● それは、割とこっそりと掲示されていた。 「VTSによる研修・アーティファクト編 *依頼ではありません。あくまで希望者のみ参加」 リベリスタに対する依頼一覧から外れるようにして、短い文。 後になって思えば、「希望者」の部分だけ、やけに念入りに太字だった。 なんで、あんなものみつけちゃったんだろう。 ● 「ウィルモフ・ペリーシュなんてビッグネーム出すまでもなく、アーティファクトというのはとても厄介」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、無表情だ。 というか、何かこみ上げてくるものを我慢しているようにも見える。 「アークは志願制をとっている関係上、アーティファクトが関係している案件とあまり出くわさない人もいると思う。やはり、ある程度はどういうものか分かっていてほしい」 イヴはモニターに三文字を表示する。 「Ⅴ・T・S」 経験不足を補うために使われた、ヴァーチャル・トレーニング・システム。 「今回は、効果が出たとき一番現場が混乱する、人心誘導系」 ふんふん。そういうのに対処する方法を探る上でも大事だよね。 「それを有効に使うため、とあるゴーレムの効果もプラス」 え。なんだろう。この既視感にも似たいやな感じ。 「例によって、今回も以前発生した事件の追体験をしてもらう。ちゃんと解決した案件だから。人数も大量に投入するから問題ない。発生した敵は一定時間経つと瓦解するから元に戻ることは確定済み」 なんか、きな臭い感じがする……。 今すぐこの背後のドアを開けて出て行った方がいいんじゃないかな、いいんじゃないかな。 「ちなみに、今回使う案件は、E・ゴーレム。識別名『とりかへばや……」 脳に走る冷たい感触。 『とりかへばやの鏡』 怪しい光線を照射し、対象の性別を反転。 本体を破壊しない限り、戦闘終了後五日間そのままという強効果。 その容姿は、本人の願望・恐れ等々を体現させ、外見年齢すら超越させる。 心に住まう人物に似通ってしまう事例まであり、あなたの心のひだお見通しになってしまうのだ。 現物は既に破壊されているが、そういうモンまで再現しましたか。 誰か、あの自称天才室長、死なない程度にシメてこい。 ろくでもない効果という点では、満場一致だ。 更に、体に傷がつくわけではない。 効果範囲も広い。 確かに実験にはもってこいだが。 心の傷はどうしてくれるの。 ここまで、リベリスタ的脳内処理。 「『……の鏡』の案件」 失礼しまっす! 背後にダッシュ。 ドアに手をかけるが、開かない。 何これ、電子ロック!? 「言っておくけど、『とりかへばや』は、あくまで補助。メインは……」 画面に真紅のアネモネのコサージュが映し出された。 「『アドーニス』」 それって、つけた男に無条件でほれてしまうやばい奴じゃないですか、やだー! 「「「開けて~!! ここ開けて~!!」」」 男性リベリスタ、扉に殺到。 「大体感づいたみたいだけど、改めて説明する。男性には『とりかへばや』で女性化した上、女性人はその後に投入。『アドーニス』をつけた対象と対峙してもらう。効力はある程度弱めるので、どのくらいの強制力がかかるものか、体感しほしい」 それって何の拷問? 「ちなみに、『アドーニス』つけるのは、男性なら絶対に好きになりたくない人にすることにした。これなら、そう簡単に篭絡されることはないと思う」 まあ、本物じゃない、データ投影だけだけどね。と、イヴ。 「三高平で一番の女性の敵、沙織につけてもらう。それでも、よろめいちゃうかも。アーティファクト、怖い」 「「「出して~!!!」」」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月06日(火)23:38 |
||
|
||||
|
