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<六趣に於いて蠢くモノ>醜悪なる欲望


「見てくれよ叫喚君。此れが僕の『プロト』スキュラだ」
 スキュラ:上半身は美しい女性、下半身は魚、腹部からは6つの犬の半身が生えると言う伝説の怪物。
 よれよれで何が原因かわからない得体の知れない染みの付着した白衣を、悪い意味で違和感なく着こなす研究員の言葉に、叫喚は溜息を吐く。
「これが、スキュラかね?」
 皮肉気な叫喚。目の前に居るのは、蕩け掛けた、或いは爛れた女性の下半身から無数の、同じく爛れた犬の群れが生えた醜悪な化物。
「そう悪し様に言うなよ。プロトだって言っただろう。此れでも君らが持って来た石のお陰で随分完成度が上がったんだぜ?」
 不満げに口を尖らせる研究員の言葉に、叫喚は苦い顔で再び溜息を吐く。
 確かに賢者の石を研究員の上司の下に齎したのは自分達だ。けれども実際に其れを入手したのは外部協力者であり、叫喚自身は其の時の任務に失敗している。
 細かい事を言わない金払いの良いクライアントだから良かった物の、前回の任務は彼にとって多少苦い思い出なのだ。
「それにしても羨ましい。君、紫杏様直々にお褒めの言葉を頂戴したんだろう? 妬ましい妬ましい」
 紫杏の名を、目に心酔の色を浮かべて呼ぶ研究員。
 六道紫杏、『六道の兇姫』の字が示すとおりに、彼女は危険だ。思考、容姿、力、やり口、其の全てが。
「でも良いんだ。僕は今回の実験を成功させて、今度こそ紫杏様の足を舐めさせて貰うんだ。足の指の一本一本までしゃぶり尽くすのさ! ああ、でも嫌悪感溢れる目の紫杏様に踏まれる事も捨てがたいなぁ」
 でもコイツもやばかった。
「よし、君の気持ちは良く判ったし作品も見た。じゃあそう言うことで帰らせてもらおう」
 もう帰りたい。叫喚は其の気持ちに忠実に従いくるりと背を向け、
「まってくれええええ。僕には君の他に任務を頼めそうな友人なんて居ないんだよ!」
 足にしがみ付く研究員に辟易する。
 何時からこんなのと友人になったのだろう?
「そう言う台詞は取り合えず今回の友情料を払ってから言って貰おう」
 だがそう、大事なのは金なのだ。地獄の沙汰も金次第、主流七派が六道の最下層、地獄を探求する彼と、同じ道を探求する仲間達が欲するのは金。
 支払いさえ良ければ例えクライアントの性癖が少々歪んで居ようが何の問題もないではないか。
「むう、じゃあ兎に角任務の説明に移るよ。今回の任務はスキュラのテストを兼ねた、素体の入手。ターゲットは死体にしても、何ならアンデッドにしても良いよ。その方が君もやり易いだろう? ただし」
 満面の笑顔の研究員。
「ターゲット達のリーダー、『カスミソウ』霞・栞は出来たら生きたまま捕らえて欲しいな。彼女はね、実に切り刻みがいのありそうな綺麗な声をしているんだ」
 彼の名は『エンスージアスト』長谷村零司郎。其のにちゃりとした笑みは、見る者の嫌悪感を誘わずにはいられない。




「ふむ、……あぁ、うん。矢張り良く判らんな」
 リベリスタを出迎えた『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)はまるで何かに悩んでいるかの様に、歯切れ悪く言いよどむ。
「あぁ、すまん。今回の敵の分類がな、どうにもしっくり来ないのだ。エリューションである事には間違いがないのだが……、兎も角事件の説明をしよう」
 ばさりと机の上に置かれる資料。
「今回の任務は単純だ。六道派のフィクサード達がエリューションを連れてアークに所属しない、まあ所謂野良のリベリスタグループを襲う。恐らくは実験の材料にする為に」
 微かな溜息は、恐らく其の野良のリベリスタグループの実力の評価なのだろう。
 全てのリベリスタが数、質、更には装備にすら優れるアークのリベリスタ達の様な力を持つ訳ではない。
「とは言え彼等もリベリスタ。戦いで命を落とす事は覚悟の上だろうが、其れでも身体を弄ばれる事は本意ではないだろう」
 つまり野良のリベリスタ達の死体を、或いは生きたままでも持ち去られる事を防ぐのが今回の任務と言う訳だ。


