● 「誰か。誰かある!」 「はい、お嬢様」 「燃えるような恋がしたいの」 「いけません、お嬢様。私、あくまで執事でございます。先代様よりお仕えいたしまして、八千と六百四十三周期、お嬢様のオムツの世話をする女官の面接さえこなした私ですが、それはどうぞご勘弁いただきとうございます」 「面接」 「第一次から第九次、最終審査まで二周期を費やしました」 「換えてはいないのね」 「それはもう」 「一度も」 「先代様に誓って」 「――とにかく、燃えるような恋よ! 二文字熟語で言うならば、燃恋」 「熱愛ではないかと」 「恋なのに、愛に変わるのが解せない」 「言葉の綾、というものでございます」 「別の言語で言うなら、バーニングラブ」 「他次元言語の方言にもご堪能であらせられる。さすがです。お嬢様」 「讃えなさい」 「素晴らしい」 「より情熱的に」 「おどけでない」 「――そういう訳だから、恋をさせなさい」 「バーニングな」 「そう」 「燃えるような」 「そう」 「故意な恋――!」 「仕込っぽいわ」 ● 「――アザーバイドの接待。ここは一つ恋に落ちてもらおうと思う」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、職務に忠実だった。 「……とはいえ、先様にそういう感情はない。そういう感情を催した場合の行動をしてみたいということ。いうなれば、ごっこ遊び」 左様でございますか。 「ちなみに、お嬢様……名前、人間には発音できない。まあ、ミドルティーン。お屋敷から出たこともないような深窓の令嬢と思ってくれれば……つまり、知識はあるけど、まったく経験を伴っていない。その知識も、とんちんかん」 手厳しいです。イヴさん。 「何しろ、燃える恋というのを、殴りあうことと思っている」 ちょっと待てぃ。接待ってデートとかじゃないのか。 「燃える想いを拳にこめて、相手のハートに内角をえぐるようにして打つべし打つべし打つべし」 サンドバックに浮かんで消えるのは愛しいあの方なの。ぽ。 「お嬢様は、非情に頭脳明晰。更にケンポーをたしなまれているそうよ。一度にお付き合いするのは一人よねってことで、一度に戦えるのは一人。こちらは武器を使っても構わないし、回復飛ばしてもいい。ただし、外野から射撃しちゃダメよ。退治したときの射撃はありっぽい。ただ、遠距離恋愛! とか、文通! とか、そういうシチュエーションと判断されるだろうけど……」 異文化コミュニケーショーン。 「とにかく、お嬢様は、限界まで戦えば満足なさるから。逆に言えば、お嬢様を倒さない限り、延々と続く。魔力をきらさないように」 ここまでで、なんとなく分かったと思うけど。 「そりゃあ、もう。タフな方よ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月08日(木)22:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 磨き上げられた大理石の床に、窓が延々と続く。 特殊空間、「回廊」。 八人のリベリスタの今日のお仕事は、「接待」である。 「燃える様に来いと御所望なのかー」 いっそすがすがしいばかりの聞き間違いだが、お嬢様は「そのとおりよ!」とか言っちゃうので、『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)は得意げに頷いた。 (濃いだとか曖だとか、誰が言い出したのだ、わけわかめなのだー) 誤変換されてやたら小難しい漢字で考えているが、まだ小学生。 恋愛の何たるかを一ナノメートルも理解してねぇ。 明後日の方向に理解して、それっぽい台詞を言ってるだけなのだ。 「コウイウトキナンツーダッケ……タイマン?」 『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)は、小首をかしげる。 