●あかくてあまい 春先の気候というのは、あまり優しくないことが多い。 肌寒さと暖かさが交互にやってくるのだ。 そんな中でも寒さが和らいだ晴れの日差しは元ならば、ようやく外に出られるというものでもある。 ここは田舎にある果物農園だ。隣には見栄えの良いレストランが併設されている。 なぜだかちょっとログハウス風である。 そこそこ流行りそうなものだが、人影はずいぶん疎らに見える。 寒暖が激しいこと、そして平日であることが理由であろうか。 看板には『平日いちご、スイーツ、軽食食べ放題』の文字が、どことなくうら寂しげに踊っていた。 天候が変わりやすい季節ではあるが、晴れの日を事前に予見出来たとしたらどうだろうか。 そしてこの季節だからこそ楽しむことの出来る味覚というのも、やはりあるのだった。 そう……いちごである。 ●というわけで 「この日は、晴れです」 開口一番。『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)が淡々と述べる。 その声に、どことなく熱がこもっているのはなぜだろう。 「その……」 リベリスタ達に手渡されたのは、一通のパンフレットだった。 なんだつまり、ここにいちごを食べに行けということだろうか。 「飲み物は、ダージリンかウバが好きです。 でもアッサムのジンジャーチャイとかキンブリックティーも……」 少女はいつも通り翳りある表情のまま、しかし切々と述べる。 「たまにはお休みも、必要です」 言われてみれば、リベリスタ達はこの所、鬼にフィクサードとハードスケジュールが続いていた。 「みんなで一緒に、いきませんか」 桃色の髪の少女は静謐を湛えるエメラルドの瞳に、最近どこかで見たような光を浮かべた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月19日(月)00:11 |
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●Berry Hunt ここは山梨県。 桃やぶどうを中心に、果物全般の栽培が盛んな地域だ。リベリスタ達はその南西部に足を運んでいる。 今回は八名単位の戦闘ユニットではない。十名でも十二名でも十四名でも六名でもない。 思い思いに、ばらばらに、はたまた誰かと寄り添うように彼等は歩く。 緩やかに。和やかに。 その訳はナゼか。 リベリスタ達がゆったりと歩みを進めるのは大きなビニルハウスだ。中では果物――苺が栽培されている。 これほどスペースに余裕のあるハウスというのは、なかなか珍しいものだ。 おそらく農作業のためではなく、あくまで『お客』に苺を摘ませる為に誂えてあるからだろう。 そう。ここは苺狩りのための農園であり、今日の彼等はその『お客』なのであった。 「わぁ、あまーいかおり。赤く色づいておいしそう!」 ニニギアは早速つまみあげたイチゴを口に運ぶ。薫り高い果汁の甘酸っぱさに、思わずふわりと頬が綻んだ。 「採ったそばからつまみ食いするなよ」 彼女がつなぐ大きく暖かな手の主はランディ。険しい表情が板に付いた彼だが、今日ばかりはニニギアの楽しそうな様子に笑みを隠せない。 普段は身も心もすり減るような日々を送る彼女に、怒りと責任感にばかり囚われている彼氏―― リベリスタの宿命とも言える日常から脱出出来る僅かな時間を、二人は十二分に楽しもうとしている。沢山採って沢山食べるのだ。 「あ、あっちのほう、赤いイチゴいっぱい見えるわ」 「よしきた」 指差すニニギアを突然ランディが背負う。かわいらしく小さな悲鳴をあげるニニギアだったが、しがみついた大きな背は春の日差しのように温かい。 「お土産にしたイチゴで一緒に何か作るか?」 背中から覗き込む横顔は朗らかだ。笑顔になるのが苦手な男が見せる稀有な微笑みは、彼女だけが知っている、彼女が一番好きな表情だった。 「折角だからのんびりと行こうぜ」 「こうやってのんびり出来る機会って中々無いもんね」 微笑む宗一の前で霧香が両腕を広げる。 広々としたビニルハウスの中を歩む二人にとって、苺狩りは初めての経験らしい。 まずはそのまま一口。自然な甘さと爽やかな香が口一杯に広がる。 「う~ん、幸せ♪」 次は練乳をかけてあまーくして食べるのだ。 一方甘すぎるものが得意ではない宗一は、へたをとってそのまま頂く。 やはり自然に、そのまま食べるのが性にあっているようだ。 「霧香、これなんかどうだ、結構大きいぞ」 振り返る霧香が目を丸くする。 「ほれ」 鼻先に差し出された一際大粒の苺を、少女はぱくりと頂く。とっても甘い。 「美味いだろ?」 「うん、おいしいっ!」 その瞳が輝いているのは、美味しさのためだけだろうか。 (キミがくれたものだから……なんて、口には出さないけどね) 甘い果実が彩る淡い感情は、それも幸せの一つの形なのかもしれない。 「ふふっ、誘ってくれてありがとね、宗一君っ」 霧香はお返しとばかりに、やはり大きな苺を差し出す。 これで貸し借りは帳消しか――否、もしかするとこういう場合、ずっと消えないものなのかもしれない。 「いちご狩りとか、小学生の時以来かも」 どこか強張った表情のまま、快が呟く。 「……久しぶりだなあ」 遠い目をした快の胸中によぎるのは、それだけの理由ではなかった。 