 資料


 六道派フィクサード
 
 1:叫喚
 今回出てくる六道派フィクサードのリーダー。老年の男。死と死後に関することを探求する事でそれらを操り、自分を死から遠ざける事を目的とする地獄一派の、一人。八大地獄の其の四。
 ジョブはホーリーメイガス。
 所持するEXスキルは『叫喚地獄』。所持するアーティファクトは『地獄輪廻の珠』と『死繰り其の死』
『叫喚地獄』
 八大地獄の第四層、叫喚地獄で苦しむ亡者の声を呼び出す。神遠全、混乱、Mアタック。
『地獄転生の珠』
 数珠型のアーティファクト。この数珠に念じれば、死亡後6分以内の死体をE・アンデッドと化す事が出来る。E・アンデッドの能力は生前の能力に比例する(一般人死体だとフェーズ1、革醒者の死体だとフェーズ2になる)。ただしE・アンデッドは生前の記憶等を保持しておらず、ただエリューションとしての本能のままに暴れる。
『死繰り其の死』
 指輪型アーティファクト。この指輪に1ターンかけて念じれば、半径50m以内にいるフェーズ2以下のE・アンデッドを大雑把な命令に(自分達を襲うな。あいつを殺せ等)従わせることが出来る。

 2:大吼処
 叫喚の配下。性別は女。ジョブは覇界闘士。
 所持するEXスキルは『白蝋手』
『白蝋手』
 物近単、死毒、Mアタック。

 3:普声処
 叫喚の配下。性別は男。ジョブはデュランダル。
 巨大な鉄の杵を武器に持ち、所持するEXスキルは『磨り潰し』
『磨り潰し』
 物近単、弱点、Mアタック。


 エリューション

 1:『プロト』スキュラ
 分類不明。爛れたノーフェイスと思われる女性に、同じく爛れたE・ビーストの様な犬が幾つも生えている。
 けれど複数の要素を持ってはいても一体のエリューションとして完結した矛盾を孕む存在。現在のタイプ分類では分類が不可能と判断された。
 高いHPと、爛れた体表が攻撃を遮断する為に防御力も高い。ある特定のバッドステータスを苦手とする可能性がある。優れた自己回復能力も所持。
 近接距離に来た相手に複数回犬の牙が襲い掛かる。遠距離の相手には女性の口から毒を帯びた強酸が飛ぶ。
 多種の能力を持つ非常に厄介な相手。

 2:遠山・一気
 E・アンデッド。クロスイージスの力を持つ元リベリスタだが、死体と化した所を叫喚に復活させられた。
 パーティの守護者だったが、其れが故に真っ先に殺されE・アンデッドに、今は其の力を嘗ての仲間に向けて振るう。

 3:蛟・弥生
 E・アンデッド。ナイトクリークの力を持つ元リベリスタだが、死体と化した所を叫喚に復活させられた。
 恋人だった遠山の死に逆上した所を殺されE・アンデッドに、今は其の力を嘗ての仲間に向けて振るう。



 ワンダラー
 各地を渡り歩き、地道に人を救うリベリスタグループ。悪く言えば野良リベリスタ。大きな組織に所属していては救えぬ小さな命を救うがモットー。
 リーダーは『カスミソウ』霞・栞。

 1:霞・栞
 ホーリーメイガスの力を持つリベリスタ。
 襲い掛かってくる仲間達を何とか傷つけずに無力化しようとしています。

 2:超・脅威
 覇界闘士の力を持つリベリスタ。
 親友だった遠山を自分の手で眠らせる事に躍起で、霞・栞との間で言い争いが起きています。

 3:柳・道隆
 マグメイガスの力を持つリベリスタ。
 既にどうしようもない状態にある事を悟り、逃げるタイミングを窺っています。


 転がる死体
 1:経堂・雹間
 プロアデプトの力を持つ元リベリスタ。今は死体。


「状況は複雑だ。だがそれ以上に、正体の掴めぬ謎の敵が私の心をざわつかせる。諸君等の健闘を祈る」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月15日(木)23:37
 叫喚地獄は実際に音を呼び出している訳ではなく、そう感じさせる精神攻撃なので耳栓をしても意味はないです。肉体へのダメージも勿論在ります。
 以前殺したフィクサード、やむ得ず手にかけた、或いは救えなかった一般人等の怨嗟の声が聞こえてくるでしょう。