● 「男性の皆さん、楽にして下さい。皆さんの身体データを「とりかへばや」シークエンスに基づいて、変換します」 いくらドアを叩いてもロックは外れず。 日々進歩するリベリスタの切羽詰った火事場の馬鹿力的渾身の一撃をサンプリングして、アークのセキュリティも日々進歩しております。 ぶっちゃけ、とっととVTSに身を任せろ。 なにがどうなろうと、これは研修だ訓練だここでの経験が実践で役に立つのだこれから辛いことがあったとしても後にあの時に比べればこんなのなんともない! と大見得切れるのだ戦場で初体験とかいやだろうそうだろう今の内にあれだそれだつまるところだ。 備えあれば、憂いなし! ● ギャハハッと笑い出したのは白山だった。 「こ、これは……おっぱい!? って程ねェー! 当たりめぇだよオレサマまだ12歳児だもんよ! 二次性徴期丁度スタートしたばっかだよ!」 揉もうとしても、うわあ、指が引っかからない。 「……空しいぜー」 空しくないのに、どうでもいい人もいる。 高校男子制服のワイシャツのボタンがピンチだ。 さらっさらの黒髪ロングストレートヘアになってしまった翔太が珍しく声を荒げている。 「なぁ、どういうことなんだこれ? VTSでの模擬戦の立会いじゃなかったのかよ? なぁツァイン、優希……!?」 「おぉぉ! これが女の子の体かー。うぉ、俺、結構胸でかくない? Dくらい? ちょっと翔子! 何この髪、なんでこんなにツヤツヤなのッ? ずるくない!?」 何で女言葉になるんだ、ジーンズにTシャツ長めのポニーテールのナイスバディな女の子ツァイン。 「これは、悪夢だ!」 赤髪ベリーショートの低身長。 優希は、ほっそりとした自分の両手で変化を確認すると同時に部屋の隅へと移動し、小動物のように震える。 「え、いやちょっと待て優希?」 翔太、たゆん。 「やだ、ホムホム可愛いー!」 ツァイン、ぷるん。 ストイックに色恋沙汰から距離を置く格闘家。故に耐性も度胸も何も無い。 「そ、その凶器を仕舞え!」 ストイック言えば許されると思うなよ。 おっきいおっぱいは凶器じゃない。 免疫なくて、部屋の隅っこで震えているのは風斗も一緒である。 源氏名風子ちゃん、仮想現実逃避中。 (くそくそくそっ! もう二度とあんなのは御免だと思ってたのに! しかも、今度は魅了のアーティファクト+時村が付いてくる? 神様! オレ何か悪いことしたのか!? これはあんまりだ!) 過酷な訓練というだけの話だ。耐えろ。 世の中、深く考えない方が幸せという場合もある。 「あんまり変わったとこはねーな! うあ!? やられた、女になるとか! 羽音にどう言い訳すれば……」 女子になってきましたの方が、女子にモテモテになりにいこうとしましたよりはましじゃないかな。 「霧島ちゃん、やたら可愛くなってるよ。どうすんの~それ」 変わり果てた自分の姿に、葬識、ため息。俊介見て、またため息。 「あれ!? 俺、あんま胸無いんだけど!! どういうことなの!!」 「むしろそのままのほうがいいんじゃ。そういう好みの人いるじゃん} 潜在意識の結果です。君的に、君は貧乳キャラなんだよ。 「やだぁあ! 早く戻りたいいい。熾喜多を襲うために! オッキー、ちょっと揉ませろ!! えへへへ、柔らか熾喜多」 「殺人鬼ちゃん、初女の子でテレチャウワ! って、女の子同士だから余計にひどくなっちゃってるじゃん~ この子~」 もう、揉まれるがまま。 ランディもお初である。 作業用オーバーオールはダブダブに。何故かもっていた眼鏡をかけて、赤く長い髪をポニテで纏めた一見理知的な褐色少女。 「噂には聞いてたが 私までこんな風になってしま……え? わたし?」 (おのれ! 言葉が勝手に変換されるぞ!) それは、君が女の子は「私」と言うもんだと思ってるからだ。 快は、今回もドア叩くのに必死で、着替えデータ入力を忘れた。 (またズボンがずり落ちる……そうだ! 『ジャケット一つでマイクロミニって開き直っちゃった方がエッチくない』 って、誰かが言ってた) よし、実行! マイクロミニだもん! 見下ろす。 いい感じに酒飲んでるから、お相撲さん的につやつやむちむちもちもちのまぶしいふともも。 「――って、これもエッチじゃないですかー!」 へたり込み。開き直りがたんねえよ! ヴィンセントもペタン子座りだったが、幸せだった。 じっと手鏡を見つめる。 鏡の中に、うさ子さん。 (僕の心に住まう女性はただ一人ですから、全く想定の範囲内です。