下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






幸せは、蛇に呑まれて消えた

●壊れるのは、一瞬
 蛇の尾に打たれた瞬間、嫌な音とともに全身の骨が砕けた。
 地面に叩き付けられる衝撃と激痛が、遠くなりかけた意識を辛うじて繋ぐ。

 俺の体のことは、この際どうでもいい。
 それよりも――。

「……やよい」

 痛みに耐えて、上体を起こす。
 やよいは、俺の隣にいたあいつは無事なのか。
 祈るような思いで、俺は周囲に視線をめぐらせ――そして、見てしまった。

 首や手足をありえない方向に曲げて、道路に横たわるあいつの姿を。
 動かなくなったあいつを丸呑みにしようとする、大きな蛇の姿を。

「やめろ……」

 折れた腕が、脚が、アスファルトの地面を掻く。
 走れば届く距離なのに、立ち上がることすら叶わない。
 地面を這って進むたびに、気が遠くなるほどの激痛が襲った。

 やよいの身体が、頭から蛇に飲み込まれていく。
 蛇の口からのぞく捩れた脚が、やけに白い。

「やめろぉおおおおおおおお―――――――ッ!!!」

 絶叫。
 俺の意識は、ここで一度途切れた。

●運命なき復讐者
「集まったな。それじゃ、説明を始めるぞ」
 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を見て、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は手にしたファイルを開いた。
「任務はE・ビースト一体と、ノーフェイス一名の撃破。いずれもフェーズは2。
 ……ただ、状況は少しばかり複雑でな」
 数史が言うには、ノーフェイスはE・ビーストに戦いを挑もうとしているらしい。
「ノーフェイスの名前は高取連二(たかとり・れんじ)、年齢は20代前半。目の前で恋人をE・ビーストに殺され、本人も致命傷を負ったが、革醒して一命を取りとめた。……フェイトは得られなかったがな」
 恋人を無惨に殺された彼は、E・ビーストへの復讐を誓い、これを追いかけたのだという。
「高取連二は革醒して間もないが、すぐにフェーズ2に進行しただけあってそれなりに強い。ただ、今回はどうにも相手が悪いな」
 フェーズは同じでも、彼がE・ビーストとタイマンを張って勝てる可能性は低い――と数史は言った。
「E・ビーストは、簡単に言えば馬鹿でかい蛇だ。こいつは個体としてはかなり強い。八人……いや、高取連二も含めて九人で一度に打ちかかったとしても、互角以上に戦えるだろう」
 くれぐれも油断だけはしないでくれ、と言って、黒翼のフォーチュナは手の中のファイルを閉じる。
 数瞬の沈黙の後、彼は再び口を開いた。
「これは、文字通り蛇足かもしれないが……E・ビーストには、殺した獲物を丸呑みにする習性がある。
 現場には高取連二の恋人の遺体は残されていなかったから、おそらくはそういうことなんだろう」
 歯切れ悪く言った後、わずかに視線を伏せる。
「今回、最大の脅威はE・ビーストだ。ノーフェイスの対処に関しては皆に任せる。
 ……と言っても、最終的には倒してもらうことになるが」
 どうかよろしく頼む――と言って、数史はリベリスタ達に頭を下げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月15日(木)23:30
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 E・ビーストとノーフェイスの撃破。

●E・ビースト(大蛇)
 太さが人の胴体ほどもある巨大な蛇のE・ビースト、フェーズは2。
 自らが殺した獲物から一体を選んで丸呑みにする習性があります。
 獲物の消化には人間サイズで一晩かかりますが、その間も通常通り行動することが可能です。

 能力的にはHP、物理攻撃力、命中力がかなり高く、ダブルアクションも高め。
 (2ターンに1回の割合で2回行動を行います)
 巨体のため、ブロックには3名が必要です。

