● 「姉上様!! お戻りになられたのですね!? ご無事で何よりです……。柘榴は姉上様に何かあったらと、気が気ではありませんでした」 「ええ、ありがとう。心配してくれたのね、愛しい子」 烏ヶ御前の、紅に染まった目の前。白無垢の着物に身を包む、黒髪の少女が居た。 見た目は十五~十六歳程度、と言ったところか。 髪を後頭部下でひとつに結び、鬼であることを証明する大きな角が、耳の上から後頭部上へと伸びている。 名は柘榴。四天王が一人、烏ヶ御前の実妹なのである。 (……姉上様?) 戦場から戻ったばかりである姉の顔は、どこか嬉しそうな表情をしていた。 何か良いものでも見つけたのか。それとも、面白い事でも見つけたのか。 それは、柘榴には検討さえつかないが、そんな姉の姿に柘榴もふと、笑みが零れた。 しかし、同時に涙も零れたのだった。 ● 「あ!? なんでまた、妹君がこんなとこに居るんだよ!」 「はい。今回は大きなお仕事なので、柘榴も一緒に行きます」 鬼ノ城。その城外。 金髪に三本の目立つ角を添えた鬼――式鬼が気だるい表情をしていた。 その手前で柘榴が真面目な顔をしながら、式鬼と相対している。 「はぁ?! おいおい、ご立派なる妹君。まさかとは思うが」 「はい。そういう事です。自身の身は自身でなんとかしますので」 式鬼は大きくため息をついた。まさかこの少女、『アレ』を首から下げているだなんて。しかし、何を言っても無駄なのだろう。 柘榴は引かない。敬愛する姉のためであるならば、何を犠牲にしても。 揺るがない無表情。その異常なまでの忠誠が何処から出てくるのかは式鬼には検討もつかなかった。 「姉上様は……何か楽しいものでも見つけたような顔をなさっていた」 柘榴もそれを探しに来た。見に来た。 姉と同じものを見ていたい。だからこそ、姉が好きだというものは好きになろう。それが鬼であれ、人間であれ、革醒者であれ。 それを見てから、死にたいのだ。 「おいおい、それ使うのかよ」 「はい、問題はありません。柘榴はそのために存在している様なものです」 柘榴の胸元で、赤く光る勾玉があった。 それが柘榴の力と合わさったとき、大地は彼女に応えるだろう。 自身の犠牲と共に、敵への大きな妨害を。 「全ては姉上様のために! 参ります!!」 身の丈に合わないほど細長の槍を、手足の様に振るった。 その矛先が捕らえ、貫くのは形か、想いか。 死ぬならば、命令の中で。死ぬならば、任務の中で。それは本望だ。 いずれにせよ、この少女の鬼。死期が近い事は目に見えて感じていた。 ● 「皆さんこんにちは。 ジャックとの決戦が終わってからそう経っていないのに……。 リベリスタさん達のお身体が杏里は心配です」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は少ししょんぼりとした顔をして立っていた。とは言うが、時は一刻を争う事態。首を横に振り、自身に気合を入れた。 「さて……鬼との決戦です!! どうか、お気をつけて」 知っているように、逆棘の矢の本数は半数以下と、苦戦を強いられている。 鬼は強い。それは紛れもない真実だ。更に、鬼達はこれから大規模な行動に出る事を万華鏡が捕らえたのだ。 「皆さんも知っていますでしょう? 岡山での惨劇を」 記憶に新しい、あの血湧き、肉踊ったあの日。沢山の命が蹂躙された。 あれよりも、一層規模の大きい殺戮が起ころうとしているのだ。 未だにアークは温羅を含めた鬼達への対策は完璧では無い。それでも時間が無いのだ。 鬼達との全面戦争が始まる。 目標は、本拠地『鬼ノ城』の制圧及び鬼ノ王『温羅』の撃破だ。 だが本拠地である以上、最大の警戒をしていかなければいけない。そう簡単に正面から入り、易々と中へは進めない。 まず、『烏ヶ御前』の居る城外から、城門の『風鳴童子』。 御庭では鬼の官吏『鬼角』が迎え撃ち、その更に奥には『禍鬼』が待っている。 そして忘れてはいけない、最後には。『温羅』がいるのだ。 決戦へ行くリベリスタの余力の大小は、各戦場での勝敗にかかっている。 「今回、皆さんが言ってもらうのは烏ヶ御前が居る城前です」 杏里は鬼ノ城の地図を広げる。本拠地を囲んだ門、その周りを一周指でなぞった。 「此処には以前も遭遇した式鬼、その配下である前鬼と後鬼が待ち受けています。 更に、柘榴という名の女性型の鬼も居ます。この子が少々厄介でして」 彼女が持っているアーティファクト。勾玉の形をしたそれは、革醒者達を迎え撃つには適した代物らしい。 「飲み込んでから五十秒内に所有者が死ぬ事で効果を発揮します。 