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【続・へびがみさま】三頭竜


 下生えを踏み分け3つの人影が山を駆ける。
 一人はリャンガ、ロン家の暗殺者にしてその精鋭である九頭竜のその2。
 一人はサンア、ロン家の暗殺者にしてその精鋭である九頭竜のその3。
 一人はスウシ、ロン家の暗殺者にしてその精鋭である九頭竜のその4。
 三人は勝利を確信していた。
 獲物はたったの一人。逃げ惑う哀れな小僧が一人のみ。
 だが其の認識は三人が林を抜けた瞬間に打ち砕かれた。
 不意に3人の中で唯一癒しの力を持つサンアの背後に、追っていた筈の獲物が、明鏡の名を失った光が、現れサンアの喉元目掛けて手のナイフを振るう。
 勝利の確信と言う名の油断に付け込んだ、光の必殺の、そしてそれ以外に勝機を見出せなかった必死の一撃、ナイアガラバックスタブ。
 けれど舞い散った血飛沫は二人分だった。
 一つは勿論サンアの、そしてもう一つは速度に勝るリャンガの双鈎が裂いた光の胸から噴出した物。
 咄嗟に後ろに飛んだ為に胸の傷は致命傷とまではいかなかったが、同様にサンアへの一撃も浅く首を傷つけた程度に終ってしまう。
 そしてスウシが構えた拳銃が鈍い光を放ち、銃声は二度轟いた。
 崖から落ちていく光の体。


 ……。
「殺ったか?」
「イヤ、アイツ咄嗟に撃ち返して来たヨ。あの体勢からネ。……イタイヨ。回復寄越せヨ」
「一寸危なかったわ。アイツ躊躇い無く殺しに来たわよ。あの技何なの?」
「この国のスジモノが特に好んで使う技ネ。ナイアガラなんとかって言う、まあチンピラの技ヨ」
「どおりでロン家では見かけぬわけだ。そもそも世界最大の滝はイグアスだしな」
「あらあら下品な技なのね。でも思ってたよりも、少し手強そう」
「マ、でも底は割れたネ。さっさと狩って仕舞いにするヨ」
 油断はもう無い。けれども3人の勝利への確信は揺るがない。


 昔、とはいってもほんの少し昔の話。
 ある所に、古いしきたりに従い周辺の土地を守り続けるリベリスタの一族がありました。
 家には厳格な父、優等生の兄、少し甘えん坊な弟等が居ます。
 けれど皮肉にもリベリスタとしての力に目覚めたのは弟の方。
 生きる目標を見失って家を出た兄はある任侠一家、桔梗組に拾われました。
 ですがその桔梗組も他国の暴力組織との抗争に巻き込まれてしまいます。
 其の最中に致命傷を負い、更には恩人の身に危険が及ぶにあたって、兄は歪んだ形で力に目覚めました。
 悪人とは言え一般人を手にかけた兄を一族のしきたりに従っての始末を決意する父。そんな父に反発する弟。
 家族に入った決定的な亀裂を、綻びを、けれども崩れぬ様に支え、新たな絆に変えたのは、弟の願いに応えたアークのリベリスタ達でした。
 昔、とはいってもほんの少し昔の話。
 ある所に、古いしきたりに従い周辺の土地を守り続けるリベリスタの一族がありました。いえ今も存在はしていますが、其のあり方はほんの少しだけ変わりました。
 兄の光が、弟の煉夜が、そして彼等の父が、其々少しずつ。
 其れがへびがみさまの物語。


 撃ち抜かれた肩を押さえ、よろめく光が林を行く。
 絶望的な状況の中、裂いた服で傷口を縛る光の瞳は、けれども未だに諦めていない。
 何故なら彼には約束がある。彼を迷いから救ってくれた恩人達との約束が。
 何時か弟を救いに行く。其の為に死なない。無論、フェイトを燃やし尽くして堕ちる訳にもいかない。
 とても厳しく、そして優しい約束を思い返し、光は自分の胸に手を当てる。
「明鏡止水、明鏡止水。我が心未だ水鏡の如く。……まだ、これからだ」
 明鏡の名は失えど、其の教えは未だ心の奥深くに。其の誇りと、あの夜流れた涙に賭けて、諦めるなどできようものか。



