●一番星 頭上には星、満天の星。 君が『幸運』を望むのなら、迷わず星を掴めばいい。 ああ、御代は要らないよ。何、嘘は吐かないさ。 頭上には星、満点の星。石ころの、星。 ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ ●信頼と実績の…… 「不幸の宅配便」 『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)の呟いた余りに的確な、余りに身も蓋も無いその評価にリベリスタは思わず苦笑を禁じ得なかった。 「仕事はアーティファクトの破壊ですね。ペリーシュ・シリーズが又発見されたみたいですよ」 モニターに映っているのは重厚感のある真鍮の星である。 アシュレイの言葉にリベリスタは溜息を吐き出した。 「『今回も』なのか?」 「はい。『今回も』です。信頼と実績の不幸の宅配便です」 リベリスタの問いにアシュレイは冒頭の一言を繰り返した。 『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ。その悪名は神秘のメジャーからはかけ離れたこの極東の島国にも既に十分に轟いている。究極の魔術師(メイガス)にして天才付与魔術師(エンチャンター)。 魔道の才を持ち過ぎた故にか、人道をまるで知らない悪辣な男の作品(アーティファクト)は『史上最強のサゲマン(当人は否定)』であるアシュレイにさえ「碌でもない」と言わしめる禍々しさを持っている。使用者にほぼ例外無い破滅をもたらし、社会を混乱させる品々は特殊な趣味を持つ好事家以外からは蛇蝎のような目で見られているのが事実である。 アシュレイと同じ『バロックナイツ』の――それも第一位の男である。元よりその辺りの事情を鑑みれば当然と言うべきなのかも知れないのだが。 「どんな作品だよ」 「見た目は御覧の通り。『幸運』を招く星です。キラキラと」 アシュレイは手をひらひらさせて『きらきら』の身振りをしながら答えた。敢えて一言目で『副作用』に勿体をつけた彼女に無言で応えるリベリスタ。 「……つれないですねぇ。はい、そうです。唯『幸運』になれる訳じゃありません」 「運の前借りか? カラス金か。トイチで済めばどんなに良心的なんだろうな」 勿論「ウィルモフ・ペリーシュの場合」と付く。過去にアークのリベリスタの回収した『陽炎のフォルトゥーナ』なる代物がその前借りだった事があるが…… 「いいえ」 しかしアシュレイはリベリスタの言葉に首を振った。 「本当に『幸運』は発生するアーティファクトです。 『そこは』本当です。『そこには』副作用はありません」 「……と、なると……? 寿命が縮むとか?」 「いいえ。持ち主の命にも影響を与えません。今回のはですね――」 アシュレイの金色の瞳が揺れる。 「『幸運』はもたらすけれど、『幸せにしない』アーティファクトです」 「……は?」 「『幸せにしない』と言うよりは『不幸にする』と言った方がしっくり来ますけどね。 だって、絶対に『幸せにはなれません』し。 ……コホン。今回のアーティファクトの名前は『零の明星<UnHappy LuckyStar>』。 人格と自律機能を持つのは他のペリーシュ・シリーズと同じですね。その辺の基本性能はさて置いて、重要なのは能力の方です。 先程、申し上げました通り、この品物『幸運』は与えますが、所有者を『幸せにしません』。例を挙げて言うならば使用者が受験生だった場合、その学生は山勘が見事に当たり有頂天って事態があったとします」 「ああ」 「しかし、『それ以外の皆さんの山勘もそれ以上当たり結局不合格になる』とか。よしんば合格したとしても『第一志望の学校が経営破綻して潰れる』とか。『気に入らない同僚が早期退職して喜んでいたら、残った会社が潰れる』とか。もっと単純に言うなら『五百円拾ったら釣銭千円間違えられる』とか。