●彷徨う子供たち 歩けど歩けど、見覚えのある場所には辿り着けなかった。 「……ねえ、おにいちゃん。ここ、どこ?」 上着の裾を掴む妹の声は、不安に震えている。 道に迷って心細いのは少年も同じだったが、彼はまず、妹を安心させようとその頭を撫でた。 「大丈夫だって。晩ごはんまでには家に帰れるから」 そうは言ったものの、どうしようか。 交番は見当たらないし、道を訊こうにも人がいない。 ずっと歩きづめだった足は、既に棒のようになっていた。 「そこで一休みして、それから帰ろう。な?」 前方に空き地を見つけて、少年は妹にそう提案する。 錆びた資材がわずかに詰まれただけの、だだっ広い空き地。 資材の上に二人で腰を下ろして、大きく息を吐く。 隣に座る妹に声をかけようとした時、少年は異変に気付いた。 かたかたと震える妹の指が、前方を指している。 「……あれ……なに?」 “それ”を見た瞬間、少年の背筋が凍った。 彼もまた、妹と同じ疑問を抱く。 ――なんだ、あれ。 近付いてくる“それ”から目を離せないまま。 少年はただ、しがみつく妹を腕に抱くことしかできなかった。 ●不可解なモノたち 「この慌しい時期に悪いが、急ぎの依頼だ。……しかも、今回は色々と厄介なのが相手になる」 ブリーフィングルームでリベリスタ達を迎えた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、束ねられたファイルを手に、難しい顔で口を開いた。 「任務の内容としては、簡単に言えばエリューションに襲われている小学生二人の救出になる。だが、何と言えばいいのかな……」 説明の途中で口篭り、数史は困ったように頭を掻く。 「とにかく、エリューションであることに間違いないんだ。ただ、ノーフェイスでもなければE・ビーストでもなく、他のどの分類にも当てはまらない」 謎のエリューション。あえて言葉にするなら、そうとしか言えない――と、数史はリベリスタ達に告げた。 彼らは、昆虫と人間をグロテスクにかけ合わせたような、化け物じみた外見をしている。 にもかかわらず、リベリスタやフィクサードが用いる攻撃スキルとよく似た技を操るという。 しかも、今回はそれが二体。 「敵の正体はよくわからんが、現場では既に小学生二人が奴らに狙われている。 どうも連中、子供たちを連れ去るのが目的らしい」 今すぐ殺されることはないだろうが、いずれにしても放ってはおけない。 ただちに現場に向かい、謎のエリューションを倒して子供たちを保護してほしいと、数史は言う。 「あと、もう一つ。六道派のフィクサードが、遠くから現場を監視している。彼らがいる位置も、その戦力も、申し訳ないことにまったく掴めなかったが……少なくとも、戦いに直接介入してくることはないと思う」 六道派の存在は気にかかるが、そこに割ける戦力の余裕はない。 今回は完全に無視して、目の前の戦いに専念するべきだろう。 「情報も足りない中、厄介な任務を押しつけて申し訳ないと思うが……どうか、頼まれてくれるか」 そう言って、数史はリベリスタ達に頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月12日(月)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●異形の怪人 昆虫と人間をデタラメに繋ぎ合わせたような怪物たちが、真っ直ぐ近付いて来る。 テレビの特撮ヒーロー番組に出てくる怪人にも似ているが、そんな生易しいものではない。 燐粉を帯びた蛾の翅や、蟷螂の鋭い鎌は本物だと、昆虫に詳しい少年にはわかる。 じゃあ、“あれ”は何なのだろう? もし、“あれ”が昆虫だとするなら。 蛾の翅にあるいくつもの目玉や、腹に浮き出ている女の人の顔と白い手足。蟷螂の胸から上についている男の人の体と、下半身のあちこちから突き出た棘のようなものは、どう説明するのだろう? がたがたと全身が震える。