「だが志だけでは運命は変わらない。運命を変えるには力もまた必要なのだ。……このままならば、この後に彼は敵の一人を道連れに死ぬだろう」
 一枚の手紙を手に、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)はリベリスタ達を見回す。
「そんな死に行く彼からの依頼だ。彼が居ぬ間、桔梗組を守って欲しいらしいな。ちなみに彼が戦ってる間に、桔梗組は前回の残敵ウォンに襲われる事も予知済みだ」
 簡単に纏めると、ロン家の襲撃を察知した光は桔梗組を巻き込まぬ為に近くの山へと敵を誘い出して迎撃を行うが、その間にウォンが桔梗組を襲撃すると言う事だ。
「志があろうが、諦めなかろうが、手が足りない、力が足りない、何もかもが彼には圧倒的に不足している。……其れが現実だ」
 老兵は少し疲れたように溜息を吐き、
「今回の依頼はウォンと、光との戦いの後に山から下りてくるロン家の暗殺者達から桔梗組を守り抜く事。手段は好きにしてくれて良い。では、諸君等の健闘を祈る」
 リベリスタ達を送り出す。


 資料

 フィクサード1:『五行拳』ウォン
 ジョブは覇界闘士。己の拳法に多大な自信を持ち、実際に実力はかなり高い。多彩な技と回避能力、防御力等を兼ね備えたバランスの良い闘士。

 フィクサード2:リャンガ
 ジョブはソードミラージュ。前回出て来たイーシュよりも実力は少し上。双鈎と言う大陸独特の武器を使い、其の特性を活かした独自技も使用する。詳細不明。辮髪。

 フィクサード3:サンア
 ジョブはホーリーメイガス。前回出て来たイーシュよりも実力は少し上。自在に伸びる九節鞭を持ち、単体に麻痺と呪殺で攻撃する独自技を使用する。詳細不明。チャイナドレスの美女。

 フィクサード4:スウシ
 ジョブはスターサジタリー。リャンガやサンアよりも少し実力が上。独自の弾丸を使用し、多種のバッドステータスを付与する独自技を使用する。詳細不明。口調が独特。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月11日(日)23:41
 成功条件は敵から桔梗組を守り抜く事。
 光はリャンガよりも少し弱く、武器もナイフと銃になっている為独自技の使用は出来ません。
 また煉夜を応援に呼ぶ事が出来、彼の実力はソードミラージュ5~7レベル相当まで上がっています……が、煉夜が死ぬと成功条件を満たしていても失敗となります。
 煉夜を呼ぶ呼ばないも含めて、何時も通りのフラグゲーですが今回は番外編に近いので煉夜が死なない限りは次は出るかと思われます。多分。
 明鏡家からの好感度も高めですし。

 桔梗組でのウォンとの戦闘と、山でのロン家との戦闘はほぼ同じ時刻に行われます。童子に両方には居る事ができません。
 フィクサード4人の中ではウォンが一番強い感じですね。

 では、お気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
インヤンマスター
土森 美峰(BNE002404)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
★MVP
覇界闘士
阿羅守 蓮(BNE003207)
インヤンマスター
風宮 紫月(BNE003411)


