡感覚です。尋常ではないバランス勘を発揮します。

●リンクチャンネル
 廃屋のどこかでひっそり開いてます。サイズは小さく注意しないと見つかりません。
 月見の日の日付変更線を跨ぐと不安定になり、約1時間ほどでリンクが外れます。
 勿論その時点でモチツキウサギが残っていると失敗です。

●廃屋
 ナイトメアダウンで住人が居なくなり、うち捨てられた廃屋。
 やや大きめの日本家屋です。部屋数は8つ。他に台所とトイレ、浴室と割と広い庭があります。

●ススキと盃と餅
 足りない物は購入して下さい。窃盗ダメ、絶対。安物は嫌がられます。
 餅はつききって丸めきらないと月見が始められません。様式美です。
 モチツキウサギ達だけに任せておくと、ススキと盃が有ってもやっぱり準備は間に合いません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
クロスイージス
ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
デュランダル
卜部 冬路(BNE000992)
ホーリーメイガス
臼間井 美月(BNE001362)
ソードミラージュ
桜田 国子(BNE002102)
インヤンマスター
イルゼ・ユングフラウ(BNE002261)

●今日はお買い物日和
「これ、何て名前なんでしょう?」
 『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が立ち止まったのは神具店のディスプレイ。
 月見団子を乗せる檜の台を捜してやって来た物の名前が分からない。こうこうこういう物を、と店員に概要で説明した所、
 持って来た名も分からぬ某を指して発したのが冒頭の言葉である。しかして三方、ないし三宝と呼ばれたるその道具。
 実は高貴な人間に物品を献上する際にも用いられた立派な神具であり、時代劇などで百両小判を乗せる際用いられたりもしている。
 閑話休題、謎も氷解した所で御手頃価格のそれを購入。ほくほくと店を出た所ですれ違うのはお買い物担当、雪白 桐(BNE000185)
 withススキである。いや、むしろススキwith雪白 桐と言った方が正しいのかもしれない。
 年頃の男性にしては小柄な桐に、ススキはと言うとこれが意外と大きい。
 団子の横にちまっとススキが戦いでいるイメージがあるが、どっこい実物はちょっとした武器である。
「今回の成功報酬でこの出費は取り返せるんでしょうか……?」
 ぽつりと呟く桐の背中に哀愁が漂うも、腕に提げた紙袋の中の盃が幾らしたかを考えれば……ご愁傷様である。領収証はアークまで。

 一方、ススキを挿すには徳利が必要と骨董品店を巡るのは『アリスを護る白騎士』ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)
 名家の傍仕えとして物の目利きには拘りがあるのか、入り込んだきりなかなか出てこない……かと思いきや、決める時は電光石火。
 鋭く瞳が輝いたかと思うと棚に飾られた幾つもの徳利の中からつるりと滑らかな光沢を返す一品をチョイス。
「これでうさぎ様もあと10年はお月見を戦えますわ」
 購入した徳利をチンと指先で鳴らし、これは、いいものです。と満足げ。
 続いて万が一足りなくなった場合の為に、と米殻店で餅米を購入しようと足を向けた先では、
 『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)がすぐ傍の米問屋から出て来た後、何やらどこか遠くを見つめていた。
 モチツキウサギ達が拝借した餅米代を支払いに行ってきたのだ。「餅米、勝手に持っていってすみませんでした」との手紙と共に。
 己の良心に従った良い殉死である。因みに餅米は決して安くは無く、国子のお小遣いはそんなに多くない。

 が、それはそれとしてミルフィもまたしっかりと味見の上、上質の餅米を見定めこれを購入。
「うん、コレですわ♪ せーのっ、ふんぬっっっ!」
 凡そ一斗程の米袋を持ち上げる剛力で店員の度肝を抜きつつも、購入予定物を大体網羅して集合場所へ。
 と、先に到着しコンビニで食事や飲み物、餡子等を購入していた『From dreamland』臼間井 美月(BNE001362)が、
 何処と無く挙動不審な仕草で周囲を見回しているのはどういう事か。不思議に思うもその謎は直ぐに解決する。
「モチツキウサギって何食べるんだろう。餅食べるんだし……おにぎりかな?」
 “……”の間に何を考えたのか、最近あちこちで食べるとか食べたとか言われていた為か臆病さに拍車がかかっている美月である。
 それを見ていたミルフィに、別に恐いとかじゃないよ?ないよ?と、言い訳すればするほど土壺に嵌って行く。
「準備はどうですか」
 桐と連れ立ってやって来た彩歌に、買出しがほぼ完了した事を確認する。これでもかと言う程の物量作戦である。
 戦争は火力と言わんばかりに準備万端整えて、決戦は廃屋、モチツキウサギの月見会場。

