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百八つの呪い歌

●死ね
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 重ねた数は百八つ。
 重ねる死体も百八つ。

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 重ねた数は百八つ。
 重ねる死体も百八つ。
 煩悩重ね苦痛を抱え生き逝く事に飽きました。
 どうせ死に逝くものならば、今殺しても変わりなく。
 私も貴方も何れ死ぬ。
 ならばならば死にましょう、いえいえどうぞ、お先にどうぞ。
 殺す数は百八つ。
 其処に意味などありません。

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 重ねた数は百八つ。
 重ねる死体も百八つ。
 理由はなくて、単にそれだけ死ねばいい。
 山程人が死ぬ中で、百八つなど些細些細。
 さあさ貴方もお別れしましょう。

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

●殺せ
「ペシミスト……とは若干違うか。ともかく依頼だぜ」
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が常と変わらぬシニカルな笑みを浮かべる。
 リベリスタに配られたのは、紅茶色の髪を頭上でお団子にした、取り立てて特徴のない二十歳前後の女性の写真であった。
 行方不明者か何かの写真、と言われても不自然ではない。
「本井朋絵。二十一歳、女子大生。取り分けハデでも地味でもなく、真面目でも不真面目でもなく、美人でも個性的な顔でもない。知り合いじゃない人間が道端で見てもすぐに忘れちまうような、極普通の人間だ……が、」
 まるで内緒話をするかのように、声を潜めて伸暁は呟いた。
「この女はフィクサードだ。それも相当にタチの悪い、な」
 再度目線を落としても、写真の表情は変わるわけもない。
 歪に笑うわけでもなく、憎悪の瞳で睨むわけでもない。
 ほんの少し唇を突き出した、カメラ目線のその表情に特徴はない。

「フェイトを得てから約半年。殺した数は二十四。一月に四人のペースで殺してる。
 殺す相手は一般人からノーフェイス、リベリスタからフィクサード、好き嫌いなくゴチソウサマ」

 ぱん、と両手が打ち合わされる。
 開いた左右の手が示したのは二本の指と五指を一つ欠かした四。
 数字にすればあまりに軽いが奪われたのは確かな命。
「動機は怨恨? いや、ノーだ。コイツと関わりあった人間もいるが、そうでないヤツの方が多い。
 理由はよく分からん。力を得て暴走したのは間違いないが、嬲る訳でも喜ぶ訳でもなく、ただ唐突に首を掻き切る、絞める殴る突き落とす。いずれも『突発的な犯行』を思わせる事件だったせいで、中々一本の線に繋がらなかった」
 イヴや俺らがいなかったら更に増えてたろうな、と伸暁は肩を竦めた。
「狙い目は今度の土曜の夜。獲物を物色しにだか普通にコンビニだか知らないが、コイツは外に出る。
 それ以外だと普通に大学生やってるんでね、大体友人が一緒だ。戦いを仕掛ける余裕は少ない。
 かと言って家に押し込む訳にも行かない、夜の学生アパートじゃ音も響く」
 スタジオみたいに防音処理はされてないしな、と銀の髪を軽く掻き揚げ、指先で額をコツコツ叩く。
「ネジが一本二本吹っ飛んで、頭ン中がクラッシュしてるタイプなんだろう。
 下手に笑いながら包丁ブン回すやつより危ないね。ああいう連中は『自分は危ない』ってアラートを発してるからまだ回りは対策の立てようもある。だがこの女はグルメじゃなけりゃ暴食でもない、『何となく』『気分で』無差別につまみ食いする。命をな」
 空気の玉を一つ、指先で口に押し込む真似をして、フォーチュナの青年はいとも容易く笑った。
「方法はお前らに任せるよ。何、うまくやってくれるんだろう?
 ……行儀の悪いこのサイコが腹一杯になるようなディナーを振舞ってやれ」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月19日(木)23:45
 数えながら全部手打ちしました。黒歌鳥です。

●目標
 フィクサードの討伐。生死は問いません。

●状況
 リベリスタが向かう当日は、夜十一時前後にふらっと外に出る事が予知にて判明しています。
 彼女は一人暮らし、住所は学生の多い住宅街です。
 出掛ける際に通る道は表通りではありませんが、飲み会帰りなどの学生グループがたまに通り掛かります。
 また、一般人女子程度の警戒心は持っているので、知らない相手に話し掛けられても早々乗りません。
 道幅は戦闘をするならば四人程度が限度です。