効果は命を取り込んだ瞬間に巨大な樹が発生する様です」 巨大な樹は、リベリスタの往来や視界を妨げる。だからこそ、止めなければいけないのだ。 そのアーティファクトの発動阻止と、鬼の撃退を両立させなければいけないのだ。 「柘榴も思うところがあってか、姉の影響か、すぐに死のうとはしません。 戦いの中で死ぬ事が本望ですが、与えられた役割を果たすことも本望です。 ですが、もちろん地雷を踏めば自殺に走ることもあるでしょう」 そこまで言うと、杏里は一息ついた。 「……式鬼達の攻撃は以前とは変わりありません。 柘榴は一言で言って、ほおっておけば反動で死に至ります。 これは手持ちの武器の効果ですね。華翠牙と呼ばれています」 黒色のその槍は、不気味に煌いていた。白無垢を着る彼女には、とてつもなく不釣合いなそれ。 「残り、土鬼という土で作られた影人のような鬼が数体います。 ひとつひとつはさほど強くはありませんが、増えるのでお気をつけてください。 これは式鬼の術ですね、おそらく彼を止められれば消えると思われます」 神秘にも長けた式鬼。お得意の術は今回も健在だ。 「長々と説明しましたが……とても重要な依頼です。皆さんのご無事をお祈りしています」 それだけ言うと、杏里は深く頭を下げた。 いつもより長く、いつもより深く。静かに、静かに帰りを待つのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月12日(木)23:32 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●近しいあなたへ 似ている。 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は率直にそう思った。 静かに立つ鬼女は、今まで閉じていた目を開く。その視界に、確かに彼等を捕らえてから、一礼をした。 白無垢に、濡れたように垂れる長い髪が彩られるその鬼――柘榴。 本部の画面の中でしか会えなかった彼女だが、いざ目の前にするとその想いは更に膨れ上がる。 「貴女が……」 アンジェリカは心が苦しくなる。こんなに同じなのに違う。 「お待ちしておりました、柘榴の名はざく……」 「知ってる」 柘榴の言葉を遮って、『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が自らの音を挟んだ。 「はじめまして。僕の名前は紅涙りりす。よろしくね?」 そう言って顔を横に傾けて。 目の前の彼女とは正反対の色であるりりすの髪が、それに沿って流れるように重力に従う。 こちらこそ、と一言。柘榴は言った。 「柘榴、鬼があんたみたいなのばかりだったらな」 『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が呟いた。 敵で無ければ、いや、鬼でなければ、きっと良い子。 ひた向きな姿に惹かれる所はきっとあったかもしれない。だがそれは永遠に解る事は無い。 人と鬼。けして相容れないその存在同士は今まさに潰し合いを行っている最中だ。 「柘榴も……立派な鬼でございます」 「ああ、わかっている」 優希はそれ以上は何も言わなかった。言えなかった。 鬼であるが、人間にようにも見える柘榴。それを『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)も感じ取っていた。 彼女が護るものを抱えているように、ニニギアにも護るべきものがある。 似ているのに、どうして否定し合う。そうまでしてでも、リベリスタの使命は重い。 「柘榴さん……」 ニニギアの目に写された柘榴が一度だけ微笑んだ。 分かっているよ。分かり合えないことは分かっている。 分かり合おうとも思わない。分かってくれようとも思わない。鬼は鬼の行くまま、その逆も――叱り。 「好きな人の為ならば、かな……」 『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)が小さな声で呟いた。 柘榴は何か大切なもののためならば、命を散らせる覚悟。そういうことだ。 彼女のためなら、冷酷冷徹。例え身内であろうと羅刹が如く力を振るうだろう。 そのうち、『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)が口を開く。 「これ以上、言うこともありませんね」 言葉で通じ合えない。ならば―― 「その信念、打ち砕いてでも押し通させてもらうぞ!!」 翔太が剣を力強く握り締めて咆哮した。 