一つ一つの『幸運』に直接因果関係の無い何かで結果的に持ち主を『絶対に幸せにしない』代物です。 ……地味に利息を積み立てて、真綿で首を絞め続ける辺りが嫌な感じですねぇ」 「底意地悪いな、それはそれで……」 結局は『何をやっても絶対に上手くいかない』牢獄のような人生の出来上がりである。即座の破滅と磨耗の人生どちらが良いとは判断もつかないが、まだ取り返しがつくという意味では今回は救いがあるか。 「『幸運』自体には副作用が無いのです。『幸運』を与える力は本物ですが、『不幸』を用意する力はそれ以上。そして『彼女』は能動的なだけです。持ち主が魅入られてしまうんですよ、困った事に」 「女の人格かよ」 告げられたのは『心無いベアトリクス』以来の女性人格である。 かつて出会った『あの女』の性悪ぶりを考えれば今回も質は知れている。 「現在の持ち主は長崎昭二様というフリーターの方ですね。 彼がバイト先のコンビニから帰る夜道を狙えば話は早いでしょう。 あ、卵が先か鶏が先かのお話になりますけれど、一つ注意が」 「……?」 怪訝な視線を向けたリベリスタにアシュレイは嫌な一言を付け足した。 「『零の明星』の力は皆さんにも働きますから御注意を。 正義の味方が『彼女』を破壊しに来るのは昭二様にとっての『幸運』です。 すると、あら不思議。『彼女』の魔力は冴えに冴え、その『幸運』以上のゆり戻しで『それが叶わない否定』を発生しようとするでしょう。 つまる所、皆さんは『彼女』の魔力に打ち勝たなければなりません。 瞬く幸運の星を、唯の石ころに変えるにはそれ相応の『力』が必要という訳でして――」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月20日(火)23:11 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●零I 「……」 寒さの一応は和らぎ始めた三月の深夜を一人の若者が行く。 人通りの少ない夜の道路を照らすのは街灯の細い光である。鈍い今夜の月明かりよりは幾分か頼りになるその光に長い影が伸びていた。 「……………」 小さく白い息を吐き出した男の名は長崎昭二。 長身の彼の背中は少し丸められていて、その表情を覗き込めば冴えない事が良く分かる。 (ついてるんだか、ついてないんだか……) 行きの道、樋口一葉に訪問される幸運に見舞われた彼の元からは帰り道、一人の諭吉が旅立った。昭二のこの所の人生には万事そういう事が多すぎる。 不実な確率論を人は奇跡と呼ぶ。 平々凡々としたフリーターは本来奇跡なる運命を持っていない。 (彼を助けるためには不幸にしなければいけない。 でも不幸を避けて幸運になってそのあと不幸になって……? ややこしいアーティファクトです) 街灯と街灯の間、道の端に一人佇む年端行かない少女――『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は向こうからやって来る昭二の姿を確認して考えた。 彼の人生が浮き沈むのは『出会ってはいけないものに出会ってしまったから』である。十歳そこそこにしか見えないぞっとする程の美少女が――奇異な時間に奇異な衣装で佇み、彼を待つのも同じ理由。『普通に在らざる運命』を演出するのは常に『常識通用せぬ世界』。即ちそれが神秘なのである。 「これを作った人、絶対に色々と歪んでますね……性格とか」 全く疑う余地も無いとはこの事か。 (かのウィルモフ・ペリーシュが作った品物…… 意地悪そうです……でも、長崎さんを放って置く訳にもいきませんし…… アシュレイちゃんがご依頼下さった任務ですから、何とか頑張りたいです) (W・Pか……見るのは二度目。厄介だという思いしかないが。 タチが悪いだけで受動的なものならいくらでもやりようがあるが、言っても仕方ないな) リンシードより更に離れ、潜む『リベリスタの国のアリス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が更に内心で呟いた通りである。 