●敵
 フィクサード『本井朋絵』
 メタルフレーム×デュランダル。
 上記スキル+
 ・百八つの呪い歌(全/大ダメージ/必殺)
 単独で犯行を繰り返し続けた彼女は、これと言った特徴はなくも相当の実力者です。
 動きは不規則、狙いは適当。
 ナイフで石で角材で、素手で炎で金属で、ともかく殺そうとしてきます。

 ただし対集団戦は経験が薄いので、誰かが倒れたとしてもトドメを刺されて一発死亡の危険性はないです。
 倒れた時点で彼女は違う相手に向かいます。

 尚、戦闘不能時にフェイトを使用して復活する場合はその旨プレイングに記載して下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
プロアデプト
阿野 弐升(BNE001158)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
デュランダル
神狩・陣兵衛(BNE002153)
ナイトクリーク
レン・カークランド(BNE002194)
デュランダル
宵咲 美散(BNE002324)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)

●夜は短し、歩けよ殺人鬼
「出ましたよ」
『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407) の簡潔な連絡は、各自の幻想纏いを通じて全員に通達された。
「――確認した。では、健闘を祈る」
 応えた『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324) は集中を増し、付近に人が近付かぬ様に結界を張ると、戦闘の場を整える。
 その間に『まめつぶヴァンプ』レン・カークランド(BNE002194) 、『消失者』阿野 弐升(BNE001158) も頷いて各々定めた隠れ場所へと身を潜ませた。
『BlessOfFireArm』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は用心を重ね、準備していた擬装用の工事看板とコーンで道を塞ぐ。
 彼らの目的は本井朋絵の待ち伏せ。
 道は綺麗に片付いて、朋絵の武器となりそうな物は九十九が置いたダミー程度。
 故にもう、彼女が訪れるまで、闇の中に潜むのみ。
 
 対して先の九十九に加え、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450) 、『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153) は気配を殺し、彼女の影の如く静かに後を追う。
 固まらず、其々の方法で密やかに。
 最後の一人、『暴走爆走ハリケーン』望月・嵐子(BNE002377) は横道に隠れ彼女が過ぎるのを待っていた。
 横目で窺った朋絵は、全く警戒などしていなかった。
 してはいても、それは極普通の女子が夜道を歩く時にして然るべき程度の警戒だった。
 身勝手な理由で犯行を起こす割に、特別わがままな様子も見られない、目立たない顔立ち。
 暗視で眺める悠月にも、少し明るい茶色の髪を頭上で結び、ホワイト主体の大人しいフレンチネイルで彩られた手で壁の上の猫を構う彼女の仕草に異常等何一つ見受けられない。
 だけれどその姿は、フォーチュナの青年が示した顔と全く同じ。
 ならば間違いなく、彼女は人殺しなのだろう。

 明るい街灯、曲がり角。
 差し掛かった朋絵を待っていたのは、光も及ばぬ漆黒の波動。
「あれ?」
 まるで顔見知りにでも会ったかの様に軽い口調で彼女は呟き、大きく上半身を反らせ直撃を免れた。
 視線を戻した先にあったのは、放ったレンの瞳。
 尋常ではない反応の素早さ、頬を掠って舞った赤い血と吊り合わない普通の表情に少年の眉は微かに寄った。
 理解できない、その中身。
 右手には、いつの間にやら包丁が握られている。
『何となく』殺す為に持ち歩いていたのだろうか、それも分からない。
「物騒ですね」
 無言の闘気を迸らせ真正面から斬り掛かった美散の刃を、金属の触れ合う音させ受け止めて、彼女は一つ首を傾げる。
 合わせて背後から襲い来る陣兵衛の煌きをも、ストールの先を蜥蜴の尻尾の如く捧げて逃れ切った。
 不意の多人数の襲撃にも、朋絵は叫びもしなかった。
 囲まれているのに気付いたのか、前を見て後ろを見て、不思議そうな顔をする。
 リベリスタの多くは初手を自己強化に費やした。
 合わせて増していく自身への敵意を感じてはいても、朋絵は未だに理解していないかの如く緩く首を回す。
 輝く月と遠くに聞こえる車の音。
 どこからか聞こえてくる学生たちの賑やかな話し声。
 日常の最中の非日常、その差異さえも理解出来ないかの様に。
「こんばんは、いい夜ですね。殺し合いましょう」
 眼鏡を押し上げ告げる弐升の皮肉は、予想通り通じなかった。
 ただ朋絵は、それでようやく皆の意図を悟って笑う。
「ああ。なるほど」
 軽い納得の声が激戦の幕開け。
 彼女は月光に包丁を煌かせた。