 交戦と離脱。
 まともに相対するだけの力を持たぬ以上、打てる手段が他に無い。
 だが其の度にダメージを負い、力を奪われていく光は、遂に攻守を逆転されて徐々に追い詰められつつあった。
 残弾の尽きた拳銃はもう役に立たない。凶弾に打ち抜かれて傷を負い、萎えた腕は既に武器を構えることすら難しい。
 正に猫に嬲られつくした窮鼠。
 けれど窮鼠は猫を噛むための牙を未だ捨てては居ない。体を引き摺りながらも口にナイフを咥え、光は体中から最後の力を掻き集め、迫る3人の敵を睨みつける。
 其の時だった。
 不意に弾ける様に散った3人、リャンガ、サンア、スウシの立っていた地面を降り注ぐ氷の雨が抉り取っていく。
 予期せぬ敵からの攻撃に、3人の顔から余裕は消え、警戒の色が露わになる。
 しかし其れは牽制。
「君のお兄さんをたすけたい。協力して欲しい」
 呼び出した煉夜に、協力を願った『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が、煉夜の為に開く氷の道。
 木々を蹴って宙を舞う影が、突出した、否、一番光の、兄の近くにあり兄に対して脅威となる者、リャンガに対して刃を振るう。
 防御の為に振り翳された双鈎と噛み合うのは、嘗て光が手放した刃に良く似た、彼等の父が新たに鍛えた刀、鳴響。
 アークのリベリスタ達によって繋ぎ直された絆が、常に響き合う様にと願いを込められた一振り。
 思いの乗った一撃。
 だが、そう。思いだけでは圧倒的な力に対して、足りない。覆せない。
 奇しくも同じソードミラージュの技を振るうリャンガと煉夜の間には技量に大きな隔たりがある。
 そして双鈎は防御に優れ、防御をそのまま攻撃に転じる事の出来る武器。
 双鈎の鈎口に刃を絡められ、そのまま地面に引き倒されそうになる煉夜。
 けれど不意に叩きつけられた強い戦意が、リャンガにそれ以上の行動を取らせない。
 弾ける様に離れる二つの人影。其の間に割って現れたのは、
「随分と研鑽を重ねたらしい。いや、大した物だよ本当に」
 編み笠をくいと上げ、其の細めた目でリャンガを見据える『彼岸の華』阿羅守 蓮(BNE003207)。
「けれど折角の業も、こんな使い方しか出来ないなら君は二流だ」
 そう、思いだけで足りないのならば、其の足りない力を貸そう。
 この世に御仏の慈悲は届かずとも、人は人を救う事だって出来る筈。
 南無阿弥陀仏と彫られた金剛杖を構える蓮が放つ本気の気勢が、リャンガの其れとぶつかり合う。

 チ、と一声鳴いて鳥が『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の指先から飛び立つ。
 山中を、迷わず真っ直ぐに光の下へとリベリスタがたどり着けたのは、氷璃の動物会話での質問に鳥達が曖昧ながらも答えてくれたからだ。
 山中に生きる彼等は、確かに知能は人間に比べれば遥かに劣るが、自分達のテリトリーを侵す者には敏感である。
 小さく鳥への感謝の言葉を呟いた氷璃が放つのは、敵の回復役サンアに向けての魔曲・四重奏。
 氷の雨に魔曲、連続した攻撃を何とか潜り抜けたサンアには、けれども其の眼前に『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)が立ち塞がる。
「大陸から来たフィクサードですか。態々この地まで来た事を後悔して頂きます」
 凛とした瞳がサンアを貫く。
「蜂須賀示現流、蜂須賀 冴。参ります」
 構えのままに行われた名乗り。冴の全身から溢れ出した爆発的な闘気は爆砕戦気。

 急に現れ戦いだしたリベリスタ達に、何よりこの場に居る筈のない弟の姿に、光の口からナイフが落ちる。
 そんな呆然とする光にペタリと貼り付けられたのは、一枚の符。
 暖かい光を放ち、流れ行く光の血を止めた其れは『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)の傷癒術だ。
 現れた見知った姿に口を開きかけた光の、其の唇を指で押さえ、
「あなたを思う人達がいるのに捨て身なんて許さない」
 ウーニャの口からは厳しい、心に突き刺さる叱責が飛ぶ。
「大事なもの人任せにしないで自分で最後まで守りなさいよ」
 その為の助力なら、惜しみはしないのだから。
 先ず何よりも、其の中途半端な頼り方がウーニャは気に食わなかったのだろう。
 けれども、それでも一番最後に、光の言いたかった、彼の心配事であろう桔梗組邸に、別働の仲間達が駆けつけている事を教え、ウーニャは表情を緩めて笑む。


