●恐怖に駆られて 車が電柱にぶつかった時のことは、よく覚えてない。 気がついたら、あたしは車を捨てて走っていた。 ――痛い。全身のあちこちが、ものすごく痛い。 逃げなくちゃ。早く、ここから逃げなくちゃ。 死神が、あたしを捕まえる前に。 ――怖い怖い怖い怖い怖い。 ――死にたくない。死にたくない。死にたくない。 誰か、あたしを助けて。 あたしはまだ、死にたくないの。 ●死に追われ、死から逃れて 「車の運転を誤り、ガードレールに衝突して死んだ女性がE・アンデッドになった。皆には、その撃破に向かってほしい」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、アーク本部のブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向け、そう切り出した。 「彼女は自分が死んだことに気付いていない上、事故のショックで混乱に陥ってる。このまま放っておけば、確実に一般人に被害が出るだろう」 E・アンデッドはひたすら道路を走っているが、幸い夜明け前であり、他に車は通っていない。 さらに、彼女の進路は“万華鏡”の力でかなり正確に掴むことができている。 指定された時間と場所で待ち伏せを行えば、スムーズに戦うことができるはずだ。 「ただ、E・アンデッドはかなりタフだし、強力な自己再生能力を持っている。さらに、戦いになればE・フォースを際限なく生み出してくるから、長期戦は不利になるだろうな」 E・フォースは黒い靄のような姿で、かなり素早い上にこちらの動きを封じる能力を持つ。 こちらも、対策を考えていく必要があるだろう。 「E・アンデッドの外見は人のまま、混乱しているとはいえ感情もあるし、傷を受ければ痛いと叫ぶ。今回はそういう相手だ――あまり気分の良くない仕事になるが、よろしく頼む」 数史は手の中のファイルを閉じ、リベリスタ達にどうか気をつけてな、と言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月08日(木)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●走り続けた先に 夜明け前の、藍に染まった空。東の地平線だけが、ほのかに朝の色を帯び始めている。 八人のリベリスタは緩いカーブを描く道路を中心にそれぞれの位置につき、これから来る敵を待ち受けていた。 車の通らない道路の上に立つのは、六人。 周囲に一般人除けの結界を張った『赤猫』斎藤・なずな(BNE003076)が、朝焼けの色を映したようなオレンジの瞳で己の正面を見据え、集中を高めていく。闇色のオーラを衣の如く纏った『Bloody Pain』日無瀬 刻(BNE003435)の瞳が、カーブの向こう側から走ってくる女性と、彼女の後を追うように漂う三つの黒い靄を捉えた。 “幻想纏い”を通じて物陰で待機するメンバーに連絡した後、刻はわずかに目を細める。 今回の敵は、交通事故で死亡した女性のE・アンデッド。 己の死を知らぬまま、死に怯え、痛みに震えてひた走る――そんな存在。 刻にとって、嘆きの声は耳に心地良い。一度死した者が痛みに嘆く声は、さぞや素敵だろう。 「一体どんな声で鳴いてくれるのかしら? 楽しみで仕方ないわ」 道路を塞ぐように立つ六人の中で、やや前方に位置する『足らずの』晦 烏(BNE002858)が、身に纏った暗緑色の外套を風に靡かせながら愛用の村田式散弾銃を構える。 こちらに駆けてくるE・アンデッドの女性と、彼女の後についてくる黒い靄のE・フォースたちが射程距離に入った瞬間、烏は銃の引鉄を絞った。 