腕の中にいる妹が震えているのか、自分が震えているのか、もう判断がつかない。 ――殺される。ぼくたちは、あの怪物に殺される。 恐怖のあまり叫び出しそうになった時、女の人の声が響いた。 「ちょっと待ったぁっ!! そっから先は通行止め、この子らには近付かせぇへん!!」 メンバー中で最速を誇る『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)が、怪物たちとの間に割り込んで少年と少女を庇う。 立ち竦む幼い兄妹に向けて、彼女は肩越しに声をかけた。 「怪我はあらへんか? 怖かったやろけど……安心しぃ。うちらは自分らを助けに来たんよ」 続いて、『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)が蟷螂の前に立ちはだかり、全身を光り輝くオーラに包む。直後、巨大な鎌から繰り出された音速の一撃を、彼は両手に構えた杖で受け止めた。 「もう大丈夫なのダ。おじさんたちガ、あいつら倒すのダ」 力強いカイの言葉に、少年は妹を腕に抱いたまま、駆けつけたリベリスタ達を見る。 この人たちが、悪者から人々を守るヒーローだろうか。 背中から鳥の翼が生えていたり、それこそ悪の組織の怪人のような仮面をつけた人もいるけれど――。 「うっ……なんですか、この造形は」 二体の怪物――謎のエリューションを間近に見た『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、射撃手としての感覚を研ぎ澄ませながら顔を顰める。 “美しく秩序だったものを混ぜる”ことが大好きな彼女だが、わざと醜悪に混ぜ合わせたとしか思えない怪物たちは生理的に受け付けない。見ているだけで、心が不安定になりそうだ。 「くっくっく、ここから先は行き止まりですぞ」 驚異的な集中で動体視力を強化する『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)と、全身に破壊の闘気を漲らせた『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)が、二人がかりで巨大な毒蛾を抑えにかかる。空を飛べる毒蛾に子供たちを攫われるのは、何としても避けたい事態だった。 「待ってろよ! 今、助けてやるからな!」 正体不明の敵が相手だろうが、六道派のフィクサードが裏で暗躍していようが、助けを求めている子供たちの前では知った事ではない。強い意志が篭ったジースの言葉は、怯えきった幼い兄妹の小さな胸に届いた。 『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)と、『ネガデレ少女』音更 鬱穂(BNE001949)が、それぞれの武器を手にして謎のエリューションを自らの射程に捉える。 毒蛾の腹に浮かんだ女の顔が九十九に視線を向けたかと思うと、顔の横に生えている白い腕が素早く動いた。死の刻印を打ち込まれ、九十九の全身が猛毒に侵される。 仲間達が敵の気を惹いている隙に、如月・真人(BNE003358)が子供たちを連れて走り、怪物たちから引き離した。 出来る限り危険からは遠ざけたいが、六道派が見張っていることを考えると、迂闊に目の届かない場所に置くこともできない。戦いを目の当たりにして怖がらせてしまうことになるが、敵味方の射程外を維持した上で、いざという時は守れる位置にいてもらった方が良いだろう。 戦いが怖いのは、真人も同じ。あんな不気味な敵が相手なら、尚更だ。 でも、子供たちを助けるためには戦うしかない。必死に、真人は恐怖に立ち向かう。 ●狙いの先は 子供たちを真人に託した後、椿は咥えた煙草に火を点けた。 紫煙をくゆらせて己を集中領域に導き、蟷螂に向けて駆ける。今のところ蟷螂のブロックについているのはカイ一人、彼だけで謎のエリューションの巨体を押し留めるのは難しい。 