問題ありません) 100%ピュア男は、これだから。 (青緑の瞳と黒翼だけは元のまま。僕とうさ子さんに娘がいたらこんな感じなのでしょうか……うさぎの耳が頭から直に生えているのが気になりますが……) 「あ、耳動く。ぴこぴこ」 『智夫さん、もう少しミラクルナイチンゲールとしての自覚を持って下さい』 頭の中で、すね気味の声が? 『今回はいい機会だと思います。頑張って』 だれ? だれ? 今の笑顔、誰? 「ミラクルナイチンゲール? 拙者、智子ですが何か?」 いつもの脱走王です、こんにちは! (……あいたっ。何、今の。神気閃光? クロスジハード自分にだけかけようとしたから!?) あなたの心の中に、ミラクル☆ナイチンゲールが住んでます(はぁと) みんなに優しくしないと、お仕置きですよ? ● 「それでは、女性陣お待たせしました。変換プロセスに入ります……」 ● 「まこにゃん……どうしてまこにゃんはこんなに可愛いの?」 「今日は杏は女のコのままなんだね? 今日は二人で勝負だもん! 沙織にメロメロにならないぞ対決、絶対負けないよ!」 (そしてどうしてこんなに優しいの? でも今は女の子なのよね……あれ?っていうことは? むしろ、おさわりオッケーなんじゃない?) いや、そういう解釈ってどうなのかな!? 真独楽ちゃんは小さいから、本人の同意があっても罰せられるよ!? (おしりは少し肉付きが良くなるのかしら。胸は少し膨らんだりするのかしら。ブヒヒヒヒッ) 真独楽、リーディングを早急に習得することをお勧めする。 悠里は、ぺたんこ座りで泣いていた。 ぶかぶかのボーダーラインの制服は、ベルトがあるのでズレ落ちたりはしない。 ふわふわウェーブの腰まである金髪、顔はそばかすのある可愛い顔立ち。 その背後に忍び寄る影。 伸ばされた手を間一髪避けた悠里の背中に迫っていたのは。 「ふふ……全く、手がかかるお嬢さんだな。だが、それでこそ飾り甲斐もあるというもの」 眼鏡モードの那雪だ。 「ここからは本気で行かせて貰おう……そのふわふわした髪にこのリボンを結ぶまで諦めないよ?」 集中しつつ行く手を遮り、最後は背後から優しく結って上げるよ。 戦いが始まった! 「――って、何これただのVTSじゃなかったのおおお!? でも沙織んに魅了されないよ! 遊ぶんだから!」 これだから、お腐れ様は。 先輩がいるから、って言おうよ。 「い、壱也!? どうしてここに!?」 「遊びに来ちゃった! しかし……まぁ……みんな巨乳に……」 しょーたん、推定F。ツーくん、推定D。 「壱也~!! あいつら胸に凶器が……っ」 と叫びながら、壱也の後ろに隠れる優希。 あれ? 壱也は怖くないのか? 「え? なんかさらりと……え?」 ぽくぽくぽくちーん。 「お仕置きだー!」 優希、撫で回されむにむにされ真っ赤になり涙目で頭から湯気。 「しょーたんがお揃いの黒髪で、サラサラ! 綺麗だなー。ふふー、かわいいから三つ編みにしちゃえー!」 「まずはVTSから出ることを優先しようぜ」 頭結われつつ、翔太、提案。 君ら、VTSをきちんと理解してないな。 悪いが、全プログラムが終了するまで止まらん。 「イッチー、録画よ録画!」 「そうだね、ツーくん!」 うん。さすがのお腐れ様でも夢録画は無理。 夢乃は憤っていた。 部屋の隅っこでプルプルしてる風子ちゃんの前に仁王立ち。 (ああもうどうしてあたし男じゃないのどうして楠神さん男なの) 「――って何を隅っこでガクブルしてるんですか! ダメじゃないですか、ちゃんと毒牙にかかりに行かないと!」 風子ちゃん、涙目で必死の抵抗。 「いやっ、ゼッタイ放さないんだから!」 「嫌だ! 絶対時村のヤツを見ないし、近づかないぞ!」 (初恋すらまだだというのに、よりによって人生初のときめきの相手が同性、しかもあの時村になるかもだなんて、考えただけで自害したくなるっ!) しかし、体が小さくなっているのでイマイチ力が入らない。 ふるふると首を横に振る。 胸キュん。 「風子ちゃんが可愛いのがイケナイんだよ……?」 どっこいさ~!! 夢乃、お姫様抱っこで風子確保。 ● 「それでは、研修第二段階に移行します。