 【巻きつき】→物近単[必殺][連]
  ぐるりと巻きついて対象一体を締め上げ、全身の骨を砕きます。
  威力が高く、またクリティカル補正が高めです。

 【薙ぎ払い】→物近範[圧倒][ノックバック]
  蛇の尾で近接範囲の対象を一度に薙ぎ払います。

 【毒牙】→物近単[死毒][ショック]
  強い毒を帯びた牙で対象一体に噛み付きます。  

 【蛇の瞳】→神遠複[石化](ダメージ0)
  赤く光る瞳の呪いで複数の対象を石化します。

  ※『暗視』『毒無効』『麻痺無効』『呪い無効』のスキルと同等の能力を所持 

●ノーフェイス・高取連二(たかとり・れんじ)
 E・ビーストに恋人を殺され、自らも致命傷を負って革醒した20代前半の男性。フェーズは2。
 外見も心も革醒前とほとんど変化していませんが、目の前で恋人を殺されたことでE・ビーストへの復讐心に駆られています。  

 強力な自己再生能力を有していますが、彼がE・ビーストと一対一で戦った場合、ほぼ確実に敗北します。

 【鎧砕き】→物近単[必殺][麻痺][物防無]
   気によって破壊力を高めた打撃を対象一体に叩き込みます。

 【鳴神乱舞】→物近複[雷陣][反動40]
   己の身に雷撃を纏い、近接範囲の対象に連続して攻撃を浴びせます。
 
  ※『暗視』『崩し無効』のスキルと同等の能力を所持 

●戦場
 深夜の海岸。高取連二の恋人が殺された現場の近くになります。
 人気はまったくないため、一般人の対策は不要です。
 照明が必要な他は、特に戦闘の妨げとなる要素はありません。

●補足
 戦場に到着するタイミングはある程度調整がきくため、
 『ノーフェイスが生きている間に到着』
 『ノーフェイスが倒された後に到着』
 どちらを選んでも構いません。

 必ずしも全員が足並みを合わせる必要はありませんが、方針が割れた場合は当然ながら難易度は上がります。 
 いずれの場合も、事前の付与スキル使用等は1回のみ可能です。
 (「ノーフェイスが倒されるまで集中し、その後に参戦」等は不可とします)

 情報は以上となります。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
日下禰・真名(BNE000050)
ホーリーメイガス
依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
スターサジタリー
アシュリー・アディ(BNE002834)
ソードミラージュ
マク・アヌ(BNE003173)
クロスイージス
犬吠埼 守(BNE003268)

●許されざる者との共闘
 空は雲に覆われ、月の光は地上に届かない。
 波の音が響く深夜の海岸で、人ならぬもの同士の戦いが繰り広げられていた。

 煌く電光が、暗闇の中に互いの姿を浮かび上がらせる。
 胴体が人の太さほどもある巨大な蛇と、復讐の炎を瞳に宿した若い男。 
 男の電撃を纏った拳が大蛇にめり込んだ瞬間、蛇の尾がしたたかに彼を打った。
「ぐ……っ!」
 吹き飛ばされ、男――高取連二が砂浜へと叩き付けられる。
 そこに、八人のリベリスタが駆けつけた。
 依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816)が仲間達の背に小さな翼を生やし、さらに『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)が十字の加護を与えて戦いに赴く意志を高める。
 砂浜の上を滑るように宙を舞うリベリスタ達は前衛・中衛・後衛の三列に分かれ、大蛇を取り囲むように陣形を展開していった。
「がう!!」 
 最も早く大蛇に辿り着いた『チャイルドゾンビ』マク・アヌ(BNE003173)が、獣のように吠えて蛇の尾に喰らいつく。鋭い牙が鱗もろとも肉を食い千切り、生血を啜った。
「な……!?」
 砂浜に伏した連二が、大蛇に噛みついた少女を見て驚きの声を上げる。彼と大蛇の間に割って入った『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)が、肩越しに語りかけた。
「貴殿だけでは敵わぬで御座るよ……故に助太刀致す」
 幸成は変幻自在に姿を変える影から黒きオーラを伸ばし、大蛇の頭部を傷つける。

 リベリスタ達が受けた任務は、大蛇のE・ビーストと、ノーフェイス・高取連二の撃破。
 しかし、彼らはまず、ノーフェイスと共闘してE・ビーストを討つことを選んだ。
 E・ビーストが高取連二の恋人の仇であり、彼が復讐を望んでいるがゆえに。
(いたっていつも通りの忍務では御座るが、しかし事情は汲むのがリベリスタというものに御座ろう)
 そう、幸成は思う。

