●酒は天の美禄か 『酒が酒を飲む』 『酒は先に友になり後に敵となる』 『一杯は人酒を飲む。二杯は酒酒を飲む。三杯は酒人を飲む』 酒にまつわる格言や諺は多い。 それは、人類が長きに渡って酒を友とし、愛してきたことの証であろう。 人類が住むこの世界は――運命は、酒を愛しているだろうか? ●迷惑な酒盃 「あー君たち、酒は好きかね。……って、飲めない面子もいるかな」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、ブリーフィングルームに集まった面々を見渡し、頭を掻きつつ説明を始めた。 「今回、皆に頼みたいのはアーティファクト『酒神の盃』の回収または破壊だ。名前通りの盃だが、こいつで酒を呑むと、どんな安酒でもすごく旨くなるらしい」 骨董市に売られていた盃が偶然アーティファクト化したらしいのだが、喜んだのはそれを手に入れた一般人だ。なにしろ、わざわざ高い酒を買わなくても、いくらでも旨い酒が呑めるのだから。 「現在、アーティファクトの所有者になってるのはアパートに一人暮らしのおっさんだな。 ……そこ、俺を見ないように」 今は酒も煙草もやってませんよ、とか至ってどうでも良いことを呟きつつ、先を続ける。 「このおっさん、もともと酒好きだったんだが、『酒神の盃』を手に入れてから拍車がかかってな。ここ数日はずっと部屋に篭りきりで酒ばかり呑んでる」 つまり、留守を狙ってアーティファクトだけ回収するのは不可能ということだ。 幸いというべきか、所有者は常に泥酔状態にあるため、武器を持ったリベリスタ達が部屋に詰めかけたところで大きな問題にはならないらしいが、障害になる要素は別のところにある。 「このアーティファクト、持ち主から引き離そうとするか、あるいは持ち主に危険が迫ると、持ち主に乗り移って戦おうとする。――依り代、って言うのかな」 この依り代を倒すことで、ようやく『酒神の盃』を所有者から引き離すことが出来るらしい。 依り代になった人間はアーティファクトに守られるため、怪我をさせる心配もないようだ。 「『酒神の盃』の依り代は、かなりタフな上に自己再生能力がある。 自分に攻撃を仕掛けた相手に対して、自動的にダメージを与えることもできるから、戦い方を間違えるとこっちが一方的に消耗する危険があるな」 さらに――と、数史は言葉を続ける。 「戦闘開始と同時に、『酒神の盃』から霧みたいなものを出してくるんだが……周囲にいる全員を二日酔いみたいな状態にして、戦いの邪魔をしてくる」 二日酔いみたいな状態とは、具体的にどういうことか。 「まあ、アレだ。ひどい吐き気と頭痛がして、胸がムカムカして、あと脱水症状とか?」 さらに運もなくなるみたいだけどな、と言うフォーチュナの言葉に、集まったリベリスタの何人かが眉を寄せた。 「他にも、人を酒に酔ったような状態にする能力があるが、あくまでも擬似的なもので、実際に酒が体に入ることはない。健康に害はないし、戦いが終れば元通りだ」 そこは安心してくれ、と数史は言ったが、こと戦闘に関してはあまり安心できない。 なにしろ、戦闘の間ずっと、動きを制限され続けるようなものだ。 「別の意味で面倒な任務かもしれんが……まあ、そういうわけでよろしく」 リベリスタ達から目を逸らしつつ、数史は手の中のファイルを閉じた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月13日(火)23:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●酒神の宝 「安酒だけど日本酒持ってきたぜ、私一番な!」 住人の殆どが出払ったアパートの廊下。 これから突入する部屋の扉の前で、一般人除けの結界を張った『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)が真っ先に口にしたのは、そんな一言だった。 同行する仲間達の視線が、彼女に集まる。 「へ? 仕事? うん、忘れてねえって、あー頑張る頑張る」 今回の任務は、アーティファクト『酒神の盃』の回収だ。 破壊しても良いのだが、折角なので可能な限り回収したいというのがほぼ全員に共通する意見である。 