アーティファクトを投入します。できる限り抵抗し、抵抗し切れなかった場合は、どういう精神状態になるのかよく体感してください」 そこに立っていたのは我らが室長。 自分より年下に「見える」女子は、全て守備範囲。 お金持ちで美男子で適度にウィットが効いてて、適度にエッチ。 三高平の女の敵。 そういう訳で、男の敵。 そんな沙織の外見データを駆使した「沙織ん」 「マネキン……って、人形じゃないの!?」 「どっからどう見ても、本物の室長だ!?」 「VTS、ぱねえ!」 革醒していない沙織をVTSに放り込むのは万一のことがあったりするとしゃれにならないので、外見データと一般動作モーションだけ忠実に再現。 振り向くだけで罪な男、降臨。 ちなみに、会話エンジンを組み込まなかったのは、純粋にアーティファクトの効果を体感してもらうためである。 遊びじゃないのよ。研修なのよ。 さあ、女子達よ。 誘惑をはね退けるがいい! ● アーティファクト「アドーニス」は、まじでやばい。 「恋愛感情が分かっていないのでマネキンを好きになるというのも正直ピンと来ない。奴は器の大きさを示しもしなければ強くもなく抱擁もしない」 この際、沙織がマリーにどう思われてるかは問題ではない。 ……むしろ好きになってみようと女子に群がられるマネキンをじーっと見ているうち、何かしら。 この胸の高鳴り、過呼吸、きゃあと声を出したくなる衝動は。 「……」 群がる者達の内、女体化した者たちが気になって仕方ない。 「ええい。男のくせに群がるなぁ!」 湧き上がる理不尽な独占欲。 これが、恋。 リベリスタに戦慄走る。 マリーをしてこれだよ、使役形。 リサリサも必死で抵抗した 「気をしっかり持って変化を受け入れないといけませんね……」 (アドーニス…とても恐ろしいものだと報告で聞き及んでいます。でもワタシもリベリスタの末席に籍を置く者……そうやすやすと負けるわけには……まいりません) しかし、弱められているとはいえ、『アドーニス』はどんなエアヘッドでも男ならば女を骨抜きにできる恐るべきアーティファクトなのだ。 寄る辺なくては、抵抗もかなわない。 (この上偽沙織んにメロメロとか目も当てられない。必死に堪える) それでも快の胸が高鳴るの。 守護神でも、この有様だよ。 (でもこの気持ちは――だめだめ、だめよ!) いつの間にか、思考言語が恋する乙女モード。 「私の不沈艦はアイツだけのものなんだからっ!」 ……なんだと……? (……今何か致命的なことを口走った気がする) 女子に対して鉄壁の紳士を貫く新田君。 君が「アイツ」呼ばわりする女子って、三高平にいたっけ? ま、そんな詮索していられる余裕は全員ないのだ。何しろ、沙織んはぐるぐる歩き回っているから、誰も魅了範囲から逃れられないのだ。ふーはーはー。 (鏡を見つめて現実逃避しているのはアレが視界に入らないようにするためです。この姿であのロリ……もといアレにメロメロきゅーなんてことは絶対に避けなければ) 意外と考えてるな、ヴィンセント。 (鏡の隅にアレが映ったらすかさず角度修正。ああうさこさんかわいいなあ) ぴこぴこ。 霧香はふらふらしていた。 「うぅ、絶対タイプじゃない筈なのに心が揺れるなんて、ホント卑怯っ。ああ、なんだか凄くカッコよく見えて……」 (ダメ、ダメだよ霧香、あたしには好きな人が居るじゃない。無茶ばかりして、命を磨り減らすように戦って、 いつか燃え尽きてしまいそうな、ほっとけない人が) その好きな人は、ショックのあまり、霧香の腕の中で抜け殻状態。 いやん、女の子でかわいい。ッて、そんなこと言ってる場合じゃない。 (ただの心配性? ううん、違うあたしは彼が好きだから目を離せない。その彼が隣に居るんだから、マネキンなんかに負けるもんか!) 明奈は、お気楽だった。 (さおりんって普通にイケメンじゃんか。金持ちだし! プレイボーイでロリコンなのがアレだけど!) 「まあ、抵抗するまでがお仕事だって聞いたからね!」 一応、全力で抵抗を試みる。みた。 「じゃ、沙織んの毒牙にかけるお手伝いをする」 どーん。 元男子を羽交い絞め。さあ、沙織んを見るんだ。 