「一人づつよ! いうなれば、対面販売!」 お嬢様は自信満々だ。 「純情一路? 馬鹿の一年岩をも通しすぎて断崖崩落?」 ずれた。 「恋とはどんなものかしら、か。いやいや、意外といい線付いてるぜ」 引用されるのは、モーツァルト。 もてる男、というか、対アザーバイドのお嬢さんのエキスパートの『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792) 「相手にただ夢中になり、一挙一動に注目し、駆け引きの中からペースを掴んで。そして、隙を見つけたらすかさず得意技で攻める。そう言う点じゃ恋も決闘も似たようなもんだからな」 信じられるか。こいつ、まだティーンなんだぜ。 「それじゃあ先陣を切らせてもらおう。さあ、恋のレッスンと行こうぜ、お嬢様」 爪の垢、恋愛成就のお守りとして売れるんじゃなかろうか。 ● 「皆様こちらに。お嬢様のレッスンはいささか時間が読めませんので」 邪魔にならない場所に、執事がリベリスタを案内する。 床からせり上がってくる椅子にテーブル。 お茶にお菓子が出てくる。 「お嬢様は、行動パターンを様々お持ちで。そう、子猫のように気まぐれ!」 「はあ」 「あるときは、腹パン――腹部への拳打でございます――でナノセコンドKO。あるときは、完全ノーガード戦法でお客様が泣き出すまで攻撃をお受けになり続け……ですので、私ども、二周期ほど予定を空けております」 『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)は、不自然にならない程度に天を仰いだ。 (いやガチで戦うのは良いが、それでいいのかお嬢様!?) 『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)も、力ない笑いを浮かべる。 (バトルと恋は違うと思うんだけどなあ。でも、燃えるようなバトルをしたいってんなら、大歓迎だぜ) 「なるほど」 『星守』神音・武雷(BNE002221)は、何度も頷いた。 針鼠の乙女にもすごく優しい殿方である。 「箱入りの異界のお嬢さんか~。折角だし、楽しんで欲しいよな」 (そのためなら、体を張るぜ!) 「燃えるような恋……」 『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)は、小さく呟いた。 (燃えるような恋……アタシはいつもお姉さまにバーニング! 燃える、恋に、落ちる! バーニングラブメテオ! あっはぁっ! お姉さま、お姉さまああああー! ――そんな感じで思いをぶつければいいのかしら?) 脳内は、ボリュームマックスだった。 (アタシに惚れられても困るけど……お姉さまという人がいるし) 「どうぞ。皆様、全力をお尽くしになってください」 頷くリベリスタに、執事は満足そうに頷いた。 ● エルヴィンが防御を万全にするのを見て、お嬢様はまあ。と一声あげられた。 流麗な動きから、びしっと指差す。 「高値の花! 別の言語ならエクスペンシブ。お花は冷凍保存ね!」 一気に、エルヴィンが霜に覆われ、褐色の頬が真っ白く凍てつく。 「ツンドラ! なかなか堕ちないけれど、仲良くなるととても従順という典型例ね! 」 それは、気候区分です。 「……君の想い、まっすぐ胸に響いたよ」 エルヴィンは、根性で己が体を覆う氷を打ち砕いた。 「でも、君が求める恋は、燃えるような恋ではなかったかな」 「うっかり。それでは、改めて」 一瞬、お嬢様の手から放たれる炎でエルヴィンが見えなくなった。 「決闘も悪くねーんだけどさ。誰よりも何よりも大切な、そんな相手の事をただひたすらに想う。それがホントの恋ってヤツだ」 熱血モードで恋を語る十八歳。背中がまじでバーニング。 「驚天動地」 お嬢様は素敵なポーズをとられると、お顔にかけられた仮面の内側が蛍火のように発光している。 「戦闘思考ルーチンを148から756まで並列、ときめきアクシデントの確率が3倍になるように因果律を計算。