無事に仕事を終えた暁には、『酒神の盃』で酒盛りを楽しもうというのだ。酒を嗜む者が多いこのメンバーとしては、ごく自然な流れだろう。 それもこれも、まずはアーティファクトを回収しないと始まらないのだが。 「酒か。私はまだ未成年故、良く分からない部類の話ではあるのだが。皆を虜にする何かがあるんだろうな」 メンバー中、唯一の未成年であるアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)が、そう言って小さく首を傾げた。酒が持つ魅力も魔力も、実感できる年齢ではない。彼女にとって初めての体験が、『酒神の盃』がもたらす擬似的な二日酔いというのも気の毒な話ではあるが。 「どうせ二日酔いになるなら、事前に酔っ払いになっておこう……かとも思い申したが」 斬馬刀を携えた風音 桜(BNE003419)が、一度そこで言葉を区切り、赤い目を細める。 「美味な酒を頂くのは、事が終わってからにいたしましょう」 どのような安酒であろうと、極上の美酒に変える――それが、『酒神の盃』の力である。 「酒飲みにとって至宝に値する品だな」 『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は、回収対象たるアーティファクトをそう評しつつ、だが、と続けた。 「アーティファクトである以上、一般人には何れ害が及ぶ。悪いが、そうなる前に回収させてもらうぞ」 ハーケインの言葉に、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)が大きく頷く。 「一般人が破界器を所有しているのは、ある意味フィクサードが所有しているより問題がある」 世界の為、崩界を押し留める為、リベリスタとして『酒神の盃』を回収せねばならない。 室内に侵入すべく、扉の鍵を破壊しようとした雷慈慟を、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が制した。 「できれば破壊せずにすませたいな」 ウラジミールは注意深く扉の周辺を探り、脇に詰まれた古新聞の束の中から合鍵を見つける。 これで扉や鍵を壊さずに済むと、リベリスタ達の間に安堵が広がった。突入後の戦いに備えて美峰が防御結界を展開し、ほぼ半数のメンバーが己の力を高めていく。 漆黒の闇を生み出し、それを無形の武具として身に纏うユーキ・R・ブランド(BNE003416)の傍らで、百目鬼 クロ(BNE003624)が考えこむような仕草を見せた。 「うーん、楽そうな仕事かと思えば機動力は奪われるし、攻撃すれば反撃で余計にダメージ負っちゃうし……」 速度を武器とするソードミラージュにとって、今回の敵は些か相性が悪いかもしれない。自分に出来ることがあるのか不安になるが、ここに来た以上は戦わないわけにもいかないだろう。 「任務を開始する」 全員の態勢が整ったことを確認し、ウラジミールが扉の鍵を開ける。 リベリスタ達は隊列を組み、整然と室内に突入した。 ●百薬にして百毒 扉一枚隔てた部屋の中は、むせ返るような強い酒の臭気に満ちていた。 「失礼、この部屋の主は……あー、泥酔状態ならまともな返答は期待出来ないか」 この部屋の住人であり、『酒神の盃』の所有者でもある中年の男に声をかけようとしたハーケインは、彼の様子を一目見て軽く溜め息をついた。 酒瓶で埋め尽くされた卓袱台に、小太りの男が突っ伏している。しまりなく緩んだ顔は真っ赤で、目の焦点が合っていない。彼はいきなり部屋に入ってきたリベリスタ達を見て「んあ?」と気の抜けた声を上げた。 この男が右手にしっかりと握っている陶器の盃が、『酒神の盃』だろう。 「酒が好きなら自分と一緒に来ないか?」 ウラジミールの誘いに、『酒神の盃』は返答の代わりに乳白色の霧を生み出す。 同時に、淡い光に包まれた男が操り人形のように立ち上がったのを見て、ウラジミールは全身を輝く防御のオーラで包んだ。『酒神の盃』の依り代となった男の前に立ち、その動きを抑え込む。 まずは、酒に溺れてしまったこの男を解放し、『酒神の盃』を回収せねばなるまい。 