きゃー、やめて-、よしてー。人の心があるのならー。 (いやー次々と心が折られていく様を見るのは楽しいなあ! 特に知り合いのは! 風斗とか! うへへへへ) 白石さん。黒いよ。 那雪なんぞは、 「ん、沙織んがどうした? 生憎、私は悠里ちゃんを飾るので忙しいのでな。遠慮しよう」 リボン対決は、那雪が勝ったらしい。 「さおりさんじゃないですかヤダー!! 男になびくのは嫌だけどさおりさんはもっとやだ!」 ふわふわ金髪を容赦なくリボンで飾られた悠里、涙ながらの抗弁。 「私は恋人がいるのよ! 恋人以外の人になびくなんてあっちゃいけないの! カルナちゃん! 私の天使様! 私の心はいつも貴方でいっぱい! 私はいつだって貴方を見ていたいし、私を見ていて欲しい! 他の誰かになんてなびくもんですか!」 そーよ、そーよと冥真も叫ぶ。 「残念ね。私には一応、心に決めた子が居るのよ? この格好で言っても説得力無いけどね。百合? 上等よ。愛に性別なんて必要だったかしら?」 冥真。君はそれ口にすると危険だ。言質とられるぞ。一部のあれに。 「あーあー聞こえないわよ? 普段は清い男女のはずだから問題ないわ。私はこれでも純情一途なのよ。 アナタのためじゃなく私の為に、醜態を晒せないわ。こんな奴に惚れたんだって後悔させるの、可哀想だもの」 二十歳越え、擬似乙女の主張。 アルトゥルは、自他共に認めていた。 (魅了なんてされないですされたくないですきっときっときっと!アルがんばる!) 「ふえ。あ、あのそのええと。アルはまだまだお子様ですので、恋、だとか、愛、だとか、分からないんですけど」 (で、でもでもその、なんか、胸がどきどき足元がふわふわ、するよう、な……?) 人はこうして、恋を知る。 {アルが!アルがこころから愛しててらぶでいとおしいのは! 他のだれでもなく、とうさまとかあさま! とうさまとかあさまのこと、いちばんいちばん、らぶだもの!」 それは恋ではないけれど。 自分はお子様バリアーとの相性が、アルトゥルを支えきった。 (……乗り切った? 乗り切れた!? アルがんばった!! えらい! 帰ったらとうさまに撫でてもらうの! えへへ! ) 「まこの理想はもちろんパパ!」 バレンタインもパパに上げました。 「お金持ちで30代で美形でモテモテでまこと血が繋がってない時点で、沙織とパパは全然違うし……絶対スキにならないもん!」 おお、威勢がいいね。 「……ちょっとイジワルだけど最後は優しくしてくれるとことか……す、スキじゃないもん! スキじゃ……」 (杏の方はどぉかな? 沙織にメロメロになってる杏…想像できないけど、杏も女のコだもんね。そぉいえばどんなタイプの人がスキなのかなぁ? ) 「私は、絶対に、まこにゃん以外の人に、心奪われたりしない!」 堂々の大音声。 「ところで沙織って誰だっけ? ああ、あの、何? ロリコンの人ね?ロリコンはねー。だめよね。女の敵以前に、人類の敵よね。だめだわ、惚れれるような要素が全く思いつかない。そんなことよりまこにゃんよ、まこにゃん!」 沙織んの怖いとこは、君もロリに見えるEX持ってることだよ。杏さん。 凛子は、リルを後ろから抱っこしていた。 「いつもよりちっこくてやわこい感じですね」 「…………服のサイズが合わないです……ッス」 背後の柔らかな感触に、驚いて焦るリル。 女の子になると、弱気でさびしがりな自分になってしまうようだ。 「さお……ごほん、沙織んは好みの感じはないんですよね。なんというか、保護欲を誘う可愛い感じの人の方が好きですからね」 うろうろ沙織んが視界に入る。 BSの誘惑の訓練ですからがんばります。と続ける凛子の言葉が、リルの頭をぐるぐる回る。 (顔は熱いけど、安心するのです……ッス) 「リルの一番は沙織んじゃない気がするのです。ッス」 沙織を見ても心は躍らない。 凛子の袖口をきゅっとつかんだ。 エレオノーラは、高僧のように悟った瞳の女子高生だった。 女性陣にまぎれこんでいようと思っていたが、そもそもVTSはデータ世界。 性別「男」余裕で、データ変換されました。 「沙織ちゃんはロリコンの癖にあたしが男だって事も見抜けなかっただなんて修行が足りないの。