●破滅に誘う歌 男は、仕事でくたくたになった体を引きずるようにして歩いていた。 時刻は、とうに0時を過ぎている。タクシーを使わなくても歩いて帰れる距離に自宅があるのは、果たして幸運なのか不運なのか。 溜め息をつきつつ、古いアーケード街を横切ろうとした時。 ギターの音色と、女の歌う声が男の耳に届いた。 休日ともなれば、このアーケード街はストリート・ミュージシャンの類で賑わう。 しかし、こんな遅い時間に、しかも女性が歌っているだなんて。 幾許かの好奇心とともに、男はアーケード街に足を踏み入れる。 どうやら、ギターを手に歌っているのは、まだ少女のようだ。 まったく聴いたことのない曲だが、どこか優しい気持ちになれる歌詞とメロディーだった。 少女が、歌いながら男の方を見る。 どこか虚ろで、生気をまるで感じない瞳。 本能で危険を察した時には、もう遅かった。 逃げようにも、男の足はひどくゆっくりとしか動かない。 そして、少女はただ一人の観客に向けて歌う。 今までとは打って変わって、激しく破壊的な曲調――。 男の意識は、そこで途切れた。 ●死した後でも 「将来の夢とか目標ってもんは、死んでも残るもんなのかね」 誰にともなく、そう呟いて。『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に説明を始めた。 「ミュージシャンを目指してた十七歳の女の子が、つい先日、交通事故で死んだわけだが……その彼女の思念がE・フォースになった」 E・フォースが現れるのは、少女が生前よく歌いに行っていた古いアーケード街。週末などは、ストリート・ミュージシャンの姿が多く見られる場所らしい。 少女のE・フォースは、そこで夜通し歌い続けているのだという。 聴く者の心を削り、命を奪い去る魔の歌を。 「基本的に、出てくるのは真夜中だ。当然、店とかは全部閉まってるから、人通りもほとんどない。――だが、数日後には仕事帰りのサラリーマンが彼女に遭遇し、殺されることになる」 その前にE・フォースを倒し、被害を未然に防いでほしいと、数史は言う。 「戦いになれば、少女の歌で命を落とし、E・アンデッド化した四匹の犬猫が彼女に加勢する。フェーズは1、攻撃手段は噛み付いたり引っ掻いたりといった程度だが、油断はしないでくれ」 気をつけて行ってこいよ、と言って、数史は手の中のファイルを閉じた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月05日(月)23:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●歌を愛し、歌に愛され 深夜の、古いアーケード街。 店のシャッターは全て閉まり、人通りも絶えたそこから、ギターの音色と少女の歌声が響く。 リベリスタ達が立つ通りからは距離があるため、歌声に込められた魔力が影響を及ぼすことはない。 しかし、その歌詞とメロディーは、はっきりとリベリスタ達の耳に届いていた。 世界の平和を願い、愛を謳う優しい曲――。 死してなお、E・フォースとしてこの世に留まる少女の歌に耳を傾けながら、『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)が口を開いた。 「うちな、先月誕生日で18になったばっかやねん。17のミュージシャン希望。他人事やないっつーか」 交通事故で急逝したという少女に思いを馳せながら、『静かなる古典帝国女帝』フィオレット・フィオレティーニ(BNE002204)が頷きを返す。 「うんうん、アーティストには夢半ばで非業の死を遂げるってよくあるよねー」 手にしたICレコーダーの電源を入れながら、山田 茅根(BNE002977)が「歌は良いですねえ」と口を開いた。 「歌は文化の極み、なんて言葉もあるそうですが。実際の所はどうなんでしょうね?」 