そう、私たちは行かなければならない。どんな理由がそこにあったとしても。 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)はずれた眼鏡を片手で調整する。 そんな中で、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は奥歯をぎりぎりと鳴らす。 「……半端な覚悟で戦場に出てきて、必死で戦う俺達や他の鬼連中を舐めるなよ」 「それは……」 柘榴は言葉に詰まった。柘榴はこういうときのためにアーティファクトを託されている。 死ぬことでこの城を護れるなら、姉を護れるなら。命を捧げる覚悟はとっくにできている。 「半端な覚悟かどうか、戦いの中で見極めていただければと思います」 来るとは解っていた。それは虫の知らせか、風の便りか。 いずれにせよ、リベリスタ達が黙って鬼の動向を見ている訳が無い。 時は真夜中。所謂夜襲。 「ぁあん!? 本気で来るとか正気の沙汰なワケ?」 式鬼が柘榴の背後、遠くからその光景を見て嘲笑っていた。 まさか鬼の巣窟に攻めて来るだなんて、命知らずな。けれど来たからには楽しみは増えた。 我らが温羅様のため? それは違う。至福のため。此処で倒れるリベリスタならば温羅どころでは無いはず。 「あぁ、笑える。現代だとウケルって言うんだったか?」 肩を上下させ笑うその鬼。それが城を取り囲む塀から飛び降り、静かに着地した。 その瞬間に、土は彼の武器と成る。 盛り上がり、それは小さな鬼の形を作って見せた。それが十体。 柘榴の少し後ろに位置をとる三本角。その手前で前鬼と後鬼が武器を構えた。 もはや数秒後には戦闘。『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)は星屑の短剣の先端を柘榴へと向けた。 よく切れる短剣の切っ先が、月明かりに輝く。 「……此処を通して貰うのだよ、柘榴」 それはできない、と柘榴は首を横に振った。 そして担ぎ上げる、黒々とした大型の槍、華翠牙が月明かりに反射して不気味に光る。 「烏ヶ御前が実妹、柘榴――参ります!!」 ● 「面白可笑しく楽しく、愉快悦楽恐悦至極に行こうぜ!!」 先手は式鬼だ。灰楽の音色が不協和音を導き、その音を耳にしたニニギアが魅了に捕らわれる。 そのニニギアの前方で『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は既に走り出していた。 狙うアーティファクト。だがその行く手に集う、土鬼が邪魔だ。 「ゴメン! どいてもらうね♪」 全く緊張感を感じさせない終の口。 その手から繰り出される残像が軌跡を描きながら、土鬼達を巻き込んで本来の土へと変えていく。 「ありゃ、これ結構脆いんだね☆」 「ぁああん? うるせえ」 異界の存在の力は、リベリスタ達とは根本から力が違う。鬼のそれがどういう原理かはわからないが、そういうものなのだろう。 終の作った道を沿って、卯月が後鬼の前方へと立った。 「やれやれ、前に出るのは余り得意では無いんだけど、ね」 発動するは、脳内を超稼動して次の一手を見極めるプロアデプトならではの、そのスキル。 だが卯月の身体が何か固いものにぶつかり、そのまま終と一緒に吹き飛んでいった。 「おいちゃんたちを忘れてもらっては困るなぁ、はっはっは」 前鬼の斧が、二人を巻き込んで吹き飛ばしたのだ。その威力は甚大。だが式鬼の苛立ちも絶好調となる。 「おぉおい!! 馬鹿か!! 俺の土鬼まで巻き込んでんじゃねえ!!」 「おおっと、これは失礼した」 ついでにその攻撃は範囲。残っていた土鬼さえ巻き込んで、吹き飛ばしていた。 土へ還った土鬼達をその目で捕らえ、卯月が身体についた土を払いながら前鬼へ指を刺した。 「忘れてなんかいませんよ。ほら、お気をつけて」 前鬼ははっとして気づいた。だが、そのころにはもう遅い。 「久しぶりだね、お元気そうで……」 喜平の零距離から放たれる無数の弾丸。それが光の飛沫となって前鬼を捕らえたのだ。 仮に人外であろうと男を魅了する趣味なんて微塵にも無いが、これは仕事であってそうは言ってられない。 容赦も慈悲も無く。喜平はトリガーを引く。 ――この前の借りを返す。それまでは。 喜平がその弾丸を放つ、少し前。優希と翔太が式鬼への進路を一直線で走り、式鬼へと近づく。 だが、その直線状に――ついに、柘榴が動き始めた。 「……邪魔だ!!」 「どくんだ!!」 「そちらこそ!!」 優希と翔太が叫び、釣られて柘榴も熱くなる。 