さらに更なる恋心の表現に努める」 チーンと、電子レンジみたいな音がした。 「心の壁を取り払うべく、『あなたのハートに直接アタック』開始」 お嬢様は、あっという間にエルヴィンの間合いに滑り込んできた。 「届け、マイハート」 エルヴィンのハート――と書いて心臓と読む――にアタック――という名の徹し――を決めたお嬢様。 「OK。分かった。降参だ」 エルヴィンは、胸にずきゅんと来て、昇天しそうだった。 生死的意味で。 ● エルヴィンが青い顔をして戻ってきたのを、立ったまま観戦していた『九番目は風の客人』 クルト・ノイン(BNE003299) が出迎えた。 (恋が殴り愛ってどこで仕入れた知識だ。まぁ鬼に比べりゃ可愛いもんだが) 目の前のお嬢様は、大きな帽子が今日のファッションのポイントだ。 (それにタイマンってのは気に入った。敬意を持って全力で接待しよう) 「さて、お嬢様。次は俺と踊って貰えますか」 (舞踏じゃなくて武闘だけど、そこは雰囲気作り) クルトはそう嘯くが、流れるような構えは舞踏の名にふさわしい。 「踏み込んでくるのね」 お嬢様の帽子の駝鳥の羽が触れる距離だ。 「遠距離恋愛は性に合わないし、恋人同士なら手を繋げるくらい近くにいるものさ」 風の刃がお嬢様の帽子の羽根を散らすが、お嬢様の全身タイツもといボディスーツに一切の曇りは生じない。 「石見銀山猫いらず!」 水入らずと言いたかったらしい。 ドイツから来たクルトが、古い毒薬の代名詞を知ってるか微妙だ。 「もっと顔を良く見せてくれないか、お嬢様」 淑女が仮面を外すのは、寝所のみ。 「ここで一度恥らうべきね?」 きゃ。と、お嬢様が突き出す掌底は、クルトの腹の底に浸透する。 「ガードが固いな……照れてるのかい?」 名門ノイン家当主の気合。 軽口を叩いているが、体の末端まで痺れて、まともに動けない。回避するのが精々だ。 「先ほどの彼の行動パターンを真似してみた」 お嬢様は、そう、秋の空のように気まぐれ。 『ダイレクトハートアタック』を駆使しつつ、クルトを翻弄するワードをおっしゃい続ける。 「障害の多い恋ほど燃えるものだよ!」 削られ続けた最後の気力を振り絞り、クルトは熱いハートという名の炎の拳プレゼント。 「手の甲にキスさせていただいてかまわないかな?」 差し出された異界の淑女の手に、こちらの世界の流儀で礼意を。 ● 久嶺の手にあるのは、愛用のライフルではなく、殴り合いに適したフィンガーバレットだ。 「この方が燃えるじゃない?」 久嶺は挨拶代わりに問答無用の一撃を叩き込む。 「さっき覚えたわ。手をつなげるほど近く。つまり、チェーンデスマッチの鎖は赤く!」 目安は、給料の三か月分です。 「電光石火流し目ウィンク!」 久嶺が放つ、ばちこーんというやたらと重たい効果音と共に放たれる度肝を抜く熱い眼差し。 「うわぁお」 更に繰り広げられる、恋の手管という名目の技の応酬。 「もちろん胸のあたりを狙って……貴方のハートを狙い撃ち!」 かけられた懸賞は、お嬢様のハートだ。 (なんて……でもホントにほしいのはお姉さまのハート) チラッと思った隙をつかれた。 お嬢様がレイバック体勢からお放ちになる、あなたと私を繋ぎたい恋の罠。 絡め取られた久嶺は、声にならない悲鳴をかみ殺す。 「罠に落ちたら、キッスは目にして!」 お嬢様の無貌の仮面がじりじり久嶺に近寄ってくる。 (ひいいいいいぃ、お姉様ぁぁ!) 「恋愛必勝法、完全攻略!」 久嶺の弱点を突き、様々な連続攻撃の末。 「いやぁ! お姉様だけなの、好きなのはお姉様だけなのぉ!!」 久嶺はこてんぱんに攻略されて、おめめぐるぐるの一声を叫んだ。 交代! ● 「ガチなのだーステゴロなのだーあとは自由なのだー死ぬ気で勝てばいいのだー」 四番ホームランバッターは、高笑いで登場の六花である。 「おじょーちゃん、アタイに惚れたら火傷するのぜ」 六花、かっこいいポーズから、ダッシュ。 (マグめーガスが後衛だと誰が決めた、アタイは前衛なのだー) 握る拳に術式を乗せて。 「ふれあばーすとぱーんち!」 「恋は、近距離の花火ね」 「まじっくみさいるぱーんち!」 「何かしら、この胸がきゅんとする感じ」 (ぜ、全然痛がってないのだ) お嬢様、そもそも真っ向から動こうとしてないし。 (当らないなら、集中、ためてためて) 六花は気合だ、気合だと、うんうん唸りだした。 (ふはは。お嬢はこのすきにアタイを攻撃して、魔力をいっぱい使えばいいのだ。アタイは自分を犠牲にしてみんなを助けるのだ。かっこいい!) 「くらえ! 肉を切らせてハートブリッド頭突きな感じ!」 まじっくみさいるは、でこからでる!! ごっちん!! 「……これは、こ~いつ~?」 お嬢様の仮面が若干へこんだ。 「……おかえし」 お嬢様は、してやったりと胸を張っていた六花の頭をがしっとつかんだ。 お嬢様、やや後ろ体重。 「こ-いつー」 ぐおっっちーん!! その一撃で、六花のメーターが振り切った。 六花の人生には劇的の二文字がよく似合う。 運命の恩寵は関係なく、六花の主人公体質で立ち上がる。 「アタイは終わってないのだ! おじょー! オマエのハートはその程度かー!?」 ごっちん。 「アタイは」 ごっつん。 「アタ……」 頭悪くなったら困るから、チェンジ! ● 「俺のターン! 勝負だ!」 すでにラヴィアンは魔力の賦活済み。 凄まじい勢いの呪文詠唱に応じて、ラヴィアンの肌から滴り落ちる血が鎖と変わってお嬢様に一直線! 「これは! 噂のチェーンレター!」 お付き合いは、文通から。 ラヴィアンの鎖が、お嬢様を絡め取る。 「緊縛且つ束縛! これは、ヤンね! 遠距離ヤンとは高度な恋愛技量だわ!」 真白い仮面の下から滴り落ちるのはお嬢様の尊い聖血。 「ああ、恋って身を蝕むのね。 このままだと、死因は焦がれ死に!」 まんざらでもないみたいだ。 「でも、まだお返事していない」 それはダメっなポーズ。 お嬢様は、意志の力で全ての不調をぶっちぎった。 「キミがボクにデレてくれればいいのに!」 お嬢様の指先からびしっと放たれた何かが、消えかけている黒鎖とすれ違う。 そのまま、ラヴィアンの急所を純情一直線! 「ヤンへの特効薬は、マゴコロ!」 胸の前で両手を交差、マゴコロのポーズ! 「キミがデレるまで、愛するのをやめない!」 互いに駆け寄る姿は美しい。 ラヴィアンは、右手でお嬢様のテンプルを狙うとフェイント。 「受け取れ! これが俺の! 全身全霊の愛だっ!!」 本命は、左。 「必殺のラヴィアン・アッパーだぜ!」 お嬢様の拳とクロスカウンター! クリーンヒットしたことを確かめて、ラヴィアンは床に突っ伏した。 ● 「おれ、タケミっていいます! おれと、つきあってください!」 読点辺りで「ど」って言った。 「お友達からお願いします!」 お嬢様、ブロードソードを跳ね除けながら、炎の正拳突き。 「…ありがとう、すげー嬉しいよ! 絶対大切にする!」 ごうごう燃えながら、そんなことを言う武雷にお嬢様、恥じらいのポーズ。 「そんなっ。これがバレンタインっ! こんなのでよければ!」 矢継ぎ早に叩き込まれる豪炎撃。 すでに回廊の一点が、インフェルノ。 「キミの拳があたる度に、こんなに胸がドキドキしてる…! 頬が熱くて、指先がジンジンするんだ。キミの拳も、そうなんじゃないかな?」 それは火傷だ。 次元の飛び越えっぷりは、お嬢様といい勝負かもしれない。 無限にあると思われた武雷のHPという甲斐性が、ごっそり削られるときがきた。 「……やっぱりおれ達、もうだめだね……サヨナラ、大好きだよ……」 「結婚式ドタキャン!」 下から掬い上げるフォームに、あ。と息を呑む者がいた。 ラヴィアン・アッパーだった。 ● 「ナンダヨー。集中シナイトアタンネージャネーカヨー。ラッキーヒットも結構多いナ。シカモ避けるしよー」 リュミエールは、大体これっくらいかなーと数値予測をしている。 