少なくとも、かの少女はE・フォースを生み出すほどに歌に傾倒していたようだが。 事故という不運で亡くなった彼女がE・アンデッドとしてではなく、E・フォースとして歌い続けていることは不幸中の幸いだと、『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)は思った。 「――私も、歌は得意な方だから」 いずれにせよ、放置できない以上は倒すことに異論はないが。 「もっと、歌って聞いて貰いたかったんでしょうか?」 雪待 辜月(BNE003382)は、そう言って小さく首を傾げた。 声(うた)を生業にするべく、一生懸命に生きていた少女に起こった悲劇。 それは、実にいたたまれない哀しい事件に違いないと、『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)は思う。 志半ばでその全てを奪われた少女。自分も、同じ状況であれば道を踏み外していたかもしれない。 『歌うこと、それが私の存在する意味』――それは、セッツァーも同じだ。 誰もいないアーケード街で歌い続ける少女を眺めて、『蜂蜜色の満月』日野原 M 祥子(BNE003389)が、蜂蜜の色を帯びた金の瞳をわずかに細める。 「路上で歌っていたときは、聞いてくれる人を楽しませたり、幸せにしたり励ましたりしていたと思うけど……今は、歌で人を傷つけているのはわかってる?」 その問いは、もちろん歌う少女の耳には届かない。 真正面から思いをぶつけたところで、彼女はきっと歌うことをやめないだろう。 それでも。少女の歌が素晴らしいからこそ、祥子のやりきれない思いは募っていく。 「歌は人々の心を癒し、生きる希望を与える為のもの。歌で命を奪うなんて事は許されざる行為です」 彼女の隣で歌う少女を眺めていた『白の祝福』ブランシュ・ネージュ(BNE003399)が、静かに言った。 「――人々を死へと追いやる哀しい歌は、必ずここで終わらせましょう」 ●音色に秘めた想いは 少女の歌は強力な力を秘めており、彼女のそばにはE・アンデッド化した四匹の犬猫が控えている。 これら五体の敵を一度に相手取って戦うのは避けたいというのが、リベリスタ達の共通した見解だった。 幸い、E・フォースの少女は移動を行わないと聞いている。 歌が届かない距離までE・アンデッドを誘き寄せることができれば、スムーズに戦うことができるだろう。 少女を守るために動く、というE・アンデッドの注意を惹くため、エルフリーデが歌の効果範囲ギリギリまで前に出る。その間に、仲間達がそれぞれの配置につきながら自らの力を高めた。 エルフリーデがライフルを構えてみせると、まずは二匹の猫が彼女に反応し、リベリスタ達の方に駆け始める。 ライフルの銃口から放たれた光弾が、猫たちを同時に射抜いた。 「それでは、まずは邪魔なカバー役を排除しましょうか」 脳の伝達処理を高め、自らを集中領域に導いた茅根が、煌くオーラの糸で犬の一匹を撃つ。 怒り狂った犬が、彼に牙を突き立てるべく全力で走り始めた。 戦いが始まるなか、セッツァーは鋭い音感で少女の声(うた)に耳を傾ける。 彼にとって、この戦いは彼女の想いを知る事――。 二匹の猫が、エルフリーデと、茅根を庇う位置に立った祥子に飛びかかった。 鋭い爪に引っ掻かれて血が流れ、衝撃に体が痺れる。 辜月が、そっと天使の歌を響かせ、彼女らの傷を塞いだ。 「歌うのは好きや。けど、ひとりで歌うだけはいやや」 体内の魔力を活性化させた珠緒が、視界の先で一人歌い続ける少女を見る。 ギターを構えて弦を爪弾き、彼女は自らの想いと魔力を音色にした。奏でる旋律が一条の雷となり、犬猫たちを貫く。 「歌は聞かせるもんやろ? 想いを伝えるもんやろ?」 少女を、一人で歌わせないために。その想いを、受け止めるために――珠緒は、ここに来た。 