そのマネキンである沙織んに落ちるわけないの。大体平べったい顔で胴長短足の日本人とかご遠慮なのだわ。おじさんより猫もふもふしたいわ」 女子高生モードも破壊力抜群です。おじいちゃま。 その様子を見ていたレイライン、ほっと胸をなでおろす。 「よかったのじゃ。もしものときは、足にすがり付いてでもとめようと思っていたのじゃ」 『やーじゃー! そんな姿見たくにゃーいー!! わらわならいくらでも見たりモフったりしていいからー!!』 レイライン本人はそればかり気にして、沙織んまったく眼中に入らず。 傘寿にタックルする決意をしていた還暦。 三高平のご長寿は、今日も元気です。 「そうなの? ジャパニーズボブテイルの尻尾の短さとかラブリーな模様とか猫の愛らしさの方が数倍素晴らしいのよ!」 エレオノーラじいちゃんの主張を、レイラインばあちゃんはうんうん頷いて涙ぐみながら聞いていた。 虎美の心は、一人の男で満杯だ。 (VTSとか面白そうだよね……脳内イメージ投影でお兄ちゃんが目の前に再現できないか頑張ってみる。 成功したらいちゃいちゃ) 「アドーニスによる魅了? そんなの関係ないねっ。私にはお兄ちゃんがいるもん!」 ブレイン・イン・ラヴァー解放! (やだなーお兄ちゃん私が室長にときめくわけないじゃんほら私って一途だしお兄ちゃん一筋って言うかそれはお兄ちゃんもわかってるよねうふふ嬉しいやっぱりわかってくれてるんだお兄ちゃん大好き愛してるところでお兄ちゃんちょっと目の前に出てきてくれないとぺろぺろしたりぎゅって出来ないじゃんほらそこにVTSなんてお誂えのマシンもあるし出でよバーチャルお兄ちゃん! ) いや、でねーから。 ● 影継は、金髪ぐるぐる縦ロールで黒い雪だるまだった。 (既に一度変化を経験した事があるから、きっと前と同じ姿になるんだろ) せめて、衣装データは変えようや。 (別にどうってこたぁ無い) 油断していたのが、敗因。 「沙織さん沙織サン沙織SANSA織さン沙オりさん沙織さん沙織さん! 愛してああ亜アぁ唖愛相愛L@VE愛愛愛愛どうして私の愛に応えてくれないのですか私の愛には答えられないというのですかだったらあなたを殺して私も死屍刺シSIシッシシ死ね!!!邪魔する者もみんな死ね氏ね死ねェ!!!」 すがすがしいまでのヤミっぷり。デレてない。 沙織ん目掛けて降り注ぐ蜂の巣弾幕の前に、恵梨香さんが立ちはだかった。 (気分の良い話ではないが、今回の訓練は実際にあり得ると想定。真剣に取り組み、マネキンであっても要救助対象、室長は救助する) 沙織んをかばえる距離に陣取ると、襲い掛かってくるヤンに立ち向かう。 「必ず救助します。この命に代えても!」 朋彦は、昭和のスケ番だった。 美乳をホールドする晒しに学ランの裏番系乙女。スカートはロンタイと決まっている。手には木刀。 「ふん。あの木偶の坊に惚れろって? モヤシみたいな坊主にしなだれろって? せからしか! 博多の女を舐めちゃ困るんよ――生者必衰っ、ちぇすとーっ!」 ぼさぼさのセミロング、薄化粧、トレンチコートに目立たないジャケット。 女探偵崩れ。容姿は中の下、目付きだけが鋭い。 加え葉巻きのジェイドが、朋彦の前に立ちふさがった。 「クソッ……思った以上にハードな仕事じゃねえか――恥の上塗りだが仕方ねえ。守ってやる」 七海は、弓道乙女だった。 前回の反省を活かして、弓道着胸当て装備。 もう挟まない。 「っえ? 私はただ弓の鍛錬をしに着ただけです。でもいざとなるとこう、なにか恥ずかしいものですね」 近寄ってきた沙織んをみて、ぽ。と頬が染まる。 「……えい」 照れ隠しに一射。弓道女子の恋文は矢文と決まってます。 その矢を夢乃が握りつぶす。沙織は天敵だが、沙織んはラブだ。 「……沙織んの物理的破壊を目論むのは、あたしという盾を砕いてからにしてもらいましょうか!! あたしの物にならなくても……護る! 」 ランディ、驚愕。 「普段から憎ったらしいタラシにドキドキするわ……え、ええ?」 (何、この小動物を撫でたくなる様な感覚は、いけない。私には大事な女が。くっ、この湧き上がるモノは……!) 