 成功条件は六道派にワンダラーの身柄(死体やE・アンデッドも含む)を一人も渡さず撃退する事です。

 六道の研究員『エンスージアスト』長谷村零司郎は遠くから『プロト』の様子を見ているでしょうが、何処に居るのかは不明。
 残りのワンダラーたちは既にHP・EP共にボロボロです。
 ワンダラー達のレベルは5~8程度。E・アンデッドと化した者は力を増大させています。
 六道派の目的は一人でも多くの素材を確保する事ですが、それ以上の確保が困難と悟れば撤退に移ります。
 一人も渡さずが条件なので、既に確保済みとなって居る者をどうするかも含めて色々見極めが非常に大事だと思われます。
 ワンダラーの生き残り達は、信用を得るのに必要な要素が一人一人違います。
 戦闘も、それ以外もハードです。

 現場は人々が寝静まった深夜のビル街。
 厳しい戦いになるでしょう。
 其れでは御気が向きましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ソードミラージュ
雪白 凍夜(BNE000889)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
マグメイガス
クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)


 怨嗟の声が響く。
 かつて戦った強敵が、或いは轡を並べた戦友が、もしくは救い切れずに零した命が、地獄の責め苦に苛まれ、生ある者への、自らの境遇を知らずに安穏と生を甘受する者への、嫉妬と恨みと憎悪を吐き出す。
 無論それはまやかし。
 あの傲岸不遜な強敵が、あの誇り高かった戦友が、例え死して責め苦を受けようともそんな弱音を零そう筈も無い。
 けれどこの声は被術者の心が、罪悪感が、想い出が、心に刺さった棘が、生み出す自虐の刃。
 今回其の刃に最も苦しんだのが、『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)。
 小さな命を救うワンダラーの存在に光を見た彼は、だがそう、今現在自虐の闇に囚われつつあったからこそ、彼等が光に見えたのだろう。
 理想が高く、希望が高い。だからこそ、其れが潰えたときの絶望も深い。
 聞こえてくる声に、夏栖斗が唇を噛み締め、全身を力みに震わせ、溢れ出る涙に耐えんとした時。
 ゴキリ。
 と、その力む手の中で、音が、一度味わったあの、命を砕く感触が再び。
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは何で……私を殺したの?」
 冷たい、冷え切った小さな手が、夏栖斗の手を掴む。
 心臓が早打つ。吐き気がこみ上げる。
 口の端から唾液と血を溢す其の虚ろな瞳が、夏栖斗の心を貫く。
「違う! 助けたかったんだ! くそっ!」
 震える手が萎え、子供が零れて落ちた。
 其の時、夏栖斗の耳元で生暖かな声が呟く。
「嘘はだめよ。相変わらず偽善者ねぇ。でもついに坊やも、罪の無い子供を手にかける所まで来ちゃったのね」
 楽しそうに、哂う其の声は、けれどありえる筈がない。彼女は魂すらも砕けたのだから。
「何時か堕ちる事はわかってたわ。だって私を殺した坊やだもの。もう苦しまなくていいわ。次からはずっと楽よ」
 違う。砕けたのではなく、砕いたのだ。夏栖斗が其の手で殺し、そして其の意思で魂をも砕いて止めを刺した。
「今こそあの時いえなかった言葉を言うわね」
 なのに、声が消えない。
「童貞卒業おめでとう。愛しい坊や」
 おめでとう。おめでとう。おめでとう。
「うわああああああぁぁあっ」
 絶叫と共に、闇を切り裂かんを振るわれた夏栖斗の掌打が胸を貫いたのは、だが殺した女の影ではなく、彼が救おうと足掻いていた希望、……霞・栞。