『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)はかく語る。
 確かに、志だけで運命を変えるのは出来ないかも知れません
 けれどその志が間違った物でなければ、その志に惹かれ、力を貸す者も現れるでしょう。

「勝負です五行拳。私の拳と棘を食らわせてあげます」
 唇に嘲りを浮かべる『五行拳』ウォンに対し、己が拳を向けて宣言する『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)。
「任せてくれ、こっからは私らの領分だ」
 袖の下から式符を取り出し、油断無く構えた『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)は、周囲を取り囲む桔梗組の面々に、結奈に、笑みを見せて退去を促す。
 あの不器用な光の為に何かをしてやりたい。彼が守りたい物を、場所を、代わりに守ってやりたいと、願う美峰。
 桔梗組からの、そんな彼女に対する信頼は厚い。一度彼等を救い、再びの危機に駆けつけてくれた恩人の言葉に逆らおう筈が無いではないか。
 本当は煉夜や光、関わり続けた彼等を直接自分の手で助けたいとは思う。
 けれど年下の仲間達に、此処こそが桔梗組からの信を得ている彼女が一番有効に動けるのだと頼まれてしまえば、おねーさんらしくお願いを聞いてやるのが、彼女だ。
 光に妹への思いを語り、煉夜との絆を再確認させた、彼女らしい彼女の姿だ。

 鳴り響く絆の音色。
 心地良いその響きに紫月の唇が綻ぶ。
 されど瞳は意思を宿して敵を見据え、さあ今こそが決戦の時ぞ。
「HA! オママゴトは終ったカ? 相モ変わらずヌルイぬるい」
 ウォンが取る構えは金剛。気の制御により柔軟さを保ったままに肉体を硬化する、覇界闘士が誇る不倒の構え。
 五月とウォン、2人の炎に包まれた拳士の拳が、戦いの幕を切って落とす。


 リベリスタ達の一方的な攻勢に始まった山中の戦い。
 だが序盤の攻勢を凌ぎ切られれば、盛り返し始めたのはロン家のフィクサード達だった。
 前衛たるリャンガと癒し手たるサンアを切り離し、先ずはサンアの攻略を狙うリベリスタ達ではあったが、ただ一人マークを受けずに自由に動けたスウシが切り離された2人を繋ぎ、組織的な戦闘を可能としたのだ。
「調子ニ乗るナ! 世界を知らヌ島国の蛙ガ!」
 色を異にする複数の弾丸を叩き込まれたリボルバーが吼える。
 狙うは集団戦の要である癒し手、サンアを執拗に狙う驚異の砲台氷璃。
 魔陣展開で威力を高められた氷璃の魔曲・四重奏は、前衛のリャンガでさえも揺るがしかねない驚異的な、思わずスウシも目を剥いた破壊力を誇り、クリーンヒットした際に受けるバッドステータスも凶悪だ。ましてや狙われているのが後衛型のサンアとあっては、如何に彼女が回復を図ろうと氷璃を放置しては其の命運も風前の灯となってしまう。
 スウシにより氷璃の体に叩き込まれた6発の弾丸、猛毒、業炎、氷結、不運、呪い、致命。唯の一つであれど充分に凶悪な其れが6種同時に氷璃の体を蝕んでいく。
 本来ならば、此処にサンアがトドメの、スウシとの連携にて真価を発揮する彼女の独自技を、氷璃にと叩き込んで仕舞いにする所なのだが、けれどもサンアと相対する冴の攻撃の圧力が彼女に其れを許さなかった。
「日本のリベリスタを甘く見ましたね」
 聖神の息吹で自らとフィクサードグループを癒したサンアの懐に、するりと潜り込んだ冴が囁く。
「最早私たちは以前とは違います」
 振るわれる刃はギガクラッシュ。そう確かに最早彼等は嘗てとは違う。
 WW2で、ナイトメアダウンで、優れたリベリスタ達を失い神秘の力を大きく減衰させ、日本が極東の空白地とすら呼ばれた以前とは違い、地に根を下したアークは大きく力強く成長したのだ。
 だが其のリベリスタ達の力を持ってしても、ロン家の3人組は容易く倒せる相手ではない。
 高速で、嵐の如き連続攻撃を行うリャンガ。鈎尖で切り裂き、クルリと回り背を見せたかと思うと背後に槍の様に尖った鈎钻を突き出す。振り返り様に背鋒を叩きつけ、更に月牙で殴りつけて距離を取る。
 まるで舞っているかの様な其の連撃に、それでも蓮は耐え抜いた。
 流れる水の如き動きで防御に専念し、攻撃に対しては下がり、其れでも避けきれぬ攻撃は致命傷とならぬ部分を自ら当てに行く事で。
「君は心底凄いけれど……」
 身体を朱に染めながらも、蓮の体は力を失わない。
「それだけだ。力で矜持は折れない。武技で想いは変えられない」
 例え相手がどれほど強力であろうと、仁道の伴わぬ技はただの暴力に過ぎないのだから。
 戦場を包む破邪の光に、雷音の掌から放たれたブレイクフィアーに、氷璃を蝕む邪が退く。
 傷付いた蓮を癒すはウーニャの傷癒術。貼り付けられた符が淡い光を放ち、蓮の身体に活力を注ぎこんでいく。
 仲間達を、戦線を支える二人の支援。だが二人が行っていたのは其れだけではなく……、雷音とウーニャ、二人の背中が庇う其の向こうで、光を煉夜が助け起こしていた。