重要任務を立て続けに失敗したことは、彼の心を大きく抉っていたのだ。 「ふふ、最近忙しかったものね。ここらで少し息抜きと行きましょう。 快も、いろいろとお疲れ様ね。沈んだ顔なんてらしくないもの」 元気だしなさい? ティアリアの言葉が、口に含んだ苺の甘みと共に胸を包んで溶けて行く。 「基本的にはもぎたてをそのままが一番よね」 「俺もいちごはそのままに一票。練乳は無しで!」 小悪魔の微笑を崩さぬティアリアの視線に、快は僅かに戸惑った。 だが―― 随分凹んで、皆に心配もかけたと快は想う。 (反省は必要だけど、そろそろ次に向かって前を見なきゃいけない時期だ) 再び思索の海に沈んでゆく。重傷だ。そんな快をティアリアがそっと覗き込む。 「快知っていて? いちごは尖っている方が甘いから、へたのほうから食べるのが正しい食べ方よ。 先に甘いほう食べると後から味しなくなるじゃない?」 「先っぽの方が甘いのか……普段一口で食べちゃうから、意識したこと無かったよ」 それじゃ。 「ちゃんとヘタの方から。はい、あーん」 快はヘタをとった苺の先端をつまみ、ティアリアに差し出す。 「……ん、甘酸っぱくて美味しいわ」 ようやく綻ぶ快の頬。 「いちごをホワイトラムに漬け込んだ苺酒というのもあるそうよ」 「苺酒か。俺も作るなら日本酒か米焼酎がいいな。和リキュールだね」 「焼酎でも美味しそうよね。今度一緒に作って飲みましょう?」 彼には心を癒す時間が必要だったのかもしれない。もう一度燃え上がるために。 「そあら、そあら、あーんするのだ」 こちらはたべさせっこする少女二人。 「練乳たっぷりがいいですか? はい、あーん」 「ありがとう」 そあらが差し出す苺を雷音が頬張る。とっても甘い。 「おいしいな」 そあらが苺を次々に摘んで行く。いろいろ出来る施設だが、とってこれ以外の選択はなかった。 だっていちごだ。いちごなのである。パラダイスだ。つまりさおりんなのだ(関係ない)。 「いっぱいたべるのだぞ!」 こちらの苺は薄いピンク色をしている。あまり市場に出回らない珍しい苺も結構あるらしい。 だからそあらはお店に出回るタイプの苺ではなく、珍しいものを中心に食べていく。 「ここならいくらでも……だからカゲトヒで食べるのはちょっと控えめにしてほしいのだぞ?」 「3日間くらいなら頑張れると思うです」 きりっと(`・ω・´)こんな顔をしてみせるそあら。すごい説得力だ! 「エスターテさんも苺好きです?」 「あ、はい」 いつの間にか近くで苺を摘んでいた桃色の髪の少女に、そあらが声をかける。 「ご一緒にいかがですか? あかいこの実が美味しそうですよ?」 後はお土産をもって、最後に携帯で写真を撮ろう。二人のいつものお約束なのだ。 二人に程近い場所から、桃色の髪の少女に声がかかる。 「エスターテちゃんもおいでよ」 手を振ったのは悠里だ。 「こんにちは、エスターテ。久しぶりだな」 少女はレンにぺこりと頭を下げる。 「はい。お久しぶりです」 二人が少女と初めて出会ったとき、彼女は敵だった。そんな彼女も今ではアークの仲間だった。 まだ1年も経ってないのに随分と昔のことに感じる。 「元気そうで何よりだ。アークには慣れてきたか?」 「はい」 余り表情を変えぬ彼女の顔が僅かに綻んだように見える。 彼女の父も元気にしているのだろうか。 訪ねてみれば、どうやら少女は彼女自身が望んだ一人暮らしをしているとのことだった。 多忙な義父はフィクサードからは足を洗い、なにやら色々仕事をしているようだ。 詳細は彼女にもよくわからないらしい。 「影主さんのおみやげに渡せるといいね」 「はい」 少女が微笑む。聞きたいことは沢山あるが、ひとまず元気な顔が見れてよかったとレンは想う。 あちこち見て回りたいと立ち去る少女に、悠里が声を掛ける。 「次は僕達からお誘いするね。こう見えても料理は得意だから影主さんと一緒に御飯を食べに来てくれたらいいよ」 「楽しみに、しています」 少女は真顔で頷く。近く、そんな日があるようにと願って。 「所でユーリ、いちご狩りに何か必要なものはあるか? 鎌とか」 こちらも真顔の問い。 「鎌!? いや、はさみで切ったり、なんなら素手でとってもいいんだよ?」 甘くて美味しい苺だ。沢山とって帰りたい。多ければ悠里にジャムにしてもらえばいいのだ。 「で、デート……デートッスっ!」 むずむずとした気持ちに、リルの顔はついつい緩んでしまう。 「リルさんとの初デート…になるんです?」 凛子がそんなリルに微笑みかける。そんな風に見つめられて、やっぱり笑みが止まらないのも致し方ないだろう。だって、綺麗だから。 苺の選び方をよく知らなかったリルは、実が赤いだけでなくガクの付け根辺りに少し白いものが残っている方が美味しいと凛子に教わり、その通りに摘んでみていた。 凛子のサバイバル経験の賜物である。 「はい。どうぞッスよ」 美味しいものは、一緒に食べたいものだ。 と、一緒に食べていた二人だが、楽しみはそれだけではなかった。 ほどなく陽光に包まれた大型のハウスから出てくる二人。 人は疎らで、何しろ広い。お弁当を広げるスペースは十分過ぎるほどあった。 凛子はサンドウィッチとサラダを用意している。ハム、卵とレタスに、勿論リルが好きなチーズだって挟んである。 