優希は全身の力を拳に力を込めて、電撃を走らせる。ほぼ同時に翔太が高く飛び上がり、式鬼へと矛先を向けた。 「ぁっ!?」 電撃は周辺の鬼の全員を貫く。すぐに体勢を立て直した柘榴が、優希と翔太目掛けて黒く染まった槍を横に振った。 翔太だけは寸前で身体を捻ってその槍の先端を身体に掠るだけに留まる。 花神の封を奪おうと、気配を消して柘榴に近づいたアンジェリカだったが、その範囲の攻撃が漏れなく直撃してしまう。 その槍が直撃するままに、二人は後ろへと戻される。同時に魅了の呪いも被っていった。 「う、うう……敵、敵はどっちです……!」 同時に魅了されたニニギアが頭を抱えて唸っていた。そのマジックアローが翔太へと飛ばされる。 月明かりは二回放たれた。 「ボクは」 何か言いたげで、何かを叫びたくて、何かを柘榴に伝えたくて。 アンジェリカはいつもの無表情を若干崩しながら、ブラックコードを握り締めた。 その紅い光が消えかけたその瞬間に、純白の光がリベリスタ達を包んだ。 「好奇心か、嫉妬か……」 問いかけるは癒しの存在。その力の一片をお借りしましょう。 具現化されし力は息吹となりて、全ての傷、呪いを打ち払うだろう。その凛子の存在こそ、今のリベリスタ達にとっては要的存在として君臨していた。 これでまた、持ち直せる。 最後に式鬼の下へ走るノエル。だがそれも柘榴が前方に立ってブロックする。 「行かせませんよ」 「……っ!」 ノエルは思わず奥歯を噛んだ。後衛に位置する式鬼のなんとずる賢いことか。 キッと力む眼光だけが、式鬼の心を射抜く。 「ははァ!! まあそんな目をせず楽しめよ、なァ?」 式鬼が呼びかけ、その言葉に反応してか、土が再び鬼を作り出していた。 更に後鬼が動き出す。鈍く、遅い彼だが、攻撃の威力は随一。 召喚されし石礫が喜平の身体へと打ち落とされた。 「ゴメンね、遅れた」 だが、もう一人。もう一人動き出した。 「その決意は。その覚悟は。君だけのモノだ。其処に他者の言葉など入る余地は無いよな」 だから、僕はそれに応えるんだ。 ハイスピードから放たれる速度で、りりすは地面の土を蹴った。携えるリッパーズエッジが光輝き、残像を作っては消えて行った。 狙いは柘榴、ただ一人。 そのままの速度の勢いで放たれる剣が、柘榴の肩口を捕らえていった。飛び交う鮮血の中、両者の目が合う。 「……証明、するよ。いや、しなければならないんだ」 「!!」 りりすの呟いた言葉は、きっと柘榴にしか聞こえなかった。けれど、それだけで十分なのだろう。 肩口を押さえ、柘榴は少し後退した。そして、その口元が少し緩む。 ● 今や土鬼の介入が無い。翔太が式鬼へと走り出す。 スキルを放とうと翔太は剣を握る――が、後鬼が式鬼を護る位置に入った。直感でソードエアリアルは利かないことはわかっている。 「くっ!」 式鬼へと入るはずの攻撃は後鬼へと庇われて、護られてしまったのだ。 「あぁあん? こいつら俺の手足なんだよなぁ」 「面倒な手足そろえやがって」 式鬼は殺気を向ける翔太に、面白いと笑う。 「僕は君の姉さんに会ったんだ。素敵な鬼だ」 「そう、そうですね、貴方だ。貴方なのですね!!」 見つけた。そう柘榴は思った。ならば―― 「見せてください!! 魅せてください!! 姉を虜にした、想いも全てです!!」 柘榴の瞳が好奇心に輝く。それを見た凛子が、ふむ、と顔を振った。 (彼女の心情は……好奇心に加えて、嫉妬……でしょうか) それを背負って此処に居るのであれば、きっと決心も固いのだろうと凛子は予測する。 ならば、それを受ける私達を。リベリスタを。凛子は精一杯の力で支えようと詠唱を行う。 ホーリーメイガスの技の中でも屈指の威力を誇る、その息吹が戦場を駆け巡った。 それとほぼ同時に偽たる月が頭上で輝く。 アンジェリカの生み出したそれが、土鬼を一掃していくのだ。 「分かって。死んで役に立つなんて、ただの自己満足だって。そんなの絶対違う」 アンジェリカは土へと返って行く鬼にも眼をくれず、ただ真っ直ぐに柘榴を見ていた。 「そう……かもしれません」 返ってきた返事は消極的で。でも、戻れない柘榴は進むしかない。 「そんなの、認めないよ」 それでもアンジェリカは自身を貫く。 「貴女の生き方、否定はしません。わたくしも同じようなものです」 ノエルは目の前の式鬼を捕らえながら、柘榴に話しかけた。 「貴方も、何か信念があるのですね」 返答された言葉に、少し笑いながら、それでも真面目に遊んでいる笑みでは無く。 『正義』だ。ノエルにはノエルの正義があった。言い換えれば、きっと柘榴の正義と今ぶつかっているのだろう。 