 両手の爪を振るって真空刃を生じさせた『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)が、状況を呑みこめないまま身を起こす連二を見下ろすように言葉を紡ぐ。
「一人じゃ無理ねぇ、少しくらいなら手伝ってあげるわよぉ?」
「あんたの邪魔はしない。目の前の敵に集中してくれ」
 大蛇にオーラの輝きを纏う剣を振り下ろした『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が、続けて声を重ねた。
「誰だ、あんたらは……どうして」
 訝しげな表情で立ち上がった連二に、『愛煙家』アシュリー・アディ(BNE002834)が、「アレと因縁があるみたいね」と言って大蛇に銃口を向ける。
「私達もアレに用があるのだけれど……共闘はいかが?」
 そちらにとっても悪い話ではないと思うのだけれど、という彼女の言葉に、連二は一瞬考えこむように眉を寄せた後、口を開いた。
「……あんたらが奴の敵だというなら、断る理由はない」
 今の彼にとっては、恋人を死に至らしめたものを否定し、滅するのが全て。
 連二は再び大蛇のもとに駆け、破壊の気を帯びた掌打を大蛇へと叩き込む。射撃手としての感覚を研ぎ澄ませたアシュリーの銃撃が後に続き、穿たれたばかりの傷をさらに深く貫いた。
 鎌首をもたげた大蛇がマクに襲い掛かり、お返しとばかりに巨大な牙で喰らいつく。毒に侵されたマクの全身を『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)が放ったブレイクフィアーの光が包んだ。
「理不尽の極みとは、まさにこれですね。表の世界でも、法が無力だった事はありますが……」
 ――これは、全く慮外の事だ。だからこそ、対処できる我らが立ち向かわねば。
 元は警察官であった守の言葉は重く、苦い。

「幸せがなくなってしまう事も、大切な人が居なくなってしまう事もとても嫌な事……」
 活性化させた体内の魔力を循環させる依子が、悲しげに眉を寄せて呟く。
 高取連二がフェイトを得ていない以上、リベリスタとして彼を倒さなければならない。
 それでも、その前に恋人の敵を討たせてあげたいと思う。すごく――すごく、個人的な理由で。
 攻撃を反射するオーラに全身を包んで中衛に立つ真琴も、依子と同じ思いだった。たとえ、結末は変わらないのだとしても。 
(彼の想いが敵討ちにある以上、せめて気が済むようにしてから戦ったとしても悪くないことでしょう)
 ここに、リベリスタとノーフェイスの奇妙な共闘が始まった。

●復讐の先は
 大きく口を開けたマクが、大蛇に再び噛み付く。ぶちり、という音とともに、口の端から血が溢れた。
 戦術も何もなく、ひたすらに大蛇に喰らいつく様は、本能のまま飢えを満たそうとする獣――あるいは、血肉を求めて生者に襲い掛かるゾンビのようにも見える。