「悪の秘密結社首領フィオレット、神秘重装型、出撃するよ!」 兄から借りたというショルダーキーボードを手にしたフィオレットが戦場に眩い光を輝かせ、仲間達の出血を止めると同時に痺れを消し去る。活性化させた魔力を循環させるブランシュは、回復は充分と判断して魔法陣を展開し、そこから魔力の矢を放った。 世界から借り受けた生命力で己を癒しつつ、祥子が勾玉の形をした二つの盾を振り下ろす。全身の膂力を込めた打撃が、犬をしたたかに打ち据えた。 「搦め手の類は得意ではないから、纏めて攻撃して早めに殲滅しましょう」 エルフリーデのライフルが素早く光の弾丸を撃ち出し、犬猫たちを穿つ。茅根が、少女を守るように残った犬に向けてオーラの糸を放った。 「守ろうと戦いに臨む姿勢が、守るべき者を危険にさらす。皮肉なことです」 怒りに駆られてこちらに走る犬を見て、茅根が呟く。 リベリスタ達を攻撃する四匹の犬猫全てを巻き込み、珠緒の奏でる音色が雷となって彼らを貫いた。 「うちは、何にせよまだまだなんは自覚しとる。……けど。自分から諦めたわけでもないひとの歌、無視する気なんかないで」 ギターを手にする珠緒の声に、迷いはない。 「三高平学園音楽愛好会代表、桜咲・珠緒。弱小でも肩書きは伊達やない!」 セッツァーが、少女の歌に合わせて天使の歌を響かせる。 オペラ歌手としても活動する彼の美声は、仲間達の負った傷を優しく包み込むように癒した。 人を不幸にする歌声などはあってはならない。 声(うた)は……そう、歌声は。明日への希望、生きる道しるべ。 少女が目指したものは、そういうものではなかったのか。 ――人を呪い、貶める声(うた)など、貴方には似合わない。 その想いを、彼は己の声で歌い上げる。 フィオレットの天使の歌がそこに重なり、辜月のブレイクフィアーが仲間達の麻痺を払った。 優しい旋律にのせてブランシュが魔力の矢を放ち、祥子が両手に構えた“霜月ノ盾”で犬の一匹を打ち倒す。 リベリスタ達はやや回復に偏った編成ではあるものの、最も恐ろしいE・フォースの歌が効果を及ぼさない位置に犬猫たちをおびき寄せた以上、リベリスタ達の勝利が揺らぐことなどありえない。 少々時間はかかったものの、E・アンデッドの犬猫たちは残らず駆逐された。 ●彼女が望んだもの 犬猫たちの全滅を確認した後、エルフリーデが集中により射撃手としての感覚を研ぎ澄ませる。 もう邪魔者はいない。次は、本命である少女のE・フォースと戦う番だ。 「さぁ、セッションスタートや」 珠緒の声に、ショルダーキーボードを携えたフィオレットが頷く。 リベリスタ達は、スキルを操る力を消耗した仲間に意識の同調でそれを分け与えた後、歌い続ける少女と戦うべく、彼女の射程内に踏み込んだ。 戦いを厭い、平和を願う優しい歌声が、リベリスタ達の心を強く揺さぶり、戦意を砕こうとする。 脚は鉛のように重くなり、腕は武器を握る力を減じ、防御の構えすらままならない。 この状況で焦って反撃を行うことの不利を悟り、エルフリーデはライフルを構えたまま回復を待つ。 少女から約10メートルの距離にまで接近した茅根が、彼女の周囲に気糸の罠を展開した。 「死してなお、歌を歌いたいという思いは多分凄いことなんでしょうけれど。それが害悪になってしまっては、騒音と変わりありませんねえ」 そう口にした彼の気糸は、しかし、少女を捕らえるには至らなかった。 少女の歌に封じられた仲間達の力を神聖なる光で取り戻しながら、辜月がぽつりと呟く。 「出来ればちゃんとした形で聞きたかったです」 セッツァーが、少女の高く柔らかな歌声に、己の低く伸びやかな歌声を重ねた。 彼の胸にあるのは、声楽家としてのプライド。 人を不幸にする歌などに、我が魂の歌声が負けようはずもない。 ――さぁ、思い出すんだ。 貴方が目指していた声(うた)を……本当に望んでいたものを……。 私の魂の声(うた)でっ!! 