料理は簡単なものしか作れないのだが、彼が好きなお菓子も心が篭ったチーズスフレだ。 対するリルも負けてはいない。 凝るよりもいつも通りを心がけたオーソドックスなお弁当だ。タコウィンナーは自信作である。 二人のおかずを交換すれば、二倍美味しい。 「すごく美味しいッスよっ」 デザートには苺と大事なスフレを。 後は時間一杯まで過ごそう。はじめてのイチゴ狩りも、二人一緒ならとても楽しいから―― ●狩りの時間 「っしゃーー! いっぱい狩るぞ!」 「さあ、狩りの時間だ」 夏栖斗が叫び、竜一がなぜかちょっとニヒルに気合を入れる。 完全な第三者であれば、たぶんパっと見すごく格好よく見える。 二人の言葉の意味が大きく異なることは、リベリスタ達には自明であれど、まだ誰も何も言わない。 だって。最後は結果的に余り変わらなくなることも、皆知っているから。 「いっぱいあって、どれにするか迷ってしまうな」 立て続けの厳しい任務に命をすり減らし続け、運命さえ捻じ曲げた少女が手にしているのは、愛刀ではなく苺だった。 あの日から可能な限り激戦を避けながら、それでも戦いを止められない彼女にとって、こんな時間が必要であることは間違いない。 「ほら、これとかでっかいぞ!」 「ありがとう、カズト」 「いっぱい食って元気にならないとな!!」 ここ最近、こうした催しに夏栖斗は積極的にクリスを誘い出していた。 そしてテンションあげあげで叫ぶように盛り上げていくことが、今の彼に出来る精一杯のことだ。 そうすればなんとなく、あの日からやけに儚く見える彼女がもっと世界と繋がってくれる気がして。 そうでもしなければ、いつか彼女がどこかに消えてしまいそうで―― そんなことは、誰にも許せることではないから。 「こんなに美味しそうな苺なんだ……」 これを食べれば、きっとすぐ現場に復帰できる。 そう想う彼女の深き業へ、この日ばかりはほんの少しの安らぎを―― 「先輩っ! これ見てください! でっかいいちご発見です!!」 壱也が指差す先には、拳の半分はあろうかという巨大な苺だ。 「おー、でっかいな。どれ、あーんしてやろう」 「食べさせてくれるんですかっ」 あーんと、瞳を輝かせて苺にかぶりつく壱也。とはいえ十九歳の可憐な少女が一口で食べきれる量ではない。 「うまいか?」 鋭い、けれどやさしい瞳が壱也を射抜く。先輩好き。好き先輩。先輩。大好き。 「あまいです!! すごく!! おいしいですよっ!」 頭を撫でるモノマの手から、壱也は幸せが流れ込んでくるような気がする。 すぐに欠乏してしまう先輩成分も充足しつつあるようだ。またすぐ切れるけど。 「先輩も食べますか?」 「あぁ、そいじゃ、食べようかな」 あーん。 (あ、わたし、食べかけ渡しちゃった……!) 頬が熱い。きっと顔が赤い。どうしよう。 少女はそんな顔を見られない為に、暖かな恋人の胸に思い切り飛び込んだ。 「こういう日をまっていたのですぅ!」 「ふっふっふ」 「ここのいちごはぜんぶあたしのものですぅ!」 「どこを見てもいちご! いちご!」 「ひとつぶのこらずうばいとってやるのですぅ!」 「甘くておいしいいちごを沢山みつけるですぅ!」 きりりとした顔がまぶしいマリルさんの横に、こっそり紛れ込んでいるつもりの変なのが一人居る。 摘んである苺をひょいぱくひょいぱくと食べまくっている。 「これは勝負らしいのですぅ! ビスハの鼻をなめるなですぅ!! おいしいいちごはかぎわけられるですぅ!!!」 ここは己の戦場であるとばかりに、気合をいれるマリル。でも横にいるなんかピンクの変な奴が苺を食べまくっている。 「あれ、ストロドリンじゃん」「ストロマリル?」「え、そあら?」 「なんだ居たのか」「いや、そあらはあっちの遠くのほうじゃね?」「マリルが増えたかと思った」 「声優(?)が同じだから気がつかなかったわ」「Σ(´・ω・`)」 すげえどうでもよさそうな反応に、わなわなと震えるマリルとストロベリー。 「おのれ、りべれすたども! あたしの正体をみやぶるとは!」 あ。そっか。 「あたしのかくしきれないカリスマおーらがじゃまをしたのかぁぁぁ」 「じゃあ、ストロベリーとはどっちが美味しくて大きいのを取れるか競争な」「「「おー!」」」 何事もなかったかのようにしれっと提案する夏栖斗の言葉に一同が乗る。 かくして激闘が始まった。 「みえてるところは全部あたしがたべるですぅ」 「見てみて~! こんだけとれたよ! でっかいのは食べちゃった」 「お! いっちーのくれたの甘い!」 もっしゃ! もっしゃ! ――と思いきや。 「せっかく、なんかショタになったし、有効活用しないとね!」 死闘の最中、そこのピンクのフィクサードよりよほど邪悪なのが一匹居る。その名は結城竜一! 「ひゃっほおおおーーーい!」 通りすがりのエスターテのスカートが思い切りめくれあがった。 「エスターテたああああん!」 お。かぼちゃぱんつだ。 「ああっ竜ちゃんの狼藉を僕はとめることができない!」 思わずなみだ目でスカートを押さえるエスターテを尻目に、戦場を駆け抜ける竜一の魔手が次々と迫る。 「へっへーん! 竜一くん、今日はわたしズボンだから!」 壱也はしゃがんでも大丈夫なように、お気に入りの短パンを身に着けてきたのだ。 