「そちらの事情は把握しているで御座る」
 夜の闇を黒装束で駆ける幸成が、黒き殺意を込めた影で大蛇の鱗を切り裂きながら、連二に声をかけた。
 彼は、力を得た連二が世界に拒まれた存在であること、自分達の使命が大蛇と連二の抹殺であることを包み隠さず告げる。いずれは知らねばならぬこと、隠し立てしたところで益はない。
「俺も……だって?」 
 目を見開いた連二に、依子が言葉を重ねた。
「貴方と、貴方の仇は世界中の皆に不幸を呼ぶ存在だから、私達は貴方を殺さなければいけない……でも」
 嘘はつけないし、つきたくない。彼女の唇が紡ぐのは、心からの思い。
「私達は貴方の敵だけど、私は貴方の敵討ちを手伝うよ」
 復讐は何も悪いことでは御座らん――と、幸成も言う。そうすることで気持ちの整理、過去の清算ができるのならば、それも一つの手段に過ぎぬ。事情を知る身として復讐を果たさせてやりたいと思うし、大蛇を仕留める上で協力は惜しまぬと告げた上で、幸成は続けた。
「復讐を遂げ、想い人を取り返したらば……その命貰い受けるが、構わぬか?」
 眼前の大蛇に掌打を繰り出す連二は答えない。眉を寄せ、唇を噛み、じっと考えこんでいるようにも見える。あまりに色々なことが起こりすぎて、状況を整理しきれていないのかもしれなかった。
(大事な人が死んだなら、後は自分も死ぬしかないわねぇ)
 前に立つ連二の背中を窺い、真名が両の爪で空を切る。生み出された真空の刃が、大蛇に幾つもの傷を刻んだ。
「――でも、奪ったやつが生きているなら、死ぬにしても生きるにしても、終われない。
 奪ったやつを八つ裂きにするまで、終われないのよねぇ?」
 それを成し遂げたとしても何も戻らないと、知っていたとしても。
「まぁ、法を犯さないのなら私は復讐に意味がないとは言わないわ。少なくとも本人が救われるのならね」 
 アシュリーが、ボルトアクション方式の大口径狙撃銃“01AESR”のトリガーを絞って大蛇の片目を撃ち抜く。
 肉体の枷を外し、己が生命力を戦闘力に注ぎ込んだ風斗が、刀身に赤いラインが輝く白銀の剣“デュランダル”にオーラを纏わせ、大蛇目掛けて振り下ろした。
 直後、大蛇が残る片目で風斗を睨む。呪いを秘めた光が、彼と、その後ろに位置していた守を照らし、その全身を石と化した。続いて蛇の尾がしなり、眼前に立つ者たちを纏めて薙ぎ払う。この一撃で、風斗とマクが後方に吹き飛ばされた。
 大蛇を挟んで守の反対側に位置していたため難を逃れた真琴が、神聖なる輝きをもって仲間達の石化を解く。包囲陣形を取っていなければ、もっと被害は拡大していただろう。
「恋人を失い、自分自身も増殖革醒現象にノーフェイスと化する。
 運命とは、世界とは、時には気まぐれに酷いことをなさるのですね……」
 蛇の尾に打たれながらも、辛うじて踏み止まった連二を見て、真琴は彼に聞こえないように小さく呟いた。
「治すから、痛いと、思うけど、頑張って」
 依子が、傷ついた仲間達と連二を天使の歌で癒す。マクのダメージが大きいことを見てとった守が、前に出ると同時に大蛇をジャスティスキャノンで撃った。怒りに誘うことは叶わなかったが、回復の時間稼ぎは出来るだろうか。
 己の傷をまったく気にかける様子もなく、マクが空中を駆けて大蛇との距離を詰める。鱗に牙を立てて生血を啜り、ようやく空腹を満たした彼女の瞳に理性の光が灯った。
「にが……」
 軽く顔を顰め、口中に残る蛇の血を吐き出す。幸成の黒き殺意が、大蛇の首を掠めた。
 蛇の腹の中には、高取連二の恋人が呑み込まれている。既に命を失っているとはいえ、傷つけるのは極力避けたい。
 リベリスタ達の持ち寄ったランプや懐中電灯が周囲を照らす中、連二の放つ雷光が青白く輝く。タイミングを合わせてオーララッシュを叩き込みながら、風斗は一人、苦い思いを抱えていた。
 エリューションによる死者。ノーフェイスの始末。どちらも、この世界ではよくあること。
 ――それに慣れつつある自分が、嫌になる。

 散々噛み付かれて腹を立てたのか、大蛇がマクの小さな体に巻きついた。全身を締め上げられるマクから、ばきばきと骨が折れる鈍い音が響く。
 白く小さな手が自らの運命を引き寄せ、遠のきかけた意識を辛うじて繋いだ。
 すかさず、依子が癒しの微風でマクの傷を癒し、アシュリーが大蛇の残る片目を撃ち抜く。前衛に駆け寄った真琴が、世界から借り受けた生命の力を分け与え、癒しの加護を与えた。