乳白色の霧が部屋中に広がり、そこに立つリベリスタ達を覆い尽くした。 「ぐっ……なんだ、この纏わり付くような不快感は」 頭が割れそうなほどの頭痛と、激しくこみ上げる吐き気に、アルトリアが眉を顰める。 これが話に聞いた『二日酔いの気分』なのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。「すこぶる最悪だな」と口にしつつ、暗黒衝動を孕んだオーラを収束して放つ。黒い輝きが盃の依り代たる男を射抜くと同時に、淡い光に反射された力がアルトリアの身をも傷つけた。 「ぬぉ~、これが二日酔いの苦しみで御座りまするかぁ~……。し、しかし、これしき!」 酔い潰れることはあっても二日酔いは未経験、という桜が、唸りながら暗黒衝動のオーラを撃つ。 擬似二日酔い状態の不利を補うべく集中を高めながら、ユーキが思わず口を押さえた。 「……うぷ。迎え酒と申してる場合ではありませんねコレは。早めにケリをつけませんと」 身体能力のギアを上げて反応速度を高めるクロと、式を打って小鬼に己の援護を命じた美峰もまた、耐えかねたように声を上げる。 「うええ……最悪ね……」 「二日酔いの感覚だけはたまんねえな……」 突入直前に脳の伝達処理を高め、己を集中に導いていた雷慈慟が、気糸の罠を展開して男の全身を絡め取った。 「この感覚は久しいな……」 最近は忙しく、二日酔いするほど飲んでいなかったのだが。この頭痛や吐き気、胸のむかつきには、確かに覚えがある。 (酒に溺れる……か) かつては、自分にも似たような経験があった。 目の前で『酒神の盃』の依り代にされている男とは事情も状況も異なるが、酒との付き合い方は考えねばなるまい。 気糸に動きを封じられた依り代に向けて、ウラジミールが鋼鉄製グリップのコンバットナイフを振るう。 擬似二日酔い状態にあっても余裕を残しているように見えるのは、迎え酒用にウォッカを持参しているためだろうか。 早くもげんなりした表情のアルトリアが、纏った闇の衣を翻しつつ、漆黒のオーラを放った。 「しかし、適量ならば百薬の長というが、飲みすぎれば百害あって一利なしとも言う。 まあ、つまりなんだ……良く分からんな」 迂闊に敵を攻撃しても己の身が傷つくだけと判断したクロが、注意深く仲間達の様子を窺う。今回、最も警戒すべきは、敵に幻惑された味方が仲間に攻撃を加えることだ。いざという時は、自分がそれを防がなくては。 「酒は仲間と呑むからうまいもの、一人で呑むのでは折角の盃も宝の持ち腐れでござりましょう!」 頭痛すら吹き飛ばす勢いで放たれた大音声とともに、桜が暗黒衝動のオーラで男を撃つ。攻撃を反射されようとも、彼はまったく怯まない。敵を惑わす闇の衣を纏ったハーケインが、男の眼前で両腕に構えた槍を赤く染めた。 集中を高めて繰り出された槍がアーティファクトの依り代たる男を貫き、その自己再生能力を封じる。続いて距離を詰めたユーキが、無数の呪いを依り代に刻み込んだ。 刻まれた呪いが、“スケフィントンの娘”――ヨーロッパで用いられた拷問具の如く依り代を捕らえ、その身を削っていく。そこに雷慈慟がオーラの糸を放ったが、こみあげる吐き気に邪魔されて狙いが逸れ、直撃には至らなかった。 「クッ……! 仕事に酔いを残した事など無いが……こうもやりづらいモノか!」 思わず声を上げた雷慈慟の後方で美峰が式を打ち、“影人”にハーケインの護衛を命じる。 二日酔いに妨げられ、普段通りの戦いが難しい状況では、仲間の魅了や混乱は致命的な隙になりかねない。特に、ハーケインは敵の自己再生能力を封じる切り札だ。彼が我を失っては、攻め手を欠いてしまう。 回避に優れる美峰の“影人”なら、ある程度は持ち堪えることが出来るはずだ。 ●呑まれぬ者たち 戦いが続く中、数々の状態異常を打ち破った依り代が、手にした『酒神の盃』から新たに乳白色の霧を生み出す。 身構える間もなく、その霧はリベリスタ達を再び覆い尽くした。 二日酔いすらも片隅に追いやるようにして、ふわふわと酒に酔ったような気分が胸を満たす。 アルトリアがレイピアの切先を仲間達に向けるのに気付いたクロが、彼女の前に立ちはだかった。 暗黒衝動を秘めたオーラが、クロの華奢な体を貫く。 