だからこそ、負けるわけにはいかない。自身の正義が弱いだなんて思いたくも思わされたくも無いのだから。 「正面から、打ち砕かせていただきます」 この攻撃がきっとその第一歩。振りかぶった剣が後鬼の体力を削る。 翔太の直感のおかげで、どちらが無効なのかは手に取るようにわかっていた。 「君みたいなの、見たことあるよ」 言葉は続いた。卯月は仮面の下から言葉を発する。 愛する者を守る為に、愛する者に認められる為に。けれど、柘榴のは少し違う。 「君はなんのために、そんなに……いや」 答えがどうであれ、やることはひとつしか無いのだろう。卯月は卯月の信念を貫くのだ。 放つ麻痺の陣が後鬼を縛る。その前方で柘榴の手が止まった。 「……なるほど、似て非なる想い達。これが一番お似合いの言葉でしょうか」 柘榴の前方、りりすがリッパーズエッジを握って、回転の力に任せて攻撃を仕掛ける。 「僕は人の心がわからない。だから君にどう思われるかなんて検討もつかない」 でも。 「呼ばれた気がしたんだ。呼ばれた以上、失望させたくないんだ。君にも姉さんにも」 全力で、力を込めて。 流れるように放たれる攻撃は、影を残して軌跡を描いていく。 真っ直ぐな想いを受けて、柘榴はにっこりと笑った。傷口を作られて、鮮血が舞って、辺りは血臭に塗れているが。 嗚呼、なんて心地よい。 すぐに死ぬなんて勿体無い。もっと彼らを見ていたい。 そう柘榴の心を動かしたのは、紛れも無いリベリスタ達であった。 ● 自身を犠牲に攻撃する柘榴の息が荒く出入りするようになり、消耗も激しくなってきていた。 姉はこんなのを相手にしていたのか。そして、今からもこんなのを相手にしなければいけないのか。 『使い時』、そういう事か。 まだ彼らを見ていたいが、役目を果たすことが最優先である。 命散らすのであるならば、花神の封でリベリスタ達へ大きな妨害を残すべき。 胸を飾る、赤い勾玉を力任せに引き抜いて手の中に持った。 その行動が何を指し示すか―― 「死ぬ為に生まれた命なんてないんだ……! 生きる為に戦え……!!」 咄嗟にアンジェリカが叫んだ。それに続いて、ニニギアも声を大にする。 「全力で戦いきる中でしか見えないものがあるんじゃないの?」 死ぬために生まれた。道具として生きてきた。そんなの、きっと違うって信じて。 「地力でなく、手段を選ばず、死を選ぶのならば。 その死は結果。それまでどう生きたか大切ではありませんか?」 凛子も合わせて柘榴に問いかけた。花神の封を発動させては――いけない。 「敵に慈悲をかけるお暇がお有りですか?」 死期が見えている。ならば、ただ死ぬよりかは、何か姉に残したい。 異常な愛と、依存の忠誠。彼女のためとなるならば、命をかけてでもやり遂げる。それは揺らぐことの無い柘榴だ。 それが今、目前へと迫っている。 「柘榴も全力で貴方達とぶつかりたい。それは本心。 今、とても心地よい。だから、まだ感じていたいです。 もっと見たい、全部見たい。 そう思わせたのは他ならない貴方達の言葉なのです。でも負けるのは、許すことができない。 与えられた役目を全うできないのは、死ぬより怖い。 この役目を担わされているからこそ、死は名誉だと。そう思っております。だから――」 潰し合いだと。 そこに手段も慈悲も正々堂々も関係無い。 実際、花神さえ無ければリベリスタ達は不殺と言葉に出さなかったかもしれない。 花神で壁を作れば鬼の勝ちなのだ。撃退できれば、殲滅できればリベリスタの勝ちなのだ。 殺せないだろう? 止めてみろ。その副音声に卑劣を感じる。彼女も鬼ということか。 「大層な、保険だ」 「お返しする言葉もありません」 喜平の言葉に柘榴は黙る。ただ、それだけ。 「はぁん、妹君はかっこいいってか。俺には無理無理」 そんな柘榴の背後で、式鬼は難しい顔をしていた。だがそんな柘榴に応えるように、術式を組み上げる詠唱を始める。 がりっと、固い音が響いてから花神の封が飲み込まれたのを見た。終が集中して叩き落とそうとしたが、時間が足りない。 「……五十秒だ」 卯月が呟く。誰に言ったでもなく、答えてもらうべくでもなく。 だが、リベリスタ達は顔を一度だけ縦に振った。ここからが――本番なのだ。 首を振った瞬間には、自然と身体が動いていた。 認めてくれた、それは分かっていた。けれどそれだけでりりすは満足できない。 鬼を倒し、そうして前へ進まなければいけない。だからこんな経過の場所で止まるわけにはいかない。 手荒か、どうとでも言うが良い。柘榴の身体に飛び込み、その身体を組み敷いた。 両手首を地面に押さえ、胴を跨いでは重力のままに抑えてみせる。 