かのバロックナイツの使徒にもその名を連ねる『黒い太陽』は『塔の魔女』をして最悪と言わしめる悪辣さを持っている。今夜十四人のリベリスタ達が彼の作った『零の明星』――真鍮の星を破壊せんと集まったのは、神秘を封印するリベリスタの任務は言うに及ばず、それが昭二の人生を確実に食い潰す事を知っていたからでもあった。 「幸運でも幸せじゃない……頭痛くなるなぁ」 溜息にめいた『灰の境界』氷夜 天(BNE002472)の言葉が夜に解けた。 「『これ』も遠回しな不幸なんじゃないかと疑いたくなるよ、ホント」 『零の明星』は持ち主に幸運を与える。 しかし、『零の明星』は決して持ち主を幸福にする事は無い。 与えた恩恵が大きい程、不運をセットで押し付ける。 差し引きで常にマイナスになる程度に、真綿で首を絞めるように。LuckyとHappyは必ずしもイコールしないという盲点を突くように。 積み重なった不実な幸運でやつれた昭二を見れば状況は概ね分かろうというものである。 「女で狡猾とかいつも以上に面倒なのです。 さおりんとらぶらぶ出来たらそれ以上に(´・ω;`)となるような嫌な物はさっさと壊してしまいたいのです」 可愛らしく憤慨する『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の顔は『その時』を脳裏に描いたのか、少し不機嫌であった。 魔性の道具に魅入られた彼はそれを手放す意思を持つ事は出来ない。 『悪女』は神秘である事さえ持ち主に知らせず、数奇な運命に惑う姿を『砂被りの位置』で唯見守っている。 「ウィルモフの作品か。人の人生を弄ぶ、業の深い代物だ。 相手は強い。だがそれでも僕は最後まで足掻きたい。 罪の無い誰かの破滅を前に、何一つ諦めたくはない」 「ああ」 『剣を捨てし者』護堂 陽斗(BNE003398)の言葉に『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が頷いた。 「その存在も今日まで限り。我が双剣にて、その存在……斬り捨てよう」 剣の柄に手をかける彼の全身からは触れなば斬れん鬼気が迸っている。 「あーあ、不運系の敵にはいい思い出が無いのよね」 何処か淡々と。持ち前の美貌を小さな皮肉に歪めた『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)が嘯いた。 「不運を捻じ伏せるのは圧倒的な実力か、呪いを超えて幸運をもぎ取る強い意志。 ……せめて性悪女に負けてやるかと、そんな感じで行きましょうか」 ジルの瞳は幻想を殺し、些細な嘘も見逃さない。 パーティの立てた作戦は単純だ。 「結局のところは不幸にさせたいってことだよな。何がゼロだマイナスだ」 事前には念の為、『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)や陽斗等が道路の先を赤いコーンで封鎖した。 その上で異能者の存在感をステルス出来るリンシードが彼の持つ鞄――つまり『零の明星』を奪い、引き離し、その後は周囲にめいめいに潜むリベリスタ達と共に『彼女』と対決する――というものだ。 決戦の時間は近い。 疲れた昭二は行く手の闇に潜むリベリスタ達に注意を向けては居ない。彼が抱える鞄の中の――『彼女』がどうなのかは知れないが。しかしその『彼女』とてリンシードの異能は看破し得まい。 「――」 昭二の視線がぎょろりと。佇むリンシードの姿を捉えた。 彼は違和感を感じたようではあったが、声は掛けて来ない。少女の目の前を通り過ぎて――勝負は一瞬である。 「ちょっと強引かも知れませんが……貴方のためです、失礼します!」 その動きは一般人には捉え難い。後方から昭二に飛び掛ったリンシードは言葉の通り些か強引に――しかし、効率的に。