●本井朋絵
 その夜は奇妙な夜であった。
 獲物に反撃されるのは今までにもあった事だが、集団で待ち伏せされるのは初めてだった。
 しかも動きからして、明らかに自分を狙い襲撃し討ち果たすつもりだ。
 何千人分の個人情報が流出した模様です。ああそんなやつか、嫌な世の中だなあ。
 漏れても名前と住所とメアド、そんなものだと思っていたら、人殺しなのも漏れてました。
 まあ素敵。きっと素敵。
 武器の輝きがこんなに多い夜は初めてだ。けれど中々死んでくれない。
 こんなに沢山いるというのに、沢山沢山切ってるのに、誰も中々死んでくれない。
 不思議で不思議で仕方ない。

「何人目かは知りませんが。本井朋絵さん、あなたの御趣味……今宵で終わりにさせていただきます」
 丁寧な黒い女の子が言う。趣味じゃないけどまあいいや。
 あの子が両手を翳し祈るような仕草をすると、切った肉が埋まっていく。
 凄いな、あれは魔法かな。あの格好で暑くないのも魔法なのかな。
 これからの季節いいだろうな、けれどあの技はちょっと邪魔。
 死んで欲しいけどあの子の所までも中々行けない。
「お主がこれから行く先は死出の旅路じゃ。今まで殺めた数だけ償うが良い」
 綺麗な着物の人が言う。とても怖い事を言う。いや怖くはない。当たり前。
 貴女も私も、産まれ落ちたその瞬間から死出の旅路に付いている。
 煌いた刃が肩を掠めた。おお怖い、これは首を狙ってる。
「呪いなんていうのは巡り巡って自分へと帰ってくるものだわ。気を付けた方が良いわよ?」
 もう遅いけど、と呟きながら金髪の子は足を狙う。
 何処の国の人だろう、色の白い綺麗な子。
 だけど今まで見た事ない目、仕事人ってこんな感じかな。銃を構える姿は格好良い。いいなあ。
「その呪い、解かせてもらうぞ」
 澄んだ緑の瞳をした男の子が真面目な顔で腕を振る。
 絡む糸はうっとおしいけど、切り払ったらすぐ消えた。
 けれど呪いは消える訳ない、ずっとずっと、生きて死ぬまで終わりはしない。
 生きて死んでそれで終わり。生きることこそ正に呪い。

 白い男の子は黙って私の行く先々に刃と銃弾を弾き出す。
 着地の直後にまるで分かってたみたいに繰り出されたそれは、脇腹を結構深く抉っていった。
 上手だなあ。あれは真似できないかな、どうだろう。
 眼鏡の奥の瞳は、まるで観察するみたいに私を見ている。
「痛い事をするのは怖い人のやる事ですからねえ。止めませんか?」
 お化けみたいな格好をした人は、諌める様に私に言った。
 こんな不思議な夜なのに、こんな不思議な人なのに、言う事が凄く『フツウ』で私は笑った。
 素敵、素敵、それはそれでとても素敵。
 彼は私の一撃も、まるで布が風にはためくようにして避けてしまった。
「俺もお前も何れ死ぬ。ならば今宵は興じよう、一期一会に、酔い痴れようぞ」
 同い年くらいの男の人が、そう告げた。
 顔付きは真面目だったけれど、目は酷く楽しそうだった。
 真っ赤な目が、真っ直ぐにこちらを見ていた。
 刃は鋭く私の前を過ぎって行く。