黒髪大食い美女を裏切るなんて出来ない。 (そうだ! どいつもこいつも殺せばいいんだ! 感情を殺意で塗り固めろ……あれは私の愛する者の敵だ!) 愛している人だけが大事なの。それ以外は。 「うおおお! 死ねぇ! 烈風陣!」 沙織目掛けて吹きすさぶ剣風の前に、超ミニスカート美脚綾兎降臨。 「ふ、ふふ……俺への挑戦状だよね? 絶対、惚れたりしてないからね!」 じゃ、なんでかばってのさー。 「……眼鏡掛けた男性ってクールでかっこいい……とか思ってないんだから!」 (まって、俺。騙されるなあれは危険。超危険……) 「いやでも、アレだけ身長あって大人の雰囲気で知的で……いやダメだって」 (そんな事になったら、俺もう本部に顔出せな……) 大丈夫。ここ、本部。 帰りにあったらまともに顔見れないかもね。 ティセラのベクトルは、綾兎と同じ方向なのに。 (いつもの室長の胸にアネモネがついてるだけじゃない。戦うために生まれ戦うために生きている私の心は色や恋に惑わされたりしないわ。絶対にアドーニスに負けたりなんかしない) みんな、そう言ってた。 「あぁ……室長……」 一瞥。ティセラ、君の瞳は恋に落ちてる。 「私はあなたになんて出会わなければよかったの。生まれた時から鎖に繋がれた猫は、広い世界の事など知るべきではなかったのよ。長い時をかけて凍らせた感情を……容易くあなたはその暖かな掌で解かしてしまった」 なに、この舞台劇。 誰か。ヒロインにスポットライトを。 「……ねえお願い……今度はあなたの唇でこの鎖を解いて、沙織……」 舞台なら、暗転。 「はっ。やだ。今の聞いてたの」 ええ、腹の底からのナイス発声でしたので。 「みんなころすわ」 終は、美脚美少女だった。 そっと沙織を伺い、ぞわ……と背筋に電気が通るのに、目を細める。 「一瞬視線があっただけなのに、ときめいた自分がきもい……」 (時村のおにーさんが嫌いなわけじゃないけど、ボクは普通の子が好きなの! 女の子に生まれ変わってもおにーさんはあり得ない) 王子様はいらないわ。面倒だから。 (このままじゃやばい。どうしよう……そうだ。ヤンデレよう!) そうくるか!? 「ほら、見てよ。あんなにたくさん女の子侍らせてでれでれ、して……酷い、人、だよ、ね……」 満面の笑顔でハイスピードINしてソニックエッジ!! 「ボク一人の物にならないなら…死んで♪ おにーさんをやるのはボクなんだから邪魔…しないでね? おにーさん♪すぐにボクも行くから先に逝って待っててくれるよね♪」 無理心中、キタコレ~!? エーデルワイスは、仁義をきった。 「絶対沙織んに堕ちない! いつも敗北ですが今日こそは勝利を!」 (あれが沙織んマネキンあの微笑を見ると心の底から殺意という名の愛憎が沸いてきちゃいますね) 「うふふふっふふふhふhh、あはっはっはっはっはhh」 口から漏れでる笑いが止まらない。 「私の沙織んへの気持ちは道具如きに曲げられなどしません! 沙織んと戦う、沙織んを殴る、沙織んを撃つ!」 そう。沙織んへの一途なる想い。これこそ愛! 愛と憎しみは表裏一体。 愛憎渦巻くエーデルワイスの心が、「アドーニス」へと銃口を向けさせる。 「待ってて沙織ん、いつかきっと」 葬識は、息を荒げていた。 (クールな俺様ちゃんは霧島ちゃんをみて、クールダウンするよ) とか言いつつ、ヒートアップはとめられないの。 (あ、でもあの時村ちゃんは悪くないかも。首ちょっと鋏でぶったぎりたくなるかっこ良さだったっけ?) 「うわーやばー殺したい~!」 甚内は、族上がりの割りに乙女だった。 (あっ……やだ! 室長ちゃん……! なんか胸が…ぽかぽかしちゃう…!) 「……ぅぅううわぁあーっ! ちがぁぁあう! ぃやだー! 女抱くのは好きだけど男に抱かれるのなんて例え擬似でも死ぬくらいやだー!」 大丈夫。沙織んにはそんな機能はありません。 (うん? ……うん。僕……思った以上に男好きされかねないムチムチドスケベボデーやん……? これを持て余しておくとかそんnちがあぁぁぁああうってばあぁぁっ!) 皆『アドーニス』のせいってことにしていいのよ。 「もーやだー! 