銃声が響き、散弾が女性を掠めるようにして黒い靄の塊を穿つ。 女性が「ひっ」と短い叫びを上げた瞬間、物陰に待機していた『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)と『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)が飛び出し、前方の仲間と敵を挟むように動いた。 破壊の闘気を漲らせた零児の腕には、死神の鎌を模した“Grim Reaper”、黒きローブを纏い、フードを目深に被ったその姿は、まさに死神。 振り返った女性が、彼の姿を見て恐怖に目を見開く。 「捕まえたぞ……」 全身のエネルギーを集中した死神の鎌が女性を吹き飛ばし、ガードレールに叩き付けた。 烏の近くに位置していた『底無し沼』マク・アヌ(BNE003173)が、猟犬の如き動きで女性に迫り、逃げ道を封じる。 死して体温を失ったその首筋に、マクは躊躇いなく噛み付き、血を啜った。 「お姉さんの悪夢を終わらせに来たよ」 甲高い悲鳴を上げる女性に向けて、闇のオーラを纏った『三つ目のピクシー』赤翅 明(BNE003483)が口を開く。 命は既に尽きていても、心も、痛みもある。言葉だって、交わすことができる。 (やり難い相手だけど……やらなくちゃ) 鱗に覆われた巨体を闇に包み、風音 桜(BNE003419)が声を張り上げた。 「――最早、往くことも退くこともかなわぬ! この場で仮初の生を終えられい!」 返答の代わりに、女性の悲鳴が響く。 ●死者の叫び E・アンデッドの女性から15メートルほどの距離を取った碧衣が、卓越した頭脳に導かれた最高の命中プランで気糸の罠を展開させる。 毒を帯びたオーラの糸が女性の全身を絡め取り、その動きを封じた。 女性の恐怖と痛みを宿した黒き靄のE・フォースが、前に立つ零児とマクを激痛で苛み、さらに烏の恐怖を呼び起こす。凍てつく冷気が烏を包み込むも、彼が氷に自由を奪われることはない。 魂を縛る激痛に耐えながら、零児は女性に死神の鎌を振るう。爆裂した闘気が、E・アンデッドの強力な自己再生能力を一時的に封じた。虚ろな瞳で、マクが女性の首筋に再び喰らい付く。冷たい血と一緒に、死肉の味が口中に広がった。 「いやぁあああああ! 痛い、痛い、痛い――!!」 気糸に縛られた女性が、襲い来る苦痛に悲鳴を上げる。 彼女は必死にもがいて抵抗するが、身を縛るオーラの糸はびくともしない。 「ふふ、貴方の痛みに嘆く声はとても素敵よ」 女性の悲鳴を聞いた刻が、美しい顔に残酷な笑みを湛えて暗黒の瘴気を放った。明と桜がそれに続き、三体のE・フォースも巻き込んで攻撃を加えていく。 瘴気に蝕まれ、身を削られていく女性が、咳き込みながら「助けて」と叫んだ。 「……ふん。他に死体が増える前に焼き尽くすぞ」 仲間達の最後尾から全ての敵を射程に捉えたなずなが、充分な集中から一条の雷を放つ。 死んだ女が害悪を及ぼそうが、私は燃やせるのならばどうだって良い――。 荒れ狂う雷光が黒い靄を次々に貫き、女性の肌を焦がした。 「自覚が無いというのも可哀想なもんだな」 銃床に檀林皇后九相図会の彫金が施された“二四式・改”から散弾を放ち、黒い靄を撃ち抜いた烏が、戦いの間も絶やさぬ紫煙をくゆらせながら呟く。逆に、自覚があっても困ったものだが……。 女性を縛っていた気糸が、崩れるようにして千切れ落ちる。碧衣は再び彼女の先手を打ち、その身を再び煌くオーラの糸で絡め取った。 「死んでしまっている事を理解できていないんだな。出来る事はせめて静かに眠らせてやる位、か……」 恐怖と痛みでしゃくりあげる女性をよそに、黒い靄のE・フォースたちが一斉に攻撃を仕掛ける。 