「なにい!?」 だが――まだ次がある。 潜り抜ける死線の先に見えたのは、ストロベリーのぱんつ。おおっとこれは、やっぱりいちご模様だ! 「イチゴ狩りだなぁ~」 無駄に爽やかな夏栖斗の笑顔が春の日差しにきらきらと輝いている。 脳裏に焼き付けたぱんつもきらきらと輝いている。ぼくはむりょくだぱんつーまるみえ。 さっきまでちょっと格好いいと思っていた矢先にこれである。 だがしかし、遂に悪は滅びさる運命を迎える事となった。 げふっ。モノマの拳が竜一の腹部にめり込み、浮かび上がる身体がくの字に折れる。 「……ふっ、狩る側が、いつの間にか狩られる側に回っていたとはな……」 がはっ。不穏な様子だった夏栖斗にもとりあえず腹パンが炸裂した。様式美だ。 「だが、忘れるな…俺は人の欲望の一端にすぎな……」 ぐるぐるぐるぐる。 「いたいいたい! やめて! 簀巻きにしないで!」 「問答無用!」 「ちょっとみんなと仲良くしたかっただけじゃないか……」 「お前等、仲良くするにも方法ってもんがあんだろうが」 仲良く並んだ竜一、夏栖斗、ストロベリーの三人。 「「「はい……」」」 ほんとに反省した? そんなこんなで二人と共になぜか一緒に縄を解かれたストロベリーは、速攻で苺を抱えて逃げようとするが、カゴ一杯の苺はいつの間にかプチトマトにすりかえられていた。 「あ、ぐるぐだ」「よう、ぐるぐ」 「なにおー!? このぐるぐさんは怪盗ぐるぐ! 歪ぐるぐとは無関係である!」 そ、そうなんだ。たぶんさっきのぐるぐるとも無関係である。 「おのれ、りべれすたども! 今回はゆるしてやるです!」 その隙とばかりに、ストロベリーが逃げ出す。 「いつかばいがえしにしてやるですぅぅ!!!」 まあ、あいつは別にほっといてもいいや。 それにしても。 どんどんカオスゲージが下がっていきそうな二人には、願わくばそのうち、なんかはしばぶれーどとか、妹さんのスタンガンとか、ふぉーちゅなぱんちとか、そういうのを一身に受けて頂ければ幸いです。 ●Let's sweets! 所変わって、農場に併設されたレストランである。 さりげなく入り口に立つ夜鷹の前に、レイチェルが姿を見せる。 バレンタインのお返しに誘ったのだが、さり気無く先に待ってくれている所が憎い。 この日レイチェルは可愛いふわふわの服に、髪もヘアピンで留めている。 普段は制服かシンプルな服装なのだから、夜鷹は少し驚いた。 彼女は、確かにこういった装いはしない。だから。 変じゃないかな。似合ってるかな。可愛く、なってるかな。 ……可愛いと、思ってもらえるかな。 胸の高鳴りや期待と共に、胸に広がるのはどこか焦燥感にも似た切ない感情だ。 どんな顔をしているのだろう。それは計算高き『シャドーストライカー』が普段見せる表情ではない。 「レイ、とても似合っているよ」 広い手のひらがレイチェルの頭を優しく撫でる。 すまし顔の少女だが、頬が一気に染まっている。たぶん色々とバレバレである。 これってやっぱりデートなのだろうか。あーんと食べさせっこなんかするのだろうか。 夜鷹にとって目の前の少女は愛らしくて、見ているだけでなんだかなごむ存在だった。 どんどん可愛くなっているような気がする。 いつまでも、こうして妹分であってほしいと思う。 基本的には、彼は誰にでも親切で温厚、誰彼分け隔てなく気遣いが出来る紳士である。 自分自身では世話好きなだけだとも思うのだが……。 しかし彼は気づいているのだろうか。己の感情の中で、彼女が最も多くを占め始めていることに…… さて。いよいよ建物の中である。 同じような種類のケーキは、シフォンはシフォン、タルトはタルトとカテゴリーごとに配置されている。 その中でエナーシアは出来る限り種類を散らせて皿に載せることにした。 なんせ果物と合わせて数十種類もあるのだから、全種制覇を目指して、ゆっくりと選んでゆくのだ。 戻った席には既に紅茶を用意してある。 別に店のサービスではなく、こうして先に用意しておくことで、紅茶がわざと冷めるように計画したのだ。 (うぎぎ、猫舌を隠すのも大変なのです><) お気持ちよくわかります! 兎も角。まずは一口。そっと口に運ぶ。 美味しい。 この店ご自慢の苺だけではない。果物農園併設だけあって、ケーキへの果物全般の使い方が絶妙なのだ。 (この美味しさでこの客足って、全にあのパンフレットのドヤ顔のせいじゃないかしら?) そうかも! こちらは男性お一人様。 「男性が一人で参加するなんて悲しい? ばか言っちゃいけませんよ。 スイーツが好き。男女なんて関係ないのです」 私もそう思います(ぐぐっ) すごくいいこといったドミニクは、甘いものに目がない性分だ。 されど三時間の時間制限付きとなれば、ひたすら食べ続けるのみだ。 とはいえ、ガツガツと早食いをするのではスタイルに合わない。あくまで優雅にあるべきだ。 ミルフィーユだっていたずらに崩さない。見てほしい、この――あ。今倒れたけど。 口に含む苺とカスタード、パイの香ばしさを、五感すべてを使って楽しむのだ。 見て楽しむべし。香りを楽しむべし。食感を楽しむべし。 咀嚼する音を楽しむべし。味を楽しむべし。 全てを楽しむべきなのだ。 早く量を食べる事を意識するあまりそれを忘れてしまってはいけない。 