●うさうさもふもふぺったんぺったん
 もふもふ、もふもふ。もふもふ? もふもふ! もふもふもふもふもふもふもふ。我慢?ナニソレ
 『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)陥・落! と言うより自重する気など最初から無い宵咲家当主。
 当年とって八十云歳である。人間は齢を重ねると幼子に戻ると言うが、むしろ絶世のロリババアである瑠琵の辞書に、
 大人の嗜みとか我慢とかそんな文字があるわけが無かった。悪戯心が抑えきれないと言うか悪戯心しかない。
 もふもふされているのはつい数分前に餅米を転んでばらまいた、どじっこウサギである為か、他のウサギも我関せず。
「しかし蒸し立てのもち米は美味いのぅ」
 更にもぐもぐと摘み食い。これには流石にうさー!?と悲鳴を上げるモチツキウサギ御一同。意味は良く分からないがショックらしい。
「実にほのぼのとしたアザーバイドもあったもんじゃなあ……全部こんなのなら平和かもしれぬ」
 のほほんと和みながら餅を団子状に丸めているのは『雪暮れ兎』卜部 冬路(BNE000992)
 全部こんなのだったら日本中の餅米が大ピンチです。とは言え邪魔さえしなければ意外とフレンドリーなウサギ達。
 うさー、と果たして何処で覚えたのか、汗を拭う仕草をしながらも冬路と杵を付く役を交代し、順調に餅を増やしていく。
 
 ぺったんぺったん。揺れる耳と揺れる胸。ぺったんぺったん。困った事にちっともぺったんではない。
 ほれ、仲間みたいじゃろ?とにんまり笑うもウサギ達には勿論胸などない。そこ違う、と指摘こそしないものの 
 何と無く反応が鈍く、ちょっぴり凹んだり凹まなかったり。そうこうしている間にがったんごっとん。
 立て付けの悪い扉を開けて戻って来たのは黄昏ていた国子である。そろそろ交代の時間かと、冬路が杵から手を離す。
「団子作りの変わるよ、これもう丸めちゃって大丈夫かな?」
 気分転換も完了か、明るい声音でこね回された餅を摘む。と、上がった声は冬路の物ではなく隣の部屋。
 うさー!と複数のウサギの歓声と共に餅つき部屋へ入ってきたのは『月光花』イルゼ・ユングフラウ(BNE002261)である。
「新しいお餅が蒸し上がりましたよ、あ。まだついてたんですか?」
 臼の中を見れば丸める前の餅が居座り存在感を大いに誇示している。
 そろそろもふもふの誘惑に負けそうだった冬路が部屋を出るのを見送るや、それじゃ丸めちゃいましょう。と、イルゼと国子が腕まくり。
 ここにリベリスタの性能を最大限に駆使した、餅団子作り日本最速決定戦が行われた訳であるが紙面の都合上割愛する。

●ディメンションホールを捜せ!
 壊れかけの棚の中や古くなってガタが来た箪笥の裏、水道を回してみてきちんと水が出る事に驚いたり。
 良く気を配ってディメンションホールを探すのは買い物から帰って来た桐である。
 その気遣いの細やかさは将来良いお嫁さんになれる事間違いなし。性別男?そんな細かい事を気にしてはいけない。
 うっさうっさうっさ。ぜんたーい、止まれ。と、ばかりに横を通るのはモチツキウサギの団体様。
 ミルフィの買い込んで来た餅米をせっせと餅つき部屋の隣へと運んでいる。
 と、うち1匹が見事に転ぶ。それでも餅米を死守しようとするその意気やよし。脇に抱えていた杵が宙を舞ってさえいなければ。
「ススキはここで良かったかむぎゅっ」
 間が悪く、引き戸を開けたのは月見用具の設置を請け負っていた美月。尋ねるが早いかぶつかるのが早いか、期せず顔にめりこむ杵。
 後ろ向きに引っ繰り返りつつもススキは無事確保。うさうさー!?と慌てるウサギ達に囲まれて、美月の緊張の糸がぷつりと切れる。
「うわぁぁぁあああん、やっぱり可愛くないぃぃぃ!!」
 ちゃっかり杵を放り投げてくれたウサギの耳にドジっ子の証のリボンを括り、そう叫びながら走り去る美月の明日はどっちだ。
「……もふもふです」
 ともあれ見事なへたれっぷりを傍観しつつ、おろおろするドジっ子ウサギの余りの愛らしさに撃沈され、
 捕まえてもふり始める桐には余り関係の無い話ではあった。
 