 一方、桔梗組邸宅でもリベリスタ達は其の暴虐な武技に立ち向かっていた。
 美峰の召喚した影人ごと、五月が、雷光を纏う拳撃に、蹴打に、ウォンの放つ壱式迅雷に飲み込まれていく。
 だが圧倒的な攻撃を叩き込みつつも、ウォンの顔色には苦痛が混じる。良く良く見れば、拳撃が、蹴打が、五月の体に当たる度に、五月の体を捉えた其の拳や足がまるで針山を殴りつけたかのように血を噴出すのだ。
 無論五月とて壱式迅雷を受け多大なダメージを被っている。しかし紫月による守護結界や、美峰から受ける傷癒術の加護、何より五月自身が持つ特性、針鼠による反射を警戒したウォンが攻撃を思いきれ無い事もあり、五月は未だ崩れずに済んでいる。
 拳には業炎撃を、蹴りには斬風脚を、動きに隙を見つけたならば土砕掌を。そして五月の攻撃にあわせるに紫月も鴉へと変じた符を放つ。
「私もすぐに倒せないんですか? 大陸の拳法家だからって、過大評価し過ぎましたかね」
 相手の動きに応じて冷静に技を繰り出し挑発する五月の、けれども其の武技の冴えこそがウォンを冷静にさせたのだろう。
「なるほどナ。鋭く練磨しタ気功のトゲ。受けノ妙技ダナ。無構エで実現スルとは、やるじゃなイカ! 日本の闘士」
 捕獲した鴉の頭をぶちりと食い千切り、はじめてリベリスタ達を障害ではなく敵と認識するウォン。
 間合いに居る五月だけでなく、其の後ろの美峰や紫月にもはっきりと判るほどにウォンの気質が変化する。
 美峰の傷癒術が五月の体力を更に回復させる事にすら笑みを深めるウォンは、既に大陸マフィアからの仕事である桔梗組の壊滅よりも、この個人的な楽しみであるこの戦いを優先させはじめていた。
「補助、壁、回復、攻撃。ナルホド、バランスノ良いチームダ。……ダガ、足りなイ。日本の闘士、お前ニ、本当の覇界闘士ヲ教育してヤロウ!」