スイーツとはそういうものなのです……。 楽しむその姿には、気高い孤高の美学が詰まっているのだった。 それにしても、どれもこれも美味しそうで目移りしてしまう。 ミミはイチゴ狩りだと聞いていたのだが、なんとなく建物に入ってみれば、そこは宝の山だったのだ。 (取りあえず、食べ放題……みたい、ですから……) まずは一通り眺めてみたいと、ふらふら歩きだす。 色とりどりのさまざまなケーキが並んでいるが、あっちにはサンドイッチ、こっちではなぜかシェフがオムライスを作り続けている。 ほわあ。どうしたものだろうか。 (並んでいる物を一通り食べてみましょうか……) のんびりした印象の彼女だが、その胃袋は底なし。まさにブラックホールである。 次から次へと食べ続けるが、やっと見つけたお気に入りの逸品は、甘酸っぱいミックスベリーのタルトだ。 とりあえずワンホールをお皿に乗せたところで、彼女は焦る。 (……あっ……いけませんいけません) 余り一つを独占したら申し訳ない。だけど大丈夫。すぐさま同じタルトが運ばれるのを見て彼女は安堵したのだった。 別の席では、綺沙羅がケーキに舌鼓を打っている。 苺モノを中心に選んだのだ。 新鮮な苺と牛乳を使った苺ミルク、定番のショートケーキに苺タルト、上品な味わいのフレジエも捨てがたい。 美味い。まだまだいける。全部食べよう。そう心に誓う綺沙羅であった。 シャルロッテは出来る限り小さなケーキを沢山お皿に乗せている。 色々な種類を食べたいが、あまり量を食べるタイプではないからだ。 誰か来ないかなあと思う。ちょっと暇なのだ。なんとなくパンフレットを見る。 ドヤ顔のシェフが腕を組んでいる。例えばここになまずヒゲをつけて、サングラスつけて。 もくもくと落書きがしたくなるが、頭の中でだけねっ。実際にはやらない良い子シャルロッテ。 「あ、エスターテおねえちゃん」 ふと近くを通りかかったフォーチュナを呼び止める。 おねえちゃんなどと呼ばれることは余りないのか、エスターテはちょっとびっくり顔である。 アークには彼女よりも年齢が低いリベリスタが戦っているのだ。 「未来はかえられるって運命を変えられるってことだもんね」 「はい」 とても大事な事だけど――普通に甘いもの食べようかな? こちらも矢張り食い気。アルトリアが参上である。 春らしく苺の他、メロンや柑橘も並んでいる。 「うむ、実にどれも美味そうである」 闇騎士は頷き一つ。戦場を睨む。 「しかし、3時間4200円はやはり痛手であるな……」 誰しもこうした場合『元がとりたい』と思うのは人情である。 とはいえ通常、計算され尽した金額は、元などとれないように出来ているものだ。 しかし彼女の野心はそれに留まらない。 目指すは全種類10個以上。机の上に所狭しと並べて三時間全てを費やして食べるつもりだ。 「季節感ある菓子がとても良いな」 かなりの速度でケーキを口に運んでいく。これは速い。 (軽食も確かに美味い。オムライスが人気だというのも確かだな) 黙々と食を進めるアルトリア。彼女であれば文字通りいくらでも食べられる。底なしだ。 たとえ三時間食べ続けても、彼女には物足りないだろう。 シェフやパティシエ達が目を見張るほどの、正に見事な食べっぷりである。 「いちご狩りの併設レストランだからやっぱり狙うならばいちごのケーキよね?」 笑みがこぼれる。 「取り敢えず、いちご系統を制覇しちゃいましょう!」 いちごのショートケーキ、いちごのタルトは定番だ。 いちごのムースにいちごゼリー、いちごのレアチーズケーキも食べたい。 小さめのケーキをお皿一杯に乗せてみる。 少し濃いめのミルクティーも片手に、テーブルに戻ればそこには怪盗――じゃなかった。えっと、ぐるぐさんが居た。 「ちょっと取り過ぎちゃったけれど」 糾華の頬に照れた笑みが浮かぶ。 「どこかいってたの?」 糾華の言葉に、ぐるぐはちょっと照れながらも戦果の苺を見せる。 だがその目線の先、糾華の背後のテーブルにも山盛りの摘みたて苺が! 「なんですとー!?」 くすくすと笑いあう二人。口の中に溶けてゆくケーキ。甘いひと時―― 「おいしい! んー、来て良かった!」 フルーツジュースとオムライスを食べながらも、ぐるぐはちょっと多すぎる糾華のケーキもつまみ食いする。 「あ、ぐるぐさん、顔にクリーム着いてるわ」 拭き取ろうとする素振りで、頬に小さな口付けを―― 先の数名より、やや遅れて入った二名は、くいくいと袖を引き合って互いに目を輝かせる。 「すごい、のよ……」 だって、あるんだもん。色とりどりのスイーツの山が。思わず目も輝くというものだ。 仲良しな二人だが、思えば一緒に遊ぶのは初めての機会だった。 「うん、うん……♪ お腹一杯、食べよーね」 羽音と那雪はどきどきと高鳴る胸を躍らせながら、お皿を持って眺めて廻る。 あれもこれもと目移りしてしまうが、苺系のケーキは外せない。気になるものは全部とってしまおう。 「羽音さんはどれにする? とってくるのよ」 「ありがと、那雪」 優しい提案を受け、羽音は紅茶、那雪はスムージーをテーブルに乗せる。 目の前には、色とりどりのケーキ達が甘くて美味しそうな香りを漂わせていた。 羽音は年下の友人がずいぶん可愛らしく見える。婚約者の妹分ということは、つまり未来の―― 二人とも同じようなことを考えていたのだろうか。