心奪われるくらいならこっちから奪ってやるぅうーっ!」 即席特攻乙女爆誕だ! そんなこんなで大量ヤンヤンが暴れまくって、沙織ん大ピンチ。 「うおおお!! あんなとこに血まみれさおりぃーん!」 すけしゅん、手をぶんぶん! 「さおりん今日は一段と素敵に見えるな! 嫉妬! やっ、えと結婚して欲しいなって。てへっ、やだなんか、さおりんなんかがかっこよくみえるだなんて。キャーーーッ、霧島、ほんとのあたしデビュー☆」 あなたのためなら、回復詠唱大盤振る舞い~!! 「やだ、沙織ん凄いイケメン。智子の事好きにして……」 ふと気がつくと、拙者、力の限り回復詠唱しまくっていたでござるっ。 「おかえしけいせくしーじょしミーノさんじょうっ!」 ミーノ、男の子になるかと思ってたら、ちゃんと女の子だったの! だから。 「さおりん……ミーノ、か、かくごかんりょー……さおりんのためにたたかうの!」 ジャンは、沙織んを見た瞬間にメロメロだった。 「はうっ! いつも素敵な魅力を振り撒いてる人だけれど、今日は特別煌びやかに見えるわ!マネキンでも! イヤンかっこいいぃ!!」 今日はくねくねしててもボンキュッボンのかっこいいバーテン風おねーさんだから、問題ない! 「これは……お仕事が終わってからホンモノを狙uホンモノをお茶に誘うしかないわね!!えっ、なに、オトコに戻ってるから死亡フラグ? うふふ、そんなのいつものことよ!」 エルヴィンは、結構ノリノリだった。 (OK、女性化自体はまぁ100譲って良しとしよう……だがマネキン相手にメロメロって痛すぎだろ!? せめて本物だったら……) 白髪ロング、褐色肌、すらっと長身モデル体型。赤い瞳と唇が印象的な、落ち着いた雰囲気のエキゾチック美女。 タンクトップにジャケットからちらりとのぞく首筋や肌が妖しい魅力。 「ごきげんよう、貴方と逢えて嬉しいわ。どう、良かったらこの後私と……ふふ、相変わらず誤魔化すのが上手いのね」 というか、意味ありげに微笑むのが精一杯の沙織ん(機能限定型)です。ご容赦を。 「そんな貴方だからこそ……私だけのモノにしたい」 情熱的に、耳たぶを噛み。 「そのために、戦うわ」 ● かくして、ヤンヤン軍とデレデレ軍の攻防は、『アドーニス』の自壊という名の幕切れを迎えた。 正気づいて、互いに顔を見交わすリベリスタ。 「「「わたしは、一体何を……?」」」 どうしたらいいの。このいたたまれない空気どうしたらいいの。 「皆さん、お疲れ様でした。本日の研修は、これにて終了です。覚醒シークエンスに入ります。気分を楽にして下さいね」 そうだ。これ、夢落ちだ! 全部、うやむやにな~ぁれ! 「マリーさん、預かり物」 VTSシステムからでたマリーは、職員に呼び止められる。 「男性は、とりかへばやの分、覚醒するのに時間かかるから。達哉さんから。毒は入ってないそうです」 ちゃんとチェックしましたから、と、付け加えられる。 箱からはいい匂い。苺のタルトが入っていた。 「魅了されちゃいました? BSだから、気にしなくていいんですよ?」 凛子は、なんとなくまとわりついてくるリルの頭をなでた。 リルは、首を横に振って見せた。 魅了はされなかった。 (掴んでないと不安になるッス) あなたがどこかに行ってしまいそうで。 「イヴ~。実験画像~。くれ~。記念に~。翔太と優希がドコドコドア叩いてるのだけでいいから~」 「わたしもほしいよ~」 ツァインと壱也は仲良く叫ぶ。 『VTSはアークの虎の子。情報漏えい阻止。ついでに個人のプライバシー保護のため、データは非公開』 「ちぇ~。でも心の録画はきっちりしたよ。この網膜に焼き付けた!」 「アタシ、こっちの方がしっくり来るような気がしてきたわ……。常時携帯型とりかへばやの鏡とかあればステキなのにっ」 ジャンはくねくねとおねだり。 「そんな公害、作る気ないぞ」 真白パパ、にべもない。 それぞれの胸に、「アーティファクト、怖い」、「でも、どうにかできるもんだ」と刷り込まれれば、この研修は成功である。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|