いかに子供たちと敵を引き離そうと、敵に近付かれては意味がなくなる。 椿はカイと連携して、蟷螂を抑えにかかった。 (何のために子供を狙うのカ?) 全身の膂力を爆発させ、眼前の蟷螂を打ち据えたカイが、戦いの中で思索を巡らせる。 子供たちを連れ去るなど、どう考えても嫌な予感しかしない。 一体何に利用するつもりなのか、六道派のフィクサードの動きも気になるが――とにかく。 「子供たちは何としても守り抜くのダ!」 今は、危険に晒された子供たちを守る。それが、自らも三児の父であるカイの決意。 蟷螂が、反撃とばかりに右腕の鎌を振り上げる。多数の幻を生み出し、神速の斬撃を繰り出すその技はソードミラージュが用いるものとほぼ同じ――しかし、今はそれを疑問に感じている余裕はない。 幻に翻弄される椿とカイに、ジースのブレイクフィアーが届く。 「しっかりしろ! 惑わされるな!」 神聖なる輝きが、二人の心を力強く引き戻した。 「ふふふ、この集中力を見るが良い。シューティングスターとは違うのですよ、シューティングスターとは」 九十九が、ショットガンを構えて不敵に笑う。動体視力を極限まで高めた彼の目をもってすれば、敵の動きもコマ送りの如くだ。 「――こいつめ、落ちろ!」 落ちる硬貨すら捉える九十九の精密射撃が、無数の目玉が浮かぶ毒蛾の翅を的確に撃ち抜く。 散弾が大きな翅に幾つもの穴を穿つも、神秘の力に支えられた巨体が地に落ちることはない。敵の意識がこちらに向いており、今のところ空に逃れる気配がないのが救いだろうか。 辛うじて散弾の一撃を逃れた翅の目玉がぎょろりと動き、背後にいるリベリスタ達の存在を捉える。 猛毒を帯びた燐粉が広がり、瞬く間にリベリスタ達を覆い尽くした。 毒に耐えながら愛用のリボルバーを構える椿が、謎のエリューションたちの姿から彼らの正体を分析する。 巨大な昆虫の如き外見と能力は、E・ビーストに近い。さらに人の顔を持ち、革醒者が用いるスキルを操るとなれば――。 「まさかと思うけど、今回の敵……」 脳裏に閃いた自らの考えに、椿の背筋が一瞬冷たくなる。それを振り払うようにして、彼女は“ラヴ&ピースメーカー(エゴと秩序の作り手)”のトリガーを絞った。弾倉から生み出された呪いの弾丸が、毒蛾を貫く。 真実はどうあれ、今は子供たちを守るのが大事だ。 集中を高めていたユウが、改造小銃“Missionary&Doggy”から光弾を放ち、蟷螂と毒蛾を同時に射抜く。 毒蛾の翅を傷つけて墜落させるのは難しく、胴から生えた人の四肢や節足などを狙おうにも数が多すぎる。ならば、火力をもって撃ち抜いた方が早い。 蟷螂が背に畳んでいた細い翅を広げ、禍々しくグロテスクな紋様でリベリスタ達を威嚇する。毒蛾を優先目標とする仲間達の火力が逸れぬよう、カイが神々しい光を輝かせてその影響を消し去った。 「何と言うかモンスターって姿ですな。――でも、虫を使っているのは良いですよな」 子供好きだが虫も好き、という九十九の散弾に腹を撃ち抜かれた毒蛾が、デタラメに生えた白い手足を振り回し、眼前に立つ彼とジースを打ち据える。続けて、獲物を捕らえるように伸ばされた昆虫の足を、ジースのドイツ式ハルバードが払った。 「俺の相棒はこんな柔な攻撃じゃ壊れたりしないんだよ!」 自らの称号たる“花護竜”を模したハルバードに全身の闘気を込め、渾身の一撃を見舞う。 腹の中心に浮かぶ女の顔が、悲鳴とも呻きともつかぬ気味の悪い声を上げた。 (E・ビーストでもノーフェイスでもないだって?) 昆虫の肉体に見え隠れする人間の顔が、ジースに今まで経験したことのない嫌悪感を覚えさせる。 ――まがいもの。 あらゆる分類から外れた謎のエリューションを見て、彼はそんな言葉を思い浮かべた。 ●たちこめる暗雲 リベリスタ達の攻撃に晒されながらも、耐久力に優れる敵はなかなか倒れない。 