歌が届く範囲にいるのは、どちらも同じ。 「うちの歌も、聴いてもらうで」 ギターの弦を爪弾く珠緒が、演奏にのせて歌い始める。 それは、四属性の魔力が奏でる魔曲。自らの想いをのせて、珠緒は真夜中のアーケード街に歌声を響かせた。 回復は仲間達が引き受けてくれる。自分はただ、全力で歌うのみ。 音楽愛好会の先輩である珠緒をいつでも庇えるよう、彼女の前に立ったフィオレットが、ショルダーキーボードで音に彩りを加えながら、今も歌の影響下にある仲間達をブレイクフィアーで照らした。 フィオレットにはパティシエの兄がいる。分野は違えど、作品にかける想いも、譲れない何かを持っているのも知っているし、理解することができる。 勾玉の形をした二つの盾を携えた祥子が、後衛を気にかけつつも少女の前に立った。 「事故で夢を果たせなかったのはかわいそうだけど、このままあなたを放置するわけにはいかないわ」 全身の膂力を込めた打撃を繰り出しながら、あなたもそう思わない? と、言葉を続ける。 「歌は人を傷付けるものではありません。力を与え、心を支える……それこそが歌の持つ役割です」 ブランシュが、穢れ無き白の聖骸布を手に、詠唱で魔方陣を描いた。 「――歌の呪縛から貴女の魂を救いましょう」 小さな魔力の矢が、真っ直ぐに少女を射抜く。そこに、エルフリーデがライフルのトリガーを絞って追撃を加えた。 魔力により威力を高められた弾丸が、少女を真っ直ぐに貫いて癒しの力を取り去る。 少女の歌声がほんの一瞬止まり――その直後、がらりと曲調が変わった。 愛を讃え、平和を謳歌していた世界が、突如ひっくり返される。 激しいギターの音色が、叫ぶような歌声が、人々の争いにより、急激に破滅へと転がり落ちていく世界を、リベリスタ達の脳裏へと刻んだ。 いかに高い防御を誇ろうとも、“絶対命中(クリティカル)”の前には意味をなさない。 そして、仲間を庇う意思があろうとも、離れた場所にいる者は庇うことができず、他の行動と並行して庇うこともできない。 「自分の欲望のままに破滅を願う貴女のそれは、決して歌とは認めません……!」 少女の歌に全身を蝕まれ、よろめきながらも、ブランシュは少女に声を放つ。 そこに――もう一度、破滅の旋律が襲った。 壊れゆく世界のメロディーが、リベリスタ達の体を、心をかき回す。 今度は耐え切れず、ブランシュが崩れるように倒れた。 珠緒も膝をついたが、彼女は己の運命を燃やして自らの体を支える。 「終われんやろ! 全部受け止めるまで! 後は任せろって伝えるまで!」 視線は、目の前で歌う少女から外さない。しっかりとギターを構えて立ち、珠緒は再び歌い始めた。 傷は深いが、先の歌のように攻撃が封じられるわけではない。 エルフリーデは迷わずライフルのトリガーを絞り、魔力を付与した弾丸で少女を貫く。 奏でられるメロディーの間隙を縫うようにして少女との距離を詰めた茅根が、手にした銃で彼女の弱点を的確に撃ち抜いた。 「どんな強い思いを抱いていようと、潰える時はあっさり潰えるとは……人の夢は、儚いですねえ」 溜め息を漏らす彼の横から、祥子が“霜月ノ盾 ”で少女を打つ。 「誰か会いたい人でもいるの? もしいるならこんなこと止めないとその人まで傷つけることになるよ?」 彼女の問いに、歌い続ける少女は答えない。 大好きな歌で人を傷つけることを、どう思っているのか。 何故、人を傷つけてまで歌い続けようとするのか。 答えはない。返って来るのは、真夜中に響き渡る高い歌声。 己の歌が神秘に歪められたことを知らぬまま、少女はただ、歌い続ける。 ショルダーキーボードの演奏を続けるフィオレットが、癒しを拒む呪いをブレイクフィアーで消し去った。 最後まで歌をきっちり聞いて。その上で音を重ねて、リミックスを兼ねたレクイエムを贈りたい。 悪の秘密結社首領のはずの自分が、こんな正義の味方じみたことをするのはおかしいと、いつも思うけれど――。 