傷の痛みと、後からこみあげてくる激しい吐き気に口を押さえつつも、クロは何とかその場に踏み止まった。 「……今倒れたら吐きそう」 それだけは、何としても避けたい。 酒精の幻惑に囚われた仲間達に向け、ウラジミールが声を上げた。 「呑まれている場合ではないぞ!」 神々しい光が輝き、仲間達の意識を引き戻す。 酒は飲むものであって呑まれるものではない――それが、彼の持論である。 軽く頭を振ったユーキが、忌まわしき拷問具の呪いで依り代を再び封じ込めながら、己の酒との付き合い方を思った。どうにも思うようにいかぬ嫌な仕事の後は、酔い潰れるのがすっかり常態になっている。 「……実際、あまり良い酒ではありませんねえ」 目の前でアーティファクトに操られている男の方が、余程楽しんでいるような気がしてならない。 ユーキが溜め息をついた時、桜の声が響いた。 「これしきで酒を呑むのをやめることはできませぬ……じゃなくて負けはしませぬ!」 堂々たる宣言とともに、桜は己の痛みをおぞましき呪いに変えて解き放つ。 美峰が癒しの符でクロの傷を塞ぐ中、おもむろにテキーラの瓶を取り出した雷慈慟が、その中身を音を立てて呷った。 「ふぅ~……二日酔いに対する相場は決まっている、迎え酒だ」 息をつきつつ集中を高める雷慈慟に、ウラジミールもまたウォッカを口にして頷く。 「迎え酒、これが一番効果があるのだよ」 自己再生能力を抜きにしても、依り代の耐久力はかなり高い。 擬似二日酔いの妨害もあって長期戦は避けられないものの、依り代は動きを封じられ、ほとんど行動できないでいる。こちらの攻撃を反射された上に依り代から攻撃を受けていたとしたら、戦闘不能者が出るのは避けられなかっただろう。 仮に自力で状態異常を逃れたとしても、美峰の式神である“影人”が常に庇っている上、魅了や呪いの類を受け付けないウラジミールのブレイクフィアーがある。戦線が崩壊する危険は、まず無いと言って良かった。 とはいえ、戦いが長引けば神秘を操るエネルギーも次第に枯渇していく。そこは、体内に無限機関を備えた雷慈慟のインスタントチャージの出番だ。 “影人”の数を増やしていく美峰を肩越しに見て、雷慈慟が彼女に声をかける。 「おぉっと……今継ぎ足すじょ、暫しまられりょ!」 えてして、体を動かしている時は酔いが回りやすいものだ。これまで、酒を飲みながら戦闘行動を取った事がなかった雷慈慟は既に呂律が回っていないが、伝達処理を高められた彼の頭脳はそれでも判断を誤らなかった。迎え酒による集中を無駄にせぬよう、気糸で依り代に攻撃を加えた後、インスタントチャージで回復に回る。 静かに己を研ぎ澄ませていたハーケインが、血の色に染め上げた槍を構えた。 「俺のこの一手が勝敗を分かつのであれば、必ず決めてみせる」 決意の声とともに、彼は強烈な突きを依り代に繰り出す。 赤き魔具と化した穂先が依り代を真正面から貫き、アーティファクトがもたらす自己再生能力を無効化してのけた。 ここが攻め時と判断し、リベリスタ達が一気に畳み掛ける。 ウラジミールのコンバットナイフが、ひときわ鮮烈な輝きを帯びた。 「二日酔い如きに負けるロシヤーネではないわ!」 曇りのない刃が一閃し、破邪の力をもって依り代を切り裂く。あらゆる可能性を考慮したウラジミールの攻撃は、この悪条件下においても的確に敵を捉えた。 「悪いな、加減は出来ない。その身に受けろ」 アルトリアが、攻撃の反射によって積み重なった己の傷を呪いに変えて依り代に刻む。技の行使に伴う反動を考えると、あまり連発はできない。出し惜しみをする余裕はなかった。 「……杯を残したい気持ちはありますが、手加減が出来る状況でもないのですよねえ」 禍々しき黒い光を剣に纏わせたユーキが、ぽつりと呟く。激しい攻撃に晒されて『酒神の盃』が壊れるのでは、という危惧はあるが、攻撃の手を緩めれば勝機を逃すことになる。ここは全力で叩くしかない。 上段から振り下ろされた黒き剣が、告死の呪いを依り代に刻む。桜が、腹の底から声を放った。 「酒飲みの秘宝といえど、手加減はいたしませぬぞぉッ!」 頭が割れるような痛みも、胃がひっくり返されるような吐き気も、己の全身に穿たれた傷も。 逆境を武器とする彼にとっては、それこそが力となる。 