加えて、麻痺や呪縛、怒りや混乱といった状態異常の数々がリベリスタ達の攻勢に歯止めをかける。カイやジースのブレイクフィアーによって戦線の瓦解こそ防いではいたが、その間にも仲間達のダメージは確実に蓄積していった。 子供たちの退避を終えて戻った真人が癒しの福音を響かせるも、全員のダメージを回復しきるには至らない。 直後、毒蛾が全身のエネルギーを解き放ち、血の色をした極小の月を召喚する。 小規模ながらバロックナイトを再現する赤き月が、不吉な輝きをもってリベリスタ達を襲った。 全身を蝕む強烈な呪力の前に、欝穂が、きなこが相次いで倒れる。 それを目の当たりにした真人の背中に、冷たい汗が流れた。 二体の敵をブロックするには最低でも四人を要する。既に二人が倒れた今、自由に動けるのはユウと真人しかいない。これで、果たして子供たちを守り抜くことができるのか。 昆虫と人間が変に混ざり合った、正体不明のエリューション。 すごく不気味で、とても怖い。 この世のものとも思えぬ姿を見るだけで、恐怖に竦んでしまいそうになる。 (敵はとっても怖いです。怖いですけど……) 互いに抱き合うようにして、不安そうに戦いを見守る幼い兄妹。彼らを助けるためには、怖がってなんていられない。万が一の時には、この二人だけでも逃がさなければ。 蟷螂をブロックする椿が、毒蛾の周囲に呪印を展開し、その全身を幾重にも縛り上げて動きを封じた。 直後、蟷螂の首の上にある男の顔が獣のような唸り声を上げると同時に、左手の先にある蟷螂の顔が、大きく口を開く。強靭な顎が椿の肩口に喰らいつき、彼女の華奢な身体を噛み砕いた。 防御すらも意味をなさない強烈な一撃の前に、椿が膝を揺らす。間髪入れず、二撃目が彼女を襲った。 とめどなく流れ落ちる鮮血が、足元に赤い血溜まりを作る。 闇に閉ざされかけた意識を、椿は己の運命を燃やして繋ぎ止めた。 「悪いけど、此処で倒れるわけにいかへんからな……!」 既に、リベリスタ側はメンバーの四分の一を欠いている。敵が二体とも健在である今、椿が倒れてしまえば、他にブロックに回れる者はいないのだ。 ユウの改造小銃から放たれた光の弾丸が、蟷螂もろとも、呪印に封じられた毒蛾を射抜く。続けて、九十九がショットガンの銃口を向けた。 虫が好きな彼だが、好きだろうと嫌いだろうと、敵であるなら撃つことを躊躇いはしない。 「児童誘拐とか犯罪ですし。子供攫うとか良くないと思いますよ?」 魔力によって貫通力を高めた散弾が、毒蛾の胴体を穿つ。すかさずジースのハルバードが追い打つも、撃破には至らない。回復にメンバーを割かねばならない現状、攻め手の不足はどうしても響く。せめて、あと一人いれば。 蟷螂の鋭い鎌が、音速の刃となって椿に連続攻撃を浴びせる。 運命が、再び彼女に微笑むことはなく。椿は、とうとう力尽きて地に伏した。 「まったくお前ら何なのダ!? 腕が蟷螂の頭とカ、翅に目玉とカ、無節操すぎるのダ!」 カイが杖を繰り出し、全身の膂力をもって蟷螂の怪人を打つ。仲間達が毒蛾を倒すまで、何とか蟷螂の気を惹き、この場に押し留めなければならない。さもなければ、子供たちが危険に晒される。 もう一刻の猶予もない。飛行可能な毒蛾をここで叩かねば、子供たちを逃がすことすら難しくなる。 それだけは、何としても避けねばならなかった。 ユウの“Missionary&Doggy”の銃口から飛び出した光弾が、流星の如く敵を穿つ。そこに、ジースが花護竜のドイツ式ハルバードを振りかざした。 「こんな所で負ける訳にはいかねぇんだよ!!!」 護らなくてはならない人がいる。 “万華鏡(カレイド・システム)”の下、傷だらけで夢を見るあの子のために――強く、なりたいから。 「俺は、こんな所で立ち止まる訳にはいかねえんだよ!!!」 両手に握るは、“Gazania(誇り)”を秘めた花護る竜。全身の闘気を込めて、ジースはそれを一閃させる。 「――Dragon Rush!!!!」 渾身の一撃が、傷ついた毒蛾を一刀のもとに断ち割った。 ●守るための決断 力尽き、地に落ちた毒蛾の肉体が、どろどろに蕩けていく。 大きな翅や色の白い手足が瞬く間に形を失い、粘り気のある汚らしい色の液体へと変わり果てていった。 悪夢のような光景に胸が悪くなった真人が、口を押さえる。 「これは……うー、不気味極まります」 ユウが眉を顰め、思わず声を漏らした。 地に倒れ伏した椿が、朦朧とする意識の中で毒蛾の最期を眺め、思考を巡らせる。 あれは元々こういう生物なのか、あるいは融合生物なのか、もしくは融合してしまったのか。 (監視しとるんが、六道のフィクサード……) あの毒蛾も蟷螂も、えげつない研究の結果なのだろうと思う。 子供たちを攫って何をしようとしていたのか、その目的にも繋がりそうではあるのだが――。 「これが実験動物なら、何処かにそういう印があると思ったのですがな」 こういうのを作る人間は自己主張が強そうですしのう、と口にしながら、九十九が蟷螂のブロックに回る。 至近距離から放たれた散弾が蟷螂に幾つもの傷を穿ち、どす黒い体液を溢れさせた。 天使の歌を戦場に響かせる真人の心に、焦りが広がっていく。 毒蛾が倒れたとはいえ、蟷螂はまだまだ健在だ。対するリベリスタは、三人が戦闘不能に追い込まれている。 残る五人で、あの蟷螂を討ち果たすことは難しいかもしれないが――しかし。 自分の後ろには、守るべき者がいる。怯えるあまり、声も出せずにいる子供たちがいる。 もしもの時は、子供たちだけでも逃がさねばならない。 蟷螂が素早く鎌を振るい、幻影を纏う連続攻撃を眼前のカイと九十九に繰り出した。 混乱に陥った二人をフォローすべく蟷螂との距離を詰めたジースが、敵をブロックしながらブレイクフィアーを放ち、彼らの意識を引き戻す。入れ替わるように後退した九十九が、散弾を蟷螂に浴びせた。 戦闘開始からずっと蟷螂のブロックを担当していたカイも、かなり消耗が激しい。 攻撃手の不足は深刻だ。敵の攻撃力と、その回復に割かねばならない人数を考えると、このまま戦い続けても押し切れる可能性は低いだろう。 戦闘不能者は三名。子供たちを逃がすことを考えれば、ここが安全に撤退できるギリギリのラインだ。 「とにかく、兄妹の無事が最優先です。私が彼らを抱きかかえて空中に退避します」 意を決したユウが、銃を引いて仲間達に撤退を促す。 飛行可能な毒蛾が倒れた以上、空に逃れてしまえば少なくとも子供たちは安全だ。 いざとなれば子供たちを連れて逃げるつもりでいた真人も、彼女に任せる方が確実と判断して頷きを返す。 ――あとは、子供たちが戦場を離れるまで耐え切るのみ。 カイが、九十九が、ジースが、全力で蟷螂を抑え、敵をその場に釘付けにせんと動く。 「何をおいても子供を守るのダ!」 強い決意を込めたカイの言葉に続いて、ジースが花護竜のドイツ式ハルバードを叩き込む。 たとえ血を吐こうとも、守り抜いてみせる。それで子供たちの命が助かるなら、安いものだ。 「ユウさん、お願いします!」 癒しの福音を響かせて三人の背を支える真人が、ユウに向けて叫ぶ。 二人の子供を抱え上げたユウが、背の翼を羽ばたかせて空へと舞い上がった。 震える幼い兄妹をしっかりと腕に抱き、彼女は戦場を離脱する。 その後、リベリスタ達は戦闘不能者を連れて撤退した。 子供たちという目標を見失ったためだろうか。蟷螂は、リベリスタ達を無理に追おうとはしなかった。 ●見つめる瞳 「戦闘テスト終了。実験体の確保は失敗したものの、データとしては充分か」 一部始終を遠巻きに眺めていた白衣の男の一人が、全データの記録を終えてそう口にする。 護衛のフィクサード達を連れて、白衣の男たちは速やかにその場から去っていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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