「おいおい、勘弁してくれたまえよ」
 自らが放った技の効果の、思わぬ波及に叫喚が呻く。生かして捕らえる筈の栞が、よもや助けに来たリベリスタの手で沈もうとは、流石の彼も予想の埒外であったのだ。
 叫喚地獄で混乱に陥った夏栖斗の凶行が齎した衝撃は、その場の全ての人間から一瞬時を奪う。
「てめえが言ってんじゃねえよ!」
 吼える『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)が、叫喚の視界の外から切りかかる。
 煌めく刃はソニックエッジ。決して止まらぬ澱み無き連続攻撃が叫喚に降りいだ。
「人間の視野は約200度。格上だろうが至近距離で突然視界から外れられたなら、追えねえだろ?」
 舞う血に、凍夜の刃がぎらつく。……けれど、
「まだ君は自分が、革醒者が人間だと思ってるのか。其れは其れは、随分と傲慢な事だ。君は優れた資質を持つ様だが、駄目だな。全く其れを活かせていない」
 其の攻撃は叫喚を薄く傷つけるだけに終わり、
「ああ、そうだ。いっそ君は死に給え。そうすれば其の死体、この叫喚が有効に、君以上に役立たせる事を約束するが?」
 ぶつけられたのは嘲りだ。例え気配遮断を用いようが目の前の敵をそう易々と見失う筈もなければ、そもそも気配遮断と戦闘行動を同時に取る事等出来はしない。
 無理矢理同時に行われた攻撃は、叫喚に避ける価値も無いと断ぜらてしまう程度の物。

 スキュラの勝利の咆哮に、けれども竜一は運命を対価に踏み止まる。
「まだ、もうちょっと付き合ってもらうぜ? なあに、後少しは、退屈、させねえよ」
 傷だらけになりながら搾り出された其れは強がりだ。
 本当はもう竜一にだって判ってる。このスキュラは、一人では足止めすらが困難な、厄介すぎる化物である事が。
 自分がスキュラを食い止めて居られると言った後少しが、本当に、本当に、文字通りの、言葉通りの意味でほんの僅かでしか無い事を。
「俺と踊ろうか、お嬢さん」
 それでも、竜一は怯まない。
「すでに心もないのかもしれんが、せめてもの、君の安らぎに」
 繰り出す攻撃は、残り僅かな体力を削ってまでのデッドオアアライブ。
 無理矢理に動かした死に掛けの身体が軋んで悲鳴を上げる。
 構いはしない。どうせ次の攻撃を受ければ、体力を削っていようがいまいが耐え切ることなど出来ないのだから。
「存分に俺に痛みをぶつけてきなよ」
 醜い怪物と化した女の一瞬の慰みの為に、竜一は命を懸ける。


「貴様ぁぁぁぁぁっ!」
 響き渡る超・脅威の怒声。
 その声と、リーダーである栞を襲った悲劇は、自らを助けに来た『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)の助言に素直に従い、経堂・雹間の死体を背負って戦場の離脱を試みんとしていた柳・道隆の足をも一瞬止める。
 だが其の一瞬の躊躇いこそが、道隆の甘さと弱さであり、そして命取りとなった。
 もぞりと背中で動き出す、死んだ筈の雹間の身体。そして次の瞬間、異変に気づいた道隆が雹間の身体を放り出す前に、E・アンデッドと化した雹間が道隆の首筋を喰い破る。
 無論リベリスタ達とて雹間のアンデッド化の可能性を考えて居なかった訳ではなく、悠月が道隆を、雹間の身体を『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が、己が身やマントを用いて叫喚からの視線を遮らんと試みてはいたのだ。
 けれど常に立ち位置の変わる戦場で、激しく攻防入り混じる戦闘行為中に、人の身や、羽織ったマントを用いた程度で射線や視線を完全に防ぎ切る事等不可能である。
 其れは唯の油断の結末だ。
 しかし叫喚とて無償で雹間のアンデッド化を行えた訳ではなく、……数珠を、『地獄転生の珠』を構えた叫喚の手から血が滴り落ちる。
 数珠を掠めて傷つけ、叫喚の手を貫いているのは気糸。睨みつける叫喚の視線の先に居るのは、『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)。
 無論彼とて自らの攻撃が届く位置にいる以上、叫喚地獄の影響は被った。
 だが己が殺めた者、己が見捨てた者の怨嗟を受ける覚悟なら、とうの昔に済ませてある。
 それでも、自らが知りたい事を知り、為したい事をなす為に、
「この業路を、血と鉄で以て踏み進むと誓ったからこそ」
 怨嗟吐く死者を踏みつける業道も、死を穢して尚臨むべき死路も、踏み越える。
 故に彼は『鉄血』を名乗るのだ。
 この、人でなし。