「二日酔いの苦しみこえてこそ! うまい酒が呑める!!!」 気迫を込めた渾身のペインキラーが、『酒神の盃』の依り代をとうとう打ち破った。 ●リベリスタ達の宴 男の手から離れた『酒神の盃』が、畳の上に落ちる。幸い、壊れてはいないようだ。 盃の支配から逃れた男もまた、糸の切れた操り人形のように倒れる。 男は、全身から酒の臭気を漂わせたまま寝息を立て始めた。深酒が過ぎたらしい。 アルトリアが、呆れたように肩を竦める。 「……こんな状態になってまで、何で酒など飲まねばならんのだ。私には理解できないな……」 酒の臭いから遠ざかるように、彼女は男から距離を置いた。 熟睡する男をよそに、リベリスタ達は戦闘で荒れた部屋を片付け始める。 雷慈慟が、畳の上の『酒神の盃』を拾い上げ、それに語りかけた。 「悪いようにはしないさ、一緒に来い」 盃は異を唱えることなく、大人しく彼の懐へと収まる。 それを見ていたクロが、いびきをかいて眠る男を見てご愁傷様、と口を開いた。 「美味しいお酒が飲み放題だったんだもの……この先辛いわね」 卓袱台の上に転がっていた空き瓶を片付けたハーケインが、『酒神の盃』の代わりと、持参した高級ウィスキーのボトルを置く。 整えられた現場を見渡して、ウラジミールが「任務完了だ」と告げた。 晴れて『酒神の盃』を入手したリベリスタ達は、その足でアーク本部へと戻った。 任務完遂の報告のためだが、大部分のメンバーにとって真の目的は別にある。言うまでもなく、『酒神の盃』を使っての酒盛りだ。 アーク本部の廊下でリベリスタ達とすれ違った数史に、美峰が声をかける。 「お疲れさん、無事に回収できたみたいだな」 「数史もヤるか?」 「まだ仕事中だし、いったん飲みだすと歯止めきかなくなるからなあ」 「酒やめたのか……勿体ねえな」 そんなやり取りの後、あとで感想聞かせてくれ、と言って数史は去っていった。 その後、小さめの会議室を占領したリベリスタ達はささやかな宴を開いた。 擬似二日酔いに苦しめられながらようやく手に入れたのだ。アークに引き渡す前に、このくらいの役得は許されても良いだろう。 ちなみに、ここにアルトリアの姿はない。 未成年である彼女のため、美峰はお茶やジュースの類も用意していたのだが、アルトリアはその誘いを丁重に辞退した。曰く、「酒の臭いだけでもさっきの気分が戻ってきそうだ」との事だが、それも無理はないだろう。 冒頭の宣言通り、一番に日本酒を味わった美峰に続き、折角なのでご相伴にあずかろうと誘いに乗ったユーキが盃に口をつける。清々しく終えられた仕事の後の酒は、極上の一杯となって体に沁み渡っていった。 「どうです皆さんも一杯」 酒を勧めるユーキの声に、リベリスタ達は順番に『酒神の盃』がもたらす美酒を味わう。 テーブルの上には各自で持ち寄った日本酒、ビール、ウィスキーの他、ウラジミールの持参したウォッカや雷慈慟のテキーラまでが並んでいる。つまみの準備も抜かりはない。 ウォッカを注いだ盃を渋く傾け、ウラジミールが「……染みる」と呟く。 美味い酒を一人味わい飲むのも良いが、皆で飲む酒も良い。 「あー、やはりビールはジョッキでないと飲んだ気がしないな。 となれば、ウィスキーや日本酒がこれに適しているという事かな……」 ビールを味わった後、ウィスキーを盃に注ぐハーケインを見て、クロが興味深げに口を開く。 「人それぞれで感じる味は違うし、注ぐお酒によってきちんと味が変わるのね」 確かに、これは酒好きにとっては堪らないだろう。 「車座にのって、盃の回し飲み……なんとも言えぬ風情を感じまするのう」 仲間達と酒を酌み交わしながら、桜がしみじみと呟いた。 桜から『酒神の盃』を受け取った雷慈慟が、それに語りかけるようにして酒を注ぐ。 「酒は先史以前から人類の友だ。友を裏切る事はできない」 本部での待遇を約束する――と、盃に告げて。彼は酒をゆっくり味わった。実に美味い。 「独りで呑む酒も趣はあるが やはり酒は皆で呑む方が美味いモノだ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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