彼が肩から提げていた鞄を奪い取った! 「何を!?」 「こんなもの――」 泡を食う昭二には構わない。 リンシードは奪った鞄を昭二が歩いてきた方とは逆――つまり、リベリスタ達が潜み待ち構える網の中へと投げ放つ。 「説明は後でします!」 抗議めいた怒声を上げる昭二を半ば無視して彼を庇うように立つリンシードは前を向いていた。 「――はっ!」 飛び出した影の一つ――『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が小さく跳んだ。 素晴らしい速度を乗せた一尺二寸の黒刃が宙を舞う鞄を切り裂いた。 ――その寸前。 鞄からまろび出た金色の星が宙に浮く。魔性の光をもう隠さずに。確かな知性で自身を阻もうと現れた『幸運』達の存在を確かに知り、感じ取って。 「出ましたね……!」 着地した舞姫が宙(ソラ)を仰ぐ。 ――もぉ~。やだなぁ~! 間延びした女の声が爛れた甘さで頭の中を舐め上げる。 小さな悲鳴を上げるのは昭二。 「荒事の時間だな」 迷わず強結界を展開するのは鉅。 「隠れてちゃあ美人が勿体無いよ?」 冗句めいた天以下、リベリスタ達は各々戦いの構えを取っている。 ――邪魔ばかりするのね。あなたたちぃ。御主人様の言う通りだわぁ! 美しい声なのに耳障り。宙でピカピカと瞬く女の輝きは安っぽく、吐き気がする程の悪意に満ちていた。 「幸運。不幸。……気の持ちようだ、とも言うけどな」 嫌悪感を隠す事無く『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)が言った。 「毎度ムカつく位に楽しそうに嗤いやがって。お前は……いや、『お前等』は。 過ぎた力を抵抗出来ねぇ相手に向けるのは楽しいのかよ。 力があんなら相応の奴らと闘れよ、性格ブスが」 創太は犬歯を剥くように獰猛に言う。 「釣り合う相手がいねぇって言うならよ。今に俺様達がその座まで登り詰めてやるからよ。 覚悟していやがれ。弄んだ分はいつか、倍以上になって返される日が来る事を――」 それはまるで星の後ろに立つ大魔道の向いているかのよう。 「アナタの与えてるっていうUnLuckyはウソっぱちなの」 ――退屈な時間は終わりを告げた。 一方で『壊れた』笑みを浮かべる『Unlucky Seven』七斜 菜々那(BNE003412)は唯じっと待つ無意味にも思える時間に終わりが来た事を素直に喜んでいた。 「破滅に身を委ねる快楽は絶対に抜けられないHappy。 それって実は、ただLuckyをUnLuckyで塗りつぶしてるだけだよね?」 少女の薄く艶やかな唇が刻む三日月は言葉の中にも角度を増す。 「ナナは全部おかしいの。頭も体もおかしいの。人生UnLuckyまっしぐらなの。 自覚してるよ? だけどとってもHappyなの。おかしくなったおかげでイヤな思いは全然しないし、暴れてるだけで気持ちイイから」 脳内麻薬(アドレナリン)は痛みも傷みも悼みさえ忘れさせる。 自身の紡ぐ言葉の痛みも彼女は知らない。分からない。関係ない。 「そこのお兄ちゃんもナナと一緒だよね。 変な石を拾っちゃってUnLucky、けれども魅了されまくりで気分はHappyなの。 でも、ナナは暴れたいの。壊したい気分なの。だから――」 ――壊れてね―― 少女の言葉に『零の明星』が瞬いた。 ――やだぁ。何この子。どうしてリベリスタなんてやってるのぉ? 「さぁね」 答えたのは菜々那では無く『地火明夷』鳳 天斗(BNE000789)だった。 シニカルに口角を持ち上げた彼は何処まで本気か飄々としたまま告げるのだ。 「『起こりえないことは起こる』か、そう何だって有り得るんだよ。 お前さんに関係なく今この瞬間に……頭の上に隕石が落ちてくる事だって。 己等に命が救われる幸運、からの揺り戻し。逆に、俺に会ったのが不幸なら揺り戻しが少なくて済むか。え?」 