顔を見合わせ、なんだか照れてしまう。 「羽音さんは、どれがお勧めかしら…? 私は、これ……」 苺のロールケーキをあーん。お礼に苺のタルトをあーん。 「はい、あーん……どう?」 「美味しい、の……」 二人の口の中が、とろけるように甘い。 ほわほわと。既に本当の姉妹のように、仲睦まじく時を刻んでゆく。 「オムライスも、食べたいな……」 那雪が可愛らしくそわそわしているのは、一人前のオムライスではちょっと多いからだろうか。 「良かったら、半分こする?」 スモールサイズとか頼めるのかもしれないが、分けっこしたほうがずっと楽しい。 「半分こ……」 幸せな一時。自然に零れる笑み。胸に染みる言葉がとても心地よかった。 「ふふ……」 ふわふわとした卵の上に、可愛らしいアヒルの絵が、くちばしを尖らせている。 「できた。上手に書けたから…フツ、食べてくれる?」 可愛らしいオムライスを、あーんと分けっこするのだ。 「ウム、こりゃ確かにウマいなァ」 食べるのがもったいない気もしたが、あひるにあーんとされればもちろん食べてしまう。 「あひるに食べさせてもらったから尚更だ!」 くすくす笑うあひるに負けじと、フツもケチャップを握る。 ニット帽にサングラスでは弘法大師とかには見えないが、なぜかそんな徳たけー感じだ。 そんな彼は何を描くのか。お経とか曼荼羅とかか!? 否。フツのオムライスに鎮座することになったのは(´・ω・`)こいつだ。 ケチャップが赤いから『ドリンベス』である。 「わわ、フツのオムライス、退治しなくっちゃ……だねっ!」 「二人で仲良く食べて、どりんを退治しようぜ!」 「あーんって……してしてっ」 あひるの口に運ばれたのも、先ほどと同じオムライスであるが、彼にあーんってしてもらえれば格別に美味しい。 そんな彼女の頭をわしゃわしゃと撫でるフツ。食後には山盛り苺が食べたい。 なんだかお似合いのBOZU & GIRLであった。 ツァインは椅子の背もたれに寄りかかり、大きく息を吐く。 何があったのだろうか。体中の筋肉が軋んでいた。 「やっぱ格闘は場所を選ばない強さがあるね」 「ツァインがあれほど硬いとはな」 白い歯を見せて笑うツァインに、優希が口を尖らせる。倒しきりたかった。二人は山岳戦の訓練のついでに、ここに立ち寄ったのだ。 むしろツァインにとっては訓練がついで……おっと、いけない。 「……ところでそれを全部食う気か……」 優希の眼前には、山盛りのオムライスが並べられている。 「つーか、なんでここオムライスがこんなに美味いの」 大きな謎の一つである。おそらく近くの養鶏場から取り寄せた卵と、地鶏を使っているのだろう。 それにしても。 「正気の沙汰ではないな」 何か恐ろしいものを見るような目で友を眺める優希である。 「おっす!」 「はい」 かけられる声に、ぴょこりと振り返るエスターテの桃色の髪が揺れる。 「よう。食いしん坊フォーチュナこと『グルメ公主』エスターテ」 思わぬ言葉にあわてて首を振る少女。なまじ自覚がないわけではないから尚更だ。 「え、違う? 冗談冗談、それよりそんなに食べ切れるのか?良かったら半分食おうか?」 小食なはずの少女の皿には、ついつい選んでしまったケーキが所狭しと並べられていた。 とても食べきれる量には見えない。 「バイキングは少しずつ色んなもの食べた方が楽しいからな~、こんな風に」 ツァインは似たような種類のケーキを選別して、次々と優希の皿に押し付k――綺麗に並べてゆく。 「こ、こら! 俺はスイーツは苦手だというに!」 そう言いながらも食べ物は粗末に出来ない優希が一口。 「む、甘いのに美味いな。流石はエスターテの見立てた店であるな、鋭気が養われるようだ」 「ありがとう。ございます」 「今度うちのコーポに遊びに来ないか? お茶淹れるの上手い奴がいてさ」 「来るなら歓迎するぞ」 行って見よう、と少女がこくりと頷く。 「まぁ、一番はコーヒーだけど。紅茶も美味いぜ?」 どちらも好きなグルメ公主の瞳が僅かに輝く。 「ところでツァイン、これを食い終えたら、もう一仕合いくとしs「すまん、そっちは別腹じゃない……」 返答が間髪無し。 「おいツァイン、勝ち逃げは――」 やんややんやと賑やかな横で、こちらもオムライスが二皿目である。 「ヴィンセントさんはいっぱいおかわりするのだね」 うさ子は目を丸くしながら、兎の絵を描く。一皿目には鴉だった。 「すごくかわいいです。いただきます」 携帯で写真をとって、こちらもぺろり。細身の姿に似合わず、意外な大食漢だ。 うさ子も甘いものは好きだから、イチゴのケーキ等小さなものをいくつか食べ、オムライスも食べたのだが、あまり沢山食べ過ぎると…… 『Danger! このシナリオはフェイトの残量に拠らない脂肪判定の可能性があります。参加の際はくれぐれもご注意下さい』 それはダメだ。別に電子の妖精を駆使したわけではないが、恐ろしい想像が彼女の胸中を駆け巡る。それだけは避けたい。 そんな彼女の向かいには、再び三皿目のオムライスが運ばれる。 少女は三度目に、とある模様を描いた。先ほどの鴉と兎に続き、今回はハートマーク。 