 大蛇との戦いが続く中、状態異常の影響は守や真琴のブレイクフィアーにより最小限まで抑えられている。
 しかし、それでも大蛇の攻撃は強力であり、依子とアシュリーの癒しの技や、生命の加護による自己再生をもってしても、前衛に立つメンバーのダメージは次第に積み重なっていった。
 傷ついた前衛と入れ替わりで中衛が前に出るも、大蛇はそこにも容赦なく襲い掛かる。前衛と比べて耐久力に劣るメンバーにとっては、一撃一撃が致命傷になりかねない威力を秘めていた。 

 蛇の尾に薙ぎ払われた真名とアシュリーが、己の運命を削って自らの身体を支える。
 直後、大蛇に巻きつかれた連二が全身を締め上げられるのを見て、マクが彼のフォローに動いた。
「しっかりするです。そっちさんが仇を討たないと」
 空中から鉤爪を振るい、多角的な攻撃を浴びせて大蛇をかく乱しながら連二に声をかける。
「折角一矢報いる力を得た。ちゃんと使って倒すです」
 続けて、態勢を立て直した真名が強烈な打ち込みを見舞い、連二が大蛇から逃れる隙を作った。
「悪い」
「ああ、礼はいらないわ、手伝いはするけれど、私は貴方の敵なのだから」
 軽く咳き込みながらそう言った連二に、真名は薄い笑みを湛えながら答える。
 そこに、体力の回復を終えた前衛たちが戻り、一気呵成に攻撃を加えていった。
 幸成の殺意が黒き影の刃と化して大蛇を深く切り裂き、風斗が振るう白銀の剣が、赤いオーラの輝きを纏って傷を広げる。
「……がんばって」
 依子の奏でる天使の歌が海岸に優しく響き渡り、連二を含む全員を癒した。
 傷の深いマクの代わりに前衛を務める真琴が、両手に構えた盾に全身の膂力を込めて大蛇を叩く。守が放った十字の光が蛇の瞳を射抜き、怒りを誘った。
 守が高取連二との共闘を希望した理由は二つ。
 一つは、彼を一人の戦力として数えた方が戦闘の効率を高められるという実利によるもの。
 もう一つは、彼の悔いを残さず送りたいという、個人的な心情によるものだった。
「止めは任せるわ」
 アシュリーの“01AESR”から吐き出された銃弾が、着弾の衝撃をもって大蛇の巨体を揺らがせる。
 咆哮する連二の両手が雷撃を纏い、大蛇の胴体を真っ二つに引き裂いた。

●抗いし者
 裂かれた大蛇の腹から、若い女性の遺体がずるりと滑り落ちた。
「やよい……!」
 連二は亡き恋人の体を受け止め、両の腕でしっかりと抱きしめる。
 蛇に呑まれてさほど時間が経っていなかったためか、遺体はまだ、生前の面影を留めていた。

 恋人を抱擁する連二に、マクが歩み寄る。
「仇は討てた。心残りは終わりですか?」
 大蛇への復讐は果たされた。次は、連二の番だ。
 口を噤んで答えない彼に、マクはさらに言葉を重ねる。
「このまま生きていてもいつか壊れてしまうです」
「貴方がそのまま存在しては、同じ悲劇が遠からずまた繰り返されます。存在するだけで、です」
 守もまた、沈痛な面持ちで口を開いた。
「理不尽を強いているのは重々承知ですが、せめて……彼女を寂しがらせない様に、しては頂けませんか?」
 
 アシュリーは、無言で連二の様子を窺う。
 彼がフェイトを得られないのなら、ノーフェイスを見逃す訳にはいかない。
 復讐を果たし、満足して死を選ぶなら止めはしないが、抗うなら戦うまで。
(出来うることならば、彼には自死を選択してもらえれば、私たちとしても……)
 そう願いながらやり取りを見守る真琴の前で、連二はゆっくりと首を横に振った。

「悪いが、黙って殺されてやるわけにはいかない」

 恋人の遺体を優しく砂浜に横たえ、彼はゆっくりと立ち上がる。
「彼女は死んでしまいました。生きていたいですか?」
 マクの問いに、連二は答えなかった。
「手を貸してくれたことは感謝してる。あんたらが俺を生かしておけないということも、理解はしたつもりだ」
 でも――と、彼は続ける。
「それを、『仕方ない』と受け入れてしまえば。
 俺は、やよいの死すら、『仕方ない』と切り捨てることになる。それだけは、出来ない」