「証明し、認め、まだ先を望みますか!?」 女にしては、柘榴の力が強い事を身をもって感じた。少しでも油断すればすぐに跳ね飛ばされそうだ。 「生憎、僕は強欲でね。今更だよ、そんな質問」 りりすがそう言った瞬間、柘榴の眼前すれすれで斧が振るわれた。 その斧にりりすは吹き飛ばされ、柘榴から離れていく。空中で目にいれる柘榴は、楽しそうな顔をしていた。 そんなりりすと入れ替わりで終が柘榴の武器を押さえた。 「生きてて、欲しいんだよね……」 でも、此処を通して欲しいんだ。 こんな武器無ければと、終は華翠爪を強く握っては引いた。けれど柘榴はただでは手放さない。 「それは……どういう意味なのですか……?」 答えなんて、見つかりっこ無い。 本来なら、式鬼の攻撃が飛んできていてもおかしくは無い。だが来なかった。 それこそ、彼が詠唱に時間を割いているからであり――鬼やリベリスタを支える地面の土が、舞い上がっては空中で形を成そうとしている。 今や、バッドムーンの恩恵は無い。作られている土鬼が、地道にリベリスタの体力を奪っていた。 土鬼の何気無い一撃が卯月の喉元を切り裂いた瞬間に、卯月はフェイトの恩恵に包まれる。 前衛は慣れてないって言ったじゃないか。でも、倒れる訳にはいかないし、倒れるつもりなんてない。 「命は尊い物なんだ……」 仮面の下に隠した素顔はどんな表情をしていたか。 声を震わせ、命を繋ぐ卯月は必死の思いで黄色に輝く糸の陣を柘榴目掛けて放つ。 「君は……リベリスタの手によって倒されるんだ」 戦いの中で死ぬなら、それこそ本望だろう。だけど今だけはその命を繋がせて。 この鬼ノ城に居る、全リベリスタのため。花神の封はさせられない。卯月の麻痺は、彼女を縛った。 これで十秒は乗り切れるはずだ。 それを見た優希が腕のハンカチを取り出す。ハンカチで作られた猿轡――それは舌を噛まないようにか。 「ん、んく!?」 それを躊躇い無く麻痺している柘榴の口へと回して結んだ。 (せめてあと四十秒そのままでいてくれ……!!) ――そうしたら、一思いに首を掻っ切ってくれよう。 滴る唾液がハンカチに吸い込まれていく。動かない身体に、更に大きく負荷がかかっていく。 その後翔太が走る。攻撃は柘榴へでは無く、前鬼へと大きく逸れた連続攻撃。 リベリスタは柘榴の行動を縛ることに躍起となる。だが、この瞬間が一番危険だったのかもしれない。 ニニギアの歌が響く戦場で、その十メートル横で凛子が魔力を集中させて式鬼へと矢を放ったが、フリーである後鬼に吸い込まれてしまう。 更にノエルが式鬼へと白銀の槍を振るう。 横では漆黒の槍が煌く中で、白銀のそれは煌びやかに自己主張をする。だが、それも後鬼へと。 「……く! 邪魔ですよ!」 「式鬼様の命令は絶対でなぁ……」 思わずノエルが大きく吼える。目の前に、今まさに、奴がそれを発動しようと―― ――音が、止んだ。 「ぁあん? くっは、くははははは!!!」 再び欠けただけの土鬼が増えていく中で、式鬼の笑い声だけがノエルの耳に焼け付く。 詠唱は完璧。土や葉や根を巻き込んで作られた武器達が、リベリスタ達を無差別に切りつけていった。 「まだ……まだなのです!! まだ負けるわけには!!」 「う、く……」 一番始めに、ニニギアとアンジェリカのフェイトが飛んでいった。倒れかけたアンジェリカが、自身の唇を噛み締めて血を流しながらも食いしばる。 「柘榴に構いすぎて、俺の事、忘れているなら好都合ってか?」 そう、この戦場のボス各は彼――式鬼だ。 最大飛距離まで届く彼に十八番は、全てのリベリスタ達を飲み込んだ。 その前方で前鬼が大きな口を開いている。強力な顎が落とされていく――それが命中したのは。 「!!?」 リベリスタでは無い、柘榴だ。 喜平の魅了が前鬼には効いている。誰彼構わず、前鬼は味方でもある柘榴を攻撃した。 終が攻撃に気づいて飛び出した、きっと彼の速度なら間に合った。だが、ブロックすることと庇うことは異なる行動だ。終の行動をあざ笑うかのように前鬼の顎はその隣を通っては、柘榴を噛み千切る。 その威力は分かっている通りに甚大。終が振り返り、見えた柘榴が思わず身を捻って傷みに悶えていた。 脳内を支配する、激痛たる侵食。しかし―― 「今……死なせるわけにはいかないわ」 歌が響く。優しく、暖かい歌が戦場に響いていく。 地面に膝をついて、片手を地面につけて倒れまいと食いしばるニニギア。そのもう一つの片手を天高く上げては治癒の詠唱を詠い続けた。 それはリベリスタを巻き込み、更には柘榴でさえも巻き込んだのだ。 