それが意味するものは安らぎであり、頼りになる姿であり、そして誰よりも大好きな―― (写メはいいのだけど、だんだん恥ずかしくなってくるのだね……) 照れるうさ子の目の前で、ヴィンセントも頬を染めている。だけど彼女の気持ちが嬉しかった。だからとびきり美味しい。 ヴィンセントはお返しに紅茶を淹れる。 お湯でカップを温めて、しっかり3分蒸らして、最後の一滴まで丁寧に。ゴールデンルールだ。 柔らかな茶葉がふわりと香る。この日の為にがんばって練習してきたのだ。 彼の一生懸命な姿が可愛いし格好よくて、ついじっと眺めるうさ子。そんな幸せな時間。 幸せそうなうさ子の姿は、彼の心のよりどころになっている。相思相愛。幸せの形であった。 「うん。美味しい。ほっとするのだよ」 ゆっくりと味わって飲もうとうさ子は思う。何よりも、彼が淹れてくれたのだから…… ●ごちそうさまでした! 三時間食べ放題とはいえ、ずっと食べ続けていられる者は少ない。 既に外に出ているリベリスタ達も多かった。今度の二人はそこを繋ぐロビーで語らいあっている。 ソファーでくつろぐ真独楽は、たっぷり食べて、おなか一杯だ。 大親友にして、女性として憧れの杏と一緒とはいえ、ちょっとねむい。 ねむいのだが、折角の休日なのだ。夕方まで外で遊びたい。 「今日は急に誘ってごめんなさいね。どうしても一緒に出かけたくって……」 「ううん。えへへ、今日は誘ってくれてありがとなぁ」 少女のような――いや、少女である。そんな真独楽の屈託ない笑みに、杏もどこか心に安らぎを覚えていた。 「二人で遊ぶと、超楽しいねっ!」 一口飲む? とグラスを差し出す真独楽。イチゴのフレッシュジュースが、すごく美味しかったから。 「ありがと」 もたれかかる真独楽を撫でながら、杏が語り始める。 「ほら、アタシ、バレンタインにチョコ貰ったけどホワイトデーに返せなかったから…… まこにゃんはちゃんと返してくれたのに…… だからこれで埋め合わせ…って言い方もアレだけど。埋め合わせをさせてくれればと思ったのよ」 だから…… 「寝ちゃったのね」 起こさぬように静かに呟く杏の膝の上で、安らかな寝息が聞こえる。 真独楽から零れ落ちた言葉は。 「ぱぱ、かぁ……」 ま、いっか。 もう少しこのままそっとしておこうと、杏は静かに瞳を閉じる。 ●春の散歩道 気付けば弥生も半ば、桃月とも呼ばれる通り桃の花は開花の時期である。 はじめて友達と遊ぶ約束をしたから。エメラルドの瞳の少女が、桃の木陰にそっと姿を見せる。 「エスターテちゃん……っ!」 その姿を認めるや否や駆け寄るルアが、エスターテをぎゅっと抱きしめる。 桃色の髪を彩る小さなひまわりのコサージュが、ルアの頬をくすぐる。 結構な勢いだったが、よろめくこともなかったのはルアの気遣いと、エスターテ自身が抱きしめ返したから。 それは初めて出会ったあの日、救いたい一心だったあの時とは違う。友達としての抱擁だった。 エスターテも、ルアに言いたいことが沢山あった。 コサージュのお礼がしたかったけれど、ホワイトデーは男の人の習慣だと聞いていたし、誕生日はずっと先で―― 内気な少女は言葉にこそ出さないが、きっかけが掴めずに少々悩んでいるようだ。 「やあ、久しぶり。その後元気に過ごしているかい?」 二人に降り注ぐのは深く暖かいスケキヨの声。ルアの大切な大切な恋人だ。 少女の肩に顔を埋めていたエスターテが、はいと頷く。 あの時は色々あったけど――。本当に。なんせ殺し合いをしたのだから。 だけど今は仲間として。 「君と肩を並べられる事。とても嬉しく思うよ」 「はい」 少女の声が震える。 「これからも宜しくね、エスターテくん」 日陰を生きてきたからか、感情を表に出す習慣が乏しいエスターテは、嬉しいのに泣きそうな感情に戸惑う。 「エスターテちゃんの守りたいって気持ちが痛いほど分かったの」 ルアがそっと、二人の手をとった。 「私も、スケキヨさんだけは絶対守るって決めてたから」 あの瞬間から、気持ちが重なったから。 「あの時、誰も死ななくて良かった。エスターテちゃんが頑張ったからだよね!」 気持ちはほとんど同じだけど。だけど違う。友達だけど、でもほんの少しだけ絶対に違う。 「ルアくん。君だって、あの時はすごくカッコ良かったよ」 ボクを守ってくれて有難う、と続ける。 上手く言葉が紡ぎ出せない少女に代わって、スケキヨが述べてくれた。 大好きな友達に、どんなに言われても、エスターテにとっては、決して『が』ではなかった。 自分が言いたかった言葉をすらすらと紡ぐスケキヨの姿に、エスターテが微笑む。 父を救った恩人と、密かに憧れる大事な友達と。二人が一緒にいて、本当に良かったと思う。 戦う力の全てを誰かを守る事に注ぐ少女と、戦えぬ力を誰かを打ち滅ぼすために費やす少女。 髪の色。ドレスの色。どこか表裏を思わせる二人の少女を、スケキヨは静かに見守っている。 そよ風が髪を撫でる中、三人はゆっくりと歩みを進める。 こうして今一緒に居ることは、本当に素晴らしいことだ。 やがて、スケキヨの指がルアの髪をそっと撫でた。 『強くて優しい君だからこそ、ボクは大好きになったんだ』 そっと耳元で囁く甘い声にルアは―― その横を静かに通り過ぎるのは一組の男女だった。 イチゴ狩りを終えて、ぱくぱくと摘みながらの散歩である。 