「ほら、月見って言うのはこうやれば良いのよ」
 隣の部屋、餅米を蒸しながらノートパソコンを開いている彩歌の周囲にも3匹程のウサギが集まっていた。
 どうもあちらの世界にはコンピューターと言う物は無いらしく、最初はおっかなびっくりだった3匹も、
 画面内で展開される月見の動画にうさー、と声を揃えて感嘆の溜息を漏らしている。ジェスチャーのみから解釈するにすげー、と言う感じだろうか。
 廃屋のあちこちで月見の準備が整っていく音に反応して時折耳がぴくぴく動くも、目線はパソコンから離れない。
 3匹の内、美月がリボンを結んでおいた残りの一匹だけは彩歌の膝の上に乗って時折彼女を見上げているが、
 これはあくまでドジなウサギが作業の邪魔をしない様抱えているだけで、特に他意はないとは彼女の弁である。
 決して、断じて、彩歌がウサギさんをモフモフしたい訳ではないのである。もふもふ。
「お団子作り、交代頼めるかしら?」
 そこに餅つき部屋より顔を出したのはイルゼ。手を餅粉で真っ白に染め時折けほけほと咳き込んでいる。
 どうもずっと団子を丸め続けていたらしい。対していた国子はと言えばとっくの昔にディメンションホールの探索に向かっている。
 さて、次は自分の番かと彩歌がノートパソコンを閉じると、ウサギ達もはたと気付いて杵を構えなおす。ラストスパートである。
 ハーメルンの笛吹き宜しく3匹のウサギを引き連れ餅つき部屋へ、向かう最中に何となく視線を感じて振り向くと、
 イルゼが何となく物寂しげに見つめている。どうもノートパソコン戦略で一気にウサギ達と距離を縮めた彩歌が羨ましいらしい。
 困った様に笑いながらもリボンを付けたウサギを押し出す。どうせドジっこウサギは餅つき部屋には入れられないのだ。
 大人っぽい風貌に子供っぽい笑みを浮かべウサギを抱きしめもふもふし始めるイルゼを背に、ぐっどらっく、と親指を立てる彩歌。
 なんだか良い話風ではあるものの、ディメンションホールは見つからない。
 
●月見だわっしょい
 そうして時は瞬く間に過ぎ、時刻は宵の刻。空には群雲、翳った夜空に望月が浮かぶ。
 縁側に集ったモチツキウサギが7匹。何かいきなり数が減っているものの、ドジっこウサギは今も変わらず屋敷の各所でもふられている。
「ほうほう……ふむ、これはもふもふと言うより――ふかふかなのじゃ」
「あぁっ、そんないけません宵咲様、私には心に決めたお嬢様がっ!」
 何か違う物をもふっている瑠琵とミルフィの寸劇等も有ったりするが、それはまた別の話。
 既に三方、徳利、ススキに餅団子と、準備は整った。最後に使った杵を片付けていた桐が戻ると、リベリスタ達も勢揃いである。
 ウサギ達に近付かない為の予防線か、飲み物を入れて配っていた美月がささっと紙コップを差し出しささっと柱の影へと戻る。
「や、僕の事は気にしないで。ウサギ可愛いよね。恐くないよ?本当だよ?」
 明らかに挙動不審な仕草できょろきょろするも、その場に居ない3匹は冬路、彩歌、イルゼの3人が捕獲済み。
 ほっと一安心した所で国子が美月にも紙コップを手渡す。
「ほら、楽しんでこ?皆で頑張ってここまでやり遂げたんだしさ」
 あっけらかんと笑われれば、幾ら臆病な美月も釣られて笑い返さない訳にもいかない。彼らを見つめるウサギ達の赤い瞳が数度瞬く。
「それじゃあ皆御疲れ様、乾杯!」
 最も何くれとなく良く働いただろう、桐のその言葉に異を挟む物はいない。乾杯!と唱和した声に合わせる様にウサギ達もうっさー、と鳴く。
「はーい皆さん御餅配りますよ?」
 イルゼが声を上げるとモチツキウサギ達が諸手を挙げて列を作る。先ほどのぜんたーいとまれ。はこの為の予行練習か。
 ススキが揺れる。餅を食む。やはり団子とは食感が違う物の、後から餡子を中に詰めた為か味の程は上場。
「風流じゃなあ」
 冬路が餅を齧りながらススキと一緒に右へ左へと耳を揺らすウサギ達に瞳を細める。揺らぐ様な月の影、時間がゆっくりと過ぎていく。