辺りは再び式鬼の土たる武器を形成せんと、砂誇りが舞い上がっていく。 「こんなことって……!!」 自分の意思に関わらず、傷が癒えていく。 もちろん完璧とは言えない。彼女の強靭たる体力のほんの一部だが、回復は柘榴を護った。 情けか、同情か、それともアーティファクトを発動させないためのニニギアの行動か、それは柘榴には分からないが、歯を食いしばりながらりりすや優希を振り払うように華翠爪を振るう。 それを振った瞬間にりりすと優希が凛子の手前まで戻されてしまう。だが、そこにタイミング良く聖神の風が行き渡った。 再びノエルがConvictioを、その手の中に握る。 「我が槍は――世界の敵に!!」 巨大なその槍を、自らの手足の様に軽々しく動かす。彼女の腕ならば、どんな重量武器でも綺麗に扱って見せるのだろう。 今や式鬼は後鬼に護られている。それがなんと惜しいことか。だが迷わないその槍は、式鬼を一直線で捕らえている。 「どけええ!!」 いつもは冷静な彼女も、思わず言葉が力んだ。 それは、その槍はやはり後鬼へと吸い込まれてしまう。もう少しだと、いうのに。 ● 更にリベリスタの猛攻は続く。 これで三十秒がたったとこか。だが、柘榴の回復が辺りを支配した後、その後ろで式鬼が術式を再び完成させようとしていた。 柘榴へ四人のリベリスタが当たっていた。だが、残り二人の回復を途切らせる訳にはいかない。 「そろそろ……倒れてはいかがですか」 喜平のショットガンが唸る。幾度の攻撃で温められた銃口から、再び魅了の弾丸を迸らせた。 「俺にも噛ませてくれ」 その喜平の背後から翔太が高く舞い上がる。 土鬼に切り裂かれた傷口からは絶えず血が流れ出していた。だがそれにも気にせず、血の軌跡を彩りながら舞うのだ。 「許さねぇ」 無意識にも口からそう零れた。 無力……対抗手段さえ無い一般人を殺した鬼達を、許せる理由が何処にあると言うか。 振る剣は、いつの間にかに世界のために。 放たれた速度を最大限に活かしたその攻撃が、前鬼の頭部を切り刻んでゆく。 そんな翔太に二体の土鬼が襲い掛かっていった。 前鬼への攻撃を終え、地面に着地した瞬間だった。鋭く伸ばされた爪が翔太に食い込んではフェイトを飛ばしていく。 「翔太さん!!!」 その翔太のずっと背後でアンジェリカが叫んだ。だが、今彼女は土鬼よりも優先したい鬼がいた。 「ボクは……認めない……」 自らが土鬼を排除しなかった。それで翔太のフェイトを飛ばしてしまった。 歯がゆさに奥歯をかみ締めた。先ほど切った唇が更に痛んだ。 「絶対に、認めない」 叫び、彼女が向かうのは柘榴の下。 死を望んで戦うだなんて、どうして。アンジェリカは理解に苦しむ。 けれど、けれど、それを選んだのであれば、それに答えるしかアンジェリカにはできなくて。 「残される人のことを、考えたこともないくせにっ」 「!!」 残される人。残される鬼。 姉上は、悲しんでくれるだろうか。それともよくやったと褒めてくれるだろうか。知る術は無いが、アンジェリカのその言葉は柘榴に響く。 柘榴に植え込んだ爆弾が、煌々と燃え上がる。弱い防御をつくその攻撃は、柘榴の体力を確実に飛ばしていった。 しかし、すぐにニニギアの回復が柘榴を助けたのだった。 殺すが、殺せない。 その狭間でリベリスタの葛藤は続く。 だが、それにも終止符が来るのは近いかもしれない。 「あぁあ、さぁて、そろそろ楽しいことが起こりそうだぜ? なあ!!」 式鬼の術式が完成した。二度目の、武器の雨が降り注ぐ。 回復せんと動いたニニギアが倒れる。 それに続くようにして凛子のフェイトが飛び、消えていく。すかさず式鬼が灰楽を口にし、不協和音を響かせて、それを凛子の耳に入れた。 続いた前鬼がその巨大な斧で柘榴に集まっているリベリスタ達を一掃していく。そのダメージをカバーする回復手段が、今や乏しい。 「前の借りを返すまではな」 斧が通過していく直後、喜平が飛び出した。 もうあとどれだけ持つか。無限機関の恩恵を受けていても、精神力がアル・シャンパーニュの出力に追いつかなくなってきている。 あと一回、せめて、この一回。 ほぼ同時か、少し早いくらいか。翔太も一緒に飛び出していた。向かうは、前鬼だ。 「ここまでか」 そんなことを前鬼が呟いた。正直、楽しかった。血に塗れながら、幾数年ぶりに空気をおもいきり吸った。 迫る二人のリベリスタは、今こそ脅威。 「意地でも生き残りたい。でも、今はお前を倒すんだ!!」 翔太が振るう剣は、想いを乗せて前鬼の頭部を破壊する。そして。 「長い付き合いだったな。でもこれで、永遠にバイバイだ」 けして馴れ合いに来ているわけでは無い。