零児が凍てつく恐怖に体の自由を奪われ、マクと烏が魂を絞るような激痛に襲われた。 己の痛みにすら構う事なく、マクが執拗に女性の首筋に噛み付く。血を吸い上げた直後、彼女の虚ろな瞳に理性の光が戻った。 「ぅぇ……」 牙にこびりついた死肉を、ぺっぺっと吐き出す。 彼女の眼前で、女性の首筋に穿たれた傷が淡く輝き、瞬く間に癒えて塞がれていった。 女性に纏わりつくように、その周囲を漂うE・フォースたちを、三人のダークナイトが繰り出す暗黒の瘴気が次々に襲う。続けて烏が放った散弾が、黒い靄を引き裂くようにしてE・フォースの一体を消滅に追いやった。 「痛いか? 辛いか? 苦しいか?」 女性が背にするガードレールの後方、ギリギリで仲間達を巻き込まぬ位置を見切りつつ、なずなが魔炎を召喚する。 巻き起こった激しい炎が、E・アンデッドとE・フォースを包みこんだ。 全身を焼かれる苦痛に、女性が涙を流しながら絶叫する。 「安心しろ、貴様は既に死んでいるのだからな。燃えながらもっと泣き叫べ! 骨まで燃え尽きて灰になれ!!」 なずなが声を張り上げた直後、炎の中で二体のE・フォースが燃え尽きた。 ●死に誘う腕 女性を包む炎が消え、オーラの糸が再び崩れるように解けていく。 凍てつく恐怖を自力で打ち破った零児の眼前で、女性の全身から黒い靄が滲み、E・フォースの形をなした。 碧衣の全身から煌くオーラの糸が伸び、新たに出現した黒い靄の塊もろとも女性を貫く。 的確かつ執拗に急所を穿たれ、女性がか細い悲鳴を上げた。 黒い靄が、激痛をマクに刻み込む。女性の抑えは零児一人でも可能と判断したマクは、俊敏な動きで後退すると、そこから地を蹴って空中から両手の爪で攻撃を仕掛けた。 漆黒のローブの裾をはためかせた零児が、死神の鎌で“生死を分かつ一撃(デッドオアアライブ)”を繰り出す。 裂帛の気合とともに炸裂した闘気が、自己再生能力を封じられた女性の身を大きく削り取った。 「死神……いや、やめて……来ないでえぇええええええええっ!!」 激痛に身を捩りながら、女性が全身から激しく黒い靄を噴き出す。 物理的な衝撃を伴ったその一撃は零児の身を後方へと弾き飛ばしたが、彼から生命力を奪うことは叶わなかった。 癒えない傷が、女性の恐怖をさらに煽っていく。叫ぶ声は、既に嗄れていた。 「死にたくない……あたしはまだ、死にたくないのッ!!」 刻が放った暗黒の瘴気に続き、桜の闘志をのせた黒いオーラが女性を射抜く。 「極めて単純・純粋な思いから黄泉帰ったようで御座りまするな――」 いやいやと頭を振る女性を見て、桜がそう呟いた。 彼女が操る技も、まさにその思いを極めた性能。ゆえに強力。攻撃の手を緩めて勝てる相手ではない。 「拙者らの気分がよかろうとわるかろうと、死体は死体へかえしてやるのがよう御座りましょう」 E・アンデッドでありながら、死の恐怖に顔を引き攣らせ、死にたくないと訴え続ける女性。 明の大きな赤い瞳が、彼女の姿をはっきりと映した。 「――少し前に、死の恐怖を忘れ去った人達を見たよ」 己の命も魂も捧げて、ただ、敵もろとも自爆することを命じられた異界の兵士たち。 彼らは最期まで「生きたい」とも「死にたくない」とも口にすることなく、一人残らずその身を散らせた。 あんな風には、なりたくない。だから、痛みも恐怖も、全てを受け止めたいと、明は思う。 E・フォースの攻撃を受けたマクが癒しを拒む状態に陥っていないことを確認したなずなが、詠唱により癒しの微風を起こし、マクの傷を塞ぐ。攻撃に偏ったメンバーの中で、彼女の癒しの技は貴重だ。 (回復役として力不足なのは百も承知だ。その分多少無理をしてでもカバーしないとな) 女性の攻撃が届かぬ位置から、彼女は戦場全体に目を配る。 