 とは言え、状況は刻一刻と悪化を辿る。
 其の状況に己の無力さに、超が拳を向けたのは、この状況を作る大きな一因となった憎むべき男、夏栖斗。
 だがそんな超を制止したのは、他でもない、夏栖斗の一撃に命を奪われたかと思われた筈の栞だ。
 確かに傷付いた栞に、自分より遥かに強い力を持った夏栖斗の一撃、土砕掌に耐えるだけの力は残されていなかった。
 でも此処で栞が倒れたならば……、この苦悩し、後悔で押し潰されそうな彼は本当に壊れてしまう。
 栞は最初、現れた彼を世界の為と言うお題目の為なら弱者を切り捨てるリベリスタだと思った。
 しかし、なら、彼がそんなリベリスタであったなら、彼はきっとこんなには苦しまない。
 彼は志を同じくする者で、苦悩する救うべき弱者で、……だから、栞は踏み止まった。運命を対価に、自らを一度は貫いた手を握り、
「私は、大丈夫ですよ」
 ただ其の一言を伝える為に。


 一つの巡りが終わり、そしてまた始まる。
 霞と超は既に戦場離脱を開始した。親友である遠山・一気のアンデッドを自らの手で眠らせたいと願う超も、限界まで傷付いた霞をこの戦場に置いておけぬ事は判る。
 何せ霞は超に残された、唯一人の、最後の生きた仲間なのだから……。

 戦闘を継続する面々で最初に動くのは、先の巡りで自らの担当である普声処を呪縛で縛り手の空いた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。
 彼女の掌から零れるのは、邪を退ける聖なる光ブレイクフィアーだ。
 出来得るならば叫喚地獄の直後にブレイクフィアーを放ちたかったであろうユーヌだが、如何に高速を誇る彼女とは言えど一度に幾つもの行動を取れはしない。
 唇を噛み締めながらも放たれた光は、リベリスタ達から混乱を拭い去る。
 ユーヌのブレイクフィアーの恩恵を受けて混乱を抜け、更に前へと進み出るは『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)。
「また逢ったわね『金の亡者』さん。これを恐山は幾らで買ってくれるかしら?」
 強い言葉と共に指先から放たれるはチェインライトニング。
 ワンダラーの生き残りが撤退を開始した今、最早遠慮は無用とばかりに全てを巻き込んで放たれた其れは、戦場を貫く雷光。
「何の事やら。お転婆で、美しいお嬢さん。出来れば遊び半分に私の仕事を邪魔するのは止めて貰えないか?」
 其の威力に眉を顰めた叫喚は、少しばかりの苛立ちを込めて言い放つ。
 戦場を覆ったユーヌのブレイクフィアー、其の邪を拭い去る光に、悠月は先程聞いた亡者の声を胸の内で反芻する。
 生きる者は何れ滅び、死と再生の輪廻の環に還っていく。何れは、自分も。
「だから、待っていなさい」
 告げる言葉は記憶の中の亡者達に。
「この術式に感謝しましょう。大切な事を、刻みなおす事が出来たのだから。……けれど」
 知識への感謝は理解に繋がる。けれどこの術式を扱うに必要な心持は、資質は、余りに悠月の其れと懸け離れているから。
 地獄を知り、地獄を扱うのならば、自らもまた地獄に囚われる必要がある。
 理解はすれど必要とはしない。悠月は得たばかりの知識に鍵をかける。
 邪たる知識に封を。其れも魔術師としての、或いは神秘探求同盟のⅡ『The High Priestess』 としての役目であろうから。
 故に彼女が放つは癒しの力、天使の息。叫喚地獄によって傷付いていたクリスティーナの身体が癒されていく。

 だが其の時、倒れて動かなくなった竜一で遊び飽きたスキュラが、戦場へと乱入する。


 スキュラが真っ先に新たな目標として目を着けたのは、正体不明のままのスキュラに対してエネミースキャンを行使する為に足を止めたエーデルワイス。
 繰り出された犬の牙がスキュラを探るエーデルワイスの身体を切り裂き朱に染める。複数の犬が幾度も、幾度も。
 既に傷を負っていた身体では耐え切れぬ程の連続攻撃に、けれどもエーデルワイスは運命を対価に踏み止まった。
 何故なら、探るだけでは意味がないのだ。探ったならば仲間達に伝えねばならない。其れが出来ねば片手落ち。
 謎のエリューションであるスキュラから読み取れた事は数少ない。
 一つは、力強さとは裏腹に細胞が極めて安定していない事。其の形状を保てているのがまるで奇跡でもあるかの様に。
 もう一つは、恐らく此れが人の手で作り出された生物兵器であろう事。状況証拠としては充分に判っていた事だが、此れで確認が取れた。
 恐らく何処からか此方を見ていると言う研究員が、スキュラに対して行動指示を出しているのだろう。操れない兵器に意味は無いのだから。
 そして最後に、
「此れの弱点は、炎ですっ!」
 叫んで銃を構えるエーデルワイス。彼女に炎を操る力は、残念ながら存在し無い。
「痛みは力、狂気は力、断罪の刻です。地獄で贖え腐れ外道」
 他ならぬスキュラが彼女に与えた傷が、エーデルワイスの攻撃に力を与える。
 其の言葉は高みの見物をする研究員に、或いは生と死を弄ぶ叫喚に対して。スキュラに向かって放つ攻撃は彼女の残り少ない体力を更に削り取る、断罪の魔弾、ギルティドライブ。