武雷とすれ違ったとたんに、加速する。 アーク最速の加速が一気にお嬢様との間合いをつめる。 壁が、床が、柱が。 何もかもが、リュミエールの足場だ。 「もっと咲かせて見ましょうアナタノ心」 咲いたのは、お嬢様の聖血の華だ。 リュミエールのごくありふれたナイフにこの次元で現界可能な最大威力を載せて叩きこまれたのだ。 「ああ、私の心が溢れてしまったわ。ここかと思うとまたあちら」 びしっとお嬢様、やられちゃったのポーズ。 「盗った心返せ、モンスター! って感じね!」 次の攻撃をまともに当てるには、集中を織り込まねばならない。 さすがのリュミエールも動きながらは集中できない。 足を止め、お嬢様を見つめ、次の行動の起点を探す。 お嬢様もあえて集中。 「白い火花の心は最高潮!」 なぜか片足立ち。 「「これぞ、電光石火!」」 攻防は一瞬。 攻撃の強度は互角。 体の強靭さがお嬢様を立たせていた。 ● 翔太は、ずっとお嬢様の動きを観察していた (恋はひらりと避けるほうがいいんだよね。めんどくせぇから。ま、俺はそんな風に思われることはまずねぇけどな) この様子だと、ヤラハタはすぐだ。 「ガチでの戦闘、燃恋を御所望だろ? だったらいいじゃん、やってやる。満足出来るかわからんが付き合ってやるぜ、お嬢様!」 「まさかの俺様キャラ!?」 ある意味、そうかも。 一つ一つの挙動を良く見ながら、接触ギリギリでかわす翔太。 お嬢様は高らかに叫んだ。 「あなた、名にし負うフラグブレイカーね!」 確かに拳という名のアプローチを全て粉砕してます。 「朴念仁には怒涛の一手!」 翔太が好機をつかむのが先か、お嬢様の疾風怒涛が押し切るか。 「それぐらいの時間、耐え切ってみせる!」 切り結ぶ。 回廊中を跳ね回る残像を駆使する翔太の幅広の刃で、お嬢様の帽子がおちた。 「ばかーっ!」 ひらひら飛び回る殿方を捕まえる魔法の呪文。 怒涛の一手、押し倒し! 床に打ちつけられた衝撃で、はらわたが皮膚を破って天井まで飛び出しそうだ。 (俺はやる気はなくても一応平和の為に戦う考えはあるんだ、その為の力があるし、じゃなきゃアークにここまでいねぇ、どんな相手にも負けてたまるか) 喉元にこみ上げてくるものを、無理やり飲み下す。 (燃恋に屈するかよ!) 上から翔太の顔をのぞき込んでいるお嬢様に、翔太は笑って見せた。 「まだまだ燃え足りないだろ? だったら恋をとことんやろうぜ、お嬢様!」 ● 精根尽きた翔太が引きずられていく。 「失恋だわ……」 お嬢様は顔を手の中に埋めた。 「愛の大きさが、私を孤独にするのね」 「お嬢様」 「魔性の女ね」 「お嬢様」 「魔性のポーズ!」 「お聞きください、お嬢様」 「なに?」 「皆様、お元気でございます」 「なんですって?」 ずっと回復詠唱を続けていたエルヴィンが微笑む。 「やけぼっくいに火が付く、って言うだろ? 恋ってのは再燃しやすいものさ、一度で終わりじゃねぇんだぜ」 「お猿が拾って食べるのね!」 食べない。 「まだ貴女が忘れられなくてね! もう一度付き合ってくれ!」 「2順目が無い、なんて誰も言って無いよなあ」 「やっぱりきみの事が忘れられないんだ!もう一回……もう一回付き合ってくれないか!? もう自分を飾るのもやめたんだ!」 並みいる求愛者に、お嬢様は床に落ちた帽子をかぶり直した。 「やっぱり、私は罪な女ね」 お嬢様は、優雅に罪な女のポーズを決められると、リベリスタを指で招いた。 「恋がしたいの。 命、燃え尽きるまで」 「一応、最後に言っておくけど……恋ってこういうものじゃないから」 万感の思いを込めて、久嶺が声を振り絞る。 あら、それでは。 恋とはどんなものかしら? |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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