少女と仲間達の歌を妨げないようにリズムを合わせて、辜月が天使の歌を奏でた。 珠緒は、命がけで少女の歌を聴いている。そのことに価値があると信じたいから、彼は彼女の背を全力で支えた。 どうか救いがありますようにと、祈りを込めて。 セッツァーもまた、珠緒をサポートすべく己の声(うた)を響かせる。 彼の心は、少女の歌う破壊のメロディーにも揺らがない。 癒しの旋律を仲間に届け、少女の声(うた)に、自らの声(うた)を合わせる。 少女の想いを、知るために。 「聞かせてくれ、貴方の心の声(うた)を……伝えたい事を……」 醜い争いを繰り広げ、母なる世界を破滅へと追い込んでいく人々の姿。 少女はそれを激しく歌い上げることで、戦争の愚かさを、平和の尊さを訴えたかったのか。 平和を願う穏やかな歌声も、破滅を強調する激しい歌声も。 少女が歌う全てを、その身に受け止め、己の魂にしっかりと刻み込んで。 珠緒は、セッションのクライマックスを締め括るべく、自分の全てを魔曲にのせて歌い上げた。 演奏で、歌声で、受け止める力で、進み続ける想いで――! 淡い軌跡のような余韻を残して、少女の歌が終わる。 満足そうに微笑む彼女の姿が、ゆっくりと消えようとしていた。 ●託された“うた” 闇に溶けるように消えていく少女を見て、辜月が彼女に声をかけた。 「心に響く、良い歌でした……貴女の歌には、確かに存在する意味があったと思います」 彼女が消えてしまう前に、せめてそれだけは伝えたくて。 祥子もまた、彼に続いて口を開いた。 「あなたの歌う姿はとっても素敵。こんなことにならなければ、あなたのファンになってたかもね」 二人の言葉に、穏やかな笑みを浮かべて。 死してなお歌い続けた少女は、この世から完全に消滅した。 それを最後まで見届けた後、珠緒は仲間達を振り返り、頭を下げる。 「我侭で無茶してごめんな」 エルフリーデが、彼女の謝罪に答えた。 「まあ、効率が全て、という気はないしね」 譲れない考えがあるのなら、仲間の覚悟を無理に覆そうとは思わない。 それに。彼女もまた、歌に愛される一人だ。 フィオレットが、少女の歌を収録したCDを作ることを提案する。 収録するのは、オリジナルとテクノポップ・ユーロビートのリミックス。 理解と分解、再構成という手順を踏むリミックスは、原曲を尊敬しない者には行えない。 だからこそ、少女への供養としてそれを贈りたかった。 「ボーカルの再録は無理だからボク達で代用するとして……」 そう言って考えをめぐらせるフィオレットに、茅根が黙ってICレコーダーを差し出す。 ICレコーダーから、戦闘中に録音された少女の歌声が流れた。 「私には歌の事はよく分かりませんが、良い歌なんじゃないですか? 命を賭した歌なんですから」 珠緒が、そっと目を閉じて少女の歌を己の脳裏に響かせる。 録音機器などなくても、彼女の歌は全て、珠緒の内に刻まれていた。 「聞いて、覚えて、練習して。そんで、たっくさんのひとに聞かせたる。うちらの歌を――」 後日、珠緒はアークを通じて少女の名を知る。 安川歌乃(やすかわ・うたの)、享年17歳。 彼女の歌は、想いは、夢は、確かに受け継がれていくのだろう。 閉じたシャッターに身を預けるようにして立ち上がったブランシュが、少女が歌った愛と平和の曲を口ずさむ。愛を尊び、平和を願っていた彼女に捧げる、ささやかな鎮魂歌として。 ――どうか、安らかに。 少女の冥福を祈る歌声に、セッツァーもまた、低く伸びやかな歌声を重ねた。 このような悲劇が二度と起こらないよう、強く願いながら。 「私はね……声(うた)の力を信じているのだよ。これ以上ないくらいにね」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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