 しかし、再びワンダラーの、力尽きていた道隆の死体がむくりと起き上がる。
 そして叫喚が死繰りの指輪を通じてE・アンデッドと化したワンダラー達に下した命令は……撤退だ。
 叫喚とて逃げた2人のワンダラー、特に栞を生かして捕らえた時の報酬は惜しい。
 だが明らかにリベリスタ達の攻撃が自分に集中し始めている事や、逃げた2人に追いつく事がほぼ不可能になった事等を考慮すれば此処で戦い続けるリスクに意味は無い。
 其れに他の誰より此方を向くユーヌの視線が怖いのだ。普声処を呪縛した際の手際を見るに、彼女の攻撃はひょっとすれば自分をも封じる事が可能かも知れない。勿論可能性があるだけで決して高くは無いのだが、ただでさえ人数で勝るリベリスタを前に動きを封じられる事など考えたくも無かった。
 そして今ならスキュラが丁度良い壁になってくれるだろう。持つべき物は使いでのある捨て駒だ。
 逃げるE・アンデッドの一体を、ユーヌの呪縛が捕らえ、別の一体をヴァルテッラのピンポイントが……貫く直前でこちらは大吼処に庇われる。
「ざけんな。自分は生きたい、他人は殺す。そんな道理が通るかよっ!」
 退き始めた叫喚へ凍夜が放つソードエアリアルは、確かに叫喚を傷つける。だが其れでも、叫喚を落とすにも、其の足を止めるにも、まだ足りない。
「其れが罷り通るのがこの苦界。其れは全ての生き物が実践している理屈だ。もっと学びたまえ少年。君では私に届かんよ」


「殲滅砲台の射程からは、何人たりと逃げられない」
 目の前に立ちはだかるスキュラに対して、退けと言わんばかりに彼女自慢の二連装殲滅砲から火を噴いたフレアバーストは、スキュラの表面のじくじくとした爛れを焼き払い防御力を奪うと同時に再生能力をも弱める。
 其の火勢に乗じてスキュラを切り裂く夏栖斗の斬風脚。噴出す血は酸となって地を溶かす。
 けれど、けれどだ。もう、遅い。
 大暴れをするスキュラの前に足止めを喰らうリベリスタ達。落とし切れたのはユーヌの捕らえた哀れなE・アンデッド、柳・道隆一体のみ。
 追い切れない。倒し切れない。それどころかスキュラ一体を倒し切る事さえ、既に今までの戦いで傷付いたリベリスタ達には厳しい作業となった。

 仲間の殆どを失ったワンダラー、ワンダラー達の遺体が奪われる事を阻止出来なかったアーク、2つのリベリスタ組織にとっての手痛い敗北。
 失ったものは多く、得た物は唯一つ。其れは道は違えど志に違いが無い事を確認した栞からの、彼女を助けに駆けつけたリベリスタ達への信頼のみ。

 醜悪なる欲望は六趣に於いて、今も蠢く。




■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 心情や、叫喚地獄に対しての心構え等はばっちりでした。
 良い感じの心情多かったです。説得も良かったです。

 ただ作戦や行動に関しては色々拙い点がありました。
 大きいのはスキュラに対しての対処や、叫喚から狙ってワンダラー生き残りを狙ってしまえばアンデッドごとの撤退を早める事等ですね。
 細かい個々の事に関してはプレイングと見比べていただければ。


 結果はこうなりましたが、如何でしょうか?
 お気に召したら幸いです。


 MVPは今回、非常に可哀想な、或いは不謹慎ですが美味しいタイミングになってしまった方へ。