 ああそうか。これはきっと一時の夢。
 生きるも死ぬも、皆同じ。現も夢も、皆同じ。
 ならばこの瞬間を楽しもう。
 ならば。

「くるかも!」
「死ね」
 私より一瞬早く、勝気な目をした女の子が叫んだ。
 訳の分からない人たちではあったけど、その声に対する反応は早かった。
 咄嗟に両腕を体の前に翳す人、武器で身を隠す人。
 私の呪いは空気を揺らし、音のない絶叫と化して耳を頭を体を壊したはずだった。
 なのに。
 思った程には倒れていない。
 私は目を思わずちょっと大きく開けてしまった。
 ああ。
 あの子、『分かってた』のか、凄いなあ。

●中身のない歌を
 死ねと歌う声がする。
 微かな音が、攻撃の間隙にリベリスタの耳に届く。
 何の意味も含まない鼻歌のように軽く軽く。

 正に弐升の推察は正しかった、彼女にとって殺しと散歩の重みは同じ。
 意味などなかった全くなかった。
 大きな挫折も裏切りも、嫌悪も喪失も切欠も何一つ。
 つるりと剥いた先にあったのは真っ白な、感情と言えるかも分からないもの。
 生きる重みも価値も理由も、何一つ理解出来ない。狂気ですらない彼女の正気。
 運命に愛される前から『そういう生き物』だったのだ。
 とは言えフェイトを力を得なければ、彼女自身さえ『それ』に気付く事なく日々を過ごして恋をして、もしか親として子の手を引いて生きて死んでいたかも知れない。
 けれど彼女は気付いてしまった。
 なので彼女は従った。
 だって『そういうもの』だから。

「所詮は気紛れで殺しをする程度……実戦においてはまだ甘いのう」
 朋絵の包丁を飛ばしたのは陣兵衛の一撃。
 跳ね上がったそれは弧を描いて、艶やかな着物の裾と月に踊る。
 あら、と緊張感の欠片もない声を漏らした朋絵は、続くエナーシアの狙い済ました一撃を避け切れず、弾丸に肉を食い千切られた。
 同時にエナーシアは相手を見極めるべく目を眇める。
 機械部分は細身のジーンズに覆われた両太股。
 弱点と言えばどこも弱点、何故なら彼女は耐久力と回避力が跳ね上がっただけで、どこもかしこも脆い元人間。
 踊るが如く切り裂く技は、本来闇に潜むトリックスターが得手とする物。
 そして何より、最も恐れるべき歌の発動条件は先程嵐子が証明した。
 呟くように歌われるそれは、よっぽど耳が良くないと正確なカウントは不可能であろうが、口の動きで大方の目安は付く。
「ダンシングリッパーを持ってるわ、密集注意。後、さっきの通りカウント百八、可能な限り把握してね」
 朋絵への牽制も兼ねての宣言に、しかし彼女は拍手をした。
 圧倒的に不利な人数に加え、手の内がバレたというのに驚愕も焦りも見えない。
 凄いなあと呟きながら道端のビール瓶を引っ掴み、飛び掛ったレンと向き合った。
 ――死ね。
 牙が掠った時に耳に届いたその言葉、挨拶にも似た軽さに怖気を覚えて振り向いたレンが見たのは、やはり何も浮かんでいない朋絵の瞳。
 憎悪さえも浮かばぬ瞳に言葉をなくした瞬間に、彼女の蹴りは小柄な少年を地に叩き付けた。
 吸った分より強かに打ち付けられ呻く彼を守る為、自らの置いたダミーが振りかざされる前に九十九は立ちはだかる。
 
 パアン!