 そうして一刻。ウサギの一匹がすっくと立つ。ぴくぴくっと他のウサギ達の耳がそちらを向く。
「ああ、もうこんな時間か」
 彩歌が抱いていたドジっこウサギが餡子を口の端に付けたまま彼女を見つめる。もふもふし続けたい衝動に駆られるも、呪縛が解けたのも何かの合図か。
 ウサギ達が立ち上がる。うさーうさーと鳴きながら、一匹一匹立ち上がりリベリスタへ耳を下げる。
 お礼のつもりか、差し出すのは作り過ぎた餅団子。所詮は10匹と8人。買い足した分と餡子で水増しした分は丸々余りだ。
 そうして彼らは列を組み、てくてくうさうさ向かうのは餅つき部屋。ぺったんぺったん空きもせずつき続けた大きな臼を除ければ、
 其処には月の様なまん丸の穴。ぐにゃぐにゃと歪んで見えるのは光線が歪んでいるからか。この世界の人間には理解し難い異世界の残滓。
「うっさー!」
 敬礼する様に手を眼の上に斜めに構え、最初のウサギが穴へ跳び込む。続いて2匹、更に3匹。
 ぴょんぴょんうさうさ、ぴょんうさうさ。7匹、8匹、そうして残るは僅かに2匹。
 冬路が捕まえていたリボンを着けたウサギがリボンを解こうとして手とこんがらがる。どうも徹底的に不器用らしい。仕方無いので手伝って解く。
「中々に楽しい催しだったのじゃ」
 冬路の言葉にドジなウサギが笑った様に見えた。次の瞬間その姿は既に無く、手元に残るはリボンのみ。
 最後までもたもたしていたのは彩歌の抱えていたウサギだ。立ち上がったのは早かった割に跳び込むタイミングを逃したらしい。 
 ディメンションホールがぱちぱちと瞬く。そろそろ時間が無い。リボンを解くのにも手間取っては溜まらないと彩歌が指でリボンを抜く。
 何となく決まらない敬礼をして、ウサギはくるりと背を向ける。
「それもまた、様式美?」
 笑う様な声が漏れ、耳がぴくんと一度跳ねる。小さく頷いた様な仕草が見えただろうか。その残影を残して、最後のウサギが世界から去る。
「これにて一件落着、じゃな」
 残されたゲートに左手を添え、瑠琵が世界と世界を繋ぐ門を叩き割る。ぱきん、と硝子を割った様な澄んだ音。
 そして静かに、ただ静かに、あれほど騒がしかったのが嘘の様に、廃屋は静寂を取り戻す。

 かくして月を愛した望月兎は去り、彼らが現れた時と何一つ変わらず――空には今日も、真白の月が昇っている。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
めでたしめでたし。

参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

此度は皆様実に卒の無いプレイングで、見事必要条件の全てを満たして下さいました。
その上で更にこの様な終わり方を迎えたのは
純粋に、皆様の注がれたウサギ達への愛情の多寡による物です。
この御伽噺をハッピーエンドに導くには愛が必要でした。結果は御覧の通りとなります。

この度は御参加ありがとうございます。またの機会にお会い致しましょう。