「長崎さんの破滅を早めようとすることは、リベリスタに求められる正義に反することだ」 「はん」 陽斗の言葉さえ軽く流す天斗の目線は何処までも冷たい。 例えば、他に手段が無ければ昭二を殺す事さえ厭わないこの俺と出会ったのは『幸運』なのか? と。 不実な概念を司る『零の明星』に投げかけている。 答えはない。答える義理もないという事だろう。 しかして、戦いが始まるのは当然で――必然だった。 ●零II 「その凶運……運命の力で打ち勝って見せます」 抜群の反応速度は常に敵の機先を制する。 軽やかに、しかし激しく――夜に残像さえ引く少女の影が敵を鮮やかに強襲する。 (今回は僕のやれることは限られている――だがその精度を維持する事が要になるんだ――!) 強い意志と共に陽斗の与えた加護が困難に立ち向かう剣となり、小さな翼となって仲間達に力を与える。 「運は削られるが、『絶対に失敗する』訳でもない……分の悪いギャンブルだが、試させて貰うぞ」 素早く動き出した鉅が続き、両手の短刀で繰るように闇の中に鮮やかな光の線を引き結ぶ。 始まった戦いは幾らも経たぬ内に熾烈を極める事となった。 『リベリスタが救援に来る』という昭二にとっての最高の『幸運』は『零の明星』がセットにする『最大級の不幸』で購われる。彼を『幸せにし得る幸運』は彼女のルールの中では常に『潰えなくてはならない』。アシュレイはこのパラドクスを称して「卵が先か鶏が先か」と称したが、まさに彼女の言は正鵠を射抜いている。 「行くぞ、性悪――!」 対の剣を手にした拓真が切り込んだ。 最初から加減も出し惜しみも無い。激しく攻めに行く彼が繰り出すのは生か死か、敵に己に問う――彼の持ち得る最大武闘。 強烈過ぎる威力の余波が夜を切り裂き、黒々と横たわるアスファルトをめくり上げる。 前に出た彼は攻め手であると同時に――彼女の意識を自身に釘付ける為の囮でもあった。 「長崎さん、手荒な事をしてしまって、ごめんなさい……!」 拓真が仕掛けたその隙に茫然とする昭二をこのアリスと夏栖斗のペアが確保に回る。 しかし、一先ず彼の安全を確保する事には成功したものの、抜群の魔力を負の方向に働かせる星は強大だ。 「なかなか、攻撃が当たらないですっ……!」 声を上げたのはアリス。しかし苦戦を強いられているのは全員である。因果律さえ捻じ曲げる星を前に魅入られたリベリスタの攻撃が次々と失敗に終わる。 強烈な凶運の光がリベリスタ達の視界を白く灼(や)く。 酷く押し付けがましい運命に咽ぶ彼等をすかさず陽斗が、そあらが救出にかかるが――それもそう容易い話ではない。 彼等の行動は三割以上『自動的に失敗する』のだから。 そして凶運からの回復確率は半減以下に下げられているのだから。 「そんな凶運、ナナには全然効かないよ! UnLuckyでHappyStarなナナにはホンモノの凶運のお星様のご加護があるんだから!」 敵の能力に対して相性の良い菜々那は両手の歪んだ三日月を手に彼女に致命を迫るが、敵も同じくさるものである。 攻防は続く。 「俺の幸運、アンタの不幸どっちが上だろうな?」 天斗の放った符が闇にその身を同化させる漆黒の鳥と成る。 「人身御供の厄除け人形、まぁ分相応かしらねぇ!?」 「危ない、危ない」 ジルがそあらを庇い、天が陽斗をカバーする。 戦闘は苛烈に続く。流石の星も全てを失敗させるには到らない。 「長期戦は避けたい所なんだがな」 鉅が臍を噛んだ。リベリスタ達は数を頼みに彼女を損傷させるが、彼等の傷んだ量も小さくは無かった。加えて自己修復機能が厄介だ。 ――第一、貴方達酷いのよ。 続く戦闘の中、頭の中に囁く女の声は恋人に拗ねてみせる女の風情を思わせた。 ――私はこう生まれついただけ。幸運をあげるのも、その逆も。生まれついただけじゃない。 饒舌な星の並べる詭弁はまさしく文字通り『盗人にも三分の理』を知らしめるもの。答える価値も無いが、嘲るような響きは不愉快である。 