 派手な音と共に舞う紙吹雪、パーティ用のクラッカーであった瓶は朋絵の素手で殴られるよりも幾分かマシなものであったのは違いない。
「……吃驚しました?」
 弾けた得物に初めて驚いた顔を見せた朋絵に、よろめきながら九十九は問うた。
 彼女はもう一度瞬いて、喜ばしいサプライズを受けたかのように笑う。
「ええ、とても」
 次の瞬間朋絵は跳んで、カーブミラーを引き抜いた。
 ハンマー投げの要領で振り回されたそれは、九十九をレンを美散を陣兵衛を打つ。
 割れた鏡が、赤を伴い道路に散った。
 きらきらと輝く破片と、カラフルな紙吹雪。
 宴の後に酔客が乱闘を繰り広げたかの様な様相を呈す道に、彼女は笑って立っていた。

●人を呪わば
 生きる事さえ苦しいと、唱える人がいるならば、はてさてこの世に何の意味が。
 愛し愛され子を儲け、年を重ねて大往生。
 憎まれ疎まれ孤独に暮らし、たった一人で路地で死ぬ。
 二つの過程に差はあれど、結局果ては皆同じ。
 ならばならば、どこで終わっても皆同じ。
 明日など端からないと思えば、未練も何も起こりはしない。
 だから皆様死にましょう。神様神様仏様、皆様等しく向かいましょう。

 何もないはずの学生街、道の一つは死屍累々。
 いや、屍ではない。死んでいない。
 タイミングを計っても、防ぎ切れない威力の歌に順々に数を減らしながらも攻撃の手は緩めない。
「護りを……」
 悠月の懸命の癒しが降り注ぎ、運命を削り立ち上がる。
 切っても蹴っても死なないそれに、朋絵の傷も増えていく。
「全く、常識外ですね」
「あら、そちらこそ」
「ま、ごもっとも」
 軽く返された言葉に肩を竦めて同意した弐升が、回避の方向を予測して刃を繰った。
 想定よりも跳躍は浅く、貫くのではなく抉るに留まる刃に呆れて溜息一つ。
 朋絵の回避能力は異様に高く、リベリスタ全員の攻撃も当たりはするが直撃は少ない。
 長引く戦闘に、双方に疲労は蓄積されていった。

 だが、永遠に思える夜とていつかは明ける。
 永久に続く命がないのと同じくして。
 同様に、延々と続く戦にも終わりは来る。

 終わりの合図は弾丸一つ。
 倒れたふりをしていたエナーシアが、彼女の機械化した太股を打ち抜いて壊したのだ。
 数多の刃を銃弾を、その身で受け止め続けていた朋絵はようやく地面に倒れ込む。
 リベリスタ達も多くは満身創痍の状態で、けれど警戒は解かず切っ先を向ける。
 この期に及んでもまだ、不思議そうに瞬いた朋絵に、同じ様に地に伏していた嵐子が告げる。
「……バカっていうやつがバカなように、死ねっていうやつが死ぬんだよ」
「――ええ。ええ。そうですね。私も。そして貴女も何時かは」
 自身とリベリスタの血に塗れながら朋絵は笑って同意した。
 美散が武器を携え静かに問う。目的は違えれど、過程は似た者であった相手に。
「トドメは要るか? 殺人狂――本井朋絵よ」
「要りませんよ、名前も知らないご同類」
 ひらひらと手を振った朋絵に微笑んだのは、神か或いは運命か。もしくは悪魔。
 倒れた片手が握った物、飛ばされた彼女の得物。

「百八つ目は私の体。そんな予定だったのですけど」

 ああ、果たせなさそう。
 だから死ね。
 止める暇もあらばこそ、気軽に気軽に彼女は己に呪いを唱え、己の包丁で喉を切った。
 狂気の笑いも世界への恨みも人間への憎悪も何一つなく、コーヒーショップでカフェラテを頼むのと同じ程度の気軽さで。

 そして二十五個目の死体が出来た。
 己のやった事を『悪い事』だとも思わずに死んだ彼女に、九十九が小さく溜息を吐いた。
 彼女が殺した二十五人。戻ってはこない二十五の命。
 誰も彼女を怒らなかった、怒れなかった。屍は何も言う事はない。
「……一足先に地獄で待っておれ」
 己の武器に身を預け、陣兵衛が呟いた餞一つ。
 奪ったものの価値も重みも理解せぬまま彼女は死んだ。あっさりと。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 強敵相手に良い運びでした、依頼成功となります。
 百八つの呪い歌、発動条件ビンゴです。
 戦闘の最中の上、呟きに近いものだったので完璧にカウント、とは行きませんでしたが呪い歌の回避判定に少しプラスしました。
 結果的に少ない重傷者で済んだと思います。
 お疲れ様でした。