零児が吹き飛ばされたのを見て、烏が自身を“二枚目の壁”とすべく女性の前に走った。 「おじさん等がアンタにとっての死神って事になるのかねぇ」 叫び続ける女性を見て、その後ろをふわふわと漂うE・フォースへと照準を合わせる。 「大圓朝の噺の如く、ロウソクを継ぎ足して寿命を伸ばせりゃ良かったけれどもな」 それでもあれは死ぬ前に、だったかね――。 烏の言葉とともに、散弾が黒い靄を撃ち抜いた。 ●悪夢の終わり 女性に傷を癒す暇を与えぬよう、碧衣が再びオーラの糸を放って彼女の自己再生を封じる。 攻撃に巻き込まれたE・フォースが、細い糸に引き裂かれるようにして消滅した。 再び女性に駆け寄った零児が目深に被ったフードを外し、素顔で彼女と向かい合う。 理由を告げずに倒すのは、彼女を悪と見なしているようで嫌だった。 「殺しにきたわけじゃない。君は既に死んでいる」 君が彷徨って悪霊になる前に、誰かを傷つける前に、止めにきたんだ――。 痛みと恐怖に歪むばかりだった女性の顔が、一瞬、驚いたような表情を浮かべる。 そこに、零児は“Grim Reaper”を振るい、彼女の体を再びガードレールに叩き付けた。 「か、は……っ」 衝撃と痛みが、女性の頭を激しく揺らす。 死を迎えた時と同様のショックを与え、事故の記憶を取り戻させることが、零児の狙いだった。 「あ……」 女性の見開かれた瞳が、宙の一点を見据える。 脳裏に浮かぶ、事故のフラッシュバック。 急いで帰ろうとして、ついつい出しすぎたスピード。 カーブを曲がりきれなかった車のフロントに迫る、ガードレールと電柱。 衝撃と痛み。 割れたフロントガラス。 全身の骨が、砕けて――『あたしは死んだ』。 「いやあああああああああああああああああ―――――――ッ!!!!」 絶叫。 痛みが、恐怖が、真っ黒な靄となって渦を巻く。 呪いが弾ける瞬間、零児は、咄嗟に女性を抱きしめるようにして、言葉を放った。 「痛いし怖いのは当然だ。その辛さを誰かと共有したいよな」 だが、傷つけるのは俺だけにして欲しい――。 髪を振り乱し、彼女は駄々をこねるように首を横に振る。 血を吐くような呪いの叫びが、リベリスタ達の耳朶を激しく打った。 「痛い、痛い痛い痛い、怖い怖い痛い……死にたくないッ、死にたくなんて、なかったッ!!!」 烏が暗緑色の外套を翻して後衛への射線を遮ろうとするも、全体攻撃である以上は存在を認識している全ての相手に届いてしまう。あらかじめ射程外に退避していたなずなを除く七人が、呪いの叫びに揺さぶられた。 既に深い傷を負っていたE・アンデッドの呪いが、凶悪なまでの破壊力でリベリスタ達を打ち据え、痛烈なダメージを与える。しかし、零児の咄嗟の抑え込みが功を奏したか、その命中精度はさほど高くはなく、幸運にも全員がクリーンヒットを免れた。直撃していたら、数人が倒れていたかもしれない。 「死んでも痛いって思うのれすね」 長すぎる水色の髪を煩げに引き摺り、マクが女性との距離を詰める。 ――アンデッドは生きてる? 死んでる? 何をしたら死ぬ? ――動かなくなったら死ぬ? 痛いのなくなったら死ぬ? 考えるのしなくなったら死ぬ? “あれ”は全部もってる。“あれ”は死ねるの? 彼女は死にきれていない。 自分が死んだことを、認められないでいる。 ――だからもう一度殺す。あなたにも分かるように殺してあげる。 幻影を伴って繰り出された爪が、なおも叫び続ける女性を鋭く抉った。 悲痛な叫びにもまったく怯むことなく、刻が自らの苦痛をおぞましき呪いへと練り上げる。 「そんなに素敵に鳴いてくれると、私も楽しくなってきてしまうわ」 人間の嘆きや慟哭を聞き続けてきた彼女は、今更この程度で心を動かされたりはしない。 