早々におさらばしたい。けれど、お別れの一言くらいは残そう。 トリガーを引くその指が、いつも以上に迷い無く引かれた。それは前鬼を貫通し、魅了の呪いを超えて引導となった。 ――残り、十秒だった。 式鬼の魅了を受ける凛子が動けない。 打てない聖神がどれだけリベリスタ達を支えていたかを、今になって思い知らされてしまった。 回復役は二人居たが、どちらかが倒れた瞬間に崩壊は始まっていたのかもしれない。 しかし、柘榴も抑えられていた。 麻痺が響くその身体。その上からリベリスタが身体を地面に押し付ける。 猿轡を噛み締め、離せとも叫べぬその無力さで、目線だけはリベリスタに噛み付いている。 今、般若の泣き声を使われたら一瞬で終わってしまう。それが脅威だ。 土鬼の一撃でりりすのフェイトが消える。それでも掴んでいる柘榴の腕を離さなかった。 傷口から滴る血が、柘榴の頬を染めていく。 「死ぬのも怖くない」 そんな中でりりすが言葉を紡ぐ。 「殺されても構わない」 今や柘榴の白無垢も、返り血で赤く染まってきている。 「けど、死ねない、止まれない。君のお姉さんの好きになった相手は、こんなところで負けられない」 わかるだろう?とりりすは腕を掴む力を強めた。 「似て非なる」 答える柘榴は、重力に反してりりすに掴まれる腕を押し返そうと力む。 「死んでも、殺されてもいいです。でも、やるべきことを成さねばいけないんです!!」 全ては、姉上のために。もう、その姉を見ることは叶わないだろう。 自分の代わりに、目の前のりりすがその眼で姉を捕らえるのだろう。 だが、その戦いが少しでも姉の軍配を持ち上げさせるために引けない。 「随分、楽しそうで」 式鬼が両手を広げて、後鬼の後ろで笑っていた。 それが花神の封の、失敗の合図。既に過ぎた五十秒に、更に時間が加算されていく。 頭上には式鬼の武器達が控えていた。 人一倍早く動ける彼に、発動まで間に二十秒かかる術でもそれより早くやってのけるのだ。 幾度目の降り注ぐ武器達がリベリスタを射抜く。 翔太が倒れた。アンジェリカが倒れた。凛子が倒れた。続いていくように、フェイトを飛ばしたものも少なくは無い。 耐えるべき時間が過ぎたことによって、りりすが動き出す。 「通してもらうよ。姉さんの下へ」 君に認めてもらえたから、次はそれが嘘ではないことを証明しなければ。 そのために烏ヶ御前の下にはなんとしてでもいかなければならなかった。 残像が残る、その短剣。かの名のあるフィクサードの呪われた遺品を振るい、りりすは土鬼ごと柘榴を切り裂いていく。 「ごめん、通してもらうよ……」 複雑だった。生きていてほしかった。 でも、きっとそれは儚い願い。死にたがりのピエロの、護りたい意思は高らかに健在している。 りりすに続くように終のナイフも一緒に踊る。リベリスタの体力をじわじわ奪う土鬼は一掃されていく。 道は、できた。 卯月の麻痺の封陣が後鬼へ響くその最中で、優希は走り出す。 視界の端で見える、動かない翔太が気がかりだった。生きていてくれと、願いながらも柘榴へ走る。 今こそ、誓いを護ろう。花神の封の時間が終わったら、一思いに殺すと。 未だ癒えぬ、流血が全身を迸りながら、優希が手を伸ばす。当たれ、きっとその想いは柘榴を打ち砕く。だが―― 嗚呼、なんて不運。いや、幸運か。 柘榴が顔の形相を変えて、華翠爪を振りかぶっていた。優希と柘榴の行動は、紛れも無く同時に行われたのだ。 伸ばした優希の腕が、柘榴の胴を捕らえ―― 柘榴が振り下ろした槍から、全力の―― 「柘榴おおおおおおお!!!!」 「革醒者ああああああああああああああ!!!!!」 パァン!と、優希がねじ込んだ想い。柘榴の背中側の布が弾けて破れた。 振るわれた槍に、全てのリベリスタが飲み込まれた。 二つの威力に大地が震えた……。 幸運だったのは、柘榴の体力は二桁ほどしか残っていなかった事だろう。 不運だったのは、リベリスタの体力も途切れかけていた事だろう。 「……っ」 砂誇りの舞い上がる戦場で、ノエルが頭上を見上げた。それから前方を見れば、再び詠唱を唱える式鬼の姿が見えた。 リベリスタ達は満身創痍だ。未だ、ほぼ元気に君臨する式鬼が、撤退しろと促している。 これ以上の戦闘は、危険だ。 りりすが無表情で身体を引きずりながら、動かない柘榴を見ながら後ろへと。 そんな、リベリスタを見つめながら、式鬼は柘榴だった身体を担ぎ上げた。 「楽しかったかー、柘榴」 その言葉は、虚空に消えて昇っていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|