「五行ハ相剋スル。知っていルカ? 日本人」
 水剋火。水は火を消し止める。
 五月の業炎撃にカウンターとして放たれた凍て付く冷気を纏った拳が、彼の体を凍らせ縛る。
「五行ハ相生スル。知っていルカ? 日本人」
 水生木。木は水によって養われ世界を広げる。
 美峰の傷癒術が魔氷拳で負った五月の傷を癒し、更に紫月のブレイクフィアーが彼の戒めを退ける……が、其れもウォンは承知の上だ。
 先の魔氷拳にて奪った五月の一手番。其れがウォンに森羅行を使う余裕を生み出したのだ。
 木行の次は金行、攻防の中で張りなおされる金剛陣。
 相生、相剋、更には比和、相乗、相侮。五行思想における世界の仕組みの一端を己の武技で再現する。
「五行の全てヲ修めてこソ、世界ヲ覇スル闘士と成ル。優れタ資質を持ツ日本の闘士ヨ! 貴様は欠け過ぎダ。貴様ノ中にハ世界が無イ!」
 次第に苛烈さを増して行くウォンとの戦いは、けれども其の激しさとは裏腹に、防御重視の編成を組んだリベリスタ達の思惑通りに、綱渡りではあれど膠着状態で進んでいく。

 戦況は、唯一つの投石で一変する。
 雷音、ウーニャの回復を受けた光が、煉夜と共にスウシの抑えに回ったからだ。
 無論、癒したばかりの光や煉夜を前線に向かわせるのは雷音、ウーニャ、共に本意ではなかったのだが、
「貴女の言うとおり、大事なものは自分の手で守ります。そして今の自分には、こんな自分の為に駆けつけてくれた貴方達も大切なんです」
「兄さんが前に出るなら僕も出る。兄さんは僕が守る。其の為に、手伝ってください雷音さん!」
 思い違いがあったとするならば唯一つ。兄弟の、リベリスタへの信頼と親愛は、彼女達が思うよりも深かく、唯守られるを良しとしなかった事だ。
 だがスウシが抑えられれば、サンアが、リャンガが孤立する。
 放たれるは異なる属性の四つの魔術を連続で組み上げて放つ、四色の魔光。
 邪魔者であったスウシの妨害が除去され、大火力の砲台と化した氷璃が放つ魔曲・四重奏がサンアを直撃して其の残り体力を一気に危険域へと叩き落した。
 そして……ずぶりと、雷光を纏った刃が彼女の心臓を貫く。
 一瞬の躊躇も見せずに、大きすぎるダメージに隙を見せたサンアの心臓に刃を突き刺したのは冴。
 噴き出す返り血が、失われる命が、冴の身体を朱に染める。
 人、一人の命を奪えども、其の表情に一切の揺らぎを見せぬ彼女。
 誇りに非ず。義務に非ず。愉悦に非ず。ただ正義を為すその為だけに。自身が選んだ生き方の為だけに。
 其の様は正義に対する信仰に似て、或いは狂気にも似て、畏ろしい。


 戦いの収束は唐突に。
 サンアを失ったロン家の暗殺者達がそれ以上戦いに固執する事は無く、後に残したのは一言だけ。
 其れは光にでも、煉夜にでもなく、アークのリベリスタ達に、大陸の言葉で告げられた宣戦布告。
 そしてウォンと戦うメンバー達に届いた勝利の報は、そのままウォンの撤退の引き金にもなった。
 不意に鳴り響くAFの着信音。
 綱渡りの攻防の緊張の糸を断ち切る其の音に、増援の気配を察したのだろう。
 其の撤退は実にあっさりと行われた。そもそもが大陸のマフィアから提示された報酬は、幾人ものリベリスタを相手取るにはとても足りない端金。
 ただの田舎やくざを相手にする筈の仕事は、既に大きくなり過ぎた。
 其れに何より、
「オマエも、お前も、御前も、早ク世界に出て来イ。相応しイ舞台でケリをツケヨウ。嗚呼、楽しみダ」
 紫月に、美峰に、そして五月。報酬よりも大きな期待を、楽しみを、見つけてしまったから。

 日暮れの再会。
 鳴り響く喜びと、感謝と、絆の音色が夕陽にとけて。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 好みのプレイングが多くて嬉しかったです。
 MVPは其の中でも特に渋かった方に。

 ロン家、ウォンともに撤退です。何時かまた出てくると思います。
 へびがみさまのシリーズは次回がラストになるんじゃないかな。
 ご参加有難う御座いました。