「もっともっと嘆きの声を聞かせて、私を楽しませてね?」 お返しとばかりに刻まれた苦痛の呪いが、女性の全身を強く蝕み、彼女に再び悲鳴を上げさせた。 「……明はお姉さんが与える恐怖を受け入れる。この痛みを、絶望を忘れない」 涙を流して懇願する顔から、目を逸らすことなく。 胸を裂くような叫びに、耳を塞ぐことなく。 明は暗黒衝動のオーラを放ち、女性を真っ直ぐに射抜いた。 心も何もかも無くして、自分から死に向かうような人にはなりたくない。 だから、受け止めて。受け入れて。死の恐怖を忘れず、だけど決してそれに屈することなく。 (あんな風に、死に向かう人を出さない強さを持ちたいんだ――) ただ一人呪いの叫びを逃れたなずなが、癒しの微風で傷ついた仲間の傷を塞ぐ。 E・アンデッドの自己再生能力は、未だ封じられたまま。いかにタフな敵であろうと、これだけの攻撃に晒され続ければ近く限界が訪れるだろう。それまで、支えてみせる。 「未練も怨みも無念も残念も全て抱きかかえたままで御座りましょうが、どうぞ全て忘れてお眠り下され!」 逆境に立つほど自らの力を高めていく桜が、己の反動も顧みずに苦痛の呪いを放ち、同時に声を張り上げた。 仮初の命とはいえ、全力で相手をせねば成仏も出来ぬ。命を奪うのならば、こちらも命をかけるまで。 「――怨むならば、拙者とこの刃をお怨みなされい!!」 彼が掲げた斬馬刀を振り下ろすと同時に、おぞましき呪いが女性の全身を駆け巡った。 「あ……あ、ああぁ……っ!!」 両手で顔を覆う女性から、再びE・フォースが生み出される。 なおも生にしがみ付こうとする彼女に向けて、碧衣が静かな声で語りかけた。 「これは、死にたく無いと思っているお前が自身に見せている最期の悪夢だ。 どれだけ逃げても苦しいだけの、行止りの──生止りの悪夢だよ」 顔を覆った指の隙間から、女性が碧衣の顔を見る。 一瞬、嘆きの声が止んだ。 「もうこれ以上苦しまないで済むように、無理はせず休んでくれないだろうか?」 碧衣の全身から伸びた糸が、煌くオーラの軌跡を残して女性の全身へと吸い込まれていく。 その一本が、彼女の心臓を貫いた。 悲鳴の代わりに、一つ、大きく息を吐いて。 女性は、ガードレールにもたれるようにして、その場に崩れ落ちた。 もう、彼女から恐怖と苦痛のE・フォースが生み出されることはない。 残された黒い靄の塊を、烏の散弾が消し去った。 ●そして夜が明ける 「助けてあげられなくて、ごめん」 ガードレールを背にして息絶えた女性の傍らに膝をつき、明は彼女に声をかけた。 烏が遺体に合掌し、桜もまた、女性が成仏できるようにと祈る。 今度こそ、彼女は静かに眠る事ができるだろうかと、碧衣は思う。 「死神って、死者が彷徨って悪霊にならないよう、天国へ送り届けるのが仕事なんだよな――」 目を閉じて祈りを捧げていた零児が、ふと、そんな事を口にした。 「貴方の嘆く声は素敵だったわ」 刻が、薄い笑みを湛えたまま踵を返す。空腹を覚えたのか、元通りの虚ろな瞳に戻ったマクが女性の遺体をじっと物欲しそうに見つめていた。 「……私は冥福など祈らんぞ」 女性の遺体に背を向けるようにして、なずなが言う。 若くして命を散らせた彼女の死を心から悲しみ、悼む者は、きっと他に大勢いる筈だ。 「自分の不注意で若い命を落とした事を、あの世で家族や友人に詫びるが良い」 見上げた東の空は、いつの間にか朝の色に染まっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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