「良く言うぜ。楽しんでる癖に」 吐き捨てるように言った『red fang』レン・カークランド(BNE002194)が昭二に向かう射線を庇うように不吉のカードを投げつける。 ――あはは。バレてる。 「隠す心算も無いだろ、性悪女」 拓真を庇うように動く創太が言った。 「知ってっか? 星ってのはな、いつか砕けんだよ。 その前に最高に輝くってんなら、見せてみやがれ。通させねえ。俺の仲間達がテメェの光を撃ち砕いてやるからよ――」 凶運を一度受ければそれは致命傷になりかねない。それを危惧した彼は自身の耐久力を省みず、主なる剣になる拓真の壁に立つ事を選んでいた。 運命さえ犠牲に、傷付いた彼には既に殆ど余力は無い。しかしここまで自分で考えた役目は果たしていた。 ――あら? 知らないの? 人間は星よりずっと簡単にすぐに死んでしまうのよ? 笑う星が今度こそ創太を叩きのめした。 「……っ!」 アリスの手にしたヴォーパルの剣が闇の星を指し示す。 「今度こそっ!」 消耗にアリスの肩が上下した。 しかし突き刺さる光の雨に女の憎悪の色が瞬く。 「幸せは……誰かに頼るものじゃなくて、自分で勝ち取るものが……だと思います」 リンシードの顔にも疲労と消耗の色が濃い。 戦場は一度熱が入ってしまえば止まる事を知らなかった。 集中攻撃にやがて星は削れ始め、苛烈な反撃にリベリスタ達の運命は侵食された。体力は削られ、転び、起き上がる。 「綺麗なものとの出会いは、何時だって良いモンさ。 さも幸運と風に嘯いたら、別れの不運も間もなくやって来てくれるのかね?」 天は不敵に笑っていた。 「幸運をぶっ壊される不幸は、不幸をぶっ壊される幸運。全く真逆で、同じモン。 どっちにしろ起きるなら、不幸から剥がされる幸運からで……宜しく頼むよ? お嬢サン」 不死身めいたリベリスタの戦いに星は悲鳴めいた声を上げる。 ――やってられない! 「逃がさないわよ」 短く、端的に。勝負に出たジルが正確無比にフローズンダガーを投げ放つ。 「アナタみたいな女、大ッ嫌いなの」 朗らかに満面の笑みを浮かべて『見せた』ジルの皮肉が星を抉る。 「だから、きっちりと――ここで終わりにしてあげる。ええ、間違いなくね!」 「安心してね。お兄ちゃん――」 笑顔と言えば――壊れた笑顔は傷付いても変わらず。 昭二に言葉を向けた菜々那のショーテルが闇の中に斬劇の弧を描く。 「――それの力が本物でも、お兄ちゃんにゆり戻しが来る事は無いと思うの。だって」 ――ナナと出会った事がLuckyになる人はいないから―― 硬質の音が響き、真鍮の輝きが街灯の光の中に散る。 この夜に見切りをつけんとした彼女に拓真が追いすがる。 (俺の為に刃を封じた者が居る。その覚悟に応えないでどうする?) それは自問。 (凶運如き、意志の力で捻じ伏せろ。その技は、その力は何の為に存在する……!) 自問である。敵に迫る。 (あらゆる万難を排せ。届かぬ理想さえ掴み取れ。 お前の愚かさを、愚直な正義のその意味を。此処で証明してみせろ、新城拓真──!) 自答。敵は目の前だった。 ――しつこい男は嫌われるのよぉ! 迎撃の構えを見せた星の先を紙一重、拓真の動きが奪う。 「二撃断割……! この一撃、耐えきれるか……!」 繰り出された対の銀光に女の『顔』が引きつった。 弾けてひしゃげ――しかし、紙一重。仕留め切るには到らない。 彼女の能力が、攻め手の薄さが。戦いの経緯が、彼女の命脈を断ち切らない。 一瞬遅れて光が噴き出す。それは終わらせぬ零の明星。 ――哀れな犠牲者を救い出す事には成功しても、不毛なる零落の星は又別の夜に昇るのだろう。 眼窩の人の営みを本当の星が見下ろしている。唯、静かに―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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