「んむ! このいちごは当たりばっかりだな♪」 「確かに当たりの苺ばかりだが……どれだけ食うつもりだ」 龍治がじっと木蓮を見つめる。 『土産分まで食わないように』 どちらも同じことを考えたのか、見つめあい、思わず顔が綻ぶ二人。 「桃の花か。つい最近年が明けた気がしたが、本当に早いものだな」 きょろきょろと辺りを見回す木蓮に、龍治は不思議そうな表情を浮かべる。 少女は恋人に、白木蓮の季節でもあると告げた。 「ほう、白木蓮も……なのか」 どんな花なのか、あれば見てみたいものだが、いかんせんどんな花なのか検討がつかない。 と、横切る農家の納屋裏に佇み、咲き誇る満開の白い花。これだ。 「へへ、今年はお前と見れて良かったぜ」 件のてんぷらには一緒に行けなかったけれど、ここには来れた。 「……桃の花だけでなく、桜も一緒に見に行こうな?」 言い終えながら頬を染める木蓮の頭に、龍治が優しく掌を乗せる。 そこは丁度白木蓮の元。花をヴェールに深く優しい香りが龍治にそっと近づく。 ここなら誰も見ていないから。抱き寄せる。咥えた苺と共に柔らかな唇が優しく触れ合った。 「花より団子……とはよく言うが、俺は此方の方が好みだな」 「花見月。……月が終わる頃には、咲き誇る桃花が見れるのでしょうね」 視線の先に見えるのは一際高い山。裏富士だ。山がずいぶん近いせいか、あまりに大きく見える。 仮に、あの山が自身の人生だとするならば……今はどの辺りを歩いているのだろうかと拓真は考える。 そういうことを、思わずにはいられないのだ。 自身の心と、自らの標を重ね考えるなら…… 「……良くて、二合目か」 「……まだまだですよ」 少し小首を傾げて悠月は微笑む。 「真直ぐに登れる訳でもないですしね、その山は」 「改めて少しばかり大きく、高い山だな……とそう思っていた」 彼もまた、笑顔を返す。 互いに見えぬ頂を目指す身の上。 頂上に辿り着く事は決してないのかもしれない。理想は理想でしかなく、現実には程遠くて―― 彼女も想う。ただ登り続けるだけでは到れないものも在るのだ、と。 己は何れ、その道程で果てるが運命。であるが故に。 「……悠月、ありがとう。君と出会えた事は俺にとって──」 一番の救いだった。 「探して行きましょう、登る道を――」 ――共に。 今日はゆっくり過ごそうと決めていた。 美味しい空気と暖かい日差し。何よりこの清清しい風が心地よい。 いっそ空中散歩をしたい位の亘だったが、神秘は秘匿するもの、さすがに自重する。 もう少し高い所があればと見渡せば、丁度施設の小さなテラスが見えた。よさそうな場所である。 それとも、あちらの木陰のほうがいいだろうか。 富士山と桃の花が見れる絶好の場所を探したい。 ここ暫く忙しく、疲れも溜まってきていた。 近くを通り過ぎるリベリスタ達の誰かと言葉を交わそうかとも思ったが、麗らかな天候が彼を包み込むように現から遠ざける。 遠くに見える富士と、さきかけた桃の香りに包まれて、亘は春のまどろみに沈んでいった。 「腹ごなしの散歩ってとこかな」 昼下がり。ぽかぽかと暖かな光で大地を照らす太陽は、まだまだ儚げで風が吹けばまだまだ肌寒くもある。 「最近忙しかったから……出かけるのもちょっと久しぶりだね」 朱子が見つめる先は、まだまだ蕾が固い桜と、ほころび始めた桃の花にまぎれて、ちらほらと見えるのは遅咲きの梅だった。 「そうだなぁ。ここんとこ戦い尽くめってなモンだな」 リベリスタ達は、事件とあらば現場に急行しなければならない生活を送っている。 こと『三高平の狂拳』と『消えない火』等と呼ばれる高名な二人であれば、なおさら激戦に挑むことも多くなるというものだ。 枝先に鼻を近づければ、梅がほのかに香る。 まともな休暇らしい休暇もない。正直な気持ちを吐露するならば――実際、ずいぶん疲れた。 「こんな感じでのんびり過ごす、ってのは少なくなるかもなぁ」 火車が天を仰ぐ。なんというか。 「必須栄養素が足りない」 「あ? 栄養素? 何分だって……?」 「……具体的には火車くん分が足りない」 「……っ!?」」 かしゃくん、かしゃくん。ぜったいしゃ。かしゃくんぜったいたりない。 むぎゅう。思い切り胸に顔を埋める。ぽんこつになっても、もう放すものか。 突然抱きつかれ、にわかに緊張する火車だったが、持ち直しとばかりに少女を優しく抱き返す。 いきなりこんなことをしてくる朱子のことも、彼は大好きだ。 「……もうすぐ春になるね」 風がだんだん強くなってきたから。 「春一番。って奴かね?」 「暖かくなってきたし来月には桜も咲くかな」 二人で過ごす春は、初めてだ。いつまでもこうして居られればいいのに…… 来年も再来年も、火車くんと一緒にいれるといいな…… 願い。 「んー……よし!明日からまた……しっかり働こう」 「おう。良い心意気だな? 面倒な仕事は、オレ等で終わらせちまおうぜ?」 雲のかげりから差し込む日差しを身に浴びて、肩を抱いて。三高平に帰ろう。 切なる願いはその手で叶える。 その力を持つ二人には―― リベリスタ達には、まだまだやることがあるのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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