 リベリスタ達に向かって構えを取る連二の瞳には、覚悟の色があった。
 先の戦いで、リベリスタ達の実力は知っている。一人では分が悪いことも、おそらく理解しているだろう。
 それでも、彼は最期まで抗うことを決めたのだ。
 恋人を死に追いやり、自らを人ならぬものに変えてしまった、神秘の力と運命に対して。

 血の色をした真名の瞳が、す、と細められた。
 どうやら、運命は最後の最後まで、高取連二に微笑まなかったらしい。
 ならば、命を絶つのに何の迷いもない。
 哀切も絶望も悲嘆も憎悪も妙なる歌のようなもの、つまらないのは諦観くらい――。
 目の前の男が奏でる感情は、果たして何か。

「止むを得ぬ」
 戦いは避けられぬと見て、幸成が刀身まで黒い忍者刀を構える。
 両手の爪を振りかざして飛び掛ったマクの連続攻撃を、連二は腕一本を犠牲にすることで凌いだ。
 傷を再生する暇を与えず、“暗月”と銘打たれた幸成の忍者刀が閃く。黒い殺意を纏った影が、連二の自己再生能力を封じ込めた。
「――おおおおおおおッ!!」
 自らの命を燃やし、全身に雷気を纏った連二の正拳が、マクを打ち倒す。
 しかし、それでも七対一。自己再生能力を封じられた連二に、リベリスタ達は一斉に攻撃を仕掛けた。
 真名の真空刃が皮膚を斬り裂き、アシュリーの射撃が右肩を貫く。倒れたマクを庇うように前に出た守が、警察時代に装備していたニューナンブM60――“最後から二番目の武器”を構えた。
「すみません……。せめて苦しまない様に、最大の力をもって」
 銃口から放たれた十字の光が、連二を撃つ。反撃とばかりに繰り出された掌打が、守の鳩尾に叩き込まれた。踏み止まること叶わず、守が膝を折って倒れる。

 癒しの微風で守の傷を塞ぐ依子は、今にも泣き出しそうなほど悲痛な表情を浮かべていた。
 万に一つでも、彼がフェイトを得られるようにと祈っていた。可能性は低いと知っていても、祈らずにいられなかった。
 でも、運命はどこまでも非情で――高取連二の命は、依子の目の前で尽きようとしている。

 仲間達を縛る雷撃を、真琴の聖なる光が消し去った。
 風斗が、決して折れぬ意志を込めて“デュランダル”を振り上げる。白銀の刀身に刻まれた赤いラインが、持ち主のオーラに呼応して輝きを増した。
「謝罪はしない。恨んでくれて構わない……」
 刃を振り下ろした瞬間、風斗と連二の視線が交錯する。
 最期まで運命に抗い抜いた男の瞳に、リベリスタ達への憎悪の色はない。
 何かを言いかけるように口を開いた後――高取連二は、血飛沫とともに砂浜へと崩れ落ちていった。

●悲劇の幕切れ
 連二の遺体は、恋人のそれと寄り添うように並べられた。
 目を覚ました後、再び理性の糸が切れたように虚ろな瞳に戻ったマクが、地を這って死した恋人たちの亡骸に近付こうとするのを、仲間たちの一人が止める。

 誰も、何も言わなかった。
 海岸にはただ、打ち寄せる波の音ばかりが響く。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
数史「夜遅くまでお疲れさん。……どうか、ゆっくり体と心を休めてくれ」
 
 大蛇を倒した後の連二の選択については、彼の性格上、このような形になりました。
 これは決して皆様の言葉が届かなかったというわけではなく、『黙って死を受け入れる』のが彼にとって非常に耐え難かったという、ただそれだけのことです。
 そうでなければ、もっと殺伐とした幕切れになっていたことでしょう。

 人の心が関わってくるシナリオは、プレイング次第でどう転ぶかわからない難しさがありますが、だからこそドラマが生まれるものだと思います。
 どういう形であれ、心に残るものがありましたら幸いです。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。